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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1097991
異議申立番号 異議2002-73022  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-12-10 
確定日 2004-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3294693号「食物アレルゲン負荷試験用組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3294693号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3294693号の請求項1ないし2に係る発明の出願は、平成5年(1993年)11月9日に出願され、平成14年4月5日に設定登録され、その後、申立人石川範行より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年5月6日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正請求の適否
前記訂正請求の適否について以下検討する。
(1) 訂正の内容
<訂正事項a>
請求項1の「アレルゲン活性を有する食品素材に・・・・味、色、臭い等をマスキングしたことを特徴とする食物アレルゲン負荷試験用組成物。」という記載を、「アレルゲン活性を有する食品素材に・・・・味、色、臭い等をマスキングし、異なる施設においても同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにしたことを特徴とする食物アレルゲン負荷試験用組成物。」に訂正する。
<訂正事項b>
食物アレルゲン負荷試験法についての請求項2を削除する。
<訂正事項c>
明細書の【0001】【産業上の利用分野】の記載「本発明は、・・食物アレルゲン負荷試験用組成物及びそれを用いた試験法に関する。」(本件特許公報1頁1欄12行〜2欄2行参照)から、「及びからそれを用いた試験法」を削除して、「本発明は、・・食物アレルゲン負荷試験用組成物に関する。」と訂正する。
<訂正事項d>
明細書の【0014】【発明が解決しようとする課題】中の記載「本発明の目的は、・・食物アレルゲン負荷試験用組成物及びからそれを用いた試験法を提供することである。」(本件特許公報2頁4欄43行〜49行参照)から、「及びからそれを用いた試験法」を削除して、「本発明の目的は、・・食物アレルゲン負荷試験用組成物を提供することである。」と訂正する。
<訂正事項e>
明細書の【0015】【課題を解決するための手段】中の記載「即ち、本発明は、・・食物アレルゲン負荷試験用組成物及びそれを用いた試験法に関する。」(本件特許公報3頁5欄18行〜23行参照)から、「及びからそれを用いた試験法」を削除して、「即ち、本発明は、・・食物アレルゲン負荷試験用組成物に関する。」と訂正する。

(2)訂正の目的
訂正事項aの「異なる施設においても同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにしたもの」とは、特許明細書の【0013】〜【0015】、【0017】の記載からみて、各施設のアレルギー専門医が、その場で調製する試験用組成物を意味するものでなく、診断薬製造者等があらかじめ調製しておいた、試験用組成物を意味するものと認められるから、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができる。
訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項c〜訂正事項eは、請求項2の削除に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるための訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(3)新規事項の有無、変更・拡張
訂正事項aの訂正は、発明の詳細な説明の段落【0013】〜【0015】に記載された事項の範囲内であるし、訂正事項b〜訂正事項eも、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものである。
また、訂正事項a〜訂正事項eは、実質上特許請求の範囲を拡張するものでもなく、又は、変更するものでもない。

