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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B22D
管理番号 1094628
異議申立番号 異議2002-72677  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-04-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-11-11 
確定日 2004-01-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3280483号「連続鋳造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3280483号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許は、平成5年9月17日に特許出願したものであって、請求項1に係る発明につき平成14年2月22日に特許権の設定登録がなされた後、平成14年11月11日に特許異議申立人である新日本製鐵株式会社から請求項1に係る発明についての特許に対して特許異議の申立がなされて、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成15年9月30日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正事項a
請求項1の記載を「連続鋳造したステンレス鋼の鋳造片を、表面手入れ後あるいは表面無手入れで150℃以上の温度で加熱炉に装入するステンレス鋼の製造方法における連続鋳造方法であって、
垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機を用いて、鋳造片の未凝固の状態での曲げ、および鋳造片の未凝固の状態での矯正あるいは完全凝固後の矯正を行い、かつ前記スラブ連続鋳造機の二次冷却をミストスプレーを用いて行うとともに、該二次冷却帯の少なくとも1つのゾーンにおいて鋳片端部の水のみを停止してエアスプレーを噴射し、さらに前記二次冷却帯の曲げ部および/または矯正部において分割ロールを使用して、0.8m/min以上の鋳造速度で連続鋳造を行うことを特徴とする連続鋳造方法。」と訂正する。
訂正事項b
明細書の段落【0014】の記載を「【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は、連続鋳造したステンレス鋼の鋳造片を、表面手入れ後あるいは表面無手入れで150℃以上の温度で加熱炉に装入するステンレス鋼の製造方法における連続鋳造方法であって、垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機を用いて、鋳造片の未凝固の状態での曲げ、および鋳造片の未凝固の状態での矯正あるいは完全凝固後の矯正を行い、かつ前記スラブ連続鋳造機の二次冷却をミストスプレーを用いて行うとともに、該二次冷却帯の少なくとも1つのゾーンにおいて鋳片端部の水のみを停止してエアスプレーを噴射し、さらに前記二次冷却帯の曲げ部および/または矯正部において分割ロールを使用して、0.8m/min以上の鋳造速度で連続鋳造を行うことを特徴とする連続鋳造方法を提供する。」と訂正する。
訂正事項c
明細書の段落【0018】の「水スプレーやミストスプレー(気水混合スプレー)によって冷却する」を「ミストスプレー(気水混合スプレー)によって冷却する」に、段落【0025】の「水スプレーやミストスプレーを噴射する」を「ミストスプレーを噴射する」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の適否
訂正事項aは、特許明細書【0031】の記載に基づいて、二次冷却を「ミストスプレーを用いて行う」ことに限定し、同じく特許明細書【0031】の記載に基づいて、鋳片端部の「冷却水を遮断し」を「水のみを停止してエアスプレーを噴射し」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。訂正事項b及びcは、訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、訂正事項a〜cは、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立についての判断
(1)申立理由の概要
本件特許の請求項1に係る発明は、出願前に日本国内において頒布された刊行物1〜6に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
刊行物1:特開平3-174962号公報(特許異議申立書の甲第1号証)
刊行物2:特開昭54-128464号公報(同上甲第2号証)
刊行物3:特開昭58-224054号公報(同上甲第3号証)
刊行物4:「日本鋼管技法」No.79、日本鋼管株式会社、昭和53年10月25日発行、第1〜12頁(同上甲第4号証)
刊行物5:「日新製鋼技法」第26号、日新製鋼株式会社、昭和47年6月発行、第19〜32頁(同上甲第5号証)
刊行物6:「川崎製鉄技法」第17巻、第3号、川崎製鉄株式会社、昭和60年8月発行、第19〜24行(同上甲第6号証)

(2)本件請求項1に係る発明
