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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1093034
異議申立番号 異議2003-70067  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-10-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-15 
確定日 2003-12-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3301378号「ポリエーテル共重合体および架橋高分子固体電解質」の請求項1ないし15に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3301378号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3301378号は、平成10年3月24日に出願された特願平10-75409号に係り、平成14年4月26日に設定登録がなされた後、日本ゼオン株式会社から特許異議の申立てがあり、平成15年4月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年6月20日付けで特許権者より意見書と訂正請求書が提出されたものである。

[2]本件訂正請求
本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正事項a
請求項1及び請求項5における「4〜40モル%」を「5〜35モル%」に訂正する。
(2)訂正事項b
請求項1及び請求項5における「95〜59モル%」を「64〜94モル%」に訂正する。
(3)訂正事項c
請求項1及び請求項5における「0.001〜15モル%」を「0.01〜10モル%」に訂正する。
(4)訂正事項d
明細書の段落【0005】中の「4〜40モル%」、「95〜59モル%」及び「0.001〜15モル%」を、それぞれ「5〜35モル%」、「64〜94モル%」及び「0.01〜10モル%」に訂正する。
(5)訂正事項e
明細書の段落【0009】の「本発明で架橋体の原料となるポリエーテル共重合体は、繰り返し単位(A)が4〜40モル%、繰り返し単位(B)が95〜59モル%、および繰り返し単位(C)が0.001〜15モル%のものが用いられる。繰り返し単位(A)5〜35モル%、特に9〜30モル%、繰り返し単位(B)64〜94モル%、特に69〜90モル%および繰り返し単位(C)0.01〜10モル%、特に0.1〜10モル%が好ましい。」を「本発明で架橋体の原料となるポリエーテル共重合体は、繰り返し単位(A)が5〜35モル%、繰り返し単位(B)が64〜94モル%、および繰り返し単位(C)が0.01〜10モル%のものが用いられる。繰り返し単位(A)9〜30モル%、繰り返し単位(B)69〜90モル%および繰り返し単位(C)0.1〜10モル%が好ましい。」に訂正する。
(6)訂正事項f
明細書の段落【0010】及び【0012】の「95モル%」、「59モル%」および「15モル%」を、それぞれ「94モル%」、「64モル%」および「10モル%」と訂正する。

[3]訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項a
訂正事項aは、ポリエーテル共重合体のうち、(A)式(I)で示される単量体から誘導される繰り返し単位の割合を、「4〜40モル%」から「5〜35モル%」に限定するものであるが、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであり、また、訂正前の明細書の段落【0009】には、「本発明で架橋体の原料となるポリエーテル共重合体は、……繰り返し単位(A)5〜35モル%……が好ましい。」と記載されているので、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でなされたものである。
(2)訂正事項b
訂正事項bは、ポリエーテル共重合体のうち、(B)式(II)で示される単量体から誘導される繰り返し単位の割合を、「95〜59モル%」から「64〜94モル%」に限定するものであるが、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであり、また、訂正前の明細書の段落【0009】には、「本発明で架橋体の原料となるポリエーテル共重合体は、……繰り返し単位(B)64〜94モル%……が好ましい。」と記載されているので、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でなされたものである。
(3)訂正事項c
訂正事項cは、ポリエーテル共重合体のうち、(C)式(III)で示される単量体から誘導される繰り返し単位の割合を、「0.001〜15モル%」から「0.01〜10モル%」に限定するものであるが、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであり、また、訂正前の明細書の段落【0009】には、「本発明で架橋体の原料となるポリエーテル共重合体は、……繰り返し単位(C)0.01〜10モル%……が好ましい。」と記載されているので、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でなされたものである。
(4)訂正事項d〜f
訂正事項d〜fは、上記訂正事項a〜cにおける特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でされたものである。
そして、上記訂正事項a〜fは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(5)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第3項において準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[4]特許異議申立についての判断
(1)特許異議申立理由の概要
特許異議申立人 日本ゼオン株式会社は、
甲第1号証(特開平7-206936号公報)、
甲第2号証(A. E. Wolfenson, 外4名、「NMR and Conductivity studies of Ethylene Oxide-Epichloridrine Copolymer Doped with LiClO4」 J. Phys. Chem. B (アメリカ), American Chemical Society, 1997年発行 vol.101,No.18, p3469〜p3473)、
甲第3号証(特開平8-169985号公報)、
甲第4号証(特開平8-292640号公報)及び
甲第5号証(特開昭59-66451号公報)を提出して、訂正前の本件請求項1〜15に係る発明は、甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、訂正前の本件請求項1〜15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものであると主張する。

(2)本件発明
本件特許第3301378号の訂正後の請求項1〜15に係る発明(以下、「訂正後の本件発明1」〜「訂正後の本件発明15」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 ポリエーテル共重合体の架橋モノマー成分の反応性を利用して架橋した架橋体に、電解質塩化合物を混合して得られる架橋高分子固体電解質であって、ポリエーテル共重合体が、(A)式(I):【化1】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位5〜35モル%、
(B)式(II):【化2】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位64〜94モル%、
および(C)架橋成分として、式(III-1)または式(III-2):【化3】

【化4】

[式中、R1およびR2は、エチレン性不飽和基を含有する置換基、反応性ケイ素基を含有する置換基または式(IV):【化5】

で示される末端にエポキシ基を含有する置換基(R3は炭素、酸素、および水素原子から選ばれた原子から成る二価の有機残基である。)である。]で示される単量体から誘導される繰り返し単位0.01〜10モル%を有してなり、重量平均分子量が104〜107の範囲内であるポリエーテル共重合体である架橋高分子固体電解質。
【請求項2】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、またはクロトン酸グリシジルから得られる架橋成分であり、ポリエーテル共重合体のエチレン性不飽和基の反応性を利用して架橋した架橋体に、電解質塩化合物を混合して得られる請求項1に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項3】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、4-(1,2-エポキシ) ブチルトリメトキシシラン、5-( 1,2-エポキシ) ペンチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル) エチルトリメトキシシランから選ばれた化合物であり、ポリエーテル共重合体の反応性ケイ素基の反応性を利用して架橋した架橋体に、電解質塩化合物を混合して得られる請求項1に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項4】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、2,3-エポキシプロピル-2',3'-エポキシ-2'-メチルプロピルエーテル、エチレングリコール-2,3- エポキシプロピル-2',3'-エポキシ-2'-メチルプロピルエーテル、2-メチル-1,2,3,4-ジエポキシブタン、2-メチル-1,2,4,5-ジエポキシペンタン、ヒドロキノン-2,3-エポキシプロピル-2',3'-エポキシ-2'-メチルプロピルエーテル、カテコール-2,3-エポキシプロピル-2',3'-エポキシ-2'-メチルプロピルエーテルから選ばれた化合物であり、ポリエーテル共重合体の側鎖エポキシ基の反応性を利用して架橋した架橋体に、電解質塩化合物を混合して得られる請求項1に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項5】 ポリエーテル共重合体および電解質塩化合物の混合物を、該共重合体の架橋反応性基の反応性を利用して架橋して得られる架橋高分子固体電解質であって、ポリエーテル共重合体が、(A)式(I):【化6】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位5〜35モル%、
(B)式(II):【化7】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位64〜94モル%、
および(C)架橋成分として、式(III-1)または式(III-2):【化8】

