• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E02B
管理番号 1097242
審判番号 不服2003-14731  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-30 
確定日 2004-05-20 
事件の表示 特願2000-380687「樹皮を含有する油吸着材」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月26日出願公開、特開2002-180447〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年12月14日の出願であって、平成15年6月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月11日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成15年8月11日付けの手続補正に対する補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年8月11日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、

「【請求項1】外部カバーにロープを付設した透液性材料からなる外部カバーと、該外部カバーの内部に充填される長さ0.1mmから数cmの選別された粉末状又は繊維状の樹皮の充填材とを包含し、樹皮を充填した外部カバーを平たいシート状に加工し、キルティングを施した油吸着材において、充填材としての樹皮に、撥水剤の添加又は樹皮を撥水加工すると共に、パーライト等の浮力増強材を混入し、外部カバーに付設したロープを備えると共に、縦方向に連結する油吸着材の端部に間隔を空けた2本以上の連結用補助ロープをも付設し、2本以上の連結用補助ロープの結束によって重複部分を有しつつ連結可能としたことを特徴とする水面に浮遊する油を包囲及び吸収及び付着するための油吸着材。」と補正された。
上記補正は、請求項1に記載の発明を特定するために必要な事項である「ロープを付設した透液性材料からなる外部カバー」において、ロープを付設するのに「直接又は網を介して」から実質的に「直接」との限定を付加するものであり、また、「樹皮等の充填材」を「樹皮の充填材」と限定し、さらに、「重複部分を有しつつ連結可能」とするのに、2本以上の連結用補助ロープの「結束によって」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載の発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に国内において頒布された刊行物である、特開2000-233182号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「油吸着材」に関して、次の記載がある。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】水面に浮遊する油を包囲および吸収および付着する目的で用いる、長さ数mmから数cmの樹皮を充填した網状の外部カバーから成る油吸着材。
【請求項2】請求項1の油吸着材を平たいシート状に加工し、キルティングを施したもの。
・・・
【請求項5】請求項1の油吸着材を構成する樹皮に撥水処理、合成樹脂および鳥類の羽根を添加したもの。
【請求項6】請求項1から4を構成する、樹皮および少量の添加物を充填する目的で入口を持つ袋状に加工した網。」、

(イ)「【0013】
【課題を解決するための手段】杉などの樹皮を木本体から離脱させる際には通常、長さ数mm以下の粉末状のものから数十cm程度の繊維状のものまで種々の形状のものが生ずる。・・・本発明では、生じる樹皮の内、長さ数mmから数cmのものを選別して使用することにより、粘度の高い油の通過を妨げない目の大きさを持つ網状の外部カバーに充填しても、樹皮が大量にこぼれ落ちて機能を損ねることのない状態を実現する。・・・
【0015】また、樹皮の水中での親油性および疎水性を高め、油吸着材としての機能を強化するために、樹皮に予め撥水剤を混入するなどの撥水加工を施すことも可能である。また、吸収および付着した油を長時間保持するために、少量の合成樹脂を添加することも可能である。また、吸収および付着する油の種類を増やすなど機能を拡張するために少量の鳥類の羽根を添加することも可能である。
【0016】外部カバーは、対象とする油の粘度により最適な目の大きさが異なるが、例えば1mmから1cm程度のものを用いると重油などの粘度の高い油の通過を妨げず、かつ樹皮が大量にこぼれ落ちることもなく、目的の用途に適している。
【0017】この外部カバーの材質は、特に油の包囲および吸収および付着の機能を大きく左右するものではなく、取り扱い時に破損しない程度の強度を持ち、本体が沈降してしまわない程度に軽いものであれば、安価なポリエチレン製の網や使用済みの漁網などでも構わないが、樹皮の使用後の燃焼処理が容易である利点を損なわないためにも、同様の利点を持つ綿などの天然素材を用いることが望ましい。なお、樹皮の見かけの比重は杉の場合で乾燥状態で0.03から0.1、浸水後で0.1から0.3程度であり、金属性の重い網などを用いない限り本体が沈降することは無い。
【0018】この外部カバーと樹皮から成る油吸着材は、それ単体でオイルフェンス(ブーム)として水面に浮遊する油を囲い込み、油の回収を容易にする目的で使用することが出来る。」、

(ウ)「【0020】
【発明の実施の形態】図1に示す実施例1では、平たいシート形状の網から成る外部シート1に樹皮2が充填されている。また、樹皮が内部で移動しないように適当な間隔で糸によるキルティング3を施している。また、両端部に展張作業あるいは回収作業に使用するロープ4を有する。」、

