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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A23B
管理番号 1104017
審判番号 無効2002-35052  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-02-13 
確定日 2004-10-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第2829817号発明「塩味茹枝豆の冷凍品及びその包装品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2829817号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2829817号に係る出願は、平成5年5月20日の出願であって、本件発明は平成10年9月25日に特許の設定登録がなされ、この特許に対して、株式会社ニチロ、株式会社ニチレイ、マルハ株式会社、明治乳業株式会社、株式会社明商、ライフフーズ株式会社、五十嵐冷蔵株式会社、株式会社ノースイ及び福嶋唯夫より特許異議申立がなされ(平成11年異議第71860号)、平成13年3月12日付けの訂正請求が認容されて維持決定され確定したが、その後、平成14年2月13日付けで株式会社ニチロより特許無効審判が請求され、平成14年11月20日に口頭審理を行って、事件の争点整理をしたものである。

II.当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、「特許第2829817号の特許請求の範囲の請求項1,請求項2、請求項3に記載する特許発明の特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」とし、証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第33号証及び資料1を提出して、その理由を、概略、次のとおり主張している。
A.無効理由1
請求項1の「緑色の維持された」という構成を付加する訂正事項は、特許法第120条の4第2項ただし書き、第120条の4第2項第120条の4第3項に違反しているので、特許法第123条第1項第8号に該当し、本件請求項1の特許は無効にすべきものである。
B.無効理由2
豆自体に塩味がついていたり、枝豆を塩水に浸漬したりすれば、自然現象として豆の中心まで塩味が浸透していると解することができることになる。従って、本件特許発明の請求項1及び請求項2は、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証から、当業者であれば容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項違反であり、無効になるべきものである。
また、本件特許発明の請求項3は、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証のいづれかと甲第7号証(審判請求書においては、「甲第6号証」と記載されているが、「甲第7号証」の誤記と認める。)との組合せにより、当業者であれば容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項違反であり、無効になるべきものである。

甲第1号証:平成11年異議第71860号の「異議の決定」謄本の写し(平成13年6月5日)
甲第2号証:関税分類問題研究会著「輸入商品の分類実務」第45頁、日本関税協会、1990年8月20日
甲第3号証:冷凍食品新聞(1991年8月12日号切り抜き)
甲第4号証:冷食タイムズ(1991年8月13日号切り抜き)
甲第5号証:特開昭54-117058号公報
甲第6号証:大阪府立大学農学生命科学研究科 青果品質保全学研究室教授 上田悦範作成「ブランチング時間と食塩処理が冷凍枝豆解凍後の莢色、硬さ、食塩含量に及ぼす影響」
甲第7号証:横山理雄・石谷孝佑編「食品と包装」115〜116頁、医歯薬出版株式会社、昭和57年1月20日発行
甲第8号証:平成13年11月3日付け「警告書」(日本水産株式会社から株式会社ニチロに送付のもの)
甲第9号証:冷凍食品新聞(2001年11月12日号の切り抜き)
甲第10号証:日本経済新聞(平成13年11月17日号切り抜き)
甲第11号証:日経産業新聞(平成13年12月3日号切り抜き)
甲第12号証:水産経済新聞(平成13年11月8日号切り抜き)
