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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1097937
異議申立番号 異議2003-72016  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-11-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-08 
確定日 2004-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3376244号「塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3376244号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3376244号は、平成9年4月24日に出願された特願平9-123145号の出願に係り、平成14年11月29日にその設定登録がなされた後、山田博から特許異議の申立てがあり、それに基づく特許取消の理由通知に対し、平成15年12月22日付けで訂正請求がなされたものである。

[2]訂正前の本件特許に対する特許異議申立人の主張の概要
訂正前の本件特許に対し、特許異議申立人は、下記甲第1号証〜甲第8号証を提示し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証記載の発明であるか、若しくは甲第1号証〜甲第5号証のいずれの発明からも当業者が容易に発明し得るものであり、本件請求項2に係る発明は、甲第2号証又は甲第6号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項3に係る発明は、甲第8号証又は甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項4及び5に係る発明は、甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項6及び8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項7に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、更に本件明細書には記載の不備があるから、本件請求項1〜8に係る発明は、特許法第29条第1項第3号若しくは同条第2項の規定に違反して特許されたものであり、そして更に、特許法第36条に規定する要件を満足しない出願に対して特許されたものであって、それら理由により、本件請求項1〜8に係る特許はいずれも取り消されるべきである旨、主張している。

甲第1号証:特開平3-182534号公報
甲第2号証:特開平6-256592号公報
甲第3号証:特公昭44-12427号公報
甲第4号証:特公昭47-6039号公報
甲第5号証:特開平4-218548号公報
甲第6号証:特開平7-258596号公報
甲第7号証:特開平7-118312号公報
甲第8号証:特開平8-59757号公報

[3]本件訂正請求
(1)訂正事項
本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。
(1-1)訂正事項a-1
請求項1における「下記(イ)、(ロ)及び(ハ)から選ばれる1種以上の化合物で変性したポリオレフィンの1種又は2種以上を5〜50重量%の範囲で塩素化した、酸価が1〜500mgKOH/gの変性塩素化ポリオレフィンを含有し、かつ乳化用として、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上を、当該変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜100重量部配合してなることを特徴とする、塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
(イ)下記一般式(1)-c、(1)-d又は(1)-eで表されるα,β-不飽和カルボン酸。
(ロ)下記一般式(1)-a又は(1)-bで表されるα,β-不飽和カルボン酸無水物。
(ハ)下記一般式(2)-a又は(2)-bで表される一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物。」を
「下記(イ)、(ロ)及び(ハ)から選ばれる1種以上の化合物で変性したポリオレフィンの1種又は2種以上を5〜50重量%の範囲で塩素化した、酸価が1〜500mgKOH/gの変性塩素化ポリオレフィンを含有し、(一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物)対(変性塩素化ポリオレフィン)が0.1:100〜50:100の重量比になるように、当該化合物を配合し、乳化用として、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上を、当該変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜100重量部配合し、かつ有機性又は無機性の塩基性物質を、変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜20重量部配合して、組成物のpHを5〜10の範囲内に調整してなることを特徴とする、塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
(イ)下記一般式(1)-c、(1)-d又は(1)-eで表されるα,β-不飽和カルボン酸。
(ロ)下記一般式(1)-a又は(1)-bで表されるα,β-不飽和カルボン酸無水物。
(ハ)下記一般式(2)-aで表される一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物。」に訂正する。
(1-2)訂正事項a-2
請求項2、7を削除する。
(1-3)訂正事項a-3
請求項4における「α,β-不飽和カルボン酸無水物を、0.01重量%以上60重量%以下の割合で含有する」を「α,β-不飽和カルボン酸無水物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応している」に訂正する。
(1-4)訂正事項a-4
請求項5における「又は(2)-b]を削除し、「一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物を、0.01重量%以上60重量%以下の割合で含有する」を「一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応している」に訂正する。
(1-5)訂正事項a-5
請求項2,7の削除に伴い、請求項3以下の請求項番号をそれぞれ繰り上げ、本文中で引用する請求項番号を繰り上げ後のものに合致させる。
(1-6)訂正事項b-1
段落【0005】における「又は(2)-b」を削除し、【化4】における(2)-bの構造式を削除し、段落【0017】における「,b」を削除する。
(1-7)訂正事項b-2
段落【0005】における「かつ乳化用として」を「(一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物)対(変性塩素化ポリオレフイン)が0.1:100〜50:100の重量比になるように、当該化合物を配合し、乳化用として」に訂正し、段落【0008】の記載事項を削除し、段落【0028】における「化合物又は同オリゴマー」を「化合物」に訂正し、「及び/又は同オリゴマー」及び「及び/又はそのオリゴマー」(2個所)を削除し、そして、段落【0029】における「及び/又はその樹脂」を削除する。
(1-8)訂正事項b-3
段落【0010】における「α,β-不飽和カルボン酸無水物を、0.01重量%以上60重量%以下の割合で含有する」を「α,β-不飽和カルボン酸無水物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応している」に訂正する。
(1-9)訂正事項b-4
段落【0011】における「又は(2)-b」を削除する。
(1-10)訂正事項b-5
段落【0011】における「一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物を、0.01重量%以上60重量%以下の割合で含有する」を「一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応している」に訂正する。
(1-11)訂正事項b-6
段落【0005】の「配合し」の後に「、かつ有機性又は無機性の塩基性物質を、変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜20重量部配合して、組成物のpHを5〜10の範囲内に調整し」を挿入し、そして、段落【0013】の記載事項を削除する。
(1-12)訂正事項b-7
段落【0009】〜【0015】における「第3」、「第4」、「第5」、「第6」、「第8」、「第1〜3」、「第1〜4」、「第1〜5」、「第1〜7」を、それぞれ、「第2」、「第3」、「第4」、「第5」、「第6」、「第1または2」、「第1〜3」、「第1〜4」、「第1〜6」に、訂正する。

(2)訂正適否の検討
(2-1)訂正事項a-1は、請求項1において、(i)一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物を特定量配合することを規定し、(ii)有機性又は無機性の塩基性物質を特定量配合することを規定し、(iii)(ハ)の化合物として(2)-bを削除するものであるが、(i)、(ii)については、訂正前の明細書の請求項2,7及び段落【0028】、段落【0031】等に記載されていた事項であり、(iii)が訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をするものであることは明らかであるから、これら訂正は、全体として訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をするものである。
(2-2)訂正事項a-2は、単に請求項を削除するだけのものであるから、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をするものであることは明らかである。
(2-3)訂正事項a-3は、「一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物」が反応していることを明示するもであるが、この成分は単に含有されているものではなく、反応して存在するものであるから(段落【0026】等の記載からも明らかである。)、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で明りょうでない記載の釈明をするものである。
(2-4)訂正事項a-4は、既に説明したとおり、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をし、そして明りょうでない記載の釈明をするものである。
(2-5)訂正事項a-5は、請求項2,7の削除に伴い請求項番号の整理をするものであるから、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で明りょうでない記載の釈明をするものである。
(2-6)訂正事項b-1〜b-7は、上記特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれに整合させるものであるから、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で明りょうでない記載の釈明をするものである。
(2-7)そして、これら訂正により実質上特許請求の範囲が拡張若しくは変更されるものでもない。
したがって、本件訂正請求は、適法なものとして認めることができる。

[4]本件発明
本件発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される以下のとおりのもの(以下、順次「本件第1発明」、「本件第2発明」、・・・「本件第6発明」という。)と認める。
【請求項1】 下記(イ)、(ロ)及び(ハ)から選ばれる1種以上の化合物で変性したポリオレフィンの1種又は2種以上を5〜50重量%の範囲で塩素化した、酸価が1〜500mgKOH/gの変性塩素化ポリオレフィンを含有し、(一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物)対(変性塩素化ポリオレフィン)が0.1:100〜50:100の重量比になるように、当該化合物を配合し、乳化用として、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上を、当該変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜100重量部配合し、かつ有機性又は無機性の塩基性物質を、変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜20重量部配合して、組成物のpHを5〜10の範囲内に調整してなることを特徴とする、塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
(イ)下記一般式(1)-c、(1)-d又は(1)-eで表されるα,β-不飽和カルボン酸。
(ロ)下記一般式(1)-a又は(1)-bで表されるα,β-不飽和カルボン酸無水物。
(ハ)下記一般式(2)-aで表される一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物。
【化1】


【化2】


【請求項2】 変性塩素化ポリオレフィンを、溶液系又は不均一分散系において、上記(イ)、(ロ)及び(ハ)から選ばれる1種以上の化合物でさらに変性することによって、極性基を導入することを特徴とする、請求項1記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
【請求項3】 上記一般式(1)-c、(1)-d又は(1)-eで表されるα,β-不飽和カルボン酸及び/又は上記一般式(1)-a又は(1)-bで表されるα,β-不飽和カルボン酸無水物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応していることを特徴とする、請求項1または2に記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
【請求項4】 上記一般式(2)-aで表される一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
【請求項5】 オキサゾリン含有ポリマーを0.01重量%以上60重量%以下の割合で配合することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
【請求項6】 分子中に水酸基、カルボキシル基及びイソシアネート基から選ばれる1種以上の官能基を含有するか又は官能基を含有しないポリウレタン系水性樹脂又は水系エマルジョンを、0.01重量部以上2000重量部以下の割合で配合することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。」

