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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1102863
異議申立番号 異議2002-71487  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-14 
確定日 2004-08-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第3239322号「硬質ポリウレタンフォームの製造法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3239322号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。 
理由
【1】手続の経緯

本件特許第3239322号は、平成4年12月10日(優先権主張 平成3年12月17日 日本)に特許出願され、平成13年10月12日に特許権の設定登録がなされ、特許異議の申立てがなされ、取消理由を通知したところ、その指定期間内に訂正請求書が提出され、その後、特許権者に対して訂正拒絶理由を通知し、特許異議申立人に対して審尋を行ったところ、特許権者からは、指定期間内に訂正請求書に対する手続補正書が提出され、特許異議申立人からは回答書が提出されたものである。

【2】訂正の適否

1.訂正請求書に対する補正の適否
訂正請求書に対する手続補正の内容は、訂正請求書に添付した全文訂正明細書の請求項1と請求項7を以下のとおり補正するというものである。
全文訂正明細書の請求項1の
「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートと分子量32〜300のモノアルコール類若しくはフェノール類又は分子量62〜600のポリオール類とを反応させて得られるポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーをポリオールと、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させることを特徴とする硬質ポリウレタンフォームの製造法。」を、
「一般式
【化1】

(式中、nは0〜6の整数を示す。)
で表されるポリメチレンポリフェニルイソシアネートと官能基数1、分子量32〜300のモノアルコール類若しくはフェノール類又は官能基数2〜3、分子量62〜600のポリオール類とを反応させて得られるアミン当量140〜200のポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーをポリオールと、NCO/OH当量比が1. 3〜3. 0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させることを特徴とする硬質ポリウレタンフォームの製造法。」と補正し、
全文訂正明細書の請求項7の
「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートと分子量32〜300のモノアルコール類若しくはフェノール類又は分子量62〜600のポリオール類とを反応させて得られるポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーをポリオールと、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させて得られる硬質ポリウレタンフォーム。」を
「一般式
【化2】

(式中、nは0〜6の整数を示す。)
で表されるポリメチレンポリフェニルイソシアネートと官能基数1、分子量32〜300のモノアルコール類若しくはフェノール類又は官能基数2〜3、分子量62〜600のポリオール類とを反応させて得られるアミン当量140〜200のポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーをポリオールと、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させて得られる硬質ポリウレタンフォーム。」と補正する。
そこで判断するに、本件訂正請求は特許明細書の請求項1、7を下記「2.訂正の内容」に示すとおりに訂正しようとするものであるところ、上記補正はこの訂正の内容を変更するものであるから、これが訂正請求書の要旨を変更することは明らかである。
したがって、本件の訂正請求書に対する手続補正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合せず、したがって、この手続補正は採用できない。

2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正事項は以下のとおりである。
特許請求の範囲の請求項1の「ポリオールとポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーとを、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させることを特徴とする硬質ポリウレタンフォームの製造法。」を
「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートと分子量32〜300のモノアルコール類若しくはフェノール類又は分子量62〜600のポリオール類とを反応させて得られるポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーをポリオールと、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させることを特徴とする硬質ポリウレタンフォームの製造法。」と訂正し、
特許請求の範囲の請求項7の「ポリオールとポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーとを、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させて得られる硬質ポリウレタンフォーム。」を
「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートと分子量32〜300のモノアルコール類若しくはフェノール類又は分子量62〜600のポリオール類とを反応させて得られるポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーをポリオールと、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させて得られる硬質ポリウレタンフォーム。」と訂正する。

