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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1101098
異議申立番号 異議2003-72108  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-09-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-18 
確定日 2004-06-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3379129号「密閉形鉛蓄電池」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3379129号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3379129号の請求項1、2に係る発明は、平成5年2月15日に特許出願され、平成14年12月13日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、全請求項に係る特許について新神戸電機株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年1月29日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
(a)特許請求の範囲を
「【請求項1】 隔壁を介して接する少なくとも2つのセルを有するモノブロック電槽を備え、これらのセル内空間には、それぞれ複数枚の正極板および負極板が前記隔壁と平行になるようにしてセパレータを介して積層された極板群が加圧状態で収納された密閉形鉛蓄電池において、前記隔壁の厚みを前記電槽の外壁厚みよりも薄く構成するとともに、前記隔壁と極板群との間に発泡合成樹脂製のスペーサが配され、1セルを長方形としたとき、極板群の配列方向が長辺となるようにしたことを特徴とする密閉形鉛蓄電池。」と訂正する。
(b)明細書段落【0009】の
「極板群が収納されている密閉形鉛蓄電池」を、
「極板群が加圧状態で収納されている密閉形鉛蓄電池」と訂正する。
(c)明細書段落【0010】の
「極板群の配列方向が長辺となるようにされていることが望ましい。」を、
「極板群の配列方向が長辺となるようにされている。」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記(a)の訂正は、特許請求の範囲の請求項1において、極板群の収納について「加圧状態で」あると限定すると共に、請求項2の「1セルを長方形としたとき、極板群の配列方向が長辺となるように」するという事項を取り込んで限定し、かつ、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、この訂正は、請求項2の前記記載、発明の詳細な説明の「本発明は、隔壁変形等を防止することにより、各セルの極板群の圧力を一定に保ち」(段落【0008】)、「極板群の圧力変化は、電槽外壁2側ではそれ自身の厚みにより吸収し、一方、隔壁3側では、スペーサ14により吸収する。これによって、各セル4における極板群の圧力を良好に調整する。」(段落【0021】)等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
上記(b)(c)の訂正は、上記(a)の訂正により特許請求の範囲が訂正されることに伴い、これに整合するように発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、しかも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
2-3.訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3-1.申立ての理由及び当審の取消理由の概要
特許異議申立人新神戸電機株式会社は、証拠として甲第1〜3号証を提出し、本件請求項1、2に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、と主張している。
当審において通知した取消理由は、この申立て理由と同趣旨のものである。
