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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29B
管理番号 1104426
異議申立番号 異議2003-71125  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-02 
確定日 2004-07-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3341505号「プリプレグ用樹脂原料およびその製造方法ならびにプリプレグの製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3341505号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
特許第3341505号の請求項1〜4に係る発明は、平成6年12月15日に特許出願され、平成14年8月23日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、権田京子より、請求項1〜4に係る発明の特許に対して特許異議の申立がなされ、請求項1〜4に係る特許に対し取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月23日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出されたものである。
II.訂正請求について
1.訂正の内容
訂正事項a
請求項1に記載の「樹脂原料であって、」を「エポキシ樹脂原料であって、」と訂正し、「プリプレグ用樹脂原料。」を「プリプレグ用エポキシ樹脂原料。」と訂正する。
訂正事項b
請求項2に記載の「樹脂原料は、」を「エポキシ樹脂原料は、」と訂正し、「プリプレグ用樹脂原料。」を「プリプレグ用エポキシ樹脂原料。」と訂正する。
訂正事項c
請求項3に記載の「樹脂原料を#200メッシュ」を「エポキシ樹脂原料を#200メッシュ」と訂正し、「プリプレグ用樹脂原料の製造方法。」を「プリプレグ用エポキシ樹脂原料の製造方法。」と訂正する。
訂正事項d
請求項4に記載の「前記樹脂原料をろ過する際に樹脂原料を#200メッシュ」を「前記エポキシ樹脂原料をろ過する際にエポキシ樹脂原料を#200メッシュ」と訂正する。
訂正事項e
明細書段落【0001】に記載の「本発明は樹脂原料および」を「本発明はエポキシ樹脂原料および」と訂正し、「樹脂フィルムに形成した樹脂原料」を「樹脂フィルムに形成したエポキシ樹脂原料」と訂正し、「プリプレグ用樹脂原料およびその製造方法」を「プリプレグ用エポキシ樹脂原料およびその製造方法」と訂正する。
訂正事項f
明細書段落【0004】に記載の「マトリックス樹脂として用いるプリプレグ用樹脂原料」を「マトリックス樹脂として用いるプリプレグ用エポキシ樹脂原料」と訂正する。
訂正事項g
明細書段落【0005】に記載の「本発明のプリプレグ用樹脂原料は、」を「本発明のプリプレグ用エポキシ樹脂原料は、」と訂正し、「繊維強化プリプレグを製造する方法に用いる樹脂原料であって、」を「繊維強化プリプレグを製造する方法に用いるエポキシ樹脂原料であって、」と訂正し、「プリプレグ用樹脂原料である。」を「プリプレグ用エポキシ樹脂原料である。」と訂正する。
訂正事項h
明細書段落【0006】に記載の「また、本発明のプリプレグ用樹脂原料の製造方法は、」を「また、本発明のプリプレグ用エポキシ樹脂原料の製造方法は、」と訂正し、「強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いる樹脂原料であって、」を「強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いるエポキシ樹脂原料であって、」と訂正し、「プリプレグ用樹脂原料の製造方法である。」を「プリプレグ用エポキシ樹脂原料の製造方法である。」と訂正し、「前記樹脂原料をろ過する際に樹脂原料を#200メッシュ以上の金網」を「前記エポキシ樹脂原料をろ過する際にエポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の金網」と訂正する。
訂正事項i
明細書段落【0010】に記載の「本発明の樹脂原料は、」を「本発明のエポキシ樹脂原料は、」と訂正し、「または樹脂原料を溶剤に」を「またはエポキシ樹脂原料を溶剤に」と訂正する。
訂正事項j
明細書段落【0011】に記載の「本発明の樹脂原料としては、・・・などであることが好ましい。」を「本発明のエポキシ樹脂原料としては、特に限定されるものではなく、複数種のエポキシ樹脂の混合物であってもよい。」と訂正する。
訂正事項k
明細書段落【0012】に記載の「本発明の樹脂原料としては、」を「本発明のエポキシ樹脂原料としては、」と訂正し、「液状である樹脂原料」を「液状であるエポキシ樹脂原料」と訂正する。
