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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65H
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65H
管理番号 1094738
異議申立番号 異議2003-72153  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-25 
確定日 2004-03-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第3380061号「給紙用ロール、その製造方法及び給紙ロール用シリコーンゴム組成物」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3380061号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第3380061号の請求項1〜7に係る発明についての手続の経緯は、およそ次のとおりである。
(1)特許出願 平成6年9月19日
(2)特許権の設定の登録 平成14年12月13日
(3)特許掲載公報の発行 平成15年2月24日
(4)特許異議申立人大塚あさ子より特許異議の申立て 平成15年8月25日

II 特許異議の申立てについて
1 本件各発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により構成される次のとおりのものである。

「【請求項1】 硬化後のJISK6301による反発弾性率が80%以上、25%の圧縮を70℃で22時間保持したときの圧縮永久歪が4%以下、100%モジュラスが0.3〜1.0MPaであるシリカ含有シリコーンゴム組成物を用いてなるシリコーンゴム被覆給紙用ロール。
【請求項2】 給紙ロールに用いるシリカ含有シリコーンゴム組成物において、下記一般式で表されるジオルガノシロキサンをシリカ処理剤として配合し、該組成物の硬化後のJISK6301による反発弾性率が80%以上、25%の圧縮を70℃で22時間保持したときの圧縮永久歪が4%以下、100%モジュラスが0.3〜1.0MPaであることを特徴とする給紙ロール用シリコーンゴム組成物。
【化1】


【請求項3】 シリコーンゴム組成物が、
(A)(1)両末端及び側鎖にビニル基を含有するジオルガノポリシロキサン生ゴム(但し、全有機基中ビニル基含有量が0.15モル%以上0.8モル%未満であり、JISC2123による可塑度が1.0mm以上である)50〜99重量部と、
(2)両末端及び側鎖にビニル基を含有するジオルガノポリシロキサン生ゴム(但し、全有機基中ビニル基含有量が0.8〜10モル%であり、JISC2123による可塑度が1.0mm以上である)1〜50重量部とからなり、
上記(1)と(2)の混合物の全有機基中のビニル基が0.2モル%以上であるジオルガノポリシロキサン生ゴム100重量部、
(B)比表面積100m2 /g以上のヒュームドシリカ3〜30重量部、
(C)下記一般式で示されるジオルガノシロキラン1〜10重量部、及び、
【化2】


(D)前記組成物を硬化させるのに十分な量の硬化剤
からなる請求項2記載の給紙ロール用シリコーンゴム組成物。
【請求項4】 請求項2又は3記載のシリコーンゴム組成物をロール芯金上に被覆し、成形温度150〜200℃、成形時間2分〜15分で一次硬化させ、次いで、150〜250℃で0.5時間〜24時間二次硬化させることを特徴とする給紙用ロールの製造方法。
【請求項5】 請求項1記載のシリコーンゴム被覆給紙用ロールを備えた給紙装置。
【請求項6】 請求項2又は3記載のシリコーンゴム組成物を用いた給紙用ロールを備えた給紙装置。
【請求項7】 請求項5又は6記載の給紙装置を備えた画像形成装置。」

2 申立ての理由の概要
異議申立人大塚あさ子は、下記の甲第1〜4号証を提出し、請求項1〜7に係る特許は、概略下記の理由1及び理由2により取り消されるべきであると主張している。

[理由1]請求項1〜3、5〜7に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができるものであるから、請求項1〜3、5〜7に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[理由2]請求項4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、請求項4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。

[証拠]
甲第1号証:特開昭62-153985号公報
甲第2号証:特開平5-46020号公報
甲第3号証:特開平6-1917号公報
甲第4号証:特開平5-116778号公報

3 申立人が提出した甲各号証記載の発明
(1)甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、事務機等に用いる一般紙類搬送ローラに関して、図面とともに次の記載がある。

