ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
---|---|
管理番号 | 1094582 |
異議申立番号 | 異議2003-71813 |
総通号数 | 53 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2003-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-07-18 |
確定日 | 2004-01-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3368898号「分岐鎖アミノ酸含有顆粒の製造方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3368898号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第3368898号の請求項1〜9に係る発明についての出願は、平成14年1月24日に特許出願され、平成14年11月15日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、異議申立人青木美和により特許異議申し立てがなされ、取消しの理由が通知され、その意見書提出指定期間内である平成15年12月8日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 2-1 訂正の内容 特許権者の求めている訂正の内容は以下のとおりである。 (i)訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1〜6を次のとおりに訂正する。 【特許請求の範囲】 【請求項1】 イソロイシン/ロイシン/バリンの質量比が1/1.9〜 2.2/1.1〜1.3であるイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の粒子混合物に酸を添加して攪拌造粒して顆粒を製造することを特徴とするイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項2】 前記酸が、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、炭酸、リン酸及び塩酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項3】 前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が10〜1000μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする請求項1又は2に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項4】 前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が100μm〜800μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする請求項1又は2に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項5】 前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が150μm〜500μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする請求項1又は2に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項6】 前記攪拌造粒によって製造された顆粒の比容積が1.93 〜1.59mL/gであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 (ii)訂正事項2:明細書の段落番号【0007】を次のとおりに訂正する。 【0007】 (1)イソロイシン/ロイシン/バリンの質量比が1/1.9〜2.2/1.1〜1.3であるイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の粒子混合物に酸を添加して攪拌造粒して顆粒を製造することを特徴とするイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 (iii)訂正事項3:明細書の段落番号【0008】を次のとおりに訂正する。 【0008】 (2)前記酸が、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、炭酸、リン酸及び塩酸から選ばれる少なくとも1種である(1)項記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 (iv)訂正事項4:明細書の段落番号【0009】を次のとおりに訂正する。 【0009】 (3)前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が10〜1000μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする(1)又は(2)項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 (v)訂正事項5:明細書の段落番号【0010】を次のとおりに訂正する。 