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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02D
管理番号 1098819
審判番号 不服2003-15709  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-13 
確定日 2004-06-14 
事件の表示 平成11年特許願第245971号「法枠の施工方法ならびに法面の緑化工法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月13日出願公開、特開2001- 64977〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年8月31日の出願であって、平成15年7月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月12日受付で手続補正がなされたものである。

2.平成15年9月12日受付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年9月12日受付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】アラミド繊維からなり10〜25重量%の水分を含む短繊維補強材を混練したモルタル又はコンクリートを格子状に吹き付け又は打設して、格子状の膨出体による法枠を形成することを特徴とする法枠の施工方法。」と補正された。
上記補正は、出願時の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「短繊維補強材」の合成樹脂からなる繊維について「アラミド繊維」との限定を付加し、さらに、その水分について「30重量%以下」から「10〜25重量%」へとその数値範囲をさらに限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物に記載の発明
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に国内において頒布された刊行物である、特開平11-21905号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「法面に対する法枠の施工工法」に関して、次の記載がある。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】金属繊維、ガラス繊維、合成樹脂繊維などの一種または二種以上の短繊維の補強材を体積比で0.5%〜2.0%の割合で混練させたモルタル又はコンクリートを、法面に配置された格子状の基材に吹き付け又は打設して、法面に格子状の膨出体による法枠を形成することを特徴とする法面に対する法枠の施工工法。」、

(イ)「【0027】
【発明の実施の形態】以下、コンクリートによる所謂ソイルクリート工法による法枠の施工工法・・・について説明する。
【0028】先ず、図1に示すように、例えば含水率が7〜8%程度の低スランプのコンクリート吹き付けに用いられる目合(一般には5〜6cmの目合)の金網ラス等の網状体1を、アンカーの打ち込みによって法面2に張設する。
【0029】次に、例えば直径が6〜20mm程度の1本(あるいは複数本)の鉄筋から成るコンクリート吹き付け用の上下2本の基材3,3を、1〜2m程度の間隔で格子状に組み合わせつつ、網状体1上に配置し、この基材3の交差部と交差部間とに適宜アンカー4を打設し、かつ、このアンカー4に上下の基材3を例えば結束線で固定し、必要に応じて、下部側の基材3を例えば結束線によって網状体1に固定する。
【0030】そして、基材3による格子状の空間部に、例えばビニールシート、厚紙、藁菰等の被覆体5を配置する一方、図2に示すように、セメント6と砂利7と砂8とをホッパー9にて混練し、この混練物をコンベア10を通して、コンプレッサー11からの高圧空気の供給ホース12が接続されたミキサー13に投入し、このミキサー13に、水タンク14内の水を供給して、例えば含水率が8〜9%程度の低スランプのコンクリートを練り上げるのである。
【0031】このコンクリートの練り上げに際して、コンクリートに対して体積比で0.5%〜2.0%の割合になるように、金属繊維、ガラス繊維、合成樹脂繊維などの一種または二種以上の短繊維の補強材aを、例えば振動供給手段15によってミキサー13に供給するのであり、そして、この補強材aが混練されたコンクリートAを、被覆体5まわりの格子状基材3を埋め込むように、ミキサー13に接続されたホース16先端のノズル17を通して吹き付け、かつ、このコンクリートAの固化後に被覆体5を取り除いて、基材3を骨材とした膨出体18による格子状の法枠19を法面2上に形成するのである。」、

(ウ)「【0037】補強材aを混練させたコンクリートAの吹き付けは、上記の形態に限られるものではなく、例えば図3に示すように、セメント6と砂利7と砂8とをホッパー9にて混練して、この混練物をコンベア10を通してミキサー13に投入する一方、コンクリートに対して体積比で0.5%〜2.0%の割合になるように、前記補強材aを例えば振動供給手段15によってミキサー13に供給し、この補強材aを含む乾式の混合物を、高圧空気によってホース16先端のノズル17に送り込み、かつ、ホース21を通して水タンク14内の水をノズル17に供給して、ノズル17内で、或いは更に、吹き付け途中において、短繊維の補強材aを含むコンクリートAを練り上げて、これを基材3に吹き付けるようにしてもよいのである。
【0038】このような吹き付け形態をとる場合は、水で練り上げる前のコンクリート基材、即ち、補強材aを含むところのセメント6と砂利7と砂8とによる乾式混合物の搬送性が向上する。
【0039】或いは、図4に示すように、セメント6と砂利7と砂8とをホッパー9にて混練し、この混練物をコンベア10を通してミキサー13に投入し、このミキサー13に、水タンク14内の水を供給してコンクリートを練り上げ、このコンクリートをホース16先端のノズル17に送り込む一方、例えば振動供給手段15に高圧空気の供給ホース22を接続して、高圧空気により短繊維の補強材aをノズル17に供給して、このノズル17内で、或いは更に、吹き付け途中において、短繊維の補強材aをコンクリートに混練させて、この補強材aを含むコンクリートAを基材3に吹き付けるようにしてもよいのである。」、

