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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 発明同一  A61K
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1104379
異議申立番号 異議2001-72249  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-10-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-08-20 
確定日 2004-07-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3136016号「耐圧性気体封入微小気泡の長寿命懸濁物及びその製法」の請求項1ないし27に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3136016号の請求項1ないし21に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3136016号発明は、平成5年1月20日(パリ条約による優先権主張1992年1月24日、スイス国)に特許出願され、平成12年12月1日にその特許権の設定登録がされた。その後、ニイコムド・イメ-ジング・エ-エス(後にアメルシャム ヘルス アクスイェ セルスカプに名称変更された。)及び佐伯憲生より特許異議申立がなされ、当審より取消理由通知がされ、その指定期間内である平成14年8月5日に特許権者より訂正請求(後日取下)がなされた後、当審より審尋を兼ねた訂正拒絶理由通知がなされ、特許権者より訂正請求の補正(後日取下)及び回答がなされた。その後、当審より取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年5月19日に訂正請求書が提出されたものである。

(以下の記載においては、化学式等であって本件特許明細書或いは刊行物に原子数が添字で表記されている場合についても、通常の文字で表記する。)

2.訂正の適否についての判断
(1) 訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1が
「【請求項1】超音波エコグラフィー用造影剤であって、水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成り、前記気体が少なくとも一種の生理学的に許容されているハロゲン化気体であってダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027未満であるハロゲン化気体を含んで成ることを特徴とする造影剤。」とあるのを、
「【請求項1】 超音波エコグラフィー用造影剤であって、水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成り、ここで当該微小気泡は無形の消失性境界を有するマイクロバブル、即ち、表面張力が界面活性剤の存在により改質されている液体の壁によって囲まれているものであり、前記気体が少なくとも一種の生理学的に許容されているハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドであってダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である気体を含んで成ることを特徴とする、造影剤。」
と訂正する。

訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2が
「【請求項2】前記ハロゲン化気体がSF6 ,SeF6であるか、又はCF4 ,CBrF3,C4F8,CClF3,CCl2F2,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれるフロンである、請求項1記載の造影剤。」とあるのを
「【請求項2】前記ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドがSF6,又はCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれるフロンである、請求項1記載の造影剤。」
と訂正する。

訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

訂正事項d
「【請求項6】前記液状担体相が安定剤を更に含む、請求項5記載の造影剤。」とあるのを
「【請求項5】前記水性液状担体相が安定剤を更に含む、請求項4記載の造影剤。」と訂正する。

訂正事項e
特許請求の範囲の請求項8〜10を削除する。

訂正事項f
「【請求項11】前記微小気泡の中の気体がSeF6,CF4,CFBr3,C4F8,CClF3,CCl2F2,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれる、請求項1記載の造影剤。」とあるのを
「【請求項7】前記微小気泡の中の気体がCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれる、請求項1記載の造影剤。」と訂正する。

訂正事項g
特許請求の範囲の請求項13が
「【請求項13】請求項1記載の造影剤を製造する方法であって、前記微小気泡をダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である少なくとも一種の生理学的に許容されるハロゲン化気体を含んで成る一種または複数種の気体の雰囲気下で形成することを特徴とする方法。」とあるのを
「【請求項9】請求項1記載の水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成る超音波エコグラフィー用造影剤を製造する方法であって、当該微小気泡をダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である少なくとも一種の生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドを含んで成る一種または複数種の気体の雰囲気下で形成することを特徴とする方法。」と訂正する。

訂正事項h
特許請求の範囲の請求項14が
「【請求項14】請求項1記載の造影剤を製造する方法であって、予め作製しておいた微小気泡に、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である少なくとも一種の生理学的な許容されるハロゲン化気体を含んで成る一種または複数種の気体を充填することを特徴とする方法。」とあるのを
「【請求項10】請求項1記載の水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成る超音波エコグラフィー用造影剤を製造する方法であって、予め作製しておいた微小気泡に、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である少なくとも一種の生理学的な許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドを含んで成る一種または複数種の気体を充填することを特徴とする方法。」と訂正する。

訂正事項i
特許請求の範囲の請求項15を削除する。

訂正事項j
特許請求の範囲の請求項16が
「【請求項16】前記水性担体が溶解した層状リン脂質及びマイクロバブルを安定化する安定剤を含む、請求項13又は14記載の方法。」とあるのを
「【請求項11】前記水性液状担体が溶解した層状リン脂質及びマイクロバブルを安定化する安定剤を含む、請求項9又は10記載の方法。」と訂正する。

訂正事項k
特許請求の範囲の請求項17が
「【請求項17】前記微小気泡が二段式に形成されたものであり、その第一段階で微小気泡又はその乾燥前駆体を第一気体の雰囲気下で予め形成し、次いで第二段階でこの第一気体の少なくとも一部を生理学的に許容されるハロゲン化気体により置換するものである、請求項14記載の方法。」とあるのを
「【請求項12】前記微小気泡が二段式に形成されたものであり、その第一段階で微小気泡又はその乾燥前駆体を第一気体の雰囲気下で予め形成し、次いで第二段階でこの第一気体の少なくとも一部を生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドにより置換するものである、請求項10記載の方法。」と訂正する。

訂正事項l
特許請求の範囲の請求項20が
「【請求項20】前記ハロゲン化気体がSF6,SeF6 であるか、又はCF4,CBrF3,C4F8、CClF3,CCl2F2,C2F6,C2ClF5,CBrClF2、C2Cl2F4及びC4F10から選ばれる、請求項13〜19のいずれか1項記載の方法。」とあるのを
「【請求項15】前記ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドがSF6、又はCF4,C4F8、CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2、C2Cl2F4及びC4F10から選ばれるフロンである、請求項9〜14のいずれか1項記載の方法。」 と訂正する。

訂正事項m
特許請求の範囲の請求項21が
「【請求項21】前記第一気体がSeF6,CF4,CBrF3,C4F8,CClF3,CCl2F2,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれる第二の生理学的に許容されるハロゲン化気体により完全に置換されている、請求項19記載の方法。」とあるのを
「【請求項21】前記第一気体がCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4又はC4F10から選ばれる第二の生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体により完全に置換されている、請求項14記載の方法。」と訂正する。

訂正事項n
「【請求項23】凍結乾燥リン脂質及び安定剤を含んで成る乾燥粉末から成る造影剤前駆体であって、前記粉末は請求項1記載の微小気泡の反響性懸濁物を形成するように水性液状担体の中で分散可能であり、ここで前記粉末は、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットルの数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である少なくとも一種の生理学的に許容されるハロゲン化気体を含んで成る気体の混合物の雰囲気のもとで保存されている、造影剤前駆体。」とあるのを
「【請求項18】凍結乾燥リン脂質及び安定剤を含んで成る乾燥粉末から成る造影剤前駆体であって、前記粉末は請求項1記載の微小気泡の反響性懸濁物を形成するように水性液状担体の中で分散可能であり、ここで前記粉末は、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットルの数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である少なくとも一種の生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドを含んで成る気体の混合物の雰囲気のもとで保存されている、造影剤前駆体。」に訂正する。

訂正事項o
特許請求の範囲の請求項24が
「【請求項24】凍結乾燥リン脂質及び安定剤を含んで成る乾燥粉末から成る造影剤前駆体であって、前記粉末は請求項1記載の微小気泡の反響性懸濁物を形成するように水性液状担体の中で分散可能であり、ここで前記粉末は、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットルの数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である一種のハロゲン化気体の雰囲気のもとで保存されている、造影剤前駆体。」とあるのを
「【請求項19】凍結乾燥リン脂質及び安定剤を含んで成る乾燥粉末から成る造影剤前駆体であって、前記粉末は請求項1記載の微小気泡の反響性懸濁物を形成するように水性液状担体の中で分散可能であり、ここで前記粉末は、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットルの数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である一種のハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドの雰囲気のもとで保存されている、造影剤前駆体。」と訂正する。

訂正事項p
特許請求の範囲の請求項26が
「【請求項26】前記ハロゲン化気体がSF6,SeF6 であるか、又はCF4,CBrF3,C4F8, CClF3,CCl2F2,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4 及びC4F10より選ばれるフロンである、請求項23又は24記載の造影剤前駆体。」とあるのを
「【請求項21】前記ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドがSF6,又はCF4,C4F8, CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10より選ばれるフロンである、請求項18又は19記載の造影剤前駆体。」と訂正する。

訂正事項q
特許請求の範囲の請求項27を削除する。

訂正事項r
上記請求項の削除に伴い以下の通り請求項の項番を繰り上げると共に、各請求項中で引用している請求項について以下の通り訂正する。
・4(訂正前の請求項の項番)→3(訂正後の請求項の項番);1〜3のいずれか1項(各請求項で引用していた請求項の記載)→1又は2(訂正後)(以下同様に表記する。)
・5→4;4→3
・6→5;5→4
・7→6;4→3
・12→8;1〜11→1〜7
・18→13;17→12
・19→14;17→12
・22→17;14→10
・25→20;23又は24→18又は19

訂正事項s
明細書【0013】の式の分母「√Mwair」を、「√Mwgas」と訂正する。
訂正事項t
明細書【0028】中の「CBr2F2」を削除する。

(2) 訂正の目的の適否、拡張・変更の存否、及び新規事項の追加の有無
(2)-1 訂正事項aについて
訂正事項aは、請求項1の微小気泡には、マイクロバブルとマイクロバル-ンの両者が含まれていたのをマイクロバブルに限定し、ハロゲン化気体を「ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニド」と訂正するものであるが、前者については、本件の願書に添付された明細書(以下、特許明細書という。)【0002】の「「マイクロバブル」なる語は特に、液体の中に懸濁されている、空気又は気体の封入された中空球体又は小球を意味し、これは一般に分割された状態において空気又は気体を液体の中に導入することに由来し、この液体は好ましくはこのバブルの表面特性及び安定性をコントロールするために界面活性剤も含んでいる」なる記載及び【0006】の「マイクロバブルは無形の消失性境界を有するに過ぎないもの、即ちこれらは液体の壁によって囲まれているにすぎず、その表面張力は界面活性剤の存在によって改質されているもの」との記載に基づいて微小気泡を「無形の消失性境界を有するマイクロバブル、即ち、表面張力が界面活性剤の存在により改質されている液体の壁によって囲まれているもの」に限定するものである。また、後者については、「ハロゲン化気体」は気体物質の範囲が不明確であったものを特許明細書【0028】に記載の「ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニド」と明瞭にしたものであるから、これらの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

(2)-2 訂正事項b、f、l、m及びpについて
これらの訂正は、訂正事項aで請求項1の「ハロゲン化気体」を「ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニド」と明瞭化したことに伴い、請求項1を引用する請求項において同様の訂正を行うと共に、これを各請求項に列挙されていた気体の一部「SeF6,CBrF3,CCl2F2」を除いたものに限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

(2)-3 訂正事項c、e、i及びqについて
これらの訂正は、請求項の削除であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)-4 訂正事項d及びjについて
各請求項に「液状担体」又は「水性担体」と記載されていたものを「水性液状担体」と訂正するものであるが、これらが請求項1において「水性液状担体」と記載されていたものを意味することは明らかであるから、特許請求の範囲の記載の整合を図るために訂正したものである。したがって、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