[5]特許異議申立てについて
[5-1] 特許法第29条の規定の適用について
(1)甲号各証の記載事項
甲第1号証には、「不飽和ポリカルボン酸および/または酸無水物で変性された塩素化ポリオレフィンと塩基性物質と必要により界面活性剤とからなる水性変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物。」(特許請求の範囲第1項)の発明が記載され、「本発明の組成物は従来のものに比べて有機溶剤の含有を必要としないので有機溶剤による毒性、引火性、公害面などの安全性に優れている。しかも従来の有機溶剤溶液のものと比較し付着性など劣らずに耐光性および耐寒性が一段と優れている。
本発明の組成物は各種基材の塗装性、プライマーおよび接着剤として適用でき、特にポリオレフィン系の基材に適している。」(8〜9頁[発明の効果]の欄)として、その発明により得られる効果が説明されている。
甲第2号証には、「ポリオレフィン及び/又は変性ポリオレフィンを水性化するにあたり、構成成分としてポリアルキレンオキサイド構造を持ち溶解度パラメーター(SP値)7以上12以下の物質を 0.001重量%以上50重量%以下の割合で含む水性ポリオレフィン樹脂組成物。」(【請求項1】)の発明が記載され、「塩素化ポリオレフィンとは上記ポリオレフィンを公知の方法で塩素化したものである。酸変性ポリオレフィンとは上記ポリオレフィンをα、β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物でグラフト反応により変性を行ったポリオレフィンである。更に塩素化及び酸変性を組み合わせて変性した変性ポリオレフィンも使用される。また、酸変性ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂に反応性界面活性剤をラジカル反応開始剤で反応させて水性変性されたポリオレフィン樹脂も水性化原料として用いられる。」(段落【0023】)、「また、他の水性樹脂、例えば水性ウレタン樹脂、水性エポキシ樹脂、水性アクリル樹脂、水性フェノール樹脂、水性アミノ樹脂、水性ポリブタジエン樹脂、水性アルキド樹脂、水性塩化ゴム、水性シリコン樹脂等の水性樹脂をブレンドしても用いられる。」(段落【0051】)、「(試作例3)試作例2で得られた酸変性ポリオレフィン樹脂200部と四塩化炭素1000部を還流管付き反応器に仕込み65〜70℃で均一に溶解した後窒素ガスでパージし1時間当り20部の割合で塩素を反応液中に吹き込み塩素化度25%になるまで塩素化反応を行った。反応後常圧下で四塩化炭素をトルエンに置換すると共に残存塩素を取り除き酸変性塩素化ポリオレフィンのトルエン溶液を得た。トルエン溶液からトルエンを減圧留去し酸変性塩素化ポリオレフィンを得た。」(段落【0056】)との各記載がなされている。
甲第3号証には、「過酸化物の存在下で塩素化ポリプロピレンに無水マレイン酸を反応せしめるようにするか若しくは過酸化物の存在下で未変性ポリプロピレンに無水マレイン酸を反応せしめてのち塩素化せしめるようにすることを特徴とする接着性、乳化安定性良好な改質ポリプロピレンの製造方法。」(特許請求の範囲)の発明が記載されている。
甲第4号証には、「過酸化物の存在下で塩素化ポリプロピレンに無水マレイン酸を反応せしめるようにするか若しくは過酸化物の存在下で未変性ポリプロピレンに無水マレイン酸を反応せしめてのち塩素化することにより得られた塩素化ポリプロピレン-無水マレイン酸反応生成物を水中で乳化せしめてのち、pHをアルカリ側に保持するようにすることを特徴とする安定性良好で優れた接着性を有する改質ポリプロピレンを主成分とする接着剤の製造方法。」(特許請求の範囲)の発明が記載されている。」
甲第5号証には、「極限粘度[η]が1dl/g以上であるポリオレフィンに、不飽和ジカルボン酸またはその無水物をグラフト共重合させてなる変性重合体であって、酸価が5〜100、かつ極限粘度が0.4〜1dl/gである変性重合体を、さらに塩素化して得られる塩素含有量10〜40重量%の塩素化変性ポリオレフィンを水に分散させてなる水分散体。」(請求項1)の発明が記載され、「塩素化変性ポリオレフィンを水に分散させて、本発明の水分散体を製造する方法としては、例えば、該塩素化変性ポリオレフィン、水および界面活性剤を一括して混合して乳化させるドラム乳化法・・・等が挙げられ、使用する塩素化変性ポリオレフィンの物性に応じて適宜選択される。」(段落【0027】)の記載がなされている。
甲第6号証には、「水を媒体として自己乳化するエポキシ樹脂の1種またはそれ以上をベースとする水性コーティング組成物であって、
A)a) 平均で1分子当たり少なくとも2個のエポキシ基および100〜2,000のエポキシ当量を有するエポキシ化合物の1種またはそれ以上50〜8重量%、
b) 芳香族ポリオールの1種またはそれ以上17〜35重量%、および
c) 200〜20,000の重量平均分子量(Mw)を有する脂肪族ポリオールの1種またはそれ以上、ならびに平均で1分子当たり少なくとも2個のエポキシ基および100〜2,000のエポキシ当量を有するエポキシ化合
物の1種またはそれ以上から製造される縮合生成物3〜15重量%(ここでOH基のエポキシ基に対する当量比は1:0.85〜1:1.5、好ましくは1:0.95〜1:1.20であり、この縮合生成物のエポキシ当量は少なくとも50,000、好ましくは少なくとも100,000である)、の縮合により得られる、エポキシ当量250〜10,000を有し水を媒体として自己乳化するエポキシ樹脂の1種またはそれ以上1〜40重量%、
B) 塩素化ポリオレフィン(CPO)の1種またはそれ以上(ここで樹脂固形分の重量を基準として、エポキシ樹脂(成分A):CPO(成分B)の重量比は10:0.5〜10:4.5である)、
C) 水40〜90重量%、
D) 有機溶剤の1種またはそれ以上3〜30重量%、
(ここでA)、C)およびD)の重量パーセントは全体の水性コーティング組成物の重量基準である)、を含有し、所望により顔料、体質顔料および慣用のラッカー添加剤を含み、架橋剤を含まない水性一液性コーティング組成物。」(請求項1)の発明が記載され、「本発明は、エポキシ樹脂と塩素化ポリオレフィンをベースとする、プラスチック基質コーティング用の付着性プライマーとして特に好適な水性一液性(one-component)コーティング組成物に関する。」(段落【0001】)、「したがって、本発明の目的は、プラスチック基質コーティング用、特に補修ラッカーコーティング、たとえば自動車補修ラッカーコーティング用に好適な水性コーティング組成物を提供することであり、このコーティング組成物は前処理をしていない、特に非極性のプラスチック部材にさえ完全な接着性を示すべきであり、またその他のプライマーを容易に上塗りできなければならない。この目的を、好ましくは乳化剤を含有しない一液性コーティング組成物により達成する。」(段落【0006】)の記載がなされている。
甲第7号証には、「不飽和ポリカルボン酸および/または酸無水物で変性された塩素化ポリオレフィンを乳化剤として用い、α,β-不飽和二重結合を有するモノマ-を重合してなることを特徴とする水性樹脂分散体。」 (【請求項1】)の発明が記載され、「本発明の水性樹脂分散体には、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて他の樹脂成分や乳化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、・・・などを併用することができる。他の樹脂成分としては、乳化分散体樹脂や溶液樹脂、具体的には、カルボキシル基含有エマルジョン樹脂、カルボキシル基含有溶液樹脂などが挙げられる。」(段落【0014】)との記載がなされている。
甲第8号証には、「無水マレイン酸もしくは無水イタコン酸で変性した塩素化ポリオレフィンに水酸基含有重合性不飽和単量体を反応させて重合性不飽和基を導入し、該重合性不飽和基にカルボキシル基含有重合性不飽和単量体を含有する単量体組成物を重合せしめてなることを特徴とする水性樹脂組成物。」(【請求項1】)の発明が記載されている。