甲第13号証:「海の幸・山の幸大百科(えだまめ)」、第II巻、(株)ぎょうせい、1989年11月30日
甲第14号証:冷食日報(1999年3月12日号切り抜き)
甲第15号証:「株式会社ノースイのニュースリリース」、2001年11月14日
甲第16号証:「冷食とチルド」、株式会社冷凍食品新聞社、(2001年11月28日号切り抜き)
甲第17号証:「日本水産株式会社が公表したニュースリリース」、2001年12月5日、(2001年12月3日付け「ご案内」)
甲第18号証:「総合食品:12月号」、第15頁〜第18頁、総合食品研究所
甲第19号証:「冷食日報」(2001年10月29日切り抜き)
甲第20号証:日本水産株式会社からの「お知らせ」(平成13年10月12日)
甲第21号証:ホームページ「発掘!あるある大事典第194回『枝豆』」(2002年2月12日印刷)
甲第22号証:枝豆の構成を示す写真の写し
甲第23号証:株式会社ニチロ作成の「短時間塩水浸漬試験」、平成13年10月13日作成
甲第24号証:平成5年特許願第154105号の「意見書」の写し
甲第25号証:「日本の冷凍食品 91年版」、株式会社冷凍食品新聞社、平成3年9月20日
甲第26号証:平成14年(ワ)第6241号、「訴状」の写し、平成14年3月26日
甲第27号証:平成14年(ワ)第6241号、「原告第2準備書面」の写し、平成14年5月23日
甲第28号証及び甲第28号証の2:平成14年(ワ)第6241号、「被告答弁書」及び「被告証拠説明(1)」の写し、平成14年5月10日
甲第29号証:平成14年(ワ)第6241号、「被告準備書面(2)」の写し、平成14年7月2日、
甲第30号証:平成14年(ワ)第6241号、「被告準備書面(3)」の写し、平成14年10月3日、
甲第31号証:平成11年異議第71860号、平成13年2月23日付け「取消理由通知書」の写し、
甲第32号証:「審判情報」の写し、2002年10月2日印刷
甲第33号証:平成14年(ワ)第6241号、「原告第3準備書面」の写し、平成14年8月20日
資料1:「新調理科学講座5 穀物・野菜の調理」、第201頁、株式会社朝倉書店、昭和51年5月15日
2.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の乙第1号証ないし乙第11号証及び参考資料1ないし参考資料6を提出している。

乙第1号証:熊谷義光ら編「冷凍食品製造ハンドブック」第149頁〜第150頁、株式会社光琳発行、平成6年10月30日
乙第2号証:(社)日本冷凍食品協会監修「冷凍食品の事典」第63〜6頁、株式会社朝倉書店発行、2000年9月20日
乙第3号証:社団法人日本冷凍食品協会「冷凍食品の品質・衛生についての自主的指導基準」平成7年7月
乙第4号証:輸入食品事典研究会編「品目別輸入食品事典」第174頁、株式会社サイエンスフォーラム、平成7年5月20日
乙第5号証:日刊冷食タイムズ(1999年1月20日号切り抜き)
乙第6号証:関税率表解説編纂委員会編「関税率表解説」、目次、第34頁〜第35頁、第37〜39頁、第132頁〜第134頁、(財)日本関税協会、平成13年11月20日
乙第7号証:関税分類問題研究会著「改訂新版 輸入食品の分類実務」、第1頁、第2頁、第181頁、日本関税協会、1997年10月29日
乙第8号証:日本水産株式会社宛書簡「冷凍塩味茹で枝豆特許に関する見解」
乙第9号証:平成14年(ワ)第6241号、「被告準備書面(1)」の写し、平成14年7月1日
乙第10号証:平成14年(ワ)第6241号、「被告準備書面(2)」の写し、平成14年7月2日、
乙第11号証:株式会社ノースイの北原和英氏の陳述書(無効2002-35097の甲第62号証)の写し
参考資料1:無効2002-35097号の審判請求書
参考資料2:日本食品新聞(2001年11月9日号切り抜き)
参考資料3:日刊水産通信(2001年11月9日号切り抜き)
参考資料4:日刊水産タイムス(2001年11月12日号切り抜き)
参考資料5:特許第3128684号特許公報
参考資料6:「事前教示に関する照会書(異議事件の株式会社ノースイの甲第1号証)」

III.当審の判断
1.「II.1.A.無効理由1」について
請求人は、被請求人が本件特許に対する異議申立事件の中で行った、特許請求の範囲の請求項1に「緑色の維持された」という事項を付加する訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書き、第120条の4第2項第120条の4第3項に違反すると主張しているので、この点について検討する。
