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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1099562
審判番号 不服2001-14949  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-05-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-23 
確定日 2004-07-08 
事件の表示 平成 3年特許願第288599号「一方向クラッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成5年5月21日出願公開、特開平5-126169〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は、平成3年11月5日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成13年9月21日付け、及び平成16年4月15日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】
内輪と外輪との間に、周方向に所定の間隔をあけて配置される複数のスプラグと、上記スプラグの内側部を保持する内保持器と、上記スプラグの外側部を保持する外保持器と、上記スプラグを一方向に付勢するスプリングを備え、上記外保持器および内保持器はプラスチックで作製された一方向クラッチにおいて、上記スプラグの揺動中心を確実に保持しうるように、上記内保持器を繊維強化プラスチックで作製することにより、上記内保持器の作製に用いるプラスチックの強度を上記外保持器の作製に用いるプラスチックの強度よりも大きくしたことを特徴とする一方向クラッチ。

II.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1:実願昭63-19435号(実開平1-122527号)のマイクロフィルム
(2)刊行物2:米国特許第4875564号明細書(1989年10月24日発行)
(3)刊行物3:実公平3-14587号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「ワンウェイクラッチ装置」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本考案は、組み立て工数などの低減を図ったワンウェイクラッチ装置に関する。」(第1頁第16〜17行)
(b)「第1図および第2図において、11は外輪、12は内輪をそれぞれ示す。また、13はリング状に形成された外側保持器、14はリング状に形成された内側保持器であり、これらの外側保持器13および内側保持器14には図示しない孔がそれぞれ形成されており、スプラグ15が孔に挿入されて外側保持器13および内側保持器14で保持されている。
スプラグ15はリボンスプリング16で連結されており、このリボンスプリング16によりスプラグ15がはずれないようになっている。」(第5頁第5〜15行)
(c)「リボン状につなげたドラッグクリップ19を外側保持器13を成形する成形型に入れて、外側保持器13を合成樹脂、例えば強化繊維入りナイロン66で一体に成形する。すなわち、ドラッグクリップ19と外側保持器13の2部品を一度に成形する。
この実施例ではドラッグクリップ19と外側保持器13とを一体に成形する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ドラッグクリップ19と内側保持器14とを一体に成形するようにしても良いし、また、外側保持器13および内側保持器14の両方をドラッグクリップ19と一体に成形するようにしても良い。」(第6頁第6〜18行)
(d)「第1図および第2図において、外輪11が時計方向回りに回転し、内輪12が反時計方向回りに回転するとき、このワンウェイクラッチは空転の状態となり、外輪11が反時計方向回りに回転し、内輪12が時計方向回りに回転するとき、このワンウェイクラッチはスプラグ15を介してロックの状態となり一方向にのみ締結される。」(第7頁第2〜8行)
(e)「また、外側保持器13を合成樹脂で形成するようにしたため、全体の重量を軽減することができ、慣性力を小さくすることができる。」(第7頁第14〜16行)
したがって、刊行物1には、上記摘記事項、明細書及び図面の記載からみて、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
【引用発明】
内輪12と外輪11との間に、周方向に所定の間隔をあけて配置される複数のスプラグ15と、上記スプラグ15の内側部を保持する内側保持器14と、上記スプラグ15の外側部を保持する外側保持器13と、上記スプラグ15を一方向に付勢するリボンスプリング16を備え、上記内側保持器14は合成樹脂で作製されたワンウェイクラッチにおいて、上記内側保持器14を強化繊維入りナイロン66で作製したワンウェイクラッチ。