【化9】

[式中、R1およびR2は、エチレン性不飽和基を含有する置換基、反応性ケイ素基を含有する置換基または式(IV):【化10】

で示される末端にエポキシ基を含有する置換基(R3は炭素、酸素、および水素原子から選ばれた原子から成る二価の有機残基である。)である。]で示される単量体から誘導される繰り返し単位0.01〜10モル%を有してなり、重量平均分子量が104〜107の範囲内であるポリエーテル共重合体である架橋高分子固体電解質。
【請求項6】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、またはクロトン酸グリシジルから得られる架橋成分であり、ポリエーテル共重合体および電解質塩化合物の混合物を、該共重合体のエチレン性不飽和基の反応性を利用して架橋して得られる請求項5に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項7】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、4-(1,2-エポキシ) ブチルトリメトキシシラン、5-( 1,2-エポキシ) ペンチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル) エチルトリメトキシシランから選ばれた化合物であり、ポリエーテル共重合体および電解質塩化合物の混合物を、該共重合体の反応性ケイ素の反応性を利用して架橋して得られる請求項5に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項8】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、2,3-エポキシプロピル-2',3'-エポキシ-2'-メチルプロピルエーテル、エチレングリコール-2,3- エポキシプロピル-2',3'-エポキシ-2'-メチルプロピルエーテル、2-メチル-1,2,3,4-ジエポキシブタン、2-メチル-1,2,4,5-ジエポキシペンタン、ヒドロキノン-2,3-エポキシプロピル-2',3'-エポキシ-2'-メチルプロピルエーテル、カテコール-2,3-エポキシプロピル-2',3'-エポキシ-2'-メチルプロピルエーテルから選ばれた化合物であり、ポリエーテル共重合体および電解質塩化合物の混合物を、該共重合体の側鎖エポキシ基の反応性を利用して架橋して得られる請求項5に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項9】 電解質塩化合物が金属陽イオン、アンモニウムイオン、アミジニウムイオン、およびグアニジウムイオンから選ばれた陽イオンと、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6-、PF6-、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオン、X1SO3-、[(X1SO2)(X2SO2)N]-、[(X1SO2)(X2SO2)(X3SO2)C]-、および[(X1SO2)(X2SO2)YC]-(但し、X1、X2、X3、およびYは電子吸引性基である。)から選ばれた陰イオンとからなる化合物である請求項1〜8のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項10】 X1、X2、およびX3は各々独立して炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基または炭素数6〜20のパーフルオロアリール基であり、Yがニトロ基、ニトロソ基、カルボニル基、カルボキシル基、またはシアノ基である請求項9に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項11】 金属陽イオンがLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、およびBaから選ばれた金属の陽イオンである請求項9または10に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項12】 金属陽イオンが遷移金属の陽イオンである請求項9または10に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項13】 金属陽イオンがMn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、およびAgから選ばれた金属の陽イオンである請求項9または10に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項14】 電解質塩化合物とポリエーテル共重合体の配合割合がモル比(電解質塩化合物のモル数)/(ポリエーテル共重合体のエーテルの酸素原子の総モル数)の値が0.0001〜5である請求項1〜13のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項15】 請求項1〜14のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質を用いた電池。」

(3)各甲号証の記載事項
(a)甲第1号証(特開平7-206936号公報)には、
「【請求項1】 酸化エチレン、-O-CH2 -CHR-単位(式中、Rは反応機能を有する置換基であり、この置換基は遊離基プロセスによって架橋可能であり、Rはある単位と他の単位とが異なることができる)、及び 必要に応じて-O-CH2 -CHR'単位(式中、R' は遊離基プロセスによって架橋可能である非反応機能を含む置換基であり、R' はある単位と他の単位とが異なることができる)などを含む鎖を有する共重合体であって、該共重合体が優れた重分子量率指標I=Mp/Mn及び異なるモノマー単位の統計的分布を有することを特徴とする共重合体。
【請求項2】 数平均分子量(Mn)が20,000又はそれ以上であり、より好ましくは100,000又はそれ以上であることを特徴とする請求項1記載の共重合体。」(特許請求の範囲の請求項1及び2)、
「【請求項4】 置換基Rが一般式(CH2 =CH-(CH2 )q-(O-CH2 )p(式中、1≦q≦6、且つp=0又は1である)、……を有する基であることを特徴とする請求項1記載の共重合体。
【請求項5】 R' 基がアルキル基、好ましくは1〜16の炭素原子を有するアルキル基;-(CH2 )n -O-((CH2 )m -O)p-CH3 基(式中、0≦n≦4、1≦m≦4、且つ0≦p≦20である)などのアルコキシ基;アルキル(ペルフルオロアルキル スルフォネート)エーテル基;陰電荷がビス(トリフルオロメチルスルフォニル) メチライド カルバニオン-C(SO2 CF3 )2 M″(式中、M″は金属陽イオン、特にアルカリ金属の陽イオンのような一価の陽イオンである)によって生じる電気泳動機能を取り込んだ基から選ばれることを特徴とする請求項1記載の共重合体。
【請求項6】 少なくとも70モル%の酸化エチレン単位、約2〜30モル%の-O-CH2 -CHR' -単位及び約0.05〜約10モル%の-O-CH2 -CHR-単位を含むことを特徴とする請求項1記載の共重合体。」(特許請求の範囲の請求項4〜6)、
「【請求項15】 酸化エチレン単位、-O-CH2 -CHR-単位(式中、Rは遊離基プロセスによって架橋可能な機能を含む置換基であり、Rはある単位と他の単位とが異なることができる)、及び必要に応じて-O-CH2 -CHR' 単位(式中、R' は遊離基プロセスによって架橋可能である非反応機能を含む置換基であり、R' はある単位と他の単位とが異なることができる)を含む共重合体であって、且つ優れた重分子量率指標I=Mp/Mn、異なるモノマー単位の統計的分布及び平均分子量が少なくとも20,000、好ましくは少なくとも100,000を有する共重合体を重合体型溶媒として含むことを特徴とするイオン伝導材料。
【請求項16】 更に容易に分解することができる塩を含むことを特徴とする請求項15記載のイオン伝導材料。」(特許請求の範囲の請求項15及び16)、
「不飽和オキシランから誘導される単位の機能は、共重合体が得られた後に共重合体の架橋を可能にするか、」(段落【0029】)、
「本発明に従ったイオン伝導材料は、本発明に従った共重合体を溶液中で容易に解離することができる1個のイオン化合物を本質的に含む。」(段落【0042】)及び
「次に、-CH2 -CHR’-O-単位は2個の機能を果たしている。一方は、これらの単位は高分子鎖を溶媒化する規則性を減少させること、結果的に結晶度を減少させる。もう一方は、これらの単位は共重合体に陽イオン単極イオン伝導特性を与える。」(段落【0049】)と記載されている。

(b)甲第2号証(A. E. Wolfenson, 外4名、「NMR and Conductivity studies of Ethylene Oxide-Epichloridrine Copolymer Doped with LiClO4」 J. Phy. Chem. B (アメリカ), American Chemical Society, 1997年発行 vol.101,No.18, p3469〜p3473)には、
「過塩素酸リチウムをドープせしめたエチレンオキシド-エピクロロヒドリン共重合体はイオン伝導性重合体として興味を起こさせる特性を有している。」(3469頁、冒頭の要約部分1〜2行)及び
「PEOとエピクロロヒドリンとの共重合体、ポリ(エピクロロヒドリン-co-エチレンオキシド)(PEPI-PEO)は、塩カチオンと結合して、常温において良好な導電性を示す均質な固溶体を形成するため、固体電解質として提案された。PEPI-PEOのガラス転移温度は約-40℃であり、常温において非晶質であり、広い温度範囲で高い熱安定性を示す。そのため、PEPI-PEOマトリックスに無機塩を溶解すれば高いイオン伝導性が期待される。PEPI-PEOエラストマーは、低温における高い弾性および良好な耐溶剤性という興味ある特性を示し、広い加工温度(-40〜150℃)を採ることが可能となる。」(3469頁左欄、イントロダクションの項、22〜34行)と記載され、PEPI-PEOコポリマー(1:1)が用いられていることが記載されている。

