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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1096002
審判番号 不服2001-13725  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-03 
確定日 2004-04-28 
事件の表示 平成 6年特許願第242314号「吸光度計の測定セル」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 3月26日出願公開、特開平 8- 82591〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成6年9月10日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成15年10月10日受付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項1】 内部に被検液と攪拌用回転子を収容するためのセル空間が形成され、側部に光源に対応するセル窓と光検出器に対応するセル窓とを対向配置するとともに、底部に被検液の導入・導出用配管が接続される開口を形成してなる吸光度計の測定セルにおいて、前記セル空間の平面視形状を左右方向およびこれに直交する方向における長さが互いに異なり、かつ、両方向においてそれぞれ対称であって、前記攪拌用回転子を用いた被検液などの攪拌を、容易かつ確実に行える中脹れ形状である菱形とするとともに、セル空間のより長大な方向を前記光源と光検出器とを結ぶ光路と一致させて、必要なセル長を確保しつつ、セル容量を小さくしてあることを特徴とする吸光度計の測定セル。」

2.当審の拒絶理由
一方、当審において平成15年8月15日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内で頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物1:実願平03-057652号(実開平05-003985号)のCD-ROM)
刊行物2:実願昭61-194633号(実開昭62-121546号)のマイクロフィルム)
刊行物3:実願平02-113349号(実開平04-070039号)のマイクロフィルム)

3.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
「比色計用測定セル」に関する上記刊行物1には、
(1a)その【実用新案登録請求の範囲】には、「【請求項1】内部に被検液を収容するためのセル空間が形成され、側部に光源に対応するセル窓と検出器に対応するセル窓とを対向配置すると共に、底面部に攪拌器を備えた比色計用測定セルにおいて、前記測定セルとして、撥水性樹脂ブロックを加工して内部に平面視円形のセル空間を有するように形成すると共に、セル空間の内部底面と内部側面との間に傾斜部を形成し、さらに、底面最下部に被検液のセル空間内への導入・導出用配管を接続したことを特徴とする比色計用測定セル。」が記載され、
(1b)実施例として【図1】に、被検液が収容される平面視円形のセル空間33の内部に攪拌用回転子19が収容され、底部に被検液の導入・導出用配管22が接続される開口47を形成してなる吸光度計の測定セルが記載され(【0011】〜【0015】(なお、【図1】について説明する【0013】、【0015】では該配管を「配管20」と記載しているが、【0011】に「図1は、本考案に係る測定セルを用いた比色計の構成を示し、この図において、図2に示した符号と同一符号は同一物また相当物を示している。」と記載され、図2においては、符号20が攪拌用回転子19を回転させるための測定セル底面外部に設けられた「マグネット20」に対して用いられ、符号22が「導入・導出用配管22」に対して用いられているから、上記の「配管20」は「配管22」の誤記と認められる。)、
(1c)また、その従来技術として、内部に被検液と攪拌用回転子21を収容するためのセル空間が形成され、側部に光源に対応するセル窓と光検出器に対応するセル窓とを対向配置するとともに、底部に被検液の導入・導出用配管22が接続される開口23を形成してなる吸光度計の測定セルにおいて、前記セル空間の平面視形状を直方体または立方体とするとともに、セル空間のより長大な方向を前記光源と光検出器とを結ぶ光路と一致させて、必要なセル長を確保した吸光度計の測定セルが記載されている(【0002】〜【0004】、【図2】)とともに、
(1d)直方体形状のものでは、底部のコーナー部における被検液の排出が完全でなく、次回の測定に悪影響が及ぼされることや、測定セル1内壁を共洗いした後に被検液の排出にも時間がかかるというような不都合があることが記載され(【0006】)、
(1e)請求項1記載の構成の測定セルは、被検液が早く排出し、また洗浄も早く行えることが記載されている(【0009】)。