(2)-5 訂正事項g及びh
これらの訂正は、「請求項1記載の造影剤」を「請求項1記載の水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成る超音波エコグラフィー用造影剤」、及び「ハロゲン化気体」を「ハロゲン化炭化水素又は安定なフッ素化カルコゲニド」と訂正するものであるが、造影剤の内容を請求項1の記載と整合させるもの、及び気体物質の範囲が不明確であったものを明確にしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

(2)-6 訂正事項k、n及びo
この訂正は、「ハロゲン化気体」を「ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニド」と訂正するものであるが、上記(2)-1及び(2)-5で述べた理由により、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

(2)-7 訂正事項rについて
訂正事項rは、請求項の削除に伴い下位の請求項の番号及び各請求項中の引用請求項の項番を繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(2)-8訂正事項s
訂正事項sは明細書【0013】における式


の分母の「√Mwair」を「√Mwgas」に訂正するものであるが、【0014】に記載されている空気の溶解度Sair及び平均分子量の平方根√Mwairの値、それぞれ0.0167及び5.39を、上記の式に代入すると「Sgas≦0.0167」となり、「Sgas/√Mwgas≦0.0031」という式が導き出される旨の記載とは矛盾するが、分母の「√Mwair」を「√Mwgas」として同じく代入すると矛盾がないから、分母の「√Mwair」は「√Mwgas」の誤記であることは明らかである。
したがって、この訂正は誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。

(2)-9 訂正事項tについて
明細書【0028】の記載中のCBr2F2を削除するものであるが、CBr2F2はダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもと水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027未満ではないから、特許請求の範囲の記載と整合させるための訂正である。
したがって、この訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書,第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
3-1 本件発明
上記のとおり、訂正は認められるから、本件請求項1〜21に係る発明は、訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりの以下の通りのものと認められる。

【請求項1】 超音波エコグラフィー用造影剤であって、水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成り、ここで当該微小気泡は無形の消失性境界を有するマイクロバブル、即ち、表面張力が界面活性剤の存在により改質されている液体の壁によって囲まれているものであり、前記気体が少なくとも一種の生理学的に許容されているハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドであってダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が 0.0027未満である気体を含んで成ることを特徴とする、造影剤。
【請求項2】 前記ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドがSF6,又はCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれるフロンである、請求項1記載の造影剤。
【請求項3】 前記微小気泡が溶解した層状又は単層状リン脂質から成る消失性気体/液体界面状封鎖表層により覆われているマイクロバブルである、請求項1又は2記載の造影剤。
【請求項4】 前記リン脂質の少なくとも一部がリポソームの形態にある、請求項3記載の造影剤。
【請求項5】前記水性液状担体相が安定剤を更に含む、請求項4記載の造影剤。
【請求項6】 前記リン脂質の少なくとも一部がジアシルホスファチジル化合物であり、ここでそのアシル基はC16脂肪酸基又はその高級同族体である、請求項3記載の造影剤。
【請求項7】 前記微小気泡の中の気体がCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれる、請求項1記載の造影剤。
【請求項8】 ヒト又は動物の身体の超音波イメージングにおいて利用するための請求項1〜7のいずれか1項記載の造影剤。
【請求項9】 請求項1記載の水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成る超音波エコグラフィー用造影剤を製造する方法であって、当該微小気泡をダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027未満である少なくとも一種の生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドを含んで成る一種または複数種の気体の雰囲気下で形成することを特徴とする方法。
【請求項10】 請求項1記載の水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成る超音波エコグラフィー用造影剤を製造する方法であって、予め作製しておいた微小気泡に、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が 0.0027未満である少なくとも一種の生理学的な許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドを含んで成る一種または複数種の気体を充填することを特徴とする方法。
【請求項11】 前記水性液状担体が溶解した層状リン脂質及びマイクロバブルを安定化する安定剤を含む、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】 前記微小気泡が二段式に形成されたものであり、その第一段階で微小気泡又はその乾燥前駆体を第一気体の雰囲気下で予め形成し、次いで第二段階でこの第一気体の少なくとも一部を生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドにより置換するものである、請求項10記載の方法。
【請求項13】 前記気体による前記微小気泡の形成が、前記乾燥前駆体の減圧と前記気体による圧力復帰、そして最後にこの前駆体の液状担体への分散により行うものである、請求項12記載の方法。
【請求項14】 前記第一気体が空気、窒素又は二酸化炭素である、請求項12記載の方法。
【請求項15】 前記ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドがSF6,又はCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれるフロンである、請求項9〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】 前記第一気体がCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4又はC4F10から選ばれる第二の生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体により完全に置換されている、請求項14記載の方法。
【請求項17】 前記気体による前記微小気泡の充填が、この微小気泡の懸濁物に前記気体をフラッシュせしめることにより行われる、請求項10記載の方法。
【請求項18】 凍結乾燥リン脂質及び安定剤を含んで成る乾燥粉末から成る造影剤前駆体であって、前記粉末は請求項1記載の微小気泡の反響性懸濁物を形成するように水性液状担体の中で分散可能であり、ここで前記粉末は、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットルの数として表示する水溶解度の率が 0.0027未満である少なくとも一種の生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドを含んで成る気体の混合物の雰囲気のもとで保存されている、造影剤前駆体。
【請求項19】 凍結乾燥リン脂質及び安定剤を含んで成る乾燥粉末から成る造影剤前駆体であって、前記粉末は請求項1記載の微小気泡の反響性懸濁物を形成するように水性液状担体の中で分散可能であり、ここで前記粉末は、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットルの数として表示する水溶解度の率が 0.0027未満である一種のハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドの雰囲気のもとで保存されている、造影剤前駆体。
【請求項20】 前記リン脂質が、そのリン脂質が16個以上の炭素原子を有する脂肪酸基である、請求項18又は19記載の造影剤前駆体。
【請求項21】 前記ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドがSF6,又はCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれるフロンである、請求項18又は19記載の造影剤前駆体。

3-2 当審における取消理由の概要
当審において、平成14年1月24日付けで通知された取消理由の概要は、以下の通りである。

1)本件請求項1〜22に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された後述の刊行物1〜4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、本件請求項1〜22に係る発明の特許は、いずれも、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2)本件請求項1〜27に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された後述の刊行物1〜12に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1〜27に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3)本件出願の請求項1〜27に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公告又は出願公開がされた下記13〜15の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件請求項1〜27に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
4)本件は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3-3 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)について

3-3-1 取消理由通知で引用された刊行物に記載された発明

刊行物1(特表平3-503634号公報:特許異議申立人ニイコムド・イメ-ジング・エ-エス(以下、異議申立人1という。)が提出した甲第1号証である。)には、以下の事項が記載されている。
(1) アミローゼ又は合成の、生体分解可能なポリマー及びガス及び/又は60℃未満の沸点を有する液体からなる微粒子からなる超音波造影剤(3頁左下欄)
(2) 微粒子が60℃未満の沸点を有する有機液体として、1,1-ジクロルエチレン、2-メチル-2-ブテン、塩化イソプロピル、……ジブロムジフルオルメタン、……ブロムメタン、N-エチルジメチルアミン、塩化メチレン、……又はそれらの混合物を含有するものである超音波造影剤(請求項4)
(3)微粒子が、ガスとして、空気、希ガス、窒素、酸素、二酸化炭素、水素、アンモニア、エチレン、メタン、エタン、プロパン又はブタンもしくはそれらの混合物を含有するものである超音波造影剤(請求項5)
(4) 超音波造影剤は、診断方法並びに又治療法のために使用できること、及び造影剤の適用は注射により行なうこと(4頁右下欄〜5頁左上欄)
(5) 製造した超音波造影剤懸濁液を使用前に塩化ナトリウムで等滲透圧にすること(例6)

刊行物2(欧州特許出願公開第441468号明細書:特許異議申立人佐伯憲生(以下、異議申立人2という。)が提出した甲第1号証(翻訳文として特開平5-9132号公報参照、以下、摘示事項は翻訳文により、翻訳文の摘示箇所は必要により刊行物の摘示箇所の後に括弧書きで記載する。)には、以下の事項が記載されている。
(6) 重合性アルデヒド、遊離形又は結合形のガス及び/又は易揮発性液体、結合剤、生物分子又は高分子及び診断的又は治療的有効成分から構成されている、生分解性ポリマーからなる微粒子。(請求項1)
(7) 微粒子が超音波診断法で使用するための薬剤であること(請求項2)
(8) 遊離形又は結合形のガス及び/又は易揮発性液体としては、アンモニア、空気、希ガス、……硫黄ハロゲン化物、例えば硫黄六弗化物、………、ハロゲン化炭化水素又はこれらの混合物、例えば、塩化メチレン、1,1-ジクロロエチレン、イソプロピルクロリド、ジブロムジフルオルメタン、ブロムメタン、……フランのような化合物を使用する請求項1記載の微粒子(請求項8(請求項7))
(9) ガス及び易揮発性液体として、空気、アルゴン、キセノン、硫黄六弗化物、プロパン及びフランが特に好ましいこと(3頁4欄39〜40行(【0017】))

刊行物3(欧州特許出願公開第357163号明細書:異議申立人2が提出した甲第2号証(以下、翻訳文として特表平4-501559号公報参照)には、以下の事項が記載されている。
(10) キャビテートまたはクラスレート化合物を形成するホスト/ゲスト(W/G)錯体からなり、そのホスト分子が液状賦形剤中でゲストの遊離下に溶解する、超音波検査、X線検査またはNMR検査における対照剤(請求項1)。
(11)ゲスト分子として:希ガス及び希ガス化合物、ハロゲン化硫黄、……、ハロゲン化炭化水素を含有することができる。特に有利に、超音波検査のために使用される薬剤は、ゲスト分子としてヘリウム、ネオン……六フッ化硫黄、……エチレンオキシドおよび臭化メチルを含有しうること(2頁30〜39行(2頁左下欄))
(12) ホスト/ゲスト錯体は、水性賦形剤中へ入れる。ホスト分子の溶解により、錯体は賦形剤中へ気泡を遊離しながら崩壊する。賦形剤に溶解したホスト分子は、もはや錯化特性を有しない。ガス遊離速度、気泡の大きさ及び寿命は、封入されたガス又はガス生成剤の種類、ホスト分子の種類によりおよび表面積ないしは粒子の大きさにより賦形剤の粘度、表面張力に依存して広い範囲内で調節することができること(2頁48〜55行(2頁右下欄))

刊行物4(欧州特許出願公開458745号明細書:異議申立人1が提出した甲第6号証、及び異議申立人2が提出した甲第3号証(翻訳文として特開平4-226923号公報参照)には、以下の事項が記載されている。
(13) 治療又は診断用途のために、たとえば超音波検査用イメージングの目的のために動物又はヒト患者に投与される、液体キャリヤー中、懸濁液の形で適切な空気又はガスにより充填された、ポリマー膜により包まれた微小又は超微小サイズのマイクロカプセル又はマイクロバルーンであって、前記膜のポリマーが変形可能で且つ弾性な界面的に付着されたポリマーであることを特徴とするマイクロカプセル又はマイクロバルーン(請求項1)
(14) 生理学的に許容できるガス、たとえばCO2、N2O、メタン、フレオン、ヘリウム、及び他の希ガスも可能であること(5頁8欄6〜9行(【0024】))