(4)訂正事項の検討結果
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成15年改正前の特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項但し書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。(以下、「本件発明」という。)
「【請求項1】 アレルゲン活性を有する食品素材に、着色料、香料、調味料、サイクロデキストリンの中から選ばれる1種または2種以上を添加し、当該食品素材特有の味、色、臭い等をマスキングし、異なる施設においても同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにしたことを特徴とする食物アレルゲン負荷試験用組成物。」

4.取消理由通知
取消理由通知は、概要以下のようなものである。
「 引用刊行物
刊行物1: S.Allan Bock,et.al.”Double-blind, placebo-controlled food challenge(DBPCFC)as an office procedure: A manual.”J.ALLERGY CLIN.IMMUNOL 1988;Vol.82,No.6,p986〜997(甲第1号証)
本件発明は、刊行物1に記載された発明と同一であるか、あるいは、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。」

5.刊行物1の記載事項
「診察室での方法としての二重盲検プラセボコントロール食物負荷試験(DBPCFC):マニュアル」と題する論文である刊行物1には、下記の事項が記載されている。
(1a)試験食の調製(992頁右欄下から16行〜下から9行)
「試験食の調製
脱水または乾燥した食品を用いることが有利であることは、その簡便性と容易貯蔵性から、言い過ぎということはできない。穀物(小麦、えん麦、ライ麦、米、大麦、トウモロコシ、大豆など)のような食品は、粉末または粗挽きにすることが可能である。ナッツおよび豆は、購入しそれをモーターと乳鉢、またはミキサーを使用することで粉末にできる。乾燥した牛乳および乾燥卵白は、容易に入手できる。」
(1b) 賦形剤(993頁左欄9行〜22行)
「賦形剤(Vehicles)
DBPCFCにおいては食品の存在を隠すために多くの賦形剤が使用されている。重要なことは、DBPCFCは、過去に行った試験の時間的および量的条件を繰り返すことが必要であることを忘れないでほしい。それゆえ、賦形剤が真のブラインド試験を行うために許容されて、食品の臭い、フレーバー、外見(texture)をマスキングしなければならない。その賦形剤は、数時間の間に複数の試験食品を投与することができるように、少量で十分な食品を隠すことができるものでなければならない。完全なブラインド試験からずれた方法は、次善のものととみなされる。その理由としては、患者および観察者の主観的な偏見が入ってしまうからであり、試験がブラインドで行われることを確実にするために、別の代替的な方法を捜さなければならない。」
(1c)製薬会社の商品(993頁右欄4行〜11行)
「製薬会社(Dura)では、最近、食物負荷試験用に乾燥食品をカプセルに充填した商品を販売した。これらの食品含有カプセルは、食品に対して感受性が高い人を診断するために使用することを、食品医薬局は許可していない。それらのカプセルは、カプセル毎に含まれる食品が少量であると批判されてきた。したがって、数回試験をすると、大量のカプセルが必要とされるからである。」
(1d)Vivonex(993頁右欄12行〜18行)
「Vivonex、特にそれを凍らせたり、バニラまたは有効なフレーバーで風味をつけたものは、ほとんどどんなものでも隠すことができる。特に液体のような凍結乾燥できないものに対して有効であり、例えば、醸造酢、さまざまな油、ワインおよびフルーツジュースは、凍らせたり、風味付けされたVivonex中にいれれば、検知されない程度に隠すことができる。」
(1e) ミルクセーキその他の賦形剤(993頁右欄27行〜994頁左欄2行)
