• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  F16H
審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  F16H
管理番号 1093989
審判番号 不服2001-14986  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-23 
確定日 2004-04-06 
事件の表示 平成 6年特許願第274825号「デファレンシャル装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 5月31日出願公開、特開平 8-135770、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成6年11月9日の出願であって、平成12年6月1日付けの拒絶理由通知を受けた後、最後に受けた平成13年3月30日付け拒絶理由通知に対して平成13年6月8日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたところ、平成13年7月4日付けで、平成13年6月8日付けの手続補正は却下すべきものであるとの決定がなされるとともに、補正前の請求項1〜4に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとして同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成13年8月23日に審判請求がなされたものである。
そして、請求人は、請求の理由において前記平成13年6月8日付けの手続補正は却下されるべきではない旨を主張している。

II.補正却下の決定について
1.補正却下の決定の理由の概要
平成13年7月4日付けでなされた補正却下の決定の理由の概要は、補正後の請求項1に係る発明は、平成13年3月30日付けで通知された拒絶理由に引用された下記の刊行物(A)〜(D)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから、特許法第17条の2第4項で読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであるというものである。
[引用刊行物]
刊行物(A):国際公開第94/7054号パンフレット
刊行物(B):特開平6-207646号公報
刊行物(C):特開昭63-76938号公報
刊行物(D):実願平5-12824号(実開平6-71954号)のC D-ROM

2.補正後の本願発明
上記平成13年6月8日付け手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 エンジンの駆動力を受けて回転するデフケースと、該デフケース内に回転自在に配置された一対のヘリカルサイドギヤと、該サイドギヤ外周に沿ってデフケースに複数対設けられケースの回転軸に平行に延びる対の収納孔と、該収納孔にそれぞれ摺動回転自在に収納され、前記サイドギヤとそれぞれ別に噛み合うと共に、前記サイドギヤよりもデフケースの軸方向外側で互いに噛み合う対のヘリカルピニオンギヤとからなるデファレンシャル装置において、前記ピニオンギヤの軸方向端面と対向する前記デフケースの側壁に、前記ピニオンギヤと前記対の収納孔の内壁との間で形成される空間と前記デフケース外部とを連通する孔を少なくとも前記ヘリカルピニオンギヤ同士の端面側の噛合い部が対向して位置するように設けたことを特徴とするデファレンシャル装置。」
と補正された。なお、下線は請求人が補正箇所表示のために付したものである。
上記補正は、請求項1に記載した発明における「ピニオンギヤと前記対の収納孔の内壁との間で形成される空間と前記デフケース外部とを連通する孔」について、「対向して位置する」との限定を付加するものであり、特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、上記補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

3.刊行物に記載された発明
上記刊行物(A)〜(D)には以下の技術的事項が記載されている。

刊行物(A):
なお、翻訳文については、特表平8-501380号公報の記載を参照されたい。
(A-イ)「ハウジング12内に設けられた遊星歯車機構は、四対の遊星歯車30,32によって結合された一対のサイドギヤ26,28を含む。サイドギヤ26,28は、出力軸と共に共通軸18を中心として回転するように二つの出力軸20,22の内側の端部にスプライン結合されている。遊星歯車30,32は、ハウジング12内に対をなして形成された円筒状のポケット34,36にそれぞれ収容されており、ポケットの各対はサイドギヤ26,28の周りに等間隔をもって配置されている。図示された遊星歯車30,32の各々は、サイドギヤ26,28の一方と噛み合う一つの歯車部と、対をなす遊星歯車と噛み合う二つの歯車部を含む。」(第8頁第3〜14行、翻訳文の第12頁下から第4行〜第13頁第5行参照))

(A-ロ)FIG.1の記載によれば、遊星歯車30,32の軸方向端面と対向するハウジング12の側壁に、ハウジング12内と外部とを連通する孔が設けられることが看取できる。