3-3-2 対比・判断

3-3-2-1 請求項1に係る発明について
(ア) 刊行物1記載の発明との対比・判断
刊行物1にはアミローゼまたは合成の、生体分解可能なポリマー及びガス及び/又は60℃未満の沸点を有する液体からなる微粒子からなる超音波造影剤(摘示事項 (1))が記載され、ガス及び/又は60℃未満の沸点を有する液体は、具体的には塩化イソプロピル、ジブロムジフルオルメタン、ブロムメタン、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素(摘示事項(2)(3))が挙げられている。該造影剤は、注射剤として用いられ(摘示事項 (4))、かつ懸濁液を塩化ナトリウムで等浸透圧としていること(摘示事項 (5))から、水性液体担体の懸濁物と認められる。
そうすると、刊行物1には、水性液状担体相中の懸濁物として、アミローゼ又は合成の生体分解可能なポリマー及びガス及び/又はハロゲン化炭化水素などの60℃未満の沸点を有する液体からなる微粒子からなる超音波造影剤(すなわち、超音波エコグラフィー用造影剤)が記載されているものと認められる。
本件の請求項1に係る発明(以下、単に本件発明ともいう。)の超音波造影剤と刊行物1記載の超音波造影剤とを対比する。
「微小気泡」ついて、本件明細書には、「液体に懸濁されている、空気又は気体の微小体又は微小球(本明細書では微小気泡と定義する)、例えばマイクロバブル又はマイクロバルーンはエコグラフィーにとって特に有効な超音波リフレクターである。本明細書において、「マイクロバブル」なる語は特に、液体の中に懸濁されている、空気又は気体の封入された中空球体又は小球を意味し、……この液体は好ましくはこのバブルの表面特性及び安定性をコントロールするために界面活性剤も含んでいる。「マイクロカプセル」又は「マイクロバルーン」なる語は、好ましくは境界又は囲い、例えばポリマー膜壁を有する空気又は気体封入体を意味する。」(【0002】)と記載されているから、刊行物1における生体分解可能なポリマーで形成された微粒子は「マイクロバルーン」又は「マイクロカプセル」(以下、単に「マイクロバルーン」と記載する。)である微小気泡に相当するものである。
そうすると、両者は、水性液状担体相中の懸濁物として気体の封入された微小気泡である点で一致し、前者は、「生理学的に許容されているハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドであってダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が 0.0027未満である気体」の封入された「無形の消失性境界を有するマイクロバブル、即ち、表面張力が界面活性剤の存在により改質されている液体の壁によって囲まれている」微小気泡(以下、「マイクロバブル」という。)であるのに対して、後者は「ガス及び/又は60℃未満の沸点を有する液体」の封入された「アミローゼまたは合成の生体分解可能なポリマー微粒子」であるマイクロバルーンである点で相違する。
そこで、この相違点を検討すると、マイクロバブルとマイクロバルーンは微粒子の壁の構成が「表面張力が界面活性剤の存在により改質されている液体の壁」と「ポリマー膜壁」とで全く異なっている。
したがって、本件発明は、刊行物1に記載されたものではない。

(イ)刊行物2に記載の発明との対比・判断
刊行物2には、少なくとも生分解性ポリマーと遊離形または結合形のガス及び/又は易揮発性液(アンモニア、硫黄ハロゲン化物、ハロゲン化炭化水素、特に好ましいものとして空気、アルゴン、キセノン、硫黄六弗化物、プロパン及びフラン)を含む微粒子(摘示事項 (6)(8)(9))を超音波診断に使用すること(摘示事項 (7))、つまり、該微粒子を超音波造影剤として使用することが記載されているが、この微粒子は、刊行物1と同じく、微粒子の膜壁が生分解性ポリマーで形成されたマイクロバルーンである。
したがって、微小気泡がマイクロバブルである本件発明は、マイクロバルーンの超音波診断剤が記載されている刊行物2に記載されたものではない。

(ウ)刊行物3に記載の発明との対比・判断
超音波検査における対照剤とは超音波造影剤であることは明らかであるから、刊行物3には、キャビテートまたはクラスレート化合物を形成するホスト/ゲスト錯体からなり、そのホスト分子が液状賦形剤中でハロゲン化炭化水素等のゲストの遊離下に溶解する超音波造影剤(摘示事項(10)(11))が記載されているが、ホスト/ゲスト錯体は、水性賦形剤中へ入れると、ホスト分子の溶解により、錯体は賦形剤中へ気泡を遊離しながら崩壊するもの(摘示事項(12))であり、マイクロバブルに相当するものではない。
したがって、本件発明は、刊行物3に記載されたものではない。

(エ)刊行物4に記載の発明との対比・判断
刊行物4には、超音波検査用イメージングのためのポリマー膜により包まれた空気又はガスにより充填されたマイクロカプセル又はマイクロバルーン(摘示事項(13))が記載されているが、上記に述べたように、マイクロバブルとマイクロバル-ンは全く異なるものである。
したがって、本件発明は刊行物4に記載されたものではない。

3-3-2-2 請求項2〜17に係る発明について
請求項2〜17に係る発明は請求項1に係る造影剤の発明を引用する造影剤、または造影剤の製造方法に関するものであるから、請求項1に係る発明に対して述べたと同様の理由により、上記発明も刊行物1〜4のいずれにも記載されていない。

3-4 取消理由2(特許法第29条第2項)について

3-4-1 取消理由通知で引用された刊行物に記載された発明
刊行物1〜4には、上記に摘示した事項が記載されている。

刊行物5(国際公開91/15244号パンフレット、異議申立人1が提出した甲第第5号証、(翻訳文として特表平4-506670号公報参照)には、以下の事項が記載されている。
(15) 超音波検査の目的での、生体の血液および体腔中への注入に適する組成物であって、約 0.01〜約20重量%の1または複数の溶解または懸濁された界面活性剤を含んで成る生理学的に許容される水性液体担体相中の空気または気体の微小泡の懸濁液から成り、前記界面活性剤の少なくとも1つが、少なくとも部分的にラメラ形または積層形において該組成物中に存在する皮膜形成界面活性剤であることを特徴とする組成物(請求の範囲第1項)
(16)二次元超音波心臓検査で微小泡が肺毛細管循環を横切ることができたことを確証したこと(実施例8)
(17) 微小泡中のガスは、現在生理学的に許容される無害のガス、例えばCO2、窒素、N2O、メタン、ブタン、フロン等であること(15頁22〜27行(7頁左下欄))

刊行物6(SWANSON, D.P., et. al. Pharmaceuticals in Medical Imaging, New York: Macmillan Publishing Co., Inc. 1990, pp. 682-687、異議申立人2の提出した甲第6号証)には、エコーイメージングにおける増強剤について記載されており、マイクロバブルの中のガスについて、
(18) 例えば、その製造方法において窒素のような不溶性のガスを導入した場合には、空気、炭酸ガス、酸素又は他の可溶性のガスを用いた場合に観察されるよりも、実質的により長期間に亘って脈管内における気泡寿命を保つことができるという、好ましいマイクロバブルを与えること(684頁右欄第11〜18行)が記載されている。

刊行物7(国際公開第80/02365号パンフレット、異議申立人2が提出した甲第7号証)には、マイクロバブルによる超音波イメージングを強調する方法についての発明が記載され、
(19) 超音波イメージングの直接的な強化のためには、膜内のガスについては、化学的に不活性なもので、かつ窒素のようにゆっくりと溶解するガス、又はよりゆっくりと溶解する希ガスの1種が非常に好ましいこと(7頁下から5〜1行目)が記載されている。

刊行物8(Jpn. J. Med. Ultrasonics, 1991, Vol.18, No.5, pp.444-450、異議申立人2が提出した甲第8号証)には、「ヘリウムガスmicrobubblesを用いた肝腫瘍の超音波造影法」と題する論文であって、
(20) 新しくヘリウムガスをコントラスト剤として超音波画像上、肝腫蕩の造影を試みたこと、ヘリウムガス24Heは、密度0.1785kg/cm3、比重0.138、0℃における水に対する溶解度0.0093cm3/lとCO2の溶解度1.71cm3/lに比して拡散速度の遅い、物理化学的に安定した希ガスであり、CO2によるEU(注:マイクロバブルを用いた超音波造影法)と同等の造影効果は予想できたが、この物理化学的な性格の差から、成績で述べたとおり、He-EUの肝腫瘍の造影持続時間は、CO2-EUに比して有意に長いという結果を得たこと、同時に、非癌部のenhanceによる深部減衰の消失の後にも、腫瘍部のみに著明なcontrast enhancement効果が得られ、長時間にわたり腫瘍部のみを明瞭に観察することができたこと(448頁右欄下から8行目〜449頁左欄6行)が記載されている。

刊行物9( J. Chem. Phys. 1950, Vol.18, No.11, pp. 1505-1509、異議申立人2が提出した甲第9号証)には、「液-ガス溶液中での気泡の安定性について」と題する論文が記載され、
(21) 一般論として、液体中に存在している気泡の持続時間が、気泡を形成している気体の拡散係数、及び気体の当該液体における溶解濃度に反比例するものであることが示されている。

刊行物10( Pflugers Arch. 1975, Vol.359, pp. 219-230、異議申立人2が提出した甲第10号証)には、「ラット骨格筋における各種不活性ガスの拡散について」と題して、
(22) 摘出したラットの腹部の筋肉内での種々の不活性ガスに対するクロッフの拡散定数を決定し、また、拡散係数を計算したこと、グラハムの法則は種々のガスに対する有用な近似式として使えることが記載されている。

刊行物11(特開平1-203337号公報、異議申立人2が提出した甲第4号証)には、以下の事項が記載されている。
(23) 主に直径10ミクロン以下の微小球の分散体を含む非経口的に投与可能な水性媒体よりなる濃縮された室温で安定な超音波造影剤であって、該微小球が水不溶化処理された生物親和性物質により封入されたガス微小気泡よりなり、該超音波造影剤が1ml当たり微小球を100×106 個以上の均一に分散された濃度をもち且つ20〜25℃の温度で4週間以上該濃度を保持できることを特徴とする濃縮された室温で安定な超音波造影剤(特許請求の範囲第1項)
(24) 超音波処理が環境雰囲気として空気と接触することにより行なわれる場合には、微小球は空気中心をもつものであること、及び、空気は最も好都合な環境雰囲気であると思われるが、所望であれば超音波処理は他のガス雰囲気下(即ち、窒素、酸素、二酸化炭素等)で行ってもよいこと(4頁右下欄)

刊行物12( Ophthalmology., 1983, Vol.90, No.5, pp.546-551、異議申立人2が提出した甲第5号証)には、「パーフルオロカーボンガスを用いた網膜剥離の処置」についてと題して、
(25) 硝子体の手術において、眼内ガスを使用する方法が注目されてきていること、1973年にノートンは、より長時間滞留するガスとして空気に代えてSF6 の使用を提案し、SF6は空気の約2倍の時間、硝子体に留まったこと、同じ年にバイガンタスは、パーフルオロカーボンであるオクタフルオロシクロブタン(C4F8)の使用を提案し、このガスはどういう訳か眼内により長時間留まったこと(546頁左欄1行〜右欄4行)
が記載されている。