【0010】 (4)前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が100μm〜800μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする(1)又は(2)項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 (vi)訂正事項6:明細書の段落番号【0011】を次のとおりに訂正する。 【0011】 (5)前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が150μm〜500μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする(1)又は(2)項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 (vii)訂正事項7:明細書の段落番号【0012】を次のとおりに訂正する。 【0012】 (6)前記攪拌造粒によって製造された顆粒の比容積が1.93〜1.59 mL/gであることを特徴とする(1)〜(5)項のいずれか1項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用頬粒の製造方法。 (viii)訂正事項8:明細書の段落番号【0014】の記載を削除する。 (ix)訂正事項9:明細書の段落番号【0015】の記載を削除する。 (x)訂正事項10:明細書の段落番号【0017】の記載を削除する。 (xi)訂正事項11:明細書の段落番号【0018】の記載を削除する。 (xii)訂正事項12:明細書の段落番号【0029】の記載を削除する。 (xiii)訂正事項13:明細書の段落番号【0030】の記載を削除する。 2-2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の 拡張変更の存否 (i) 訂正事項1について 「イソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の粒子混合物」を「イソロイシン/ロイシン/バリンの質量比が1/1.9〜2.2/1.1〜1.3であるイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の粒子混合物」に、「イソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸を有効成分とする顆粒」を「イソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒」に、「造粒」を「攪拌造粒」に各々限定する訂正、及び請求項7、8、9を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮にあたる。そして、【発明の属する技術分野】に「本発明は、有効成分であるアミノ酸成分としてイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸を含有する、医薬用顆粒とその製造方法に関する。」と記載され、段落番号【0028】に前記3種の分岐鎖アミノ酸を含有する顆粒は医薬用顆粒製剤であることが記載されていること、訂正前の請求項7及び【0014】【0024】に上記の質量比の記載があり、各実施例に記載されている方法が全て上記比率の範囲内で3種の分岐鎖アミノ酸混合物を原料として顆粒を攪拌造粒機を使用して製造する方法であることからみて、上記訂正は願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (ii)訂正事項2〜13について 訂正事項2〜13の訂正は、訂正事項1による特許請求の範囲を減縮する訂正に伴って,明細書中の記載を訂正後の本件各発明の内容と整合させるものであって、明瞭でない記載の釈明にあたる。そして、これらは願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項1〜13の訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立てについて 3-1 申立ての理由の概要 特許異議申立人は、以下の理由により本件訂正前の請求項1〜9に係る特許は特許法113条第2号の規定によって取り消されるべきであると主張している。 ア、請求項1〜2の発明は、甲第1〜4号証に記載された発明であるか、甲第1〜4号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項3号に該当するか又は同条第2項の規定に違反する。 イ、請求項3〜5の発明は、甲第1〜4号証及び甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。 ウ、請求項6の発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1〜4号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項3号に該当するか又は同条第2項の規定に違反する。 