(エ)「【0025】
【発明の効果】本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
【0026】本発明では、生じる樹皮の内、長さ数mmから数cmのものを選別して使用しているので、樹皮が大量にこぼれ落ちて機能を損ねることのなく、安定した油吸着機能を維持することが出来る。
【0027】また、目の粗い網状の外部カバーに充填することが出来るので、細かい網目が油の通過を妨げて油の吸着に支障をきたすことがなく、これまで回収が困難とされたC重油やムース化油のような粘度の高い油の包囲および吸収および付着に用いることが出来る。
【0028】これにより、大量に発生するものの従来は大半が燃焼か埋立によって処理され、産業廃棄物として厄介な存在であった樹皮(特に杉)が有効活用できるため、環境保全の観点から望ましい上、世界各地で安定供給が可能である。
【0029】特に、廃棄物を原料とするために従来の新品の石油製品である油吸着材に比べ、はるかに安価であり、事業者の負担とならず大量の備蓄が可能である。また、油流出事故で直接の被害者となりやすい漁民や地元民が、自衛のために備蓄することもコスト面から難しいことではなく、対策上、最も重要とされる事故直後の初期の対応が彼ら沿岸民によって可能となるため、効果は計り知れない。」

また、第1図から、外部カバー1に(直接)ロープ4を付設しているのは明らかである。

したがって、上記(ア)〜(エ)の記載を含む明細書全体の記載及び図面からみて、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認める。

「外部カバー1にロープ4を付設した外部カバー1と、該外部カバー1の内部に充填される長さ数mmから数cmの選別された粉末状又は繊維状の樹皮2とを包含し、樹皮2を充填した外部カバー1を平たいシート状に加工し、キルティング3を施した油吸着材において、充填材としての樹皮2に、撥水剤の添加又は樹皮2を撥水加工すると共に、外部カバー1に付設したロープ4を備えた、水面に浮遊する油を包囲及び吸収及び付着するための油吸着材。」

同じく、特開昭53-98152号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の記載がある。

(オ)「本発明の浮上油処理方法は、草炭繊維のような天然繊維質吸油材を合成繊維製ロープか不織布等で製作された網状容器に収納し、網状容器と組合された浮材の作用によつて吸油材のほぼ半ば以上が水面上に浮上して存在するように保持し、・・・
天然繊維を収納した網状容器はポリウレタンフォームのような浮材と組合せて使用される。」(公報2頁左上欄14行〜右上欄11行)、

(カ)「実施例1
合成樹脂製ネツト中に比重0.08の草炭繊維からなる吸油材パーツと30倍発泡ポリスチロール製浮材パーツとをそれぞれの長さが500mmおよび250mmとなるように交互に収納して直径300mm、長さ11.8mの円筒状構造体を製作し、その両端を連結して1辺が約2.5mの方形の解凍排水処理場を設けた。」(同頁右下欄16行〜3頁左上欄2行)

同じく、特開平11-36272号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の記載がある。

(キ)「【0019】・・・本発明の・・・油吸着型オイルフェンスは、隣接する他の油吸着型オイルフェンスと連結可能なフェンス連結部材を、・・・筒袋のフェンス連結方向の端部に設けることが好ましい。・・・
【0020】フェンス連結部材としては、面ファスナやロープのほか、・・・例えば、一方の油吸着型オイルフェンスの一部を構成する筒袋の端部に、他方の油吸着型オイルフェンスの筒袋の端部を差し込み、この重合部分をロープで連結したり、・・・
【0021】・・・本発明の・・・油吸着型オイルフェンスは、親油性を有する異形繊維状物の布帛からなるスカートを、上記筒袋の外周面に取り付けることが好ましい。・・・
【0022】・・・スカートは、好ましくは筒体と一体に設けた方がよい。また、スカートを設ける位置は、・・・好ましくは海面または水面に浮かぶ筒体の海面または水面と同じレベルである。
【0023】さらに、本発明の上記油吸着型オイルフェンスは、上記隣接する他の油吸着型オイルフェンスと連結可能なフェンス連結部材を、上記スカートのフェンス連結方向の端部に設けることが好ましい。・・・
【0024】・・・フェンス連結部材としては、面ファスナやロープ・・・などが挙げられる。例えば、突き合わされる一方のスカートの端部と他方のスカートの端部とを重ね合わせ、この重合部分をロープで連結してもよい。
【0025】さらに、本発明の上記油吸着型オイルフェンスは、上記フェンス連結部材が面ファスナおよび/またはロープであることが好ましい。・・・
【0026】また、フェンス連結部材にロープを採用した場合には、突き合わされる両油吸着型オイルフェンスの端部どうしをロープで締結するので、しっかりとした連結が実現できる。なお、ロープの素材はポリエステルが好ましい。・・・」
また、図1には、フェンス連結部材16としてロープであるものが記載され、図3には、前記ロープを結束し、油吸着型オイルフェンス10、10同士が重複部分を有しつつ連結されたものが記載されている。