「ミルクセーキはある食品にとっては良い賦形剤の一つであり、ブドウフレーバーのような強い味で風味をつけているアイスクリームも同様に良い賦形剤である。アップルソースは、幼い子供にとって粉末食品の存在を隠すためのすばらしい食品のひとつである。この食物負荷試験用の賦形剤にアップルソースを使用したとき、子供達は、あたかもアップルソースを食べているように思ってくれるので、試験を行う際には差し支え無いと考えられる。それゆえ、アップルソース中に穀物食品を隠すことは、幼児にとってはカプセル投与に変わる現実的な代替方法の一つとなる。地元の診療所や病院にいる、賢い栄養士は、特に、食物負荷試験で投与する量が決まっている場合において、食品を隠す独創的な方法を考案することがある。例えば、彼らは、ハンバーガーをマグロの中に隠すことができ、また、ハンバーガーの中にマグロを隠すこともできる。その他の賦形剤としては、果物およびレンズ豆のスープとタピオカの混合物も使用されている。」

6.特許法第29条第2項についての検討
(イ)刊行物1で賦形剤がマスキングすべき対象としている「フレーバー」には、食品素材特有の味、風味、香味が含まれ、「外見」には食品特有の色も含まれている。また、刊行物1に記載されたバニラやブドウフレーバーは、香料でもあるし、その特有の味を付ける調味料でもあるし、アップルソースもリンゴの香り、味、そして甘みを付ける香料兼調味料として作用する素材であるから、刊行物1には、アレルゲン活性を有する食品素材に、香料、調味料の1種または2種以上を添加し、当該食品素材特有の味、色、臭い等をマスキングした食物アレルゲン負荷試験用組成物が記載されている。
(ロ)そこで、本件発明を刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、次の点で、相違するだけである。
(相違点)
本件発明では、食物アレルゲン負荷試験用組成物が、「異なる施設においても同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにした」ものであるのに対し、刊行物1には、食物アレルゲン負荷試験用組成物が、異なる施設においても同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにしたものであることは記載されていない点。
(ハ)「異なる施設においても同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにしたもの」とは、特許明細書の【0013】〜【0015】、【0017】の記載からみて、各施設のアレルギー専門医が、その場で個々に調製する試験用組成物を意味するものでなく、診断薬製造者等があらかじめ規格化して調製しておいた、アレルゲンの種類やアレルゲン含有量あるいはアレルゲン活性が表示されている試験用組成物を意味するものと認められる。
(ニ)診断薬において、病院や診療所のような診断施設で試験の度に診断薬を調製するのではなく、診断薬製造者等が事前にその内容を規格化して調製して販売供給し、異なる施設においても、その診断薬を使用する試験を同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにすることも慣用的に行われていることにすぎない。
そして、食物アレルゲン負荷試験用組成物を製薬会社が製造することも、刊行物1に記載されている(前記(1c)参照)。
そうすると、「食物アレルゲン負荷試験用組成物」を、異なる施設においても食物アレルゲン負荷試験を同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにしたものとすることは、当業者が格別の創意を要することではない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める法令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
食物アレルゲン負荷試験用組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 アレルゲン活性を有する食品素材に、着色料、香料、調味料、サイクロデキストリンの中から選ばれる1種または2種以上を添加し、当該食品素材特有の味、色、臭い等をマスキングし、異なる施設においても同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにしたことを特徴とする食物アレルゲン負荷試験用組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アレルゲン活性を有する食品素材に着色料、香料、調味料、サイクロデキストリンの中から選ばれる1種または2種以上を添加し、当該食品素材特有の味、色、臭い等をマスキングしたことを特徴とする食物アレルゲン負荷試験用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】アレルギーは紀元前から知られている疾病であるが、近年、日常よく耳にする疾病となり、この20〜30年の間、成人病や癌に匹敵する程にまで増加し、また難治化し問題となってきている。その中で特に、生まれたばかりの乳幼児から成人にいたるまで、食品由来のアレルギー疾患が増加傾向にある。