3-2.本件発明
上記2.で述べたとおり訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明は、平成16年1月29日付けで提出された訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記2-1.(a)参照。以下、「本件発明」という)。

3-3.引用刊行物とその記載事項
(1)当審が通知した取消理由に引用された刊行物1(特開昭63-128571号公報、特許異議申立人が提出した甲第1号証)には、鉛蓄電池の製造法に関して、次の事項が記載されている。
〔摘示1-A〕「電槽セル室内極板群を挿入した後、極板群と電槽内壁面とのスキ間へ発泡性合成樹脂を注入し、この発泡性合成樹脂を発泡固体化してスキ間部分を塞ぐ事により極板群外周部を固定する事を特徴とする鉛蓄電池の製造法。」(特許請求の範囲)
〔摘示1-B〕「従来の技術
従来、鉛蓄電池においては、・・・電池の構造においては、・・・電槽1の中へ極板群3を挿入する場合、セパレータがマットレスのため、極板群自身の弾力性が全く無くなり極板群の幅W1は不動の寸法となり、そのために組立生産性を考えた場合電槽リブ間の寸法W0に対し、極板群幅W1は必ずそれよりも小さくして多少の余裕を確保しなければならない。通常では電槽リブ間の寸法W0に対し、極板群幅W1は1.0mm〜2.0mm短かくするのが好ましく、2.0mm以上のスキ間が出来る場合は、特にパルプ材又は、発泡シート材等の別部品をスキ間に挿入し、調整をしている。
・・・(中略)・・・
従来の技術においては、極板群幅W1は電槽リブ2間の寸法W0よりも必ず小さくしなければならないために、その間に生じるスキ間4での振動による極板群のあばれを発生させる要因となり、最終的には極板群の疲労劣化により短寿命となってしまう。・・・
尚、スキ間部分に発泡材等の別部品を挿入する場合においても、スキ間を±0mmに統一する事は極板厚みのバラツキを考えても不可能であり、この部品が振動によるズレ(ずり上り)が発生しないためには、電槽リブ間寸法W0よりも大きくなる様に調整し、加圧状態を設定しなければならないが、これは自動化ラインの組立生産性を考えても、現在の技術では不可能である。したがって、スキ間部に発泡材等の別部品の挿入による耐振動性能の向上は期待できない。」(第1頁左下欄第15行〜第2頁右上欄第6行)
〔摘示1-C〕「極板群3は電槽1のセル室内へ収納された時、極板群幅W1は電槽リブ間寸法W0よりも約2.0mm程小さく設計されており、容易にセル室内へ挿入できる。この時に極板群3と電槽リブ2との間に出来たスキ間4へ、電槽上部からノズル等により発泡性合成樹脂を流し込む。流し込まれた発泡性樹脂は時間とともに発泡を開始しながら固体化し、極板上部位まで、ほぼ全域のスキ間4を塞ぐ事が出来る。」(第2頁左下欄第4〜12行)
〔摘示1-D〕「本発明では極めて耐振動性能の高い高性能蓄電池を提供するものである。又本発明の様な極板群及びスペーサ構造を採用する事で極板厚みや樹脂成形電槽の寸法バラツキを容易に吸収し、ガラスマット等の高価な部品を使用する事無く一定の群厚みを作り出す事が出来、極めて信頼性の高い蓄電池を提供する事が可能となる。」(第2頁右下欄第9〜16行)
〔摘示1-E〕鉛蓄電池は、隔壁を介して接する複数のセルを有するモノブロック電槽を備え、これらセル内空間には、極板群が隔壁と平行になるように収納され、隔壁の厚みは、電槽の外壁厚みよりも薄くされていると共に、発泡性合成樹脂の注入前の極板群と外壁との間、及び、極板群と隔壁との間には、それぞれ、発泡性合成樹脂が注入され発泡固体化して塞がれるスキ間が存在する(第1、2図参照)。
(2)同じく引用された刊行物2(特開昭58-133785号公報、同甲第2号証)には、ペースト式鉛蓄電池に関し、次の事項が記載されている。
〔摘示2-A〕「極群に膨潤性を有する耐酸性部材からなるスペーサーを積層し、該スペーサーの電解液による膨潤により極群に緊圧力を加えたことを特徴とするペースト式鉛蓄電池。」(特許請求の範囲)
〔摘示2-B〕「ペースト式鉛蓄電池の陽極板の活物質の脱落を防止し、その劣化を阻止するためには極群に対する緊圧力を20〜30kg/cm2に設定する必要があるが、極群の組立時点にて充分な緊圧力を加えようとすると、その組立作業が非常に煩雑になるという問題点があった。」(第1頁左下欄第9〜14行)