上記「2.訂正に適否についての判断」で示したように上記訂正が認められるから、訂正後の本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「連続鋳造したステンレス鋼の鋳造片を、表面手入れ後あるいは表面無手入れで150℃以上の温度で加熱炉に装入するステンレス鋼の製造方法における連続鋳造方法であって、
垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機を用いて、鋳造片の未凝固の状態での曲げ、および鋳造片の未凝固の状態での矯正あるいは完全凝固後の矯正を行い、かつ前記スラブ連続鋳造機の二次冷却をミストスプレーを用いて行うとともに、該二次冷却帯の少なくとも1つのゾーンにおいて鋳片端部の水のみを停止してエアスプレーを噴射し、さらに前記二次冷却帯の曲げ部および/または矯正部において分割ロールを使用して、0.8m/min以上の鋳造速度で連続鋳造を行うことを特徴とする連続鋳造方法。」

(3)各刊行物の記載事項
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「本発明は、鋳片の内部割れを発生させることなく炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、その他の鉄基合金(本発明ではこれらを「鋼」と総称する)を連続鋳造する方法に関する。」(第2頁左上欄第5〜8行)
(1b)「第10図は、鋳片の各部(メニスカスからの距離で示す)の凝固界面に発生する歪の種類と量を示すものである。図示のように、熱応力歪とバルジング歪は全区間にわたって発生するが、曲げ歪は鋳片の湾曲部で、また矯正歪は曲げ矯正域で、それぞれ発生する。」(第9頁左上欄第16行〜右上欄第1行)
(1c)「特開昭50-62128号『連続鋳造装置の二次冷却帯における鋳片の支持案内方法』
鋳片サポートロールの代替として、鋳片の表面と平行に一定間隔の面を持つ固定サポーターと鋳片表面との間隙にコロを複数個設けることによって鋳片の支持間隔を小さくし、バルジングを抑制するという方法である。
さて、支持ロールの圧力が不適正な場合、例えば鋳片を過圧下した場合にも凝固界面に割れが発生する。特に、近年の傾向である高速鋳造においては、未凝固部の範囲が広がるため、このような割れの発生危険領域が広くなり、支持ロールの圧力適正化についての要求が一層厳しくなっている。」(第2頁右下欄第15行〜第3頁左上欄第9行)
(1d)「〔試験条件〕
・・・
スラブサイズ・・・270mm厚、1800mm幅
鋳造速度・・・1.5〜4.3m/min
連続鋳造機・・・垂直曲げ湾曲型(機長43m)
矯正部区間・・・メニスカスからの距離 18m〜22mの範囲
・・・
この連続鋳造機のメニスカスからの距離15〜28mの区間に千鳥配列分割サポートロールを適用した。」(第12頁右上欄第9行〜左下欄第4行)
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「Mo、Zr、Nbの1種又は2種以上を含有するフェライト系ステンレス鋼の連続鋳造鋳片を熱間圧延するに当たり、該連続鋳造鋳片の表面温度を150℃以下に冷却することなく加熱して熱間圧延することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼の連続鋳造鋳片の横割れ防止方法」(特許請求の範囲)
刊行物3には、以下の事項が記載されている。
(3a)「上記検討より明らかなように横割れの発生を防止するには、曲げ部の鋳片温度だけでなく、鋳型以降の熱履歴を適正化し、脆化域を回避した二次冷却条件を設定することが肝要である。特に鋳片コーナー部は鋳型直下の短辺スプレーの影響で急冷-復熱の熱履歴を受けやすく、このことが脆化を助長し割れを発生させやすくしていると考えられる。これを避けるには、短辺冷却水量の大幅な低減が有効である。すなわち、長辺および短辺冷却を緩冷化して脆化域を高温側に回避することにより、割れ発生を防止することが可能である。また曲げ部での表面温度を上げる一手段として鋳片コーナー部のスプレーカットしてもよい。」(第3頁右上欄第5〜17行)
(3b)「鋳片表層部の微細な横割れ」(第1頁左欄第17行)
(3c)「鋳型出口から約500mm程度の短い領域についてのみスラブの長辺側だけでなく短辺側にもスプレー水をかけ、それ以降については短辺側にスプレー水をかけず空冷の条件とするのが一般的である。」(第2頁右上欄第5〜9行)
刊行物4には、以下の事項が記載されている。
(4a)「この連鋳機の二大特徴は、(1)大型介在物の除去と偏在防止とを目的に、約5mの垂直部を設けたこと。(2)中心偏在対策として、小径ロールを採用し、凝固終了域に“軽圧下装置(Soft-Reduction Unit)”を設けたことである。」(第1頁左欄第7〜11行)
(4b)表1には軽圧下部に分割ロールを用いることが、表2には鋳造速度が0.9〜1.0m/minであることが、表3には二次冷却パターンの最適化をスプレー冷却系の管理によって行うことが示されている。
刊行物5には、以下の事項が記載されている。
(5a)「4.2.5二次冷却装置
割れに対して感受性の強い鋼種を含むステンレス鋼を対象として、・・・幅の異なるスラブについて各々コーナー部流量コントロールを行い、鋳造速度に応じて自動的に冷却水量が変動するカスケード制御を採用している。・・・これらによって定常鋳造時では、スラブの一部を除いて表裏、長手方向とも±20℃内の均一温度に冷却されたスラブをピンチロール出口で得ている。」(第26頁右欄第14〜32行)
刊行物6には、以下の事項が記載されている。