(エ)「【0043】
【発明の効果】以上説明したように、本発明による法枠の施工工法は、構造物としての強度が十分に発現され、かつ、均一に混練させることが容易に可能な範囲内で、即ち、体積比で0.5%〜2.0%の割合で、短繊維の補強材をモルタル又はコンクリートに混練させて、膨出体による格子状の法枠を形成するものであって、かゝる工法によれば、短繊維の補強材が互いに三次元的に複雑に絡み合って、モルタル又はコンクリートが恰かもポーラスな立体金網状の短繊維を包み込んだ状態の膨出体が形成されることになる。
【0044】従って、モルタル又はコンクリートが短繊維によって三次元方向に互いに連結された状態の膨出体が形成されることで、モルタル又はコンクリートが固化するまでの間に、所謂引けによる垂れが生じ難くなり、膨出体としては、構造物として致命的なクラックの発生し難くい、三次元方向の応力の強いものが施工されることになる。
【0045】これによって、多数のアンカー基材を法面に打ち込んだり、型枠強度を高くしたりする必要がなくなることから、或いは、軽微で済ませ得ることから、基材設置の作業性が向上する。
【0046】若しくは、立体金網状の短繊維が存して、固化したモルタル又はコンクリートの引っ張り強度、剪断力、曲げ強度が高くなることから、法面上に格子状の配置する基材の量を少なくすることも可能であって、その分の組み立て作業の省力化を図ることもできるのである。
【0047】また、モルタル又はコンクリートの垂れが少なくなることから、型枠を用いないソイルクリート工法であっても、大きな断面積の高い法枠を形成することが可能となる。
【0048】更に、例えばモルタルを打ち継ぐような場合、先打ちモルタルの表面部には、短繊維の補強材が毛羽立つように存して、この毛羽立った補強材が後打ちモルタルとの連結材になることから、切削などの表面処理や鉄筋の打ち込みなどを不要にして、先打ちモルタルと後打ちモルタルとを馴染み良く打ち継ぐことが可能となる。」

上記(ア)〜(エ)を含む明細書全体の記載及び図面からみて、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「合成樹脂繊維の短繊維補強材を混練したモルタル又はコンクリートを格子状に吹き付け又は打設して、格子状の膨出体による法枠を形成する法枠の施工工法。」

(2-2)本願出願前に国内において頒布された刊行物である、特開平4-170352号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の記載がある。

(オ)「(1)無機水硬性物質、補強繊維を含む材料を、水と混合、混練してなる繊維強化無機硬化組成物であって、アスペクト比が100以上500以下で繊維径が15μm以下の細い有機繊維とアスペクト比が50以上500以下で繊維径が30μm以上60μm以下の太い有機繊維とが前記材料中に補強繊維として添加されていることを特徴とする繊維強化無機硬化性組成物。
(2)請求項第1項記載の繊維強化無機硬化組成物を得るにあたり、予め10重量%以上50重量%以下の含水率に調整された補強繊維を、無機水硬性物質を主成分とする他の配合物に混合することを特徴とする繊維強化無機硬化性組成物の製造方法。」(1頁左欄特許請求の範囲)、

(カ)「本発明は、・・・太い繊維および細い繊維が良好に分散され、曲げ強度や衝撃強度などの強度的品質が高く、しかも、釘打ち等の施加工時にクラックが生じにくく製品外観が良好な無機硬化体を得ることができる繊維強化無機硬化性組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。」(2頁右上欄11行〜17行)、

(キ)「【 実 施 例 】
以下に、本発明を、その実施例を参照しつつ詳しく説明する。
本発明において用いられる有機繊維としては、ポリアミド系(アラミド繊維、ナイロン繊維等)ポリエステル系(ポリエステル繊維等)・・・等、有機系材料で製造される繊維ならどれを使用してもよいが、耐アルカリ性の面からポリアミド系・・・の繊維が好ましい。
細い繊維の場合、アスペクト比が100未満であると、アスペクト比が小さすぎるため繊維が抜け易く補強効果が弱くなり、500を超えると繊維が絡まりやすく分散しにくくなる。
太い繊維の場合、繊維径が30μm未満であると、繊維が破断しやすいため衝撃に対する効果が小さくなり、60μmを超えると、繊維の単位重量あたりのマトリックスとの付着面積が小さくなるので、繊維が引き抜けやすくなる。また、そのアスペクト比が50未満であると、繊維が引き抜けやすくなり、衝撃に対する効果が小さくなり、500を超えると、繊維が絡まりやすくなり、分散が難しく成形性も悪くなる。
細い繊維と太い繊維とは、細い繊維の繊維本数が太い繊維の繊維本数の5倍から300倍の割合になるように配合し、その無機硬化性組成物への配合総量は、組成物中の固形分100重量部に対し10重量部以下とすることが好ましい。
すなわち、5倍より小さいとクラック防止に対する効果が小さくなる傾向があり、300倍を超すと、太い繊維の効果が小さくなる傾向がある。
また、10重量部を超えると、成形性が悪くなる傾向がある。
無機水硬性物質とは水と反応して硬化する物質のことで、特に限定しないが、たとえば、ポルトランドセメント、スラグセメント、アルミナセメント、・・・などが挙げられる。
また、必要に応じて・・・硅砂、フライアッシュなどの骨材・・・を添加することができる。
この繊維強化無機硬化性組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、上記の細い繊維および太い繊維を予め10〜50重量%の含水率に調整したのち、無機水硬性物質を主成分とする他の配合物と、たとえば、アイリッヒミキサー等の混合機で混合し、混練機で混練する方法が好ましい。
すなわち、予め水を含有させておくことにより繊維がより分散しやすくなり、クラック防止および製品外観の向上により効果がある。」(2頁右下欄12行〜3頁左下欄15行)

