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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1097910
異議申立番号 異議2002-72060  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-21 
確定日 2004-03-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3259609号「成形品」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3259609号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3259609号は、平成7年9月22に出願された特願平7-268063号の出願に係り、平成13年12月14日にその設定登録がなされた後、日本ゼオン株式会社から特許異議の申立てがあり、それに基づく特許取消の理由通知に対し、平成15年1月16日付けで訂正請求がなされたものである。

[2]訂正前の本件特許に対する特許異議申立人の主張の概要
訂正前の本件特許に対し、特許異議申立人日本ゼオン株式会社は、下記甲第1号証〜甲第9号証を提示し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、その明細書には記載の不備があるから、本件は、特許法第36条の規定を満足しない出願に対して特許されたものであって、それら理由により、本件特許は取り消されるべきである旨、主張している。

甲第1号証:特開平4-276253号公報
甲第2号証:特開平7-166011号公報
甲第3号証:特開昭62-206704号公報
甲第4号証:特開平1-132626号公報
甲第5号証:特公昭59-12467号公報
甲第6号証:特開昭63-264348号公報
甲第7号証:特公平3-78258号公報
甲第8号証:特開平5-330560号公報
甲第9号証:「プラスチック事典」株式会社朝倉書店、1992年3月1 日発行、408〜413頁

[3]本件訂正請求
(1)訂正事項
本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。
(1-1)訂正事項a
請求項1の「熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ただし、ガラス転移温度が145℃以下の樹脂を除く)からなる成形品の表面に、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなるガスバリア層を積層してなる、成形品。」を「下記一般式(II)〜(III)で表されるノルボルナン骨格を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ただし、ガラス転移温度が145℃以下の樹脂を除く)からなる成形品の表面に、酢酸ビニル単位あたりのケン化度が80〜99.5%で、かつ酢酸ビニル単位の含有量が5%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなるガスバリア層を積層してなる、成形品。
【化1】


【化2】


[一般式(II)〜(III)中、A,B,CおよびDは、水素原子または1価の有機基を示し、A,B,CおよびDのうちに極性基を含む。]」に訂正する。
(1-2)訂正事項b
明細書の段落【0005】における「本発明は、熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ただし、ガラス転移温度が145℃以下の樹脂を除く)からなる成形品の表面に、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなるガスバリア層を積層してなる、成形品を提供するものである。」を「本発明は、下記一般式(II)〜(III)で表されるノルボルナン骨格を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ただし、ガラス転移温度が145℃以下の樹脂を除く)からなる成形品の表面に、酢酸ビニル単位あたりのケン化度が80〜99.5%で、かつ酢酸ビニル単位の含有量が5%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなるガスバリア層を積層してなる、成形品を提供するものである。」に訂正する。
(1-3)訂正事項c
明細書の段落【0006】における「本発明の成形品に用いられる熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、その繰り返し単位中にノルボルナン骨格を有するものである。例えば、この熱可塑性樹脂としては、一般式(I)〜(IV)で表されるノルボルナン骨格を含むものである。」を「本発明の成形品に用いられる熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、その繰り返し単位中に一般式(II)〜(III)で表されるノルボルナン骨格を含むものである。」に訂正する。
(1-4)訂正事項d
明細書の段落【0007】において【化1】、【化4】とそこに表される化学式を削除し、次に【化2】を【化3】に、【化3】を【化4】に訂正する。
(1-5)訂正事項e
明細書の段落【0008】における「(式中、A,B,CおよびDは、水素原子または1価の有機基を示す。)」を「[一般式(II)〜(III)中、A,B,CおよびDは、水素原子または1価の有機基を示し、A,B,CおよびDのうちに極性基を含む。]」に訂正する。
(1-6)訂正事項f
明細書の段落【0021】における「含んでいるで」を「含んでいるので」に訂正する。

(2)訂正可否の検討
(2-1)訂正事項aは、特許請求の範囲において、(i)熱可塑性ノルボルネン系樹脂を限定し、(ii)エチレン-酢酸ビニル共重合体を限定する、ものであるが、前者については、訂正前の明細書の段落【0007】及び段落【0011】に、後者については、訂正前の明細書の段落【0018】に、それぞれ明記されていたものであるから、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をするものである。
(2-2)訂正事項b〜eは、上記特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれに整合させるものであり、訂正事項fは、それ自体明白な誤記の訂正をするものであるから、これら訂正は、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で、明りょうでない記載の釈明をし、又は誤記の訂正をするものである。
(2-3)そして、これら訂正により特許請求の範囲が実質上拡張若しくは変更されるものでもない。
したがって、本件訂正請求は、所定の規定を満足するものとして認めることができる。

[4]本件発明
本件発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により構成される以下のとおりのものである。
「下記一般式(II)〜(III)で表されるノルボルナン骨格を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ただし、ガラス転移温度が145℃以下の樹脂を除く)からなる成形品の表面に、酢酸ビニル単位あたりのケン化度が80〜99.5%で、かつ酢酸ビニル単位の含有量が5%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなるガスバリア層を積層してなる、成形品。
【化1】


