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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B41M 審判 全部申し立て 2項進歩性 B41M |
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管理番号 | 1101235 |
異議申立番号 | 異議2002-72082 |
総通号数 | 57 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-08-26 |
確定日 | 2004-08-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3260864号「熱転写可能なフッ素樹脂フィルム」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3260864号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3260864号の発明は、平成4年12月1日に出願された。本件特許は、平成13年12月14日に設定登録された。 本件特許について、申立人滝口嘉三、より特許異議の申立があった。 2.本件特許発明 本件特許の請求項1〜請求項3の各発明は、本件明細書の特許請求の範囲の各請求項に記載の事項により特定される。 上記明細書の特許請求の範囲は、次のとおりである。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 表面層と接着剤層とを有するフッ素樹脂多層フィルムであって、表面層がフッ化ビニリデン系樹脂を60重量%以上含む樹脂組成物であり、そして接着剤層が、35〜90℃のガラス転移点(Tg)を有する透明アクリル樹脂を主成分とする樹脂組成物である、熱転写可能なフッ素樹脂多層フィルムにおいて、 前記表面層と前記接着剤層の間に、メタクリル酸エステル樹脂を必須成分として含有し、フッ化ビニリデン系樹脂を0〜60重量%未満の割合で含む樹脂組成物からなる中間層を有することを特徴とする、フッ素樹脂多層フィルム。 【請求項2】 表面層と接着剤層とを有する多層フィルムであって、表面層がフッ化ビニリデン系樹脂を60重量%以上含む樹脂組成物であり、そして接着剤層が、35〜90℃のガラス転移点(Tg)を有する透明アクリル樹脂を主成分とする樹脂組成物である、熱転写可能なフッ素樹脂多層フィルムと、前記表面層を介して前記フッ素樹脂多層フィルムに積層された離型剤の層を有する離型紙または離型フィルムとを含んでなり、 前記離型剤がアイオノマー樹脂を含んでなることを特徴とするフッ素樹脂多層フィルム積層体。 【請求項3】 フッ素樹脂多層フィルム、またはアイオノマー樹脂を離型剤として用いた離型紙または離型フィルムにフッ素樹脂多層フィルムを積層したフッ素樹脂フィルム積層体を、110℃以下の熱転写温度においてマーキングフィルムまたはフレキシブルフェースに積層するフッ素樹脂フィルムの積層方法において、 前記フッ素樹脂多層フィルムは、表面層と、前記マーキングフィルムまたは前記フレキシブルフェースに熱接着される接着剤層とを有する多層フィルムであって、表面層がフッ化ビニリデン系樹脂を60重量%以上含む樹脂組成物であり、そして接着剤層が、35〜90℃のガラス転移点(Tg)を有する透明アクリル樹脂を主成分とする樹脂組成物である、熱転写可能なフッ素樹脂多層フィルムであることを特徴とする、フッ素樹脂フィルムの積層方法。」 3.申立人滝口嘉三の申立 申立人滝口嘉三の申立は、概要以下のとおりである。 (1)申立理由1 引用刊行物 刊行物1: 特開昭63-27571号公報(甲第1号証) 刊行物2: 特開昭51-59971号公報(甲第2号証) 刊行物3: 特開平2-30528号公報(甲第3号証) 刊行物4: 特開平1-319579号公報(甲第4号証) 刊行物5: 特開昭58-68813号公報(甲第5号証) 刊行物6: 特開昭52-71547号公報(甲第6号証) 刊行物7: 特開昭56-142061号公報(甲第7号証) 刊行物8: 特開平2-263643号公報(甲第8号証) 本件の請求項1に係る発明は、刊行物1、又は、刊行物2に記載された発明と同一である。本件の請求項3に係る発明は、刊行物1に記載された発明と同一である。 