〔摘示2-C〕「本発明を・・・詳細に説明する。すなわち、図面において、・・・5は例えばEPDMゴムのベースにアエロジエルのごとき極度に吸水性の強い物質を混合したり、あるいは陰イオン交換樹脂と四弗化エチレンを混合して形成した膨潤性を有する耐酸性部材からなるスペーサーである。
すなわち、極群にスペーサー5を積層し、これを10kg/cm2程度の弱い緊圧力にて電槽6内に収納し、こののち希硫酸の電解液7を注液すると、該電解液7によりスペーサー5が膨潤し、もって極群に所望の緊圧力を加えることができる。
なお前記実施例においてはスペーサー5を極群の両側に配したものを例示したが、一方の側にのみ配することも考えられる。」(第1頁右下欄第1〜17行)
〔摘示2-D〕「本発明によれば、その極群が電槽内へ容易に収納することができるとともに、電池使用中においては該極群は高い緊圧力が加えられるので、陽極板における陽極活物質の収縮に起因する軟化脱落による電池の劣化を防止することができ、その工業的価値の高いものである。」(第1頁右下欄第18行〜第2頁左上欄第3行)
(3)同じく引用された刊行物3(特開昭56-114288号公報、同甲第3号証)には、密閉形鉛電池に関し、次の事項が記載されている。
〔摘示3-A〕「正・負極板および・・・セパレータにより極群が構成され、増粘剤の濃度が0.01〜4.0wt%の硫酸電解液を備えると共に、該電解液の増粘剤の濃度を極群中央部よりも極群周辺部で高くしたことを特徴とする密閉形鉛電池。」(特許請求の範囲の請求項1)
〔摘示3-B〕「本発明はより良い放電特性とガス吸収性能、寿命性能を有し、かつどのような姿勢で使用しても漏液の恐れのない密閉形鉛電池を安価に提供することを目的とする。」(第1頁右下欄第10〜13行)
〔摘示3-C〕第1図(A)には、密閉形鉛電池の一部破断正面図が、第1図(B)には、密閉形鉛電池の側断面図が記載されている。

3-4.当審の判断
摘示1-Aに記載された鉛蓄電池は、摘示1-Eに記載されたように、「隔壁を介して接する複数のセルを有するモノブロック電槽を備え、これらセル内空間には、極板群が隔壁と平行になるように収納され、隔壁の厚みは、電槽の外壁厚みよりも薄くされていると共に、発泡性合成樹脂の注入前の極板群と外壁との間、及び、極板群と隔壁との間には、それぞれ、発泡性合成樹脂が注入され発泡固体化して塞がれるスキ間が存在する」ものといえるし、摘示1-Cからみて、発泡固体化してスキ間部分を塞いだ合成樹脂は、「スペーサ」といえるから、刊行物1には、
「隔壁を介して接する複数のセルを有するモノブロック電槽を備え、これらセル内空間には、極板群が隔壁と平行になるように収納された鉛蓄電池において、隔壁の厚みは、電槽の外壁厚みよりも薄くされていると共に、電槽セル室内に極板群を挿入した後、極板群と外壁との間及び極板群と隔壁との間のスキ間へ発泡性合成樹脂を注入し、この発泡性合成樹脂を発泡固体化してスキ間部分を塞ぐスペーサを形成して極板群外周部を固定するようにした鉛蓄電池。」の発明が記載されていると認められる。
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、極板群は、通常、「複数枚の正極板および負極板がセパレータを介して積層された」ものであるから、両者は、
「隔壁を介して接する少なくとも2つのセルを有するモノブロック電槽を備え、これらのセル内空間には、それぞれ複数枚の正極板および負極板が前記隔壁と平行になるようにしてセパレータを介して積層された極板群が収納された鉛蓄電池において、前記隔壁の厚みを前記電槽の外壁厚みよりも薄く構成するとともに、前記隔壁と極板群との間に発泡合成樹脂製のスペーサが配されたことを特徴とする鉛蓄電池。」である点で一致するが、次の点で相違する。
相違点(1):
隔壁と極板群との間に発泡合成樹脂製のスペーサが配される構造における極板群が、本件発明においては、セル内空間に加圧状態で収納されているのに対し、刊行物1記載の発明においては、セル内空間に加圧状態で収納されていることが規定されていない点。
相違点(2):
本件発明においては、1セルを長方形としたとき、極板群の配列方向が長辺となるようにしているのに対し、刊行物1記載の発明においては、そのような事項が規定されていない点。
相違点(3):
鉛蓄電池が、本件発明においては、密閉形であるのに対し、刊行物1記載の発明においては、密閉形であるか否かが明りょうでない点。