【化2】


[一般式(II)〜(III)中、A,B,CおよびDは、水素原子または1価の有機基を示し、A,B,CおよびDのうちに極性基を含む。]」

[5]特許異議申立てについて
[5-1]特許法第29条第2項の規定の適用について
(1)甲号証各刊行物の記載事項
甲第1号証には、「【請求項1】 壁面が材質の異なる少なくとも2層を含む多層からなる容器であって、その内の少なくとも1層が熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなることを特徴とする医療用または食品包装用容器。
【請求項2】 他の少なくとも1層が20℃における酸素透過速度が0.5cc/m2・24hr・atm以下であるガスバリヤー性樹脂層である請求項1記載の容器。」(特許請求の範囲の請求項1,2)についての発明が記載され、「本発明の目的は、耐水蒸気透過性に優れ、内容物の水分含有量等の組成変化がない医療用または食品包装用容器を提供することにある。
また、本発明の目的は、水分の不透過性およびガス不透過性を備えた容器を提供することにある。本発明の他の目的は、水分の不透過性に優れているとともに、透明性が良好で、吸水白化による白濁がなく、内容物の成分、組成、色等を光学的方法により検知可能な容器を提供することにある。」(段落【0005】)、「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー層とガスバリヤー性樹脂層を含む多層とすることにより、耐水蒸気透過性、かつ、ガスバリヤー性の容器が得られる。また、透明樹脂層および/または透明ガスバリヤー性樹脂層と組み合わせることにより、水分の不透過性を有するとともに、透明性に優れた容器を得ることができる。」(段落【0006】)及び「本発明の目的からは、上記の極性基を含まないモノマーだけからなる熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーが、水分の不透過性の点から好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲で一部極性モノマーを共重合したポリマーであっても良い。この場合の極性モノマーは上記のノルボルネン系モノマー類に塩素や臭素などのハロゲン基やエステル基を導入した置換体を挙げることができる。」(段落【0012】)との記載がなされている。
甲第2号証には、「環状オレフィン成分5〜60モル%を有するポリオレフィン75〜97.5重量%に対し、炭素数が2〜20のα-オレフィンからなるポリオレフィン樹脂を2.5〜25重量%を溶融混合してなる樹脂組成物から成形される耐衝撃性、及び耐熱性に優れた防湿性容器。」(特許請求の範囲の請求項1)の発明が記載され、「環状オレフィン成分としては、例えばビシクロ(2.2.1)ヘプト-2-エンまたはその誘導体,テトラシクロ(4.4.0.12,5 .17,10)-3-ドデセンまたはその誘導体,・・・等を挙げることができる。」(段落【0008】)及び「ガスバリア性樹脂(C)としては、エチレン含量が25〜60モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96%以上にケン化して得られる共重合体や、炭素数100個あたりのアミド基の数が3〜30個の範囲で含有されるホモポリアミド、コポリアミド、またはそのブレンド樹脂が好適に使用し得る。」(段落【0019】)の記載がなされている。
甲第3号証には、「テトラシクロドデセンまたはその誘導体:50〜100モル%およびノルボルネンまたはその誘導体:0〜50モル%からなる開環重合体を水添反応させて得られる重合体の延伸または無延伸のシートまたはフイルムの表面に導電性の有機膜または金属膜を設けたことを特徴とする導電性複合材料。」(特許請求の範囲第1項)の発明が記載され、「そこで本発明者らは機械的性質、光学的性質、電気的性質、熱的性質、化学的性質に優れた透明導電性フイルムや高周波用として好適なる電気回路基板を提供せんものと検討した結果、特定の重合体を基材に使用すると目的を達成できることを見い出した。」(2頁右下欄)、そして「すなわち、本発明はテトラシクロドデセンまたはその誘導体:50〜200モル%およびノルボルネンまたはその誘導体:0〜50モル%からなる開環重合体を水添反応させて得られる重合体の延伸または無延伸のシートまたはフイルムの表面に導電性の有機膜または金属膜を設けたことを特徴とする導電性複合材料である。」(2頁右下欄)と記載され、表1には、参考例1〜6の重合体についてそのTg(154〜205℃)が記載されている。
甲第4号証には、「下記一般式(I)で表わされる少なくとも1種の化合物の重合体または該化合物と他の共重合性モノマーとを重合させて得られる重合体を、水素添加して得られる重合体からなることを特徴とする光学材料。
一般式(I)