エ、請求項7の発明は、甲第1〜4号証及び甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。 オ、請求項8の発明は、甲第1〜4号証に記載された発明であるか、甲第1〜5号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項3号に該当するか又は同条第2項の規定に違反する。 カ、請求項9の発明は、甲第1〜4号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。 3-2 本件発明 訂正請求が認容された結果、本件特許の請求項1〜6に係る発明は、平成15年12月8日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6(上記訂正事項1参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。 3-3 甲各号証の記載の概要 甲第1号証;特公平7-73480号公報 「アミノ酸をベースとする栄養ペレット」に関する発明につき以下の記載がなされている。 a.「重量比2:2:1の治療上有効量の3種の必須分岐鎖アミノ酸ロイシン、バリン及びイソロイシンの混合物とこのアミノ酸混合物の重量に基づいて約0.1〜30%の医薬上許容可能な結合剤との圧縮混合物と、前記アミノ酸混合物の重量の0.1〜4倍の量の医薬上許容可能な補助剤又は賦形剤とからなる有益コアを含有し、平均直径0.5〜8.0mm及び見掛け密度約0.5〜0.7g/mlを有する栄養ペレット。」(特許請求の範囲 請求項1) b.「前記コアが、重量部での下記組成:ロイシン1000、バリン1000、イソロイシン500、グルコース5000、フルクトース5000、ラクトアルブミン2000、界面活性剤100、クエン酸300及びオレンジ香料100を有する特許請求の範囲第1項に記載の栄養ペレット。」(請求項4、実施例7) c.「本発明は現在のL-α-アミノ酸混合物経口処方剤に関する制限をすべて解除することを目的とするものである。実際、粉末あるいはペースト(水分量が乾燥分あたり1〜50重量%)の形態のどちらにせよ極めて不安定な成分の均質混合物例えばL-α-アミノ酸混合物を特殊な操作条件下で押出すと、各成分の化学的性質および薬理学的性質を何ら変更することなく押出すことができることを知見した。押出し処理して得られた顆粒もしくはべレットは任意の大きさを有する一定の形状を有し、気孔率は低くかつ密度は高い。」(第3頁5欄36行〜46行) d.「前記したように顆粒の大きさは種々であるが、何れにおいても一般に従来の錠剤やトローチの大きさよりも小さい。直径約0.5〜約8mm、好ましくは約2mmの小さな円筒状のものが好ましい。小円筒物(small cylinder)の高さは1〜数mmの範囲で任意であるが、好ましくは約2mmである。円筒状顆粒は、粉末或いはペースト形態のα-アミノ酸混合物を水とともに5〜200kg/cm2の圧力下でダイを通して押出して得られる。」(第3頁6欄46行〜第4頁7欄3行) 甲第2号証;特開平7-25838号公報 「疲労の予防または回復のための経口投与剤」の発明につき以下の事項が記載されている。 「バリン、ロイシンおよびイソロイシンのL-体を有効成分として含有し、その苦味を矯正するためにこれらのアミノ酸、トリプトファンおよびスレオニンのD-体の1種以上が添加されていることを特徴とする疲労の予防または回復のための経口投与剤。」(請求項1) 「苦味を矯正するためにさらに電解質、酸、甘味料、天然果汁、アラニンおよびグリシンの1種以上が補助的に添加されていることを特徴とする請求項1記載の疲労の予防または回復のための経口投与剤。」(請求項2) 「・・使用割合には特別の制限はなく、・・・例えば、重量比でL-イソロイシン1に対してL-バリン0.2〜2およびL-ロイシン0.5〜5とすることができる。」段落【0009】 「・・・D-スレオニンを全く使用せずにこのような補助的苦味矯正剤だけで分岐鎖L-アミノ酸の苦味を矯正しようとしても、効果的に苦味をうまくマスキングすることができないのである。」段落【0012】 「補助的苦味矯正剤としては、・・電解質、酸、甘味料、天然果汁、アラニンおよびグリシンがある。・・・酸としては、クエン酸、グルコン酸・・・などの食用に適する酸を挙げることができ、そして甘味料としては、・・・挙げることができる。」段落【0014】 段落【0017】に、該経口投与剤は「顆粒」の形状のものとすることができる旨の記載がある。 甲第3号証;特開平8-198748号公報 「アミノ酸栄養組成物」の発明について、イソロイシン6.0〜20.0、ロイシン8.0〜25.0、バリン6.0〜19.0(モル組成比 %)とそれ以外のアミノ酸(アルギニン、リジン、スレオニン、ヒスチジン、プロリンなど)成分を含有するアミノ酸栄養組成物が特許請求の範囲に記載されており、 段落【0028】には、「アミノ酸栄養組成物は、摂食者に、違和感を与えることなく容易に受容され得る形状であれば特に限定はない。例えば、顆粒状または粉末状、ビスケット状、ウエハース状あるいはタブレット状などの形状に形態に成形する。」との記載がある。 