記載ア.「(1)表面に金属材料を分散又は増状に有する弾性体層に樹脂材を誘電加熱工程で処理し、表面樹脂層を有する弾性回転体を形成することを特徴とする弾性回転体の製造方法。
(2)上記弾性体層はシリコーンゴム層で、上記樹脂材は弗素樹脂である特許請求の範囲第1項記載の弾性回転体の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1及び2)
記載イ.「弾性体層に対して高温加熱を与えることなく、効率よく樹脂表面層を焼成できる弾性回転体の製造方法を提供し、その結果得られる弾性回転体」(公報第2頁左上欄第4〜7行)
記載ウ.「(2)予めシリコーンゴム材料と導電性の酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニッケル等の金属酸化物をシリコーンゴム材料100重量部に対して20〜45重量部を混合してなるシリコーンゴムシートを鉄芯金上にプライマーを塗布した後に巻き付けシリコーンゴムローラとする。・・・・・・・(5)続いて、このシリコーンゴムローラ表面に弗素樹脂のディスバージョンをスプレー又はローラによって塗布し(弗素樹脂の厚みをローラ全体にわたって同等のものとする)室温下でわずかに乾燥する。」(第2頁右上欄第8行〜左下欄第14行)
記載エ.「得られた弾性ローラは、下層のシリコーンゴム自体が所望のゴム特性を樹脂層形成前とほぼ同様に示し、表面の弗素樹脂層は完全に焼成された樹脂特性を示し、これらの層の接着性が強固である。具体的にそれらの特徴を列挙すれば、
・シリコーンゴムは、
ゴム硬度(JISA)・・・30度以上80度以下
*反発弾性率・・・・・・・60〜85%」(第2頁右下欄第12〜20行)
記載オ.「上記2つの実施例によれば、下層弾性体層に要求される耐熱性は、従来よりもはるかに低レベルの安価な材料で良いため低分予量のシリコーンゴムや他のゴム材の使用を可能にするという優れた効果をもたらす。」(第3頁左下欄第11〜15行)
記載カ.「反発弾性率65〜85%は、定着ローラが紙の凹凸、トナーの有無による変形に対して短い定着時間の間に弾性をもって追従する能力を示し、これにより、紙トナーの凹凸に定着ローラが変形し、熱と圧を有効にトナーを与えることができる範囲のものを規定する。」(第6頁右上欄第14〜19行)
記載キ.「引張応力、伸びの数値に関してはゴムの基本的な物性に示し、定着ローラの耐久性および定着性に寄与するパラメータである。
100%引張り応力10Kg/cm2、伸び150%のシリコーンゴムを使用した上記定着ローラでは約20万枚の耐久性能を示し、また反発弾性率も十分もっているため定着性も良好である。また100%引張り応力20Kg/cm2、伸び300%のシリコーンゴムでは30万枚以上の耐久性能があり定着性も良好である。
一方、100%引張り応力7Kg/cm2で、伸び200%のものは、途中紙詰まりなしで15万枚もったが、その後10度の紙詰りで爪によりゴムが削れてしまった。同様に100%引張り応力15Kg/cm2、伸び80%のものでは、途中、紙詰りなしで約10万枚もち、その後ジャム5回で削れてしまって。」(第6頁左下欄第4行〜右下欄第1行)

(2)甲第2号証の記載内容
甲第2号証には、トナー担持体を潜像担持体に圧接して現像を行う現像装置に関して、図面とともに次の記載がある。

記載ク.「【請求項1】静電潜像パターンが形成された潜像担持体に圧接してトナーを供給するためのトナー担持体を具備してなる現像装置であって、前記トナー担持体がフォーム部とソリッド表層部とを有する発泡部材によって形成されてなり、前記フォーム部とソリッド表層部とは同一物質の連続相からなりこれらの間には実質的に界面が存在せず、かつ、前記発泡部材が厚さ方向に密度勾配を有することを特徴とする、現像装置。
・・・
【請求項9】
前記発泡部材の圧縮永久歪が20%以下(JIS-K-6301基準)である、請求項1に記載の現像装置。」(特許請求の範囲)
記載ケ.「【産業上の利用分野】本発明は、電子写真プロセスを用いて画像を形成する装置に関し、さらに詳しくは、トナー担持体を潜像担持体に圧接して現像を行う現像装置に関する。」(第0001段落)
記載コ.「さらに、発泡部材で構成されているトナー担持体は弾性体であるため、トナー担持体に永久歪が生じると感光体とトナー担持体とのニップ幅の変動、感光体への押し圧力の変動等が生じ、これに起因して著しい画像劣化が生じるおそれがある。このような欠点を低減するためには、トナー担持体の永久圧縮歪(JIS-K-6301の基準による)を20%以下にするのが好ましく、更には、5%以下にすると部品同志の圧接による変形を実質的に解消することができる。」(第0037段落)
記載サ.「この場合のバインダーとしては、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、直鎖状ポリエステル、ポリアミド樹脂、結晶性ポリオレフィン、架橋ポリオレフィン、非架橋ポリオレフィン、結晶性のあるポリオレフィン共重合体、フッ素樹脂、シリコンゴム、EPDM等の熱収縮性を有する材料が使用できる。また、バインダーとしてはポリウレタン樹脂の外、塩化ビニル、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルブチラール、ビニルホルマール、ビニルエチルエステル等のビニル共重合系樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセトブチレートやこれらに他の樹脂をブレンドしたもの等が使用できる。その外、EPDM、フッ素ゴム、シリコンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ネオプレンゴム、NBR等のゴム材料等、弾性あるいは可撓性を有する材料であればすべてバインダーとして使用することができる。」(第0039段落)