〔式中、AおよびBは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基、XおよびYは水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜10の炭化水素基、-(CH2)nCOOR1、・・・を示し、XおよびYの少なくとも1つは水素原子および炭化水素基から選ばれる基以外の基、mは0または1である。なお、・・・]」(特許請求の範囲)の発明が記載され、「また、極性基を有するノルボルネン誘導体の開環(共)重合体からなる光学材料は、極性基の存在により記録層との接着性は改善されるものの、ガラス転移温度を高くするような極性置換基を選択すれば、飽和吸水率が高くなり、一方、飽和吸水率を低くするような極性置換基を選択すれば、ガラス転移温度が低くなってしまうため、高いガラス転移温度と低吸水性の両者を共に満足することが困難であった。」(2頁左下欄)、そして「上記の一般式(I)で表わされる化合物において、極性置換基としては、得られる重合体が高いガラス転移温度と低い吸湿性を有することとなる点で、式-(CH2)nCOOR1で表わされるカルボン酸エステル基が好ましい。」(7頁左上欄)と記載されている。
甲第5号証には、「エチレンビニルアルコール共重合体を中間層とする、成形された三層容器に関する」(1頁左下欄)発明が記載され、「本発明者は酸素透過抵抗性を有し、軽量包装用特に食品包装用として秀れた適性を有する三層容器を見出した。すなわち、エチレン含量28ないし45モル%、極限粘度(水15重量%フェノール85重量%の溶剤中で30℃で測定された)が0.08〜0.15L/g、けん化度97%以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体の厚さ12〜30μのフィルムの一方の面に低密度ポリエチレンの厚さ40〜70μのフィルムを、他の面に、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル・・・より選ばれた1種の厚さ12〜30μのフィルムより成るラミネートフィルムを用いて成形された軽量容器が食品包装容器して望ましい酸素透過抵抗性、香気保持性、食品の変色防止性・・もよいことを見出した。」(1頁右欄)及び「またけん化度が約97%以下になると酸素透過抵抗性や防湿性が著しく低下するので好ましくない。」(2頁左欄)との記載がなされている。
甲第6号証には、「ポリエーテルエステルアミド樹脂からなる表層、ガスバリヤー性樹脂からなる中間層、ヒートシール性を有する樹脂からなるシール層の少なくとも3層からなることを特徴とする多層フィルム。」(特許請求の範囲第1項)の発明が記載され、「本発明で使用するエチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物とは、エチレン20〜50モル%と酢酸ビニル80〜50モル%の共重合体を90%以上ケン化したものである。」(3頁右下欄)と記載されている。
甲第7号証には、「ガス遮断性を有する薄膜を中間層とし、該中間層の両側に熱可塑性樹脂からなる表面層を有し、該各層が接着性樹脂を介して配されてなるフレキシブル積層包装材において、該中間層がエチレン含有量25〜60モル%、けん化度95%以上の、厚さ20μ以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物からなり、かつ該表面層の片方が炭素数4以上のα-オレフィンを共重合成分とし、示差走査型熱量計の熱分析に基づく融解熱が25cal/g以下である直鎖状低密度ポリエチレンからなる層であり、他の片方がエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂層、二軸延伸されたナイロン層および二軸延伸されたポリプロピレン層の中から選ばれた樹脂層からなることを特徴とする優れた耐屈曲疲労性をもった気体遮断性フレキシブル積層包装材。」(特許請求の範囲第1項)の発明が記載され、「本発明に用いられるEVOH樹脂は、エチレン含有量25〜60モル%、けん化度95%以上のものが好適に用いられる。」(5頁右欄)と記載されている。
甲第8号証には、「紙製ボックスと該ボックス内に収容される樹脂フィルム製バッグとからなり、該バッグがオレフィン系樹脂内外層及びエチレンビニルアルコール共重合体中間層からなる積層フィルムのヒートシールによる製袋で形成されており且つ内外層の内少なくともヒートシールされる層が密度が0.915g/cm3 以下で融点が110℃以上の線状超低密度ポリエチレンを含有する層からなることを特徴とするバッグ・イン・ボックス。」(特許請求の範囲の請求項1)の発明が記載され、「本発明において、エチレンビニルアルコール共重合体をガスバリヤー性樹脂として使用するのは、このものが優れた酸素透過係数を有し且つ熱成形可能であることによる。エチレンビニルアルコール共重合体としては、例えば、エチレン含有量が20乃至60モル%、特に25乃至50モル%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96モル%以上、特に99モル%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が使用される。」(4頁右欄)と記載されている。
甲第9号証には、「エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)」について記載され、「現在2つのタイプのEVOHが上市されている。1つはVAcがおよそ25〜40wt%のEVAをけん化したエチレン含有率82〜90mol%のEVOHまたはエチレン-酢酸ビニル-ビニルアルコールターポリマーであり,接着剤,コーティング剤などに実用されている。他の1つはVAcがおよそ79〜92wt%のEVAを完全けん化したエチレン含有率25〜50mol%のEVOHである。これには高い力学的性質と耐溶剤性,非帯電性を利用しての特殊エンプラとしての応用と,高いガスバリヤー性,保香性,透明性,耐油性を利用した食品,医薬品,工業薬品包装用途があり,後者はより重要な用途分野である。」(409頁)と記載されている。