(c)甲第3号証(特開平8-169985号公報)には、
「【請求項1】 エピクロルヒドリン系重合体と熱可塑性重合体からなるゴム状弾性体に、イオン性化合物および該イオン性化合物を溶解可能な溶剤を必須成分として含有することを特徴とする熱可塑性導電性組成物。
【請求項2】 イオン性化合物がリチウム塩である請求項1記載の熱可塑性重合体組成物。」(特許請求の範囲の請求項1及び2))
【請求項4】 請求項1記載の熱可塑性導電性組成物からなる電極パッド。」(特許請求の範囲の請求項4)及び
「本発明にて用いるエピクロルヒドリン系重合体は後述するイオン性化合物や溶剤と均一に相溶しやすいものであって、良好な導電性が発揮できる。このようなエピクロルヒドリン系重合体としては、例えば……エピクロルヒドリン/エチレンオキサイド/アリルグリシジルエーテル共重合体ゴムなどのゴム状重合体を用いることができる。」(段落【0012】)と記載されている。

(d)甲第4号証(特開平8-292640号公報)には、
「ロール状基材の表面にゴム層が形成された構造のゴムロールにおいて、該ゴム層が、アルキレンオキサイド28〜70モル%、エピハロヒドリン28〜70モル%、及びエチレン性不飽和エポキシド2〜15モル%を共重合して得られる共重合体ゴム(A)25〜95重量%、及び不飽和ゴム(B)5〜75重量%を含有するゴム組成物の加硫物からなる層であることを特徴とするゴムロール。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「本発明において用いられる(A)成分の共重合体ゴムは、アルキレンオキサイド28〜70モル%、エピハロヒドリン28〜70モル%、及びエチレン性不飽和エポキシド2〜15モル%を共重合して得られる共重合体ゴムである。アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド……などを、それぞれ単独で、……使用することができる。」(段落【0017】)、
「エピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロロヒドリン……が挙げられ、これらの中でも、入手の容易さ等からみて、特にエピクロロヒドリンが好適である。」(段落【0018】)及び
「エチレン性不飽和エポキシドとしては、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート……などが挙げられる。」(段落【0019】)と記載され、比較例2では、エチレンオキサイドが76モル%、エピクロロヒドリンが20モル%及びアリルグリシジルエーテルが4モル%からなる共重合ゴムを用いることが記載されている。

(e)甲第5号証(特開昭59-66451号公報)には、
「不飽和基を含まず、エピハロヒドリンのポリマーと、酸受容体と、硬化された組成物を得るために十分な量の有機過酸化物と、からなり、前記不飽和成分は前記ポリマー中に導入される不飽和部分および前記不飽和成分を前記モノマーと共重合させることができる重合性部分を含有する、ことを特徴とする、組成物。」(特許請求の範囲第1項)及び
「ポリマーは固体のコポリマーおよびターポリマーから選ばれ、……前記ターポリマーは約40〜80重量部のエピクロロヒドリン、約20〜60重量部のエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドから選ばれたアルキレンオキシド、および約10重量部までの2〜6個の炭素原子を含有する不飽和グリシジルエーテルから製造される、特許請求の範囲第7項記載の組成物。」(特許請求の範囲第8項)と記載されている。

(4)訂正後の本件発明1と甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明との対比・判断
甲第1号証には、酸化エチレン単位を少なくとも70モル%、-O-CH2 -CHR-単位を0.05〜10モル%及び-O-CH2 -CHR’-単位を2〜30モル%有する共重合体の発明が記載され、この共重合体の数平均分子量は、20,000以上であり、Rは、式(CH2 =CH-(CH2 )q-(O-CH2 )p(式中、1≦q≦6、且つp=0又は1である)であり、R' 基がアルキル基、好ましくは1〜16の炭素原子を有するアルキル基;-(CH2 )n -O-((CH2 )m -O)p-CH3 基(式中、0≦n≦4、1≦m≦4、且つ0≦p≦20である)などのアルコキシ基;アルキル(ペルフルオロアルキル スルフォネート)エーテル基;陰電荷がビス(トリフルオロメチルスルフォニル) メチライド カルバニオン-C(SO2 CF3 )2 M″(式中、M″は金属陽イオン、特にアルカリ金属の陽イオンのような一価の陽イオンである)によって生じる電気泳動機能を取り込んだ基であると記載され、この共重合体をイオン伝導材料に用いること、更にイオン化合物を配合すること、反応基を有する置換基であるRにより架橋することができることが記載されている。
そこで、訂正後の本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを比較すると、甲第1号証に記載された酸価エチレン単位は、訂正後の本件発明1の式(II)で示される単量体から誘導される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(B)」という。)と同一であると認められ、同じく-O-CH2 -CHR-単位は、架橋成分として式(III-1)で示される単量体から誘導される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(C)」という。)と同一であると認められ、繰り返し単位(B)と繰り返し単位(C)との共重合割合は、訂正後の本件発明1と重複する。また、甲第1号証に記載された共重合体の数平均分子量は20,000以上であり、これは、訂正後の本件発明1の重量平均分子量と重複すると認められる。
そうすると、甲第1号証に記載された発明では、ポリエーテル共重合体の繰り返し単位が、訂正後の本件発明1での式(I)で示される単量体から誘導される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(A)」という。)を5〜35モル%有することが記載されてなく、この単位とは異なる繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(A’)」という。)を2〜30モル%有するとしている点で訂正後の本件発明1と相違する。
この相違点について検討する。
甲第2号証には、イオン伝導性重合体として、過塩素酸リチウムをドープせしめたエチレンオキシド-エピクロロヒドリン共重合体の発明が記載されており、エチレンオキシド単位は、訂正後の本件発明1の繰り返し単位(B)に相当し、エピクロロヒドリン単位は、訂正後の本件発明1の繰り返し単位(A)に相当するが、エピクロロヒドリンとエチレンオキシドの比(モル比であると認められる。)は、1:1のもの、即ちエピクロロヒドリン単位が50モル%のポリエーテル共重合体が記載されているだけであり、訂正後の本件発明1のように繰り返し単位(A)の使用割合を5〜35モル%とすることで、柔軟性及び伝導率に優れる固体電解質が得られるとの記載ないし示唆はなされていない。また、ポリエーテル共重合体を架橋することも記載されていない。
よって、甲第1号証に記載された発明において、繰り返し単位(A’)を繰り返し単位(A)とし、その使用割合を5〜35モル%とすることは、当業者が容易になし得る程度のことであるとすることはできない。
そして、訂正後の本件発明1は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載、特に、実施例及び比較例の記載をみると、訂正後の本件発明1のうち、繰り返し単位(A)が5〜35モル%の特定のポリエーテル共重合体を用いることで、柔軟性及び伝導率に優れる固体電解質が得られることは明らかである。
以上のとおりであるので、訂正後の本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるとすることはできない。
また、甲第3号証には、エピクロルヒドリン系重合体、イオン性化合物を含む導電性組成物の発明が記載され、エピクロルヒドリン系重合体として、エピクロルヒドリン/エチレンオキサイド/アリルグリシジルエーテル共重合体ゴムが記載されているが、エピクロルヒドリン/エチレンオキサイド/アリルグリシジルエーテル共重合体ゴムの各単位の使用割合は明記されてなく、架橋することも記載されていない。
甲第4号証には、訂正後の本件発明1のポリエーテル共重合体と同じ繰り返し単位を有し同じ割合にて構成されるポリエーテル共重合体が記載されているが、このポリエーテル共重合体を固体電解質に使用することは記載されていない。
甲第5号証には、訂正後の本件発明1のポリエーテル共重合体と同じ繰り返し単位を有し同じ割合にて構成されるポリエーテル共重合体が記載されているが、このポリエーテル共重合体を固体電解質に使用することは記載されていない。
以上のとおり、甲第3号証には、導電性組成物の一つの成分としてエピクロルヒドリン/エチレンオキサイド/アリルグリシジルエーテル共重合体ゴムが記載されているだけであり、各繰り返し単位の割合が訂正後の本件発明1で規定される範囲であることは記載されてなく、また、甲第4号証及び甲第5号証には、訂正後の本件発明1と同じポリエーテル共重合体が記載されているにすぎず、これを固体電解質に使用することは記載されていないので、これらの証拠をもってしても、上記相違点が当業者が適宜なし得る程度のことと認めることはできない。
したがって、訂正後の本件発明1は、甲第1号証〜甲第5号証の記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(5)訂正後の本件発明2〜15と甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明との対比・判断
訂正後の本件発明2〜14の発明は、訂正後の本件発明1を引用して具体化した発明であり、また、訂正後の本件発明15は、訂正後の本件発明1の架橋高分子固体電解質を用いた電池の発明であるから、訂正後の本件発明1と同様の理由により、訂正後の本件発明2〜15は、甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

