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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1099720
異議申立番号 異議2003-73211  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-02-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-22 
確定日 2004-06-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第3431944号「難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3431944号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3431944号の発明は、平成5年3月18日に特許出願(優先日 平成4年3月19日 日本)され、平成15年5月23日にその特許権の設定登録がなされ、その後、渡辺 治(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

「ポリオレフィン100重量部に対し、急速加熱(800〜1000℃)したときの膨張性がC軸方向に対して100倍以上であり、かつ分級による80メッシュオンが80%以上である加熱膨張性黒鉛を1〜30重量部と、燐化合物を含有することを特徴とする難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。」

3.特許異議の申立についての判断
3-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第1〜3号証を提出して、概略、次の理由により本件の請求項1に係る特許は取り消されるべきである旨、主張している。
(1)請求項1に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。

3-2.甲第1〜3号証及びその記載事項
甲第1号証:特開平3-41161号公報
(1-1)「熱可塑性樹脂と、1重量%水分散液のpHが4.5以上の熱膨張性黒鉛を、該熱可塑性樹脂と熱膨張性黒鉛の混練混合物の温度を210℃以下に保持して混練することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」(特許請求の範囲)
(1-2)「本発明は難燃性の改善された熱可塑性樹脂組成物に関する。本発明の組成物はプラスチック成形の分野で利用される。」(第1頁左下欄第12〜14行)
(1-3)「本発明に使用される熱膨張性黒鉛の原料黒鉛、製造方法には特に制限はないが、その特性としては、1000℃で10秒間、急激に加熱するときの膨張度が50〜250ml/gであることが望ましく、」(第2頁左上欄第13〜17行)
(1-4)「熱膨張性黒鉛の膨張度は、一般に該熱膨張性黒鉛の粒度に左右され、粒度がおよそ80メッシュより細かくなると、膨張性が小さくなる傾向があり、150メッシュより細かい場合は、膨張度が極端に低下し、その結果、熱可塑性樹脂組成物製品の難燃化効果は著しく低下する。従って、本発明で使用される熱膨張性黒鉛の粒度は、100メッシュより大きいものが望ましい。一方、20メッシュより大きいものは膨張度も大きく、難燃性付与の点では効果があるが、熱可塑性樹脂と混練する際、樹脂中への分散性が低下することがある。」(第2頁右上欄第8〜13行)
(1-5)「本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン及びこれらのモノマーと酢酸ビニル、アクリル酸エステルとの共重合体等のポリオレフィン樹脂類、・・・を代表的なものとして挙げることが出来る。」(第2頁右下欄末行〜第3頁左上欄第12行)
(1-6)「本発明における熱可塑性樹脂組成物に対する熱膨張性黒鉛の含有比率は、通常、3〜60%であって、3%未満では難燃化が不十分な場合があり、また60%をこえると樹脂の種類にもよるが、熱可塑性樹脂と混練する過程で樹脂混合物の流動性が低下し、均一な混合組成物を得にくい。」(第3頁右上欄第5〜10行)
(1-7)「なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、通常のプラスチック製品に使用される一般的な添加剤、即ち、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、架橋剤、染顔料、充填剤等を添加、配合することに関しては特別の制限はなく、従来公知の難燃剤を添加、併用しても良い。」(第2頁右上欄第11〜16行)

甲第2号証:特開昭55-118987号公報
(2-1)「膨脹性黒鉛とリン又はリン化合物とからなり、リン又はリン化合物の量はリン元素量に換算して膨脹性黒鉛100重量部あたり5〜300重量部であることを特徴とする発泡性防火組成物。」(特許請求の範囲)
(2-2)「膨脹性黒鉛はリン又はリン化合物の共存下で加熱されると、詳細な機構は未だ不明であるが、リン成分が微細な発泡膨脹性黒鉛の生成を防止し、遮熱あるいは防火上有効な発泡炭化物の連続体乃至発泡炭化物魂(註:「魂」は「塊」の誤記と認められる。)を生成させる作用をなす。」(第1頁右下欄第10〜15行)
(2-3)「本発明においては、リン元素自体の作用で膨脹性黒鉛の発泡を前記した通りに改良するのでリン化合物としては、その化学種は問わない。たとえば三酸化リン、・・・ポリリン酸アンモニウム、・・・トリフェニルホスフェート等リン酸エステル類、・・・等を例示することができる。」(第2頁左上欄第17行〜同頁右上欄第17行)
(2-4)実施例3〜13及び比較例2〜5には、組成を異にする各種防火組成物について、「軟度」、「混練加工性」、「発泡性」及び「発泡物の強度」を評価したデータが示されている。(第6頁第1表)

甲第3号証:特開平2-215857号公報
(3-1)「熱膨張性黒鉛が、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の硫酸塩を含有し、かつ、1重量%濃度の水分散液におけるpHが4.5以上であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の難燃性ポリウレタンフォーム。」(特許請求の範囲の請求項2)
(3-2)「このような熱膨張性黒鉛は、約500℃以上に急激に加熱することによりC軸方向に数10〜数100倍に膨張する性質を有するものである。特に、本発明で使用される熱膨張性黒鉛は、その特性として、1000℃で10秒間急激に加熱するときの膨張度が50〜250cc/gであることが望ましく、」(第2頁右下欄第8〜15行)