(2)対比・検討
甲第1号証には、「不飽和ポリカルボン酸および/または酸無水物で変性された塩素化ポリオレフィンと塩基性物質と必要により界面活性剤とからなる水性変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物。」についての発明が記載され、この発明の樹脂組成物は、有機溶剤の含有を必要としないので有機溶剤による毒性、引火性、公害面などの安全性に優れ、しかも従来の有機溶剤溶液のものと比較し付着性など劣らずに耐光性および耐寒性が一段と優れていることが記載されているが、本件第1発明で必須とする、「一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物」の使用については全く記載されていない。
甲第2号証には、「ポリオレフィン及び/又は変性ポリオレフィンを水性化するにあたり、構成成分としてポリアルキレンオキサイド構造を持ち溶解度パラメーター(SP値)7以上12以下の物質を 0.001重量%以上50重量%以下の割合で含む水性ポリオレフィン樹脂組成物。」の発明が記載され、塩素化及び酸変性を組み合わせて変性した変性ポリオレフィンも水性化原料として使用されること、更に、他の水性樹脂をブレンドしても用いられることが記載され、その中には「水性エポキシ樹脂」も示されてはいる。
しかしながら、エポキシ樹脂とはエポキシ基を2個以上有するものを指すから、本件第1発明の「一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物」の使用については、やはり何も記載されていないといわざるを得ない。
甲第3、4号証には、塩素化ポリプロピレンを安定な乳化液として使用するに、これを先ず過酸化物の存在下に無水マレイン酸を反応せしめ、しかる後塩素化する発明が記載されているが、エポキシ基を有する化合物の使用については全く記載されていない。
甲第5号証には、各種樹脂成形品に対するプライマーとして好適な水分散体として、ポリオレフィンに不飽和ジカルボン酸又はその無水物をグラフト共重合させた変性重合体を更に塩素化して得られる塩素化変性ポリオレフィンを水に分散させてなるものが記載され、これに更に界面活性剤を使用することも記載されているが、「一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物」の使用に関しては全く記載されていない。
甲第6号証には、水を媒体として自己乳化するエポキシ樹脂をベースとする、プラスチック基質コーティング用の付着性プライマーとして特に好適な水性一液性コーティング組成物に関する発明が記載され、この組成物は、水及び有機溶剤の特定量に加え、塩素化ポリオレフィン樹脂を(固体)エポキシ樹脂:(固体)塩素化ポリオレフィンとして1:0.5:10:4.6の重量比で含有することが記載されている。
しかしながら、この発明の組成物は、上記量比で示したとおり、あくまでエポキシ樹脂をベースとするものであり、しかも、甲第6号証には、本件第1発明において必須の成分である「一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物」を使用することに関しては全く記載されていない。
甲第7号証には、不飽和ポリカルボン酸および/または酸無水物で変性された塩素化ポリオレフィンを乳化剤として用い、α,β-不飽和二重結合を有するモノマ-を重合してなることを特徴とする水性樹脂分散体に関する発明が、甲第8号証には、無水マレイン酸もしくは無水イタコン酸で変性した塩素化ポリオレフィンに水酸基含有重合性単量体を反応させて重合性不飽和基を導入し、該重合性不飽和基にカルボキシル基含有重合性不飽和単量体を含有する単量体組成物を重合せしめてなることを特徴とする水性樹脂組成物に関する発明が、それぞれ記載されているにすぎず、エポキシ基を有する化合物の使用については全く記載がない。
以上検討したとおり、甲第1〜第8号証には、酸変性塩素化ポリオレフィンを含む水性組成物に関する発明が記載され、更に甲第2号証及び甲第6号証には、エポキシ樹脂を併用することについても記載されているが、本件第1発明で必須の成分とする、「一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物」の使用についての記載はなく、またその使用を示唆する記載を見出すこともできない。
したがって、本件第1発明が、甲第1号証〜甲第8号証に記載されていたとも、また、これら刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることはできない。
本件第2〜第6発明は、本件第1発明の組成物の組成をより限定したもの、或いはこれに他の成分を加えたもの、に相当するから、本件第1発明と同様、甲第1号証〜甲第8号証に記載されていたとも、また、これら刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることはできない。

[5-2]特許法第36条の規定の適用について
訂正前の本件明細書に関し、特許異議申立人は、(i)本件実施例では、全て、「(a)酸変性塩素化ポリオレフィンと(b)界面活性剤と(c)エポキシ基を有する化合物と(d)塩基性物質」を用いているにもかかわらず、本件請求項1は、(a)酸変性塩素化ポリオレフィンと(b)界面活性剤とのみから構成されており、発明の詳細な説明の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえない、(ii)本件実施例でポリオレフィンを変性する化合物として用いられているものはアクリル酸、無水マレイン酸等わずか数例であり、これらの例示のみでもって、請求項1の(イ)、(ロ)、(ハ)のすべてを網羅できる技術上の必然性は皆無であるから、請求項1における(イ)、(ロ)、(ハ)の定義については発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載したものといえない、(iii)請求項1には、ポリオレフィンを変性する化合物として(ハ)の(2)-bで表される酸性基を有しない化合物も包含されており、この化合物のみで変性して酸価1〜500mgKOH/gを有するとし得るのは不自然であるから、この点については発明の詳細な説明の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえない、点で、本件明細書には、特許法第36条第4項1号の要件を満足しない記載の不備があることを、主張している。
よって、検討するに、上記の(i)及び(iii)で指摘される点については、訂正後の明細書には、もはや存在しないものと認められ、上記(ii)の点については、特許異議申立人の主張は、要するに単に実施例が少ないというにすぎず、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとする具体的根拠を欠いた主張であるから採用することはできない。

[6]むすび
以上の次第で、本件特許異議申立人の提示する証拠及び主張する理由によっては、訂正後の本件請求項1〜6に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記(イ)、(ロ)及び(ハ)から選ばれる1種以上の化合物で変性したポリオレフィンの1種又は2種以上を5〜50重量%の範囲で塩素化した、酸価が1〜500mgKOH/gの変性塩素化ポリオレフィンを含有し、(一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物)対(変性塩素化ポリオレフィン)が0.1:100〜50:100の重量比になるように、当該化合物を配合し、乳化用として、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上を、当該変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜100重量部配合し、かつ有機性又は無機性の塩基性物質を、変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜20重量部配合して、組成物のpHを5〜10の範囲内に調整してなることを特徴とする、塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
(イ)下記一般式(1)-c、(1)-d又は(1)-eで表されるα,β-不飽和カルボン酸。
(ロ)下記一般式(1)-a又は(1)-bで表されるα,β-不飽和カルボン酸無水物。
(ハ)下記一般式(2)-aで表される一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物。
【化1】