(6a)「鋳片の表面割れは、鋳型内で発生する縦割れと、2次冷却帯あるいは矯正域で発生する横割れ、コーナー割れなどに分類できる。・・・割れの発生は鋳片表面温度が、特定の脆化温度領域にある時に矯正がなされるために起こると考えられるので、この脆化温度領域を外した矯正が可能になるよう2次冷却時のゾーン別水量密度を変化させ、繰り返し計算により最適解を求める。一方鋳片表面温度を脆化温度領域の高温側で矯正する場合には、逆にロール間バルジングによる内部割れが生じやすいので、これを防止しつつ、しかも脆化温度領域を外した矯正が可能なよう、2次冷却のパターンを修正していく。」(第22頁左欄第12行〜右欄第18行)

(4)対比・判断
摘記事項(1a)には、ステンレス鋼を連続鋳造する方法であるここと、摘記事項(1d)には、垂直曲げ型のスラブ鋳造機であること、及びその鋳造速度が1.5〜4.3m/minであることが示されている。また、摘記事項(1b)において、バルジング歪は鋳片に未凝固部が存在しないと発生しないことは自明のことであるから、バルジング歪みが湾曲部、矯正域を含む全区間にわたって発生していることは、鋳片の未凝固の状態での曲げ及び矯正を行っていることを意味している。さらに、摘記事項(1d)には、矯正部区間に分割ロールを適用することが示されており、摘記事項(1c)を参酌すれば、この区間が二次冷却帯にあることも明らかである。
してみれば、摘記事項(1a)〜(1d)を総合すると、刊行物1には「ステンレス鋼の製造方法における連続鋳造方法であって、垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機を用いて、鋳造片の未凝固の状態での曲げ、および鋳造片の未凝固の状態での矯正あるいは完全凝固後の矯正を行い、かつ前記スラブ連続鋳造機の二次冷却を行うとともに、さらに前記二次冷却帯の曲げ部および/または矯正部において分割ロールを使用して、1.5〜4.3m/minの鋳造速度で連続鋳造を行う連続鋳造方法」(以下、「刊行物1記載の発明」)が記載されている。
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は「ステンレス鋼の製造方法における連続鋳造方法であって、垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機を用いて、鋳造片の未凝固の状態での曲げ、および鋳造片の未凝固の状態での矯正あるいは完全凝固後の矯正を行い、かつ前記スラブ連続鋳造機の二次冷却を行うとともに、さらに前記二次冷却帯の曲げ部および/または矯正部において分割ロールを使用して連続鋳造を行う連続鋳造方法」で一致し、かつ鋳造速度についても、本件発明は0.8m/minで、刊行物1記載の発明では1.5〜4.3m/minであるから両者は重複している。しかしながら、刊行物1記載の発明では、「連続鋳造したステンレス鋼の鋳造片を、表面手入れ後あるいは表面無手入れで150℃以上の温度で加熱炉に装入する」こと(相違点1)及び「二次冷却をミストスプレーを用いて行うとともに、該二次冷却帯の少なくとも1つのゾーンにおいて鋳片端部の水のみを停止してエアスプレーを噴射」すること(相違点2)が記載されていない点で両者は相違する。
相違点2について検討するに、刊行物3には、摘記事項(3a)及び(3b)によれば、連続鋳造における鋳片の表面割れを防ぐために、二次冷却において鋳片のコーナー部のスプレーをカットすることが記載されているものの、スプレーとは摘記事項(3c)に記載されているとおり、水をスプレーすることである。水をスプレーすることと、ミストスプレー、すなわち気水混合スプレー(訂正明細書【0018】参照)することとは技術的に異なるものであり、本件発明ではさらに、コーナー部に対応する部分のスプレーは水のみを停止してエアスプレーを噴射することにより、このエアスプレーによって他のスプレーより噴射された水が連鋳片のコーナー部や端面に回ってこの部分を冷却するのを防止するために、「鋳片端部の水のみを停止してエアスプレーを噴射」するものであり、鋳片のコーナー部の水スプレーをカットすることを示す刊行物3から、相違点2を当業者が容易になし得たこととすることはできない。
また、刊行物2、4〜6にも、「二次冷却をミストスプレーを用いて行うとともに、該二次冷却帯の少なくとも1つのゾーンにおいて鋳片端部の水のみを停止してエアスプレーを噴射」することを示唆するものは何ら記載されていない。したがって、「二次冷却をミストスプレーを用いて行うとともに、該二次冷却帯の少なくとも1つのゾーンにおいて鋳片端部の水のみを停止してエアスプレーを噴射」することは刊行物2〜6から導き出せず、また、これにより本件発明1は、訂正明細書記載の「コーナー部に対応する部分のスプレーは水のみを停止してエアスプレーを噴射することにより、このエアスプレーによって他のスプレーより噴射された水が連鋳片12のコーナー部や端面に回ってこの部分を冷却するのを防止することができ、より確実に連鋳片12のコーナー部の割れを防止し、さらに高い製品歩留まりを実現することができる」(【0031】)との顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明は、相違点1について検討するまでもなく、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許については、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとすることができないし、しかも他に拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとする理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