本件願書に添付された明細書には、(1)「【従来技術】・・・更に茹で上がった後の冷凍保存の問題、例えば、きれいな淡いグリーンを維持することも解決しなくてはならない。」(段落【0003】、特許公報第3欄4〜6行)、(2)「【発明が解決しようとする課題】本発明は、もぎたての新鮮な枝豆の塩茹品を自然解凍するだけで食することができる塩味茹枝豆の冷凍品及びその緑色を保持することができる包装品の提供を目的とする。」(段落【0004】、特許公報第3欄8〜11行)、及び(3)「【発明の効果】もぎたての新鮮な枝豆の塩茹品を自然解凍するだけで食することができる塩味茹枝豆の冷凍品及びその包装品を提供することができる。包装材の色により茹枝豆の鮮やかなグリーン色の退色を抑制することができる。」(段落【0025】、特許公報第7欄19行〜第8欄20行)と記載されている。
上記各記載によれば、本件明細書には、冷凍枝豆の従来技術においては、きれいな淡いグリーン(即ち、緑色)を維持することが解決すべき課題であったこと、本件発明が解決しようとする課題の一つは、茹枝豆の緑色を保持することにあること、本件発明は、茹枝豆の鮮やかなグリーン色の退色を抑制できるとの効果を達成したものであることが記載されているものと認めることができる。
そうすると、「緑色の維持された」との事項を追加する訂正は、当初明細書に記載された事項の範囲内でなされたものといえる。
次に、特許請求の範囲を拡張及び実質変更しているか否かについて検討する。
上記(1)の記載によれば、本件発明は茹で上がった時のきれいな淡いグリーン色を維持することを解決すべき事項の1つとしているところ、茹で上がった茹枝豆の「淡い」グリーン色がどのようなもので、それがどのように維持し得たのかということについては訂正明細書には具体的な説明がない。むしろ、上記(2)及び(3)の記載によれば、茹枝豆は「鮮やかなグリーン色」であると認められるところ、この「鮮やかな」とは、一般に見た瞬間に強くはっきりした印象を与える様子をいうにすぎないのであって、それ故、本件発明は、特定の色相、明度及び彩度の緑色を有する茹枝豆に限定し、そのような特別の色調の茹枝豆の冷凍品を得るために特別の工夫を行う発明とは認められない。
そして、上記訂正事項の「緑色が維持された」ということは、原料枝豆は固有の色を有しており、その色は調理加工や時間経過により変化するという当然ともいえる前提の下で、原料枝豆の種類やそのブランチング条件に固有の、即ち枝豆をブランチングすることによって生ずる茹枝豆に固有の緑色のうち、一般需要者が茹で枝豆製品として受け入れる程度に維持された緑色であるということを意味するものと解することができる。
そうであるから、このような一般的な意味での記載にすぎない「緑色を維持した」という事項を付加する訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではなく、要件を直列的に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
さらに、請求人は、平成14年9月8日付け弁駁書の第9頁7行以下において、異議手続における取消理由通知には間違いがある旨、概略、次のような主張をしている。
(イ)第3回取消理由通知書(甲第31号証)の理由に記載されている特許法第36条第5項は、特許法113条に規定する如く、特許異議申立の理由ではなく、取消理由の適用条文にはなりえない。(弁駁書、第9頁8〜10行)
(ロ)上記第3回取消理由通知書では、審査した対象発明について「請求項1乃至5」となっているが、これは、「請求項1乃至4」の誤りである。(同、第10頁1〜6行)
(ハ)特許法第36条第5項について、同じ理由で何度も取消理由を通知しており、公平性に欠ける。(同、第11頁1〜12行)
上記点について検討すると、(イ)については、本件出願は平成5年5月20日の出願であり、平成2年12月1日施行の平成2年法が適用されるところ、適用する第36条第5項は、特許請求の範囲の記載が「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」(第1号)、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分してあること。」(第2号)に適合するものでなければならない、と規定するものである。このため、請求人の「取消理由の適用条文にはなり得ない」との主張は間違いである。