(2)刊行物2
また、上記刊行物2には、「混合キュベット」について、
(2a)実用新案登録請求の範囲に、「(1) 回転運動または高速円形水平運動によって物質を混合する混合キュベットであって、
上方域1及び下方計測城25からなり、
当該計測域25の下縁が内底面24で終端する底壁と、
当該底壁から上方に対向し且つ平行に延びてそれらの間で計測域25を限定する壁であって、計測方向がこれらの壁を垂直に縦断するように計測域25を限定する壁部分2,3と、
それぞれが前記計測域25の両端における前記対向する壁部分2,3の間にまたがる一対の断面く字形の側壁4,5と有し、 ,
前記く字形の側壁4,5のそれぞれが、前記上方域1及び計測域25を通って延びるキュベットの仮想縦方向中央軸を含み、且つ前記計測方向と直交する平面上に頂点を有するキュベット下部の内面を限定し、
前記側壁4,5の内面のそれぞれが、前記頂点を起点とし且つ互いに鈍角をなす面部分7,8,9,10を含むことにより前記計測方向と直交する方向に前記計測域26の中央部を拡張すること、
を特徴とする混合キュベット。
・・・・・
(8)前記計測域25において測光光路を構成する壁部分2,3が、横断面形状において菱形の両鋭角部を面取りした形状を呈することを特徴とする実用新案登録請求の範囲第(7)項に記載の混合キュベット。」と記載され、
(2b)その第4〜5頁の[産業上の利用分野]の欄に、「本考案は、溶液、物質を回転混合によって混合するキュベットであって、特に少くとも一つの計測区間の区域において小さな容積と高い充填高を有し、さらに計測方向の壁距離が予め与えられている急速な円形の水平運動によって物質を混合するための混合キュベットに関する。」と記載され、
(2c)第5〜7頁の[従来の技術]の欄には、
(2c1)「この種混合キュベットは、計測距離に関すれば、計測方向の距離は10mmであることが望ましい。このような混合キュベットにおいては、種々の内容物が次のようにして混合される。すなわちキュベットは、その垂直の中心軸のまわりに殆ど360°・・・・回転運動がこの中心軸のまわりになされる。この運動における停止と逆転運動時の衝撃によって内容物が混合されることになるのである。すなわち、混合キュベット内の成分は内壁部分において種々に加速され、乱流によって混合される。」(第5頁3〜13行)という混合についての記載と、
(2c2)別の公知の混合手段として、キュベットの中にペダル状の端部を存する攪拌棒を挿入してこの攪拌棒をキュベットに対して回転、すなわち、キュベットを静止しておいて内容物を攪拌するという手段と、円筒状のキュべットの底にこのキュベットの中央軸方向に上方に突出するへらを取り付け、キュベットがその軸のまわりに回転する際にそのへらが内容物のかき立て及び十分な攪拌混合を起すようにするものも知られていることが、それぞれの手段の、キュベットが大きな横断面を要し多くの試料を要するとか、計測のために別の測定場所への搬送や測定がへらの上方に限られるので多くの試料を要するなどの欠点とともに記載され(第5頁末行〜第7頁9行)、
(2d)実施例について、
(2d1)「望ましい実施例においては、下方域における側壁が上方の円筒状の、または仮想の円筒の中にある区域に対して斜めに内方に向かって引っ込まされる。このとき、キュベットの縦方向中央軸に対して平行に延びる壁部分に対して斜めに外下方に延びる放物線状の境界線が鈍角をなして相接する側壁の外面上縁において生ずる。これによって小容積、特に計測域の小容積化が図られる。また、取扱われるべき流動体を計測域へ滑らかに供給でき、さらに良好な混合結果が得られる。この混合結果は、垂直及び斜め上方に拡がる壁部分が少なくとも混合過程中に湿らされるときに常に観察されるものである。計測域は、この望ましい構成では、横断面形状において菱形の両鋭角部を平行に切断した六角形状の断面からなる。」(第10頁1〜15行)と記載され、
(2d2)Fig.1〜5に図示された実施例について、「計測域25はできるだけ小さい容積に形成する、という条件に鑑み、キュベットは計測域25の対向する側面が内方に向かって引っ込められている。」(第12頁10〜12行)、「上方域に対して引っ込められた垂直の側壁を、第1図及び第2図において全体的に符号4及び5で示してある。これらの側壁4,5は・・・平面部分7,8または9,10からなる。引っ込みの程度はたとえば上方域1の直径の1/6程度である。」(第12頁末行〜第13頁7行)という記載とともに、一対の断面く字形の側壁4,5と壁部分2,3とが菱形の両鋭角部を平行に切断した六角形状を構成し、より長い壁間距離を有する壁部分2,3が円筒状の上方域1を示す円に対して内接し、側壁4,5は該円に接することなくその内方に存在する、すなわち側壁4,5間の距離は該円に等しい壁部分2,3間距離より短いことがFig.2に図示されており、
(2e)測定域のより長大な壁部分2、3に垂直な方向が光源と光検出器とを結ぶ光路と一致させられて測光的計測が行われること(14頁3行〜8行)が記載されている。

4.本願発明と刊行物1記載の発明との対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、
(一致点)
「内部に被検液と攪拌用回転子を収容するためのセル空間が形成され、側部に光源に対応するセル窓と光検出器に対応するセル窓とを対向配置するとともに、底部に被検液の導入・導出用配管が接続される開口を形成してなる吸光度計の測定セル。」
である点で一致するものの、次の点で相違する。
(相違点)
該測定セルのセル空間について、本願発明では、前記セル空間の平面視形状を左右方向およびこれに直交する方向における長さが互いに異なり、かつ、両方向においてそれぞれ対称であって、前記攪拌用回転子を用いた被検液などの攪拌を、容易かつ確実に行える中脹れ形状である菱形とするとともに、セル空間のより長大な方向を前記光源と光検出器とを結ぶ光路と一致させて、必要なセル長を確保しつつ、セル容量を小さくしてあるものであるの対し、刊行物1記載の発明では、前記セル空間の平面視形状が円形である点。