【化2】

【請求項2】 変性塩素化ポリオレフィンを、溶液系又は不均一分散系において、上記(イ)、(ロ)及び(ハ)から選ばれる1種以上の化合物でさらに変性することによって、極性基を導入することを特徴とする、請求項1記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
【請求項3】 上記一般式(1)-c、(1)-d又は(1)-eで表されるα,β-不飽和カルボン酸及び/又は上記一般式(1)-a又は(1)-bで表されるα,β-不飽和カルボン酸無水物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応していることを特徴とする、請求項1または2に記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
【請求項4】 上記一般式(2)-aで表される一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
【請求項5】 オキサゾリン含有ポリマーを0.01重量%以上60重量%以下の割合で配合することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
【請求項6】 分子中に水酸基、カルボキシル基及びイソシアネート基から選ばれる1種以上の官能基を含有するか又は官能基を含有しないポリウレタン系水性樹脂又は水系エマルジョンを、0.01重量部以上2000重量部以下の割合で配合することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリオレフィン系樹脂、例えば、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体を主成分とする成型品又はフィルムに対するプライマ-又はコ-ティング組成物として使用される低公害型もしくは無公害型塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物に関するものである。更に詳しくは、本発明はポリオレフィン系樹脂の成型品又はフイルムに対するプライマ-又はベ-スコ-トとして、ポリオレフィン基材との密着性又はベ-スコ-ト及び/又はトップコ-トに対する層間密着性、耐ガソホ-ル性、耐湿性、耐衝撃性、耐屈曲性等の物性の良好な塗膜を与えるか又はワンコ-トとして、ポリオレフィン基材に塗布して得られる塗膜が基材との密着性良好にして、かつ、併用されるポリマ-エマルジョンや顔料との混和性もしくは相溶性に優れ、加うるに塗装系表面において暴露後の塗膜物性の優秀な塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物とその製造法を提供するもので、上記のように接着剤、同プライマ-のほかにインキ用塗料、同プライマ-、コ-ティング剤と同プライマ-等に使用される。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリオレフィン樹脂は比較的安価で、優れた性能、例えば、耐薬品性、耐水性、耐熱性等を有し、自動車部品等の工業用材料として広い分野で使用されている。しかしながら上記のような特徴を有するポリオレフィン系樹脂は結晶性で表面に反応性に富んだ官能基を有しないため、ポリオレフィン系樹脂の基材に対して接着や塗装を施すことは困難である。これを改善するため、当該樹脂表面を蒸気洗浄や脱脂又は酸処理あるいはコロナ放電又はプラズマ処理等の方法により改質して塗膜の付着力を向上させる試みが行われている。一方上記のように塗装困難なプラスチック表面に対して比較的良好な密着性を有する塩素化ポリオレフィン類が塗料、接着剤又はインキ分野で使用されてきた。しかしながら該塩素化ポリオレフィン類は大部分がトルエン、キシレン及び/又はエステル類等の有機溶剤に溶解した溶液型のものであった。それ故に塗装時に大量の有機溶剤が大気中に放出され、作業者や生活圏を共有する広範囲の人々や生態系に対してすらも環境汚染、衛生面等に対して深刻な影響があった。そこで最近、塩素化ポリオレフィンとカルボン酸含有樹脂とをブレンドさせた水性エマルジョン等が特許出願(WO9303104)された。しかしながら、これらのブレンド系では、塗膜形成後に異なる種類のポリマ-同士が相分離を起し、塗膜ポリマ-中に界面活性剤等の親水性成分が侵入するため、塗膜の強度及び耐水性に劣るという結果となった。
【0003】
上記に鑑み、本出願人はすでに塩素化ポリオレフィン類をモノマ-類及び/又はオリゴマ-類等に溶解し、界面活性剤と共に乳化した後に重合せしめた水系エマルジョンに関する発明を完成した(特開平5-209006、特開平5-287251、特開平6-287521、特開平8-176309)。これらの発明は、塩素化ポリオレフィン類にアクリル系等のモノマ-類を共重合せしめ、ポリマ-の高分子量化により塗膜の強度及び耐水性を向上させることを目的としたものである。しかしながら、重合工程を初期の目的通り実現せしめるためには、界面活性剤の種類が狭く限定され、その添加量も多くしなければならなかった。これら塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョンの系での耐水性を向上せしめるためには、水溶性物質の使用量を更に削減する必要があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、トリクロロエタン等の塩素系有機溶剤でポリオレフィン基材の表面を蒸気洗浄又は脱脂することなく、ポリオレフィン基材に密着性を有し、更にベ-スコ-ト及び/又はトップコ-トに対する層間密着性及び耐水性、耐ガソホ-ル性等の諸物性を向上させると同時に、本発明品を使用することにより低公害もしくは無公害の塗装又はコ-ティングを実現することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記のような問題を解決するため、鋭意開発に努力した結果、本発明を完成するに至ったもので、本発明の第1は、下記(イ)、(ロ)及び(ハ)から選ばれる1種以上の化合物で変性したポリオレフィンの1種又は2種以上を5〜50重量%の範囲で塩素化した、酸価が1〜500mgKOH/gの変性塩素化ポリオレフィンを含有し、(一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物)対(変性塩素化ポリオレフィン)が0.1:100〜50:100の重量比になるように、当該化合物を配合し、乳化用として、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上を、当該変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜100重量部配合し、かつ有機性又は無機性の塩基性物質を、変性塩素化ポリオレフィン100重量部に対して、0.01〜20重量部配合して、組成物のpHを5〜10の範囲内に調整してなることを特徴とする、塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物である。
(イ)下記一般式(1)-c、(1)-d又は(1)-eで表されるα,β-不飽和カルボン酸。
(ロ)下記一般式(1)-a又は(1)-bで表されるα,β-不飽和カルボン酸無水物。
(ハ)下記一般式(2)-aで表される一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物。
【0006】
【化3】

【0007】
【化4】

【0008】
【0009】
その第2は、変性塩素化ポリオレフィンを、溶液系又は不均一分散系において、上記(イ)、(ロ)及び(ハ)から選ばれる1種以上の化合物でさらに変性することによって、極性基を導入することを特徴とする、上記第1記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物である。
【0010】
その第3は、上記一般式(1)-c、(1)-d又は(1)-eで表されるα,β-不飽和カルボン酸及び/又は上記一般式(1)-a又は(1)-bで表されるα,β-不飽和カルボン酸無水物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応していることを特徴とする、上記第1または2に記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物である。
【0011】
その第4は、上記一般式(2)-aで表される一分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物が、0.01重量%以上60重量%以下の割合で反応していることを特徴とする、上記第1〜3のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物である。
【0012】
その第5は、オキサゾリン含有ポリマーを0.01重量%以上60重量%以下の割合で配合することを特徴とする、上記第1〜4のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物である。
【0013】
【0014】
【0015】
その第6は、分子中に水酸基、カルボキシル基及びイソシアネート基から選ばれる1種以上の官能基を含有するか又は官能基を含有しないポリウレタン系水性樹脂又は水系エマルジョンを、0.01重量部以上2000重量部以下の割合で配合することを特徴とする、上記第1〜5のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物である。
【0016】
本発明は、他のモノマ-類を使用した場合に比較して極少量の界面活性剤を使用するか又は使用することなく安定なエマルジョンが得られ、その結果、優秀な耐水性が得られることを見出した。更にこの場合に、オキサゾリン含有ポリマ-及び/又はポリウレタン系水性樹脂又は水系エマルジョンを配合しても充分な安定性と相溶性が得られるため、塗膜の耐水性などの塗膜物性が優秀になることを見出した。
【0017】
上記本発明の請求項1(イ)に使用される〔一般式(1)〕c,d,eの極性を示す目安となるα,β-不飽和カルボン酸の溶解性パラメ-タ-SP値は9.5以上15.5以下が好適であり、また上記請求項1(ハ)に使用される〔一般式(2)〕aの一分子当り1個以上の二重結合を有する化合物のSP値は7.5以上15.5以下が好適である。ここに溶解性パラメ-タ-SP値は化合物の極性を示すもので、該モノマ-の化学組成を基に、Fedors氏の方法に従い計算される。ここに、SP値に関するFedors氏の計算方法を示すと下記の通りである。