次に、(ロ)について、請求人の指摘する、請求項の数を4とする平成12年10月24日付け訂正書(二回目)の訂正請求は、第3回の取消理由通知が発出された時点ではあくまで請求にすぎないものであり、第3回の取消理由通知が登録時の特許請求の範囲の記載に基づいて、「請求項1乃至5」とした点に誤りはない。
(ハ)についても、出願人等と十分な意志疎通を図るために、必要に応じて当庁においてなされている審理プラクチスであり、違法というべきことではない。
したがって、請求項1において、「緑色の維持された」という事項を付加する訂正について、特許法第120条の4第2項ただし書き、第120条の4第2項第120条の4第3項に違反するという請求人の主張は根拠がないものである。
以上のとおりであるから、本件発明は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。(以下,「本件発明1ないし3」という。)
「【請求項1】豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している緑色の維持されたソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品。
【請求項2】茹枝豆が、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理することを特徴とする請求項1記載の塩味茹枝豆の冷凍品。
【請求項3】請求項1又は請求項2記載の塩味茹枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品。」

2.「II.1.B.無効理由2」について
以下において、上記1.で述べたとおりの本件発明1ないし本件発明3について、その進歩性を判断する。
(本件発明1について)
甲第4号証には,「解凍するだけの枝豆を試販 スーパー惣菜で好評 ノースイは解凍するだけで食べられる冷凍枝豆”ニュー・ロング・ブランチング枝豆”(台湾産)を今春からテスト販売しているが、『ゆでる手間がいらず、スーパーの惣菜売場向けに好評だ』(同社)という。従来のロングブランチング枝豆はサッと湯通しする必要があったが、ニュー・ロングはスチーム・ブランチャーで完全調理しているため、解凍するだけ。味付け済の”塩味”は自然解凍でそのまま、味付けしていない”ゆで枝豆”は流水解凍後に軽く塩を振りかけるだけ。必要なときに必要な量だけ、手軽にサーブできる簡便性の高い商品として、惣菜ルート向けに普及し始めている。」と記載されており、また、甲第4号証と同じ商品について報じる甲第3号証には、「味付け枝豆2品 ノースイ 惣菜向けに本格販売 ノースイはより加工度を高めた冷凍枝豆の新商品として、惣菜用途向けを主要ターゲットに、味特選シリーズの『塩ゆでえだまめ』(500グラム)、『塩あじえだまめ』(1キログラム)の2品を今秋から本格販売する。『塩ゆでえだまめ』は、もぎたての新鮮な枝豆を産地で厳選し、おいしさを逃さない新製法で加熱処理しており、流水で解凍するだけで食べられるのが特長。『塩あじえだまめ』は、新製法で加熱処理し、塩味をつけているので、自然解凍するだけで利用できる。」(平成3年(1991年)8月12日)と記載されている。
これらの記載によれば、(1)「塩ゆでえだまめ」と「塩あじえだまめ」という2種類の冷凍枝豆商品が1991年春からスーパーでテスト販売され、好評であったこと、(2)これら2種類の冷凍枝豆商品のうち塩味で味付け済みの「塩あじえだまめ」は自然解凍でそのままサーブできること(即ち、そのまま食することができること)、及び(3)当該冷凍枝豆は、”ニュー・ロング・ブランチング枝豆”であり、スチーム・ブランチャーで完全調理されていて、おいしさを逃さない加熱処理方法で得られたものであること等が、本件出願前に頒布された甲第3号証及び甲第4号証により公知であったものと認めることができる。又、当該冷凍枝豆は、好評であったとされていることから、少なくとも一般の消費者が茹枝豆食品に期待する程度の「ソフト感」を有しており、また「緑色が維持され」ていたものと認めることができる。
次に、本件発明1の「塩味茹枝豆の冷凍品」の構成についてみると、本件請求項1の記載は前記のとおりであって、茹枝豆は「ソフト感のある」ものとされているが、「ソフト感」の程度については何等の限定も存在しない。また、本件特許明細書を参照しても、「ソフト感」について定義ないし限定する記載は存在せず、単に、実施例1及び2に「ソフトな食感で良好であった。」(特許公報第3頁第5欄30〜31行、及び第6欄5行)と記載され、また、「本発明は、もぎたての新鮮な枝豆の塩茹品を自然解凍するだけで食することができる」(特許公報第2頁3欄8〜10行)と記載されているにすぎない。このため、本件発明1において「ソフト感のある」とは、枝豆が喫食可能な程度にソフトに感じられるという程度の食感を意味するものと解するほかない。また、「緑色の維持された」については、上記、III.1.の「II.1.A.無効理由1」において述べたとおり、一般需要者が枝豆製品として受け入れる程度の緑色を意味するものと解される。