また、段落【0025】及び段落【0026】には、アミノ酸栄養組成物を調製する際に、必要なアミノ酸以外の成分を添加できること、添加成分としては「(チ)酸味料、例えはクエン酸無水物、…(ヌ)本発明の栄養組成物を構成するアミノ酸以外のアミノ酸、例えばグリシン、L-アラニンなどが挙げられる。」との記載がある。 甲第4号証;特公平3‐22366号公報 「肝臓病患者用栄養組成物」の発明に関し、イソロイシン13.25〜16.19、ロイシン16.25〜19.87、バリン13.86〜16.94モル%及びその他アミノ酸(リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンなど)を必須成分として含有する栄養組成物が記載されている。実施例1には、上記3種分岐鎖アミノ酸や無水クエン酸を粉体混合した組成物の記載がある。 甲第5号証;特開昭2001-258509号公報 「錠剤及びその製造方法」の発明につき、イソロイシン8、ロイシン20、バリン12(質量部)で含み、流動層造粒あるいは攪拌造粒して得られる顆粒を打錠することが記載されている。(実施例) 甲第6号証;医薬品インタビューフォーム 分岐鎖アミノ酸製剤 リーバクト顆粒 LIVACT 1996年7月改訂(改訂2版) 「本剤は、分岐鎖アミノ酸3種のみを有効成分とする顆粒剤である。その配合比率は、Ile:Leu:Val=1.0:2.0:1.2である。」 3-4 対比、判断 甲第1号証に記載の栄養ペレットの製造方法と、請求項1に記載の医薬用顆粒の製造方法とを対比すると、両者は「イソロイシン、ロイシンおよびバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の粒子混合物に酸を添加して造粒して医薬用顆粒を製造するものであって、イソロイシン、ロイシン及びバリンのみの3種の分岐鎖アミノ酸を有効成分とする顆粒の製造方法」である点で一致するが、請求項1に係る発明ではイソロイシン/ロイシン/バリンの質量比が1/1.9〜2.2/1.1〜1.3であるのに対し、甲第1号証では1:2:2である点、請求項1の発明では攪拌造粒で顆粒を製造するのに対し、甲第1号証では押出し造粒を採用している点で相違している。 上記の分岐鎖アミノ酸の質量比については、本件出願前に既に市販の分岐鎖アミノ酸製剤「リーバクト顆粒」(甲第6号証)で1.0/2.0/1.2が採用されており、この質量比を採用した点に格別な創意は見いだせないものの、甲第1号証の発明における顆粒の高密度、コンパクト化は摘記事項cの記載からみて特殊な操作条件による押出し造粒によりもたらされると解されるから、これを攪拌造粒に置換する動機付けは見あたらない。 また、甲第5号証には、打錠性に優れ且つ服用しやすい分岐鎖アミノ酸錠剤を製造するために、アミノ酸に賦形剤としてラクチトール(二糖類アルコール)を添加して流動層造粒あるいは攪拌造粒し、次いで錠剤化することの記載があるが、アミノ酸粒子混合物に酸を添加する点、そのことにより容量の改善がもたらされる点についての記載や示唆はない。 さらに、甲第2号証には、イソロイシン、ロイシン、バリンのL-体を含む医薬に苦味の矯正のために特定アミノ酸のD-体および補助的苦味矯正剤(酸など)を使用すること、これを顆粒の形にできることが記載されているが攪拌造粒により製造する点の記載はなく、補助的苦味矯正剤だけでは効果的に苦味をマスキングすることができないこと(段落【0011】)、顆粒の場合は水、果物のジュースなどに溶解し、溶液にして服用する(段落【0017】)とされており、3種の分岐鎖アミノ酸製剤の顆粒の低容量化についてはなんら触れるところはない。 甲第3号証のアミノ酸栄養組成物、甲第4号証の肝臓病患者栄養組成物は添加成分の例として酸が挙げられ、これを顆粒(甲第3号証)、粉体混合物(甲第4号証)にすることの記載はなされているが、いずれもイソロイシン、ロイシン、バリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とするものではない上、一回服用量の低容量化や顆粒の製法についての言及もされていない。 そうすると、3種の分岐鎖アミノ酸製剤の服用時の負担軽減のために、顆粒の高密度化、コンパクト化を行うことは、当業界における公知の課題であるとはいえ、そのための具体的な手段としては特殊な操作条件下での押出し造粒(甲第1号証)や、賦形剤としてラクチトールを採用した攪拌造粒(甲第5号証)が知られているに留まり、酸を添加して攪拌造粒する手法については甲第1〜6号証を総合してみても、これを当業者が容易に想起し得たとすることはできない。そして、本件請求項1の発明は従来矯正剤として知られていたが3種の分岐鎖アミノ酸の苦味のマスキングとしては効果的ではないとされる「酸」を添加することにより3種の分岐鎖アミノ酸の溶解を生起し比容積の小さい(高密度と同義)顆粒を得るという、当業者の予測を越える効果を奏したものである。 したがって、請求項1に係る発明は甲第1〜4号証に記載された発明ではなく、また、甲第1〜6号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものともいえない。 