[5]むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の提示する証拠及び主張する理由によっては訂正後の本件発明1〜15についての特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件発明1〜15についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリエーテル共重合体および架橋高分子固体電解質
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリエーテル共重合体の架橋モノマー成分の反応性を利用して架橋した架橋体に、電解質塩化合物を混合して得られる架橋高分子固体電解質であって、
ポリエーテル共重合体が、
(A)式(I):
【化1】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位5〜35モル%、
(B)式(II):
【化2】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位64〜94モル%、および(C)架橋成分として、式(III-1)または式(III-2):
【化3】

【化4】

[式中、R1およびR2は、
エチレン性不飽和基を含有する置換基、
反応性ケイ素基を含有する置換基
または式(IV):
【化5】

で示される末端にエポキシ基を含有する置換基(R3は炭素、酸素、および水素原子から選ばれた原子から成る二価の有機残基である。)である。]
で示される単量体から誘導される繰り返し単位0.01〜10モル%を有してなり、重量平均分子量が104〜107の範囲内であるポリエーテル共重合体である架橋高分子固体電解質。
【請求項2】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、またはクロトン酸グリシジルから得られる架橋成分であり、ポリエーテル共重合体のエチレン性不飽和基の反応性を利用して架橋した架橋体に、電解質塩化合物を混合して得られる請求項1に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項3】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、4-(1,2-エポキシ)ブチルトリメトキシシラン、5-(1,2-エポキシ)ペンチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランから選ばれた化合物であり、ポリエーテル共重合体の反応性ケイ素基の反応性を利用して架橋した架橋体に、電解質塩化合物を混合して得られる請求項1に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項4】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、エチレングリコール-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、2-メチル-1,2,3,4-ジエポキシブタン、2-メチル-1,2,4,5-ジエポキシペンタン、ヒドロキノン-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、カテコール-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテルから選ばれた化合物であり、ポリエーテル共重合体の側鎖エポキシ基の反応性を利用して架橋した架橋体に、電解質塩化合物を混合して得られる請求項1に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項5】 ポリエーテル共重合体および電解質塩化合物の混合物を、該共重合体の架橋反応性基の反応性を利用して架橋して得られる架橋高分子固体電解質であって、
ポリエーテル共重合体が、
(A)式(I):
【化6】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位5〜35モル%、
(B)式(II):
【化7】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位64〜94モル%、および(C)架橋成分として、式(III-1)または式(III-2):
【化8】

【化9】

[式中、R1およびR2は、
エチレン性不飽和基を含有する置換基、
反応性ケイ素基を含有する置換基
または式(IV)
【化10】

で示される末端にエポキシ基を含有する置換基(R3は炭素、酸素、および水素原子から選ばれた原子から成る二価の有機残基である。)である。]
で示される単量体から誘導される繰り返し単位0.01〜10モル%を有してなり、重量平均分子量が104〜107の範囲内であるポリエーテル共重合体である架橋高分子固体電解質。
【請求項6】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、またはクロトン酸グリシジルから得られる架橋成分であり、ポリエーテル共重合体および電解質塩化合物の混合物を、該共重合体のエチレン性不飽和基の反応性を利用して架橋して得られる請求項5に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項7】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、4-(1,2-エポキシ)ブチルトリメトキシシラン、5-(1,2-エポキシ)ペンチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランから選ばれた化合物であり、ポリエーテル共重合体および電解質塩化合物の混合物を、該共重合体の反応性ケイ素の反応性を利用して架橋して得られる請求項5に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項8】 繰り返し単位(C)を形成する単量体が、2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、エチレングリコール-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、2-メチル-1,2,3,4-ジエポキシブタン、2-メチル-1,2,4,5-ジエポキシペンタン、ヒドロキノン-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、カテコール-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテルから選ばれた化合物であり、ポリエーテル共重合体および電解質塩化合物の混合物を、該共重合体の側鎖エポキシ基の反応性を利用して架橋して得られる請求項5に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項9】 電解質塩化合物が金属陽イオン、アンモニウムイオン、アミジニウムイオン、およびグアニジウムイオンから選ばれた陽イオンと、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6-、PF6-、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオン、X1SO3-、[(X1SO2)(X2SO2)N]-、[(X1SO2)(X2SO2)(X3SO2)C]-、および[(X1SO2)(X2SO2)YC]-(但し、X1、X2、X3、およびYは電子吸引性基である。)から選ばれた陰イオンとからなる化合物である請求項1〜8のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項10】 X1、X2、およびX3は各々独立して炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基または炭素数6〜20のパーフルオロアリール基であり、Yがニトロ基、ニトロソ基、カルボニル基、カルボキシル基、またはシアノ基である請求項9に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項11】 金属陽イオンがLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、およびBaから選ばれた金属の陽イオンである請求項9または10に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項12】 金属陽イオンが遷移金属の陽イオンである請求項9または10に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項13】 金属陽イオンがMn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、およびAgから選ばれた金属の陽イオンである請求項9または10に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項14】 電解質塩化合物とポリエーテル共重合体の配合割合がモル比(電解質塩化合物のモル数)/(ポリエーテル共重合体のエーテルの酸素原子の総モル数)の値が0.0001〜5である請求項1〜13のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項15】 請求項1〜14のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質を用いた電池。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は架橋が可能なポリエーテル共重合体、該共重合体の架橋体および架橋された高分子固体電解質に関する。本発明は、特に電池、キャパシター、センサー、コンデンサー、EC(エレクトロクロミック)素子等の電気化学デバイス用材料、ゴムやプラスチック等の帯電防止剤として好適な架橋高分子固体電解質に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
従来、電池、キャパシター、センサーなどの電気化学デバイスを構成する電解質は、イオン伝導性の点から溶液またはペースト状のものが用いられているが、液漏れによる機器の損傷の恐れがあること、デバイスの実装、加工性に問題があること、また電解液を含浸させるセパレーターを必要とするので、デバイスの超小型化、薄型化に限界があることなどの問題点が指摘されている。これに対し無機結晶性物質、無機ガラス、有機高分子系物質などの固体電解質が提案されている。有機高分子系物質は一般に加工性、成形性に優れ、得られる固体電解質が柔軟性、曲げ加工性を有し、応用されるデバイスの設計の自由度が高くなることなどの点からその開発が期待されている。しかしながら、イオン伝導性の面では他の材質より劣っているのが現状である。
【0003】
例えばエピクロロヒドリン系ゴムに特定のアルカリ金属塩を含有させてイオン伝導性固体電解質に応用する試みは既に提案されているが(Effect of some factors on conductivities of polymer ionic conductors,Chen Li-quan他,Wuli Xucb-ao,36巻 1号60-66頁(1987))、なお改善されたイオン伝導性が求められていた。エピクロルヒドリン系ゴムと低分子量のポリエチレングリコール誘導体の混合物に特定のアルカリ金属塩を含有させて高分子固体電解質に応用する試みが本出願人を含む特開平2-235957号公報に提案されているが、機械的特性、イオン伝導性ともにより優れたものが求められている。高分子固体電解質を広くデバイスに応用させるにあたっては素子の導通や破損を防ぐため、十分な機械的強度と柔軟性を有することが望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、エピクロロヒドリンとエチレンオキシドに、更に架橋が可能なオキシラン化合物を組み合わせた共重合体を用いると、架橋する前または後に電解質塩化合物を配合することによって、イオン伝導性に優れ、かつ高温下でも塑性変形または流動性のない固体電解質が得られることを見いだしたものである。
【0005】
本発明は、(A)式(I):
【化11】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位5〜35モル%、
(B)式(II):
【化12】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位64〜94モル%、および(C)架橋成分として、式(III-1)または式(III-2):
【化13】