5.相違点についての検討
しかしながら、測定セルのセル空間の平面視形状を、直径Dの円形でなく、菱形の両鋭角部を面取りのために平行に切断した六角形状の断面からなる形状とすると、その光路長となる長軸方向寸法がDであっても、それに直交する短軸方向寸法はDより短い寸法になり内方に引っ込められているので、その第2図の記載から幾何学的に明らかなように、直径Dの円形のものに比較してその断面積が減少し、必要な測定域の容積を小容積化できることが、刊行物2に記載されている(前記記載(2d)、(2e)参照)。
また、内部に被検液と攪拌用回転子を収容するためのセル空間が形成され、側部に光源に対応するセル窓と光検出器に対応するセル窓とを対向配置するとともに、底部に被検液の導入・導出用配管が接続される開口を形成してなる吸光度計の測定セルにおいて、測定セルのセル空間の平面視形状は、測定に必要なセル長を確保するために、円形や正方形のように、光源と光検出器とを結ぶ光路方向の寸法とそれに直角な方向の寸法とが等しい形状とすることだけでなく、それらの寸法に長短があり、セル空間のより長大な方向を光源と光検出器とを結ぶ光路に一致させている直方体形状とすることも、刊行物1にも従来技術として記載されている(前記記載(1c)参照)ように、本願出願前周知の事項にすぎない。
刊行物1記載の発明は、測定セルのセル空間の平面視形状が円形であって、請求人も意見書で主張の如く、本願明細書の段落【0002】に記載の従来技術に当たるもので、段落【0003】に記載のように、測定に必要なセル長を確保するためには、多くの被検液や試薬を要するという不都合があるものであるから、そのような吸光度計の測定セルを、測定に必要なセル長を確保しながら、被検液や試薬の必要量を低減できる小容積なものとすることは、当業者であれば普通に考える技術的課題にすぎず、測定セルのセル空間の平面視形状を、円形ではなく、その両鋭角部を面取りした菱形とすると、測定に必要なセル長を確保しつつその容積をより小さなものとすることができるという刊行物2に記載された測定セルの小容積化についての技術的工夫を適用して、測定セルのセル空間の平面視形状を、円形ではなく、左右方向およびこれに直交する方向における長さが互いに異なり、かつ、両方向においてそれぞれ対称なその両鋭角部を面取りした菱形のものにするようなことは当業者が容易に設計変更し得る範囲内の事項である。
そして、本願発明においては、特にその両鋭角部を面取りした菱形について、「攪拌用回転子を用いた被検液などの攪拌を、容易かつ確実に行える中脹れ形状である菱形とする」ものであるが、「中脹れ形状である菱形」という形状が刊行物2のFig.2に図示された、くの字形の側壁4,5を有する測定域25の形状と格別相違するものではなく、しかも平面視形状が寸法に長短があるが攪拌用回転子の長さを短辺未満の長さにしか取れない直方体形状のものに比べ、同一断面積であっても菱形であるため短軸方向に中膨れさせることができる分だけ攪拌用回転子の長さを大きく取ることができ、その結果、攪拌回転子の通過せず内容液が直接混合されないセル内壁までの空間をなるべく少なくでき混合に都合がよいことは、幾何学上及び混合技術上自明なことにすぎず、「攪拌用回転子を用いた被検液などの攪拌を、容易かつ確実に行える」という点も、その形状から普通に導かれる機能であって、格別の事項ではない。

なお、請求人は、当審拒絶理由に対して意見書を提出し、刊行物2に記載された発明における混合が、キュベット側を回転させ混合するものである点や、静止したキュベットの中にペダル状の攪拌棒を挿入して攪拌棒を回転させ内容物を混合したり、回転するキュベットの底の中央に上方へ突出するへらを取り付け、キュベットが回転する際にそのへらで内容物を攪拌混合する従来技術が、いづれも試料容積や混合性の点で不都合があること等が刊行物2に記載されていることを挙げて、円形のセル空間の平面視形状を有しかつセル空間内部に攪拌回転子を有する刊行物1の測定セルに対する、刊行物2に記載された発明の開示技術の適用の困難性を主張している。しかしながら、吸光度計の測定セルにおける測定に必要なセル長を確保しながら、被検液や試薬の必要量を低減できる小容積なものするという技術的課題に対して、測定セルのセル空間の平面視形状が円形である場合と、該円形に内接するように内方に引っ込まされた菱形形状の場合の面積の相違に基づく、セル空間容積の低減化は、幾何学的問題であって、測定セル内の内容物の混合方式に関係のない事項であるから、刊行物2における混合方式が刊行物1と相違していることが、セル空間容積の低減化手段を採用することの阻害要因になるものということはできない。

6.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1〜2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-02-13 
結審通知日 2004-02-24 
審決日 2004-03-08 
出願番号 特願平6-242314
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 竜介横井 亜矢子  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 橋場 健治
菊井 広行
発明の名称 吸光度計の測定セル  
代理人 藤本 英夫  

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