3-4-2 対比・判断

3-4-2-1 請求項1に係る発明について
本件発明と、刊行物1に係る発明とを対比すると、上記3-2-2-1(ア)に記載したように、前者は、「生理学的に許容されているハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドであってダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が 0.0027未満である気体」(以下、Sgas/√Mwgasという。)の封入されたマイクロバブルであるのに対して、後者は「ガス及び/又は60℃未満の沸点を有する液体」の封入された「合成の生体分解可能なポリマー微粒子」であるマイクロバルーンである点で相違する。
そこで、この相違点を検討する。
本件明細書及び刊行物1、2、4〜8及び11(摘示事項(1)(6)(7)(13)(15)(18)(20)(23))に記載されているように、水性液体に懸濁されたマイクロバブル及びマイクロバルーンの超音波造影剤は知られているが、そこに封入されるガスについて、刊行物1では、空気、窒素などのガスと並列して、60℃未満の沸点を有する有機液体として1,1-ジクロルエチレン、2-メチル-2-ブテン、塩化イソプロピル、ジブロムジフルオルメタンなどの炭化水素、又はハロゲン化炭化水素(摘示事項(2)(3))が挙げられ、刊行物2では、 遊離形又は結合形のガス及び/又は易揮発性液体としては、アンモニア、空気、希ガス、硫黄六弗化物、ハロゲン化炭化水素等が同等のものとして挙げられ(摘示事項(8))、刊行物4では、生理学的に許容できるガス、たとえばCO2、N2O、メタン、フレオン、ヘリウム、及び他の希ガス(摘示事項(14))が、刊行物5では、微小泡中のガスとして、現在生理学的に許容される無害のガス、例えばCO2、窒素、N2O、メタン、ブタン、フロンが示され(摘示事項(17))、刊行物6では、窒素の方が、空気、炭酸ガス、酸素又は他の可溶性のガスを用いた場合よりも、実質的により長期間に亘って脈管内における気泡寿命を保つことができること(摘示事項(18))が記載されている。また、刊行物7では、超音波イメージングの直接的な強化のためには、化学的に不活性なもので、かつ窒素のようにゆっくりと溶解するガス、又はよりゆっくりと溶解する希ガスの1種が非常に好ましいこと(摘示事項(19))、刊行物8では、ヘリウムガスをコントラスト剤として超音波画像上、肝腫瘍の造影を試みると、He-EUの肝腫瘍の造影持続時間は、CO2-EUに比して有意に長く、ヘリウムガスの場合は、長時間にわたり腫瘍部のみを明瞭に観察することができたこと(摘示事項(20))、刊行物11では、封入ガスは空気の他、窒素、酸素、二酸化炭素等でもよいこと(摘示事項(24))がそれぞれ記載されている。しかし、これら刊行物には、マイクロバブル又はマイクロバルーンに封入すべき気体について、個々の物質名か化学的に不活性であるとか、ゆっくり溶解するガスがよい等の一般的な性質が記載されているだけで、Sgas/√Mwgasを検討することは全く記載されていない。そして、当該Sgas/√Mwgasの特定の条件を満足するガスである六弗化硫黄についても使用可能なガスとして一通りの記載があるだけで六弗化硫黄を封入した微小気泡を有する超音波造影剤についての具体的な記載はないし、これらの刊行物では本件明細書中で超音波造影剤としての効果が劣ることが示されている空気、アルゴン、クリプトン、キセノン、CHClF2 と六弗化硫黄が同等に並列的に記載されており、本件発明における条件を満足するガスである六弗化硫黄が超音波造影剤においては空気よりきわめて優れていることは記載も示唆もされていない。また、封入気体として、ハロゲン化炭化水素、フロン、フレオンなども列記されているが、フロンはフッ素化炭化水素の総称であって、多数の化合物を含むものであり、Sgas/√Mwgasが 0.0027以上の値ものが多く存在するのであるから、フロン、ハロゲン化炭化水素が記載されていることをもって、該値が 0.0027未満の気体が記載されているとはいえない。また、これらのガスをSgas/√Mwgasが 0.0027未満のものに限定した本発明の効果も予測できるものではない。

また、刊行物3には、 キャビテートまたはクラスレート化合物を形成するホスト/ゲスト錯体からなり、そのホスト分子が液状賦形剤中でゲストの遊離下に溶解する超音波造影剤(摘示事項(10))が記載され、ゲスト分子として、希ガス、希ガス化合物、ハロゲン化硫黄、ハロゲン化炭化水素等が例示され、有利なゲスト分子としてヘリウム、ネオン等の希ガスと並んで六フッ化硫黄(摘示事項(11))が示されているが、この場合のガスはホスト分子と錯体を形成するものであり、本件発明のように物理的に封入されるガスとして直ちに適用できるものではない。
そして、刊行物9、刊行物10は、気泡の安定性(摘示事項(21))や骨格筋における不活性ガスの拡散(摘示事項(22))について一般的に述べているに止まり、この不活性ガスを超音波造影剤に適用することについては何等記載していない。さらに、刊行物12も網膜剥離における処置方法において、使用する眼内ガスを、より長時間滞留するガスとして空気に代えてSF6、オクタフルオロシクロブタン(C4F8)を使用すると、眼内により長時間留まったこと(摘示事項(25))が記載されているだけで、SF6 及びC4F8を超音波造影剤に適用することは記載も示唆もされていない。

一方、本件発明では、第4〜6,8表に、超音波造影剤のマイクロバブルに封入する気体として、上記特定の条件を満足する気体を選択することによって、反響応答の持続性、圧力増加に対する安定性が、従来用いられていたガス(空気、希ガス等)に比べて格別優れていることが示されている。そうすると、超音波造影剤を構成するマイクロバブルに封入するガスとして、特定のSgas/√Mwgasの値を有するものを選択することは当業者が容易に想到できるものではない。

したがって、本件発明は、刊行物1〜12に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3-4-2-2 請求項2〜21に係る発明について
請求項2〜21に係る発明は請求項1に係る造影剤の発明を引用する造影剤、または造影剤の製造方法、並びに請求項1に記載の微小気泡の反響性懸濁液を形成する造影剤前駆体に関するものであるから、請求項1に係る発明に対して述べたと同様の理由により、刊行物1〜12に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3-5 取消理由3(特許法第29条の2)について
3-5-1 先願明細書13に記載された発明について
先願明細書13(特願平5-506054号の願書に最初に添付した明細書(特表平7-501319号公報参照):異議申立人1が提出した甲第2号証及び異議申立人2が提出した甲第12号証)の記載と、この先願の2件の優先権主張の内、先の優先権主張である1991年9月17日の米国出願の明細書の記載(以下、先の優先権証明書という。)と重複する部分には、次の事項が記載されている。
(26)「5よりも大きいQ係数をもつ生体適合性の気体の微小気泡からなる超音波像を増強するための造影剤であって、ここで
Q=4.0×10-7×ρ/CsD
であり、ρは気体の密度(Kgm-3)、Cs は気体の水への溶解度(M)、及びDは溶液中における気体の拡散係数(cm2sec-1)であることを特徴とする造影剤。」(請求の範囲の請求項1)
(27) 表IIに、デカフルオロブタン、ヘキサフルオロエタン、オクタフルオロシクロブタン及びサルファーヘキサフルオライドなどの気体のQ係数が記載されている。(8頁右下欄)
(28)「本発明の好ましい実施態様において、40-50%ソルビトール(D-グルシトール)溶液は、容量で約1-10%の高いQ係数の気体、すなわち、約5%の気体が最適値である、と混合される。ソルビトールは、市販されている化合物であり、水溶液と混合すると実質的に当該溶液の粘度を増加する。……微小気泡懸濁液を製造するために、選定された気体は、一方の注入器に集められる。その同じ注入器に一定量のソルビトール溶液も入れられる。一定量のソルビトール溶液を他の注入器に移して、両者の体積の合計が目的とする微小気泡の容量パーセントに基づいて適正なパーセントになるようにする。小口径の穴を有する二つの注入器を使って、液体が、ここに記載した目的に適合するサイズ分布を有する微小気泡懸濁液を製造するために、約25回……気体雰囲気中に噴霧される。」
(9頁右上〜左下欄)

ここで、超音波像を増強するための造影剤とは超音波造影剤に他ならないから、上記の記載を総合すると、先願明細書13と先の優先権証明書の記載と重複する部分(以下、単に先願明細書13という)には、デカフルオロブタン、ヘキサフルオロエタン、オクタフルオロシクロブタン及びサルファーヘキサフルオライド等の気体(摘示事項(27))を封入した微小気泡からなる超音波造影剤(摘示事項(26))であって、微小気泡は、ソルビトールなどの粘度の高い液体と該気体を混合して製造されるものであること(摘示事項(28))が記載されているものと認められる。
そうすると、この微小気泡には界面活性剤が含まれていないので、本件発明でいうマイクロバブルには相当しない。
したがって、本件発明は、先願明細書13に記載された発明と同一ではない。
また、請求項2〜21に係る発明は請求項1に係る造影剤の発明を引用する造影剤、または造影剤の製造方法、並びに請求項1に記載の微小気泡の反響性懸濁液を形成する造影剤前駆体に関するものであるから、請求項の1に係る発明に対して述べたと同様の理由により、先願明細書13に記載された発明と同一ではない。

3-5-2 先願明細書14について
先願明細書14(特願平4-506536号の願書に最初に添付した明細書(特表平6-505981号公報参照 ):異議申立人1が提出した甲第4号証及び異議申立人2が提出した甲第11号証)には、
(29)「プロテインシェル中にカプセル封入されたガスまたはガス前駆体の微小気泡からなり、該プロテインが生物分解性架橋基によって架橋されていることを特徴とする、診断用超音波検査に用いるための造影剤。」(請求の範囲の請求項1)
(30)「任意の生物学的に適合性のガス、……6フッ化イオウおよび低分子量の場合によりフッ素化されたヒドロカーボ類……などを本発明の造影剤中で使用することができる。」(5頁左上欄)
と記載されている。
上記の通り、先願明細書14には、プロテインシェル中に六フッ化硫黄などの気体(摘示事項(30))を封入した微小気泡からなる超音波造影剤(摘示事項(29))が記載されているが、この微小気泡はプロテインシェルであり、タンパク質による境界(壁)をもつ微小気泡、つまり、マイクロバルーンである。
してみると、微小気泡がマイクロバブルからである本件発明は、先願明細書14に記載された発明と同一ではない。

また、請求項2〜21に係る発明は請求項1に係る造影剤の発明を引用する造影剤、または造影剤の製造方法、並びに請求項1に記載の微小気泡の反響性懸濁液を形成する造影剤前駆体に関するものであるから、請求項の1に係る発明に対して述べたと同様の理由により、先願明細書14に記載された発明と同一ではない。

3-5-3 先願明細書15について
先願明細書15(特願平4-506535号の願書に最初に添付した明細書(特表平6-507884号公報参照):異議申立人1が提出した甲第3号証)には、以下の記載がある。
(31)「架橋又は重合された非蛋白質の両親媒性部分によりカプセル封入されたガス又はガス前駆体の微細気泡を含む、診断用の音波検査に使用する造影剤。」(請求の範囲の請求項1)
(32)「本発明は……診断用超音波画像化に有用な、ガスを含有するまたはガスを発生する新規な造影剤に関する。」(2頁右下欄)
(33)「本発明の造影剤中には生体適合性を有する任意のガス……六弗化硫黄……四弗化炭素のような、場合により弗素化されている低分子量の炭化水素を使用することができる。(3頁左下欄)