刊行物(B):
(B-イ)「遊星歯車列がハウジング部10の中に組み付けられている。すなわち、サイドギヤ30,32が、共通軸35の周りに回転する駆動軸26,28の内側の端部にスプライン結合されている。エレメントギヤ34は、サイドギヤの周囲に等間隔をもって形成された複数対のポケット36にそれぞれ組み付けられている。各エレメントギヤ34は、共通軸35と平行な軸の周りに回転可能に配置されており、サイドギヤの一方と噛み合う第一歯車部38、対をなすエレメントギヤの第一歯車部38と噛み合う第二歯車部40、および二つの歯車部38,40を互いに結合する胴部42を有している。」(段落【0009】)

(B-ロ)「複数の小通路44,46がハウジング部10を貫通して形成されており、小通路は、ハウジングの外面とポケット36との間に潤滑油を流すための通路を提供する。小通路44,46は、エレメントギヤ34の噛み合い歯車部38,40に近接して配置されている。」(段落【0010】)

(B-ハ)「ポケットの開口部におけるこの増大した空間は、エレメントギヤの回転する歯によって移動させられる潤滑油の量を増大させるとともに、ポケットの内部とエレメントギヤの表面との間の潤滑油の圧力を減少させる。そしてそれにより、小通路44からの潤滑油の流れを増大させるとともに、エレメントギヤの潤滑を容易にする。」(段落【0013】参照)

刊行物(C):
(C-イ)「第1図に示すように関連した前記米国特許出願S/N689,929号に示す先行技術発明の差動装置は本体セクション2aをもつ組合せ型ハウジング2を有する。この本体セクションの一端にはボルト4によって案内取付けされるカバーセクション2bを着脱自在に結合する。前記本体セクションの一端は縦方向の中心穴6、複数の周方向で離間して対をなす縦方向のピニオン空洞8と10をもつ。これらの空洞は相互に連通すると共に中心穴6とも連通する。中心穴6によって画成されるチャンバの各端に一対の側部はすば歯車12,14を配置し、これらの歯車の互に離れた方の端にある軸方向のハブ延長部12aと14aは夫々前記本体セクションとカバーセクションの対応する穴に軸支される。本体セクションとカバーセクションはハウジングの縦軸線上に整列したシャフト出口開口2cと2bをもち、これらの開口は側部歯車12,14を夫々くさび止めした一対の整列した軸方向に離間した出力シャフト16,18の隣接端を受入れる。」(第3頁右下欄第16行〜第4頁左上欄第15行)

(C-ロ)「各対のピニオン空洞8と10内に遊合する外径をもつと共に、縦方向に離間して夫々配置されているのははすばピニオン24,26である。これらのピニオンは右巻きと左巻きの螺旋角を夫々もち、互に隣接した端で噛合い、互に離れた方の端では両ピニオンは夫々対応した左巻きと右巻きの螺旋角をもった側部はすば歯車12,14と噛合う。」(第4頁右上欄第6〜13行)

(C-ハ)「ハウジング本体セクション2aの他端に環状の外部ハウジング部分2eを備え、この部分に環状歯車37をボルト38によって結合し、この環状歯車を駆動ピニオン42を介して駆動シャフト40によって駆動し、ハウジングを縦軸線のまわりに回転させる。」(第4頁右下欄第4〜9行)

(C-ニ)「普通の潤滑油膜を作るのに適した潤滑オイルは第1図に示すオイルポート50及び本体のフランジ端にある同様のオイルポート(図示せず)からピニオンと歯車空洞内へ入る。普通は作動ハウジング内にある潤滑オイルはこれらのポートを通ってハウジング内に入る。」(第5頁左上欄第16行〜右上欄第1行)

(C-ホ)第1図の記載によれば、オイルポート50は、ピニオン24,26の軸方向端面と対向する前記ハウジング2の側壁に、ピニオン24とはすば歯車14の噛み合い部に対向して設けられることが看取できる。

上記記載事項並びに明細書及び図面の記載からみて、刊行物(C)には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
回転するハウジング2と、該ハウジング2内に回転自在に配置された一対のはすば歯車12,14と、該はすば歯車12,14外周に沿ってハウジング2内に複数対設けられハウジング2の回転軸に平行に延びる対のピニオン空洞8,10と、該ピニオン空洞8,10にそれぞれ摺動回転自在に収納され、前記はすば歯車12,14とそれぞれ別に噛み合うと共に、前記はすば歯車12,14よりもハウジング2の軸方向外側で互いに噛み合う対のピニオン24,26とからなる差動装置において、前記ピニオン24,26の軸方向端面と対向する前記ハウジング2の側壁に、ピニオンと歯車空洞内に潤滑油を導入するオイルポート50が、ピニオン24とはすば歯車14の噛み合い部に対向して設けられる差動装置。

