• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41C
管理番号 1104023
審判番号 審判1999-5660  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-06-03 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-04-08 
確定日 2004-09-29 
事件の表示 平成4年特許願第306863号「簡易印刷版の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成6年6月3日出願公開、特開平6-155698〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成4年11月17日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成12年12月22日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載される次のとおりのものである。
「【請求項1】融点が50〜150℃で、連続気泡を有するポリオレフィン系発泡体シート表面にマスクフィルムを介してフラッシュランプで熱線を照射し、熱線を吸収しないで変化しない部分と熱線を吸収して溶融して気泡のつぶれることにより表面をシールした部分により画像部を形成せしめ、その後、該発泡体内にインキを注入せしめることを特徴とする簡易印刷版の製造方法。」

2.引用刊行物
これに対し、当審における平成12年10月26日付で通知した拒絶の理由に引用した、特開昭53-127005号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開昭50-31908号公報(以下、「刊行物2」という。)には、請求項1に係る発明に関連する事項として、以下の記載がある。
(1)刊行物1
(1a)「原稿(1)の像を走査し、入力した信号または直接出力した信号によりレーザー光(5)を変調し、該変調光を集光し、多孔質材料(6)上を走査し、多孔質材料(6)を原稿(1)または出力信号に応じてレーザー光の熱エネルギーによって昇華し、彫刻し、凸版を製版する方法。」(特許請求の範囲第1項)
(1b)「多孔質の版にインキを十分版内部に吸収せしめ、インキングを行ない」(第1頁右下欄8〜9行)
(1c)「本発明は……レーザー光を集光し多孔質材料を走査することにより、なんらの処理を必要とせず最初にインキングするだけで長時間インキ補充を必要としない印刷用凸版を得る方法を提供するものである。」(第1頁右下欄13〜18行)
(1d)「多孔質材料は……すでに発泡させ多孔質になっている材料を用いる。」(第2頁左上欄9〜11行)
(1e)「このように彫刻された凸版に従来の方法と同様にインキを吸収せしめ実用版にすることができる。又レーザービームを照射する前にインキを多孔質材料に吸収せしめて置き」(第2頁左上欄19行〜右上欄3行)
(1f)「レーザー光の強度をコントロールすることによって多孔質材料を昇華させずにその表面を溶融し、その多孔質の性質を変化させ、多孔質でなくすることも可能で、これによってより鮮明な印字を行うことのできる版を作ることもできる。」(第2頁右上欄7〜11行)
(1g)「本発明は……従来の方法に比較して非常に簡単に原稿から直接凸版を得ることができ、得られた凸版は最初にインキングするだけで長時間インキ補充を必要としない。」(第2頁右上欄12〜15行)
(1h)第1図から、シート状の多孔質材料6が見て取れる。

以上のものを対比のためにまとめると、刊行物1には、次の発明が記載されている。
「発泡させ多孔質になっているシート状の多孔質材料上を、強度がコントロールされ、原稿または出力信号に応じて変調されたレーザー光により走査し、レーザー光が照射された多孔質材料を昇華させずにその表面を溶融し、その多孔質の性質を変化させ、多孔質でなくし、その後、インキを多孔質材料に吸収せしめる、印刷版(凸版)の製造方法」

(2)刊行物2
(2a)「(1)光吸収性微粒子を含みかつ気泡構造(その類似構造を含む)を有する熱可塑性プラスチツク材からなる原板を用い、前記原板上に短時間高強度の光線を選択的に照射し、光線が照射された部分にて前記光吸収性微粒子が光を吸収して発生した熱エネルギにより前記気泡構造を破壊させ、該部分にて前記原板を厚味方向に収縮させることを特徴とする凸版印刷用原板作成法。」(特許請求の範囲第1項)
(2b)「気泡構造もしくはその類似構造を有する熱可塑性プラスチツク材とは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフイン系合成樹脂……ポリスチレン……発泡加工された気泡構造を有するもの……をいう。」(第2頁左下欄6〜15行)
(2c)「実施例1 厚さ4mm、広さ10cm×15cmのポリエチレン発泡体、古河ポリエチレンフオームB-3000なるシート10(古河電気工業(株)製)……凸版印刷用原板12とする。……ガラス板14上に、ポリエステルフイルム15の上に銀画像'E'16が形成されている写真フイルムを……重ね、さらにその上に上記原板12を……重ね、両者をガラス板に密着させた状態で……電子閃光放電管17を放電させる。」(第3頁右上欄7行〜左下欄3行)
(2d)「プラスチツクシートの発泡構造には独立気泡構造と連続気泡構造があるが、どちらが用いられてもよい。」(第3頁左下欄末行〜右下欄2行)