【0003】個体が外界の進入物に対して、自己と同一(同質)か、異物(異質・非自己)であるかを識別する能力を免疫反応と呼び、この中には個体を防御する有利な反応(予防接種・感染による抗体獲得)と、個体に不利な過敏反応とがあり、アレルギーは後者に属している。
【0004】アレルギー反応はその発症のメカニズム等からI〜IV型に分類される。I型アレルギー反応は即時型反応とも呼ばれ、アレルゲンに接して、数秒から数時間内に起こるものであり、食物アレルギーの大部分はこの型に属している。このI型アレルギー反応の症状としては、気管支喘息、アトピー性皮膚炎等があり、時には、血圧低下、意識消失、心停止等、急激に重篤な反応を起こすことがある。
【0005】食物アレルゲンのうち卵、牛乳、大豆は三大アレルゲンと言われ、小児にとって特に問題となっている。食物アレルギーの治療は、通常、アレルゲンとなる食物を日常の食品から取り除くことにより行なわれる。この場合、アレルゲンの正確な判定が最も大切であり、食物アレルゲンを調べるアレルギー診断法には、アレルゲンの除去試験、皮膚テスト、RAST法及びアレルゲン負荷試験等がある。
【0006】アレルゲンの除去試験は、アレルゲンと考えられる食品素材を1つずつ食事から除去し、アレルギー反応を起こすアレルゲンを特定する方法である。しかし、この方法には、三大アレルゲンである卵、牛乳、大豆等を日常の食品から完全に除去することには大変な労力を要する等の問題がある。
【0007】皮膚テストには、スクラッチテスト、皮内テスト、パッチテスト等がある。アレルゲンをパッチバンにしみこませ皮膚に貼ったり、アレルゲンを皮膚に一滴滴下し、針でひっかいてアレルギー反応を調べる方法である。しかし、これらの方法には、患者に苦痛や掻痒感を与える等の問題がある。
【0008】RAST法は、アレルゲンに対する血液(血清)中の抗体(IgE)を調べる方法である。アレルゲンを固形物と結合させたものに、アレルゲンに対する血中の抗体(IgE)を結合させ、次いで、その抗体(IgE)に対し、放射性同位元素で標識した抗体(抗IgE抗体)を結合させ、アレルゲンに対する抗体(IgE)を定量する方法である。しかし、この方法には、放射性同位元素を用いるため、放射性同位元素を取り扱うための特別な施設及び技術が必要になる等の問題がある。
【0009】アレルゲン負荷試験は、アレルギー専門医のもとで、アレルギーの原因と思われる食品を投与してアレルギー症状を故意に起こさせることによりアレルゲンを特定する方法である。
【0010】皮膚テストやRAST法は一度に多数のアレルゲンを調べられるため、従来より、アレルゲンの特定によく用いられている方法であるが、特定されたアレルゲンが負荷試験で陰性の場合やその逆の場合が多くあり、現在問題になっている。正確なアレルゲンの特定を行なわず、病歴や病状、皮膚テストやRAST法の結果だけで卵、牛乳や大豆等の食物アレルゲンを除去すると、特に小児の場合、十分な栄養が得られず体の成長を阻害することにもなりかねない。また、卵白や牛乳等を原因とする食物アレルギーは加齢と共に自然治癒することが多いため、その治癒を極力早く診断し、通常食に戻すことが小児の成長にとって重要なことである。
【0011】このような観点より、現在、アレルゲンを迅速かつ正確に特定することが重要視されている。アレルゲンを特定する方法として、食物アレルゲン負荷試験が最も直接的でありかつ正確であると言われている。また、本願の方法によれば、アレルゲンの特定だけではなく、アレルギー反応の発現とアレルゲンの摂食量との関係がわかるため、当該食品のアレルゲンの摂食量を変化させることにより、最大許容摂食量の判定ができるという利点もある。
【0012】現在行われているアレルゲン負荷試験の方法としては、例えば卵の場合茹で卵を作りそれを食べさる方法、粉末化したアレルゲンをカプセルに詰めて投与する方法等がある。しかし、これらの方法の場合、前者においては、被検者が何を食べたのかわかるため、盲検法に使用できない、食品の味、色、臭い等により、心理的影響を受けやすい(アレルゲンが実際には入っていなくても、あるいは、その食品に対するアレルギーが治癒していても、患者がアレルギーの原因と思われる食品を食べたという意識だけで、アレルギー症状を起こす例がある)等の問題が、後者においては、乳幼児ではカプセルが飲み込めない等の問題があった。
