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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1098086
異議申立番号 異議2001-70267  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-12-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-24 
確定日 2004-05-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第3068955号「易接着性白色ポリエステルフイルム」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3068955号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3068955号は、平成4年5月22日に特許出願されたものであって、平成12年5月19日に特許の設定がなされ、その後、請求項1〜5に係る発明の特許について、東レ株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、特許異議意見書が提出され、その後、当審がした審尋(特許異議申立人東レ株式会社への)に対し、回答書及び実験成績証明書を提出され(平成15年8月12日付け)、当審は、さらに、特許権者に前記回答書及び実験成績証明書を送付すると共に、それらに対する意見を求め、それに対して答弁書(平成16年1月20日付け)が提出された。

[2]特許異議申し立ての理由の概要
特許異議申立人東レ株式会社は、甲第1号証(特開平4-131239号公報)、甲第2号証(特開昭61-204240号公報)及び甲第3号証(日本合成化学工業株式会社、カタログ「ポリエスター」、平成4年7月発行)を提出し、本件特許発明(請求項1〜5に係る発明)は、甲第1号証と甲第2号証に記載の発明を単に組み合わせたものにすぎず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許を取り消すべきであると主張した。

[3]取消理由通知
当審の取消理由通知は次のとおりである。
『本件請求項1〜5に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、また、その出願前に日本国内において頒布された下記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

刊行物
1.特開平4-131239号公報(甲第1号証)
2.特開昭61-204240号公報(甲第2号証)
カタログ 日本合成化学工業株式会社 「ポリエスター」
1992年(平成4年)7月頒布 (甲第3号証)
なお、上記カタログは、本件出願後に頒布されたものであるが、刊行物2に記載された商品(ポリエスターXWR-901)についての物性を証するものである。
〈特許法第29条第1項第3号の規定に違反するという理由について〉
本件請求項1について
刊行物1に記載されているプラスチックフィルム支持体は、本件請求項1に係る発明の「白色顔料を含有し、厚さ20μm以上の白色ポリエステルフィルム」に該当する(特に、第7頁右下欄第2〜4行、及び、第9頁左下欄第15行〜同頁右下欄第5行参照。)。
刊行物1に記載されている「ポリエステル共重合体」は、本件請求項1に係る発明の「易接着性芳香族ポリエステル樹脂」に該当する(特に、第2頁右下欄第16行〜第3頁右下欄第5行参照。)。二次転移点については記載されていないが、特許異議申立書第11頁第4〜16行に記載のとおり、二次転移点は「20〜200℃」の範囲にあるものと認められる。
刊行物1に記載されている「数平均分子量が500〜5000の導電性を有するポリマー」は、本件請求項1に係る発明の「帯電防止剤」に該当する(特に、第4頁右上欄第5行〜第6頁左下欄最終行参照。)。
刊行物1に記載されている「ポリエステル共重合体」と「数平均分子量が500〜5000の導電性を有するポリマー」との組成割合は、本件請求項1に係る発明の組成割合と重複し一致する(第7頁左下欄第1〜6行参照。)。
刊行物1に記載されている「被覆層の厚み」は、特許異議申立書第10頁下から第8〜2行に記載のとおり、本件請求項1に係る発明の乾燥被覆層の厚みと重複し一致する。
本件請求項2について
本件請求項2で限定された「易接着性芳香族ポリエステル樹脂」と「帯電防止剤」との組成割合は、刊行物1に記載されている組成割合と重複し一致する。
本件請求項3について
刊行物1には、ポリエステル樹脂組成物を水性塗剤であることが記載されている(特に、第2頁左下欄第5〜10行、第10頁右上欄第17行〜同頁左下欄第2行参照。)。
本件請求項4について
刊行物1には、磁気層を設けることが記載されている(特に、第2頁右下欄第3〜5行参照。)。
本件請求項5について
本件発明の「印刷インク層」は、本件明細書の記載(段落0039)からみて、UVインク等であり、刊行物1には、「印刷感光材料」に適用できる旨記載されており(第9頁右上欄第18〜20行)、この点で一致する。
〈特許法第29条第2項の規定に違反するという理由について〉
本件請求項1について
刊行物2に記載されている「ポリエステルフィルム」は、本件請求項1に係る発明の「ポリエステルフィルム」に該当する(特に、第8頁右下欄第9行〜第9頁左上欄最終行参照。)。白色顔料を用いることは記載されていないが、「着色剤」(第3頁右上欄第3行)を用いることが記載されており、着色剤として白色顔料を用いることは、当業者が容易にできることである。
刊行物2に記載されている「水分散性ポリエステル(ポリエスターXWR-901;日本合成化学工業(株)製)」は、本件請求項1に係る発明の「易接着性芳香族ポリエステル樹脂」に該当する(特に、第8頁右下欄第9行〜第9頁左上欄最終行、及び、カタログ(甲第3号証)参照。)。
刊行物2に記載されている「スチレンスルホン酸またはその塩を構成成分とするビニル系樹脂」は、本件請求項1に係る発明の「帯電防止剤」に該当する(特に、第3頁右上欄第5行〜同頁左下欄下から第2行参照。)。
刊行物2に記載されている「被覆層の厚み」は、特許異議申立書第9頁第3〜5行、及び、第12頁下から第2〜最終行に記載のとおり、本件請求項1に係る発明の乾燥被覆層の厚みと重複し一致する。
刊行物2に記載されている「水分散性ポリエステル(ポリエスターXWR-901;日本合成化学工業(株)製)」と「スチレンスルホン酸またはその塩を構成成分とするビニル系樹脂とアクリル系樹脂との合計量」との組成割合は、本件請求項1に係る発明の組成割合と一致しないが(なお、刊行物2の「アクリル系樹脂」は、その記載(第4頁右下欄第7行〜第5頁右下欄第17行)から、帯電防止剤として作用しているものと認められる。)、その組成割合を変更することは当業者が容易にできることであるものと認められる。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易にできたものである。
また、特許異議申立書第14頁最終行〜第15頁第16行に記載のとおり、刊行物1に記載された発明において、ポリエステル共重合体として、刊行物2に記載された「水分散性ポリエステル(ポリエスターXWR-901;日本合成化学工業(株)製)」を用いることは当業者が容易にできることである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易にできたものである。
本件請求項2について
本件請求項2で限定された「易接着性芳香族ポリエステル樹脂」と「帯電防止剤」との組成割合については、上記したとおり、その組成割合を変更することは当業者が容易にできることであるものと認められる。
本件請求項3について
刊行物2には、ポリエステル樹脂組成物を水性塗剤であることが記載されている(特に、第9頁左下欄第6行参照。)。
本件請求項4について
刊行物2には、磁気記録材料の基材として有用であると記載されている(特に、第8頁左上欄第14行参照。)。
本件請求項5について
刊行物2には、グラフィックアート材料の基材として有用であると記載されている(特に、第8頁左上欄第13〜14行参照。)。』