以下、これらの相違点について検討する。
相違点(1)について
本件発明は、「大容量化に伴い、極板群の極板の枚数を増加させることにより、使用中の極板膨張に起因する極板群圧力が増大すると、その圧力の増大が一定でないため、セル間で極板群圧力に差異が生じ、その結果、電池性能が急速に悪化してしまうという問題」(段落【0007】)や「セル間での極板群圧力の差異により内部の隔壁の変形という事態が生じ、これにより更に各セル間での極板群圧力に差ができ、性能の劣化を生じさせる」(段落【0007】)という問題を背景とし、「隔壁変形等を防止することにより、各セルの極板群の圧力を一定に保ち、極板群圧力の不均一化に起因する電池性能劣化を極力抑制することのできる密閉形鉛蓄電池を提供すること」(段落【0008】)を目的として、隔壁と極板群との間に発泡合成樹脂製のスペーサが配される構造を前提とした前記相違点(1)で示される構成要件を採用したものと認められる。
これに対し、刊行物1記載の発明は、極板群と隔壁ないし外壁との間に生じるスキ間での振動による極板群のあばれ発生とそれに伴う疲労劣化による短寿命の問題を解決するために、スキ間部分に発泡材を挿入する場合において、スキ間を±0mmに統一することは不可能であること、加圧状態で挿入することは、自動化ラインの組立技術では不可能であることにより(摘示1-B参照)、スキ間へ発泡性合成樹脂を注入し、発泡固体化してスキ間を塞ぐものである。そして、発泡による膨張は、大気圧と釣り合った状態で停止するから、発泡性合成樹脂は、大気圧以上に極板群を加圧することはできず、極板群は、実質上無加圧状態となるものと認められる。
してみると、本件発明は、極板群の収納を加圧状態で行うことを前提とし、その前提に伴って生起する電池性能の劣化の問題を解決することを課題としたものであるのに対し、刊行物1記載の発明は、極板群の収納を無加圧状態にすることを前提とし、振動による極板群のあばれの発生等の問題を解決することを課題としたものといえる。それ故、相違点(1)で示される両者の構成上の相違は、両者の解決しようとする課題の相違に基づくだけでなく、両者の発明の基礎となる前提そのものの相違に基づくものということができ、しかも、互いに相容れないものであるから、刊行物1記載の発明を主引用例として前記相違点(1)で示される本件発明の構成要件を想到し得るとすることはできない。
刊行物2記載の発明は、ペースト式鉛蓄電池における陽極活物質の脱落を防止するために、膨潤性を有するスペーサー(「スペーサ」に対応するもの、以下、「スペーサ」という。)を積層し、スペーサの電解液による膨潤により極群(「極板群」に相当するもの、以下、「極板群」という。)に緊圧力を加えるものであり(摘示2-A参照)、スペーサは、EPDMゴムのベースにアエロジエルのごとき極度に吸水性の強い物質を混合したり、陰イオン交換樹脂と四弗化エチレンを混合して形成したものである(摘示2-C参照)。それ故、刊行物2記載の発明は、刊行物1記載の発明と、極板群の収納を加圧状態でするか否かという前提の点で相違し、それに伴い、解決しようとする課題も相違し、さらに、スペーサの材質の点でも相違するから、極板群の収納やスペーサ等について刊行物2記載の発明に刊行物1記載の発明を組み合わせることが容易であるとはいえない。
刊行物3には、より良い放電特性とガス吸収性能、寿命性能を有し、かつどのような姿勢で使用しても漏液の恐れのない密閉形鉛電池を安価に提供することを目的として(摘示3-B参照)、電解液の増粘剤の濃度を極群中央部よりも極群周辺部で高くすること等が記載されているだけで、本件発明が前提とする隔壁と極板群との間に発泡合成樹脂製のスペーサが配される構造について全く記載されていない。
したがって、刊行物1〜3に記載された発明に基づき、前記相違点(1)で示される構成要件の“隔壁と極板群との間に発泡合成樹脂製のスペーサが配される構造における極板群をセル内空間に加圧状態で収納する”ことを当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