3.対比・判断
本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「シート状の多孔質材料」は、本願発明の「発泡体シート」に相当し、刊行物1に記載された発明の「レーザー光」は、その熱エネルギーによって多孔質材料を溶融させるものであるから、本願発明の「熱線」ということができる(本願の段落番号0014に「本発明に用いる光源としては……レーザ光等……熱線を発生するもの」の記載があり、更に実施例5にレーザ照射する実例が記載されていることからも明らかである)、また、刊行物1の、原稿または出力信号に応じてレーザー光を走査することは、レーザー光(熱線)を吸収しないで変化しない部分とレーザー光(熱線)を吸収して変化する部分により画像部を形成せしめていることは明らかである。
更に、刊行物1に記載された多孔質材料を用いる印刷版(凸版)は、「レーザー光を集光し、多孔質材料を走査することにより、なんらの処理を必要とせず最初にインキングするだけで長時間インキ補充を必要としない」(上記(1c)参照)、すなわち、印刷版を簡易に製造でき、また、印刷が簡易に行えるから「簡易印刷版」であるし、内部から版面にインクが徐々に供給されるから、印刷版(多孔質材料)は連続気泡構造であることは明らかである。
更にまた、本願発明の「表面をシールする」とは、各実施例の、発泡体シート表面の露光部分は熱によって溶融され連続気泡シートの表面をシールした状態になる旨の記載から、「熱によって溶融され気泡のつぶれる」ことによるものであり、一方、刊行物1の「多孔質の性質を変化させ、多孔質でなくす」は、本願発明の「気泡のつぶれる」に相当するから、刊行物1に記載された発明の「昇華させずにその表面を溶融し、その多孔質の性質を変化させ、多孔質でなくす」は、「熱によって溶融され気泡のつぶれる」ということであり、刊行物1に記載された発明も、本願発明と同様に、「熱によって溶融され気泡のつぶれる」ことにより「表面をシール」しているといえる。
してみると、本願発明と刊行物1に記載された発明とは、次の点で一致ないしは相違する。
[一致点]
「連続気泡構造を有する発泡体(多孔質材料)シート表面に熱線を照射し、熱線を吸収しないで変化しない部分と熱線を吸収して溶融して気泡のつぶれることにより表面をシールした部分により画像部を形成せしめ、その後、インキを注入せしめる簡易印刷版の製造方法」
[相違点]
A.本願発明は、「融点50〜150℃で(A-1)、ポリオレフィン系(A-2)発泡体シート」としているのに対し、刊行物1に記載された発明は、「多孔質材料」とし、その融点及びその組成について規定していない点。
B.本願発明が、「マスクフィルムを介してフラッシュランプで熱線を照射し」としているのに対し、刊行物1に記載された発明が、「信号に応じて変調されたレーザー光により走査」としている点。

相違点について検討する。
(相違点Aについて)
A-1:熱エネルギーにより記録する分野において、融点(あるいは軟化点)に注目し、好ましい範囲を特定することは、当業者ならば当然行う程度のことであり、また、特定した融点の値も、従来より知られている範囲(例えば刊行物2の実施例で用いられているポリエチレンのおよそ130℃程度)を含むものである。
A-2:刊行物2の発明の詳細な説明中には、印刷用原板(版)に用いる気泡構造を有する熱可塑性プラスチック材」として、ポリオレフイン系合成樹脂が例示され、特にポリオレフイン系の代表的な樹脂である、ポリエチレン発泡体を用いた実例(実施例1)が記載されており、刊行物1の印刷版を作製するのに使用する「多孔質材料」として、刊行物2で知られたポリオレフイン系のものに特定することに当業者が格別の創意を要したものとすることはできない。
そして、発泡体シート(多孔質材料)において、A-1〜A-2を特定したことによる作用効果も上記刊行物1、2の記載ないし周知の事項から、当業者が容易に予期し得る程度のものである。