[4]刊行物1及び2、刊行物3(カタログ)(甲第1〜3号証)、実験成績証明書の記載事項
刊行物1(特開平4-131239号公報)には次の事項が記載されている。
(a)「(1) ポリエステル共重合体及び数平均分子量が500〜5000の導電性能を有するポリマーからなるポリエステル樹脂組成物が、プラスチックフィルム支持体の少なくとも一方の面に積層されてなることを特徴とするプラスチックフィルム。
(2)請求項(1)記載のプラスチックフィルム上に少なくとも一層のハロゲン化銀乳剤層を有する写真感光材料。」(特許請求の範囲1及び2)
(b)「すなわち、本発明の第1の目的はポリエステル樹脂組成物をプラスチックフィルム支持体に積層してなるプラスチックフィルムであって、該組成物水溶液の塗布性及び該組成物と支持体の接着性に優れたプラスチックフィルムを提供することにある。
本発明の第2の目的は、優れた帯電防止性を有し、ポリビニルアルコール(PVA)、ゼラチン等の親水性コロイドとの接着性、特に湿潤条件下での接着性にも優れ、かつ良好な透明性を有するプラスチックフィルムを提供することにある。
また、本発明の第3の目的は、完全水系でポリエステル樹脂組成物を含有する塗布液を塗布することができ、この結果、作業環境上の問題や環境汚染上の問題を解決し、設備の簡素化を可能にすることにある。
本発明の第4の目的は、層間の接着性に優れた写真感光材料を提供することにある。
さらに本発明の別の目的は、磁性層などにも良好な接着性を示すプラスチックフィルムを得ることにある。」(2頁左下欄5行〜同頁右下欄5行)
(c)「前記ポリエステル樹脂組成物は、前記ポリエステル共重合体、導電性能を有するポリマー、及び場合により架橋剤を、ポリエステル共重合体:導電性能を有するポリマー:架橋剤=(50〜90重量%):(30〜9重量%):(20〜0重量%)の割合で含有することが好ましい。」(7頁左下欄1〜6行)
(d)「本発明に用いられるプラスチックフィルム支持体は芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルからなるものが挙げられる。かかるポリエステルの具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられ、更にこれらの共重合体、さらには他の樹脂を少量ブレンドして得られるものも含まれる。更に酸化チタン、硫酸バリウム等の白色顔料が練り込まれたプラスチックフィルム支持体も挙げることができる。」(7頁左下欄13行〜同頁右下欄4行)
(e)「また上記下引層塗布液の濃度は通常15重量%以下であり、好ましくは10重量%以下である。塗布量はフィルム1m2当り塗布液重量で1〜20g、さらに5〜15gが好ましい。」(8頁右上欄1〜4行)
(f)「本発明においては前記下引層上に少なくとも一層の親水性コロイド層を設け、各種フィルムを製造することができる。例えば支持体に対して本発明に係るポリエステル樹脂組成物を含有する下引層の上方に少なくとも1層のハロゲン化銀乳剤層を設けた写真感光材料が挙げられる。また、親水性コロイド層のかわりに磁性層等のバインダを含有する層を設けることも可能である。」(8頁右上欄17行〜同頁左下欄4行)
(g)「本発明はX線感光材料、印刷感光材料、撮影用感光材料、観賞用感光材料等種々の写真感光材料に適用できる。」(9頁左上欄18〜20行)
(h)「(4)支持体への接着性;固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートをTダイから280℃でフィルム状に溶融押出して、静電印加させ、約30℃の冷却ドラム上で急冷して得られた未延伸フィルム(厚さ1000μm)を75℃に予熱しタテ延伸(3倍)後、コロナ放電し、表面処理した該支持体面に下引層塗布液を塗布し、テンター内にて乾燥・予熱後100℃でヨコ延伸(3倍)しさらに220℃で熱固定して膜厚0.3g/m2(ポリマー換算)で下引処理した二軸延伸済ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
・・・・・・・・・・
実施例1
テレフタル酸ジメチル38.74重量部、イソフタル酸ジメチル31.95重量部、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩10.34重量部、エチレングリコール54.48重量部、酢酸カルシウム一水塩0.07重量部及び酢酸マンガン四水塩0.024重量部を窒素気流下において170〜220℃でメタノールを留去しながらエステル交換反応を行った後、リン酸トリメチル0.05重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.04重量部及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸17.17重量部を加え220〜235℃の反応温度でほぼ理論量の水を留去しエステル化を行った。その後、圧力を0.2mmHg迄減圧すると共に温度を280℃迄昇温した。但し重縮合反応は2時間行った。
得られたポリエステル共重合体(A)を分析したところ固有粘度は0.45dl/gであった。該ポリエステル共重合体を95℃の熱水中で3時間攪拌し15重量%水溶液とした。
このポリエステル共重合体(A)の水溶液と導電性能を有するポリマー(B-3)を、(A)と(B-3)の合計重量に対し、(A)を85重量%、(B-3)を15重量%用い、かつ(A)と(B-3)の合計重量が8重量%となるように水溶液を調製して下引層塗布液とした。
得られた下引層塗布液をタテ延伸済ポリエチレンテレフタレートフィルム支持体上に塗布し、乾燥重量で0.5g/m2の下引層を有する二軸延伸済ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。また該下引層を有するフィルム上に、通常の方法でゼラチンを積層したフィルムを作成し、これらについて前述の接着性等の評価を行なった。評価結果を表-1に示す。」(9頁右上欄15行〜10頁左下欄10行)

