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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K |
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管理番号 | 1103664 |
審判番号 | 不服2002-15029 |
総通号数 | 59 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-04-19 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-08-08 |
確定日 | 2004-09-16 |
事件の表示 | 平成4年特許願第261372号「弁装置」拒絶査定不服審判事件〔平成6年4月19日出願公開、特開平6-109146〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成4年9月30日の出願であって、本願の請求項1に係る発明は、平成13年7月13日付けと平成14年9月9日付けの手続補正書によって補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)と認める。 「ハウジング内部に固定された弁体とこの弁体に摺動自在に重ね合わされた可動弁体にそれぞれ切り欠きまたは開口を形成し、これら一対の弁体の変位により止水または流量調整を行なう弁装置において、 これら弁体のうちの少なくとも一方の弁体が、合成樹脂100重量部と異方性充填剤20〜200重量部およびポリテトラフルオロエチレン10〜50重量部を配合した樹脂組成物の射出成形体からなり吸水状態で止水性のあることを特徴とする弁装置。」 2.引用刊行物およびその記載事項 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された特開平2-190677号公報(以下、「引用例」という。)には「水栓用弁装置」に関して、第1〜5図とともに以下の記載がある。 A)「ハウジング1の内部に設けた弁収納凹部5内に、弁体6と弁体7および案内板8とが下から順に重なった状態で収納され、ハウジング1上に固定された上蓋9に弁を操作するレバー10が取付けられている。 ここで、弁体6は、ハウジング1の内径面およびベース12に設けた突起11との嵌り合いによってベース12に固定され、中央に流出路2とその周囲に一対の流入路13、14がハウジング1の流出路2および流入路3、4と連通するように形成されている。また、弁体7は案内板8と弁体6ではさまれ、弁収納凹部5の内径よりも小径の円板であり、弁体6および案内板8に対して摺動が自在になっているとともに、弁体6に対する摺動面に流出路2と連通する流通路15が設けられている。 ・・・また、前記の弁体7とレバー10とはリンク棒17を介して連動され、このリンク棒17が上蓋9にピン18で支持され、レバー10を上下および回動させることによって弁体7を駆動し、流通路15の変位により、温水・冷水および混合水の取出しと閉栓とが行なえるようになっている。」(第1頁右下欄16行〜第2頁右上欄2行) B)「水栓用弁装置の弁体の摺接面で確実に止水出来るようにするためには、弁体摺接面の面粗さ(中心線平均粗さRaで)および平面度をともに1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下にすることが必要であって、樹脂成形品において成形面の面粗さをこの範囲に入れることは金型の面粗さをおさえれば容易であるが、平面度を満足させることは樹脂の溶接固化に伴う収縮率が大きいことから難しく、量産化に対して非常に有利な方法である射出成形法においては、射出流れ方向による収縮率の異方性の大きさまたは肉厚による固化速度の差から収縮率の大きさに差が生じやすく、特に難しい成形上の問題もあった。」(第3頁左上欄4〜16行) C)「この発明は、水栓用弁装置の弁体の少なくとも一つをポリフェニレンサルファイド樹脂25〜80重量%と、平均繊維径が8μm以下の炭素繊維20〜75重量%からなる樹脂組成物からなる成形品で構成するという手段を採用するものである。」