【化14】

[式中、R1およびR2は、
エチレン性不飽和基を含有する置換基、
反応性ケイ素基を含有する置換基
または式(IV):
【化15】

で示される末端にエポキシ基を含有する置換基(R3は炭素、酸素、および水素原子から選ばれた原子から成る二価の有機残基である。)である。]
で示される単量体から誘導される繰り返し単位0.01〜10モル%を有してなり、重量平均分子量が104〜107の範囲内であるポリエーテル共重合体を提供する。
【0006】
本発明は、(1)該共重合体の反応性を利用して架橋した架橋体、(2)該共重合体(未架橋重合体)に電解質塩化合物を混合して得られる高分子固体電解質、(3)該共重合体の反応性を利用して得られる該共重合体の架橋体と電解質塩化合物からなる架橋高分子固体電解質、および(4)該架橋高分子固体電解質を用いた電池も提供する。
【0007】
本発明の共重合体は、(A)式(I)の単量体から誘導された繰り返し単位:
【化16】

(B)式(II)の単量体から誘導された繰り返し単位:
【化17】

および
(C)式(III-1)または式(III-2)の単量体から誘導された繰り返し単位:
【化18】

【化19】

[式中、R1およびR2は、
エチレン性不飽和基を含有する置換基、
反応性ケイ素基を含有する置換基
または式(IV):
【化20】

で示される末端にエポキシ基を含有する置換基(R3は炭素、酸素、および水素原子から選ばれた原子から成る二価の有機残基である。)である。]
を有する。
【0008】
本発明のポリエーテル共重合体を得るための重合法はエチレンオキサイド部分の開環反応により共重合体を得る重合法であり、本出願人の特開昭62-169823号公報および特開平7-324129号公報に記載されている。即ち、開環重合用触媒として有機アルミニウムを主体とする触媒系、有機亜鉛を主体とする触媒系、有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系などを用いて、各モノマーを溶媒の存在下または不存在下、反応温度10〜80℃、撹拌下で反応させることによって得られる。なかでも、両末端にのみエポキシ基を有するオキシラン化合物を用いる場合には、有機錫-リン酸エステル縮合物触媒を用いると置換基即ちメチル基を含まないエポキシ基のみが重合反応に使われ、メチル基を有するエポキシ基は全く反応せずにポリマー中に残る。重合度、あるいは作られる共重合体の性質などの点から、有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系が特に好ましい。
【0009】
本発明で架橋体の原料となるポリエーテル共重合体は、繰り返し単位(A)が5〜35モル%、繰り返し単位(B)が64〜94モル%、および繰り返し単位(C)が0.01〜10モル%のものが用いられる。繰り返し単位(A)9〜30モル%、繰り返し単位(B)69〜90モル%および繰り返し単位(C)0.1〜10モル%が好ましい。
【0010】
繰り返し単位(B)が94モル%を越えるとオキシエチレン鎖の結晶化を招き、キャリヤーイオンの拡散移動が低下して、結果的に固体電解質のイオン伝導性を著しく悪化させることとなる。また、繰り返し単位(B)が64モル%よりも少ない場合にはガラス転移温度の上昇を招き、塩の解離能が低下し、イオン伝導度が低下する。
【0011】
一般にポリエチレンオキシドの結晶性を低下させることおよびガラス転移温度を下げることによりイオン伝導性が向上することは知られているが、本発明のポリエーテル共重合体の組成の最適バランスで、イオン伝導性の向上効果は格段に大きいことがわかった。
【0012】
一方、架橋モノマー成分(繰り返し単位(C)を形成する単量体)のモル比が10モル%より大になるとイオン伝導度は大幅に下がり、また、フイルムにしたときに柔軟性がなくなり、加工性、成形性に問題が起こる。
【0013】
本発明のポリエーテル共重合体はブロック共重合、ランダム共重合何れの共重合タイプでも良い。ランダム共重合体の方がよりポリエチレンオキシドの結晶性を低下させる効果が大きいので好ましい。
【0014】
またポリエーテル共重合体の分子量は良好な、加工性、成形性、機械的強度、柔軟性を得るためには重量平均分子量が104〜107の範囲である。より好ましくは105〜5×106の範囲内のものが適する。重量平均分子量が104より小さいと、機械的強度を維持するため、また、高温での流動を防ぐために架橋密度を高くする必要が生じ、得られた電解質のイオン伝導性が低下する。また107を越えると加工性、成形性に問題を生ずる。
【0015】
繰り返し単位(A)はエピクロロヒドリンから誘導される。繰り返し単位(B)はエチレンオキシドから誘導される。
繰り返し単位(C)を形成する単量体は、エチレン性不飽和基を含有するオキシラン化合物、反応性ケイ素基を含有するオキシラン化合物または両末端にエポキシ基を含有するオキシラン化合物である。
両末端にエポキシ基を含有するオキシラン化合物の場合には、式(III-1)の単量体のR1は、式(IV)で表され、R3は炭素、酸素、および水素原子から選ばれた原子から成る有機残基である。
【0016】
エチレン性不飽和基を有する単量体は、式(III-a):
【化21】

[式中、R4はエチレン性不飽和を有する基である。]
で示されるオキシラン化合物が好ましい。
【0017】
エチレン性不飽和基を含有するオキシラン化合物としては、アリルグリシジルエーテル、4-ビニルシクロヘキシルグリシジルエーテル、α-テルピニルグリシジルエーテル、シクロヘキセニルメチルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-1-ペンテン、4,5-エポキシ-2-ペンテン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカジエン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5-シクロオクテン、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、グリシジル-4-ヘキセノエート、1〜12個のオキシエチレン鎖を持つオリゴエチレングリコールグリシジルエーテルアクリレート、1〜12個のオキシエチレン鎖を持つオリゴエチレングリコールグリシジルエーテルメタクリレート、1〜12個のオキシエチレン鎖を持つオリゴエチレングリコールアリルグリシジルエーテルが用いられる。好ましくは、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルがある。
【0018】
繰り返し単位(C)を形成する反応性ケイ素基を有する単量体は、式(III-b-1):
【化22】