また、請求項2〜6項に係る発明はいずれも請求項1を引用するものであるから同様の理由により、甲第1〜4号証に記載された発明ではなく、甲第1〜6号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものともいえない 4、むすび 以上のとおりであるから、請求項1〜6に係る発明の特許は、特許異議申し立ての理由及び証拠によっては取り消すことができない。 また、他に請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 分岐鎖アミノ酸含有顆粒の製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 イソロイシン/ロイシン/バリンの質量比が1/1.9〜2.2/1.1〜1.3であるイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の粒子混合物に酸を添加して攪拌造粒して顆粒を製造することを特徴とするイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項2】 前記酸が、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、炭酸、リン酸及び塩酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項3】 前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が10〜1000μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする請求項1又は2に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項4】 前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が100μm〜800μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする請求項1又は2に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項5】 前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が150μm〜500μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする請求項1又は2に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【請求項6】 前記攪拌造粒によって製造された顆粒の比容積が1.93〜1.59mL/gであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、有効成分であるアミノ酸成分としてイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸を含有する、医薬用顆粒とその製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 イソロイシン、ロイシン及びバリンからなる3種の分岐鎖アミノ酸を有効成分として含む医薬用製剤は肝疾患に有効な治療薬である。この3種の分岐鎖アミノ酸は強い苦味と特有のアミノ酸臭があることと、1回の服用量が多いことから、製剤化に当たっては、苦味や臭いの低減や、1回服用量の低容量化等が課題となっている。 【0003】 特に、該3種の分岐鎖アミノ酸の粒子を含有する固形製剤の場合、1回服用量当たりの該3種の分岐鎖アミノ酸の含量均一性が求められるために、通常の固体製剤の場合に行われる方法と同じように原料アミノ酸粒子の粒度を小さくして対処しようとすると、1回服用量当たりの容積が大きくなり、服用時に口中で嵩張って嚥下しにくくなるという難点がある。 【0004】 例えば、顆粒剤の場合、一般的には、含量均一性確保、溶解性向上等の要求を満たすために有効成分を50μm以下に粉砕して使用されることが多いが、そのようにして製造された顆粒は、造粒方法の種類や造粒条件等により若干の差違はあるものの、通常、その比容積が2.0mL/gあるいはそれ以上となってしまう。前記3種の分岐鎖アミノ酸粒子の場合は、該分岐鎖アミノ酸の1回服用量が4〜5g程度であることから、50μm以下に粉砕して顆粒製剤を製造すると、その容積は8〜10mL程度となり、口中で嵩張って極めて呑み込みにくいものとなる。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の課題は、従来品より比容積の小さいイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸を有効成分とする顆粒とその製造方法を提供することである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、前記3種の分岐鎖アミノ酸の場合、造粒工程において造粒原料に酸を添加すると有効成分の溶解度が増大して顆粒が締まることにより従来品より比容積が小さい分岐鎖アミノ酸含有顆粒の製造方法を見出した。また、本発明者らは、造粒原料となる分岐鎖アミノ酸の粒度を調節することにより、さらに比容積の小さい分岐鎖アミノ酸含有顆粒が造粒されることを見出した。本発明は、以下の各発明を包含する。 