刊行物(D):
(D-イ)「デフケース21には開口65,67,69が設けられており、上記のように、リングギヤ25の回転によりデフケース21に撥ね掛けられたオイルはこれらの開口65,67,69からデフケース21に流入し、収納孔とピニオンギヤ間の摺動部や各ギヤの噛合い部あるいは油溝71,73を介して軸支部35,37などを潤滑し、更に隙間57を通って鋼球55に供結されディンプル63に保持される。」(段落【0016】)

4.対比・判断
本願補正発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「ハウジング2」は本願補正発明1における「デフケース」に相当し、以下同様に、「はすば歯車12,14」は「ヘリカルサイドギヤ」に、「ピニオン空洞8,10」は「収納孔」に、「ピニオン24,26」は「ヘリカルピニオンギヤ」に、「差動装置」は「デファレンシャル装置」に、「オイルポート50」は「孔」に、それぞれ相当する。そして、引用発明において、ハウジング2はエンジンの駆動力を受けて回転することは明らかであるとともに、引用発明におけるピニオンと歯車空洞内に潤滑油を導入するオイルポート50は、ピニオンギヤと前記対の収納孔の内壁との間で形成される空間とデフケース外部とを連通する孔ということができる。
したがって、両者の一致点と相違点は次のとおりである。
[一致点1]エンジンの駆動力を受けて回転するデフケースと、該デフケース内に回転自在に配置された一対のヘリカルサイドギヤと、該サイドギヤ外周に沿ってデフケースに複数対設けられケースの回転軸に平行に延びる対の収納孔と、該収納孔にそれぞれ摺動回転自在に収納され、前記サイドギヤとそれぞれ別に噛み合うと共に、前記サイドギヤよりもデフケースの軸方向外側で互いに噛み合う対のヘリカルピニオンギヤとからなるデファレンシャル装置において、前記ピニオンギヤの軸方向端面と対向する前記デフケースの側壁に、前記ピニオンギヤと前記対の収納孔の内壁との間で形成される空間と前記デフケース外部とを連通する孔を設けたデファレンシャル装置。
[相違点1]
上記「孔」に関し、本願補正発明1では「少なくとも前記ヘリカルピニオンギヤ同士の端面側の噛合い部が対向して位置するように設けた」のに対して、引用発明ではピニオン24とはすば歯車14の噛み合い部に対向して設けられる点。

そこで上記相違点1について検討する。
刊行物(A)には、遊星歯車30,32の軸方向端面と対向するハウジング12の側壁に、ハウジング12内と外部とを連通する孔を設けることが記載されている(上記摘記事項(A-ロ)参照)。当該孔は潤滑油を導入するためのものと認められるものの、遊星歯車30,32(ピニオンギヤ)をどのように潤滑するかについては何ら記載されていない。
また、刊行物(B)には、ポケット(収容孔)に潤滑油を供給する小通路44をエレメントギヤ34(ピニオンギヤ)の噛み合い歯車部に近接して配置させることが記載されているが(上記摘記事項(B-ロ)、(B-ハ)及び図2,3を参照)、小通路44が設けられるのは、エレメントギヤ34の軸方向側面と対向するハウジング部分であって、ピニオンギヤの軸方向端面側から噛合い部に潤滑油を供給しようとする本願補正発明1とは、技術的思想が異なる。
さらに、刊行物(D)には「デフケース21には開口65,67,69が設けられており、上記のように、リングギヤ25の回転によりデフケース21に撥ね掛けられたオイルはこれらの開口65,67,69からデフケース21に流入し、収納孔とピニオンギヤ間の摺動部や各ギヤの噛合い部あるいは油溝71,73を介して軸支部35,37などを潤滑し」と記載されており(上記摘記事項(D-イ)参照)、刊行物(D)に記載された発明も、開口65,69を介して各ギヤの噛合い部を潤滑するものであると認められる。しかしながら、刊行物(D)には、開口65,69をデフケース21の側壁のどの位置に設けるかについて何ら記載されておらず、前記開口をピニオンギヤ同士の端面側の噛合い部が対向して位置するよう設けることが記載又は示唆されているとすることはできない。
ところで、歯車等への潤滑効率を向上させるために潤滑油供給孔を適宜の位置に設けること自体は周知の事項と認められるが、本願補正発明1のように、デフケース21の側壁に設ける孔をピニオンギヤ同士の端面側の噛合い部が対向して位置するように設けることまで当業者に知られた事項であったとすることはできない。