[式中、R5は反応性ケイ素含有基である。]
または式(III-b-2):
【化23】

[式中、R6は反応性ケイ素含有基である。]
で示される反応性ケイ素基を含有するオキシラン化合物であることが好ましい。
【0019】
式(III-b-1)で示される反応性ケイ素基を含有するオキシラン化合物は、好ましくは式(III-b-1-1)および式(III-b-1-2)で示される化合物である。
【化24】

【0020】
式(III-b-2)で示される反応性ケイ素基を含有するオキシラン化合物は、好ましくは式(III-b-2-1)で示される化合物である。
【化25】

【0021】
式(III-b-1-1)、式(III-b-1-2)および式(III-b-2-1)においてR7、R8、R9は各々同一であっても、異なっていてもよいが、少なくとも一個がアルコキシ基であり、残りがアルキル基である。mは1〜6の整数を表す。
【0022】
式(III-b-1-1)で表されるモノマーには、1-グリシドキシメチルトリメトキシシラン、1-グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4-グリシドキシブチルメチルジメトキシシラン、4-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、6-グリシドキシヘキシルメチルジメトキシシラン、6-グリシドキシヘキシルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0023】
式(III-b-1-2)で表されるモノマーには、3-(1,2-エポキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-(1,2-エポキシ)プロピルメチルジメトキシシラン、3-(1,2-エポキシ)プロピルジメチルメトキシシラン、4-(1,2-エポキシ)ブチルトリメトキシシラン、4-(1,2-エポキシ)ブチルメチルジメトキシシラン、5-(1,2-エポキシ)ペンチルトリメトキシシラン、5-(1,2-エポキシ)ペンチルメチルジメトキシシラン、6-(1,2-エポキシ)ヘキシルトリメトキシシラン、6-(1,2-エポキシ)ヘキシルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0024】
式(III-b-2-1)で表されるモノマーには、1-(3、4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、1-(3、4-エポキシシクロヘキシル)メチルメチルジメトキシシラン、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、3-(3、4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、3-(3、4-エポキシシクロヘキシル)プロピルメチルジメトキシシラン、4-(3、4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、4-(3、4-エポキシシクロヘキシル)ブチルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0025】
これらの中で、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、4-(1、2-エポキシ)ブチルトリメトキシシラン、5-(1、2-エポキシ)ペンチルトリメトキシシラン、および2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0026】
繰り返し単位(C)を形成する両端にエポキシ基を有する単量体は、式(III-c):
【化26】

[式中、R10は、二価の有機基である。]
で示されることが好ましい。R10は、水素、炭素、酸素から選ばれた元素よりなる有機基であることが好ましい。
【0027】
式(III-c)におけるR10基が、
-CH2-O-(CHA1-CHA2-O)p-CH2-、
-(CH2)p-、
-CH2O-Ph-OCH2-
[式中、A1およびA2は水素またはメチル基であり、Phはフェニレン基であり、pは0〜12の数である。]
であることが好ましい。
【0028】
両末端にエポキシ基を有する単量体は、次式(III-c-1)、(III-c-2)および(III-c-3)で示される化合物であることが好ましい。
【化27】

上記(III-c-1)、(III-c-2)および(III-c-3)において、A1、A2は水素原子またはメチル基であり、pは0〜12の数を表す。
【0029】
式(III-c-1)で表されるモノマーには、2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、エチレングリコール-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、およびジエチレングリコール-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0030】
式(III-c-2)で表されるモノマーには、2-メチル-1,2,3,4-ジエポキシブタン、2-メチル-1,2,4,5-ジエポキシペンタン、および2-メチル-1,2,5,6-ジエポキシヘキサンなどが挙げられる。
【0031】
式(III-c-3)で表されるモノマーには、ヒドロキノン-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、およびカテコール-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
その中でも2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテル、およびエチレングリコール-2,3-エポキシプロピル-2’,3’-エポキシ-2’-メチルプロピルエーテルが特に好ましい。
【0033】
本発明において用いられるエチレン性不飽和基を有する共重合体の架橋方法としては、有機過酸化物、アゾ化合物等から選ばれるラジカル開始剤、紫外線、電子線等の活性エネルギー線が用いられる。更には、水素化ケイ素を有する架橋剤を用いる事もできる。
【0034】
有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル等、通常架橋用途に使用されているものが用いられ、これらを列挙すれば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が挙げられる。その添加量は有機過酸化物の種類により異なるが、通常、組成物全体の0.1〜10重量%の範囲内である。
【0035】
アゾ化合物としてはアゾニトリル化合物、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物等、通常架橋用途に使用されているものが用いられ、これらを列挙すれば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチル-バレロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(4-クロロフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(フェニルメチル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-プロペニル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-1,3-ジアゼピン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(5-ヒドロキシ-3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられる。その添加量はアゾ化合物の種類により異なるが、通常、組成物全体の0.1〜10重量%の範囲内である。
【0036】
紫外線等の活性エネルギー線照射による架橋に適するモノマーは、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジルが特に好ましい。
【0037】
また、増感助剤としてジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン等のアセトフェノン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アルキル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N、N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロイド等のベンゾフェノン類、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類、アジドピレン、3-スルホニルアジド安息香酸、4-スルホニルアジド安息香酸、2,6-ビス(4’-アジドベンザル)シクロヘキサノン-2,2’-ジスルホン酸(ナトリウム塩)、p-アジドベンズアルデヒド、p-アジドアセトフェノン、p-アジドベンゾイン酸、p-アジドベンザルアセトフェノン、p-アジドベンザルアセトン、4,4’-ジアジドカルコン、1,3-ビス(4’-アジドベンザル)アセトン、2,6-ビス(4’-アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6-ビス(4-アジドベンザル)4-メチルシクロヘキサノン、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホン酸、1,3-ビス(4’-アジドベンザル)-2-プロパノン-2’-スルホン酸、1,3-ビス(4’-アジドシンナシリデン)-2-プロパノン等のアジド類等を任意に用いることができる。
【0038】
これらの架橋反応の架橋助剤としてエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、オリゴエチレングリコールジアクリレート、オリゴエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、オリゴプロピレングリコールジアクリレート、オリゴプロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,3-グリセロールジメタクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパンジメタクリレート、1,1,1-トリメチロールエタンジアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、1,2,6-ヘキサントリアクリレート、ソルビトールペンタメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミドジビニルベンゼン、ビニルメタクリレート、ビニルクロトネート、ビニルアクリレート、ビニルアセチレン、トリビニルベンゼン、トリアリルシアニルスルフィド、ジビニルエーテル、ジビニルスルホエーテル、ジアリルフタレート、グリセロールトリビニルエーテル、アリルメタリクレート、アリルアクレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、エチレングリコールアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、マレイミド、フェニルマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、p-キノンジオキシム、無水マレイン酸、イタコン酸、等を任意に用いることができる。
【0039】
エチレン性不飽和基を架橋する水素化ケイ素を有する架橋剤としては、少なくとも2個の水素化ケイ素を有する化合物が用いられる。特にポリシロキサン化合物またはポリシラン化合物が良い。
ポリシロキサン化合物としては(a-1)式もしくは(a-2)式で表される線状ポリシロキサン化合物、または(a-3)式で表される環状ポリシロキサン化合物がある。
【0040】
【化28】