刊行物2(特開昭61-204240号公報)には次の事項が記載されている。
(a)「ポリエステルフィルムの少なくとも片面にスチレンスルホン酸またはその塩を構成成分とするビニル系樹脂を含有する塗布剤を塗布後延伸した二軸延伸ポリエステルフィルム。」(特許請求の範囲)
(b)「本発明における基体を構成するポリエステルフィルムは、・・・・・突起形成剤以外の添加物としては、必要に応じて帯電防止剤、安定剤、潤滑剤、着色剤、光線遮断剤などを含有していてもよい。」(3頁左上欄13行〜同頁右上欄4行)
(c)「本発明におけるスチレンスルホン酸またはその塩を成分とするビニル系樹脂の塗布層中の含有量は、必要とする導電性、縦長突起の大きさに応じて決める必要があるが、3重量%〜100重量%、好ましくは5重量%〜100重量%である。例えば、本発明におけるビニル系樹脂の塗布層中の含有量を増すほど導電性が改良され、縦長突起は大きくなる。」(3頁左下欄下から2行〜同頁右下欄6行)。
(d)「本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層の厚さは、0.01μから1μの範囲が好ましく、更に好ましくは0.01μから0.1μの範囲である。」(4頁右上欄11〜14行)。
(e)「本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層には、本発明におけるビニル系樹脂以外に水溶性あるいは水分散性のポリエステル・・・・・などを併用することができる。」(4頁右上欄下から第3行〜同頁左下欄第3行)
(f)「本発明の塗布層には、必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、帯電防止剤、有機系潤滑剤、無機系微粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料などを含有せしめてもよい。」(第4頁左下欄第10〜14行)。
(g)「本発明のビニル系樹脂以外の塗布剤として、・・・・・スルホン酸塩基を有する水分散性あるいは水溶性ポリエステル・・・・・を併用したものが透明性、滑り性、接着性、特に磁気記録媒体の磁性層やバックコート層との接着性に優れ、特に好ましい。」(4頁左下欄最下行〜同頁右下欄6行)
(h)「前述のスルホン酸塩基を有する水溶性あるいは水分散性のポリエステル系樹脂(以下“ポリエステル系樹脂”と略称する)は、塗布剤のポリエステルフィルムへの塗布性、塗布層とポリエステルフィルムとの層間接着性、塗布層の凝集破壊性や摩擦摩耗性などの改良に効果を発揮する。」(6頁右上欄最終行〜同頁左下欄6行)
(i)「アクリル系樹脂とポリエステル系樹脂の合計量に対するポリエステル系樹脂の割合は、固形分重量として3〜80重量%が好ましく、更に好ましくは5〜60重量%である。」(7頁右上欄下から3行〜同頁左下欄1行)
(j)「このアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂及び無機粒子とを併用する場合の本発明のビニル系樹脂量は、用途によって異なるが、3重量%以上70重量%以下が好ましく、さらに好ましくは5重量%以上50重量%以下である。
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、・・・・・1μ〜500μのフィルムとして包装材料、グラフィックアート材料、電子写真材料、磁気記録材料などの基材として有用である。」(8頁左上欄6行〜15行)
(k)「実施例1
スチレンスルホン酸ソーダを重合して得られた三種のポリスチレンスルホン酸ソーダで、20重量%水溶液の20℃での粘度が9.7cp、24cp,520cpのものをメチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、グリシジルメタクリレートを主成分として、カルボン酸基がアンモニアで中和され、界面活性剤を含有しない水溶性アクリル系樹脂(ジュリマーAT-M916;日本純薬(株)製)、ジカルボン酸中7モル%が5-ソジオスルホイソフタル酸であり、他にテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールからなる界面活性剤を含有しない水分散性ポリエステル(ポリエスターXWR-901:日本合成化学工業(株)製)およびシリカゾル(スノーテックス20L;日産化学工業(株)製)を表1に示す割合で配合した水系の塗布剤を、比較例1の製膜工程の縦延伸後に片面に塗布して121μの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。」(第8頁右下欄9行〜第9頁左上欄9行)