訂正事項l
明細書段落【0013】に記載の「本発明の樹脂原料は、」を「本発明のエポキシ樹脂原料は、」と訂正し、「実質的に樹脂」を「実質的にエポキシ樹脂」と訂正し、「樹脂以外に」を「エポキシ樹脂以外に」と訂正し、「含む樹脂原料において」を「含むエポキシ樹脂原料において」と訂正し、「含む樹脂原料が、」を「含むエポキシ樹脂原料が、」と訂正し、「前の樹脂原料中」を「前のエポキシ樹脂原料中」と訂正し、「樹脂原料中の異物量を」を「エポキシ樹脂原料中の異物量を」と訂正する。
訂正事項m
明細書段落【0014】に記載の「プリプレグ用樹脂原料」を「プリプレグ用エポキシ樹脂原料」と訂正する。
訂正事項n
明細書段落【0018】に記載の「樹脂原料が、樹脂以外に」を「エポキシ樹脂原料が、エポキシ樹脂以外に」と訂正し「配合物である樹脂原料が、」を「配合物であるエポキシ樹脂原料が、」と訂正し、「その場合には樹脂原料を」を「その場合にはエポキシ樹脂原料を」と訂正し、「一方、配合物である樹脂原料が、」を「一方、配合物であるエポキシ樹脂原料が、」と訂正し、「実質的に液状の樹脂のみ」を「実質的に液状のエポキシ樹脂のみ」と訂正する。
訂正事項o
明細書段落【0019】に記載の「この工程で樹脂原料などが」を「この工程でエポキシ樹脂原料などが」と訂正し、「樹脂原料などの滞留部分」を「エポキシ樹脂原料などの滞留部分」と訂正する。
訂正事項p
明細書段落【0021】に記載の「樹脂原料を」を「エポキシ樹脂原料を」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項a〜dは、訂正前の請求項1〜4に記載の樹脂原料を、明細書段落【0011】および実施例に基いて、エポキシ樹脂原料に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項e〜pは、特許請求の範囲の訂正に伴い生じた発明の詳細な説明との整合を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、上記各訂正事項は、いずれも明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.訂正後の請求項1〜4に係る発明
訂正後の請求項1〜4に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いるエポキシ樹脂原料であって、#200メッシュ金網で常圧ろ過したときの異物量が0.1g/kg以下であることを特徴とするプリプレグ用エポキシ樹脂原料。
【請求項2】エポキシ樹脂原料は、樹脂フィルムを形成する温度範囲で液状であることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ用エポキシ樹脂原料。
【請求項3】樹脂原料をろ過した後、その樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いる樹脂原料であって、エポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の金網または該金網と同等のろ過性能を有するろ材を用いてろ過することを特徴とするプリプレグ用エポキシ樹脂原料の製造方法。
【請求項4】樹脂原料をろ過した後、その樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸するプリプレグの製造方法において、前記エポキシ樹脂原料をろ過する際にエポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の金網または該金網と同等のろ過性能を有するろ材を用いてろ過し、次にコーターを用いてフィルム状にコーティングすることを特徴とするプリプレグの製造方法。」
IV.特許異議申立について
1.特許異議申立の概要
特許異議申立人 権田京子は、甲第1号証(特開平6-286067号公報)、甲第2号証(特開平6-206980号公報)、甲第3号証の1(実公平2-31129号公報)、甲第3号証の2(実願昭49-64893号〈実開昭50-153589号〉のマイクロフィルム)、甲第3号証の3(特開平5-166169号公報)、甲第3号証の4(「コーティング方式」槇書店、1983年6月30日発行、「はじめに」の頁、第1〜3頁、第47〜49頁、第210頁)、参考資料1(「単位の辞典」改訂4版 ラテイス(株)昭和61年3月19日発行、第299〜301頁)、参考資料2(特開平11-156920号公報)を提出して、訂正前の請求項1〜4に係る発明は、前記甲第1号証に記載された発明であり、訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、また、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、前記甲第1号証及び甲第3号証の1〜甲第3号証の4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、さらに、訂正前の請求項4に係る発明は、前記甲第1号証〜甲第3号証の4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべき旨主張している。