(3)対比・判断
そこで、本願補正発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1に記載の発明の「法枠の施工工法」は本願補正発明の「法枠の施工方法」に相当し、また、「合成樹脂繊維」も本願補正発明の「アラミド繊維」も共に、「合成樹脂繊維」という点で共通している。
したがって、両者は、
「合成樹脂繊維からなる短繊維補強材を混練したモルタル又はコンクリートを格子状に吹き付け又は打設して、格子状の膨出体による法枠を形成する法枠の施工方法。」の点で一致し、次の点で相違している。

相違点:本願補正発明の合成樹脂繊維がアラミド繊維であり、かつ、10〜25重量%の水分を含むものであるに対して、刊行物1に記載の発明の合成樹脂繊維がアラミド繊維かどうかが不明であり、また、10〜25重量%の水分を含むものであるかどうかも不明である点。

そこで、上記相違点について検討すると、刊行物2には、無機水硬性物質への補強繊維の良好な分散と施加工時のクラックの発生防止を目的として、無機水硬性物質に混練する補強繊維(本願補正発明の「短繊維」に相当する。以下、同様に記載する。)としてアラミド繊維を用いること、及びその補強繊維(「短繊維」)の含水率(「水分」)を10重量%以上50重量%以下に調整することが記載されている。また、刊行物2に記載の補強繊維(「短繊維」)の含水率(「水分」)と本願補正発明の短繊維の水分の数値範囲が重複しており、水分の限定は、短繊維の分散を効果的にすることを目的としている点で同じであり、数値範囲の上下限値にも特に臨界的意義も認められないから、短繊維の水分をどの程度の範囲の値にするかは、短繊維のより効果的な分散に鑑みて、当業者が適宜決めることにすぎず、刊行物1に記載の発明の法枠の施工方法における短繊維補強材として、刊行物2に記載の上記構成の短繊維補強材を適用して、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到しうることである。
そして、全体として、本願補正発明の奏する効果も、刊行物1、2に記載の発明のものから当業者が当然に予測できる程度のものであって、顕著なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、刊行物1、2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項に規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成15年9月12日受付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】合成樹脂からなり30重量%以下の水分を含む短繊維補強材を混練したモルタル又はコンクリートを格子状に吹き付け又は打設して、格子状の膨出体による法枠を形成することを特徴とする法枠の施工方法。」

(1)刊行物に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、および、その記載事項は、前記「2.(2)(2-1)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
そこで、本願発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると、
両者は、「合成樹脂からなる短繊維補強材を混練したモルタル又はコンクリートを格子状に吹き付け又は打設して、格子状の膨出体による法枠を形成する法枠の施工方法。」の点で一致し、本願発明の短繊維補強材が30重量%以下の水分を含むのに対して、刊行物1に記載の発明の短繊維補強材がそのような量の水分を含むものであるかどうかが不明な点で相違している。
そこで、上記相違点について検討すると、モルタル等の無機材料に補強繊維を添加する場合に、該補強繊維のモルタル等の無機材料への分散性を良好とするために、含水補強繊維を用いることは広く知られていることであり、分散性に鑑みて、補強繊維として、どの程度の水分を含むものを用いるかは当業者が適宜決め得ることにすぎないから、刊行物1に記載の発明に基づき、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到しうることである。
そして、全体として、本願発明の奏する効果も、刊行物1に記載の発明のものから当業者が当然に予測できる程度のものであって、顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、他の請求項に係る発明ついて検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-30 
結審通知日 2004-04-06 
審決日 2004-04-20 
出願番号 特願平11-245971
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E02D)
P 1 8・ 575- Z (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊岡 智代深田 高義  
特許庁審判長 山田 忠夫
特許庁審判官 藤原 伸二
新井 夕起子
発明の名称 法枠の施工方法ならびに法面の緑化工法  
代理人 藤本 英夫  

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