以上を前提に、本件発明1に係る塩味茹枝豆の冷凍品(以下、「前者」という。)と、甲第3号証及び甲第4号証に記載の塩あじえだまめの冷凍品(以下、「後者」という。)を対比すると、両者は、「緑色が維持され、ソフト感のある、塩味のついた茹枝豆の冷凍品」である点で一致しており、一方、前者は、塩味について、「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している」のに対し、後者は、塩味をつけている「塩あじえだまめ」であり、莢に入った枝豆の、どの部位でどのような塩味が感じられるかということについては記載されておらず、塩味がどのようなものであるのか明らかでない点で相違する。
以下、この相違点について検討する。
前者の「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している」について、これを直接説明する記載は本件特許明細書には見当たらないが、中心まで塩味を浸透させることの必要性の1つは、枝豆を食したときにしっかりと塩味が感じられるようにするためであると理解できる。
ところで、従来から、枝豆は茹でた後、これに塩味をつけて美味しく感じられるようにして食されているものであり、需要者の好みに応じて塩味を調整し、しっかりと塩味の感じられる塩味枝豆を提供することも、当業者に当然に要求される技術的課題の1つである。
また、塩水に浸漬することにより食品に塩味をつけることは、古来、一般的になされていることであるから、枝豆に塩水浸漬処理を行い、しっかりと、即ち、「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している」ように塩味付けをすることは、当業者ならば容易に想到し得る事柄であり、また、このことは、例えば、「さや付きのえだ豆をブランチングした後、さや付きのまま調味液に漬け込み、豆そのものに調味液を浸透させた」旨の甲第2号証の記載と、塩味付けは調味付けの一態様であるということとを併せ考慮することによっても、当業者ならば容易に想到し得ることであるといえる。
そして、甲第3号証及び甲第4号証に記載された塩味付き枝豆について、塩味がしっかりとついた、即ち、「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透している」ものとする場合に、塩水に浸漬するという周知の手段を用いることによりかかる目的が達成されたとしても、そのことは当業者が容易に予測し得ることであるから、格別顕著な効果を奏し得たということはできない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
被請求人は、本件発明1は上記の甲各号証からは容易になし得たものではないとして、下記(1)〜(3)のとおり主張しているが、以下のとおり、これらの主張は何れも採用できない。
(1)第1に、被請求人は「『本件発明の属する技術分野は、色調と豆の固さ(食感)の兼ね合いで必要最小限の加熱にとどめて茹で上げた、外観がさわやかなグリーン色をしており、適度な硬さで鮮やかな緑色の枝豆で美味しい味覚の茹で枝豆の冷凍食品分野である』のであり、緑色が退色しすぎてしまった枝豆や浅漬けの冷凍食品としての「味付けえだ豆」の技術分野と同じとはいえず、置換可能性のある技術であるといえないことも明らかである」(平成14年11月18日付け口頭審理陳述要領書第11頁5〜14行)と主張する。
しかしながら、本件発明1も、甲第2号証に記載された発明も何れも味付けした枝豆の冷凍品という分野に関するものである点で共通しており、また、調味液も塩水も味付けするという目的のためのものであるから、後者の、「調味液に漬け」るという手法を、調味液の代わりに塩水を用い、塩味付き枝豆を製造する際に適用することは、当業者ならば適宜なし得る程度のことである。
(2)次に、被請求人は「請求人の製法に特徴を有する上記の特許で(注;特許第3128684号(参考資料5)をいう。)、『つまり、本発明にあっては、加熱調理具合と味付け具合と食欲をそそる好ましい外観を同時に満足させることが、非常に困難な技術的課題なのである』(段落番号0005)と記載されており、この当業界の正しい認識に立てば、色の問題がある甲第2号証は甲第3号証に対して阻害要因があると言うべきであり、周知技術と甲第2号証と甲第3号証を組み合わせることなどあり得ないのである。」( 平成14年12月10日付け上申書第5頁26行〜第6頁3行)と、主張する。