【0041】
但し、(a-1)式〜(a-3)式に於いてR11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は水素原子または炭素数1〜12のアルキル基もしくはアルコキシ基を表し、qとrは整数を表す。r≧2、q≧0、2≦q+r≦300である。アルキル基としては、メチル基、エチル基などの低級アルキル基が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基などの低級アルコキシ基が好ましい。
【0042】
ポリシラン化合物としては(b-1)式で表される線状ポリシラン化合物が用いられる。
【化29】

但し、(b-1)式に於いてR20、R21、R22、R23およびR24は水素原子または炭素数1〜12のアルキル基もしくはアルコキシ基を表し、sとtは整数を表す。t≧2、s≧0、2≦s+t≦100である。
【0043】
ヒドロシリル化反応の触媒の例としては、パラジウム、白金などの遷移金属あるいはそれらの化合物、錯体が挙げられる。また、過酸化物、アミン、ホスフィンも用いられる。最も一般的な触媒はジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)、塩化白金酸が挙げられる。
【0044】
反応性ケイ素基含有の共重合体の架橋方法としては、反応性ケイ素基と水との反応によって架橋できるが、反応性を高めるには、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレート、ジブチルスズジアセテート、オクチル酸スズ、ジブチルスズアセチルアセトナート等のスズ化合物、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン化合物、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等のアルミニウム化合物などの有機金属化合物、あるいは、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、グアニン、ジフェニルグアニン等のアミン系化合物などを触媒として用いても良い。
【0045】
側鎖にエポキシ基含有の共重合体の架橋方法としてはポリアミン類、酸無水物類などが用いられる。
ポリアミン類としては、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、ビス-アミノプロピルピペラジン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソフタル酸ジヒドラジドなどの脂肪族ポリアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルイレンジアミン、m-トルイレンジアミン、o-トルイレンジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ポリアミン等が挙げられる。その添加量はポリアミンの種類により異なるが、通常、組成物全体の0.1〜10重量%の範囲である。
【0046】
酸無水物類としては、無水マレイン酸、無水ドデセニルコハク酸、無水クロレンデック酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラメチレン無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。その添加量は酸無水物の種類により異なるが、通常、組成物全体の0.1〜10重量%の範囲である。これらの架橋には促進剤を用いても良く、ポリアミン類の架橋反応にはフェノール、クレゾール、レゾルシン、ピロガロール、ノニルフェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどがあり、酸無水物類の架橋反応にはベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2-(ジメチルアミノエチル)フェノール、ジメチルアニリン、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどがある。その添加量は促進剤により異なるが、通常、架橋剤の0.1〜10重量%の範囲である。
【0047】
本発明において用いられる電解質塩化合物としては、本発明のポリエーテル共重合体または該共重合体の架橋体に可溶のものならば何でもよいが、以下に挙げるものが好ましい。
即ち、金属陽イオン、アンモニウムイオン、アミジニウムイオン、およびグアニジウムイオンから選ばれた陽イオンと、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6-、PF6-、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオン、X1SO3-、[(X1SO2)(X2SO2)N]-、[(X1SO2)(X2SO2)(X3SO2)C]-、および[(X1SO2)(X2SO2)YC]-から選ばれた陰イオンとからなる化合物が挙げられる。但し、X1、X2、X3、およびYは電子吸引性基である。更に好ましくはX1、X2、およびX3は各々独立して炭素数が1から6迄のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアリール基であり、Yはニトロ基、ニトロソ基、カルボニル基、カルボキシル基、またはシアノ基である。X1、X2、およびX3は各々同一であっても、異なっていてもよい。
【0048】
金属陽イオンとしては遷移金属の陽イオンを用いる事ができる。好ましくはMn、Fe、Co、Ni、Cu、ZnおよびAg金属から選ばれた金属の陽イオンが用いられる。又、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、CaおよびBa金属から選ばれた金属の陽イオンを用いても好ましい結果が得られる。電解質塩化合物として前述の化合物を2種類以上併用することは自由である。
【0049】
本発明において、上記電解質塩化合物の使用量はポリエーテル共重合体の主鎖および側鎖を含めたエーテルの酸素原子の総モル数に対する割合、即ちモル比(電解質塩化合物のモル数)/(ポリエーテル共重合体のエーテルの酸素原子の総モル数)の値は0.0001〜5、好ましくは0.001〜0.5の範囲がよい。この値が5を越えると加工性、成形性および得られた固体電解質の機械的強度や柔軟性が低下し、さらにイオン伝導性も低下する。
【0050】
本発明のポリエーテル共重合体、その架橋体、それ等から得られる架橋高分子固体電解質を使用する際に難燃性が必要な場合には、通常用いられる方法を採用できる。即ち臭素化エポキシ化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、およびホウ酸亜鉛から選択して有効量を添加する。
【0051】
本発明の架橋高分子固体電解質の製造方法は特に制約はないが、通常ポリエーテル共重合体と電解質塩化合物を機械的に混合するか、もしくは溶剤に溶解させて混合した後、溶剤を除去し、架橋するか、またはポリエーテル共重合体を架橋した後電解質塩化合物を機械的に混合するか、もしくは溶剤に溶解させて混合した後溶剤を除去するなどの方法によって製造される。機械的に混合する手段としては、各種ニーダー類、オープンロール、押出機などを任意に使用できる。溶剤を使用して製造する場合は各種極性溶媒、例えばテトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、エチレングリコールジエチルエーテル等が単独、或いは混合して用いられる。溶液の濃度は特に制限はないが1〜50重量%が好ましい。
【0052】
エチレン性不飽和基を有する共重合体を、ラジカル開始剤を利用して架橋する場合10℃〜200℃の温度条件下1分〜20時間で架橋反応が終了する。また、紫外線等のエネルギー線を利用する場合、一般には増感剤が用いられる。通常、10℃〜150℃の温度条件下0.1秒〜1時間で架橋反応が終了する。水素化ケイ素を有する架橋剤では10℃〜180℃の温度条件下10分〜10時間で架橋反応が終了する。
【0053】
反応性ケイ素基を有する共重合体の架橋反応に用いられる水の量は、雰囲気中の湿気によっても容易に起こるので特に制限されない。短時間冷水または温水浴に通すか、またはスチーム雰囲気にさらす事で架橋する事もできる。
エポキシ基を有する共重合体の架橋反応にポリアミンまたは酸無水物を利用した場合、10〜200℃の温度の条件下10分〜20時間で架橋反応が終了する。
【0054】
本発明で示された共重合体および該共重合体の架橋体は架橋高分子固体電解質として有用な前駆体となる。本発明の架橋高分子固体電解質は機械的強度と柔軟性に優れており、その性質を利用して大面積薄膜形状の固体電解質が容易に得られる。例えば本発明の架橋高分子固体電解質を用いた電池の作製が可能である。この場合、正極材料としてはリチウム-マンガン複合酸化物、リチウム-バナジウム複合酸化物、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト置換ニッケル酸リチウム、ポリアセン、ポリピレン、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリピロール、ポリフラン、ポリアズレン等がある。負極材料としてはリチウムがグラファイトあるいはカーボンの層間に吸蔵された層間化合物、リチウム金属、リチウム-鉛合金等がある。また高いイオン伝導性を利用してアルカリ金属イオン、Cuイオン、Caイオン、およびMgイオン等の陽イオンのイオン電極の隔膜としての利用も考えられる。