そして、本件発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された構成要件を具備することにより、「単セル間の容量差を最小限にすることができ、モノブロック電槽を用い複数セルを並列接続しても寿命が長く安定した大容量電池を得ることが可能となった。」(段落【0029】)等の明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、前記相違点(2)(3)について検討するまでもなく、本件発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
密閉形鉛蓄電池
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 隔壁を介して接する少なくとも2つのセルを有するモノブロック電槽を備え、これらのセル内空間には、それぞれ複数枚の正極板および負極板が前記隔壁と平行になるようにしてセパレータを介して積層された極板群が加圧状態で収納された密閉形鉛蓄電池において、前記隔壁の厚みを前記電槽の外壁厚みよりも薄く構成するとともに、前記隔壁と極板群との間に発泡合成樹脂製のスペーサが配され、1セルを長方形としたとき、極板群の配列方向が長辺となるようにしたことを特徴とする密閉形鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、密閉形鉛蓄電池に関し、更に詳細には、モノブロック電槽を用いた密閉形鉛蓄電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
密閉形鉛蓄電池は、メンテナンスを不要にする特徴により広い用途で使われており、近年特に大容量化への需要も拡大している。
【0003】
従来のフリーな電解液が存在する電池の場合では、大容量化は高さ方向への拡大により容易に行なうことができ、単セルで単電池(鉛蓄電池の場合は2ボルト)を構成していた。
【0004】
一方、密閉形鉛蓄電池においては、電池の高さを高くすると、電解液を含浸するセパレータ中における電解液濃度の成層化現象が発生し、極板上下で性能にアンバランスが生じ、寿命を早期に劣化させてしまう問題があった。このため、セパレータの材質や処理方法を検討して、保液能力を向上させる改良がなされてきたが、高さ方向への電解液の吸い上げ能力には自ずと限界があり、密閉形鉛蓄電池の高さは制限されていた。
【0005】
このように、密閉形鉛蓄電池では、高さ制限があるため、複数セルを並列接続して大容量化する方法を採用し、複数セルを隔壁を介して一体に成形したモノブロック電槽を用いて単電池を構成する方策が採られるようになってきた。
【0006】
しかし、用途に応じた種々の容量が要望されるため、一定のモノブロック電槽を用いて容量を種々変化させた電池を作製せねばならなかった。このため、セル寸法を、電槽へ収納される最大厚さ(極板配列方向の厚さ)の極板群の厚さより大きくして、電槽の汎用性を図っていた。そして、このことにより一般に極板群がセル寸法より小さくなることにより生ずる不要な空間を埋める目的と、電池使用中に生じる極板の膨張により、各セル間で極板群の圧力が変動したり、電池外観が変形することを極力抑制する目的で、極板群の電槽の外壁側にスペーサを配置していた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、更なる大容量化に伴い、極板群の極板の枚数を増加させることにより、使用中の極板膨張に起因する極板群圧力が増大すると、その圧力の増大が一定でないため、セル間で極板群圧力に差異が生じ、その結果、電池性能が急速に悪化してしまうという問題があった。また、上記セル間での極板群圧力の差異により内部の隔壁の変形という事態が生じ、これにより更に各セル間での極板群圧力に差ができ、性能の劣化を生じさせるという結果になっていた。
【0008】
そこで、本発明は、隔壁変形等を防止することにより、各セルの極板群の圧力を一定に保ち、極板群圧力の不均一化に起因する電池性能劣化を極力抑制することのできる密閉形鉛蓄電池を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の密閉形鉛蓄電池は、隔壁を介して接する少なくとも2つのセルを有するモノブロック電槽を備え、これらのセル内空間には、極板が前記隔壁と平行になるようにして極板群が加圧状態で収納されている密閉形鉛蓄電池において、前記隔壁の厚みを前記電槽の外壁厚みよりも薄く構成するとともに、前記隔壁と極板群との間には、発泡合成樹脂体からなるスペーサが配されていることを特徴とするものである。