刊行物3(カタログ、日本合成化学工業株式会社「ポリエスター」、平成4年7月発行、以下「カタログ」という。)には次の事項が記載されている。
(a)「ポリエスターWRシリーズの特性値
WR-901 ガラス転移点 67℃」(11頁)
(b)「*XWRのXは現時点では完全なコマーシャルグレードではなく、開発グレードであることを意味します。」(11頁)
(c)「92.7.2000(M)」(最終頁)

実験成績証明書には次の事項が記載されている。
(a)「5.実験方法
特開平4-131239号公報記載の実施例1記載のフィルムの作製について
テレフタル酸ジメチル38.74重量部、イソフタル酸ジメチル31.95重量部.5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩10.34重量部、エチレングリコール54.48重量部、酢酸カルシウム一水塩0.073重量部及び酢酸マンガン四水塩0.024重量部を窒素気流下において170〜220℃でメタノールを留去しながらエステル交換反応を行った後、リン酸トリメチル0.05重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.04重量部及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸17.17重量部を加え220〜235℃の反応温度でほぼ理論量の水を留去しエステル化を行った。その後、圧力を0.2mmHg迄減圧すると共に温度を280℃迄昇温した。但し重縮合反応は2時間で行った。得られたポリエステル共重合体(A)を分析したところ固有粘度は0.45dl/gであった。該ポリエステル共重合体を95℃の熱水中で3時間撹拝し15重量%水溶液とした。
このポリエステル共重合体(A)の水溶液と導電性能を有するポリマー(B-3)を、(A)と(B-3)の合計重量に対し、(A)を85重量%、(B-3)を15重量%用い、かつ(A)と(B-3)の合計重量が8重量%となるように水溶液を調製して下引層塗布液とした。
固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートをTダイから280℃でフィルム状に溶融押出して、静電印加させ、約30℃の冷却ドラム上で急冷して得られた未延伸フィルム(厚さ1000μm)を75℃に予熱しタテ延伸(3倍)後、コロナ放電し、表面処理した該支持体面に下引層塗布液を塗布し、テンター内にて乾燥・予熱後100℃でヨコ延伸(3倍)しさらに220℃で熱固定し、乾燥重量で0.5g/m2で下引処理した二軸延伸済ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。
B-3 略
(b)「7.測定方法
特許第3068955号の請求項1「二次転移点」の測定方法について詳細な記載がない。そこで、明細書第3頁23行目〜27行目において「二次転移点(Tg)」と書いてあることから、ガラス転移点Tgを求めた。JIS K7121の方法に従って、測定した。」
(c)測定結果として、二次転移点(Tg) 「79℃」としている。