ここで、診断用の音波検査に使用する造影剤(摘示事項(31))とは超音波造影剤のこと(摘示事項(32))であり、微細気泡は微小気泡と同意語であるから、先願明細書15には、六弗化硫黄などの気体(摘示事項(33))を封入した架橋又は重合された非蛋白質の両親媒性部分によりカプセル封入した微小気泡を含む超音波造影剤が記載されていると認められるが、この微小気泡は架橋又は重合した非蛋白質で形成されているのであるから、境界、又は囲いの膜が形成されているもの、つまり、マイクロバルーンであると認められる。
したがって、マイクロバブルからなる超音波造影剤である本件発明は、先願明細書15に記載された発明と同一ではない。
また、請求項2〜21に係る発明は、請求項2〜21に係る発明は請求項1に係る造影剤の発明を引用する造影剤、または造影剤の製造方法、並びに請求項1に記載の微小気泡の反響性懸濁液を形成する造影剤前駆体に関するものであるから、請求項の1に係る発明に対して述べたと同様の理由により、先願明細書15に記載された発明と同一ではない。

3-6 取消理由4(特許法第36条)について
(ア) 請求項1に記載の「気体のSgas/√Mwgasの値」の技術的意義およびそれを裏付ける発明の詳細な説明の記載について
請求項1の「ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水の溶解度の率」との記載は、明細書【0014】にSgas/√Mwgasの数式で表現されているものであるが、これについて登録時の特許明細書及び図面の記載からは、(i) Sgas/√Mwgas<0.0027 の条件の技術的意義が明確でない点、及び、(ii) 明細書に具体的に示されたこの値を満足する気体はSF6、CF4、CBrF3及びC4F8だけであり、これ以外の気体について明細書に裏付けがない点で本件明細書及び図面(以下、単に明細書と記載する。)の記載には不備があった。

・(i) について
訂正後の請求項1によれば、微小気泡はマイクロバブルであること、封入される気体はSgas/√Mwgas<0.0027 の条件のみではなく、生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドであることも明らかである。
そして、本件特許明細書を検討すると、超音波造影剤において、同じマイクロバブルに封入された気体が、Sgas/√Mwgas≧ 0.0027を満足する CF4、CBrF3、SF6 及びC4F8 の場合は、この条件を満足しない他の気体(空気、希ガス、CHClF2) の場合と比較して、臨界圧PC、圧力間隔(△P)、及び造影時間において優れた効果を奏することが第4〜5表に示されている。CHClF2はハロゲン化炭化水素であるが、Mwが86、H2O中の溶解度が0.78であること (第4表参照)から、Sgas/√Mwgas は、0.0841と、0.0027を超える値であり、本件明細書には、ハロゲン化炭化水素であっても、この値が範囲外であれば超音波造影剤としての効果が劣ることが示されているのである。
そうすると、少なくとも、マイクロバブルに封入されるハロゲン化炭化水素でSgas/√Mwgas< 0.0027の範囲外のものが効果が劣ることが明細書に示されているのであるから、マイクロバブルを含有する造影剤等に関する本件発明において、上記条件とする点の技術的意義が明細書の記載からは明らかでないとすることはできず、上記の記載不備は解消している。

・(ii)について
Sgas/√Mwgas< 0.0027の限定について、上記のとおり、本件明細書には少なくとも範囲外のハロゲン化炭化水素との比較が記載されている。そして、当該限定を満足するガスであるか否かはガスの水に対する溶解度(S)平均分子量(Mw)から数式に値を代入することで当業者が容易に理解できるものであるし、マイクロバブルを製造する際に使用する封入気体等の材料や、製造条件は当業者が適宜決定できるものであるから、特許請求の範囲に封入する気体の種類(物質名)についての具体的な記載が無いことをもって本件明細書の記載が不備であるとはいえない。すなわち、0.0027 未満で本件発明の効果を奏しない生理学的に許容されているハロゲン化炭化水素とフッ素化カルコゲニドがあることを証明するのであればともかく、上述の通り、他の生理学的に許容されているハロゲン化炭化水又は安定なフッ素化カルコゲニドの気体について実施例等の記載がないことをもって、本件明細書の記載に不備があるとすることはできない。

(イ)特許請求の範囲に記載されている「気体混合物」について
取消理由通知においては、本件発明の微小気泡に封入される気体が気体混合物である場合について、本件明細書に具体的な記載はなく、封入気体が混合気体である場合の本件発明を、当業者が容易に実施できない点で明細書の記載に不備がある旨指摘していたが、本件発明においては、「生理学的に許容されているハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドであってダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027 未満である気体」を含んでおりさえすればよいのであるから、混合される空気、窒素等の気体の混合比が記載されていないないからといって、本件発明が実施できないというものではなく、この点の記載不備はない。

(ウ) 訂正前の請求項に記載されている「ハロゲン化気体」について
「ハロゲン化気体」なる用語の意味が不明瞭である点で登録時の本件特許明細書の記載には不備があったが、平成16年5月19日付け訂正請求書により、上記用語が技術的にも意味が明確な「ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニド」に訂正(訂正事項a、b、g、h、k、l、n、o及びp)されたので、この点の不備は解消された。また、CBr2F2は例示から削除され、この点の記載不備も解消している。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1〜21に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜21に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。

よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
耐圧性気体封入微小気泡の長寿命懸濁物及びその製法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 超音波エコグラフィー用造影剤であって、水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成り、ここで当該微小気泡は無形の消失性境界を有するマイクロバブル、即ち、表面張力が界面活性剤の存在により改質されている液体の壁によって囲まれているものであり、前記気体が少なくとも一種の生理学的に許容されているハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドであってダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027未満である気体を含んで成ることを特徴とする、造影剤。
【請求項2】 前記ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドがSF6,又はCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれるフロンである、請求項1記載の造影剤。
【請求項3】 前記微小気泡が溶解した層状又は単層状リン脂質から成る消失性気体/液体界面状封鎖表層により覆われているマイクロバブルである、請求項1又は2記載の造影剤。
【請求項4】 前記リン脂質の少なくとも一部がリポソームの形態にある、請求項3記載の造影剤。
【請求項5】 前記水性液状担体相が安定剤を更に含む、請求項4記載の造影剤。
【請求項6】 前記リン脂質の少なくとも一部がジアシルホスファチジル化合物であり、ここでそのアシル基はC16脂肪酸基又はその高級同族体である、請求項3記載の造影剤。
【請求項7】 前記微小気泡の中の気体がCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれる、請求項1記載の造影剤。
【請求項8】 ヒト又は動物の身体の超音波イメージングにおいて利用するための請求項1〜7のいずれか1項記載の造影剤。
【請求項9】 請求項1記載の水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成る超音波エコグラフィー用造影剤を製造する方法であって、当該微小気泡をダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027未満である少なくとも一種の生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドを含んで成る一種または複数種の気体の雰囲気下で形成することを特徴とする方法。
【請求項10】 請求項1記載の水性液状担体相中の懸濁物として一種または複数種の気体の封入された微小気泡を含んで成る超音波エコグラフィー用造影剤を製造する方法であって、予め作製しておいた微小気泡に、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットル数として表示する水溶解度の率が0.0027未満である少なくとも一種の生理学的な許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドを含んで成る一種または複数種の気体を充填することを特徴とする方法。
【請求項11】 前記水性液状担体が溶解した層状リン脂質及びマイクロバブルを安定化する安定剤を含む、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】 前記微小気泡が二段式に形成されたものであり、その第一段階で微小気泡又はその乾燥前駆体を第一気体の雰囲気下で予め形成し、次いで第二段階でこの第一気体の少なくとも一部を生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドにより置換するものである、請求項10記載の方法。
【請求項13】 前記気体による前記微小気泡の形成が、前記乾燥前駆体の減圧と前記気体による圧力復帰、そして最後にこの前駆体の液状担体への分散により行うものである、請求項12記載の方法。
【請求項14】 前記第一気体が空気、窒素又は二酸化炭素である、請求項12記載の方法。
【請求項15】 前記ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドがSF6,又はCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれるフロンである、請求項9〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】 前記第一気体がCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4又はC4F10から選ばれる第二の生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体により完全に置換されている、請求項14記載の方法。
【請求項17】 前記気体による前記微小気泡の充填が、この微小気泡の懸濁物に前記気体をフラッシュせしめることにより行われる、請求項10記載の方法。
【請求項18】 凍結乾燥リン脂質及び安定剤を含んで成る乾燥粉末から成る造影剤前駆体であって、前記粉末は請求項1記載の微小気泡の反響性懸濁物を形成するように水性液状担体の中で分散可能であり、ここで前記粉末は、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットルの数として表示する水溶解度の率が0.0027未満である少なくとも一種の生理学的に許容されるハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドを含んで成る気体の混合物の雰囲気のもとで保存されている、造影剤前駆体。
【請求項19】 凍結乾燥リン脂質及び安定剤を含んで成る乾燥粉末から成る造影剤前駆体であって、前記粉末は請求項1記載の微小気泡の反響性懸濁物を形成するように水性液状担体の中で分散可能であり、ここで前記粉末は、ダルトン分子量の平方根に対する標準条件のもとで水1リットルに溶解する気体のリットルの数として表示する水溶解度の率が0.0027未満である一種のハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドの雰囲気のもとで保存されている、造影剤前駆体。
【請求項20】 前記リン脂質が、そのリン脂質が16個以上の炭素原子を有する脂肪酸基である、請求項18又は19記載の造影剤前駆体。
【請求項21】 前記ハロゲン化炭化水素気体又は安定なフッ素化カルコゲニドがSF6,又はCF4,C4F8,CClF3,C2F6,C2ClF5,CBrClF2,C2Cl2F4及びC4F10から選ばれるフロンである、請求項18又は19記載の造影剤前駆体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は水性担体液中の気体封入微小気泡の安定な分散体又は組成物に関する。このような分散体は一般に、液体の中で気体が均質に分散されていることを必要とするようなほとんどの種類の用途にとって有用である。このような分散体に関する注目すべき用途の一つは、例えば超音波エコグラフィー及びその他の医療用途のために生体に注射されることにある。本発明は製剤の中に包括されている数種の物質、例えば耐圧気体封入マイクロバブル、マイクロカプセル及びマイクロバルーンを含む上記の組成物の製造方法にも関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
液体に懸濁されている、空気又は気体の微小体又は微小球(本明細書では微小気泡と定義する)、例えばマイクロバブル又はマイクロバルーンはエコグラフィーにとって特に有効な超音波リフレクターである。本明細書において、「マイクロバブル」なる語は特に、液体の中に懸濁されている、空気又は気体の封入された中空球体又は小球を意味し、これは一般に分割された状態において空気又は気体を液体の中に導入することに由来し、この液体は好ましくはこのバブルの表面特性及び安定性をコントロールするために界面活性剤も含んでいる。「マイクロカプセル」又は「マイクロバルーン」なる語は、好ましくは境界又は囲い、例えばポリマー膜壁を有する空気又は気体封入体を意味する。マイクロバブル及びマイクロバブルは両者とも超音波造影剤として有用である。例えば生体の血流の中に、担体液中の空気封入マイクロバブル又はマイクロバルーン(0.5〜10μmの範囲における)の懸濁物を注射することは、超音波エコグラフィーイメージングを強く補強し、それ故内臓の識別化に役立つ。血管及び内臓のイメージングは医療診断、例えば心臓血管及びその他の疾患の検査に大いに役立つことができる。
【0003】
注射可能な液状担体におけるエコグラフィーに適するマイクロバブルの懸濁物の生成は、この液体の中に加圧のもとで溶解せしめた気体を放出させることにより、又は気体状生成物を発生せしめる化学反応により、又は液体と、空気もしくは気体が捕促又は吸着されている可溶性又は不溶性固体とを混合せしめることによって提供されうる。
【0004】
例えば米国出願第4,446,442号(Schering)において、(a)担体液(水性)中の界面活性剤の溶液及び(b)安定剤としての増粘剤の溶液を利用した、無菌の注射可能な液状担体の中での気体マイクロバブルの懸濁物の製造に関する一連の種々の技術が開示されている。バブルを発生させるためのその中に開示されている技術には、(a),(b)及び空気の混合物を高速で小さな開口部に押し通すこと;又は使用直前に、生理学的に許容されている気体と一緒に(a)を(b)の中に導入すること;又は酸を(a)に、そして炭酸塩を(b)に加え、この両組成物を使用直前に一緒に混合し、これによって酸を炭酸塩と反応させてCO2バブルを発生させること;又は保存下にある(a)と(b)の混合物に過剰加圧気体を付加すること(この気体はこの混合物が注射に利用されるときにマイクロバブルとなって放出される)が含まれている。
【0005】
ヨーロッパ特許出願EP-A-131,540号(Schering)は、安定化注射可能担体液、例えば塩の生理学的水溶液、又はマルトース、デキストロース、ラクトースもしくはガラクトースのような糖の溶液を、封入された空気を含む同種類の糖の固体微粒子(0.1〜1μmの範囲)と混合する、マイクロバブル懸濁物の調製を開示する。液状担体の中においてバブルの懸濁物を発生させるため、液体及び固体成分の両者を一緒に無菌状態のもとで数秒間攪拌しており、そして作製されたらこの懸濁物は直ちに利用されなければならない。即ち、これはエコグラフィー測定のために5〜10分以内に注射されるべきである。事実、これらは消失性であるため、バブル濃度はこの時期経過後は実用に則するには低くなりすぎる。
【0006】
消失性の問題を解決するための試みにおいて、マイクロバルーン、即ち物質壁を有する微小気泡が開発されている。前記した通り、マイクロバブルは無形の消失性境界を有するにすぎないもの、即ちこれらは液体の壁によって囲まれているにすぎず、その表面張力は界面活性剤の存在によって改質されているものであり、マイクロバルーン又はマイクロカプセルは実存する物質、例えば一定の機械力を有するポリマー膜より成る実体的な境界を有している。換言すれば、これらは、空気又は気体が幾分強く封入されているような物質の微小気泡である。
【0007】
例えば、米国特許出願US-A-4,276,885号(Ticknerら)は超音波イメージを強めるための気体を含む表層膜マイクロカプセルの利用を開示しており、この膜は複数の無毒且つ非抗原性有機分子を含んでいる。開示態様において、これらのマイクロバブルは癒着を阻止するようなゼラチン膜を有しており、そしてそれらの好ましい大きさは5-10μmである。このようなマイクロバブルの膜はエコグラフィー測定を行うのに十分に安定であるとされている。
【0008】
ゼラチンを有さない空気封入マイクロバルーンがUS-A-4,718,433号(Feinstein)に開示されている。これらの微小気泡は5%の血清アルブミンのようなタンパク質溶液の音波処理(5〜30kHz)によって作られており、そしてこれらは2〜20μmの範囲、主としては2〜4μmの直径を有している。この微小気泡は音波処理後に、例えば熱又は化学的手段、例えばホルムアルデヒドもしくはグルタルアルデヒドとの反応を利用することによる膜形成タンパク質の変性によって安定化されている。この操作により得られる安定な微小気泡の濃度は、2〜4μmの範囲において約8×106個/ml,4〜5μmの範囲において約106個/ml、そして5〜6μmの範囲において5×105個以下であるとされている。このような微小気泡の安定時間は48時間以上とされており、従ってこれは静脈内注射の後に有利な左心臓イメージングを可能とする。例えば、末梢血管の中に注射された際の音波処理アルブミンマイクロバブルは肺動脈を通過することができる。このことは、左心室腔及び心筋組織の心エコー検査的不透明化をもたらす。
【0009】
最近、注射型超音波エコグラフィーのために更に改良されたマイクロバルーンがEP-A-324,938号(Widder)において報告されている。この明細書においては、高濃度(108個/ml)の10μm以下の空気封入タンパク質境界された微小気泡が開示され、これは数ケ月以上の半減期を有する。このようなマイクロバルーンの水性懸濁物は熱変性するタンパク質、例えば人血清アルブミンの溶液の超音波キャビテーション(空洞形成)(この操作は膜形成タンパク質の多少の発泡をももたらす)及び加熱によるその後の硬化によって作られる。その他のタンパク質、例えばヘモグロビン及びコラーゲンもこの処理において好都合であるとされている。EP-A-324,938号に開示されているマイクロバルーンの懸濁物の高い保存安定性は、それらを液状担体相と一緒に市販されることを可能とし、このことは使用前の調製を必要としないことにより、強い商業的価値である。
【0010】
水性マイクロバブル懸濁物の調製に関して似たような利点が最近になって発見されており、即ち、水の添加に基づいて寿命の長いバブル懸濁物を発生せしめうるような保存安定性乾燥粉末組成物が見い出されている。これは出願PCT/EP91/00620に開示されており、ここでは膜形成脂質を含んで成るリポソームを凍結乾燥しており、一定期間にわたり空気又は気体に暴露せしめた後のこの凍結乾燥脂質は、それへの水性液状担体の単なる添加に基づいて寿命の長いバブル懸濁物を提供しうる。
【0011】
水性マイクロバブル懸濁物の保存のもとでの安定性に関して数多くの進歩が達成されているにもかかわらず、これらは予備又は最終のいづれかの調製段階に属し、この懸濁物が過剰圧力、例えば患者の血流及びその後の心臓脈拍、特に左心室に注射された後に起こりうるような圧力変化にさらされるときの気泡耐久性の問題がまだ残っている。実際、例えば麻酔したウサギにおいて、この圧力変化は、注射の後の一定期間にわたってバブル数を実質的に変えるほど十分でないことを本発明者は観察した。一方、イヌ及びヒト患者においては、一般の気体例えば空気、メタン又はCO2が封入されている典型的なマイクロバブル又はマイクロバルーンは注射の後に血圧効果に基づいて数秒間で完全に破裂するであろう。この所見は他の者によって確認されている:例えばS.GOTTLIEBら著、J.Am.Soc.of Echocardiography 3(1990)238には、音波法によって調製された架橋アルブミンマイクロバルーンが60トルの過剰圧力にかけられた後に反響的性質の全てを失うことを報告している。従って、エコグラフィー測定が生体内において安全且つ再現性よく行われることを保証するため、このような問題を解決し且つ加圧のもとでマイクロバブル及び膜境界化マイクロバルーンの懸濁物の利用寿命を伸ばすことが重要である。
【0012】
他に分類される反響性イメージ増強剤が提案されていることをこの段階にて言及すべきであり、これは多孔質構造を有し、その孔が空気又は気体を含んでいるような単純な微小球体より成るために過剰圧力に耐久性である。このような微小球体は例えばWO-A-91/12823号(DELTA BIOTECHNOLOGY),EP-A-327,490号(SCHERING)及びEP-A-458,079号(HOECHST)に開示されている。この単純な多孔質微小球の欠点は、囲まれている気体封入自由空間がよい反響応答にとっては一般的に小さすぎること、及びこの球体が適切な弾性を欠くことにある。それ故、中空微小気泡が一般的に好ましく、従って破裂問題の解決が探索されている。
【0013】
【課題を解決するための具体的手段】
この問題は請求項に記載の範囲に従う気体又は気体混合物を利用することによりここで解決される。簡単に述べると、反響性微小気泡を気体の存在下において作ったとき、それぞれは以下の式に従う物理的性質を有する気体を部分的に封入しており、従ってこの微小気泡は注射後に再現性のあるエコグラフィー測定を得るのに十分な時間にわたり60トル以上の圧力にめざましく耐久することを発見した:
【数1】