連続鋳造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造したステンレス鋼の鋳造片を、表面手入れ後あるいは表面無手入れで150℃以上の温度で加熱炉に装入するステンレス鋼の製造方法における連続鋳造方法であって、
垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機を用いて、鋳造片の未凝固の状態での曲げ、および鋳造片の未凝固の状態での矯正あるいは完全凝固後の矯正を行い、かつ前記スラブ連続鋳造機の二次冷却をミストスプレーを用いて行うとともに、該二次冷却帯の少なくとも1つのゾーンにおいて鋳片端部の水のみを停止してエアスプレーを噴射し、さらに前記二次冷却帯の曲げ部および/または矯正部において分割ロールを使用して、0.8m/min以上の鋳造速度で連続鋳造を行うことを特徴とする連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ステンレス鋼の製造に利用される、高効率および低コストで、しかも内部欠陥や割れ等が発生しない高歩留まりのステンレス鋼製造を実現できる連続鋳造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
連続鋳造を利用するステンレス鋼の製造においては、連続鋳造後の連続鋳造片(以下、連鋳片とする)の表面手入れの削減、さらには表面手入れを行うことなく連鋳片が冷える前に加熱炉に直接装入して圧延を行う等、製造効率の向上を目的とした研究が盛んに行われている。
【0003】
このような状況化で、熱延加熱炉でのスケールオフ量の少ないオーステナイト系のステンレス鋼においては、連鋳片の表面手入れを行わず熱間圧延して製品を得ることが、既に現実化している。
一方、フェライト系ステンレス鋼においては、元来、連鋳片の冷片化が困難な鋼種が存在し、表面手入れの要・不要にかかわらず、連鋳片の加熱炉への熱片装入が実施されている。
【0004】
例えば、特開昭55-92255号公報には、オーステナイト系ステンレス鋼の連鋳片を鋳造後、熱間圧延するにあたり、連続鋳造機の鋳型内面をNiめっきし、かつ上向きの浸漬ノズルを利用することにより、連鋳片表面を無手入れのまま加熱炉に直送し、操業性を向上する技術が開示されている。
また、特公昭60-26807号公報には、オーステナイト系ステンレス鋼の連鋳片を鋳造後、熱間圧延するにあたり、連鋳片の化学組成から決まるδフェライト量を計算し、この値に応じて連鋳片の高温保持時間を変動することにより、熱間圧延のための連鋳片の再加熱を大幅に低減すると共に、熱延時に鋼片端部に発生する耳割れの防止する技術が開示されている。
【0005】
一方、特公昭61-51612号公報には、鋳造したフェライト系ステンレス鋼の連鋳片を、400℃以下に温度降下することなく熱間圧延するに際し、連鋳片を熱間圧延前に(α+β)域温度に保定し、またその時間上限を規定することにより、冷間圧延後のプロセスを省略しつつ加工性の良好な製品を得る技術が開示されている。
【0006】
さらに、特公昭58-3441号公報には、ステンレス鋼の連続鋳造のモールドパウダーとして、従来添加されている炭素粒子に変えて窒化物粒子を添加したモールドパウダーを利用することにより、炭素系物質による連鋳片表面の浸炭による微小割れを回避し、製品歩留まりを向上した技術が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ステンレス鋼は一般的に表面および内部共に割れが発生し易い。
そのため、ステンレス鋼を連続鋳造する際には、構造的に曲げ歪、矯正歪等が発生することがない垂直型の連続鋳造機(以下、連鋳機とする)を使用するのが一般的である。
【0008】
垂直型連鋳機(あるいは垂直凝固曲げ型連鋳機)は、鉛直状態で連鋳片の凝固過程を終了させるため、溶鋼の凝固前にモールドパウダー等に起因する介在物が浮上し、凝固した連鋳片に混入することが少ない。そのため、介在物等に起因する欠陥や、溶鋼の初期凝固の段階で発生する表面近傍の介在物混入による欠陥等のない、高品質な連鋳片を製造することができる。
しかしながら、垂直型連鋳機は、その構成上、鋳造速度(鋳込み速度)を高くすることができず、高温の連鋳片を製造(高温での出片)することができない。そのため、やむなく熱間圧延のために再加熱を施す必要があり、エネルギーを大きく消費し、また補熱設備も必要となり、製造コストが増大してしまう。
【0009】
すなわち、垂直型連鋳機に限らず、連続鋳造によって高温の無欠陥鋳片を製造するためには、鋳造速度を高速にする必要があり、そのためには機長の長い連鋳機が必要である。
ところが、垂直型連鋳機の機長を長くするためには、建屋を高くする、あるいは大規模な地下構造物を建造する必要がある。そのため、高温の鋳片を製造可能な垂直型連鋳機の建造は実質上不可能であり、垂直型連鋳機を利用する設備では、熱間圧延を行う前に補熱設備等で連鋳片の再加熱を行う必要がある。
【0010】
他方、いわゆる湾曲型連鋳機であれば機長の増大は容易であり、高温の連鋳片を製造することはできる。
ところが湾曲型連鋳機は、湾曲するモールドおよび二次冷却帯の形状のため、垂直型連鋳機の利点である溶鋼未凝固状態での介在物の浮上分離が困難であり、モールドパウダー等に起因する欠陥や連鋳片の表面近傍への介在物の混入やAr気泡に起因する、連鋳片の内部や表面の性状の問題が発生しやすい。