(2)対比・検討
甲第1号証には、医療用または食品包装用容器に関する発明が記載され、その1層が熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなる、材質の異なる少なくとも2層からその壁面を構成すること、他の層としてはエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)などのガスバリヤー性樹脂の層とすることにより、耐水蒸気透過性、かつ、ガスバリヤー性の容器が得られること、が記載され、更に、目的を損なわない範囲で極性基を導入したノルボルネン系モノマーを使用してもよいことも記載されている。
しかしながら、ガスバリヤー性樹脂に関しては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)と記載されているだけで、これが部分けん化物であると認めるに足りる根拠を見出すことはできず、また極性基含有モノマーに関しても、その使用によりどのような利点が得られるのかの具体的記載はなく、かえって、「本発明の目的からは、上記の極性基を含まないモノマーだけからなる熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーが、水分の不透過性の点から好ましい」(段落【0012】)と、その使用に関しては消極的記載がなされているのみで、これら甲第1号証の記載からは、本件発明の積層構造は示唆されないといわざるを得ない。
甲第2号証には、環状オレフィン成分5〜60モル%を有するポリオレフィン75〜97.5重量%に対し、炭素数が2〜20のα-オレフィンからなるポリオレフィン樹脂を2.5〜25重量%を溶融混合してなる樹脂組成物から成形される耐衝撃性、及び耐熱性に優れた防湿性容器に関する発明が記載され、該環状オレフィン成分として、テトラシクロ(4.4.0.12,5 .17,10)-3-ドデセンまたはその誘導体が例示されている。
しかし該環状オレフインとして極性基を有するものを使用することに関しては何も記載されていない。
甲第3号証には、テトラシクロドデセンまたはその誘導体とノルボルネンまたはその誘導体のモル比で50〜100:0〜50の開環重合体を水添反応させて得られる重合体の延伸または無延伸のシートまたはフイルムの表面に導電性の有機膜または金属膜を設けたことを特徴とする導電性複合材料の発明が記載され、その表1には、メチルテトラシクロドデセンとメチルノルボルネンのモル比を変えて得た重合体6例についてそのガラス転移点が記載されているが、極性基を有する重合体についての記載はない。
甲第4号証には、光学材料として、極性基を有するノルボルネン系重合体の水素添加物を使用することが記載されているが、該極性基に関しては、その存在により記録層との接着性が改善されると説明され、実施例においては、碁盤目テストによりアルミニウム蒸着物の接着性改善の効果が得られたことが記載されているだけで、この表面にガスバリヤー性樹脂の層を設けることの記載はなく、まして極性基の使用により当該ガスバリヤー性樹脂との接着性が改善されることは示唆すらされていないといわざるを得ない。
甲第5号証には、エチレンビニルアルコール共重合体を中間層とする三層容器に関して記載され、エチレンビニルアルコールについては、酸素透過抵抗性や防湿性の観点からけん化度が97%以上であることが必要とされてはいるが、ノルボルネン系樹脂の使用は記載がない。
甲第6号証には、ポリエーテルエステルアミド樹脂からなる表層、ガスバリヤー性樹脂からなる中間層、ヒートシール性を有する樹脂からなるシール層の少なくとも3層からなることを特徴とする多層フィルムについての発明が記載され、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物については、エチレン20〜50モル%と酢酸ビニル80〜50モル%の共重合体を90%以上ケン化したものである、と記載されているが、ノルボルネン系樹脂の使用についてはやはり記載がない。
甲第7号証には、ガス遮断性を有する薄膜を中間層とし、該中間層の両側に熱可塑性樹脂からなる表面層を有し、該各層が接着性樹脂を介して配されてなるフレキシブル積層包装材についての発明が記載され、該中間層がエチレン含有量25〜60モル%、けん化度95%以上の、厚さ20μ以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物からなることが記載されているものの、ノルボルネン系樹脂の使用は記載がない。
甲第8号証には、紙製ボックスと該ボックス内に収容される樹脂フィルム製バッグとからなり、該バッグがオレフィン系樹脂内外層及びエチレンビニルアルコール共重合体中間層からなる積層フィルムのヒートシールによる製袋で形成されているバッグ・イン・ボックスの発明が記載され、エチレンビニルアルコール共重合体については、例えば、エチレン含有量が20乃至60モル%、特に25乃至50モル%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96モル%以上、特に99モル%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が使用される、と記載されているものの、ノルボルネン系樹脂の使用は記載がない。
甲第9号証には、エチレンビニルアルコール共重合体について記載されているが、現在上市されているEVOHのうち、高いガスバリヤー性を有するものはEVAを完全けん化したエチレン含有率25〜50mol%のEVOHである、とされていて、ガスバリヤー性樹脂としては部分けん化エチレンビニルアルコール共重合体を使用することは記載されていない。
以上検討したとおり、エチレンー酢酸ビニル共重合体のけん化物からなるガスバリヤー性樹脂としては、完全けん化物だけが使用可能とされているものではなく、けん化度が98%、98.5%といった、一部未けん化のままの部分けん化物も使用可能であることは、甲第5号証〜甲第8号証に記載されている事項と認めることはできるが、これら刊行物には、ガスバリヤーする対象として、極性基を置換導入したノルボルネン系樹脂を用いることは全く記載がない。
他方極性基を有するノルボルネン系共重合体については、甲第1号証及び甲第4号証に記載されているが、甲第1号証においては、極性基を有するモノマーの使用は好ましくないとして、いわば消極的記載がなされているにすぎず、甲第4号証においても、その目的は、記録層との接着性の改善とされているだけで、その表面にエチレンビニルアルコール系共重合体によるガスバリヤー層を設けること、また、その際極性基の存在により該重合体との接着性が改善されること等は示唆すらされていない。
一方本件発明は、その明細書の記載によれば、その構成の採用により両樹脂の接着性において優れた効果を奏し得たものと認められ、かかる効果を甲第1号証〜甲第9号証の記載から予測することは困難といわざるを得ない。 したがって、甲第1号証〜甲第9号証の記載によるも、これから本件発明が当業者の容易に発明をすることができたものとすることはできない。
なお、本件明細書には、熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品とガスバリア層が直接積層する以外に、他のポリマー層や接着層と介して積層することもできる旨の記載がなされているが(段落【0021】)、特許請求の範囲における「成形品の表面に ・・・層を積層してなる」の記載からみて、この点は、本件特許請求の範囲外の事項と認められる(この点は、特許権者からも平成16年2月4日付け上申書により表明されている事項である。)。