(第3頁右上欄8〜13行) D)「この発明の水栓用弁装置の樹脂弁体を構成する組成物においても、通常の樹脂組成物と同様に、たとえば、・・・フッ素樹脂・・・などの潤滑性向上剤、・・・などでいずれもPPS樹脂の成形温度に耐える物資を、この発明の目的を阻止しない範囲で添加してもよい。」(第5頁左上欄17行〜右上欄5行) E)「溶融成形法も特に限定するものではないが、量産性、低コスト化を考えれば、射出成形法が好ましい。」(第5頁右上欄18〜20行) F)「実施例1〜11: 炭素繊維をエポキシ系サイジング剤で集束させ、繊維長6mmに切断した後、諸原材料を第1表に示す配合割合で予め乾式混合した後、・・・射出成形し、」(第6頁左下欄18行〜右下欄6行) G)「〔効果〕 以上述べたように、この発明のPPS樹脂を主要樹脂成分とする組成物からなる弁体は、潤滑性および耐摩耗性に優れ、機械的および熱的な衝撃に強く、摺接面の表面粗さ、平面度においてもきわめて精度の高いものに仕上げることが出来ることから、この弁体を使用した水栓用弁装置は、冷水から熱水までの幅広い温度領域において、レバー等による駆動操作が長期にわたって軽快であり、落したり乱暴な取り扱いをしても亀裂が入ることはなく、冷水と熱水のくり返し(サーマルショック)にもきわめて強いことから、水漏れ、吐出不能などを確実に防止できるものである。」(第9頁左上欄13行〜右上欄5行) H)第2〜4図には、弁体6の流入路13、14が開口として形成されており、弁体7の流通路15が切り欠きとして形成されていることが記載されている。 上記A)〜H)の記載からみて、上記引用例の水栓用弁装置は、ハウジング1内部に固定された弁体6とこの弁体に摺動自在に重ね合わされた可動の弁体7にそれぞれ切り欠き(流通路15)または開口(流入路13、14)を形成し、これら一対の弁体の変位により止水または流量調整を行なう弁装置であって、これら弁体のうちの少なくとも一方の弁体が、合成樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)25〜80重量%と、異方性充填剤である炭素繊維20〜75重量%(上記配合割合から、ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対する炭素繊維の配合量は25〜300重量部となる。)からなり、潤滑性向上剤としてフッ素樹脂が配合され、好ましくは射出成形法で成形された樹脂組成物からなるものと認められる。また、上記引用例の第1表で、上記引用例の各実施例の弁体の止水性が、耐久試験前と10万サイクル後と20万サイクル後の全ての場合において同一の値であることからみて、上記引用例の弁体は吸水状態で止水性があるものと認められる。 したがって、上記引用例には、 「ハウジング1内部に固定された弁体6とこの弁体に摺動自在に重ね合わされた可動の弁体7にそれぞれ切り欠きまたは開口を形成し、これら一対の弁体の変位により止水または流量調整を行なう弁装置において、 これら弁体のうちの少なくとも一方の弁体が、合成樹脂100重量部と異方性充填剤25〜300重量部および潤滑性向上剤としてフッ素樹脂を配合した樹脂組成物の射出成形体からなり吸水状態で止水性のある弁装置。」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているものと認める。 3.本願発明と引用例記載の発明との対比 本願発明と引用例記載の発明とを対比すれば、引用例記載の発明の「可動の弁体7」は、本願発明の「可動弁体」に相当しており、さらに本願発明の「ポリテトラフルオロエチレン」はフッ素樹脂の1種であるから、本願発明と引用例記載の発明は、 「ハウジング内部に固定された弁体とこの弁体に摺動自在に重ね合わされた可動弁体にそれぞれ切り欠きまたは開口を形成し、これら一対の弁体の変位により止水または流量調整を行なう弁装置において、 これら弁体のうちの少なくとも一方の弁体が、合成樹脂と異方性充填剤およびフッ素樹脂を配合した樹脂組成物の射出成形体からなり吸水状態で止水性のある弁装置。」 である点で一致し、以下の相違点で相違しているものと認める。 <相違点> 本願発明の弁体を構成する樹脂組成物は、合成樹脂100重量部と異方性充填剤20〜200重量部およびポリテトラフルオロエチレン10〜50重量部からなるのに対し、引用例記載の発明の弁体は、合成樹脂100重量部に対して異方性充填剤が25〜300重量部配合され、さらに潤滑性向上剤としてフッ素樹脂が配合されるものの、該フッ素樹脂は配合量が明らかでなく、またポリテトラフルオロエチレンが用いられるのか否かも明らかでない点。 