結果的に鋳造速度の上限を規制する必要があり、特に、高い清浄度を要求される鋼種においては、低速鋳造や注入速度(t/分)の規制を行う場合が多い。
【0011】
また、前述のように、ステンレス鋼は表面および内部に割れを発生し易く、湾曲型の連鋳機では、この点にも問題がある。
すなわち、従来の連続鋳造設備では、品質、歩留まり、エネルギー効率共に満足できるステンレス鋼の製造を行うことはできない。
【0012】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、ステンレス鋼の製造において、良好なエネルギー効率による製造コスト低減、割れや表面あるいは内部欠陥等の発生が極めて少ない高い歩留まりで高品質の製品の安定製造を可能とする連続鋳造方法を提供することにある。
【0013】
【0014】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は、連続鋳造したステンレス鋼の鋳造片を、表面手入れ後あるいは表面無手入れで150℃以上の温度で加熱炉に装入するステンレス鋼の製造方法における連続鋳造方法であって、垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機を用いて、鋳造片の未凝固の状態での曲げ、および鋳造片の未凝固の状態での矯正あるいは完全凝固後の矯正を行い、かつ前記スラブ連続鋳造機の二次冷却をミストスプレーを用いて行うとともに、該二次冷却帯の少なくとも1つのゾーンにおいて鋳片端部の水のみを停止してエアスプレーを噴射し、さらに前記二次冷却帯の曲げ部および/または矯正部において分割ロールを使用して、0.8m/min以上の鋳造速度で連続鋳造を行うことを特徴とする連続鋳造方法を提供する。
【0015】
以下、本発明の連続鋳造方法について詳細に説明する。
図1に本発明の連続鋳造を実施するスラブ連続鋳造機(以下、連鋳機とする)の概念図を示す。なお、図1は鋳造片の矯正を鋳造片が未凝固の状態で行う例であり、図2は鋳造片の矯正を完全凝固後に行う例である。
なお、本発明の連続鋳造方法(以下、連鋳方法とする)において、図1および図2に示される例は、冷却速度(すなわち、特に後述する矯正部における鋳片内部の状態)が異なる以外は、連鋳機は基本的に同じ構成を有するので、同じ部材には同じ符号を付して同一に説明する。
【0016】
図1および図2に示されるように、本発明に利用されるスラブ連鋳機10は、連続鋳造片(以下、連鋳片とする)12を垂直方向に引き抜いて、その後に曲げ、さらにその後に連鋳片を直線状に伸ばして(すなわち矯正して)連鋳片12を鋳造する、いわゆる垂直曲げ型のスラブ連鋳機である。
本発明の連鋳方法は、このようなスラブ連鋳機10によって製造した連鋳片12を、トーチ14等によって切断した後、表面手入れ後あるいは表面無手入れで150℃以上の温度で加熱炉に装入するステンレス鋼の製造に利用される。
【0017】
図示例おいて、タンディッシュ16からの溶鋼は、浸漬ノズル18等によってモールド20に注入される。
モールド20に注入された溶鋼は、冷却されて凝固を開始して(いわゆるシェルを形成し)、二次冷却帯22に引き抜かれる。
ここで、モールド20においては、モールド20を水冷すること等によって溶鋼(連鋳片12)の冷却が行われる。
【0018】
図示例の連鋳機10の二次冷却帯22は、通常の連鋳機と同様、多数の鋳片サポートロール24,24,24……や、鋳片サポートロール24の間隙に配置されるスプレーノズル等より構成され、一例として第1ゾーン22a、第2ゾーン22b、第3ゾーン22c、第4ゾーン22dおよび第5ゾーン22eの合計5つのゾーンより構成され、連鋳片12を垂直方向に引き出し、この連鋳片12を曲げて、その後に直線状に矯正しながら搬送しつつ、ミストスプレー(気水混合スプレー)によって冷却する。
なお、本発明の連鋳方法においては、二次冷却帯22は5つのゾーンより構成されるのに限定はされず、さらに細かく細分あるいは5以下のゾーンで構成されても良いのはもちろんである。
【0019】
図示例においては、第1ゾーン22aは垂直部であって、連鋳片12はモールド20より垂直方向に引き出される。
第1ゾーン22aに次いで配置される第2ゾーン22bは曲げ部で、連鋳片12はここで所定の曲率に湾曲されつつ搬送・冷却され、第3ゾーン22cでは所定の曲率のまま搬送されつつ冷却される。
次いで配置される第4ゾーン22dは矯正部で、湾曲した連鋳片12はここで直線状に矯正されつつ冷却され、さらに直線状のまま第5ゾーン22eにおいて搬送・冷却されて、トーチ14によって所定の長さに切断され、表面手入れや熱間圧延等の次工程に搬送される。
【0020】
本発明の連鋳方法では、このような垂直曲げ型のスラブ連鋳機10を用い、連鋳片12の内部が未凝固(図中斜線部)の状態で連鋳片12を曲げ、矯正は図1に示されるように連鋳片12の内部が未凝固(以下、単に未凝固とする)の状態で行い、あるいは図2に示されるように連鋳片12が完全に凝固(以下、単に凝固とする)した後に矯正を行う。
連続鋳造をこのように行うことにより、高温の連鋳片12を製造(高温出片)してエネルギー効率を向上すると共に、介在物による欠陥等を無くして、高品質のステンレス鋼を高い歩留まりで製造可能にしたものである。
【0021】
高温のステンレス鋼連鋳片を製造する場合の問題点のうち、表面手入れ工程の省略のための連鋳片表面の偏析対策等は、連鋳機の形状に関わらず、前述の各種の発明等によってほぼ解決されている。
ところが、高温のステンレス鋼の連鋳片製造においては、モールドパウダー等に起因する欠陥、鋳片の初期凝固の段階で発生する表面近傍の介在物、さらには内部介在物やAr気泡等に起因する内部欠陥等は、未だ解決されていないのは前述のとおりである。