[5-2]特許法第36条の規定の適用について
特許異議申立人は、訂正前の本件明細書に関し、(i)「本件特許請求の範囲には、極性基を有することが規定されていない。」、(ii)エチレン-酢酸ビニル共重合体について、けん化度、酢酸ビニル含有量についての規定がない、(iii)本件明細書の段落【0021】には、「ガスバリア層を他のポリマー相や接着層と介して熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂成形品と積層することもできる。」と記載されているが、接着剤を介して接着させたのでは本件発明特有の効果とされているものと異なる、点で明細書の記載に不備があることを主張している。
よって検討するに、上記の(i)、(ii)の点は、訂正後の明細書にはもはや存在がなく、上記(iii)の点については、上記したとおり、段落【0021】の記載は、本件特許請求の範囲外の事項を単に記載したにすぎないものと認められるから、訂正後の明細書には、特許異議申立人が主張する記載不備の問題はもはや存在しない。

[6]むすび
以上の次第で、本件特許異議申立人の提示する証拠及び主張する理由によっては、訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
成形品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(II)〜(III)で表されるノルボルナン骨格を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ただし、ガラス転移温度が145℃以下の樹脂を除く)からなる成形品の表面に、酢酸ビニル単位あたりのケン化度が80〜99.5%で、かつ酢酸ビニル単位の含有量が5%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなるガスバリア層を積層してなる、成形品。
【化1】

【化2】

〔一般式(II)〜(III)中、A,B,CおよびDは、水素原子または1価の有機基を示し、A,B,CおよびDのうちに極性基を含む。〕
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の表面に、密着性に優れ、吸水性を低く抑えることのできるガスバリア層が積層された成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、高ガラス転移温度(高耐熱性)、低吸水性、小さい光弾性係数を兼ね備えた優れた光学樹脂として各種用途に用いられている。ところが、これら光学用途の中でも、液晶ディスプレイの透明導電性フィルムとして用いる場合には、封入された液晶の酸素や水蒸気による劣化を抑えるために、特にフィルム基板のガス透過性および水蒸気透過性の低いものが求められている。
【0003】
一方、従来より、樹脂成形品のガス透過性および水蒸気透過性を低くするために、該成形品の表面にガスバリア膜を積層する技術が知られている。このようなガスバリア膜としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデンなどの樹脂が公知である。ところが、熱可塑性ノルボルネン系樹脂のように熱変形温度が高い樹脂は、高温の環境下で使用されることが多いが、その場合、上記樹脂からなるガスバリア層を積層した熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品を用いると、該ガスバリア層と成形品との密着性が低下し、層の間にガスや水蒸気が入り込みやすく、成形品の劣化を引き起こす。また、液晶ディスプレイ用途に用いられる場合は、封入液晶の劣化を引き起こす問題が多い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記樹脂のガスバリア性を維持しつつ、高温下においてもガスバリア層と熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品との間に剥離が起こらず、高い密着性を維持することのできる成形品を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記一般式(II)〜(III)で表されるノルボルナン骨格を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ただし、ガラス転移温度が145℃以下の樹脂を除く)からなる成形品の表面に、酢酸ビニル単位あたりのケン化度が80〜99.5%で、かつ酢酸ビニル単位の含有量が5%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなるガスバリア層を積層してなる、成形品提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の成形品に用いられる熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、その繰り返し単位中に一般式(II)〜(III)で表されるノルボルナン骨格を含むものである。
【0007】
【化3】