(3)甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、乾式複写機における紙送りロールなどのゴム部材に関して、図面とともに次の記載がある。

記載シ.「下記平均組成式(1)で示されるオルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴム組成物(A)と下記平均組成式(2)で示されるオルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴム組成物(B)とを混合してなることを特徴とする高摩擦用材料。
【化1】


(式中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基を示すが、R1のうちメチル基は95モル%以下、フェニル基は3モル%以上、ビニル基は0.2モル%以上であり、nは1.95〜2.05の正数である。)
【化2】


(式中、R2は非置換又は置換の一価炭化水素基を示すが、R2のうちメチル基は98モル%以上であり、mは1.95〜2.05の正数である。)」(特許請求の範囲)
記載ス.「【産業上の利用分野】
本発明は、高摩擦係数を有し、環境変化に対して安定した特性を得ることができ、乾式複写機における紙送りロールなどのゴム部材、電気工事分野、自動車部品等の輸送機分野などにおける使用に好適な高摩擦用材料及びその硬化物に関する。」(第0001段落)
記載セ.「シリコーンゴム組成物(A)には、必要に応じて湿式シリカ、乾式シリカ、石英粉、末端水酸基低粘度シリコーンオイル、カーボンファンクショナルシラン、シリコンオイルなど、公知の添加剤を添加してもよいが、添加剤を含まないポリマーのみの系であってもよい。」(第0022段落)
記載ソ.「硬化剤としては、シリコーンゴムの加硫に使用されるラジカル反応、付加反応、縮合反応等を利用して加硫、硬化させるもものであれば、その硬化機構に制限はなく、従来公知の種々の硬化剤を用いることができる。」(第0033段落)

(4)甲第4号証の記載内容
甲第4号証には、複写機、ファクシミリ、プリンター等の事務機に用いられる、印字用紙、原稿紙を搬送するのに好適な、高摩擦係数を有しかつ安定的な搬送力を有する給紙用ゴム部材に関して、図面とともに次の記載がある。

記載タ.「【請求項1】ビニル基含有オルガノポリシロキサン生ゴム100重量部に対し、煙霧質シリカ5〜40重量部、適量の分散剤、硬化剤として適量の非アシル系有機過酸化物を配合してなる組成物が芯体の外周部へ加圧加熱により成形され、前記組成物の硬化後の伸びが600%以下、引裂強度が15kgf/cm以下、硬度が15〜40°Hsであることを特徴とする給紙用ゴム部材。」(特許請求の範囲)
記載チ.「【産業上の利用分野】本願発明は複写機、ファクシミリ、プリンター等の事務機に用いられる、印字用紙、原稿紙を搬送するのに好適な、高摩擦係数を有しかつ安定的な搬送力を有する給紙用ゴム部材に関するものである。」(第0001段落)
記載ツ.「 以下に本願発明について詳しく説明する。
本願発明で用いるビニル基含有オルガノポリシロキサン生ゴムとしては、通常のシリコーンゴム成形用のものでよく、例えば、一般式
【化1】


(ここでRはメチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基から選択される同一または異種の1価の炭化水素基、nは100〜10,000の整数)で示され、全有機基中ビニル基を0.05〜3モル%含有するオルガノポリシロキサン生ゴムを挙げることができる。」(第0008段落)
記載テ.「次に、前記の硬化剤を混練した組成物を用いて給紙用ゴム部材を成形するが、その方法としては加圧加熱により硬化可能な方法、いわゆる金型を用いて成形する方法であれば特に限定されずに採用することができる。すなわち、コンプレッション成形、トランスファー成形、インジェクション成形等によればよい。さらに、これらの方法を適用するに際して、あらかじめ金型内へ芯体をセットしておいてその外周部へ組成物を一体成形したり、組成物のみをあらかじめ成形したのちに芯体へ圧入、接着する方法等、適宜選択することができる。また、ローラ形状の給紙用ゴム部材の場合、通常の円筒研削盤等を用いて表面を研磨加工するのも可能である。」(第0014段落)
記載ト.「実施例1
両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン生ゴム(ビニル基含有量0.15モル%)100重量部と添加量(重量部)を表1に示すように変化させた煙霧質シリカとの配合物に、適量の分散剤を加えてミキシングロールにて混練したのち、さらに加硫剤として2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.8重量部を加え、均一に混練して組成物としたのち2.3mmの厚みに分出しした。これを2mm厚みの金枠を有する金型内へ充填し、175℃、200kgf/cm2 の条件下で5分間加熱硬化し、2mm厚みのシート状成形品を得た。得られた成形品を200℃の乾燥機で4時間後処理したのち、幅30mm、長さ50mmにカットして短冊状の試験片を作成した。」(第0015段落)

