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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1103852
審判番号 審判1999-15830  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-10-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-10-04 
確定日 2004-09-22 
事件の表示 平成 4年特許願第 61799号「インクジェット記録装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年10月12日出願公開、特開平 5-261941]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成4年3月18日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成9年4月23日、平成10年11月4日、平成11年5月17日、平成13年5月28日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載される次のとおりのものである。
「【請求項1】ブラックインクを吐出させるオリフィスを備えたブラックヘッドと複数色のカラー用インクを吐出させるオリフィスを備えたカラー用ヘッドとを有するインクジェット記録装置において、前記カラー用インクのPH値は前記ブラックインクのPH値より高くし、カラー用インクの方をブラックインクよりも記録紙の深さ方向に浸透しやすくするとともに、前記ブラックヘッドのオリフィスサイズを前記カラー用ヘッドのオリフィスサイズより大きくしたことを特徴とするインクジェット記録装置。」

2.引用刊行物
これに対し、当審における平成13年3月27日付で通知した拒絶の理由に引用した、特開昭60-166461号公報(以下、「刊行物1」という。)及び「第4回ノンインパクトプリンティング技術シンポジウム論文集」 普通紙対応インクジェット記録インク(第93〜96頁) 昭和62年7月23日、電子写真学会発行(以下、「刊行物2」という。)には、請求項1に係る発明に関連する事項として、それぞれ以下の事項が記載されている。
(1)刊行物1
イ.「(1) イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック各色の信号に対する印写ヘッドと、ブラック用の印写ヘッドによるドット径を他の印写ヘッドによるものに比べて大きくする手段と、を具えるカラー印写装置。
(2) ブラック用の印写ヘッドのオリフイス径が他の印写ヘッドよりも太い特許請求の範囲(1)記載のカラー印写装置。」(特許請求の範囲第1、2項)
ロ.「(技術分野) この発明は、カラー・インクジェットプリンタ等の・・・・カラー印写装置に関する。」(第1頁右下欄第1〜5行)
ハ.「(効果) 前述のように、この発明によれば、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック4色の印写ヘッドのうちブラック用のヘッドによるドット径を他のヘッドに比べて大きくしたので、同じ原信号レベルに対してブラックだけをより高い濃度で印写し、コントラストを良好にして画質を向上させることができる。」(第3頁左上欄第2〜9行)
以上のものを対比のためにまとめると、刊行物1には、次の発明が記載されている。
「ブラックインク及びイエロー、マゼンタ、シアン各色インクを吐出させるオリフィスを備えた、ブラックヘッドとイエロー、マゼンタ、シアン各色ヘッドとを有するインクジェット記録装置において、ブラックヘッドのオリフィスサイズをイエロー、マゼンタ、シアンヘッドのオリフィスサイズより大きくしたインクジェット記録装置。」

(2)刊行物2
ニ.「2.紙への浸透メカニズム 現在あるほとんどの紙は・・・・サイズ剤はロジンやマレイン化ロジンが用いられ・・・・ロジンは・・・・アルカリ下で酸化反応を起こし溶解する。・・・・図-1は、水溶液のpHとロジンの溶解度を示す。・・・・図-2が示すように、インクドロップが紙に付着した後、インクはすぐに表面拡散せず、まずインクが接触している紙表面の部分のサイズ剤を溶解する。その後、パルプが露出するためインクはパルプに吸収され、結果としてインクは紙表面深さ方向により多く浸透するので、ドットの真円性を保ちながら浸透によりインク乾燥時間も短くできる。」(第93頁右欄第5行〜第94頁右欄第2行)
ホ.図-1(Fig-1)には、pHの上昇に伴って、ロジンの溶解度が上がることが示されている。
ヘ.「3.インクの最適pH条件 市場性の高い汎用紙3種について、アルカリ性インクのpH値を変えてインクジェットプリンター(エプソンHG-2500)で印字してインクの乾燥度を調べた。その結果を図-3に示す。・・・・実験条件 インク粘度・・・・表面張力・・・・インクドロップ・・・・粒子スピード・・・・印字品質はドットの真円度をファクターにした場合、図-4a)、b)、c)が示すように、pH13付近から低下しはじめる。・・・・図-4a)、b)、c)における真円度及びドット径は50ドットの平均値である。・・・・乾燥時間、ドット径、ドット真円度はインクpH値に依存するところが大きく」(第94頁右欄第3行〜第95頁右欄第10行)
ト.図-4(Fig-4)a)、b)、c)から、3種類の普通紙に記録を行った場合の、インクのpH値(10〜13.5の範囲)とドット径(Dot diameter)との関係、すなわち、pH値が10以上の範囲において、pHが増加するに従い、ドット径が増加すること、及び紙の種類によってこれらの関係が異なることが読み取れる。