【化4】

【0008】
〔一般式(II)〜(III)中、A,B,CおよびDは、水素原子または1価の有機基を示し、A,B,CおよびDのうちに極性基を含む。〕
本発明で使用されるノルボルナン骨格を有する熱可塑性樹脂は、充分な強度を得るために、その重量平均分子量は5,000〜100万、好ましくは8,000〜20万である。本発明において使用することのできるノルボルナン骨格を有する熱可塑性樹脂としては、例えば特開昭60-168708号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報、特開平2-133413号公報、特開昭63-145324号公報、特開昭63-264626号公報、特開平1-240517号公報、特公昭57-8815号公報などに記載されている樹脂などを挙げることができる。
【0009】
この熱可塑性ノルボルネン系樹脂の具体例としては、下記一般式(V)で表される少なくとも1種のテトラシクロドデセン誘導体または該テトラシクロドデセンと共重合可能な不飽和環状化合物とをメタセシス重合して得られる重合体を水素添加して得られる水添重合体を挙げることができる。
【0010】
【化5】

【0011】
(式中A〜Dは、上記に同じ。)
上記一般式(V)で表されるテトラシクロドデセン誘導体において、A,B,CおよびDのうちに極性基を含むことが、耐熱性やガスバリア層との密着性の点から好ましい。さらに、この極性基が-(CH2)nCOOR(ここで、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、nは0〜10の整数を示す)で表される基であることが、得られる水添重合体が高いガラス転移温度を有するものとなるので好ましい。
特に、この-(CH2)nCOORで表される極性置換基は、一般式(V)のテトラシクロドデセン誘導体の1分子あたりに1個含有されることが好ましい。
【0012】
上記一般式において、Rは炭素数1〜20の炭化水素基であるが、炭素数が多くなるほど得られる水添重合体の吸湿性が小さくなる点では好ましいが、得られる水添重合体のガラス転移温度とのバランスの点から、炭素数1〜4の鎖状アルキル基または炭素数5以上の(多)環状アルキル基であることが好ましく、特にメチル基、エチル基、シクロヘキシル基であることが好ましい。さらに、カルボン酸エステル基が結合した炭素原子に、同時に炭素数1〜10の炭化水素基が置換基として結合されている一般式(V)のテトラシクロドデセン誘導体は、吸湿性を低下させるので好ましい。特に、この置換基がメチル基またはエチル基である一般式(V)のテトラシクロドデセン誘導体は、その合成が容易な点で好ましい。具体的には、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,517,10]ドデカ-8-エンが好ましい。
【0013】
これらのテトラシクロドデセン誘導体、あるいはこれと共重合可能な不飽和環状化合物の混合物は、例えば特開平4-77520号公報第4頁右上欄第12行〜第6頁右下欄第6行に記載された方法によって、メタセシス重合、水素添加され、本発明に使用される熱可塑性ノルボルネン系樹脂とすることができる。また、上記水添重合体(熱可塑性ノルボルネン系樹脂)の、軟化温度は90℃以上、ガラス転移温度は145℃を超えることが、耐熱性の点で好ましい。また、水添重合体の水素添加率は、60MHz、1H-NMRで測定した値が50%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは98%以上である。水素添加率が高いほど、熱や光に対する安定性が優れる。
【0014】
なお、本発明のノルボルナン骨格を有する熱可塑性樹脂(熱可塑性ノルボルネン系樹脂)として使用される水添重合体は、成形品表面の肌あれなどの不良発生防止の面から、該水添重合体中に含まれるゲル含有量が5重量%以下であることが好ましく、さらに1重量%であることが好ましい。このようにして得られる熱可塑性ノルボルネン系樹脂のASTM D1003にて測定した全光線透過率は、85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上である。
【0015】
そのほか、本発明に用いられる熱可塑性ノルボルネン系樹脂には、必要に応じて公知の酸化防止剤、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2′-ジオキシ-3,3′-ジ-t-ブチル-5,5′-ジメチルフェニルメタン、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5ートリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル-ベンゼン、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′-ジオキシ-3,3′-ジ-t-ブチル-5,5′-ジエチルフェニルメタン、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]、2,4,8,10-テトラオキスピロ[5,5]ウンデカン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイトを添加することができる。これらの酸化防止剤の添加量は、熱可塑性ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、通常、0.1〜3重量部,好ましくは0.2〜2重量部である。酸化防止剤の使用量が少なすぎる場合には、耐久性の改良効果が不充分であり、一方多すぎる場合には、成形表面からブリードしたり、透明性が低下するなどの問題点が生じ好ましくない。
【0016】