[5]対比・判断
本件発明は、登録明細書の請求項1〜5に記載された次のとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」と、順次「本件発明2」〜「本件発明5」いう。)。
【請求項1】白色顔料を含有し、厚さ20μ以上の白色ポリエステルの少なくとも片面に(1)二次転移点が20〜200℃に易接着性芳香族ポリエステル樹脂60〜100重量%及び(2)帯電防止剤0〜40重量%からなる組成物を含む塗料を用いて乾燥被覆の厚みが0.01〜5μmである易接着性被膜を形成してなる易接着性ポリエステルフィルム。(なお、「20〜200℃に」は、「20〜200℃の」の誤記と認める。)
【請求項2】組成物が易接着性芳香族ポリエステル樹脂70〜95重量%及び帯電防止剤5〜30重量%からなる請求項1の易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項3】塗剤が水性塗剤である請求項1の易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項4】請求項1の易接着性ポリエステルフィルムの皮膜面上の少なくとも一部に磁気記録層を設けた磁気記録媒体。
【請求項5】請求項1の易接着性ポリエステルフィルムの皮膜面上の少なくとも一部に印刷インキを設けた印刷フィルム。

〈特許法第29条第1項第3号について〉
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比する。
本件発明1は、ポリエステルフィルム(基材フィルム)中に白色顔料を含有し白色を呈するフィルム面に乾燥被覆(それは、二次転移点20〜200℃の易接着性芳香族ポリエステル樹脂を含む塗剤を用いる。厚みが0.01〜5μm)を有する易接着性ポリエステルフィルムに係るものといえる。
まず、本件発明1のポリエステルフィルム(基材フィルム)と刊行物1に記載されている「プラスチックフィルム支持体」とを対比する。
刊行物1には、プラスチックフィルム支持体としては芳香族ポリエステルが使用されることが記載され(摘示事項a、d)、それには酸化チタン、硫酸バリウム等の白色顔料が練り込まれても良いことも記載され(摘示事項d)、そして最終的な用途として「鑑賞用感光材料」(摘示事項g)に適用される場合も記載されている(第9頁左上欄)。
ここで、「鑑賞用感光材料」は、「写真現像用のフィルム」とすることができ、該「写真現像用のフィルム」は、白色のものがごく普通に用いられているのであるから、刊行物1にはプラスチックフィルム支持体が白色である場合も記載されていると言わざるを得ない。
刊行物1には、ポリエチレンテレフタレートの未延伸フィルム(厚さ1000μm)をタテ、ヨコ各3倍に延伸したことが実施例で記載されている(摘示事項h)のであるから、1000/3×3=111μmの厚さの支持体が得られたことが計算されるのである。
そうしてみると、本件発明1の基材フィルムは、刊行物1に記載された「プラスチックフィルム支持体」と一致する。
次に、本件発明1の乾燥被覆と刊行物1に記載されている「ポリエステル樹脂組成物」とを対比する。
刊行物1には、「ポリエステル共重合体(A)」の製造方法が記載され、該「ポリエステル共重合体(A)」を下引層塗布液(水溶液)として調整することが記載されている(摘示事項j)
刊行物1には、「ポリエステル共重合体」について、2頁右下欄15行〜4頁右上欄4行に記載され、中でも「本発明においてはポリエステル共重合体の機械的性質及びポリエステル支持体との接着性の点から、・・・・・を併用してもよい。」(3頁右下欄7〜16行)と記載されていることから、該ポリエステル共重合体は、易接着性であるものと認める。
また、刊行物1には、二次転移点については記載されていないが、平成15年8月12日付(審尋に対する)回答書に添付された実験成績証明書によれば、刊行物1の実施例1のポリエステル共重合体は二次転移点が79℃であるとしている。
この実験成績証明書を特許権者に送付すると共に意見を求めたが、この「二次転移点が79℃である」点については、何も主張しなかった。
この実験成績証明書について検討したが、二次転移点が79℃であるとする実験結果に何も疑わしい点はないので、特許異議申立人の主張のとおり79℃と認めることが相当である。
これは本件の20〜200℃の広範な範囲に含まれるものである。(なお、「二次転移点」と「ガラス転移点」とは、同義である。化学大辞典2、-縮刷版-、523頁右欄参照、共立出版株式会社)
そうすると、本件発明1の「(1)二次転移点が20〜200℃の易接着性芳香族ポリエステル樹脂」は刊行物1記載のポリエステル共重合体と一致する。
刊行物1に記載の「数平均分子量が500〜5000の導電性能を有するポリマー」は導電性がある以上、当然に帯電防止性も有するものとすることが相当である(必要あれば、「実用プラスチック用語辞典」(株)プラスチックエージ発行、443頁「導電性プラスチック」の項参照)ので、これは本件発明1の帯電防止剤に該当するものである。
刊行物1に記載の実施例ではポリエステル共重合体/導電性ポリマーを例えば実施例1では85/15で使用しているのであるから(摘示事項h)、この組成比は、本件発明1の塗剤の組成物「(1)易接着性芳香族ポリエステル60〜100重量%及び(2)帯電防止剤0〜40重量%から成る組成物」の組成割合の数量範囲に含まれるものである。したがって、本件発明1は塗剤の組成割合の点でも刊行物1に記載のポリエステル組成物と一致する。
刊行物1には、ポリエステル樹脂組成物の厚さについては、「また上記下引層塗布液の濃度は通常15重量%以下であり、好ましくは10重量%以下である。塗布量はフィルム1m2 当り塗布液重量で1〜20g、さらに5〜15gが好ましい。」(摘示事項e)と記載され、濃度10%で固形分の総てが樹脂で樹脂の比重を1と仮定すると、1m2当たり0.1×(1〜15)×(104)3/106 ×106 μm=0.1〜1.5μmの厚さと計算され、また、刊行物1の実施例1には「膜厚0.3g/m2(ポリマー換算)」と記載されており、ポリマーの比重を1と換算すると、0.3×(104)3/106 ×106 μm=0.3μmの厚さと計算される。
同様に、ポリマーの比重を1.5として換算すると、0.2μmの厚さと計算される。
通常樹脂の比重は、1付近のものが多く、刊行物3によれば、ニチゴーポリエスターの代表銘柄の比重は、1.20〜1.32の値(2及び3頁)と記載されている。
したがって、このように計算された数値は、本件発明1の値「乾燥被覆の厚みが0.01〜5μmである」の範囲内の値であり、乾燥被覆の厚みの点でも本件発明1は、刊行物1の記載と一致する。
以上のとおりであるから、本件発明1の構成要件はすべて刊行物1に記載されたものであるから、本件発明1は刊行物1に記載された発明である。