【0014】
上記の式において、「S」は「ブンゼン」(Bunsen)係数として表わす水における溶解度、即ち標準条件(1バール、25℃)のもとで且つ1atmでの一定の気体の部分圧(Gas Encyclopaedia,Elsevier 1976を参照のこと)のもとで単位容量水に溶解される気体の容量を示している。このような条件及び定義のもとでは、空気の溶解度は0.0167であり、且つその平均分子量(Mw)の平方根は5.39であるため、上記の関係は、
Sgas/√Mwgas≦0.0031
に略される。
【0015】
以降に記載の実施例においてわかる通り、数多くの異なる種類の気体及びそれらの混合物を封入している反響性マイクロバブル及びマイクロバルーン(表を参照のこと)の試験、並びに圧力増加に対するそれらの対応の耐久性を、生体内及び試験内試験の両方において開示する。表において、溶解度係数も「L′Air Liquide」Elsevier Publisher(1976)の前記したGas Encyclopaediaから抜粋している。
【0016】
本発明に関する気体を含む水懸濁物中の微小気泡は、エコグラフィー用造影剤として現在までに利用されている開示されたほとんどの種類のマイクロバブル及びマイクロバルーンを含んでいる。好ましいマイクロバルーンはEP-A-324,938号,PCT/EP91/01706号及びEP-A-458,745号に開示されているものであり;好ましいマイクロバブルはPCT/EP91/00620号に開示されているものであり;これらのマイクロバブルは好都合には水性液体、並びに層状(lamellarized)の凍結乾燥されたリン脂質及び安定剤を含む乾燥粉末(微小気泡前駆体)より形成される。マイクロバブルはこの粉末をこの水性液状担体と一緒に攪拌することにより発生する。EP-A-458,745号のマイクロバルーンは、多孔率がコントロールされた弾性的な界面沈澱化ポリマー膜を有する。これらは一般に水性液の中で浮濁物をポリマー溶液の微小液滴にし、次にこのポリマーをこの溶液から沈殿させて液滴/液界面にフィルム形成膜を形成せしめることにより獲得し(この工程はまず液体封入微小気泡の形成をもたらす)、その液状コアを最後に気体により置換することより成る。
【0017】
本発明の方法を実施するため、即ち微小気泡であって水性担体におけるその懸濁物が前記の式に従う気体と一緒に所望の反響性補助剤を構成するようなものを形成又は封入するため、第一の態様として(1)任意の種類の適当な気体の存在下において任意の常用の技術によって適当な出発材料から微小気泡を作ること、及び(2)はじめに利用した気体(第一気体)を交換して、本発明に関する新しい種類の気体(第二気体)を有する微小気泡を調製すること(気体交換技術)、より成る二段階工程を利用することができる。
【0018】
そうでなければ第二の態様に従い、本発明に関する新しい種類の気体の雰囲気下で、適当な常法によって所望の懸濁物を直接調製することができる。
【0019】
二段階工程を用いる場合、最初の気体をまずこの気泡から除去し(例えば吸引のもとで排気することにより)、その後第二気体をこの排気産物と接触させることにより交換するか、又はそうでなければ第一の気体を含み続けている気泡を第二気体と、この第二気体がこの気泡から第一気体を追い出すような条件のもとで接触させること(気体置換)により交換することができる。例えば、この気泡懸濁物又は好ましくはその前駆体(ここでは前駆体はこの微小気泡境界を構成する材料であるか、又は水性担体液との攪拌に基づいてこの液体の中でマイクロバブルの形成を発生せしめうる材料を意味しうる)を減圧にさらして除去すべき気体を排気し、次いで置換のために所望される気体で周囲圧を回復させることによって行うことができる。この工程は新たな気体によるもとの気体の完全なる交換を保証するために1回又は複数回繰り返されうる。この態様は、一定量の担体液との混合に基づいて反響補助剤のバブルを再生又は発生せしめるであろう乾燥保存されている前駆体調製品、例えば乾燥粉末に特に適応する。従い、マイクロバブルを水性相と乾燥層状リン脂質から形成する場合、例えば脱水化凍結乾燥リポソームと安定剤との粉末をその後液状水性担体相の中での攪拌のもとで分散せしめることにより形成する場合、この乾燥粉末は本発明に従って選んだ気体の雰囲気のもとで保存することが好都合である。このような種類の調製品はこの状態において無限に保たれることができ、そして注射前に無菌水の中に分散させることを条件として診断のためにあらゆるときに利用されうる。
【0020】
他方、そして特に気体交換を液状担体相の中の微小気泡の懸濁物に適用するとき、この液状担体相の中に第二気体をフラッシュし、所望の目的にとって十分な交換(部分的又は完全に)を行う。フラッシングはガス管から吹き込むことによって行うか、又はある場合においては、気泡を含む液体の表層をゆっくり攪拌しながらこれに新たな種類の気体の気流(連続的又は不連続的に)を単に流すことによって行う。この場合、この懸濁物を含むフラスコの中に交換気体を一回だけ付加しそしてしばらく放置させるか、又は1又は数回繰り返してこの繰り返しの程度(気体交換)がある程度完全なものとなることを保証することができる。
【0021】
他方、前記した第二の態様において、反響性補助剤の懸濁物の完全調製は、従来技術に挙げられる通常の前駆体(出発材料)から出発し、そして従来技術の通常の手段に従って操作することにより行われるが、ただし、例えば空気、窒素、CO2等を通常挙げる従来技術のそれに代わって本発明に関する所望の気体又は混合気体の存在下においてそれを行う。
【0022】
一般に、微小気泡を調製するための第一種類の気体の利用、及びその後の第二種類の気体によるはじめの気体の置換を包括する調製方法(この第二気体は前記微小気泡に異なる反響特性を授けることを意図する)は以下の利点を有する。以降の実施例における結果からよくわかる通り、微小気泡、特にポリマー境界を有するマイクロバルーンを作製するために用いている気体の性質は、前記微小気泡の全体的な大きさ(即ち直径の平均値)に一定の影響を及ぼしている;例えば、精密な条件によって空気のもとで調製したマイクロバルーンの大きさを左及び右心室のエコグラフィーにとって所望される大きさの範囲、例えば1〜10μmの範囲内に属するように正確にコントロールすることができる。これは他の種類の気体、特に本発明の要件に従う気体ではあまり容易ではない。従って、一定の範囲の大きさにあり、且つ直接的な調製を不可能又は非常に困難にするであろう性質の気体を封入している微小気泡を獲得することを希望するとき、その方法は二段階調製工程、即ち、まずより正確な直径及び数のコントロールを可能にするような気体によって微小気泡を調製し、その後この第一気体を気体交換によって第二気体と交換することよりなるであろう。
【0023】
本実施例の説明において、水又はその他の水性溶液の中に懸濁した気体封入微小気泡は周囲よりも高い圧力にかけている。この過剰圧力が一定の値(これは一連の微小球パラメーター及び作業条件、例えば温度、圧縮率、担体液の性質及び溶存気体の含有量〔このパラメーターの相対的な重要性は以降に詳細する〕、気体充填剤の性質、反響性材料の種類、等にとっての一般に典型的な値)に到達したとき、この微小気泡は破裂し始め、バブル数は圧力の増大に伴って徐々に減少し、音響リフレクター効果の完全なる消失が生ずるようになる。この現象は光学的によりよく追尾でき、なぜならこれは光学濃度における対応の変化に平行するから、即ちバブルが連続的に破裂するに従って媒質の透過性は上昇するからである。このため、微小気泡の水性懸濁物(又はその適当な希釈物)を25℃に維持した(標準条件)光度計セルの中に入れ、そして600又は700nmにて、陽圧静水過剰圧を適用し且つ徐々に増加させながら吸光度を連続的に測定する。この圧力はベリスターポンプ(GILSON社のMini-puls)により、光度計セル(これは漏れ止めシールされている)に接続されている種々の高さの液状カラムを給水することによって発生させる。圧力はトルで較正した水銀マノメーターによって測定した。圧縮比は経時的に、ポンプスピード(rpm)と直線関係にあることが見い出された。上記の範囲における吸光度は担体液中の微小気泡濃度に比例することが見い出された。
【0024】
図1は、吸光度対圧力の変化がシグモイド型曲線によって表わされていることを示す。一定の圧力の値までこの曲線はほぼ平らであり、これはバブルが安定であることを示唆している。次に、相対的に急速な吸光度落下が起こり、これはわずかな圧力増加がバブル数に幾分劇的な効果を及ぼす比較的狭い臨界領域の存在を示唆する。全ての微小気泡が消失すると、この曲線は再び水平になる。この曲線の臨界点を最高及び最低光学値の中間、即ち、「完全なバブル」(ODmax)及び「バブルなし」(ODmin)測定値の中間値として選び、これは事実上最初に存在していたバブルの約50%が消失したこと、即ち、光度濃度値が初期測定値の約半分であることに相当し、これをグラフの中に、加圧せしめた懸濁物の透過性の最大(基底線)の高さに対して記載した。曲線の傾きが最大である箇所にも近いこの点を臨界圧PCと定義する。一定の気体に関して、PCは上記のパラメーターに依存するだけでなく、担体液に既に溶存している気体の実際の濃度にも特に依存することが見い出されている:気体濃度が高いほど、臨界圧は高くなる。これに関連して、担体相を可溶性気体によって飽和にすることによって微小気泡の加圧のもとでの破裂に対する耐久性を高めることができ、この可溶性気体はこの気泡の充填物と同一種類であっても異なっていてもよい。例えば、空気封入微小気泡は、担体液としてCO2の飽和溶液を用いることによって過剰圧(>120トル)に非常に耐性にすることができる。残念ながら、この発見は診断分野においては規制された価値を有し、なぜなら造影剤を患者の血流に注射すると(その気体含有量はむろん外でコントロールしてある)、これは注射されたサンプル中にはじめから溶存している気体の効果が無視されるような程度にまでその中で希釈されてしまうからである。
【0025】
微小球充填剤としての種々の気体の性能を再現よく比較するためのその他の容易に得られるパラメーターは、バブル数がはじめのバブル数の75%と25%に相当する圧力値によって規定される圧力間隔(ΔP)の幅である。驚くべきことには、差圧DP=P25-P75が約25〜30トルの値を超える気体に関しては、気体封入微小気泡に対する血圧の破壊効果は小さい、即ち、バブル数の実際の減少が十分にゆっくりとなり、エコグラフィー測定の有意性、精度及び再現性を悪くしないほどとなることが見い出された。
【0026】
他に、PC及びΔPの値は図1に示す試験実験における圧力の上昇速度にも依存する、即ち、圧力上昇速度の一定の間隔において(例えば数十から数百トル/分の範囲において)、その速度が高くなるほど、PC及びΔPに関する値は高くなることが見い出せた。この理由のため、標準温度条件のもとで行った比較も100トル/分の一定上昇速度で行った。ところで、PC及びΔP値の測定における圧力上昇速度の効果は非常に速い速度で水平となることに注目すべきである;例えば数百トル/分の速度のもとで測定した値は心拍動により規定される条件のもとで測定される値と有意の差がない。
【0027】
なぜ一定の種類の気体が上記の特性に従い、そして他の種がそれに従わないかの本当の理由はよくわかっていないが、いくつかの関係がおそらくは存在していることが考えられ、それには分子量及び水溶解度の他に、溶解速度及びその他のパラメーターが含まれるであろう。しかしながらこれらのパラメーターは本発明の実施のために知る必要はなく、なぜなら気体の適格性は上記の臨界に従って容易に決定されうるからである。
【0028】
本発明に特に適する気体の種類は例えばハロゲン化炭化水素、例えばCF4,CBrF3,C4F8,CClF3,CCl2F2,C2F6,C2ClF5,CBrCClF2,C2Cl2F4及びC4F10、フレオン並びに安定なフッ素化カルコゲニド、例えばSF6,SeF6等が挙げられる。
【0029】
本発明に関する微小気泡のための担体として利用される液体の気体飽和の程度は圧力変化のもとでの気泡安定性に重要であることを前記した。実際には、本発明の反響性懸濁物を作るために微小気泡を分散せしめてある担体液は気体、好ましくはこの微小気泡に封入されているものと同じ種類の気体によって平衡に飽和されており、圧力の変化のもとで破裂する微小気泡の耐久性はめざましく上昇している。従って、造影剤として利用される製品が、使用直前に担体液と混合するように乾燥状態で販売されているとき(例えば前記したPCT/EP91/00620に開示されている製品)、気体飽和水性担体をその分散のために利用することが有利である。他方、エコグラフィーの造影剤としてすぐに利用できる微小気泡懸濁物が販売されているとき、気体飽和水性溶液を準備のための担体液として利用することが有利であろう。この場合、この懸濁物の貯蔵寿命は相当長くなり、従ってこの製品は長期間、例えば数週間から数ケ月間、そして更には特別のケースとして1年間ほど実質的に変質することなく(バブル数の実質的な変化なしで)保存されることができるであろう。気体による液体の飽和化は最も簡単には単に気体を室温にて一定の時間にわたって液体の中に吹き込むことにより行われうる。
【0030】
【実施例】
実施例1
空気又は種々の気体により充填されているアルブミン微小気泡をEP-A-324,938号に記載の通り、ブラッド トランスフュージョン サービス、赤十字機構、ベルン、スイス国より入手した5%ヒト血清アルブミン(HSA)により充填された10mlの目盛シリンジを用いて調製した。ソニケータープローブ(ブランソン ウルトラソニック社、米国のソニファーモデル250)をこのシリンジの4mlの標線に至るまでこの溶液の中に浸し、そして音波処理を25秒行った(エネルギー設定値=8)。次にこのソニケータープローブこの溶液の水平面の6mlの標線までもち上げ、そして音波処理をパルスモード(周期=0.3)のもとで再び40秒間行った。4℃で一夜放置させた後、微小気泡をほとんど含む最上層が浮力によって形成され、そして利用されなかった変性タンパク質のアルブミン塊及びその他の不溶物を含む最下層を廃棄した。この微小気泡を新鮮なアルブミン溶液の中に懸濁させた後、この混合物を室温で再び放置し、そして最後に最上層を集めた。以上の順序を周囲雰囲気下で行ったときは空気封入マイクロバルーンが得られる。その他の種類の気体を封入したマイクロバルーンを得るには、このアルブミン溶液にまず新しい種の気体をパージし、次いで上記の操作順序を、この溶液の表層上にこの気体の気流を流すことで行う。次にこの操作の終了時に、ガラスボトルの中にこの懸濁物を入れ、これをシールする前にこの所望の気体を大量に吹き込む。
【0031】
種々の気体を封入した種々のマイクロバルーン懸濁物を、空気で平衡に飽和化させた蒸留水で1:10に希釈し、次いでこれらを前記した光学セルに入れ、そしてこの懸濁物のまわりの圧力を徐々に上げながらその吸光度を記録した。測定の際、この懸濁物の温度は25℃に保った。
【0032】
この結果を以下の第1表に示し、これは名称又は化学式により定義する一連の気体に関して表示した臨界PC値、この気体の特徴的パラメーター、即ちMw及び一定の溶解度、並びにもとのバブル数及びバブルの平均サイズ(容量における平均直径)を表わしている。
【0033】
【表1】