【0022】
本発明は、上記構成、すなわち垂直曲げ型のスラブ連鋳機12を用い、未凝固の状態で連鋳片12を曲げることにより、上記問題点を解決したものである。
すなわち、垂直曲げ型のスラブ連鋳機を用い、未凝固の状態で連鋳片を曲げるので、機長の増大が容易で、高速で連続鋳造を行って高温の連鋳片を製造してステンレス鋼の製造コストを低減でき、しかも、一次冷却(モールド20)および二次冷却帯22の一部(第1ゾーン22a)が垂直であるので、この部分で介在物等を浮上することができ、内部や表面性状に欠陥の無い、高品質な連鋳片12を製造することができる。
【0023】
本発明の連鋳方法に利用されるスラブ連鋳機10において、垂直部分の長さには特に限定はなく、ステンレス鋼種に応じた介在物の除去し易さ等に応じて適宜決定すればよいが、本発明者らの検討によれば、最も除去が困難ものでも3m程度の垂直部分があれば、ほぼ介在物を除去することができるので、連鋳機高さの低減のためにも、垂直部分の高さは3m以内とするのが好ましい。
また、湾曲時の連鋳片22の曲率は、連鋳機の機長、ステンレス鋼の鋼種等に応じて、連鋳片22の表面歪を考慮して適宜決定すればよい。
【0024】
さらに、本発明においては、連鋳片12の割れのより好適な防止や、より高品質の連鋳片12の製造を実現して、より高品質のステンレス鋼の製造を高い歩留まりで行うために、ステンレス鋼の連続鋳造において、スラブ連鋳機12の二次冷却帯22の少なくとも1つのゾーンにおける連鋳片12端部の冷却水遮断、二次冷却帯22の曲げ部および/または矯正部、すなわち図示例では第2ゾーン22bおよび/または第4ゾーン22dにおける分割ロールの使用、および連続鋳造速度0.8m/min以上の条件下で連続鋳造を行う。
【0025】
スラブ連鋳機10の二次冷却帯22においては、連鋳片12の幅方向(搬送方向と略直交方向)に多数のスプレーノズル(ミストノズル)配列したものが、鋳片サポートロール24の間に配置され、スプレーノズルよりミストスプレーを噴射することにより、連鋳片12の二次冷却を行う。
【0026】
ここで、スラブ連鋳機10においては、製造する連鋳片12の幅に応じて、幅方向に配列したスプレーノズルの作動を制御し、無駄の無い冷却が可能なように構成される。
すなわち、図3に示されるように、幅方向Wにスプレーノズルa,b,c……が配置されていた場合、連鋳片12の幅がw1である場合にはa,b,c……全てのスプレーノズルよりスプレーを噴射し、連鋳片12の幅がw2である場合には、その幅に応じてスプレーノズルaおよびbからのスプレーの射出を停止し、スプレーノズルcから内側のスプレーノズルによって(逆側端部も同様)連鋳片12の冷却を行う。
【0027】
ここで、本発明の連鋳方法においては、二次冷却帯22の少なくとも1つのゾーンにおいては、連鋳片12の端部に対応するスプレーは冷却水も停止して連鋳片12の二次冷却を行う。
【0028】
前述のように、本発明で利用する垂直曲げ型のスラブ連鋳機10は、垂直部分を有する連鋳機の利点を持ちつつ長い機長を実現することが可能である。
ところが、垂直曲げ型のスラブ連鋳機10は上部の曲げ部および下部の矯正部において、連鋳片12に2回の変形を与えることが避けられない。この変形部による連鋳片12の歪は、連鋳片の温度がある特定の領域、特に過冷却状態となっている場合に連鋳片12のコーナー部の割れの原因となる。
【0029】
これに対し、本発明においては、二次冷却帯22の少なくとも1つのゾーンにおいては、連鋳片12の端部に対応するスプレーによる冷却水を停止(以下、幅切りとする)する。
つまり、図3に示される例であれば、連鋳片12の幅がw1である場合には、連鋳片12のコーナー部に対応するスプレーノズルaを停止して、スプレーノズルbから内側のスプレーノズルによって(逆側端部も同様)連鋳片の冷却を行い、連鋳片12の幅がw2である場合には、その幅に応じてスプレーノズルaおよびbに加え、連鋳片12のコーナー部に対応するスプレーノズルcも停止して、これより内側のスプレーノズルによって連鋳片の冷却を行う。
【0030】
このような構成とすることにより、連鋳片12の過冷却、特にコーナー部の過冷却を防止して、スラブ連鋳機10の曲げ部および矯正部での歪による連鋳片12のコーナー部の割れを好適に防止し、製品歩留まりをより向上することができる。
【0031】
特に、冷却をミストスプレーで行う場合には、コーナー部に対応する部分のスプレーは水のみを停止してエアスプレーを噴射することにより、このエアスプレーによって他のスプレーより噴射された水が連鋳片12のコーナー部や端面に回ってこの部分を冷却するのを防止することができ、より確実に連鋳片12のコーナー部の割れを防止し、さらに高い製品歩留まりを実現することができる。
【0032】
本発明の連鋳方法において、幅切りを行うゾーンには特に限定はなく、また、幅切りを実施するゾーン内全てのスプレーノズルを幅切りするのにも限定はされない。
なお、確実に連鋳片12のコーナー部の割れを防止するためには、少なくとも曲げ部および矯正部では幅切りを実施するのが好ましい。
【0033】
また、本発明においては、スラブ連鋳機10の二次冷却帯22の曲げ部および/または矯正部、すなわち第2ゾーン22bおよび/または第4ゾーン22dにおいては、分割ロールを使用する。
【0034】
スラブ連鋳機10の二次冷却帯22を構成する鋳片サポートロール24は、連鋳片12のバルジング(未凝固溶鋼の圧力に起因する膨らみ)防止等のために強い力で連鋳片12を保持(挟持)している。