(刊行物2)
刊行物2には、「ダブルケージを有するスプラグクラッチ」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。(なお、翻訳については、関連日本出願に係る特開昭63-303232号公報の記載内容を参照されたい。)
(f)「本発明は、例えば米国特許第3049205号明細書によって公知となっている外側ケージリングと内側ケージリングとをもつダブルケージを有するスプラグクラッチに関する。」(第1欄第5〜8行)
(g)「この公知のダブルケージは多様な用途があり、特に自動車産業の分野で広く使用されている。このケージ自体は従来一般に金属でつくられており、特別の構成の場合にはプラスチック製のケージも使用されてきた。金属製のケージにはプラスチック製ケージでは得ることができない特性があり、逆にプラスチック製ケージはある面では金属製ケージよりすぐれている。
自動車の動力伝達系の場合では金属ケージリングを有するダブルケージ付きフリーホイールの使用した場合あるいはプラスチック製ケージリングを有するダブルケージを使用した場合に都合よく解決されない問題が生じることがある。」(第1欄第9〜20行)
(h)「外側のケージを金属、特にスチール、で製造しなければならないほど、高い負荷がかからない場合が多数ある。内側のケージリングは、より高い負荷を受けやすく、高い負荷能力及び長期間にわたる使用を保証するために金属で形成されるべきである。外側のケージリングをプラスチックで製造することは、製造コストを増加することなしに、外側のケージリングを適切に形成することによって、いくつかの機能の実現可能性を提供することができるので、相対的に安価である。このことは、追加の費用を必要とするであろう金属で形成したケージではなし得ないであろう。」(第1欄第30〜40行)

(刊行物3)
刊行物3には、「保持器動き量規制機構付きワンウエイクラッチ」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(i)「本考案は、ワンウエイクラッチに関し、より詳細には保持器動き量規制機構付ワンウエイクラッチに関する。」(第1頁第2欄第9〜11行)
(j)「OWCが急激に過大トルクを受けると、スプラグがノーマルの噛合いの位置から立上り、カム高さを越えて反対方向に転倒する、いわゆるロールオーバー(Roll Over)が起きる為、保持器の変形、破損、リボンスプリングの変形へたり等が二次的に発生する。内外輪にも深い圧痕が生じ、使用することができなくなり、はなはなだしい場合はスプラグが内外輪の内外周面に噛込んで空転ができなくなくこともある。
また、スプラグが内外輪の内外周面との噛合い中にスリップなどを起こして、負荷が抜けるとその反動でスプラグが急に空転側へ倒れる、即ちポツピング(Popping)現象が起こり、非常に短い時間でスプラグが跳ねて踊るようになる。その結果、スプラグは激しく保持器の柱に衝突し、摩耗させ、変形させ、最悪の場合は柱を乗り越えて両保持器の間にめりこんでしまうことがある。この現象をポップアウト(Pop-out)と言う。スプラグがポツピングすると、スプラグの内側カム面にスキッドマークができて摩耗し、保持器柱の摩耗、破損、リボンスプリングの変形、破損などを起こす。また、1本のスプラグがポツプアウトしても、それによって内側保持器が空転側へ回転させられ、他のスプラグも空転側へ傾き内輪の外周面から離れるのでOWCの機能を失い、トルク伝達できなくなってしまう。
上記の2例に代表されるようにスプラグ型OWCにおいて特に問題となるのはスプラグの倒れ込みである。スプラグはフリー側にもロック側にも倒れすぎるとOWCに支障が生じる。
以上の問題点を解決する為には、スプラグのスラスト角を含む外形形状の設計管理及び内側保持器のポケット寸法の精度管理を相当厳密に行なう必要がある。また内側保持器の肉厚を厚くしたり、OWCのトルク容量を上げて安全率を大きくすることも考えられる。更にまたリボンスプリングの材質を改良し、たわみ量を大きくする必要もある。」(第2頁第3欄第20行〜第4欄第13行)