本件の請求項1〜請求項3に係る各発明は、刊行物1〜刊行物8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件の請求項1〜請求項3に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2 本件明細書は、下記の点で不備がある。 本件の請求項1〜請求項3には、「接着剤層が、35〜90℃のガラス転移点(Tg)を有する透明アクリル樹脂を主成分とする樹脂組成物」の記載が、請求項3には、「110℃以下の熱転写温度」の記載がなされている。 しかしながら、透明アクリル樹脂を「主成分とする」との記載では、接着剤層の樹脂組成物に含有される透明アクリル樹脂の含有量が不明である。 また、「110℃以下」では、下限の温度が不明であり、熱転写できない温度まで含有される。 したがって、本件の請求項1〜請求項3に係る特許は、特許法第36条第4項若しくは第5項及び第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。 4.引用刊行物の記載事項 (1)刊行物1 (1a)「1.メタクリル酸メチル単量体単位とメタクリル酸エチル単量体単位とからなるか、又はメタクリル酸メチル単量体単位及びメタクリル酸エチル単量体単位の少なくとも1種とこれら以外のメタクリル酸エステル単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位の少なくとも1種の単位とからなり、メタクリル酸メチル単量体単位及びメタクリル酸エチル単量体単位の合計含有量が全単量体単位の合計量を基準にして50重量%以上であり、且つガラス転移温度が20〜80℃である共重合体を中間結合剤として、ポリフッ化ビニリデン或いはフッ化ビニリデン単量体単位を主要単量体単位とするフッ素系樹脂と塩化ビニル系樹脂とを、190℃以下で加熱圧着することを特徴とする接着方法。」(特許請求の範囲) (1b)「本発明において、塩化ビニル系樹脂とフッ化ビニリデン系樹脂との接着に用いられる接着方法としては、中間結合剤である前記共重合体の溶剤溶液を塩化ビニル系樹脂又はフッ化ビニリデン系樹脂のいずれか一方に塗布し溶剤を乾燥した後、中間結合層よりなる層の温度を実質的に190℃以下で加熱圧着する方法が適している。」(4頁右下欄2行〜9行) (2)刊行物2 (2a)「1.メタアクリル酸エステル系重合体層と30μ以下の厚さを有する弗化ビニリデン系重合体層とからなる複合フィルム。」(特許請求の範囲) (2b)「本発明の複合フィルムは使用に際してMMA系層面を被保護物に接着すれば(接着剤使用或は熱接着)、フィルムの前処理を要せずに、極めて容易に接着することができ、」(2頁左上欄末行〜右上欄3行) (3)刊行物3 (3a)「フッ化ビニリデン系樹脂100〜50重量部とメタクリル酸エステル系樹脂0〜50重量部とを主成分とする樹脂組成物からなる表面層フィルム、フッ化ビニリデン系樹脂50〜0重量部とメタクリル酸エステル系樹脂50〜100重量部とを主成分とする樹脂組成物からなる中間層フィルム及び接着剤層の順に積層してなることを特徴とするフッ素樹脂系多層フィルム。」(特許請求の範囲) (4)刊行物4 刊行物4には、Bステージの耐熱性接着剤付き耐熱性絶縁フィルムと、離型紙とからなるカバーレイフィルムが記載されている(特許請求の範囲)。 (5)刊行物5 刊行物5には、フラットキーボード用表面シートが記載され(特許請求の範囲)、その印刷面には粘着剤処理を施し、更に離型紙を積層することが記載されている(4頁左下欄6行〜12行)。 (6)刊行物6 刊行物6には、アイオノマー樹脂を含んでいる金属表面保護用シート材が記載されている(特許請求の範囲)。 (7)刊行物7 刊行物7には、アイオノマー樹脂を含んでいる剥離可能な樹脂層を表面に有する複合シートが記載されている(特許請求の範囲、1頁右下欄9行〜17行)。 (8)刊行物8 刊行物8には、アイオノマー樹脂を含んでいる多層フィルムが記載されている(特許請求の範囲)。 5.申立理由1について (1)本件請求項1発明について (1-1)刊行物1には、記載(1a)によれば、概ね、フッ素系樹脂と塩化ビニル系樹脂とを中間結合剤を介して接合した接合物が記載され、記載(1b)や刊行物1の全体的な記載をも参酌すれば、刊行物1には、概ね、フッ素系樹脂層と中間結合剤層とからなるフィルムに係る発明が記載されていると認められる。 