してみると、刊行物(A)〜(D)には、上記相違点1に係る本願補正発明1の構成が記載されておらず、示唆する記載も見出すことができない。
そして、本願補正発明1は上記相違点1に係る構成を具備することにより、「このとき、カバー7およびケース本体5に設けられた上記油孔31,33からは、油孔31から油孔33への遠心ポンプ作用やヘリカルギヤの自転により潤滑油を引き込もうとするスクリューポンピング作用も加わって十分な潤滑油がデフケース3内のピニオンギヤ27,29の噛合い部や端面の摺動部に導入される。」(本願明細書段落【0016】参照)という明細書に記載された格別の作用効果を奏すると認められる。
したがって、本願補正発明1は、刊行物(A)〜(D)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
よって、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないとすることはできない。

5.むすび
以上のとおり、上記補正は、特許法第17条の2第4項で読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するとすることはできないから、上記補正が特許法第53条第1項の規定により却下すべきものとした上記決定は妥当ではない。
よって、上記補正却下の決定を取り消す。

III.本願発明について
1.本願発明
平成13年7月4日付けでなされた補正却下の決定は、上記のとおり取り消されたので、本願の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明4」という。)は、平成12年7月31日付け及び平成13年6月8日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものと認められる。
【請求項1】 エンジンの駆動力を受けて回転するデフケースと、該デフケース内に回転自在に配置された一対のヘリカルサイドギヤと、該サイドギヤ外周に沿ってデフケースに複数対設けられケースの回転軸に平行に延びる対の収納孔と、該収納孔にそれぞれ摺動回転自在に収納され、前記サイドギヤとそれぞれ別に噛み合うと共に、前記サイドギヤよりもデフケースの軸方向外側で互いに噛み合う対のヘリカルピニオンギヤとからなるデファレンシャル装置において、前記ピニオンギヤの軸方向端面と対向する前記デフケースの側壁に、前記ピニオンギヤと前記対の収納孔の内壁との間で形成される空間と前記デフケース外部とを連通する孔を少なくとも前記ヘリカルピニオンギヤ同士の端面側の噛合い部が対向して位置するように設けたことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項2】 エンジンの駆動力を受けて回転するデフケースと、該デフケース内に回転自在に配置された一対のヘリカルサイドギヤと、該サイドギヤ外周に沿ってデフケースに複数対設けられケースの回転軸に平行に延びる対の収納孔と、該収納孔にそれぞれ摺動回転自在に収納され、前記サイドギヤとそれぞれ別に噛合うと共に、前記サイドギヤよりもデフケースの軸方向外側で互いに噛合う対のヘリカルピニオンギヤとからなるデファレンシャル装置において、前記ピニオンギヤの軸方向端面と対向する前記デフケースの側壁に、前記対の収納孔とそれぞれ連通すると共に、前記ピニオンギヤ同士の噛合い部を中心位置とする孔を設け、対の収納孔にそれぞれ収納されたピニオンギヤ同士の噛合部と前記デフケース外部とを連通させたことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項3】 請求項1又は請求項2記載のデファレンシャル装置であって、前記孔が、前記デフケースの回転方向に対して対称位置に複数個形成されていることを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項4】 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のデファレンシャル装置でって、前記デフケースの外径側に、前記孔からデフケース内に導入された潤滑油がデフケースの外部へ排出される孔を有していることを特徴とするデファレンシャル装置。

2.引用刊行物
原査定の拒絶理由に引用された刊行物(A)〜(D)、及び、刊行物(A)〜(D)に記載された技術的事項は、上記「II.1」及び「II.3」に記載したとおりである。