III.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「内輪12」は本願発明の「内輪」に相当し、以下同様に、「外輪11」は「外輪」に、「スプラグ15」は「スプラグ」に、「内側保持器14」は「内保持器」に、「外側保持器13」は「外保持器」に、「リボンスプリング16」は「スプリング」に、「合成樹脂」は「プラスチック」に、「ワンウェイクラッチ」は「一方向クラッチ」に、「強化繊維入りナイロン66」は「繊維強化プラスチック」に、それぞれ相当するので、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
内輪と外輪との間に、周方向に所定の間隔をあけて配置される複数のスプラグと、上記スプラグの内側部を保持する内保持器と、上記スプラグの外側部を保持する外保持器と、上記スプラグを一方向に付勢するスプリングを備え、上記内保持器はプラスチックで作製された一方向クラッチにおいて、上記内保持器を繊維強化プラスチックで作製した一方向クラッチ。
<相違点>
(相違点1)
外保持器の材料に関し、本願発明が、「プラスチックで作製され」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を具備しているかどうか不明である点。
(相違点2)
本願発明が、「スプラグの揺動中心を確実に保持しうるように」、「内保持器の作製に用いるプラスチックの強度を上記外保持器の作製に用いるプラスチックの強度よりも大きくした」のに対し、引用発明は、そのような構成を具備しているかどうか不明である点。
そこで、上記相違点1及び2について検討する。
(相違点1について)
刊行物2には、「外側のケージを金属、特にスチール、で製造しなければならないほど、高い負荷がかからない場合が多数ある。内側のケージリングは、より高い負荷を受けやすく、高い負荷能力及び長期間にわたる使用を保証するために金属で形成されるべきである。」(上記摘記事項(h)参照)と記載されており、ワンウェイクラッチの内保持器には外保持器よりも相対的に高い負荷がかかることが記載または示唆されている。
また、一方向クラッチにおいて、内保持器に比べて必要強度が小さい外保持器をプラスチックで作製することは、従来周知の技術手段(必要であれば、刊行物1の上記摘記事項(c)及び(e)、刊行物2の上記摘記事項(h)、等を参照)である。
してみれば、引用発明の外保持器をプラスチックで作製することにより、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、引用発明、及び従来周知の技術手段に基づき、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到し得たものである。
(相違点2について)
刊行物2には、上述のように、「外側のケージを金属、特にスチール、で製造しなければならないほど、高い負荷がかからない場合が多数ある。内側のケージリングは、より高い負荷を受けやすく、高い負荷能力及び長期間にわたる使用を保証するために金属で形成されるべきである。」(上記摘記事項(h)参照)と記載されており、ワンウェイクラッチの内保持器には外保持器よりも相対的に高い負荷がかかることが記載または示唆されている。
また、刊行物3には、スプラグを安定して確実に保持するためには、「また内側保持器の肉厚を厚くしたり・・・することも考えられる。」(上記摘記事項(j)参照)と記載されていることからみて、内保持器の肉厚を厚くして強度を高めることが有効であることが記載または示唆されている。
以上のことからみて、引用発明において、同じ技術分野に属する刊行物2及び3に記載された発明を適用して、スプラグの揺動中心を確実に保持しうるように内保持器の強度を外保持器の強度よりも大きくすることにより、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、引用発明、刊行物1及び2に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づき、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到し得たものである。

なお、審判請求人は平成16年4月15日付けの意見書において、「内保持器の大きさや重量を変えることなく、内保持器の強度を高くすることができて、一方向クラッチの軽量化を図れると共に、スプラグの揺動運動を安定化して十分なトルク伝達能力を達成できるという作用効果(A2)を奏する」(「(二)(1)本願請求項1の内容」の項を参照)などと縷々主張している。しかしながら、少なくとも「内保持器の大きさや重量を変えることなく」という事項は、願書に最初に添付した明細書の段落【0013】第1文の記載はもとより、明細書又は図面に記載も示唆もされておらず、上記審判請求人の主張は、明細書又は図面の記載に基づかない主張であり採用することはできない。

本願発明の効果についてみても、引用発明、刊行物2及び3に記載された発明、及び従来周知の技術手段の奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2及び3に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

IV.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-04-27 
結審通知日 2004-05-11 
審決日 2004-05-25 
出願番号 特願平3-288599
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁木 浩田々井 正吾川口 真一  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 常盤 務
前田 幸雄
発明の名称 一方向クラッチ  
代理人 山崎 宏  
代理人 青山 葆  

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