ここに △H :蒸発熱
V :モル容積(cm3/mol)
Σei=△H-RT(eal/mol)
ΣVi: それぞれのモル容積の和(cm3/mol)
上記よりSP値をFedors氏の△ei及び△Vi表を用いて計算する。
【0018】
また本発明は、塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物を合成するに当り、SP値9.5以上15.5以下である極性モノマ-類及び/又はSP値が7.5以上15.5以下である極性モノマ-類等でポリオレフィン類を高極性側に変性し、塩素化後必要ならば、これらと同SP値範囲の極性モノマ-類等で更に高極性側に2段階の変性をすることにより、界面活性剤を使用することなく、もしくは極少量の界面活性剤を使用することにより、合成される塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物に関するものである。
【0019】
本発明は、上記の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物を製造するに当っては、構成成分としてα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物を0.01重量%以上60重量%以下の割合、及び/又は一分子当り1個以上の二重結合を有する化合物を0.01重量%以上60重量%以下の割合で含有する塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物を含むものである。また上記塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物を製造するに当り、製造段階で有機又は無機の塩基性物質を加えるのは本発明の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物エマルジョンの安定性を飛躍的に向上せしめるために有効であるためである。
【0020】
更に上記工程中で界面活性剤を併用すると塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物エマルジョンの安定性が著しく向上するのみならず、ベ-スとして用いる塩素化ポリオレフィンの分子量、同分布、塩素化度、含有する極性成分の種類及びその含有量、共存する溶剤の種類及びその使用量、乳化条件にも依存するが、塗膜物性等の2次物性が界面活性剤を併用しないときに比べ良好になる。それ故に使用する界面活性剤の種類及びその使用量は、ベ-スとして用いる塩素化ポリオレフィンの分子量、同分布、塩素化度、含有する極性成分の種類及びその含有量、共存する溶剤の種類及びその使用量などにより決定され、ノニオン性、アニオン性又はカチオン性のいずれか又はノニオン性、アニオン性又はノニオン性、カチオン性界面活性剤のブレンド系を使用する。また、上記塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物のエマルジョンを使用、配合するに当り、合成中又は合成後に、オキサゾリン含有ポリマ-を配合すると更によい。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について更に詳細に説明するが、本発明の適用される範囲は以下により限定されるものではない。本発明のポリオレフィンとしては、ポリオレフィン系樹脂、例えば、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等のエチレン又はプロピレンと他のモノマ-、例えば、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘブテン、オクテン、ノネン等とのブロックコポリマ-及び/又はランダムコポリマ-又はこれら及び/又は別のモノマ-からなる2成分以上のコポリマ-を単独又は2種以上混合したものである。特に、ポリプロピレンのホモポリマ-又はプロピレン系コポリマ-には(a)アイソタクティク、(b)アタクティク、(c)シンジオタクティク、(d)ヘミアイソタクティク、(e)ステレオブロックの立体規則性異性体が知られている。
【0022】
自動車のバンパ-等、剛性や衝撃強さ等の力学特性乃至は耐久性が要求されるポリプロピレン成型品には現在、上記の立体規則性異性体の内、主として(a)アイソタクティクポリプロピレンが使用されている。そのため上記成型品を塗装するには、本発明の目的を達成するため、アイソタクティクポリプロピレン等のアイソタクティクポリマ-を主成分として本発明の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物エマルジョンを使用することにより、密着性をはじめとする塗膜物性が良好なものになる。一方(b)アタクティクポリプロピレン等のアタクティクポリマ-、又は(c)シンジオタクティクポリプロピレン等のシンジオタクティクポリマ-を主成分として本発明の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物のエマルジョンを使用すると、密着性不良乃至は塗膜物性不良を招来する。
【0023】
これらポリマ-の分子量は重量平均分子量として、1,000以上300,000以下であり、より好適な分子量範囲としては重量平均分子量として5,000以上100,000以下である。重量平均分子量として1,000未満ならば塩素化後に塗膜強度が低下するか、もしくは耐ガソホ-ル性や耐水性等の塗膜物性が低下するため、使用することができない。また300,000を超過すると変性工程及び/又は塩素化工程において該工程中に粘度が増大するため操作が困難になり不適当である。またそのまま用いない場合としては、例えば、適当な溶媒に溶解するか、又は溶解せずに熱分解あるいは酸素又は過酸化物等の酸化剤により減成したポリオレフィンを使用してもよい。これら本発明に使用のポリオレフィン類は本発明の目的とする用途に供するには、結晶性が20%以上70%以下のものがよい。結晶性が20%未満の場合は本発明の範囲での塩素化後には塗膜強度が低下するか、もしくは耐ガソホ-ル性や耐水性等の塗膜物性が低下するため使用し難く、また塗膜に粘着性が発現するため目的の物性が得難い。一方結晶化度が70%を超過すると、塩素化後も結晶が塗膜ポリマ-中に多く存在し、例えば、トルエン等の芳香族系有機溶剤に対しても溶解せしめ難く、後の変性工程で処理しにくくなる。
【0024】
ポリオレフィンの変性は、ポリオレフィンを一旦、トルエン又はキシレンのような有機溶剤に溶解せしめ、ラジカル発生剤の存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は一分子当り1個以上の二重結合を有する化合物で行うか、あるいはポリオレフィンの軟化温度あるいは融点以上まで昇温できる溶融状態で反応させ得るオ-トクレ-プ又は1軸又は2軸以上の多軸エクストル-ダ-中でラジカル発生剤の存在下又は不存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は一分子当り1個以上の二重結合を有する化合物を用いて行う。
【0025】
変性反応に用いられるラジカル発生剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパ-フタレ-ト、tert-ブチルヒドロパ-オキサイド、ジクミルパ-オキサイド、ベンゾイルパ-オキサイド、tert-ブチルパ-オキシベンゾエ-ト、tert-ブチルパ-オキシエチルヘキサノエ-ト、tert-ブチルパ-オキシピバレ-ト、メチルエチルケトンパ-オキサイド、ジ-tert-ブチルパ-オキサイドのような過酸化物類や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類がある。これらの過酸化物類を用いてグラフト共重合せしめる場合、該過酸化物の量はポリオレフィンに対して、0.1重量部以上50重量部以下が望ましく、特に好ましくは0.5重量部以上30重量部以下である。また変性反応に用いられるα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸等がある。これらのモノマ-を単独で使用してもよいが、これらのモノマ-を2種類又はそれ以上併用すると塗膜物性が良好になる場合が多い。更に変性反応に用いられる一分子当り1個以上の二重結合を有する化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸系モノマ-として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)フクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、ジ(メタ)アクリル酸(ジ)エチレングリコ-ル、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオ-ル、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオ-ル、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロ-ルプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリルアミド等が挙げられる。更にスチレン系モノマ-類としては、スチレン、α-メチルスチレン、バラメチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。更に上記以外に併用し得るモノマ-類としては、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、バ-サチック酸のビニルエステル等のビニル系モノマ-類が挙げられる。
【0026】
これらのモノマ-類を用いて、グラフト共重合せしめる場合、そのモノマ-の使用すべき種類は少なくとも1種類であり、望ましくは2種類以上使用する。モノマ-量はポリオレフィンに対して0.1重量部以上50重量部以下が望ましく、特に好ましくは0.5重量部以上30重量部以下である。特に変性ポリオレフィンとしての酸価は1KOH-mg/g以上500KOH-mg/g以下が望ましく、更に好ましくは5KOH-mg/g以上100KOH-mg/g以下である。ここでいう適正な酸価が得られると、乳化せしめたときに中和することにより、ポリマ-自体が界面活性剤としての効果を示すことになる。この変性反応はトルエン及び/又はキシレン等の有機溶剤中で溶液状態として行う場合又は水系等での非溶媒中で行う不均一分散系での反応の場合においては、窒素置換を充分に行う必要がある。
【0027】
本発明に用いられる塩素化ポリオレフィンは公知の方法で製造することができる。その製造法の一例としては、塩素化ポリオレフィンを塩素化溶媒中に溶解し、紫外線の照射下又は過酸化ベンゾイル等の過酸化物を含む触媒の存在下において、溶液状態で又は不均一分散状態で常圧又は加圧下に50〜150℃の温度で塩素ガスを吹き込み、反応させて得ることができる。
【0028】
本発明の変性反応に使用されるα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は一分子当り1個以上の二重結合を有する化合物で変性したポリオレフィンの塩素化物(以下変性塩素化ポリオレフィンという)の塩素化度は5〜50重量%の範囲で使用することができ、好ましくは10〜40重量%である。塩素化度が5重量%より低いと溶液状態が悪くなり、また塩素化度が50重量%より高くなるとポリオレフィン系樹脂との密着性及び耐溶剤性が低下する。また塩素化ポリオレフィンの酸価は1から500で、好ましくは10〜400である。酸価が1より低いと耐溶剤性が悪くなり、酸価が500より高いとベ-スコ-ト及び/又はトップコ-トに対する層間密着性が低下する。ここで塩素化反応終了後に、上記のような変性塩素化ポリオレフィンに熱安定性を付与するために、エポキシ化合物を配合するとよい。1分子当り1個のエポキシ基を有する化合物と変性塩素化ポリオレフィンとの配合比は、重量部比で0.1:100〜50:100の範囲が本発明の実施上望ましい。これはエポキシ基を有する化合物が0.1未満では安定剤効果が充分でなく、50を越えるとポリオレフィン系樹脂の成型品及びフィルムに対する密着性が低下するためである。上記のエポキシ基を有する化合物を用いることにより、上記工程に用いるまでの保存期間中に2官能エポキシ化合物と酸無水物もしくは有機酸に起因する架橋反応が抑制せられることが有利な原因となる。
【0029】
本発明に用いられる一分子当り1個のエポキシ基を有する化合物としては、塩素化ポリオレフィンと相溶性の良好なものが好ましく、例えば、フェニルグリシジルエ-テル、2-メチルフェニルグリシジルエ-テル、tert-ブチルフェニルグリシジルエ-テル、4-クロロフェニルグリシジルエ-テル、4-メトキシフェニルグリシジルエ-テル、2-ビフェニルグリシジルエ-テル、1-ナフチルグリシジルエ-テル、メチルグリシジルエ-テル、イソプロピルグリシジルエ-テル、ブチルグリシジルエ-テル、tert-ブチルグリシジルエ-テル、2-エチルグリシジルエ-テル等があり、これらの1種あるいは2種以上を混合して使用するとその効果が更に増大する。
【0030】
本発明の目的は前記したように塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョンを用いて、(1)脱公害化を図る。(2)ポリオレフィン基材等のプラスチックス素材に対する優秀な密着性を実現する。(3)耐水性、耐ガソホ-ル性等の塗膜物性が良好な塗装系を実現する。というところにある。これらの目的に対しては、上記のようにして得られる変性塩素化ポリオレフィン類を更にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は一分子当り1個以上の二重結合を有する化合物で溶液系又は不均一分散系で変性することにより更に有効となる。こうすることにより変性塩素化ポリオレフィンの極性が更に増大し、上記の目的(1)〜(3)を達成しやすくなる。即ち、(2)の密着性が良好になると、その結果として、塗装系外部からの水(湿気)又はガソリン等が侵入し難くなり、ひいては塗膜物性や塗膜の耐久性が増加するのである。
【0031】