4.相違点の検討 滑剤(潤滑性向上剤)を、成形時の樹脂の溶融粘度を下げ、配向を小さくするために利用することは周知技術(例えば、特開平3-217424号公報の第1頁右下欄17行〜第2頁左上欄3行、特開昭54-30014号公報の第1頁右下欄16行〜第2頁左上欄1行を参照されたい。)であり、滑剤として使用される充填剤(摺動性充填剤)にポリテトラフルオロエチレンを用いることも周知技術である(例えば特開平1-163500号公報の第8頁右上欄8行〜左下欄16行には、摺動性充填剤としてポリテトラフルオロエチレンが用いられ、その配合量がポリオレフィン100重量部に対して1〜70重量部、好ましくは3〜50重量部であることが記載されている。)。 してみれば、上記引用例記載の発明において、潤滑性向上剤として加えるフッ素樹脂を特にポリテトラフルオロエチレンとするとともに、該ポリテトラフルオロエチレンを、射出成形時の樹脂の溶融粘度を下げ、配向を小さくするために利用することは、上記各周知技術から当業者が容易に行うことができたものである。 また、本願発明では、異方性充填剤とポリテトラフルオロエチレンの配合量を、合成樹脂100重量部に対して異方性充填剤を20〜200重量部、ポリテトラフルオロエチレンを10〜50重量部としているが、これらの数値の限定の根拠は、本願明細書の【0022】の記載を参酌すれば、「異方性充填剤が、20重量部未満の少量では弁体の剛性が低く弁装置の初期の止水性が悪くなり、耐摩耗性も劣るため、長期使用後には止水性が一層悪くなる。また、200重量部を越える多量では、成形が困難となる。フッ素樹脂が5重量部未満の少量では、初期の止水性の向上がなく、80重量部を越える多量では、弾性率が小さくなりすぎて止水性に劣る。」程度のものであって、これらの数値の限定には格別な臨界的意義が認められないとともに、これらの数値の限定の範囲は当業者がその目的に応じて適宜選択しうる程度のものであるから、異方性充填剤とポリテトラフルオロエチレンの配合量を、合成樹脂100重量部に対して異方性充填剤を20〜200重量部、ポリテトラフルオロエチレンを10〜50重量部とすることは、当業者が必要に応じて適宜選択しうる範囲の数値限定と認める(なお、上記数値限定の範囲は、上記引用例における異方性充填剤の配合量や、周知技術として例示した特開平1-163500号公報のポリテトラフルオロエチレンの配合量とかなり重複しており、このことからみても、上記数値限定の範囲は当業者が適宜選択しうる範囲の数値限定ということができる。)。 そして、本願発明が奏する作用効果は、上記引用例記載の発明と上記各周知技術に示唆された事項から予測される程度以上のものではない。 したがって、本願発明は、上記引用例記載の発明に上記各周知技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上詳述したとおり、本願の請求項1に係る発明は、上記引用例記載の発明と上記各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そして、このような進歩性を有しない発明を包含する本願は、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 (なお、請求項2に係る発明のように、滑剤としてC12〜C32なる直鎖飽和モノカルボン酸系ワックスを用いることは、例えば特開平3-28271号公報、特開平3-111446号公報、特開昭61-64424号公報等にみられるように従来周知技術である。) |
審理終結日 | 2004-07-14 |
結審通知日 | 2004-07-20 |
審決日 | 2004-08-02 |
出願番号 | 特願平4-261372 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 洋 |
特許庁審判長 |
八日市谷 正朗 |
特許庁審判官 |
田々井 正吾 ぬで島 慎二 |
発明の名称 | 弁装置 |
代理人 | 鳥居 和久 |
代理人 | 東尾 正博 |
代理人 | 鎌田 文二 |