3.対比・判断
本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1の「イエロー、マゼンタ、シアン」は、本願発明の「複数色(カラー用インク)」に相当するから、両者は、「ブラックインクを吐出させるオリフィスを備えたブラックヘッドと複数色のカラー用インクを吐出させるオリフィスを備えたカラー用ヘッドとを有するインクジェット記録装置」であって、「ブラックヘッドのオリフィスサイズが、カラー用ヘッドのオリフィスサイズより大きい」(以下、「構成A」という。)点で一致し、次の点で相違する。
〔相違点〕本願発明は、「カラー用インクのPH値はブラックインクのPH値より高くし、カラー用インクの方がブラックインクよりも記録紙の深さ方向に浸透しやすくした」(以下、「構成B」という。)としているのに対し、刊行物1に記載の発明は、インクのPH値については触れていない点。
相違点について以下に検討する。
刊行物2には、「普通紙対応インクジェット記録インク」に関し、ほとんどの紙は、サイズ剤としてロジン等が使用されており、インクがサイズ剤(ロジン)を溶解すると、結果としてインクは紙表面深さ方向により多く浸透すること(上記ニ参照)、及びPH(pH)の上昇に伴って、ロジンの溶解度が上がること(上記ホ参照)が記載されている。
すなわち、刊行物2には、インクのPH値が上がると、サイズ剤等の溶解度が上がり、結果として、PH値が低いものに比べて、インクは紙表面深さ方向により多く浸透し、表面方向への広がり(ドット径ないしはドットの広がり)は抑えられることが開示されている(「ドット径」あるいは「ドットの広がり」がPH値と関連する点については、原審において拒絶理由に引用した、特開昭62-216750号公報第4頁左上欄の第6表、等も参照)。
なお、刊行物2には、インクのPH値が10以上の範囲において、PH値が上昇するに従い、反対にドット径が広がることも記載されている(上記ヘ、ト参照)が、インクのPH値が高く(PH値が11以上)、強アルカリである場合には、紙の繊維を浸食し、紙面に吸収され、にじみを生じる(紙の面方向に広がる)ことは従来より知られている(上記特開昭62-216750号公報第4頁右上欄第5〜7行、等も参照)から、インクのPH値が紙の繊維を浸食しない範囲においては、インクのPH値が上がると、サイズ剤等の溶解度が上がり、結果として、PH値が低いものに比べて、インクは紙表面深さ方向により多く浸透し、表面方向への広がりは抑えられる関係が成り立つことが示唆されているものと認められ、本願発明が特に強アルカリインクを使用するとしたものではないことを考慮すると、上記刊行物2の、ヘ.及びト.の記載が、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることの阻害要因とはならない。
一方、上記のように、ブラックのドット径を他(イエロー、マゼンタ、シアン)のドット径に比べて大きくすることで、ブラックだけをより高い濃度で印字し、コントラストを良好にして画質を向上させることができることが、刊行物1に記載されている。
そして、上記刊行物1にも記載されている、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック4色を用いるインクジェット記録装置において、ブラックだけをより高い濃度で印字し、コントラストを良好にして画質を向上させる目的で、刊行物2で、ドット径ないしはドットの広がりと関係することが知られている、インクのPH値に着目し、ブラックインクのPH値が低いものとし、一方、イエロー、マゼンタ、シアンインクのPH値をブラックインクのそれより高くし、インクは紙表面深さ方向により多く浸透するようにすることに、当業者が格別の創意を要したものとすることはできない。