【0013】現在行われているアレルゲン負荷試験は、実施する施設によって、その試験方法が異なり、判定基準も異なっているため、アレルギー反応の判定が施設によって異なる場合がある等の問題があった。また、アレルゲン活性を明示し、異なる施設においても同一の方法で実施でき、同一の基準で判定できるようにしたアレルゲン負荷試験用組成物はなかった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】従来のアレルゲン負荷試験では食品の味、色、臭い等により、心理的影響を受けやすい欠点及び、実施する施設によって、その試験方法が異なり、判定基準も異なっているため、アレルギー反応の判定が施設によって異なる場合がある等の問題があった。このため、食物アレルゲンの正確な判定では、薬の効果判定に用いられている盲検法を応用して、客観的にアレルゲン負荷試験を行なうことができ、かつ、異なる施設においても同一の基準で判定できるようにしたアレルゲン負荷試験用組成物が望まれている。本発明の目的は、アレルゲン活性を有する食品素材に、着色料、香料、調味料、サイクロデキストリンの中から選ばれる1種または2種以上を添加し、当該食品素材特有の味、色、臭い等をマスキングし、乳幼児においても摂取しやすい食物アレルゲン負荷試験用組成物を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】本願発明者等は、鋭意研究した結果、アレルゲン活性を有する食品素材の持つ味、色、臭い等を、果汁飲料やゼリー、チョコレート等に加工する際、または、加工の前処理の際に、着色料、香料、調味料、サイクロデキストリンの中から選ばれる1種または2種以上によりマスキングすることにより、アレルゲン性を何ら損なうことなく乳幼児においても摂取しやすい食物アレルゲン負荷試験用組成物が提供できることを見出した。また、同時に、食物アレルゲン負荷試験用組成物中に含まれるアレルゲン活性を明示することにより、異なる施設においても同一の方法で実施可能であり、同一の基準で判定できる食物アレルゲン負荷試験方法が確立できることを見出した。更に、アレルゲン活性を有する食品素材を含有してなる組成物及び、それと同等の風味を有しアレルゲンを含有していない空試験用組成物を組み合わせることにより、盲検法による食物アレルゲン負荷試験方法が確立できることを見出した。即ち、本発明は、アレルゲン活性を有する食品素材の持つ味、色、臭い等を着色料、香料、調味料、サイクロデキストリンの中から選ばれる1種または2種以上によりマスキングした、乳幼児においても摂取しやすい食物アレルゲン負荷試験用組成物に関する。
【0016】本発明においてアレルゲン活性を有する食品素材とは、卵、乳、畜肉、魚介類、穀物類等の食品及び食品添加物のうち人為的に選ばれた食品素材を言う。具体的には、鶏、うずら、アヒル等の卵類、牛、山羊、羊等の乳等、牛、豚、鳥、山羊、羊等の畜肉類、タラ、ニシン、ニジマス、サケ、マグロ、ウナギ、カニ、エビ、ロブスター、ムラサキガイ等の魚介類、あるいは、米、小麦、大麦、ライ麦、オート麦、ホソ麦、トウモロコシ、胡麻、ソバ、大豆、エンドウ、インゲン、ピーナッツ、アーモンド、クルミ、栗等の穀物類等の食品及び調味料、着色料、香料等の食品添加物がアレルゲン活性を有する食品素材に選ばれるが、本発明の組成分はこれらに限定されるものではない。
【0017】また、食物アレルゲン活性を有する食品素材は、食物アレルゲン負荷試験用組成物中のアレルゲン活性量を明確にするために、アレルゲン含有量またはアレルゲン活性が、定量または半定量により明らかとされ、規格化されていることが望ましい。定量方法として、卵白等、アレルゲン活性を有する蛋白質が既知である場合は、当該蛋白質の含有量を液体クロマトグラフィー等により定量する方法等がある。半定量方法として、大豆等、アレルゲン活性を有する蛋白質が確定されていない場合は、基準となるアレルゲンを作製し、同一血清を用いた免疫測定法、例えばRAST法等で二者のアレルゲン活性を比較定量する方法等がある。
【0018】本発明において、食物アレルゲン活性を有する食品素材は、粉末状、固形状、液状のどのような状態のものでも良いが、作業性及び保存性等の面で、アレルゲン活性を有する食品素材をあらかじめ粉末状に加工することが望ましい。粉末化には、噴霧乾燥、凍結乾燥等公知の乾燥方法が用いられるが、アレルゲンの中には熱変性を受けるものもあるため凍結乾燥法等の熱変性を受けにくい方法が望ましい。