3.対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1については、上記本願補正発明1と同じであるので、上記「II.4」に記載したとおり、刊行物(A)〜(D)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本願発明2について
本願発明2と引用発明とを対比すると、引用発明における「ハウジング2」は本願発明2における「デフケース」に相当し、以下同様に、「はすば歯車12,14」は「ヘリカルサイドギヤ」に、「ピニオン空洞8,10」は「収納孔」に、「ピニオン24,26」は「ヘリカルピニオンギヤ」に、「差動装置」は「デファレンシャル装置」に、「オイルポート50」は「孔」に、それぞれ相当する。そして、引用発明において、ハウジング2はエンジンの駆動力を受けて回転することは明らかであるとともに、引用発明におけるピニオンと歯車空洞内に潤滑油を導入するオイルポート50は、対の収納孔とそれぞれ連通すると共に、対の収納孔にそれぞれ収納されたピニオンギヤ同士の噛合部と前記デフケース外部とを連通させた孔ということができる。
したがって、両者の一致点と相違点は次のとおりである。
[一致点2]エンジンの駆動力を受けて回転するデフケースと、該デフケース内に回転自在に配置された一対のヘリカルサイドギヤと、該サイドギヤ外周に沿ってデフケースに複数対設けられケースの回転軸に平行に延びる対の収納孔と、該収納孔にそれぞれ摺動回転自在に収納され、前記サイドギヤとそれぞれ別に噛み合うと共に、前記サイドギヤよりもデフケースの軸方向外側で互いに噛み合う対のヘリカルピニオンギヤとからなるデファレンシャル装置において、前記ピニオンギヤの軸方向端面と対向する前記デフケースの側壁に、前記対の収納孔とそれぞれ連通すると共に、対の収納孔にそれぞれ収納されたピニオンギヤ同士の噛合部と前記デフケース外部とを連通させた孔を設けたデファレンシャル装置。
[相違点2]
上記「孔」に関し、本願発明2では「前記ピニオンギヤ同士の噛合い部を中心位置とする」のに対して、引用発明ではピニオン24とはすば歯車14の噛み合い部に対向して設けられる点。

そこで上記相違点2について検討する。
上記のとおり、刊行物(A)には、ハウジング12の側壁に設けられる孔が遊星歯車30,32(ピニオンギヤ)をどのように潤滑するかについては何ら記載されておらず、また、刊行物(B)に記載された小通路44は、エレメントギヤ34の軸方向側面と対向するハウジング部分に設けられており、ピニオンギヤの軸方向端面側から噛合い部に潤滑油を供給しようとする本願発明2とは、技術的思想が異なる。
さらに、刊行物(D)には、開口65,69をデフケース21の側壁のどの位置に設けるかについて何ら記載されておらず、前記開口をピニオンギヤ同士の噛合い部を中心位置とするように設けることが記載又は示唆されているとすることはできない。
また、上述のとおり、歯車等への潤滑効率を向上させるために潤滑油供給孔を適宜の位置に設けること自体は周知の事項と認められるが、本願発明2のように、デフケース21の側壁に設ける孔をピニオンギヤ同士の噛合い部を中心位置とするように設けることまで当業者に知られた事項であったとすることはできない。

してみると、刊行物(A)〜(D)には、上記相違点2に係る本願発明2の構成が記載されておらず、示唆する記載も見出すことができない。
そして、本願発明2は上記相違点2に係る構成を具備することにより、上記明細書に記載された格別の作用効果を奏すると認められる。
したがって、本願発明2は、刊行物(A)〜(D)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)本願発明3及び4について
本願発明3及び4は、本願発明1又は2を引用する発明であって、本願発明1又は2における構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当するものである。そして、本願発明1又は2が、上記(1)又は(2)に示したとおり、刊行物(A)〜(D)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、同様の理由により、本願発明3及び4は、刊行物(A)〜(D)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1〜4に係る発明は、刊行物(A)〜(D)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2004-03-24 
出願番号 特願平6-274825
審決分類 P 1 8・ 121- WYA (F16H)
P 1 8・ 575- WYA (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田々井 正吾  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 窪田 治彦
常盤 務
発明の名称 デファレンシャル装置  
代理人 三好 秀和  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