3.訂正拒絶理由とそれに対する判断
当審が通知した訂正拒絶理由は下記のとおりであり、該訂正拒絶理由は妥当なものと判断されるから、本件訂正は認められない。
「1.訂正事項
本件訂正請求による訂正事項は、訂正前の請求項1、7における「ポリオールとポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーとを」なる記載を、「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートと分子量32〜300のモノアルコール類若しくはフェノール類又は分子量62〜600のポリオール類とを反応させて得られるポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーをポリオールと」と訂正するものである。
2.判断
(1)上記訂正事項における「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」を、「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートと分子量32〜300のモノアルコール類若しくはフェノール類又は分子量62〜600のポリオール類とを反応させて得られるポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」とする訂正について検討する。
まず、訂正前の「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」は、段落【0008】において、「本発明に用いられるポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーは、一般式【化1】・・・で示されるポリメチレンポリフェニルイソシアネート(以下pMDIと称することもある)と水酸基含有化合物とを反応させて得られるもので、そのアミン当量は140〜200のものである。」と定義づけられているとおりのものと認められる。なお、段落【0008】に、「本発明に用いられる・・・は、・・・のものである。」と明記されているのであるから、定義づけがなされていると認められる。
そうすると、訂正前の「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」は、【化1】で表わされるnが0〜6の整数という特定のポリメチレンポリフェニルイソシアネートを使用して得られた、アミン当量が140〜200のものと認められる。
ところが、訂正後の「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」は、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートのnの特定がなく、また、アミン当量の特定もない。
したがって、本件訂正は、これらの特定の点で実質上特許請求の範囲を拡張するものである。
(2)上記訂正事項により、本件特許明細書には、下記a〜dの事項が記載されることとなる。
a.「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」を製造する為のポリメチレンポリフェニルイソシアネートとして、nが特定されていない訂正後の「ポリメチレンポリフェニルイソシアネート」を使用すること。
b.「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」を製造する為の水酸基化合物として、「官能基数1」という特定のない訂正後の「分子量32〜300のフェノール類」を使用すること。
c.「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」を製造する為の水酸基化合物として、「官能基数2〜3」という特定のない訂正後の「分子量62〜600のポリオール類」を使用すること。換言すれば、「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」を製造する為の水酸基化合物として「官能基数が3を超えるポリオール類」を使用するにあたり分子量を62〜600とすること。
d.「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」として、「アミン当量が140〜200」という特定のない訂正後の「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」を使用すること。
しかし、訂正前の特許明細書には、これらa〜dの事項が記載されておらず、また、これらa〜dの事項が訂正前の特許明細書の記載から自明なものとも認められない。
したがって、本件訂正は、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
3.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、及び、同条第2項の規定に適合しない。」

【3】特許異議の申立てについての判断

1.本件発明
本件の請求項1〜7に係る発明(以下順次「本件発明1」〜「本件発明7」という。)は、特許明細書の請求項1〜7に記載された下記のとおりのものと認める。
「【請求項1】ポリオールとポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーとを、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させることを特徴とする硬質ポリウレタンフォームの製造法。
【請求項2】ポリオールが官能基数2〜8で水酸基価300〜600mgKOH/gのポリエーテルポリオールである請求項1記載の製造法。
【請求項3】ポリオールが官能基数2〜4で水酸基価250〜500mgKOH/gのポリエステルポリオールである請求項1記載の製造法。
【請求項4】ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーがアミン当量140〜200を有するプレポリマーである請求項1記載の製造法。
【請求項5】発泡剤をポリオールの使用量に対し約1〜20重量%用いる請求項1記載の製造法。
【請求項6】ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーとポリオールとをNCO/OH当量比1.5〜2.5の割合で反応させ発泡させる請求項1記載の製造法。
【請求項7】ポリオールとポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーとを、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤として実質上水のみを用いて発泡させて得られる硬質ポリウレタンフォーム。」
なお、請求項1の記載における「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」とは、段落【0008】において「本発明に用いられるポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーは、一般式
【化1】

で示されるポリメチレンポリフェニルイソシアネート(以下pMDIと称することもある)と水酸基含有化合物とを反応させて得られるもので、そのアミン当量は140〜200のものである。」と定義されたとおりのものと認める(以下、この定義どおりの「ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマー」を「本件プレポリマー」という。また、上記一般式のポリメチレンポリフェニルイソシアネートであって、nが不特定のものを「一般式のMDI」といい、nが0〜6の整数のものを「本件MDI」という。)