本発明に用いられる熱可塑性ノルボルネン系樹脂には、上記のような酸化防止剤のほかに、必要に応じて紫外線吸収剤、例えばp-t-ブチルフェニルサリシレート、2,2′-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-(2′-ジヒドロキシ-4′-m-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール;無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、カーボンファイバー、金属酸化物;安定剤、帯電防止剤、染料、顔料、難燃剤、耐衝撃性改良用エラストマーなどを添加することができる。また、加工性を向上させる目的で、滑剤などの添加剤を添加することもできる。さらに、上記樹脂を流延してキャストフィルムを成形する場合は、レベリング剤を添加することができる。レベリング剤としては、例えばフッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤などを用いることができる。
【0017】
次に、本発明の成形品に用いるガスバリア層は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の部分ケン化物である。ここで、エチレン-酢酸ビニル共重合体の完全ケン化物であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、高いガスバリア性を有するためガスバリア層として広く用いられているが、他材料との密着性に劣る。このため、高温下で長時間使用するうちに、成形品との間にガスや水蒸気が浸入したりして成形品が劣化したり、またガスバリア層が成形品から剥離する問題がある。さらに、本発明の成形品が液晶ディスプレイ用途に用いられる場合は、ガスバリア層と熱可塑性ノルボルネン系成形品との間に浸入したガスまたは水蒸気により封入液晶が劣化する恐れがある。一方、EVAケン化物の中でも、ケン化度が低いものは、熱変形温度が低く、また吸水率が増大するためガスバリア層として使えない。
【0018】
従って、ガスバリア層のガスバリア性能と成形品との密着性とのバランスをとるためには、EVAケン化物のケン化度を特定することが望ましい。その度合いは、EVAの場合は、該共重合体中の酢酸ビニル単位の含有量によって異なるが、酢酸ビニル単位あたり、ケン化度80%〜99.5%、好ましくは90%〜99%の範囲である。特に、熱可塑性ノルボルネン系樹脂が、極性基を持たないものである場合は、ガスバリア層の密着性を高くする必要があるため、耐湿性および耐熱性を損ねない範囲でEVAのケン化を抑えて酢酸ビニル残基を多くすることが好ましい。また、EVA部分ケン化物中の酢酸ビニル単位の含有量は、5%以上、より好ましくは10%以上である。酢酸ビニル単位の含有量が5%未満のものは、得られる共重合体がエチレンの性質に近くなり、熱可塑性ノルボルネン系成形品との密着性に劣るものとなる。
【0019】
このようなEVAは、従来知られている重合法により製造することができ、高圧ラジカル重合法、中圧溶液重合法などの方法により得られることができる。また、EVAのケン化方法も特に限定されるものではなく、通常のアルカリ加水分解法を用いることができる。また、市販のEVAの部分ケン化物を用いてもよい。さらに、本発明において、ガスバリア層として用いるEVA部分ケン化物は、さらにアセタール化されたものでもよい。
【0020】
また、本発明の成形品を光学用途に用いる場合は、その透明性をなるべく損ねないために、ガスバリア層の透明性も高いことが好ましい。例えば、EVA部分ケン化物からなるガスバリア層の結晶化度を高くするにつれ、ガスバリア性も高くなるが、透明性が低下するため光学用途としての用途範囲が限られたものとなる。本発明の成形品におけるガスバリア層の厚さは、そのガスバリア効果を充分に持たせるために0.5μm以上、さらに好ましくは10〜300μmの範囲であることが好ましい。
【0021】
本発明の成形品を得る形態としては特に制限はないが、熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品とガスバリア層を、直接、積層することもできるし、ガスバリア層を他のポリマー層や接着層と介して熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品と積層することもできる。ガスバリア層は、単層で用いてもよいし、EVA部分ケン化物を用いた複層構造としてもよい。特に、本発明の成形品は、ガスバリア層としてEVA部分ケン化物からなる層を含んでいるので、耐湿性が厳しく要求される用途に好ましい。
【0022】
成形品の製造方法としては、熱可塑性ノルボルネン系樹脂およびEVA部分ケン化物を複数台の押出成形機に別々に仕込んで共押出しし、フィルム状、ファイバー状またはシート状に積層する方法、押出機で溶融したEVA部分ケン化物を被覆装置に供給して、被覆ノズルであらかじめ製造したファイバーに被覆する方法、熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品にEVA部分ケン化物溶液をキャスト法やコーティング法により被覆する方法、熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品にEVA部分ケン化物からなるフィルムを接着層を介して積層する方法などを用いることができる。ここで、熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品は、公知の成形方法、例えば射出成形、押出成形、圧縮成形などの方法により所望の成形品とすることができる。
【0023】
本発明の成形品の用途としては、液晶ディスプレイ用フィルム、光ファイバー、自動車用ランプのレンズ、ムービーライト用レンズなどの各種レンズ、医薬品などの容器、医療用器具、食品包装用材料などに使用できる。
【0024】
本発明の好ましい実施態様は、次のとおりである。
▲1▼熱可塑性ノルボルネン系樹脂が、水添重合体である成形品。
▲2▼ガスバリア層が、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなり、そのケン化度が80%〜99.5%である、成形品。
▲3▼形態が、シート、フィルム、ファイバー、レンズ、または容器である、成形品。