【0010】
なお、1セルを長方形としたとき、極板群の配列方向が長辺となるようにされている。また、スペーサは、発泡合成樹脂体で形成されていることが望ましい。
【0011】
【作用】
一般に、電槽外壁は電池外部からの耐衝撃性を得るため、機械的強度が必要であることから、比較的厚く形成され、隔壁はこの外壁よりも薄く形成されている。このため、スペーサを隔壁側に配置することにより、従来隔壁自体に頼っていた極板群圧力調整機能をスペーサに分担させることができるとともに、隔壁の両側にスペーサを配置した構造が得られるため、隔壁は両側から比較的均一に加圧されてバランスを保つことができる。すなわち、単電池内で発生する圧力を対称的にすることが可能となり、各セル間は同様な条件下に置かれるようになり、性能劣化を抑制することができる。さらに、スペーサを発泡合成樹脂体で形成すれば、極板群の一箇所に発生した圧力も、スペーサの当該部分のみで吸収することができ、1つのセル内で圧力問題を解決することができる。
【0012】
【実施例】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施例による密閉形鉛蓄電池ついて説明する。
【0013】
図1は、1セル分を破截して示した密閉形鉛蓄電池の正面図、図2は、図1の密閉形鉛蓄電池の蓋を取った状態で示した平面図である。
【0014】
図において、符号1は電槽を示し、この電槽1は、電槽外壁2内に、隔壁3の2側面を介して隣接配置され、田の字状となった4つのセル4により構成されたモノブロック形状となっている。電槽全体はABS樹脂を用いて形成され、電槽外壁2は比較的厚く、隔壁3は比較的薄く形成されている。
【0015】
上記各セル4内には、極板群5がそれぞれ収納されており、各極板群5は、それぞれ複数枚の正極板6、負極板7および正極板6と負極板7とを隔離するセパレータ8からなっている。
【0016】
密閉形鉛蓄電池の1セルが375Ahの容量を持つように構成する場合、極板群において、極板は、正負ともに縦230mm、横140mmで、厚みを正極で4mm、負極で2.4mmとされ、正極板6が15枚、負極板7が16枚とする。これらの極板に用いる格子体はいずれも0.05〜0.1%のカルシウム、1%以下の錫を含有する鉛合金である。
【0017】
上記セパレータ8は、直径が5μm以下のガラス繊維を主体として構成されており、縦243mm、横150mm、厚み2.5mmの寸法形状で、若干の無機物粉末や合成樹脂を含有したもので、電解液である希硫酸との濡れ性に優れるものとして形成されている。
【0018】
正極板6は正極板同士、負極板7は負極板同士、例えば純鉛で形成されるストラップ9、10で接続されている。ストラップ9、10には、それぞれ例えば約2.5%錫含有鉛合金で形成される極柱11、12が溶接等によって取り付けられている。以上によって極板群5が構成される。
【0019】
上記各極板群5の両端の負極板7の外方には、例えば厚さ0.5〜2.0mm程度の抄紙タイプの保護板(図示せず)が配置され、極板群を保護している。
【0020】
以上の構造の極板群5の極板の配置方向は、各セル4の長辺に沿う方向とされており、各極板群5の該極板の配置方向の厚みは、各セル4の長辺の長さより小さくされ、セル4内に上記隔壁3に隣接して空間13が形成されるようになっている。この空間13には、スペーサ14が配置されている。上記スペーサ14は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンとの共重合体のような強度を有した合成樹脂板や、発泡ウレタンや発泡スチロール等の機械的強度を有した発泡体板で構成される。
【0021】
以上の構成により、使用時に生ずる正極板6の膨張に起因する極板群の圧力変化は、電槽外壁2側ではそれ自身の厚みにより吸収し、一方、隔壁3側では、スペーサ14により吸収する。これによって、各セル4における極板群の圧力を良好に調整する。
【0022】
さらに、スペーサ14を上記のような発泡体で形成すれば、極板群に局部的に発生した圧力をその部分のみで吸収することができ、全体に影響を及ぼすようなことがない。
【0023】
以上のように構成された、すなわち極板群5、および隔壁3側にスペーサ14を収納した電槽1と、下記する構造の蓋15とを、例えばエポキシ系の接着性充填材を用いて一体化させ、密閉形鉛蓄電池を構成する。