【0007】 (1)イソロイシン/ロイシン/バリンの質量比が1/1.9〜2.2/1.1〜1.3であるイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の粒子混合物に酸を添加して攪拌造粒して顆粒を製造することを特徴とするイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【0008】 (2)前記酸が、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、炭酸、リン酸及び塩酸から選ばれる少なくとも1種である(1)項記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【0009】 (3)前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度が10〜1000μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする(1)又は(2)項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【0010】 (4)前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度100μm〜800μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする(1)又は(2)項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【0011】 (5)前記3種の分岐鎖アミノ酸の粒度150μm〜500μmの粒子混合物を原料として攪拌造粒することを特徴とする(1)又は(2)項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【0012】 (6)前記攪拌造粒によって製造された顆粒の比容積が1.93〜1.59mL/gであることを特徴とする(1)〜(5)項のいずれか1項に記載のイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸のみを有効成分とする医薬用顆粒の製造方法。 【0013】 【0014】 【0015】 【0016】 【0017】 【0018】 【0019】 【発明の実施の形態】 本発明において、「顆粒」とは、日本薬局方に規定されている顆粒剤及び散剤を含むとともに、日本薬局方に規定されている錠剤、トローチ剤、カプセル剤を作るために使用される顆粒もその範囲に含んでいる。 【0020】 本発明の顆粒において、有効成分の一つであるイソロイシンとしては、一般的に発酵法で製造されている粒度が1mm以下の粒子で、日本薬局方の規格を満たすものが使用されるが、それに限るものではない。 【0021】 ロイシンとしては、一般的に発酵法又は抽出法で製造されている粒度が1mm以下の粒子で、日本薬局方の規格を満たすものであるが、それに限るものではない。 【0022】 また、バリンとしては、一般的に発酵法もしくは合成法で製造されている粒度が1mm以下の粒子で、日本薬局方の規格を満たすものが使用されるが、それに限るものではない。 【0023】 造粒に使用するイソロイシン、ロイシン及びバリンからなる3種の分岐鎖アミノ酸の粒子の粒度の調整方法には特に制限はなく、通常の粉砕法が採用される。粉砕に使用できる粉砕機としては、ハンマーミル等の衝撃式(高速回転式)粉砕機、ボールミル等のタンブラー式(媒体式)粉砕機及びジェットミル等の流体式(気流式)粉砕機等が挙げられる。 【0024】 本発明の顆粒におけるイソロイシン、ロイシン及びバリンからなる3種の分岐鎖アミノ酸の配合割合は質量比で、イソロイシン/ロイシン/バリン=1/1.9〜2.2/1.1〜1.3である。 【0025】 造粒の際に使用できる酸としては、医薬品として添加することが可能な酸であればどれでも良いが、風味の観点から見て、有機酸の中では酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酢酸が好ましく、無機酸の中では塩酸、炭酸、リン酸が好ましい。酸の添加量に特に制限はなく、一般的には原料混合物中0.1〜5質量%の範囲で適宜添加される。酸は、水溶液として単独でアミノ酸混合物に添加されても良いし、結合剤のような他の添加物と一緒に添加されてもよい。 【0026】 本発明の顆粒製剤の製造に際しては、結合剤を使用することができる。結合剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等のセルロース誘導体、トウモロコシデンプン、コムギデンプン等のデンプン類、ポリビニルピロリドン、アクリル酸ポリマーなどの合成高分子類、アラビアゴム、ゼラチン等の天然高分子類等の日本薬局方あるいは医薬品添加物規格等の規格を満たしている医薬用として使用できるものであれば特に制限なく使用できる。また、その使用量も通常の造粒が可能な範囲であれば良い。 【0027】 本発明の顆粒製剤の製造に際しては、通常使用されている種類の矯味物質、例えばサッカリンナトリウム、アルパルテーム等の甘味剤や、矯臭物質、例えばメントール、レモンフレーバー等を添加することができる。 