(相違点Bについて)
印刷版の作製に使用する、選択的な熱線の照射方法として、「マスクフィルムを介してフラッシュランプで熱線を照射」するものと、「出力信号に応じて変調したレーザー光により走査」するものは、どちらも周知であって、刊行物1に記載された印刷版の作成方法において、熱線の照射方法として、「信号に応じて変調したレーザー光により走査」するものに代えて「マスクフィルムを介してフラッシュランプで熱線を照射するもの」とすることに当業者が格別の創意を要したものとも、特定したことによる作用効果が格別顕著であるとも、することができない。
ところで、印刷版の作製に用いる熱線の照射方法として、マスクフィルムを介してフラッシュ(閃光)ランプで照射するものが周知である点については、特開昭52-136020号公報の特に第3頁左下欄、特開昭48-46417号公報の特に第3頁左下欄(以上には、光源として、写真用閃光電球、クセノンガス封入電子閃光放電管等が使用できることが記載されている)、及び上記刊行物2等を参照されたい。

なお、出願人は、平成12年12月22付け意見書において、本願発明は、画像形成にフラッシュランプを用いる点において刊行物1に記載された発明と相違する旨、また、「フラッシュランプは小型、低コストであって」、及び「刊行物のような大きなエネルギー(レーザー光や電子閃光放電管)を用いたりしない」旨、また、本願は「表面をシールすることにより画像部を形成する」のに対し、刊行物1に記載された発明は、凸版印刷版の製造方法に関するものである点において相違する旨、主張しているのでこれらの点について以下に検討する。
「閃光」は「フラッシュ」に、「放電管」は「ランプ」にそれぞれ相当するから、電子閃光放電管も、「フラッシュランプ」(閃光放電管)の一種と考えられる(例えば、「クセノンフラッシュランプ」は、クセノンガスを使用した「閃光放電管」であると認められる)し、仮に「電子閃光放電管」は「フラッシュランプ」に含まれないとしても、上記したように、印刷版の作製に使用する光源(熱線照射)として、「フラッシュランプ」(なお、「電球」は少なくとも「ランプ」に相当するから、周知の「写真用閃光電球」は、「フラッシュランプ」に相当することは明らかである。)を用いることは、その他の光源あるいは照射装置と共に、その装置の大きさあるいはコスト等を含めて、従来より知られていたものと認められる。
そして、刊行物1に記載された、昇華させずにその表面を溶融する際に、光(熱線)の強度をコントロールすること、すなわち、エネルギーの小さな光源を用いることが示唆されており、周知の光源あるいは照射装置の中から、小型で低コストの「フラッシュランプ」を選択して用いることに、当業者が格別の創意を要したものとは認められないし、それによる効果も当業者が予期し得る程度のものである。
また、上述したように、刊行物1に記載された印刷版(凸版)も、本願発明と同様に、「熱によって溶融され気泡のつぶれる」ことにより、「表面をシール」していて、「表面をシール」する点で両者に実質的な差異はない。かつ、本願発明の簡易印刷版は、凸版を排除するものではなく、また、本願発明の簡易印刷版の熱が加えられシールする部分は、発泡体の気泡がつぶれることにより当然凹部となり、相対的に浸透印刷面は凸部となり、凸版と同様の形状となっている。
したがって、上記出願人の主張は採用することができない。

5.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された上記の刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有するものが、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-07-26 
結審通知日 2004-08-03 
審決日 2004-08-18 
出願番号 特願平4-306863
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 圭伸國田 正久  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 番場 得造
六車 江一
発明の名称 簡易印刷版の製造方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