本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに、易接着性ポリエステル樹脂と帯電防止剤の組成割合を技術的に限定するものであるが、その限定した値は、刊行物1に記載されている(摘示事項h)。
したがって、本件発明2は、本件発明1と同一の理由により、刊行物1に記載された発明である。

本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用し、さらに、塗剤が水性塗剤であることを技術的に限定するものである。
刊行物1には、実施例1は水溶液の下引層塗布液としたことが記載(特に10頁右上欄下から4行〜同頁左下欄2行)されている(摘示事項h)。
したがって、本件発明3は、本件発明1と同一の理由により、刊行物1に記載された発明である。

本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用し、さらに、易接着性白色ポリエステルフィルムの被膜面上に磁気記録層を設けたことを限定した磁気記録媒体に係るものである。
刊行物1には、「本発明の別の目的は、磁性層などにも良好な接着性を示すプラスチックフィルムを得ることにある。」(2頁右下欄3〜5行)、「また、親水性コロイド層の代わりに磁性等のバインダーを含有する層を設けることも可能である。」(8頁左下欄2〜4行)と記載されており、磁性層(即ち磁気記録層)を設けた磁気記録媒体とすることが記載されているものということができる。
したがって、本件発明3は、本件発明1と同一の理由により、刊行物1に記載された発明である。

本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を引用し、さらに、易接着性白色ポリエステルフィルムの被膜面上の少なくとも一部に印刷インキ層を設けたことを限定した印刷フィルムに係るものである。
刊行物1には、「印刷感光材料」、「写真感光材料」(9頁左上欄18行、摘示事項g)に適用できると記載されている。
本件明細書の実施例には、この印刷インキ層について、UVインク(紫外線硬化型印刷インキ)への接着力のテストが記載されており、本件発明1の印刷インクには感光性のものを含むものであると解されるところ、刊行物1のプラスチックフィルムは感光材料、写真感光材料に用いられるものであるから、この点で両者の発明に差異はない。
したがって、本件発明5は、本件発明1と同一の理由により、刊行物1に記載された発明である。