2.取消理由の概要
取消理由の概要は、本件発明1〜7は、本件出願前に国内において頒布された刊行物1(特開昭62-62173号公報:特許異議申立人が提出した甲第1号証)、刊行物2(特開昭59-8713号公報:特許異議申立人が提出した甲第2号証)、及び、刊行物3(特開昭61-51021号公報:特許異議申立人が提出した甲第3号証)に記載された発明に基づいて、本件出願前に本件発明の属する分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、というものである。

3.刊行物の記載事項
(1)刊行物1には次の記載事項がある。
記載事項a:「有機ポリイソシアネート,ポリオール,触媒,整泡剤,発泡剤及び気泡連通化剤を用いて連続気泡構造の硬質ウレタンフォームを製造するにあたり、有機ポリイソシアネートとポリオールとのNCO/OH当量比を1.3〜3.0とし、触媒としてイソシアネート三量化触媒を用いて発泡させ、このようにして得られた連続気泡構造の硬質ウレタンフォームを金属-プラスチックスラミネートフィルムから成る容器で被い、その内部を減圧にして密閉した断熱体。」(特許請求の範囲)
記載事項b:「原料となる有機ポリイソシアネート,ポリオール,配合剤である整泡剤,発泡剤は、従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられているものをそのまま用いることができる。」(第2頁右上欄第14〜17行)
記載事項c:「上記構成によって発泡過程で気泡膜が破れて連続気泡率が実質的に100%となり、かつ気泡骨格を介して伝熱する固体熱伝導の寄与が小さい心材を得ることができ、この心材を金属-プラスチックスラミネートフィルムから成る容器で被い、その内部を減圧すると、ほぼ0.1〜0.01mmHg程度の工業的に取扱いやすい圧力下においても優れた断熱性能を示す断熱体を得ることができるものである。」(第2頁左下欄第11行〜19行)
記載事項d:「本発明の真空断熱体は真空度が0.1〜0.01mmHgであっても極めてすぐれた断熱性能を有する。この結果、短時間かつ容易な排気設備によって量産することが可能となり、大巾な生産性向上に寄与するという利点を有するものである。」(第3頁右下欄第19行〜第4頁左上欄第3行)
(2)刊行物2には次の記載事項がある。
記載事項a:「a 粗製ジフエニルメタンジイソシアネートと、平均分子量1000以上の2乃至3官能ポリオキシアルキレンポリオールとの反応によつて得られる末端NCOプレポリマー(NCO%が20〜27)から成るポリイソシアネート成分。
b 少なくとも30重量%以上が平均分子量2000以上のポリオキシアルキレントリオールであるポリオール成分。
c イソシアネート1当量に対し、0.1〜0.7当量の発泡剤としての水。
d イソシアネートの三量化触媒。
e 以上のa〜dを必須成分とした、イソシアネート指数が130〜700であることを特徴とする、シールド工法等に使用する現場発泡用ウレタン変性硬質ポリイソシアヌレートフォーム原液。」(特許請求の範囲)
記載事項b:「粗製ジフエニルメタンジイソシアネート(以下C-MDIと略す)」(第2頁右上欄第1〜2行)
記載事項c:「本発明の原液は次のような構造を有する。・・・発泡剤として水のみを使用し、・・・系全体の反応熱を低下させる手段として、C-MDIを一部所定のポリオールと反応させた末端NCOプレポリマーを使用する。」(第2頁左下欄第14行〜第2頁右下欄第2行)
記載事項d:「ここで述べるNCO%とはイソシアネート1分子に占めるイソシアネート基の重量%を意味する。」(第3頁左上欄第14〜16行)
記載事項e:「(2)発泡剤・・・本発明では発泡剤として水だけを使用する。この水は公知のとうりイソシアネートと反応して炭酸ガスを発生し、この炭酸ガスが発泡剤として働くものである。」(第3頁左下欄第5〜14行)
(3)刊行物3には次の記載事項がある。
記載事項a:「本発明のフォームを製造する際の主原料である有機ポリイソシアネートとポリオールは、硬質ウレタンフォームの製造に従来から常用されているものをそのまま用いることができる。・・・。また、ポリオールは水酸基価が300〜650のポリオールを挙げることができる。このようなものとしては、たとえばグリセリン,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトール,ソルビトール,シュークローズなどの多価アルコールにエチレンオキサイド,プロピレンオキサイドなどを付加されて得られるポリエーテルポリオールがある。・・・。その他たとえばアジピン酸,トリメチロールプロパン,ジエチレングリコールなどから得られるポリエステルポリオールを挙げることができる。」(第2頁左下欄下から第2行〜第3頁左上欄第9行)