【0019】また、食物アレルゲン負荷試験に使用するアレルゲン活性を有する食品素材の量は、その種類によっては、1回の試験あたり最低数10mgからと微量であるため、より作業性を向上させるために、また、味、臭いのマスキングのために粉末化工程においてサイクロデキストリンやデキストリン等でアレルゲン活性を有する食品素材をあらかじめ希釈してもよい。
【0020】本発明に用いるサイクロデキストリンは、α-,β-,γ-,のいずれでも良く、また、分枝サイクロデキストリンでも良い。本発明において、サイクロデキストリンは、食品素材を粉末化する際、最終の食品形態に加工する際のいずれの時期に添加しても良いが、粉末化する際に添加した方がよりマスキング効果が高いので良い。
【0021】本発明に用いる着色料、香料、調味料は、天然、合成等の通常の食品に使用可能であるものであれば良いが、その種類によってはアレルゲン活性を有するものがあるので、試験の対象とするアレルゲンを含有しないこと以外、同等の組成を持つ空試験用組成物を用いて、空試験を実施し、その試験においてアレルギー症状を起こすものについては、その種類を変更することが必要となる。
【0022】本発明における食物アレルゲン負荷試験用組成物とは、アレルゲン活性を有する食品素材を甘味料、酸味料、調味料、香料、着色料等と混合、あるいは成型したものを言う。より具体的には果汁、飲料、ゼリー、チョコレート等の食品へアレルゲン活性を有する食品素材を添加混合し、粉末状、液状、ペースト状あるいは固形状の食物アレルゲン負荷試験用組成物を調製することができる。この時、一回の試験当たりのアレルゲン量としては、特に規定はないが、例えば、卵ならば生卵半個分,1個分等、牛乳ならば25ml分,50ml分等、大豆ならば生大豆10g分(豆腐8分の1丁分),3g分(含有蛋白質として1g分)等、わかりやすい量を基準として添加すると、最大許容摂食量の判定が行い易くなるので良い。
【0023】食物アレルゲン負荷試験の実施方法としては、本発明の食物アレルゲン負荷試験用組成物を含有する食品を用いること以外は特に限定するものではなく、本発明の食物アレルゲン負荷試験様組成物に加えて、アレルゲンを含有させずに同等の風味となる様に調製した空試験用組成物を併用する方法等が考えられる。この時の空試験用組成物としては、食物アレルゲン負荷試験用組成物より、アレルゲンとなる食品素材を除いた組成物でも構わないが、アレルゲンとする食品素材により、味の感じ方が異なる時は適当な調味料等で、味を調整すれば良い。具体的な試験方法として、例えば、従来より行われている方法を応用した以下にあげる方法等が考えられる。
試験方法例1.最大許容摂食量の判定
一定のアレルゲン活性量となる量の食品素材を含有した食物アレルゲン負荷試験用飲料及びアレルゲンを含有させずに同等の風味となるように調製した空試験用飲料を作製しておく。
アレルゲンを含有しない空試験用飼料の調製法について記載
まず、被験者に空試験用飲料5mlを与え、30分間観察後、試験飲料5mlを与え、更に30分間観察後、10mlを、その後30分間隔で、15ml、20ml(残り全量)を与える。アレルギーの症状があらわれた量の1回前の量が最大許容摂食量であると判断できる。
【0024】試験方法例2.盲検法によるアレルゲンの特定
試験方法例1と同様にアレルゲン負荷試験用飲料及び空試験用飲料を作製しておく。被験者には、負荷試験用飲料または空試験用飲料のどちらかわからないようにしてどちらかの飲料を与える。これを両飲料をとりまぜながら、数日をあけて数回繰り返す。この時、負荷試験用飲料でアレルギーの症状があらわれ、空試験用飲料でアレルギーの症状があらわれなければ、試験に使用した食品素材をアレルゲンとするアレルギー患者であると特定できる。
【0025】以下、実施例及び試験例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら限定されるものではない。
【実施例】
実施例1
卵白アレルゲン粉末
新鮮鶏卵を集め割卵し、卵白部を分離した。割卵後の卵白500gを、凍結乾燥法により粉末化し、卵白アレルゲン粉末60gを得た。
【0026】試験例1
卵白アレルゲンのアレルゲン活性テスト。