〈特許法第29条第2項について〉
本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比する。
刊行物2には、「本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層には、本発明におけるビニル系樹脂以外に水溶性あるいは水分散性のポリエステル・・・・・などを併用することができる。」(摘示事項e)と記載されているので、この「水溶性あるいは水分散性のポリエステルを併用する場合」を刊行物2に記載された発明として、以下検討する。
先ず、本件発明1と刊行物2に記載された発明とは、ポリエステルフィルム(ベースフィルム)の上に樹脂組成物の塗膜層が設けられた積層構造のものである点で一致している。
刊行物2には、ポリエステルフィルムとしては「二軸延伸ポリエステルフィルムは、・・・・・1μ〜500μのフィルム」(摘示事項j)、実施例では「121μ」のものが記載されており(摘示事項k)、そうするとこれは本件発明1の「厚さ20μm以上のポリエステルフィルム」に相当するものである。ただ刊行物2には、ポリエステルフィルムが「着色剤」(摘示事項b)を含有することは記載しているが、白色顔料を含有し白色のポリエステルフィルムであることまでは明確には記載されていない(相違点1)。
刊行物2の実施例で使用している水分散性ポリエステル(ポリエスターXWR-901;日本合成化学工業(株)製)は、特許異議申立人の提出した刊行物3によれば、ポリエスターWR-901のガラス転移点は67℃とされている(摘示事項a)。
また、同頁の注釈によればXWRのXは開発グレードの意味であるとされている(摘示事項b)。
刊行物2には、ポリエステル系樹脂、ポリエスターXWR-901の二次転移点については記載されていない(相違点2)。
刊行物2には、「ジカルボン酸中7モル%が5-ソジオスルホイソフタル酸であり、他にテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールからなる界面活性剤を含有しない水分散性ポリエステル(ポリエスターXWR-901:日本合成化学工業(株)製)」(摘示事項k)と記載されていることから、「ポリエスターXWR-901」は、芳香族ポリエステルの1種である。
刊行物2に記載されている「スチレンスルホン酸またはその塩を構成成分とするビニル系樹脂」は導電性を有することが記載されており(摘示事項c)、また、本件発明1で用いる「従来知られている・・・高分子物質、例えば分子内にスルホン酸金属塩を有するビニル共重合体」と一致し、導電性がある以上当然に帯電防止性も有するものとすることが相当である。
刊行物2には、「本発明のビニル系樹脂以外の塗布剤として、・・・・・水分散性あるいは水溶性ポリエステル・・・・・を併用したものが、・・・・・接着性、特に磁気記録媒体の直奏やバックコート層との接着性に優れ、特に好ましい。」(摘示事項g)と記載されているのであるから、この「水分散性あるいは水溶性ポリエステル」は、易接着性のポリエステル樹脂であると解することが相当である。
刊行物2には「このアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂及び無機粒子とを併用する場合の本発明のビニル系樹脂量は、用途によって異なるが、3重量%以上70重量%以下が好ましく、さらに好ましくは、5重量%以上50重量%以下である。」(摘示事項j)と記載され、また、実施例では(アクリル系樹脂との樹脂3成分系ではあるが)ポリエステル20部に対しポリスチレンスルホン酸ソーダ10部で使用するものも示されており(摘示事項k、9頁表1)、ポリエステル樹脂とスチレンスルホン酸樹脂の比を計算すると(実施例の場合)、前者20/後者10、即ち、前者60/後者30で、本件発明の易接着性ポリエステル樹脂60〜100/帯電防止剤0〜40と一致する。
刊行物2には、塗布層の厚さは0.01μから1μの範囲が好ましいと記載されているのであるから(摘示事項d)、本件発明の「塗剤を用いて乾燥被膜の厚みが0.01〜5μmである易接着性被膜」の要件に合致するものである。
以上まとめると、本件発明1と刊行物2に記載された発明は「顔料を含有し、厚さ20μm以上のポリエステルフィルムの少なくとも片面に、(1)二次転移点が20〜200℃に易接着性芳香族ポリエステル樹脂60〜100重量%及び(2)帯電防止剤0〜40重量%からなる組成物を含む塗剤を用いて乾燥被覆の厚みが0.01〜5 μmである易接着性被膜を形成してなる易接着性ポリエステルフィルム。」の点で一致し、本件発明1が白色顔料を使用した白色の易接着性芳香族ポリエステルフィルムであるのに対し、刊行物2には着色剤と記載されてはいるものの、その色相については言及がない点(相違点1)及び易接着性芳香族ポリエステルの二次転移点について記載がない点(相違点2)で相違している。
上記相違点1及び2を検討する。
先ず、相違点1について判断する。
顔料として、白色顔料はごく普通に用いられている顔料であり、また、刊行物2には、二軸延伸ポリエステルフィルムの用途としてグラフィックアート材料や電子写真材料が挙げられているのであるから(摘示事項j)、このようなものではベースフィルムが白色のものが多いことを考慮すれば、白色顔料を含有させ、白色のフィルムとすることは当業者が容易になし得ることであるものと認める。
次に、相違点2について判断する。
この点について、特許異議申立人東レ株式会社は、該XWR-901のガラス転移点はWR-901のガラス転移点67℃と実質的には同じ乃至その近傍と考えられる。そうすると、刊行物2において使用されるスルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂は、本件発明の「(1)二次転移点20〜200℃の易接着性芳香族ポリエステル樹脂」と一致するものであるとしている。