4 当審の判断
(1)特許法第29条第2項違反について
(1-1) 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明は、給紙用ロールのシリコーンゴム被覆として、硬化後のJISK6301による反発弾性率が80%以上、25%の圧縮を70℃で22時間保持したときの圧縮永久歪が4%以下、100%モジュラスが0.3〜1.0MPaであるシリカ含有シリコーンゴム組成物を用いたものである。
そして、このシリコーンゴム被覆は、請求項1の記載並びに本件明細書の「本発明の給紙ロール被覆シリコーンゴムの反発弾性率は、シリコーンゴム組成物を硬化した後、JISK6301に基づく方法で測定したものであり、反発弾性率は80%以上、好ましくは82%以上、より好ましくは84%以上が適しており、反発弾性を80%以上にすることにより、紙面の凹凸部への追随性を確保することができ、ニップ面の運動性が向上し、伝達ロスの無いゴム材料となり、摩擦係数が優れた給紙用ロールの提供が可能となる。同時に、紙面の凹凸部の乗り越えやズレ発生が少なくなるため、摩耗性が向上する。」(第0012段落)との記載、「本発明のシリコーンゴム組成物で給紙用ロールを成形する方法は、例えば、圧縮成形機、射出成形機、トランスファー成形機等の周知のゴム成形機を用いて、まず、ロール芯金をシリコーンゴム組成物で被覆し、次いで、金型内の成形温度を150〜220℃、好ましくは165〜200℃、より好ましくは170〜180℃、成形時間を2〜15分、好ましくは5〜14分、より好ましくは8〜13分とする一次硬化工程と、例えば、熱風循環式オーブンを用い、二次硬化温度を150〜250℃、好ましくは170〜220℃、より好ましくは180〜210℃、二次硬化時間を0.5〜24時間、好ましくは1〜12時間、より好ましくは2〜6時間とする二次硬化工程からなる。」(第0034段落)との記載、及び「ロール成形後、必要に応じて研磨加工を加え、給紙用ロールを作成することができる。また、本発明の組成物を、従来の給紙用ロール表面に被覆後、これを硬化して給紙用ロールを成形することもできる。
給紙用ロールのシリコーンゴム層の厚みは1〜20mmが適している。成形厚みが1mmを下回ると、芯金の影響が紙面に伝わり易く、搬送力を低下させたり、摩耗性の悪化につながる。成形厚みが20mmを越えると、一次硬化の際に、内部の硬化が遅れるため、4%以下の良好な圧縮永久歪を得ることは困難である。成形厚みは2〜15mmであることが好ましく、3〜10mmであることがより好ましい。」(第0037段落)との記載から、紙に直接接触する部分を構成するものである。
一方、申立人の提出した甲第1号証には、シリコーンゴム層である弾性体層に、弗素樹脂である樹脂材を誘電加熱工程で処理し、表面樹脂層を有する弾性回転体について(上記記載ア参照)、その下層部分を構成するシリコーンゴムの反発弾性率について60〜85%であることの記載はあるものの、当該弾性回転体において、紙に直接接触する層はシリコーンゴム層ではなく弗素樹脂からなる表面樹脂層である。
また、紙に直接接触するシリコーンゴム層の反発弾性率について、申立人の提出した甲第2〜4号証において、記載も示唆もない。
そして、本件請求項1に係る発明は、硬化後のJISK6301による反発弾性率が80%以上、25%の圧縮を70℃で22時間保持したときの圧縮永久歪が4%以下、100%モジュラスが0.3〜1.0MPaであるシリカ含有シリコーンゴム組成物を給紙用ロールのシリコーンゴム被覆として採用することにより、「紙面の凹凸部への追随性を確保することができ、ニップ面の運動性が向上し、伝達ロスの無いゴム材料となり、摩擦係数が優れた給紙用ロールの提供が可能」(第0012段落)とするとの特有な効果を奏するものである。