本発明に用いられる界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエ-テル類、ポリオキシエチルアルキル類、ポリオキシエチレンアルキルアリ-ルエ-テル類、ポリエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)ブロックコポリマ-類等のノニオン性界面活性剤、またアニオン性界面活性剤としては、高級アルキル硫酸エステル類、アルキル、アリ-ルポリオキシエチレン硫酸エステル塩類、高級脂肪酸塩類、アルキルアリ-ルスルフォン酸塩類、アルキルリン酸エステル塩類等がある。一方カチオン性界面活性剤としては、アルコキシ化アミンが使用できる。その他、ポリマ-系乳化剤又は分散剤を用いてもよい。これらを使用することより、系内の粘度を上昇させうるので安定化に寄与する。本発明の目的に寄与するものとして、代表的なものを列挙すると、ゼラチン、トラガントゴム、デンプン、メチル繊維素、カルボキシメチルセルロ-ス、ヒドロキシプロピルセルロ-ス、ヒドロキシエチルセルロ-ス等の高分子、又はそれらの誘導体とポリビニルアルコ-ル、部分ケン化ポリビニルアルコ-ル、エチレン-ビニルアルコ-ル共重合体、エチレンビニルアルコ-ル酢酸ビニル共重合体類、ポリアクリル酸塩類等の水溶性有機高分子類又は分散剤としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、燐酸カルシウム等の難水溶性微粉末状無機化合物又はこれらの混合物及びタルク、ベントナイト、珪酸、珪藻土、粘土等の無機性物質並びに金属酸化物粉末がある。以上述べたアニオン性、ノニオン性又はカチオン性、更にまた高分子系又は無機系の分散剤を含む界面活性剤は単独で使用してもよいが、2種類以上の組み合わせで用いると物性が向上する場合が多い。これら界面活性剤には反応性界面活性剤を含めることも出来る。この反応性界面活性剤としては、アニオン性又はノニオン性のものが一般的である。反応性界面活性剤として分子内に親水基としてポリオキシエチレン基を有するものが特に望ましく、例えば、アルキルプロペニル(ジ)フェノ-ルポリエチレンオキサイドのアダクト体及び/又はそれらの硫酸エステル塩がある。更にまた非反応性界面活性剤と反応性界面活性剤との組み合わせでもよく、それぞれの界面活性剤を2種類以上使用することも可能である。上記の界面活性剤又はそれらの混合物の使用量としては、塩素化ポリオレフィン類100重量部に対して0.01〜100重量部とするのが好適である。
【0032】
本目的のエマルジョンを得るには、上記変性塩素化ポリオレフィン類と水とを用いて乳化する必要がある。この際、界面活性剤を添加しなくてもよいが添加するとエマルジョンの物性等が向上する利点がある。その方法としては、例えば、ホモミキサ-のような乳化器をセットした容器の中に界面活性剤を所定量溶解せしめた水溶液を入れ、その中に変性塩素化ポリオレフィン類を徐々に加えながら乳化を行う。この際、同樹脂が充分水中に乳化分散できるように、トルエン及び/又はキシレンのような有機溶剤でもって予め溶解せしめるか又は、少なくとも膨潤あるいは分散状態にしておく必要がある。そうしないと充分な撹拌動力が系内に投下されないので希望する粒径が得られないのである。この方法によると、系内に予め添加したトルエン及び/又はキシレンのような有機溶剤が残留するために後で減圧濃縮により、該有機溶剤を除く必要がある。勿論、乳化せしめる際には容器中に先に変性塩素化ポリオレフィン類及び有機溶剤を入れておき、しかる後に界面活性剤水溶液及び/又は水を添加して乳化する。
【0033】
次に、上記乳化物は塩基性物質を加えることにより、ポリマ-中に導入された酸成分を中和して、同部分を電離せしめることにより、ポリマ-分子が伸長して系全体が粘度上昇を起すため乳化液はより安定性を増すのである。この場合塩基性物質の添加により、希望するPHに調整することができる。この場合に使用される塩基性物質としては、(ジ)メチルアミン、(ジ)エチルアミン、(ジ)プロピルアミン、(ジ)ブチルアミン、(ジ)ヘキシルアミン、(ジ)オクチルアミン、(ジ)エタノ-ルアミン、(ジ)プロパノ-ルアミン、N-メチルジエタノ-ルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノ-ルアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノ-ル、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノ-ル、モルフォリン等の有機塩基性物質、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム等の無機塩基性物質を挙げることができる。これら上記の塩基性物質を用いる際、1種類でもよいが、2種類以上の塩基性物質を併用すると本発明の目的がより効果的に達成されるようになる。中和するのに用いられる塩基性物質の量は変性塩素化ポリオレフィンの変性度合いによっても異なるが、変性塩素化ポリオレフィン樹脂に対して0.1〜10重量部とするのがよい。
【0034】
次に、本発明の目的とする(1)脱公害化を図る。(2)ポリオレフィン基材等のプラスチックス素材に対する優秀な密着性を実現する。(3)耐水性、耐ガソホ-ル性等の塗膜物性が良好な塗装系を実現する点において、(3)の物性を追求するために本発明に使用される2液硬化型エマルジョンを得るために使用されるオキサゾリンポリマ-とは、オキサゾリン基をペンダントとしてポリマ-中に導入された水系架橋剤であって、カルボキシル基及び/又は酸無水物基含有樹脂等のポリマ-類の架橋剤に用いられ、適当な配合比で配合し、塗膜として焼き付け又は加温することにより架橋し得るものである。更にオキサゾリンポリマ-は水溶性樹脂又は水分散型樹脂であり、ポリマ-分子中に1個又は2個以上のオキサゾリン基を有し、主成分ポリマ-として(メタ)アクリル系ポリマ-、ウレタン系ポリマ-及び/又はポリエステル系ポリマ-等がある。
【0035】
上記オキサゾリンポリマ-と変性塩素化ポリオレフィンとの配合割合としては、1:300〜300:1の範囲で使用することが望ましく、特に好ましくは1:60〜5:1である。配合後塗装し、焼き付けするか又は加温する場合の温度は70℃以上130以下が望ましく、特に好ましくは80℃以上120℃以下である。またこの硬化反応を促進せしめるため、クエン酸のような水溶性弱酸を触媒として添加してもよい。
【0036】
更に上記(3)の耐水性、耐ガソホ-ル性等の塗膜物性が良好な塗装系を実現するために、上記2液効果型以外にも、硬化反応を伴わない系、例えば、互いの相溶性が良好であるならば、ポリウレタン系水性樹脂又は水系エマルジョンをブレンドすることにより、塗膜物性が大きく向上することが本発明者等によって見出された。ここで言うポリウレタン系水性樹脂又は水系エマルジョンとは、ベ-スポリマ-が主としてポリウレタンからなる水性樹脂又は水系エマルジョンである。更にここで言うポリウレタンは活性水素含有化合物とポリイソシアネ-トとの反応物であるが、必要に応じて鎖伸長剤、反応停止剤、従来公知の各種添加剤を用いて公知の方法により得られる。この活性水素含有化合物としては、例えば、高分子ポリオ-ル及びポリアミンが挙げられる。高分子ポリオ-ルとしては、一般的にポリエ-テルポリオ-ル、ポリエステルボリオ-ル、(水添)ポリブタジエンポリオ-ル、ポリカ-ボネ-トジオ-ルなどがある。高分子ポリオ-ルの水酸基当量は通常、200〜3.000である。低分子ポリオ-ルとして好ましいものは、(ジ)エチレングリコ-ル、1,4-ブタンジオ-ル、ジメチロ-ルプロピオン酸、3-メチルペンタジオ-ル、2-エチメ-1,3-ヘキサンジオ-ルである。ポリアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジエタノ-ルアミン、N-ヒドロキシエチレンジアミン、4,4′-ジアミノジシクロヘキシルメタンである。これら活性水素含有化合物は通常高分子ポリオ-ル単独又は高分子ポリオ-ルと低分子ポリオ-ル及び/又はポリアミンと併用して使用される。ポリイソシアネ-トとしては芳香族、脂肪族又は脂環族の各種公知のイソシアネ-ト類を使用することができる。例えば、TDI(トルエンジイソシアネ-ト)、MDI(4,4′-ジフエニルメタンジイソシエネ-ト)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネ-ト)、IPDI(イソホロンジイソシアネ-ト)、水添MDI及びテトラメチルキシリレンジイソシアネ-トである。ウレタン樹脂を製造するには、ポリイソシアネ-トと活性水素含有化合物の割合は任意に変えうるが、通常当量比として1:1から1:2である。ポリウレタンの数平均分子量は通常、3,000〜300,000てある。更に本発明のポリウレタンには、分子中にカルボキシ基及び/又は水酸基及び/又はイソシアネ-ト基を含有するものも特に有効である。更にポリウレタンの水性化については、様々な方法がありその多くは公知である。例えば、分子内にカルボン酸ナトリウム又はスルホン酸ナトリウムを有するポリウレタンをアセトン/水系で合成し、アセトンを留去するなどである。このように親水基を分子中に導入し、ポリマ-自体の親水性を向上せしめれば、界面活性剤を用いて乳化しなくても充分な自己乳化性を得ることができる。ソ-プフリ-型水性樹脂と言われるのは主としてこのタイプである。それ故に本発明の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物とブレンド及び/又は反応せしめれば系内の界面活性剤総量が減ることになり、両者の相溶性が充分である場合には良好な塗膜性能を発揮することになる。
【0037】
以上のようにして、エマルジョン状態となった本発明の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物はポリオレフィン基材等の低極性プラスチック素材に対する密着性のみならず耐水性や耐ガソホ-ル性のような塗膜物性、エマルジョン安定性等が良好であり、かつ保存物性が良好な機能特性を遺憾なく発揮する。この応用例としては水系塗装システム、水系接着剤、水系インキ用等の樹脂とすることもできる。またこのような水系でのコ-ティングにおいては工業上、実際問題として水の蒸発スピ-ドが律速段階になることが多い。しかるに本発明の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョンは前述したように、ポリマ-の極性を上昇せしめた結果、水に対して馴染みやすく、加うるにアルコ-ル系を始めとする成膜助剤あるいは蒸発促進剤にも容易に混和し得るし、かつ実用上長期間の保存が可能である。本発明において、使用することが好ましい代表的な成膜助剤乃至は蒸発促進剤を挙げると、イソプロピルアルコ-ル、エチレングリコ-ル、エチレングリコ-ルモノメチルエ-テル、エチレングリコ-ルモノブチルエ-テル、エチレングリコ-ルモノエチルエ-テル、エチレングリコ-ル-2-エチルヘキシル、プロピレングリコ-ル、プロピレングリコ-ルモノメチルエ-テル、プロピレングリコ-ルモノブチルエ-テル、プロピレングリコ-ルモノエチルエ-テル、プロピレングリコ-ル-2-エチルヘキシル、ジエチレングリコ-ル、ジエチレングリコ-ルモノメチルエ-テル、ジエチレングリコ-ルモノブチルエ-テル、ジエチレングリコ-ルモノエチルエ-テル、ジエチレングリコ-ル-2-エチルヘキシル、ジプロピレングリコ-ル、ジプロピレングリコ-ルモノメチルエ-テル、ジプロピレングリコ-ルモノブチルエ-テル、ジプロピレングリコ-ルモノエチルエ-テル、ジプロピレングリコ-ル-2-エチルヘキシルがある。これらのうち1種類もしくは2種類以上を同時に使用すると、様々な塗料性能を充分発現せしめることが可能である。これらの使用量としては本発明の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョンに対して、0.1〜300重量部、特に好ましくは0.5〜100重量部を混合して使用する。これら以外に添加剤としては、有機性及び/又は無機性の顔料及び/又は染料、増粘剤、たれ防止剤、チキソ剤、粘度調整剤、消泡剤、耐候剤、紫外線吸収剤、増粘剤、防黴剤、安定剤、その他の水性塗料及び/又は水系エマルジョン、例えば、水系ウレタンポリマ-、同アクリル樹脂、同エポキシ樹脂、同アミノ樹脂、同シリコン樹脂等のポリマ-類を配合することも可能である。
【0038】
【実施例】
次に、本発明の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
アイソタクチックポリプロピレン(Mw=約30000)280Kg、アクリル酸5.0g、無水マレイン酸16.8g、ジクミルパ-オキサイド5.6g及びトルエン420gを撹拌器を取付けたオ-トクレ-プ中に加え、窒素置換を約5分間行った後、加熱撹拌しながら140℃で5時間反応を行った(以降、この段階をグラフト重合反応(1)と称する)。反応終了後、反応液を大量のメチルエチルケトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂を更にメチルエチルケトンで数回洗浄し、未反応のモノマ-を除去した後、60℃、10torrの圧力で充分に減圧乾燥した。得られた酸変性樹脂を100g及びテトラクロロエチレン900gを四つ口フラスコ中に加え、窒素置換を約5分間行った後、110℃に加熱し樹脂を充分に溶解させた。次いでジ-tert-ブチルパ-オキサイド1.0gを加え、塩素ガスを吹き込んだ。63gの塩素ガスを3時間かけて吹き込んだ後、窒素ガスを吹き込み、未反応の塩素ガス及び塩化水素を除去した。溶媒のテトラクロロエチレンをエバポレ-タ-で留去後、トルエンで置換し、酸変性塩素化ポリオレフィン(酸価KOH・50mg/g、塩素含量:22.2重量%、Mw=25,000)の20wt%トルエン溶液を得た。得られた組成物の20wt%トルエン溶液にデナコ-ルEX-141(ナガセ化成工業株式会社製:フェニルグリシジルエ-テル、エポキシ当量が154であるエポキシ化合物)を樹脂に対して4重量%添加し充分に撹拌した。上記20.6重量%トルエン溶液を100gフラスコ中に取る。これとは別に、フラスコ中にネオコ-ルP(第一工業製薬株式会社製:アニオン性界面活性剤)1.0g、更にノイゲンEA-190D(第一工業製薬株式会社製:ノニオン性界面活性剤)1.0gを仕込み、脱イオン水100gを入れ、50℃に保った状態で充分溶解せしめる。これらトルエン溶液と界面活性剤水溶液とを乳化器を用いて、20,000rpmで5分間撹拌し、プレエマルジョンを得た。このプレエマルジョンの粒径を測定したところ、50%粒径は0.22μmであり、この分散度は1.0であった。ここでの分散度は次式で与えられる。