(3)対比・判断
刊行物1に記載の発明と本願補正発明とを対比すると、刊行物1に記載の発明の外部カバー1も粘度の高い油の通過を妨げない目の大きさをもつものであるから、透液性材料からなるものといえる。さらに、刊行物1に記載の発明の長さ数mmから数cmの樹皮2も、本願補正発明の長さ0.1mmから数cmの樹皮2の充填材も共に、所定長さの樹皮の充填材という点で共通している。
したがって、両者は、
「外部カバーにロープを付設した透液性材料からなる外部カバーと、該外部カバーの内部に充填される所定長さの選別された粉末状又は繊維状の樹皮の充填材とを包含し、樹皮を充填した外部カバーを平たいシート状に加工し、キルティングを施した油吸着材において、充填材としての樹皮に、撥水剤の添加又は樹皮を撥水加工すると共に、外部カバーに付設したロープを備え、水面に浮遊する油を包囲及び吸収及び付着するための油吸着材。」という点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:本願補正発明において、外部カバーの内部に充填される選別された粉末状又は繊維状の樹皮の長さが0.1mmから数cmであるのに対して、刊行物1に記載の発明のものは、数mmから数cmのものである点。

相違点2:本願補正発明においては、樹皮の充填材の他に、パーライト等の浮力増強材を混入しているのに対して、刊行物1に記載の発明では、 パーライト等の浮力増強材を混入していない点。

相違点3:本願補正発明においては、(外部カバーの)縦方向に連結する油吸着材の端部に間隔を空けた2本以上の連結用補助ロープをも付設し、2本以上の連結用補助ロープの結束によって重複部分を有しつつ連結可能としているのに対して、刊行物1に記載の発明では、そのような連結用補助ロープを付設して、該ロープの結束によって重複部分を有しつつ連結可能としていない点。

そこで、まず、上記相違点1について検討すると、刊行物1には、「本発明では、生じる樹皮の内、長さ数mmから数cmのものを選別して使用することにより、粘度の高い油の通過を妨げない目の大きさを持つ網状の外部カバーに充填しても、樹皮が大量にこぼれ落ちて機能を損ねることのない状態を実現する。」(段落【0013】)と記載があるように、本願補正発明と同じ目的で、外部カバーに充填する樹皮としてその長さが特定範囲のものを選別して使用する点が記載されており、樹皮の長さとしてどの数値範囲にあるものを選別して使用するようにするのかは、安定した油吸着機能の維持に鑑みて、当業者が適宜必要に応じて決めることである。
次に、上記相違点2について検討すると、刊行物2には、吸油材の浮力を保持するために、草炭繊維からなる吸油材パーツ(本願補正発明の「樹皮の充填材」に相当する。以下、同様に記載する。)の他に、30倍発泡ポリスチロール製浮材パーツ(「浮力増強材」)を収納した構造体が記載されており、また、浮力を与えるための軽量な物質として、パーライトを用いることも、例えば、特開平10-219236号公報、特開2000-170145号公報等に示すように周知技術にすぎない。
したがって、油吸着材の浮力増強を目的として、刊行物1に記載の発明に、刊行物2に記載の上記構成及び周知技術を適用して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到しうることである。
最後に、上記相違点3について検討すると、刊行物3には、一方の油吸着型オイルフェンスの端部と隣接する他方の油吸着型オイルフェンスの端部(「連結する油吸着材の端部」)にそれぞれロープ16(「連結用補助ロープ」)を付設して、該端部どうしを重ね合わせ、この重合部分(「重複部分」)をロープ16(「連結用補助ロープ」)の結束によって連結すること(「連結可能としたこと」)が記載されているから、油吸着材どうしの連結を目的として、刊行物1に記載の発明に、刊行物3に記載の上記構成を適用して、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到しうることである。
また、連結用補助ロープを付設する場合に、連結部からの油の散逸が防止できるよう、より強固に連結するため、連結用補助ロープを間隔を空けて2本以上付設するようにすることは、当業者が適宜行う事項にすぎない。
そして、全体として本願補正発明の奏する作用効果も、刊行物1ないし3に記載の発明及び周知技術から当業者であれば当然に予測できる程度のものであって顕著なものではない。
したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし3に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成15年8月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年3月17日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】外部カバーに直接又は網を介してロープを付設した透液性材料からなる外部カバーと、外部カバーの内部に充填される長さ0.1mmから数cmの選別された粉末状又は繊維状の樹皮等の充填材とを包含し、充填材としての樹皮に、撥水剤の添加又は樹皮を撥水加工すると共に、パーライト等の浮力増強材を混入し、樹皮を充填した外部カバーを平たいシート状に、キルティングを施して加工された外部カバーとし、縦方向に連結する油吸着材の端部に間隔を空けた2本以上の連結用補助ロープを付設して、重複部分を有しつつ連結可能としたことを特徴とする水面に浮遊する油を包囲及び吸収及び付着するための油吸着材。」

(1)刊行物に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の上記2.(1)で指摘した各構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、刊行物1ないし3に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1ないし3に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし3に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-17 
結審通知日 2004-03-23 
審決日 2004-04-05 
出願番号 特願2000-380687(P2000-380687)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E02B)
P 1 8・ 575- Z (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 真理子  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 藤原 伸二
新井 夕起子
発明の名称 樹皮を含有する油吸着材  
代理人 西澤 利夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