【0034】
第1表の結果より、臨界圧PCは溶解度が低い及び分子量の高い気体に関して高いことがわかる。従って、このような気体を封入した微小気泡は生体内においてより耐久性な反響性信号を提供するであろうことが予測されうる。平均バブルサイズが一般に気体溶解度に伴って大きくなることもわかる。
【0035】
実施例2
実施例1で調製した数種のマイクロバルーン懸濁物のアリコート(1ml)を、生体内における反響性を試験するために実験用ウサギの頸動脈に注射した。左及び右心室のイメージングは、アキュソン(Acuson)128-XP5エコグラフィー装置及び7.5MHzのトランデューサーを用いるグレースケールモードで行った。左心室におけるコントラスト増強の持続時間を一定時間にわたって信号を記録することによって決定した。この結果を第2表にまとめ、これは用いた気体のPCも示す。
【0036】
【表2】

【0037】
以上の結果より、試験した気体の臨界圧と反響性信号との一定の関係の存在がわかる。
【0038】
実施例3
反響性空気封入ガラクトース微粒子(SCHERING AGのEchovist(商標))の懸濁物を、20%のガラクトース溶液8.5ml中のこの固体微粒子3gを5秒間振騰させることによって得た。他の種類の調製品においては、Ecohvist粒子の上の一部の空気を吸引し(0.2トル)、そしてSF6雰囲気により置換させ、これにより、20%のガラクトース溶液の添加後、このヘキサフルオリド硫黄を含む微粒子の懸濁物が得られる。この懸濁物のアリコート(1ml)を実験用ウサギに投与し(頸動脈に注射することにより)、そして心臓のイメージングを前記の実施例に記載の通りに行った。この場合、この反響性微粒子は肺毛細管にわたって輸送されず、従ってこのイメージングは右心室に限定され、そして全信号の持続性は特に有効でなかった。第3表の結果は注射して数秒経過後の信号ピーク強度の値を示す。
【0039】
【表3】

【0040】
低い水溶解度を有す不活性気体であるヘキサフルオリド硫黄は、空気を封入した比較の懸濁物よりも強い反響性信号を発生する反響性懸濁物を提供することがわかる。これらの結果は、SF6を含む種々の気体を封入した空洞及び包接化合物である微粒子のエコグラフィー目的のための利用をそれぞれ開示しているEP-A-441,468号及び357,163号(SCHERING)の教示の観点において特に興味深い。これらの明細書はしかしながら、反響性応答に関してその他のより一般的な気体より勝っているSF6の特別なる利点を報告していない。
【0041】
実施例4
以下の一般的な方法により、気体封入マイクロバブルの一連の反響性懸濁物を調製した:
モル比9/1の水素化ダイズマメ レシチン(ナターマン ホスホリピドGmbH、ドイツ)及びジセチル-ホスフェート(DCP)の混合物1gを50mlのクロロホルムに溶かし、そしてこの溶液を100mlの丸底フラスコに入れ、次いでローターベーパー装置で乾燥するまでエバポレートした。次に20mlの蒸留水を加え、そしてこの混合物を75℃で1時間ゆっくりと攪拌した。これにより多重層リポソーム(MLV)の懸濁物の形成がもたらされ、その後これを75℃にて3μm及び0.8μmのポリカーボネート膜(Nuclepore(商標))に順に押し通した。冷却後、この押し出した懸濁物の1mlのアリコートを9mlの濃ラクトース溶液(83g/l)に希釈し、そしてこの希釈懸濁物を-45℃で凍結した。この凍結サンプルを次に高真空のもとで容器の中で自由流動性粉末となるまで凍結乾燥し、最後にこれに、空気又は以下の第4表に挙げる気体から選ばれる気体を封入した。次にこの粉末状サンプルを担体液としての水10mlに再懸濁し、これは前記の容器を充満するために用いたものと同一種類の気体の気流のもとで行った。この懸濁物をボルテックス ミキサーで1分間、強く振騰させた。
【0042】
種々の懸濁物を事前に25℃で空気により平衡にした蒸留水により1:20に希釈し、次いでこの希釈物を実施例1に開示の通り、全てのバブルが破裂するまで静水圧を徐々に上昇させることにかけた光度計セルにおける光学濃度の測定により、25℃で加圧試験した。この結果を以下の第4表にまとめ、これには更に臨界圧PC,ΔP値(図1参照)も示している。
【0043】
【表4】

以上の結果は、圧力上昇に対する最も高い耐久性はほとんど水の不溶性気体によって提供されることを明確に示唆する。従ってマイクロバブルの挙動はこの点でマイクロバルーンのそれと類似している。更に、高分子量のあまり水溶性でない気体は最も平坦なバブル-破裂/圧力曲線(即ちΔPが最も広い)を提供し、このことは上記した通り、反響性応答の持続性の重要な要因である。
【0044】
実施例5
実施例4の数種のマイクロバブル懸濁物を実施例2に示した通り実験用ウサギの頸動脈に注射し、そして左心室のイメージングを前記の通りに行った。有効な反響性信号が検出される持続時間を記録し、そしてその結果を以下の第5表に示し、ここでC4F8はオクタフルオロシクロブタンを表わしている。
【0045】
【表5】

これらの結果は、マイクロバブルのケースにおいても、本発明の臨界に関する気体は、現在までに利用されてきたほとんどの気体よりもより長い時間にわたって超音波エコー信号を提供するであろうことを示唆している。
【0046】
実施例6
マイクロバブルの懸濁物をまさに実施例4に記載の通りに種々の気体を用いて調製したが、ただしレシチンリン脂質成分をアバンチ ポラー リピッド,バーミングハム,アラバマ州,米国より入手した等モルのジアラキドイルホスファチジルコリン(C20の脂肪酸残基)に代えた。リン脂質対DCPのモル比は9/1のままとした。次にこの懸濁物を実施例4の通りに加圧試験し、以下の第6A表にまとめた結果を第4表のそれと比較した。
【0047】
【表6】

【0048】
第4表の結果と比べて上記のそれは、少なくとも低溶解性気体に関して、リン脂質脂肪酸残基の鎖を伸ばすことにより、圧力増加に対する反響性懸濁物の安定性を劇的に高めることができることを示している。このことは、上記の実験を繰り返すが、ただしリン脂質成分をそれより高級な類似体、即ち、ジーベヘノイルホスファチジルコリン(C22の脂肪酸残基)に代えることによって更に確認された。この場合、このマイクロバブル懸濁物の圧力による破裂に対する耐久性は更に上昇し続けた。
【0049】
本実施例の数種のマイクロバブル懸濁物をウサギに関して前記した通りにイヌにおいて試験した(前側頭血管に5mlのサンプルを注射した後にイメージングした)。実施例4に開示した調製品の挙動と比べて有効な生体内反響応答の有意なる増強、即ちリン脂質成分における脂肪酸残基の鎖長の増大は生体内におけるこの反響剤の有効寿命を伸ばすことが認められた。
【0050】
以下の表においては、脂肪酸残基が種々の鎖長を有している一連のリン脂質の懸濁物から調製したマイクロバブル(SF6)の、ウサギの左心室における相対的安定性を示す(投与量:1ml/ウサギ)。
【0051】
【表7】

【0052】
上記した通り、これらの実施例に記載した耐久性対圧力の測定に関して、100トル/分の定常な圧力上昇速度を維持した。これは、圧力増大の速度の関数としての種々の気体のPC値の変動を示している以下の結果により証明される。これらのサンプルにおいて、用いたリン脂質はDMPCとした。
【0053】
【表8】

【0054】
実施例7
水における懸濁物としての一連のアルブミンマイクロバルーンを、実施例1に記載の方法を利用して空気のもとで、コントロールされた球体サイズ状態において調製した。次に数種のサンプルにおける空気を、周囲圧力にて気体変換吹き付け法により他の種類の気体と交換した。次にこれを蒸留水で1:10に希釈した後、このサンプルを実施例1の通りの加圧試験にかけた。以下の第7表にまとめた結果より、この二段階調製方法はある場合において、実施例1の一段階調製方法よりも圧力に対してより耐性であるエコー発生剤を提供することが見い出せうる。
【0055】
【表9】

【0056】
実施例8
本発明の方法を従来技術、例えばWO-92/11873の実施例1に開示されている実験に適用した。3gのPluronic(商標)F68(分子量8,400の、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンのコポリマー)、1gのジパルミトイルホスファチジルグリセロール(Na塩、アバンチ ポラー リピッド)及び3.6gのグリセロールを80mlの蒸留水に加えた。約80℃に熱した後、透明な均質溶液が得られた。この界面活性溶液を室温に冷やし、そしてこの容量を100mlに合わせた。いくつかの実験において(第8表を参照のこと)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールを、ジアラキドイルホスファチジルコリン(920mg)と80gのジパルミトイルホスファチジン酸(Na塩、アバンチ ポラー リピッド)の混合物に代えた。
【0057】
バブル懸濁物は、三方弁を介して連結された二本のシリンジを用いて得た。一方のシリンジには5mlの界面活性溶液で充填し、そして他方は0.5mlの空気又は気体で充填した。この三方弁はそれを気体含有シリンジに接続させる前にこの界面活性溶液で充填した。二つのピストンを交互に作動させることにより、この界面活性溶液をこの二本のシリンジの前後に移動させて(各方向に5回)乳白な懸濁物を作った。空気で平衡に飽和させた蒸留水で希釈後(1:10〜1:50)、実施例1に従ってこの調製品の圧力に対する耐久性を決定した。圧力の上昇速度は240トル/分とした。以下の結果が得られた。
【0058】
【表10】

本発明の方法を用いること、更には空気をその他の種類の気体により既知の方法においてさえも交換することは、かなりの改善、即ち圧力に対する耐久性が得られることがわかる。これは陰性荷電されているリン脂質(例えばDPPG)の場合及び中性と陰性に荷電されているリン脂質の混合物(DAPC/DPPA)の場合の両方において真実である。
【0059】
以上の実験は更に、圧力に暴露されたとき、即ち、懸濁物を生体に注射したときの破裂に対するマイクロバブル及びマイクロバルーンの感受性の認識された問題が本発明の方法によって有利に解決されることを実証する。破裂に対する高い耐久性及び高い安定性を有するマイクロバブル又はマイクロバルーンの懸濁物が、再現性のよさ及び人間又は動物の身体に基づいて生体内において行われるエコグラフィー測定の向上した安全性を有する懸濁物を提供しながら有利に製造されることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
光学濃度において表わすバブル濃度(バブル数)とこのバブル懸濁物に適用した圧力の関係を示すグラフ。このグラフを作成するためのデーターは実施例4に記載の実験より得た。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-07-06 
出願番号 特願平5-7404
審決分類 P 1 651・ 534- YA (A61K)
P 1 651・ 113- YA (A61K)
P 1 651・ 531- YA (A61K)
P 1 651・ 161- YA (A61K)
P 1 651・ 121- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 のぶよ森井 隆信  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 渕野 留香
横尾 俊一
登録日 2000-12-01 
登録番号 特許第3136016号(P3136016)
権利者 ブラッコ インターナショナル ベスローテン フェンノートシャップ
発明の名称 耐圧性気体封入微小気泡の長寿命懸濁物及びその製法  
代理人 橋本 良郎  
代理人 戸田 利雄  
代理人 戸田 利雄  
代理人 吉田 維夫  
代理人 石田 敬  
代理人 石田 敬  
代理人 吉田 維夫  
代理人 西山 雅也  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 西山 雅也  

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