このプレエマルジョンを25%アンモニア水でph8に調製し、脱イオン水50gとともに1lナスフラスコに入れ、プレエマルジョンの温度を45℃に保ち、エバホ-レ-タ-を用いて100〜200torrで系内のトルエンを減圧留出せしめた。これを25℃まで冷却して#400の金網で濾過して極微量の約50μm以上の乳化物等や不溶解物を除き、phが7.8で20.2重量%の固形分を有する50%粒径0.24μmであり、かつ、分散度は1.1、そして残留トルエン含量が0である塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョンを得た。
【0039】
【実施例2】
アイソタクチックポリプロピレン(Mw=50,000)280Kg、無水マレイン酸6.8g、ジクミルパ-オキサイド5.6g及びトルエン420gを撹拌器を取付けたオ-トクレ-プ中に加え、窒素置換を約5分間行った後、加熱撹拌しながら140℃で5時間反応を行った。反応終了後、反応液を大量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂を更にアセトンで数回洗浄し、未反応のモノマ-を除去し、60℃、10torrの圧力で充分に減圧乾燥した。得られた酸変性樹脂のうち100g及びテトラクロロエチレン1,000gを四つ口フラスコ中に加え、窒素置換を約5分間行った後、110℃に加熱し樹脂を充分に溶解させた。次いでジ-tert-ブチルパ-オキサイド1.0gを加え、塩素ガスを吹き込んだ。80gの塩素ガスを3時間かけて吹き込んだ後、窒素ガスを吹き込み、未反応の塩素ガス及び塩化水素を除去した。溶媒のテトラクロロエチレンをエバポレ-タ-で留去後、トルエンで置換し、酸変性塩素化ポリプロピレン(酸価KOH-60mg/g、塩素含量:24.1重量%、Mw=48,000)の20wt%トルエン溶液を得た。得られた組成物の20wt%トルエン溶液にデナコ-ルEX-141(ナガセ化成工業株式会社製:フェニルグリシジルエ-テル)を樹脂に対して4重量%添加し充分に撹拌した。上記20.5重量%トルエン溶液を100g、撹拌機、滴下漏斗、冷却器、温度計、窒素導入管を取付けたフラスコ中に取る。この滴下漏斗中に1.0gの過酸化ベンゾイル、メタクリル酸2.5g、更にメタクリル酸-2-エチルヘキシル1.5g及びトルエン10gを加えて充分に混合溶解したものを仕込む。窒素置換を約5分間行った後、90℃まで昇温した後に、加熱撹拌しながら3時間一定の流量で滴下し、90℃で5時間反応を行った(以降、この段階での反応をグラフト重合反応(2)と称する)。この反応液をトルエンを加えて希釈し、20重量%溶液とする。これとは別に、フラスコ中にノイゲンEA-190D(第一工業製薬株式会社製:ノニオン性界面活性剤)2.0gを仕込み、脱イオン水100gを加え、50℃に保った状態で充分溶解せしめる。上記トルエン溶液と界面活性剤水溶液とを乳化器を用いて、20,000rpmで5分間撹拌し、プレエマルジョンを得た。このプレエマルジョンの粒径を測定したところ、50%粒径は0.22μmであり、この分散度は1.3であった。このプレエマルジョンをモルフォリンでph9に調製し、脱イオン水50gとともに1lナスフラスコに入れ、実施例1と全く同様にトルエンを減圧留出せしめた。これを25℃まで冷却して#400の金網で濾過して極微量の約50μm以上の未乳化物や不溶物等を除去して、phが8.5、19.8重量%の固形分を有する50%、粒径0.19μm、分散度0.9、かつ残留トルエン含量が0である塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョンを得た。
【0040】
【実施例3〜15】
〔表1〕に示す配合例により、グラフト重合(1)又はグラフト重合(2)の成分、同量等をそれぞれ使用して実施例1又は2と全く同様な方法で、塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョンを得た。
【0041】
【表1】