そして、本件請求項1発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「フッ素系樹脂層」及び「中間結合剤層」は、本件請求項1発明の「表面層」及び「接着剤層」に対応しており、両者は、少なくとも、次の点で相違する。したがって、本件請求項1発明は、刊行物1発明と同一とはいえない。 これに関連し、異議申立人は、本件請求項1発明において、中間層がフッ化ビニリデンを含まない場合には、中間層と接着剤層が同じメタクリル酸エステル樹脂から構成されることになり、本件請求項1発明は、実質的に表面層と接着剤層とからなる、と主張する。 しかしながら、中間層がフッ化ビニリデンを含まない場合にも、本件請求項1発明は、層として認識できるものとしての中間層を有していると解すべきで、上記主張は、妥当ではない。 (相違点1) 本件請求項1発明は、「表面層と接着剤層の間に、メタクリル酸エステル樹脂を必須成分として含有し、フッ化ビニリデン系樹脂を0〜60重量%未満の割合で含む樹脂組成物からなる中間層を有する」点。 そこで、相違点1について検討すると、刊行物1には、刊行物1発明において「フッ素系樹脂層」(表面層)と「中間結合剤層」(接着剤層)との間に中間層を設けることを動機付ける記載は、そもそも、見当たらず、刊行物2〜8をみても、同様であるから、刊行物1発明において「フッ素系樹脂層」(表面層)と「中間結合剤層」(接着剤層)との間に中間層を設けることすら想定できず、相違点1は容易に為し得るとはいえない。 (1-2)刊行物2には、記載(2a)によれば、フッ化ビニリデン系重合体層とメタアクリル酸エステル系重合体層とからなる複合フィルムが記載され、記載(2b)によれば、更に前記複合フィルムのメタアクリル酸エステル系重合体層側に接着剤層を設けることがうかがえる。 そして、本件請求項1発明と刊行物2発明とを対比すると、刊行物2発明の「フッ化ビニリデン系重合体層」、「メタアクリル酸エステル系重合体層」及び「接着剤層」は、本件請求項1発明の「表面層」、「中間層」及び「接着剤層」に対応し、両者は、少なくとも、次の点で相違する。したがって、本件請求項1発明は、刊行物2発明と同一とはいえない。 (相違点2) 本件請求項1発明における接着剤層は、「35〜90℃のガラス転移点(Tg)を有する透明アクリル樹脂を主成分とする樹脂組成物である」点。 そこで、相違点2について検討すると、刊行物1には、先に(1-1)で述べたように、中間結合剤層が記載され、記載(1a)によれば、中間結合剤層は、具体的には「メタクリル酸メチル単量体単位とメタクリル酸エチル単量体単位とからなるか、又はメタクリル酸メチル単量体単位及びメタクリル酸エチル単量体単位の少なくとも1種とこれら以外のメタクリル酸エステル単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位の少なくとも1種の単位とからなり、メタクリル酸メチル単量体単位及びメタクリル酸エチル単量体単位の合計含有量が全単量体単位の合計量を基準にして50重量%以上であり、且つガラス転移温度が20〜80℃である共重合体」からなり、実質的に、「35〜90℃のガラス転移点(Tg)を有する透明アクリル樹脂を主成分とする樹脂組成物」に相当するものから構成されているといえる。 しかしながら、刊行物2の記載(2b)によれば、メタアクリル酸エステル系重合体層は接着剤層として機能を持つこともうかがえるから、そもそも接着剤層であるメタアクリル酸エステル系重合体層側に更に接着剤層を設けるのであれば、メタアクリル酸エステル系重合体とは全く種類を異にする接着剤を該接着剤層の接着成分として選択するのが自然であって、刊行物1に記載の上記共重合体を、本件請求項1発明における接着剤層の接着剤成分として採用することは容易に為し得ないというべきであって、相違点2は容易に為し得るとはいえない。また、他の刊行物3〜8をみても、相違点2は容易に為し得るとはいえない。 (2)本件請求項2発明について (2-1)刊行物1には、先に(1-1)で述べたように、概ね、フッ素系樹脂層と中間結合剤層とからなるフィルムに係る発明が記載されていると認められる。 そして、本件請求項2発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「フッ素系樹脂層」及び「中間結合剤層」は、本件請求項2発明の「表面層」及び「接着剤層」に対応しており、両者は、少なくとも、次の点で相違する。 (相違点3) 本件請求項2発明は、「表面層を介してフッ素樹脂多層フィルムに積層された離型剤の層を有する離型紙または離型フィルムとを含んでなり、前記離型剤がアイオノマー樹脂を含んでなる」点。 そこで、相違点3について検討すると、刊行物2〜8には、表面層と接着剤層からなるフィルムにおいて、表面層側に離型紙または離型フィルムを設ける発明は記載されておらず、刊行物1発明において、そのフッ素系樹脂層(表面層)側に離型紙または離型フィルムを設けることは容易に為し得るとはいえないから、相違点3は容易に為し得るとはいえない。 (3)本件請求項3発明について 刊行物1には、先に(1-1)で述べたことから明らかなように、概ね、フッ素系樹脂層と中間結合剤層とからなるフィルムが記載され、更に記載(1a)によれば、該フィルムを塩化ビニル系樹脂に対して、190℃以下で加熱圧着することに係る発明が記載されていると認められる。 そして、本件請求項3発明と刊行物1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、次の点で相違する。したがって、本件請求項3発明は、刊行物1発明と同一とはいえない。 (相違点4) 本件請求項3発明は、「110℃以下の熱転写温度においてマーキングフィルムまたはフレキシブルフェースに積層する」点。 そこで、相違点4について検討すると、刊行物2〜8に記載された発明をみても、刊行物1発明において、フッ素系樹脂層と中間結合剤層とからなるフィルムを塩化ビニル系樹脂に対して加熱圧着するに際して、110℃以下で行わせることが容易に為し得るとする根拠は見当たらないから、相違点4は容易に為し得るとはいえない。 (4)まとめ 以上検討したところによれば、申立理由1は、理由がない。 6.申立理由2についての検討 本件の請求項1〜請求項3には、「接着剤層が、35〜90℃のガラス転移点(Tg)を有する透明アクリル樹脂を主成分とする樹脂組成物」の記載が認められる。そして、一般に、樹脂組成物において「主成分」といえば、該組成物を構成する樹脂成分の内、最も組成割合の多いものを示すことは技術常識であって、請求項1〜請求項3における上記記載は、35〜90℃のガラス転移温度(Tg)を有する透明アクリル樹脂が、組成物を構成する樹脂成分の内、最も組成割合の多い樹脂成分であると解せ、また、このように解することと発明の詳細な説明の記載とに齟齬は見当たらないから、請求項1〜請求項3において透明アクリル樹脂の含有量が不明であるとはいえない。 また、請求項3には、「フッ素樹脂多層フィルム、またはアイオノマー樹脂を離型剤として用いた離型紙または離型フィルムにフッ素樹脂多層フィルムを積層したフッ素樹脂フィルム積層体を、110℃以下の熱転写温度においてマーキングフィルムまたはフレキシブルフェースに積層するフッ素樹脂フィルムの積層方法」の記載が認められ、この記載によれば、転写によって積層することを特定していると認められ、その際の熱転写温度を110℃以下としているのであって、そもそも、転写によって積層できないような熱転写温度を想定していないのは明らかであって、申立人の請求項3に係る発明における熱転写温度は「熱転写できない温度まで含有される」との主張は失当である。 したがって、申立理由2も理由がない。 7.むすび したがって、本件異議申立の理由によって、本件の請求項1〜請求項3に係る特許を取り消すことができない。 また、他に本件の請求項1〜請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2004-07-13 |
出願番号 | 特願平4-321528 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B41M)
P 1 651・ 113- Y (B41M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 芦原 ゆりか |
特許庁審判長 |
鈴木 由紀夫 |
特許庁審判官 |
石井 克彦 鴨野 研一 |
登録日 | 2001-12-14 |
登録番号 | 特許第3260864号(P3260864) |
権利者 | ミネソタ マイニング アンド マニュファクチャリング カンパニー |
発明の名称 | 熱転写可能なフッ素樹脂フィルム |
代理人 | 戸田 利雄 |
代理人 | 福本 積 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 石田 敬 |