特に、スラブ連鋳機10の曲げ部および/または矯正部においては、ステンレス鋼の連鋳片12を強制的に湾曲させ、さらに直線状にする等の変形を行うので、この部分の鋳片サポートロール24には非常に大きな力がかかる。
そのため、特に曲げ部や矯正部の鋳片サポートロール24は、長年の使用の間に塑性変形を生じ、これが原因で連鋳片12のバルジングや歪等の変形や、連鋳片10の割れを生じ、高品質な製品を製造することができなくなってしまう。しかも、本発明の連鋳方法は、連鋳片12が未凝固の状態で曲げ、さらには未凝固あるいは完全凝固後に矯正を行うため、連鋳片12のシェル(特に曲げ部および/または矯正部)には未凝固溶鋼の大きな圧力がかかり、バルジングを起こしやすい。
【0035】
これに対し、本発明においては、曲げ部および/または矯正部において、鋳片サポートロール24の歪を最小限にとどめることができる分割ロールを使用する。
分割ロールとは、図4に示されるように連鋳の幅方向Wに複数(図示例では2つ)に分割されたロールである。
【0036】
図4(a)に示される分割ロール24Aは、2本のロール24A-1およびロール24A-2を有し、各ロールは、それぞれに独立した回転軸26-1および26-2を有する。また、回転軸26-1はその端部を軸受28および30に軸支され、他方、回転軸26-2はその端部を軸受32および34に軸支され、各ロールが回転自在に軸支される。
また、図4(b)には、別タイプの分割ロール24Bが示される。この例においては、2本のロール24B-1およびロール24B-2は、幅方向の中間に若干の間隙を有して、一本の回転軸36に支持されている。この回転軸36は、両端が軸受38および40に軸支され、さらに前記中間部が軸受42によって軸支されている。
【0037】
このような分割ロールは、回転軸の両端部のみならず、各ロール間においても軸受によって回転軸が軸支されるため、連鋳片12の曲げ部や矯正部等において大きな力がかかってもロールの歪は極めて少ない。
そのため、曲げ歪、矯正歪、バルジング歪等の連鋳片12に発生する歪や変形を最小限に抑制し、かつ割れの発生を防止することができ、高品質な製品を高い歩留まりで安定して製造することができる。
【0038】
本発明の連鋳方法において、使用する分割ロールは図示例の2分割に限定はされず、3分割あるいはそれ以上の分割ロールを利用してもよい。なお、分割されたロール間では連鋳片12は無支持状態となっており、バルジング等を発生する可能性が高いので、軸受を小型化する等、各ロール間は可能な限り小さくするのが好ましい。
また、曲げ部および/または矯正部(第2ゾーン22bおよび/または第4ゾーン22d)の鋳片サポートロールを全て分割ロールにする必要はなく、特に力のかかる要所のみに分割ロールを利用してもよい。さらに、必要に応じて、曲げ部および矯正部以外に分割ロールを使用してもよい。
【0039】
さらに、本発明においては、0.8m/min以上の速度で連続鋳造行う。
前述のように、高温の連鋳片12を製造する(高温出片)ためには、鋳造速度の向上が必要不可欠である。ここで、本発明者らの検討によれば、鋳造速度を0.8m/min以上とすることにより、熱間圧延のための再加熱に要するエネルギーを好適に節約することができ、高効率のステンレス鋼の製造を実現することができる。
また、後に実施例において詳述するが、鋳造速度が0.8m/min未満では連鋳片12の表面割れが発生し易く、製品歩留まりが低下してしまう。
【0040】
なお、好ましくは鋳造速度を1.6m/min程度とすることにより、エネルギー効率、連鋳片コーナー部の割れ防止等の点でより好ましい結果を得る。
【0041】
以上、本発明の連続鋳造方法について詳細に説明したが、本発明はこれに限定はされず、本発明の要旨を変更しない範囲において各種の変更および改良を行ってもよいのはもちろんである。
【0042】
【実施例】
以下、本発明の具体的な実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0043】
転炉および二次精錬設備によってステンレス鋼を溶製し、図1に示される垂直曲げ型スラブ連鋳機、および垂直型連鋳機、湾曲型連鋳機によって、厚さ200mm、幅1.2m、長さ9mの連鋳片を製造した。
これらの連続鋳造について、下記の各種の特性について調査した。
【0044】
まず、各タイプの連鋳機によって製造した連鋳片について、連鋳後に熱間圧延を行うまでに必要な燃料原単位を図5に示す。
なお、図5においては、最大とは連鋳片を室温まで冷却した際に必要な燃料原単位、最小とは連鋳後、ほぼ連続的に熱間圧延を行った際に必要な燃料原単位を示す。また各連鋳機における連続鋳造速度は、前記連鋳片を不都合無く製造できる最高速度とした。
【0045】
図5に示されるように、連鋳片を室温まで冷却した際の燃料原単位は各タイプの連鋳機共に同様であるが、連鋳後にほぼ連続的に熱間圧延を行う場合には、垂直型および湾曲型の連鋳機では、連続鋳造速度に限界があるため、あまり燃料原単位を低減することができない。
これに対し、垂直曲げ型スラブ連鋳機を用いる本発明においては、連続鋳造速度を高速にできるので、高温の連鋳片を製造(高温出片)することが可能であり、最小原単位を大幅に低下することができる。
【0046】
図6に、同様の連続鋳造において、連続鋳造速度を変更した際の、各タイプの連鋳機毎の内部欠陥発生指数を示す。
なお、この指数は、連鋳片を冷延板とした際に、コイル表面を検査した結果のうち、連続鋳造に起因するものの発生率より算出した指数である。
【0047】