したがって、請求項1に係る発明は、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

(1-2) 請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、給紙ロールに用いるシリカ含有シリコーンゴム組成物において、上記「1 本件各発明」の【化1】で表されるジオルガノシロキサンをシリカ処理剤として配合するものであり、本件明細書において、「本発明の給紙用ロールに用いるシリコーンゴム組成物のうち、最も重要な原料は、シリカ処理剤(C)成分であり、下記一般式で示されるジオルガノシロキサンを配合したものである。このジオルガノシロキサンは、シリコーンゴムの反発弾性を高いものとするために必要な成分である。
本発明において、シリカ処理剤による処理方法は特に限定されない。予め、シリカ表面を処理してもよく、他の成分を配合する際にシリカ表面処理剤を添加して処理してもよい。」(第0015段落)、「本発明のシリコーンゴム組成物において、シリカ処理剤(C)成分の配合量は、ジオルガノポリシロキサン生ゴム(A)成分100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜7重量部、より好ましくは2〜5重量部の範囲である。シリカ処理剤(C)成分の配合量がシリコーン生ゴム(A)成分100重量部に対して0.1重量部を下回ると、組成物の硬化前の混練作業性が悪化し、また、得られるシリコーンゴムの可塑化戻り現象が悪化する。一方、10重量部を越えると、組成物の硬化前の混練作業性及び成形性が悪化するので好ましくない。」(第0020段落)と記載され、シリカ処理剤がシリコーンゴムの反発弾性を高めるために重要な原料とされ、また、混練作業性及び成形性にも影響を与えるものとされている。
一方、申立人の提出した甲第1〜4号証には、給紙ロールに用いるシリカ含有シリコーンゴム組成物において、上記「1 本件各発明」の【化1】で表されるジオルガノシロキサンをシリカ処理剤として配合することの記載も示唆もない。
そして、本件請求項2に係る発明は、給紙ロールに用いるシリカ含有シリコーンゴム組成物において、上記「1 本件各発明」の【化1】で表されるジオルガノシロキサンをシリカ処理剤として配合し、該組成物の硬化後のJISK6301による反発弾性率が80%以上、25%の圧縮を70℃で22時間保持したときの圧縮永久歪が4%以下、100%モジュラスが0.3〜1.0MPaとすることにより、「紙面の凹凸部への追随性を確保することができ、ニップ面の運動性が向上し、伝達ロスの無いゴム材料となり、摩擦係数が優れた給紙用ロールの提供が可能」とするとの特有な効果を奏するものである。

したがって、請求項2に係る発明は、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

(1-3) 請求項3に係る発明について
請求項3は、請求項2を引用しており、請求項2に係る発明が、上記「4(1)(1-2)」で述べたように、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、請求項3に係る発明の特許も、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

(1-4)請求項5に係る発明について
請求項5は、請求項1を引用しており、請求項1に係る発明が、上記「4(1)(1-1)」で述べたように、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、請求項5に係る発明の特許も、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

(1-5)請求項6に係る発明について
請求項6は、請求項2又は3を引用しており、請求項2又は3に係る発明が、上記「4(1)(1-2)、(1-3)」で述べたように、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、請求項6に係る発明の特許も、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

(1-6)請求項7に係る発明について
請求項7は、請求項5又は6を引用しており、請求項5又は6に係る発明が、上記「4(1)(1-4)、(1-5)」で述べたように、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、請求項7に係る発明の特許も、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

(2)特許法第29条第1項第3号違反について
(2-1)請求項4に係る発明について
請求項4は、請求項2又は3を引用しており、「4(1)(1-2)、(1-3)」で述べたように、甲第4号証には、給紙ロールに用いるシリカ含有シリコーンゴム組成物において、上記「1 本件各発明」の【化1】で表されるジオルガノシロキサンをシリカ処理剤として配合することの記載も示唆もない。
したがって、請求項4に係る発明は、甲第4号証記載の発明であるということはできないから、請求項4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。

5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-03-03 
出願番号 特願平6-223655
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B65H)
P 1 651・ 113- Y (B65H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉野 裕幸  
特許庁審判長 鈴木 美知子
特許庁審判官 山崎 勝司
杉原 進
登録日 2002-12-13 
登録番号 特許第3380061号(P3380061)
権利者 錦城護謨株式会社 富士ゼロックス株式会社 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社
発明の名称 給紙用ロール、その製造方法及び給紙ロール用シリコーンゴム組成物  
代理人 吉田 研二  
代理人 金山 敏彦  
代理人 金山 敏彦  
代理人 石田 純  
代理人 吉田 研二  
代理人 石田 純  

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