ポリオレフィン:IPP;アイソタクテックポリプロピレン、PB;プロピレン-ブテン共重合体(プロピレン成分76モル%)、EPB;エチレン-プロピレン-ブテンターポリマー(プロピレン成分20モル%)
分子量 :重合平均分子量
モノマー :MAH;無水マレイン酸、IAH;無水イタコン酸、CAH;無水シトラコン酸、IA;イタコン酸、MA;マレイン酸、AAH;無水アコニット酸、AcA;アクリル酸、MAcA;メタクリル酸、HEMA;メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、MAcEH;メタクリル酸-2-エチルヘキシル、MMA;メタクリル酸メチル
有機溶剤 :T;トルエン、X;キシレン
過酸化物 :DC;ジクミルパーオキサイド、DBP;ジ-t-ブチルパ-オキサイド、BPO;ベンゾイルパーオキサイド、AIBN;アゾビスイソブチロニトリル、LPO;ラウロイルパーオキサイド、BPEH;t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート
界面活性剤:▲1▼;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=19.0)、▲2▼;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、▲3▼;ラウリル硫酸ナトリウム、▲4▼;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、▲5▼;ポリオキシエチレンラウリルエ-テル、▲6▼;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=15.5)、▲7▼;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(HLB=14.9)、▲8▼;ポリエチレングリコールモノラウレート(HLB=18.3)、▲9▼;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、X;ポリオキシエチレンアルキルアミン、Y;部分けん化ポリビニルアルコール(けん化度87%)
塩基性物質:AMP;2-メチル-2-アミノ-1-プロパノール、TEA;トリエチルアミン、TEO;トリエタノールアミン、DEA;ジエチルアミン、NaC;炭酸ナトリウム、DPA;ジプロピルアミン、DHA;ジヘキシルアミン、DBA;ジブチルアミン
【0042】
【実施例16】
実施例1により得られた塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョン(樹脂固形分20.2%)100gとNeoRezR972(ゼネカ株式会社製;水性ウレタン樹脂;樹脂固形分20%調整品)100gを充分混合し、更にエポクロスWS-500(日本触媒株式会社製;オキサゾリン基含有水溶性ポリマ-;樹脂固形分40重量%)4.9gをこの混合液中に加えて充分撹拌して塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョン/水性ウレタン樹脂/オキサゾリン基含有水溶性ポリマ-ブレンド系樹脂組成物を得た。
【0043】
【実施例17〜30】
実施例16と全く同様にして、〔表2〕に示す配合例で水性ウレタン樹脂及び/又はアクリル系エマルジョン及びオキサゾリン基含有水溶性ポリマ-をブレンドし、ブレンド系樹脂組成物を得た。
【0044】
【表2】
(1)樹脂固形分が20±1重量%
(2)ダオタンVTW1232、ダオタンVTW2275;ヘキスト社製ウレタンエマルジョン、NeoRez972、NeoRez984、NeoRez9603、NeoRez9621、NeoRez9320;ゼネカ株式会社製水性ウレタン(樹脂固形分を20重量%に水で調整したもの)、NeoCrylA1070、NeoCrylA6075、NeoCrylXK-90;ゼネカ株式会社製水性アクリルウレタン(樹脂固形分を20重量%に水で調製したもの)
(3)エポクロスWS500(日本触媒株式会社製;樹脂固形分40重量%)
【0045】
【実施例31】
実施例1により得られた塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョン(樹脂固形分20.2%)100gとNeoRezR972(ゼネカ株式会社製水性ウレタン樹脂;樹脂固形分20%調整品)100gを充分混合し、更にNeoRezR990(ゼネカ株式会社製;ブロックイソシアネ-ト基含有水性ウレタン;樹脂固形分35重量%)15.5gをこの混合液中に加えて充分撹拌して塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョン/水性ウレタン樹脂/ブロックイソシアネ-ト基含有水性ウレタン系樹脂組成物を得た。
【0046】
【比較例1〜5】
〔表1〕に示す成分及びその量により、実施例1又は2と同様な方法で塩素化ポリオレフィン系水性樹脂エマルジョンを合成し、以下に示す物性を測定して〔表3〕に示した。
【0047】
【表3】
(1)層間密着性:ポリプロピレン板(三井ノ-ブレンSB-E3を定法によりプレス成型したもので、100mm×50mm、厚さ2mm)の表面をイソプロピルアルコ-ルで洗浄し、実施例1〜12及び比較例1〜5の組成物をエア-式スプレ-ガン(明治機械製作所株式会社製;F-88型)を用いて塗装した。乾燥は80℃で30分間行い、室温で放冷した。次に2液硬化型ウレタン塗料主剤(関西ペイント株式会社製;レタンPG80)及び同硬化剤を100:25の重量比で混合し、シンナ-を塗布量が50〜60g/m2になるよう調合し、エア-式スプレ-ガンを用いて塗装した。乾燥は120℃で30分間行い、室温に戻して24時間経過したものをテストした。評価は塗面上に素地に達する25個のマス目を作り、その上にセロハンテ-プを圧着させて塗面に対して90度の角度で引き剥がし、マス目の残存数を調べた。
(2)耐水性:(1)の方法で塗装したポリプロピレン板を40℃に保った水道水中に240時間浸漬し、塗装片表面上の塗膜外観をチェックし、かつ(1)と同様の方法でこのときの層間密着性を評価した。
(3)耐ガソホ-ル製:(1)の方法で塗装したポリプロピレン板を20℃に保ったガソホ-ル(レギュラ-ガソリン:エタノ-ル=90:10(重量%))中に10分間浸漬し、塗膜状態を調べた。
(4)エマルジョン高温安定性:20重量%の水系樹脂組成物を40℃に保った恒温層中で、6か月間放置したものについて、経時前後の50%粒径の比〔(6ケ月後の50%粒径)/(製造直後の50%粒径)〕を求めた(○-0.9〜1.1、△-1.2〜2、×-2以上)。
(5)エマルジョン低温安定性:20重量%の水系樹脂組成物を-5℃に保った恒温槽中で、6か月間放置したものについて、経時前後の50%粒径の比〔(6ケ月後の50%粒径)/(製造直後の50%粒径)〕を求めた(○-0.9〜1.1、△-1.2〜2、×-2以上)。
(6)粒:20重量%の水系樹脂組成物を40℃に保った恒温層中で、1か月間放置したものについて、粒ゲ-ジ試験器(太祐機材株式会社製)を用いた、JISK5400に準じ測定した(○-40μ以上の粒が無く、40μ以下の粒が5個未満のもの、×-40μ以上の粒が有り、40μ以下の粒が5個以上のもの)。
(7)プロピレングリコ-ル希釈安定性:20重量%の水系樹脂組成物を25℃に保った恒温層中で、100gの水系樹脂組成物に対して20gのプロピレングリコ-ルを徐々に加えながら撹拌し、均一なブレンド液とした後、1週間保存する。期間満了後に、恒温層より取出して液の外観及び粒径を測定する。経時前後の50%粒径の比〔(1ケ月後の50%粒径)/(製造直後の50%粒径)〕を求めた(○-0.9〜1.1、△-1.2〜2、×-2以上)。
【0048】
【比較例6〜10】
実施例16と全く同じ操作で〔表3〕の配合例により、オキサゾリン基含有ポリマ-を共存させ、ブレンド系樹脂組成物を得た。
【0049】
【比較例11】
実施例31と同じ操作で〔表2〕の配合例により、ブロックイソシアネ-ト基含有水性ウレタンを共存させ、ブレンド系樹脂組成物を得た。
【0050】
【発明の効果】
本発明の塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物の水系エマルジョンはポリプロピレン等のポリオレフィンを含む低極性表面プラスチック成型品もしくは同フィルムに対する密着性に優れ、その他の耐水性や耐ガソホ-ル性等の塗膜物性が良好で、かつ、エマルジョン安定性に優れ、更にはオキサゾリン基含有ポリマ-、ブロックイソシアネ-ト基含有水性ウレタンを始めとする硬化剤及びその他の水性樹脂との相容性、更にはプロピレングリコ-ルモノメチルエ-テル等を始めとする成膜助剤乃至は蒸発促進剤添加時及び保存時の安定性に優れてる。故に、従来のポリプロピレン等のポリオレフィンを含む低極性表面プラスチック成型品もしくは同フィルム用の塗料、同プライマ-、接着剤、同プライマ-を含むコ-ティング等に使用される水系組成物に比べ、良好な塗膜を形成することができる。また、トルエン又はキシレン等の芳香族溶剤を含む有機溶剤を全く含有しないため、環境保全、安全、健康衛生面で格段に優れるものである。
【表2】

【表2】

【表3】

【表3】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-03 
出願番号 特願平9-123145
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08F)
P 1 651・ 531- YA (C08F)
P 1 651・ 121- YA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 邦彦  
特許庁審判長 柿 崎 良 男
特許庁審判官 石井 あき子
佐 藤 健 史
登録日 2002-11-29 
登録番号 特許第3376244号(P3376244)
権利者 東洋化成工業株式会社
発明の名称 塩素化ポリオレフィン系水性樹脂組成物  
代理人 倉内 義朗  
代理人 倉内 義朗  

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