しかしながら、上記の指摘箇所(段落【0005】、第2頁第3欄47行〜同頁第4欄10行)には、「発明者は、当初、原料鞘付枝豆を最初から高濃度食塩水などの高濃度調味液で茹で上げ処理を行い、鞘内の枝豆までの味付けと茹で上げとを同時にしてそのまま喫食できる状態にしたうえで、冷凍してみた。ところが、これは到底商品化できる物ではないことが解った。・・・つまり、本発明にあっては、加熱調理具合と味付け具合と食欲をそそる好ましい外観を同時に満足させることが、非常に困難な技術的課題なのである。」(特許公報第2頁左欄47〜50行)と記載されていることから分かるように、高濃度食塩水での茹で上げ処理により味付けと茹で上げを「同時に」行うことによっては、加熱調理具合と味付け具合と食欲をそそる好ましい外観を同時に満足させることは困難であったと述べているのであって、単に塩味付与を目的とする塩水浸漬処理を別工程として行うことの困難性を述べるものではないから、甲第2号証と甲第3号証を組み合わせることに阻害要因があるなどとは到底いえるものではない。
(3)また、被請求人は、「参考資料2でも請求人が発表しているように『冷凍枝豆の塩味付けで生じる変色と塩加減の不均等という技術的な課題をクリアーしたことは特許にふさわしいとし”日水”が特許を取ったことに対してはパイオニアであると認めざるを得ない』のであり、甲第2号証と甲第3号証を組み合わせることなどあり得ない」旨、(平成14年12月10日付け上申書第7頁24〜28行)主張する。
しかしながら、参考資料2の新聞記事は、塩水に浸漬することにより塩味をつけることは従来より一般的になされているということを考慮することなしに、又、甲第2号証に記載された発明とは関係なく述べられた一個人の発言にすぎないものであるから、これにより、甲第2号証と甲第3号証を組み合わせることが困難であったなどということはできない。

(本件発明2について)
本件発明2は、「茹枝豆が、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理することを特徴とする請求項1記載の塩味茹枝豆の冷凍品。」に関するものであり、塩味茹枝豆の冷凍品を製造方法で規定する、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームである。
本件発明2(以下、「前者」という。)と甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明(以下、「後者」という。)を対比すると、前者は本件発明1を引用しているから、本件発明1で述べた相違点があり(以下、「相違点(1)という。」)、また、前者では、「茹枝豆が、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理する」ものであるのに対して、後者ではその点が記載されていない点で相違する(以下、「相違点(2)」という)。
しかしながら、相違点(1)は、先に述べたとおり当業者が容易に想到し得ることである。
次に、相違点(2)について検討する。
本件明細書の段落【0005】(特許公報第3欄13〜21行)には、「本発明は、従来の熱水によるブランチング処理を、熱水中での短時間ブランチングとスチームブランチング処理の組合わせに変え、それによって、枝豆のもつ新鮮さ、うま味を逃すことなく、そのまま冷凍できるものである(便宜のため、以下、「(イ)」という。)。食べるときは袋のまま自然解凍あるいは流水解凍するだけでよい(同、「(ロ)」)。塩味が適当に付与され、豆の中心まで浸透している(同、「(ハ)」)。いつでもどこでも簡単に食することができる旬の枝豆を提供することができる(同、「(ニ)」)。」と記載されている。また、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、塩水浸漬処理をして塩味茹枝豆の冷凍品を製造している実施例1及び実施例2には、それぞれ、「その枝豆の塩分を測定したところ1%であった。又、その硬度を錠剤硬度測定器で測定したところmax0.5kg,min0.3kg平均値0.4kgであった。」(段落【0019】、特許公報第5欄31〜34行)、及び「その枝豆の塩分を測定したところ0.8%であった。又、その硬度を測定したところmax0.4kg,min0.3kg、平均値0.32kgであった。」(段落【0020】、特許公報第6欄5〜8行)と記載されている。