実施例1で得た卵白アレルゲンのアレルゲン活性を、従来アレルゲンの同定に用いられている、RASTキット〔ファルマシア製〕を用いたRAST法で測定し、卵白標準ディスク〔ファルマシア製〕と比較した。実施例1で得た卵白アレルゲン粉末20mgを精製水10mlに溶かした。この液にシアン化臭素で活性化したろ紙ディスクを40〜50枚入れて3日間振盪し、卵白アレルゲン固定化ディスクを作成した。なお、余剰卵白アレルゲンは洗浄除去した。卵白アレルゲン固定化ディスク及び卵白標準アレルゲンディスク〔ファルマシア製〕に鶏卵アレルギー患者の血清を反応させた。血清の洗浄を行ない125Iで標識した抗IgE抗体を反応させ、洗浄後にガンマカウンターで計測した。鶏卵アレルギーの患者10名の血清を使用して標準曲線を作成し、卵白アレルゲン固定化ディスクと卵白標準アレルゲンディスク〔ファルマシア製〕との相関を調べた。結果を図1に示す。
【0027】図1の結果より実施例1で得た卵白アレルゲン固定化ディスクと卵白標準ディスク〔ファルマシア製〕との相関係数はR=0.990であり、高い相関性が得られた。このように、実施例1で得た卵白アレルゲンは実質的にアレルゲン活性が損なわれていないことが示された。
【0028】試験例2
卵白アレルゲンの定量
実施例1と同様の方法で卵白アレルゲンを3ロット作製し、それらの卵白アレルゲン中のアレルゲン活性を有する蛋白質であるオバルブミン、オボムコイド、リゾチームを高速液体クロマトグラフィー〔日本ウォーターズリミテッド製〕を用いてゲル濾過クロマトグラフィーにより、定量を行った。分析用カラムに、TSKgel-G3000SW〔東ソー(株)製〕を用い、リン酸緩衝液(pH7)を1.0ml/分の流速で流し、220nmで検出した。3ロットの測定の結果はそれぞれ、オボアルブミン54.0%,53.9%,54.0%、オボムコイド11.0%,11.1%,11.0%、リゾチーム3.4%,3.4%,3.5%であり、3ロットの間に差はみられず、規格化に対応できるものであった。
【0029】実施例2
牛乳アレルゲン粉末
ホルスタイン牛より搾乳した新鮮牛乳500mlをホモミキサーにより均質化した後、分枝サイクロデキストリン〔日本食品加工(株)製 イソエリートP〕40gを添加し、攪拌により均一に溶解した後、凍結乾燥法により粉末化し、牛乳アレルゲン粉末100gを得た。
【0030】試験例3
牛乳アレルゲンのアレルゲン活性テスト。
実施例2で得た牛乳アレルゲンのアレルゲン活性を、試験例1と同様な操作により、牛乳アレルギーの患者10名の血清を用い、牛乳標準ディスク〔ファルマシア製〕と比較した。結果を図2に示す。
【0031】図2の結果より実施例2で得た牛乳アレルゲンは、全ての患者にアレルゲン活性を示し、牛乳標準ディスク〔ファルマシア製〕との相関係数はR=0.987であり、高い相関性が得られた。このように、実施例2で得た牛乳アレルゲンは実質的にアレルゲン活性が損なわれていないことが示された。
【0032】実施例3
卵白アレルゲン負荷試験用粉末飲料
ブドウ糖5.00g、クエン酸0.20g、オレンジ香料0.05g、1%β-カロチン水溶性粉末0.05gよりなる粉末飲料に、実施例1で調製した卵白アレルゲンを3.00g添加混合し、卵白アレルゲン負荷試験用粉末飲料を調製した。なお、この添加量は、生卵半個分に相当する量である。
【0033】試験例4
卵白アレルゲン負荷試験用粉末飲料のアレルゲン活性テスト。
実施例3で得た卵白アレルゲン負荷試験用粉末飲料のアレルゲン活性を、試験例1と同様な操作により、卵白アレルギーの患者10名の血清を用い、実施例1で得た卵白アレルゲン固定化ディスクと比較した。この時、両者の卵白アレルゲンの量を同じにするために、アレルゲン固定化ディスクの作成時に、実施例1で得た卵白アレルゲンは20mgを、実施例3で得た卵白アレルゲン負荷試験用粉末飲料は55mgを、それぞれ精製水10mlに溶かした液を使用した。結果を図3に示す。
【0034】図3の結果より本発明の卵白アレルゲン負荷試験用粉末飲料は、全ての患者にアレルゲン活性を示し、実施例1で得た卵白アレルゲン固定化ディスクとほぼ1:1の相関を示し、相関係数はR=0.998であり、高い相関性が得られた。このように、本発明の卵白アレルゲン負荷試験用粉末飲料は実質的にアレルゲン活性が損なわれていないことが示された。
【0035】実施例4
牛乳アレルゲン負荷試験用粉末飲料
ブドウ糖5.00g、クエン酸0.20g、オレンジ香料0.05g、1%β-カロチン水溶性粉末0.05gよりなる粉末飲料に、実施例2で調製した牛乳アレルゲンを5.00g添加混合し、牛乳アレルゲン負荷試験用粉末飲料を調製した。なお、この添加量は、牛乳25ml分に相当する量である。
【0036】実施例5
食物アレルゲン負荷空試験用粉末飲料