【0025】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がこれによって限定されるものではない。なお、実施例中、部および%は、特に断らないかぎり重量基準である。なお、実施例中の各種の測定は以下のように行った。
【0026】
酸素ガス透過性
ASTM D3985に準じ、20℃、80%相対湿度の条件で測定した。
水蒸気透過性
JIS Z0208に従い、40℃、90%相対湿度の条件で測定した。
膜密着性
成形品のガスバリア層に、1mm×1mmのマス目100個をカッターで刻み、セロハンテープ剥離試験を行なって、以下の評価基準に従って密着性を評価した。
○:剥離された目の数が0のもの
△:剥離された目の数が1〜10個のもの
×:剥離された目の数が10個を超えるもの
【0027】
参考例1
8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン100g、1,2-ジメトキシエタン60g、シクロヘキサン240g、1-ヘキセン9g、およびジエチルアルミニウムクロライド0.96モル/lのトルエン溶液3.4mlを、内容積1リットルのオートクレーブに加えた。一方、別のフラスコに、六塩化タングステンの0.05モル/lの1,2-ジメトキシエタン溶液20mlとパラアルデヒドの0.1モル/lの1,2-ジメトキシエタン溶液10mlを混合した。この混合溶液4.9mlを、上記オートクレーブ中の混合物に添加した。密栓後、混合物を80℃に加熱して4時間攪拌を行った。
【0028】
得られた重合体溶液に、1,2-ジメトキシエタンとシクロヘキサンの2/8(重量比)の混合溶媒を加えて重合体/溶媒が1/10(重量比)にしたのち、トリエタノールアミン20gを加えて10分間攪拌した。この重合溶液に、メタノール500gを加えて30分間攪拌して静置した。2層に分離した上層を除き、再びメタノールを加えて攪拌、静置後、上層を除いた。同様の操作をさらに2回行い、得られた下層をシクロヘキサン、1,2-ジメトキシエタンで適宜希釈し、重合体濃度が10%のシクロヘキサン-1,2-ジメトキシエタン溶液を得た。
【0029】
この溶液に、20gのパラジウム/シリカマグネシア〔日揮化学(株)製、パラジウム量=5%〕を加えて、オートクレーブ中で水素圧40kg/cm2として165℃で4時間反応させたのち、水添触媒をろ過によって取り除き、水添重合体溶液を得た。また、この水添重合体溶液に、酸化防止剤であるペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を、水添重合体に対して0.1%加えてから380℃で減圧化に脱溶媒を行なった。次いで、溶融した樹脂を窒素下雰囲気で押し出し機によりペレット化し、重量平均分子量7.0×104、水添率99.5%、ガラス転移温度168℃の熱可塑性ノルボルネン系樹脂を得た。
【0030】
実施例1
参考例1で得た熱可塑性ノルボルネン系樹脂とEVA部分ケン化物(エチレン含有率35mol%、ケン化度95mol%)を別々の押出機にて共押出して熱可塑性ノルボルネン系樹脂成形品の片面に、EVA部分ケン化物からなる層が積層された積層体を得た。この成形品の厚みを測定したところ、熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる層部分が100μm、EVA部分ケン化物からなる層部分が15μmであった。この成形品について、酸素ガス透過性、水蒸気透過性、および膜密着性について評価した。評価結果を表1に示す。
【0031】
実施例2
EVA部分ケン化物をエチレン含有率40mol%、ケン化度99mol%のものとした以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。この成形品について実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0032】
比較例1
EVA部分ケン化物の代わりに、エチレン含有率35mol%、ケン化度100mol%のEVA完全ケン化物(エチレン-ビニルアルコール共重合体)を用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を得た。この成形品について実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、実施例1および実施例2の成形品は、酸素ガス透過性、水蒸気透過性が充分低く、ガスバリア性に優れ、しかも膜密着性にも優れたものである。これに対し、ガスバリア層にEVAの完全ケン化物であるエチレン-ビニルアルコール共重合体を用いた成形品(比較例1)は、ガスバリア性には優れているものの、膜密着性に大きく劣っている。
【0035】
【発明の効果】
本発明の成形品は、熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の上にガスバリア層としてEVA部分ケン化物を積層したものであり、高いガスバリア性を維持しつつ、層間の膜密着性にも優れているものである。従って、液晶ディスプレイ用途のような高い透明性、耐熱性、ガスバリア性が同時に求められる用途にも好適に用いることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-02-27 
出願番号 特願平7-268063
審決分類 P 1 651・ 531- YA (C08J)
P 1 651・ 121- YA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 柿 崎 良 男
特許庁審判官 石井 あき子
中 島 次 一
登録日 2001-12-14 
登録番号 特許第3259609号(P3259609)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 成形品  
代理人 白井 重隆  
代理人 白井 重隆  

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