3-3.対比、判断
甲第1号証には、その特許請求の範囲に「熱可塑性樹脂と、1重量%水分散液のpHが4.5以上の熱膨張性黒鉛を、該熱可塑性樹脂と熱膨張性黒鉛の混練混合物の温度を210℃以下に保持して混練することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法」(摘示記載(1-1))が記載されており、この熱可塑性樹脂組成物が難燃性が改善されたものであること(摘示記載(1-2))、該組成物として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂類が用いられること(摘示記載(1-3))及び該組成物に対する熱膨張性黒鉛の含有比率は、通常、3〜60%であること(摘示記載(1-6))等が記載されている。
本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者はともに、
「ポリオレフィンに対し、加熱膨張性黒鉛を含有する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物」
である点で一致し、ポリオレフィンに対する加熱膨張性黒鉛の配合量範囲についても重複しているが、両発明間には、以下の点で相違が認められる。
(ア)本件発明においては「急速加熱(800〜1000℃)したときの膨張性がC軸方向に対して100倍以上」である加熱膨張性黒鉛を用いるのに対して、甲第1号証には、熱膨張性黒鉛として「1000℃で10秒間、急激に加熱するときの膨張度が50〜250ml/gであることが望ましい」(摘示記載(1-3))ことが記載されているものの、C軸方向の膨脹倍率については記載されていない点、
(イ)本件発明においては「分級による80メッシュオンが80%以上である」加熱膨張性黒鉛を用いるのに対して、甲第1号証には、熱膨張性黒鉛の粒度について「およそ80メッシュより細かくなると、膨張性が小さくなる傾向がある」(摘示記載(1-3))ことが記載されているものの、80メッシュオンのパーセンテージについては記載されていない点、
(ウ)本件発明は「燐化合物を含有する」ものであるのに対して、甲第1号証にはこの点が記載されていない点
そこで、これらの相違点について以下に検討する。
まず、(ウ)の点についてみると、甲第2号証には、「膨脹性黒鉛とリン又はリン化合物とからなり、リン又はリン化合物の量はリン元素量に換算して膨脹性黒鉛100重量部あたり5〜300重量部であることを特徴とする発泡性防火組成物」(摘示記載(2-1))が記載されており、更に、「膨脹性黒鉛はリン又はリン化合物の共存下で加熱されると、詳細な機構は未だ不明であるが、リン成分が微細な発泡膨脹性黒鉛の生成を防止し、遮熱あるいは防火上有効な発泡炭化物の連続体乃至発泡炭化物塊を生成させる作用をなす」(摘示記載(2-2))と記載されているが、同号証には、このような膨脹性黒鉛とリン又はリン化合物からなる発泡性防火組成物を熱可塑性樹脂に配合して該樹脂の難燃性を改善させることについては記載も示唆もされていない。
一般に、防火組成物とは、パテ等の形態で対象物に施与されて対象物の燃焼を防止するためのものであり、一方、難燃性樹脂組成物とは、それ自身が難燃性である樹脂組成物を意味するものであるから、これらは機能及び用途を異にするものであって、甲第1号証に記載された難燃性樹脂組成物と甲第2号証に記載された防火組成物とは、同一の技術分野に属するものではないというべきである。
そして、甲第2号証の実施例及び比較例には、膨脹性黒鉛とリン化合物を組合わせた各種防火組成物について、「軟度」、「混練加工性」、「発泡性」及び「発泡物の強度」を評価したデータ(摘示記載(2-4))が示されているものの、防火性あるいは難燃性を直接示すデータはなにも示されていない。
そうすると、上記のように、そもそも甲第1号証と甲第2号証に記載された技術はそれぞれ異なる分野のものであるが、仮に、特許異議申立人が主張する「防火とは燃焼を防ぐ機能を果たすものであることから難燃と同義である」(特許異議申立書第10頁)との観点から、甲第2号証に記載された防火組成物における膨脹性黒鉛とリン化合物との併用技術を甲第1号証に記載された難燃性樹脂組成物に転用することを当業者が想起し得たものとしてみても、それによる難燃性の向上がどの程度のものかを知る手がかりはないというべきである。
また、(ア)及び(イ)の点についてみると、甲第3号証には、難燃性ポリウレタンフォームに配合する熱膨張性黒鉛は、約500℃以上に急激に加熱することによりC軸方向に数10〜数100倍に膨張する性質を有すること(摘示記載(3-1)、(3-2))が記載されており、また、甲第1号証には、熱膨張性黒鉛の粒度がおよそ80メッシュより細かくなると、膨張性が小さくなる傾向があることが記載されているが、これら各号証には、熱膨張性黒鉛として、(ア)C軸方向に対する膨張率が100倍以上であって、かつ、(イ)80メッシュオンが80%以上であるようなものを用いることについては記載されていない。
これに対して本件発明は、熱膨張性黒鉛として(ア)及び(イ)の条件を満たす特殊なものを選択し、しかもこれに(ウ)のように燐化合物を併用することによって、機械的特性を保ちながら優れた難燃性(V0)を発揮し、かつ軽量であるという特許明細書(段落【0074】等)に記載された作用効果を生ずるものであり、同明細書の記載からは、これらの作用効果は、(ア)、(イ)及び(ウ)のいずれを欠いても得られないことが看て取れるのである。
したがって、本件発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-06-03 
出願番号 特願平5-58843
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三谷 祥子  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2003-05-23 
登録番号 特許第3431944号(P3431944)
権利者 東ソー株式会社 株式会社鈴裕化学
発明の名称 難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物  
代理人 小花 弘路  
代理人 岸田 正行  
代理人 小花 弘路  
代理人 高野 弘晋  
代理人 高野 弘晋  
代理人 岸田 正行  
代理人 水野 勝文  
代理人 水野 勝文  

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