また、「カラー用インクのPH値はブラックインクのPH値より高くし、カラー用インクの方がブラックインクよりも記録紙の深さ方向に浸透しやすくした」とすることによる効果も、次に示すように、上記刊行物1と同等ないしは刊行物1、2の記載から、当業者が容易に予期しうる程度のものである。
すなわち、本願明細書中には、ブラックインクの画素径をカラー用インクの画素径より大きくする手段として、出願時の請求項4等に構成Aが記載されると共に、段落番号0038には構成Bに関し、「また、各インクに対してインク処方をすることによってもブラックインクの画素径をカラー用インクの画素径よりも大きくすることができる。カラー用インクのPH値をブラックインクより高くすると、このPH値の高いカラー用インクは用紙に付着した際に用紙の繊維深さ方向に浸透して横方向には広がらなくなり、カラー用インクの画素径が小さくなると共に相対的にブラックインクの画素径が大きくなる。」の記載がある。また、段落番号0041には、「ブラックインクの画素径が大きくなり、カラーイメージとブラック文字との混在文書を印写した場合にブラック文字が太くくっきりと印字され、メリハリのある文書となる」と、ブラックインクの画素径をカラー用インクの画素径より大きくすることによる効果も記載されている。
しかしながら、他に構成Bについて、特に用いたカラー用インク及びブラックインクの処方、PH値等を含むインクの特性などに関する記載はないし、具体例においても、用いた紙、あるいは記録後のインクの浸透深さ、ドット径の広がり等の測定値について全く記載されていおらず、構成Bを採用したことにより奏する格別の効果についての記載もない。
また、構成Aと構成Bとを組み合わせることについて、及び構成Aと構成Bとを組み合わせた具体例は記載されていない。
更に、出願人は、平成13年5月28日付け意見書において、本願発明は、上記構成Aかつ構成Bによって、ブラックの画素がよりくっきりとメリハリのあるように印字できた(以下、「効果C」という。)」という「事実」を利用した発明である旨主張しているが、「効果C」は、本願明細書中に具体例として記載されている、ブラックインクの画素径をカラー用インクの画素径よりも大きくする(構成Aを採用し、構成Bは採用していない)ものが奏する効果と全く同じであって、「効果C」が、構成Aと構成Bとを組み合わせたことにより奏する相乗効果であるとすることはできないし、他に、構成Aと構成Bとを組み合わせたことにより奏する相乗効果についての記載もない。
そうすると、本件発明が奏する「ブラックインクの画素径が大きくなり、カラーイメージとブラック文字との混在文書を印写した場合にブラック文字が太くくっきりと印字され、メリハリのある文書となる」という効果は、「ブラックインクの画素径をカラー用インクの画素径より大きくする」ために、構成A、構成B、あるいは構成A及びB、といったどのような手段をとったかとは関わりがなく、カラー用インクの画素径とブラックインクの画素径との大きさの度合いにのみ依ることになる。
してみると、構成Aに更に構成Bを組み合わせたことにより格別顕著な効果を奏するものとは認められないし、構成Bに更に構成Aを組み合わせたことに、格別の技術的な意義があるとすることもできない。

5.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された上記の刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有するものが、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-07-20 
結審通知日 2004-07-30 
審決日 2004-08-11 
出願番号 特願平4-61799
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 六車 江一
番場 得造
発明の名称 インクジェット記録装置  
代理人 柏木 明  
代理人 柏木 慎史  

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