そこで、これらの特性について検討すると、上記(イ)の点は、後者は、需要者に好評であるから、おいしさを逃さないものであることは当然であり、この点で両者が特に相異しているものとは認められない。(ロ)の点は、自然解凍でそのまま食べられるものである点で両者は一致しており、また、後者について、流水解凍した場合の食べ方は明記されていないが、仮に、流水解凍してもそのまま食べられるというような点で両者が異なるものであったとしても、この点は枝豆に塩味を付与する程度に関係することであり、「本件発明1について」の項で述べたとおり、塩味をしっかり付ける程度のことは当業者が容易に想到し得ることである。上記(ハ)の点、及び実施例において、塩分濃度が0.8%及び1%であることも、塩味の付与の程度に関係することであり、「本件発明1について」の項で述べたとおり、当業者ならば容易に想到し得ることである。(ニ)の点は、後者は、「完全調理しているため、解凍するだけ。・・・必要なときに必要な量だけ手軽にサーブできる」ものであるから、この点でも両者は一致する。更に、実施例における枝豆の硬度については、被請求人が自ら、本件特許明細書において「枝豆の加熱の度合いは温度と時間の総和で決まってくる。・・・豆の固さ(食感)との兼ね合いで必要最少限の加熱に留めることが肝要である。」と(段落【0006】、公報第3欄22〜27行)、及び「枝豆は過熱になると黄色味を増して、見栄えは悪くなり、豆は固くなり・・品位としては不適である。」(段落、【0016】、第4欄47〜49行)と記載しているとおり、豆の硬度は加熱温度及び加熱時間の総和によって決まるものであるところ、本件発明2には、そのような加熱温度及び加熱時間については何も規定されていないから、本件発明2は硬度が特定の範囲でなければならないことを規定するものではない。そして、本件発明2は、本件発明1を引用するものであるから、豆の硬度については、「ソフト感のある」ということにすぎないのであり、上記したとおり、この点で両者は一致するものである。
以上のとおりであるから、本件発明2において、「茹枝豆が、熱水中でのブランチング及びスチームブランチングの前又は後で、少なくとも塩水浸漬処理すること」が、物の構成を特定する要件として格別の意味を有するものとは言えない。
してみると、本件発明2は、本件発明1の「塩味茹枝豆の冷凍品」に新たな性質を加えるものではないから、本件発明1と同様に、本件発明2は甲第2号証ないし甲第4号証に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

(本件発明3について)
本件発明3は、「請求項1又は請求項2記載の塩味茹枝豆の冷凍品の緑、青又は赤の有色透明包装材による包装品。」に係るものであるところ、本件発明1及び2は当業者が容易になし得るものであることは、既に述べたとおりである。
ところで、例えば、甲第7号証に記載されているように、食品の品質劣化防止のために、赤、緑等の着色セロファンなどの有色透明包装材が有効に使用し得ることは周知の技術である。
したがって、本件発明3は、甲第2号証ないしは甲第4号証、及び甲第7号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

IV.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び2についての特許は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項の規定により、無効とすべきものである。
また、本件発明3についての特許は、甲第2号証ないし甲第4号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-02-04 
結審通知日 2003-02-07 
審決日 2003-02-18 
出願番号 特願平5-154105
審決分類 P 1 122・ 121- Z (A23B)
最終処分 成立  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 種村 慈樹
田中 久直
登録日 1998-09-25 
登録番号 特許第2829817号(P2829817)
発明の名称 塩味茹枝豆の冷凍品及びその包装品  
代理人 竹田 稔  
代理人 三宅 能生  
代理人 山崎 順一  
代理人 新井 由紀  
代理人 大津 洋夫  
代理人 川田 篤  
代理人 小栗 久典  
代理人 須藤 阿佐子  

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