一方、特許権者は、平成16年1月20日付け答弁書において、三井・デュポンポリケミカル「エバフレックス」の製品案内書(同社のウェブサイトhttp:www.mdp.jp/seihin.htmlからダウンロードしてプリントしたもの、なお、この「エバフレックス」は、その記載から、本件発明1の易接着性芳香族ポリエステルとは関係のないエチレン系ポリマーに係るポリマーと認められる。)を提出し、商品に「X」が付与されたものと付与されていないものとの2つがある場合には、その2つの製品は、それぞれ別の製品を表している。例えば、三井・デュポンポリケミカル株式会社のエチレン系ポリマー、エバフラックスには、「EV45X」と「EV45」とを比較すると、前者のMFR(メルトフローレート)は100であるのに対し、後者のMFRは2.5である。
すなわち、特許異議申立人の主張は、単なる憶測であるとしている。
当審は、刊行物3に記載のとおり、「ポリエスターWR-901」と「ポリエスターXWR-901」とは、両者がコマーシャルグレードとして、同時期に、販売されているものではなく、「開発グレード」或いは「コマーシャルグレード」として、販売時期の相違により付与している記号であるものと解する。
そうすると、需要者の利益のために、「開発グレード」と「コマーシャルグレード」とは、実質的に同一の性質を保つべきものと解し、「ポリエスターXWR-901」の二次転移点(ガラス転移点)は、67℃付近であるものと判断する。
特許権者の主張するエバフラックスには、「EV45X」と「EV45」との両者がコマーシャルグレードとして、同時期に、販売されているものと認められ、「X」はその2つの商品が異なるものでることを明示(両者を区別)するために用いられているものと認められる。
また、該製品案内書には、ガラス転移温度についても記載されており、「EV45X」と「EV45」のガラス転移温度は、前者が-28℃であるのに対し、後者が-26℃と記載されており、すなわち、ほぼ同一の温度であることを示している。
結局、この事実は、「ポリエスターWR-901」と「ポリエスターXWR-901」とは、ほぼ同一の二次転移点(ガラス転移温度)を有するものと解することを妨げるものではない。
よって、特許権者の主張は、上記判断を妨げるものではない。
そして、本件発明の効果についても、刊行物2には、刊行物2の二軸延伸ポリエステルが帯電性の改良されたものであると記載され(1頁左下欄12行)また、刊行物2には、刊行物2の発明のビニル樹脂の他に水分散性あるいは水溶性アクリル樹脂やスルホン酸塩基を有する水分散性あるいは水溶性ポリエステル及び無機粒子を併用したものは接着性、特に磁性層やバックコート層との接着性に優れることが記載され(摘示事項g)、さらにまた、刊行物2のフィルムは固着(ブロッキング性)に優れていることも記載(2頁左上欄最終行)されているのであるから、本件明細書実施例で示される磁気塗料やUVインキ等との接着性、表面固有抵抗(帯電性)、耐ブロッキング性の効果も刊行物2から容易に予想されるものと言うことができる。
以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに、易接着性ポリエステル樹脂と帯電防止剤の組成割合を技術的に限定するものであるが、その限定した値は、刊行物2に記載されている(摘示事項j)。
したがって、本件発明2は、本件発明1と同一の理由により、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用し、さらに、塗剤が水性塗剤であることを技術的に限定するものである。
刊行物2には、実施例1は「水系の塗布剤」としたことが記載されている(摘示事項k)。
したがって、本件発明3は、本件発明1と同一の理由により、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用し、さらに、易接着性白色ポリエステルフィルムの被膜面上に磁気記録層を設けたことを限定した磁気記録媒体に係るものである。
刊行物2には、「磁性記録材料の基材」(摘示事項j)が記載されている。
したがって、本件発明3は、本件発明1と同一の理由により、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を引用し、さらに、易接着性白色ポリエステルフィルムの被膜面上の少なくとも一部に印刷インキ層を設けたことを限定した印刷フィルムに係るものである。
刊行物2には、「電子写真材料」(摘示事項j)に適用できると記載されている。
したがって、本件発明5は、本件発明1と同一の理由により、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[6]むすび
以上のとおり、本件発明1〜5は、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであるから、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-03-19 
出願番号 特願平4-130725
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C08J)
P 1 651・ 113- Z (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 谷口 浩行
特許庁審判官 佐野 整博
中島 次一
登録日 2000-05-19 
登録番号 特許第3068955号(P3068955)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 易接着性白色ポリエステルフイルム  
代理人 三原 秀子  

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