図6に示されるように、垂直曲げ型スラブ連鋳機を利用し、溶鋼未凝固状態で曲げを行う本発明においては、垂直部分で介在物の除去を良好に行うことができるので、内部欠陥発生指数が鋳造速度増大の影響を受けない。そのため、機長を生かした高速鋳造が可能である。
これに対し、湾曲型の連続鋳造機では、連続鋳造速度の増大に伴って内部欠陥が増加するため、1.0m/min程度の鋳込み速度が一定の高品質を得るための限界である。従って、機長を長くできるというメリットを連続鋳造速度に生かすことができず、前述の図5に示されるように、高エネルギー効率のステンレス鋼製造を実現することができない。
【0048】
図7に、垂直曲げ型スラブ連鋳機での同様の連続鋳造において、メニスカスから3mの距離まで二次冷却帯での連鋳片の端部に対応するスプレーによる冷却水を停止(いわゆる幅切り)した場合と、幅切りを行わなかった場合の連鋳片の割れ発生率を示す。
なお、連続鋳造速度は共に0.8m/minとした。
【0049】
図7に示されるように、幅切りを実施することにより、連鋳片の割れ発生を大幅に低減することができ、製品歩留まりを大幅に向上することができる。
【0050】
図8に、垂直曲げ型スラブ連鋳機での同様の連続鋳造において、連続鋳造速度を変更した際の表面割れ発生率を示す。
【0051】
図8に示されるように、垂直曲げ型スラブ連鋳機を用いた未凝固曲げによるステンレス鋼の連続鋳造においては、連続鋳造速度を0.8m/min以上にすることにより、割れの発生を防止することができ、この点でもある程度の連続鋳造速度の高速化は重要である。
【0052】
図9に、垂直曲げ型スラブ連鋳機での同様の連続鋳造において、連続鋳造速度を変更した際の燃料原単位指数を示す。なお、図9に示される例は、連鋳片を製造した後、ほぼ連続的に熱間圧延を行う場合の例である。
また、この指数は、図5に示される例と同様に燃料原単位を算出し、これより算出した指数である。
【0053】
図9に示されるように、鋳造後に連続的に熱間圧延の燃料原単位指数で比較した場合、連続鋳造速度が0.8m/min以上で燃料原単位の減少が見られ、このような条件で連続鋳造を行うことにより、エネルギー効率の良好な低コストのステンレス鋼製造が実現できる。
【0054】
なお、以上の本発明の例は、図1に示される鋳造片の一部が未凝固の状態での曲げおよび矯正を行う態様に対応したものであるが、図2に示される、矯正を完全凝固状態で行う場合においても、ほぼ同様の結果が得られた。
【0055】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明の連続鋳造方法を利用することにより、連続鋳造したステンレス鋼の鋳造片を、表面手入れ後あるいは表面無手入れで150℃以上の温度で加熱炉に装入するステンレス鋼の製造において、良好なエネルギー効率による製造コストの低減や、割れや介在物に起因する不良等の発生が極めて少ない高い製品歩留まりでの高品質の製品の安定製造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の連続鋳造方法を実施するスラブ連続鋳造機を概念的に示す図である。
【図2】 本発明の連続鋳造方法の別の例を実施するスラブ連続鋳造機を概念的に示す図である。
【図3】 本発明の連続鋳造方法における冷却水の幅切りを説明するための模式図である。
【図4】 (a)および(b)は、本発明の連続鋳造方法に利用される分割ロールの一例を示す概念図である。
【図5】 本発明のステンレス鋼の連続鋳造方法と従来のステンレス鋼の連続鋳造における熱間圧延までの燃料原単位をしめすグラフである。
【図6】 本発明のステンレス鋼の連続鋳造方法と従来のステンレス鋼の連続鋳造における連続鋳造速度と内部欠陥発生指数との関係を示すグラフである。
【図7】 本発明の連続鋳造方法において二次冷却帯において幅切りを実施した場合としない場合との連鋳片角部割れ発生率を示すグラフである。
【図8】 本発明の連続鋳造方法における連続鋳造速度と連鋳片表面割れ発生率との関係を示すグラフである。
【図9】 本発明の連続鋳造方法における連続鋳造速度と燃料原単位指数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10 スラブ連続鋳造機(連鋳機)
12 連続鋳造片(連鋳片)
14 トーチ
16 タンディッシュ
18 浸漬ノズル
20 モールド
22 二次冷却帯
24 鋳片サポートロール
26,36 支軸
28,30,32,34,38,40,42 軸受
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-12-24 
出願番号 特願平5-231680
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B22D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 市川 裕司
三崎 仁
登録日 2002-02-22 
登録番号 特許第3280483号(P3280483)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 連続鋳造方法  
代理人 内藤 俊太  
代理人 三和 晴子  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  
代理人 田中 久喬  
代理人 渡辺 望稔  

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