【0028】 本発明の医薬用顆粒製剤における前記3種のアミノ酸粒子を含む顆粒は、攪拌造粒機、押出し造粒機、流動層造粒機、乾式圧扁造粒機、転動造粒機等のどの機器を使用しても作ることができるが、攪拌造粒機が好ましい。 攪拌造粒法とは、粉に水あるいはバインダー液を投入あるいは噴霧し、攪拌羽根の回転によりせん断・転動・圧密化を行い造粒する方法であり竪型・横型の攪拌造粒機が使用される。 【0029】 【0030】 【0031】 本発明の顆粒については、苦味のマスキングなどの目的のためにコーティングを行うことができる。 【0032】 【実施例】 本発明の具体例を以下に実施例として示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。 【0033】 各実施例において、使用した原料分岐鎖アミノ酸の粒径は以下の方法で測定した数値である。 レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA-920)を用い、2-プロパノール適量を循環槽に入れて撹絆、超音波照射しながら循環させた後、ブランク測定(測定時は超音波OFF)を行う。続いて、循環槽に2-プロパノール適量を入れ透過率が約85%になるように測定アミノ酸試料を投入する。攪拌、超音波照射をしながら循環させ、超音波を停止し、粒径測定を行う。平均粒径はメジアン径を用いた。 【0034】 実施例1 あらかじめ微粉砕された3種の分岐鎖アミノ酸(重量比でロイシン:イソロイシン:バリン=2:1:1.2)2.3kgを混合し、メジアン径22μmの分岐鎖アミノ酸混合物を得た。 これに表1記載の組成からなる結合液を加えて、攪拌造粒機(ハイスピードミキサーFS-10、深江パウテック社製)に入れ、アジテーター300rpm、チョッパー3600rpmで15分間造粒した。得られたウェットな造粒物をフローコーターFLO-5(フロイント産業社製)で給気温度80℃で乾燥することにより乾燥顆粒を得た。この顆粒の比容積は1.88mL/gであった。 【0035】 【表1】 【0036】 実施例2 実施例1と同様のあらかじめ微粉砕された3種の分岐鎖アミノ酸(重量比でロイシン:イソロイシン:バリン=2:1:1.2)2.3kgを混合し、メジアン径22μmの分岐鎖アミノ酸混合物を得た。 これに表2記載の組成からなる結合液を加えて、攪拌造粒機(ハイスピードミキサーFS-10、深江パウテック社製)に入れ、アジテーター300rpm、チョッパー3600rpmで15分間造粒した。得られたウェットな造粒物をフローコーターFLO-5(フロイント産業社製)で給気温度80℃で乾燥することにより乾燥顆粒を得た。この顆粒の比容積は1.93mL/gであった。 【0037】 【表2】 【0038】 比較例1 実施例1と同様のあらかじめ微粉砕された3種の分岐鎖アミノ酸(重量比でロイシン:イソロイシン:バリン=2:1:1.2)2.3kgを混合し、メジアン径22μmの分岐鎖アミノ酸混合物を得た。 これに表3記載の組成からなる結合液を加えて、攪拌造粒機(ハイスピードミキサーFS-10、深江パウテック社製)に入れ、アジテーター300rpm、チョッパー3600rpmで15分間造粒した。得られたウェットな造粒物をフローコー夕ーFLO-5(フロイント産業社製)で給気温度80℃で乾燥することにより乾燥顆粒を得た。この顆粒の比容積は1.99mL/gであった。 【0039】 【表3】 【0040】 実施例3 3種の分岐鎖アミノ酸(質量比でロイシン:イソロイシン:バリン=2:1:1.2)2.3kgを混合し、3mmφのスクリーンを使用してピンミル(サンプルミル、奈良機械製作所製)にて粉砕し、メジアン径219μmの分岐鎖アミノ酸混合粉砕物を得た。 【0041】 これに表4記載の組成からなる結合液を加えて、攪拌造粒機(ハイスピードミキサーFS-10、深江パウテック社製)に入れ、アジテーター300rpm、チョッパー3600rpmで15分間造粒した。得られたウェットな造粒物をフローコー夕ーFLO-5(フロイント産業社製)で乾燥することにより乾燥顆粒を得た。この顆粒の比容積は1.59mL/gであった。 【0042】 【表4】 【0043】 【発明の効果】 本発明により製造される分岐鎖アミノ酸含有顆粒は、従来品より比容積が小さいことから、一服用当たりの服用量を少量とすることができ、服用性の改善に大きな効果をもたらすものである。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-01-09 |
出願番号 | 特願2002-15003(P2002-15003) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(A61K)
P 1 651・ 113- YA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 内藤 伸一 |
特許庁審判長 |
森田 ひとみ |
特許庁審判官 |
小柳 正之 渕野 留香 |
登録日 | 2002-11-15 |
登録番号 | 特許第3368898号(P3368898) |
権利者 | 味の素株式会社 |
発明の名称 | 分岐鎖アミノ酸含有顆粒の製造方法 |
代理人 | 金谷 宥 |
代理人 | 大高 とし子 |
代理人 | 廣田 雅紀 |
代理人 | 高津 一也 |
代理人 | 金谷 宥 |