4.判断

(1)本件発明1について
刊行物1の記載事項aからみて、刊行物1には「ポリオールと有機ポリイソシアネートを、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤を用いて発泡させる硬質ポリウレタンフォームの製造法」の発明(以下「刊行物1の発明」という)が記載され、該発明は、刊行物1の記載事項c、dからみて、0.1〜0.01mmHg程度の工業的に取扱いやすい圧力下においても優れた断熱性能を示す断熱体を得ることができるという本件明細書の段落【0015】に記載された効果と同一の効果を奏するものと認められる。
本件発明1と、刊行物1の発明を対比すると、両者は「ポリオールと有機ポリイソシアネートとを、NCO/OH当量比が1.3〜3.0の割合で、触媒、整泡剤および気泡連通化剤の存在下に発泡剤を用いて発泡させる硬質ポリウレタンフォームの製造法」の発明である点で一致し、前者では有機ポリイソシアネートとして「本件プレポリマー」を、また、発泡剤として「実質上水のみ」を使用するのに対して、後者ではそのような特定がなされていない点で相違する。
そこで、この相違点(以下「相違点1」という)について検討する。
刊行物1には、有機ポリイソシアネート、および、発泡剤について「従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられているものをそのまま用いることができる」と記載されている(記載事項b)から、刊行物1の発明において、有機ポリイソシアネート、および、発泡剤として、従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられていたものを使用し得ることが記載されている。また、従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられていたものだけではなく、硬質ウレタンフォームを製造する際に用いることが当業者にとって容易であるものを使用することも、当業者にとっては容易であると認められる。
そこで、「本件プレポリマー」、及び、「実質上水のみ」が、従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられていたもの、又は、硬質ウレタンフォームを製造する際に当業者が容易に使用できたものであるかについて検討する。
刊行物2の記載事項aには、硬質ウレタンフォームを製造する為のポリイソシアネート成分として「粗製ジフェニルメタンジイソシアネートと、平均分子量1000以上の2乃至3官能ポリオキシアルキレンポリオールとの反応によって得られる末端NCOプレポリマー(NCO%が20〜27)から成るポリイソシアネート成分」(以下「刊行物2のポリイソシアネート」という。)が記載され、刊行物2のポリイソシアネートにおける「粗製ジフェニルメタンジイソシアネート」は「一般式のMDI」に相当し、また該「平均分子量1000以上の2乃至3官能ポリオキシアルキレンポリオール」は「水酸基含有化合物」の一種であり、「NCO%が20〜27」であるとは、刊行物2の記載事項dからみて、イソシアネート1分子に占めるイソシアネート基の量が20〜27重量%であることを意味するから、これは、アミン当量約156〜210と換算される(換算式は、アミン当量=(42/イソシアネート1分子に占めるイソシアネート基の重量%)×100)。そうすると、刊行物2のポリイソシアネートは、「一般式のMDI」と水酸基含有化合物とを反応させて得られるアミン当量約156〜210のポリイソシアネートといえ、本件プレポリマー(「本件MDI」と水酸基含有化合物とを反応させて得られるアミン当量140〜200のプレポリマー)とは、アミン当量において重複する。また、「本件MDI」は「一般式のMDI」の中の1種にすぎない。してみれば、本件プレポリマーは、刊行物2のポリイソシアネートの範疇内の化合物として当業者が容易に採用できるものと認められる。
また、刊行物2の記載事項a、c、eには、発泡剤として水のみを使用すること(記載事項cにおけるC-MDIについては、記載事項bを参照。)が記載されている。
してみれば、刊行物1の発明において、有機ポリイソシアネート及び発泡剤として、「本件プレポリマー」及び「実質的に水のみ」を用いることは刊行物2の記載から容易になし得る程度のことと認められる。なお、本件発明1では、実質的に水のみを使用しながら焼けがないという効果を奏するが、この効果は、刊行物2に記載された効果にすぎない(記載事項c、及び、刊行物2の実施例でヤケがないという結果が得られている点を参照。)。
よって、本件発明1は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
なお、特許権者は、「本件発明が発泡剤として用いることを除外するフロンを用いる刊行物1と共に、技術分野の相違するシールド工法等に使用する現場発泡用ウレタン変性硬質ポリイソシアヌレートフォームに関する刊行物2とを結び付けることは、本来、適当ではない。」と主張しているが、刊行物1には、発泡剤等について「従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられているものをそのまま用いることができる」と記載されている(記載事項b)のであるから、刊行物1では発泡剤としてフロンを用いるとの特許権者の主張は採用できないし、また、シールド工法等に使用する現場発泡用ウレタン変性硬質ポリイソシアヌレートフォームも硬質ウレタンフォームの一種である以上、技術分野が相違するとは言えないから、この特許権者の主張は採用できない。