【0055】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示す。
製造例(触媒の製造)
撹拌機、温度計および蒸留装置を備えた3つ口フラスコにトリブチル錫クロライド10gおよびトリブチルホスフェート35gを入れ、窒素気流下に撹拌しながら250℃で20分間加熱して留出物を留去させ残留物として固体状の縮合物質を得た。以後これを重合用触媒として使用した。
【0056】
ポリエーテル共重合体の元素分析、ヨウ素価および1H NMRスペクトルにより得たモノマー換算組成分析の結果を第1表および第2表に示す。ポリエーテル共重合体の分子量測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定を行い、標準ポリスチレン換算により分子量を算出した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定は(株)島津製作所の測定装置RID-6A、昭和電工(株)製カラムのショウデックスKD-807、KD-806、KD-806MおよびKD-803、および溶媒DMFを用いて60℃で行った。ガラス転移温度、融解熱量は理学電気(株)製示差走査熱量計DSC8230Bを用い、窒素雰囲気中、温度範囲-100〜80℃、昇温速度10℃/minで測定した。導電率σの測定は20℃、1mmHgで72時間真空乾燥したフィルムを白金電極ではさみ、電圧0.5V、周波数範囲5Hz〜1MHzの交流法を用い、複素インピーダンス法により算出した。固体電解質フィルムの柔軟性は25℃に於いてフィルムを180度に折り曲げた時の折損の有無により評価した。
【0057】
実施例1
内容量1Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに触媒として触媒の製造例で得られた縮合物質300mgと水分10ppm以下に調整したアリルグリシジルエーテル11gとエピクロロヒドリン81gおよび溶媒としてn-ヘキサン500gを仕込み、エチレンオキシド100gはエピクロロヒドリンの重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、逐次添加した。重合反応を20℃で20時間行った。重合反応はメタノールで停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー185gを得た。この共重合体のガラス転移温度は-32℃、重量平均分子量は130万、融解熱量は29J/gであった。エピクロロヒドリンの成分は塩素の元素分析、アリルグリシジルエーテルの成分はヨウ素価の測定により求めた。この重合体のモノマー換算組成分析結果は第1表のとおりである。
【0058】
得られた共重合体1g、および架橋剤ジクミルパーオキサイド0.015gをアセトニトリル5mlに溶解し、モル比(電解質塩化合物のモル数)/(共重合体のエーテルの酸素原子の総モル数)が0.05となるように過塩素酸リチウムを混合した。この混合液をポリテトラフルオロエチレン製モールド上にキャストして乾燥した後、窒素雰囲気下150℃、3hr加熱してフィルムを得た。本フィルムの導電率および柔軟性についての測定結果を第1表に示す。
【0059】
実施例2
第1表に示すモノマーを用いて実施例1と同様の触媒および操作により共重合を行った。得られたポリエーテル共重合体1g、トリエチレングリコールジメタクリレート0.05g、架橋剤ベンゾイルオキサイド0.015gをアセトニトリル20mlに溶解し、モル比(電解質塩化合物のモル数)/(共重合体のエーテルの酸素原子の総モル数)が0.05となるようにリチウムビストリフルオロメタンスルフォニルイミドを混合した後、窒素雰囲気下100℃、3hr加熱してフィルムを得た。本フィルムの導電率および柔軟性についての測定結果を第1表に示す。
【0060】
実施例3
第1表に示すモノマーを用いて実施例1と同様の触媒および操作により共重合を行った。得られたポリエーテル共重合体1g、トリエチレングリコールジアクリレート0.05g、増感剤2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン0.02gをアセトニトリル5mlに溶解し、モル比(電解質塩化合物のモル数)/(共重合体のエーテルの酸素原子の総モル数)が0.05となるように過塩素酸リチウムを混合した。この混合液をポリテトラフルオロエチレン製モールド上にキャストして乾燥した後、アルゴン雰囲気下で紫外線(30mW/cm2,360nm)を50℃で10分間照射してフィルムを得た。本フィルムの導電率および柔軟性についての測定結果を第1表に示す。
【0061】
実施例4
第1表に示すモノマーを用いて実施例1と同様の触媒および操作により共重合を行った。得られたポリエーテル共重合体1g、触媒ジブチルスズジラウレート5mgをテトラヒドロフラン20mlに溶解し、水10μlを加えて15分間撹拌を行った。常圧下で溶媒を除去した後、60℃で10時間乾燥して架橋体を得た。得られた架橋体に過塩素酸リチウム100mgを含むテトラヒドロフラン溶液5mlを20時間で含浸させた後、170℃、80Kgw/cm2で10分間加熱、加圧し、フィルムを得た。本フィルムの導電率および柔軟性についての測定結果を第1表に示す。
【0062】
実施例5
第1表に示すモノマーを用いて実施例1と同様の触媒および操作により共重合を行った。得られたポリエーテル共重合体1g、および無水マレイン酸150mgをアセトニトリル10mlに溶解し、モル比(可溶性電解質塩化合物のモル数)/(共重合体のエーテルの酸素原子の総モル数)が0.05となるように過塩素酸リチウムのテトラヒドロフラン溶液を混合した。この混合液をポリテトラフルオロエチレン製モールド上にキャストして乾燥した後、150℃、20Kgw/cm2で1時間加熱、加圧し、フィルムを得た。本フィルムの導電率および柔軟性についての測定結果を第1表に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
比較例1〜4
実施例1と同様の方法で、第2表に示すポリエーテル共重合体を得た。
比較例1および2は、架橋剤を無添加にした以外は実施例1と同様の方法でフィルムの成形を行った。比較例3は実施例1と同様の方法でフィルム成形を行った。比較例4は実施例4と同様の方法でフィルム成形を行った。得られた結果を第2表に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
本発明のポリエーテル共重合体から得られる架橋高分子固体電解質のイオン導電性および機械的特性が優れていることは比較例と対比して明らかである。
【0067】
実施例6
1)正極の作製
LiCoO2粉末10g、グラファイト(KS-15)7.5g、実施例1によって得られた共重合体7.5g、ジクミルパーオキサイド0.025g、LiBF40.65g、アセトニトリル50mlをディスパーを用いて攪拌下で混合してペーストを造った。このペーストをアルミ箔上に塗布後乾燥を行い、アルミ箔上に正極物質を付着させた。次いで窒素置換した温度150℃の乾燥機内で3時間加熱することによって架橋させた。
【0068】
2)電池の組立
Li箔(直径16mm、厚さ80μm)に実施例1または2で作製した高分子固体電解質膜、さらに上記正極を張り合わせて電池を組立てた。これらの作業は全て乾燥アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
3)充放電試験
温度50℃、電流密度0.1mA2/cmで4.2Vまで充電し、3.0Vまで放電を行った。実施例1および2の電解質膜の両方で活物質であるLiCoO21g当たり130mAhの放電容量を得た。
【0069】
【発明の効果】
本発明の架橋高分子固体電解質は、加工性、成形性、機械的強度、柔軟性や耐熱性などに優れており、かつそのイオン伝導性は著しく改善されている。したがって固体電池をはじめ、大容量コンデンサー、表示素子、例えばエレクトロクロミックディスプレイなど電子機器への応用、およびプラスチックの帯電防止剤としての応用が期待される。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-12-08 
出願番号 特願平10-75409
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 佐藤 健史
佐野 整博
登録日 2002-04-26 
登録番号 特許第3301378号(P3301378)
権利者 ダイソー株式会社
発明の名称 ポリエーテル共重合体および架橋高分子固体電解質  
代理人 柴田 康夫  
代理人 内田 幸男  
代理人 柴田 康夫  
代理人 青山 葆  
代理人 青山 葆  

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