【0024】
上記蓋15には、それと一体的に、例えば錫約3%を含有した鉛合金で形成される鉛ブッシング16が設けられている。上記極柱11、12は、このブッシング16を貫通して電池外部に突出しており、その外端には、それぞれ正極外部端子17、負極外部端子18が溶接等により取り付けられている。正極外部端子17、負極外部端子18は、強度が必要であり、そのため、アンチモンを約5%程度含有している。最後に、4つの上記正極外部端子17、および4つの負極外部端子18は、それぞれ同極同士で接続桿19、20で並列接続されて、2ボルトで1500Ahの電池を構成する。なお、各セルには、大気中の酸素を遮断する安全弁21が各セルについて設けられている。
【0025】
次に、スペーサ14としては同じものを用いて、本発明に従い隔壁側に配置した場合と、従来のように電槽外壁側に配置した電池を試作して、評価試験を実施した。なお評価電池は上記の構成で四セル並列接続した1500Ahの容量を有したものを25℃の恒温室において150アンペアの定電流で終止電圧1.8ボルトまで放電し、2.28ボルトの定電圧で最大電流150アンペアで25時間充電する操作を繰り返し規定容量の80%を維持できない時点まで行った。この結果、従来例の電池でNo.8の3セルが83サイクルで規定容量の80%になり、この時点ですべての寿命試験を打ち切り各セルの容量を測定した。その結果を表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
なお、表中セルNo.は図3に示した平面図で左側+接続悍で上がNo.1セル、下がNo.2セル、右側+接続悍で上がNo.3セル、下がNo.4セルとした。そして容量維持率は正規の容量を100とした指数で表示した。
【0028】
これらの結果より明らかなように、本発明によるものは従来方式に比べ各セルの容量維持率も良く、セル間のバラツキも少ない結果が得られた。この時点で電池を分解調査したところ、極板群の対向するセル隔壁の厚みは試験前に2mm、長さ157mmであったのに対し、セル隔壁の湾曲を含む厚みは従来方式のスペーサ位置では5.5mmであったにもかかわらず、本発明では2.5mmであり、試験前のセル隔壁の厚みとほぼ同じで極板群圧が一定に加わっていたことを示していた。
【0029】
このようにスペーサを隔壁側に配置させセル内の極板群圧力を均一化にすることにより、単セル間の容量差を最小限にすることができ、モノブロック電槽を用い複数セルを並列接続しても寿命が長く安定した大容量電池を得ることが可能となった。
【0030】
なお、図2において極板群の極板配送方向は長方形セルの長辺方向としているのは、隔壁変形を少なくするには、隔壁の長さが短いほうが有利であることは言うまでもなく、本発明を長辺の隔壁に適応させても同様な効果は得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の実施例による密閉形鉛蓄電池の一部破截正面図である。
【図2】
図1に示した密閉形鉛蓄電池の蓋を取り外して示した平面図である。
【図3】
蓋の上面を示す平面図である。
【符号の説明】
1 電槽
2 電槽外壁
3 隔壁
4 セル
5 極板群
6 正極板
7 負極板
8 セパレータ
14 スペーサ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-05-24 
出願番号 特願平5-25078
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉水 純子小川 進冨士 美香  
特許庁審判長 三浦 悟
特許庁審判官 酒井 美知子
綿谷 晶廣
登録日 2002-12-13 
登録番号 特許第3379129号(P3379129)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 密閉形鉛蓄電池  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 坂口 智康  
代理人 坂口 智康  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  

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