(2)本件発明2について
本件発明2と刊行物1の発明を対比すると、両者は上記「(1)本件発明1について」で述べた一致点で一致し、相違点1で相違する他、ポリオールとして本件発明2では「官能基数2〜8で水酸基価300〜600mgKOH/gのポリエーテルポリオール」(以下「本件発明2のポリオール」という。)を使用するのに対して、刊行物1の発明ではそのような特定がなされていない点でも相違する。
そこで、これらの相違点について検討する。
まず、刊行物1には、有機ポリイソシアネート、ポリオール、および、発泡剤について「従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられているものをそのまま用いることができる」と記載されている(記載事項b)から、刊行物1の発明において、有機ポリイソシアネート、ポリオール、および、発泡剤として、従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられていたものを使用することは記載されている。また、従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられていたものだけではなく、硬質ウレタンフォームを製造する際に用いることが当業者にとって容易であるものを使用することも、当業者にとっては容易であると認められる。
そこで、「本件プレポリマー」、「本件発明2のポリオール」、及び、「実質上水のみ」が、従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられていたもの、又は、硬質ウレタンフォームを製造する際に当業者が容易に使用できたものであるかについて検討するに、相違点1に係る構成は、上記「(1)本件発明1について」において述べたとおり、刊行物2の記載に基づいて、当業者が容易に採用できたものと認められる。
また、刊行物2には、「刊行物2のポリイソシアネート」と発泡剤としての「水」が記載されている他、「少なくとも30重量%以上が平均分子量2000以上のポリオキシアルキレントリオールであるポリオール成分」が記載され(記載事項a)、これは、官能基数3のポリエーテルポリオール(以下「刊行物2のポリオール」という。)である。本件発明2のポリオールと、刊行物2のポリオールを対比すると、前者では水酸基価300〜600mgKOH/gと特定されているのに対して、後者ではこのような特定がない点で相違するが、刊行物3には、硬質ウレタンフォームの製造に従来から常用されているポリオールとして本件発明2のポリオールに相当する水酸基価が300〜650のポリエーテルポリオールが記載されている(官能基数3のものも記載されている。)から(刊行物3の記載事項aを参照。)、刊行物2のポリオールとして、本件発明2のポリオールを採用することは容易なものと認める。
以上のとおりであるから、本件発明2は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(2)本件発明3について
本件発明3と刊行物1の発明を対比すると、両者は上記「(1)本件発明1について」で述べた一致点で一致し、相違点1で相違する他、本件発明3では「官能基数2〜4で水酸基価250〜500mgKOH/gのポリエステルポリオール」(以下「本件発明3のポリオール」という。)を使用するのに対して、刊行物1の発明ではそのような特定がなされていない点でも相違する。
そこでこれらの相違点について検討する。
上記「(2)本件発明2について」で述べたとおり、刊行物1の発明において、有機ポリイソシアネート、ポリオール、発泡剤については、従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられていたものだけではなく、硬質ウレタンフォームを製造する際に用いることが当業者にとって容易であるものを使用することも、当業者にとっては容易であると認められる。
そして、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーが従来から硬質ウレタンフォームを製造する際に用いられている有機ポリイソシアネートであることは刊行物3に記載されている(刊行物3の記載事項aを参照。)。また、本件プレポリマーは、このような従来から使用されているポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーの一種であり、「(1)本件発明1について」で述べたとおり、刊行物2のポリイソシアネートの記載に基づいて容易に採用できるものである。
ポリウレタンフォームの発泡剤として水のみを使用することは周知であり、しかも、刊行物2には、発泡剤として水のみを使用した場合に、刊行物2のポリイソシアネート(これはポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーである。)が系全体の反応熱を低下させる旨の記載がある。してみれば、刊行物1の発明において発泡剤として実質的に水のみを使用することは容易である。
水酸基価が300〜650のポリエステルポリオールが従来から硬質ウレタンフォームで製造する際に用いられているポリオールであることは刊行物3に記載されており(刊行物3の記載事項aを参照。)、また、本件発明3のポリオールは硬質ポリウレタンフォーム用のポリオールとして周知のものでもある(必要ならば特開平3-258822号公報の第3頁左上欄第9〜15行参照)から、刊行物1の発明において、ポリオールとして本件発明3のポリオールを採用することは容易なものと認められる。
以上のとおり、刊行物1の発明において、有機ポリイソシアネートとして本件プレポリマーを、ポリオールとして本件発明3のポリオールを、発泡剤として実質的に水のみを使用することは容易であるから、本件発明3は、刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