食物アレルゲン負荷試験用粉末飲料を溶解した時に、アレルゲン活性を有する食品素材の緩衝作用によって、アレルゲン活性を有する食品素材が無添加の時とでは酸味の感じ方が異なるため、空試験用の粉末飲料については、クエン酸とクエン酸ナトリウムにより酸味を調整した。ブドウ糖5.00g、クエン酸0.15g、クエン酸ナトリウム0.05g、オレンジ香料0.05g、1%β-カロチン水溶性粉末0.05gよりなる粉末飲料に、濁り具合の調整のために乳化剤を、全量を同量とするためにデキストリンを添加して食物アレルゲン負荷空試験用粉末飲料を調製した。
【0037】試験例5
食物アレルゲン負荷試験用粉末飲料の官能テスト
実施例3,4で得られた食物アレルゲン負荷試験用粉末飲料を50mlの水に溶解し、10人のパネラーを用い、その味及び臭いについて官能テストを行なった。評価方法は、実施例5で得られたアレルゲン活性を有する食品素材を含まない空試験用粉末飲料と比較し、10段階評価(0:感じない〜10:強く感じる)として行なった。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】この結果より、香料等でマスキングされた食物アレルゲンは、粉末飲料の一回飲用量(50ml)中に、卵白アレルゲンについては生卵半個分、牛乳アレルゲンについては牛乳25ml分に相当する量を添加しても、実質的にその味を感じないことが示された。
【0040】実施例6
食物アレルゲン負荷試験
実施例3で得られた卵白アレルゲン活性を有する粉末飲料を使用して、食物アレルゲン負荷試験を予め試験に同意した被験者(卵白アレルギー患者でない者を含む)10名により実施した。まず、被験者に空試験用飲料5mlを与え、30分間観察後、試験飲料5mlを与え、更に30分間観察後、10mlを、その後30分間隔で、15ml、20ml(残り全量)を与えた。但し、アレルギーの症状を起こした患者については、その時点で負荷試験を中止し、治療を行った。また、試験終了後、味についてのアンケートを行った結果、卵白の味を感じた被験者はいなかった。負荷試験の結果とRAST法の結果を比較した結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】この結果より、本発明による食物アレルギー負荷試験とRAST法では、ほぼ同じ結果となったが、中には異なる結果となった患者もみられた。また、卵白の味を感じた被験者はいなかったことから、実施例3で得られた粉末飲料は、食物アレルギー負荷試験に使用できることが判明した。
【0043】
【発明の効果】本発明によれば、卵や牛乳、大豆等のアレルゲン活性を有する食品素材を、果汁、飲料、ゼリー、チョコレート等の嗜好性食品に加工するにあたって、着色料や香料等を添加し、当該食品素材特有の味、色、臭い等をマスキングすることにより、食物アレルゲン負荷試験用組成物が得られる。本発明の組成物を用いれば、患者の心理的な影響による誤った判断が行なわれる可能性があるという欠点及び、実施する施設により判定基準が異なるという欠点が解消され、いっそう食物アレルゲン負荷試験を実用的なものとすることができる。本発明の食物アレルゲン負荷試験用組成物は、アレルギー専門医のもとでアレルギー患者の食物アレルゲン同定及び、最大許容摂食量の判定に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の卵白アレルゲン固定化ディスクと卵白標準ディスク〔ファルマシア製〕とのRAST法による相関図である。
【図2】実施例2の牛乳アレルゲン固定化ディスクと牛乳標準ディスク〔ファルマシア製〕とのRAST法による相関図である。
【図3】実施例3の卵白アレルゲン負荷試験用粉末飲料固定化ディスクと実施例1の卵白アレルゲン固定化ディスクとのRAST法による相関図である。
【図面】



 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-30 
出願番号 特願平5-304827
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (G01N)
最終処分 取消  
前審関与審査官 竹中 靖典  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 山口 由木
福島 浩司
登録日 2002-04-05 
登録番号 特許第3294693号(P3294693)
権利者 太陽化学株式会社
発明の名称 食物アレルゲン負荷試験用組成物  

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