4.本件発明4について
本件発明4は、本件発明1と同一の発明であるから、「(1)本件発明1について」で述べたとおり、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

5.本件発明5について
本件発明5は、本件発明1において、発泡剤をポリオールの使用量に対し約1〜20重量%用いる発明である。
そこで、この点についてさらに検討するに、刊行物2の実施例2(第6頁左上欄)には、プロポキシトリオール-1とプロポキシトリオール-2の合計20.0重量部に対し発泡剤である水を1.0重量部使用したことが記載され(なお、実施例2に重量部との記載はないが、実施例1における単位が重量部であることから(第5頁左上欄の(A)の列を参照。)、実施例2の単位も重量部と認めれる。)、この発泡剤の使用量はポリオールの使用量に対し5重量%と計算される。また、好適な配合割合は、このような実施例を参考として当業者であれば容易に実験により設定できるものと認められる。
したがって、本件発明5も、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

6.本件発明6について
本件発明6は、本件発明1において、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートプレポリマーとポリオールとをNCO/OH当量比1.5〜2.5の割合で反応させるものであるが、該当量比は、刊行物1の発明の当量比(1.3〜3.0)と重複している。また、刊行物2の実施例1のイソシアネート指数157(刊行物2の第5頁右上欄)、実施例2のイソシアネート指数207(刊行物2の第6頁左上欄)は、それぞれ、本件発明6の当量比に換算すると1.57、2.07と計算されるから刊行物2に記載されたものでもある。
してみれば、本件発明6も、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

7.本件発明7について
本件発明7は、本件発明1と実質的に同一の発明であるから、本件発明1について記載した理由と同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【4】むすび

以上のとおりであるから、本件発明1〜7についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-06-29 
出願番号 特願平4-330160
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (C08G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 佐藤 健史  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 石井 あき子
大熊 幸治
登録日 2001-10-12 
登録番号 特許第3239322号(P3239322)
権利者 三井武田ケミカル株式会社
発明の名称 硬質ポリウレタンフォームの製造法  
代理人 牧野 逸郎  

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