2.当審が通知した取消の理由について
当審が通知した取消理由は、訂正前の請求項1〜4に係る発明は、刊行物1に記載された発明であり、また、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項、または、第2項の規定に違反してされたものである。
3.判断
(1)当審が平成16年1月14日付けで通知した取消の理由に引用した刊行物およびその記載事項
◆刊行物1(特開平6-286067号公報:甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。
「【産業上の利用分野】本発明は、ポリ-p-フェニレンスルフィド樹脂を繊維シートに含浸せしめた樹脂含浸シートであり、特に熱融着性を必要とする薄肉型の回路基板の絶縁基材に適した樹脂含浸シートに関するものである。」(段落【0001】)
「この分野の絶縁基材として、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸した基材(以下ガラエポと略称することがある)、ポリイミドフィルム、弗素系フィルムなどが一般に知られている。更に、ポリ-p-フェニレンスルフィド(以下PPSと略称することがある)の未延伸シート(以下PPSシートと略称することがある)及び二軸配向フィルム(以下PPSフィルムと略称することがある)を回路基板に用いることが最近特に注目を浴びている。」(段落【0003】)
「本発明の樹脂含浸繊維シートは、繊維シート(A)を上記のPPS樹脂組成物(B)で含浸されたシートであるが、該樹脂組成物からなるフィルムを製造し、該フィルムを用いて、繊維シートに熱圧着する方法が最も好ましい。」(段落【0034】)
「PPS樹脂組成物のフィルムを得る方法は、まず該樹脂組成物を150〜180℃の温度で1〜3時間真空乾燥し、エクストルーダーに代表される溶融押出機装置に供給され、該ポリマ組成物の融点以上の(好ましくは290〜350℃の範囲)の温度に加熱し充分混練した後、スリット状のダイから連続的に押し出し、シート状に該ポリマを成形し該ポリマのガラス転移点以下の温度まで急速冷却することにより、実質的に無配向のPPS未延伸フィルムを得る。」(段落【0035】)
「実施例1
(1)PPS組成物の調製
オートクレーブに、硫化ナトリウム32.6kg(250モル、結晶水40重量%を含む)、水酸化ナトリウム100g、安息香酸ナトリウム36.1kg(250モル)、およびN-メチルピロリドン(以下NMPと略称することがある)76.2kgを仕込み205℃で脱水した後、1,4-ジクロルベンゼン37.1kg(255モル)、およびNMP20.0kgを加え、265℃で4時間反応させた。反応生成物を水洗、乾燥して、p-フェニレンスルフィドユニット100モル%からなり、溶融粘度3100ポイズのポリ-p-フェニレンスルフィド21.1kg(収率78%)を得た。」(段落【0073】)
「上記のポリマに、平均粒径0.7μmの微粒粉末0.1重量%、ステアリン酸カルシウム0.05重量%を添加し、30mm径のエクストルーダーによって、310℃の温度で充分混練して溶融押出し、PPS組成物のペレットを作成した。」(段落【0074】)
「(2)PPSフィルムの調整
上記の組成物ペレットを180℃の温度で3時間真空乾燥した。更に40mm径のエクストルーダーによって310℃で溶融し、充分混練して金網繊維を用いた95%カット孔径10μmのフィルターで瀘過した後、長さ400mm、間隙0.5mm直線状のリップを有するTダイから押出し、表面温度25℃に保った金属ドラム上にキャストし、厚さ25μmの未延伸シート(PPSフィルム-1)を得た。得られたフィルムのTccは142℃であった。」(段落【0075】)
◆刊行物2(特開平6-206980号公報:甲第2号証)には、以下の記載がされている。
「【請求項1】 下記の(A)〜(F)成分、
(A)ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、
(B)N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、
(C)ウレタン変性エポキシ樹脂、
(D)硬化剤、
(E)臭素含有量が60%以上の有機ハロゲン化合物、
(F)自身がUL規格94V-0に相当する難燃性熱可塑性樹脂、を必須成分として含む難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】 請求項1乃至5記載の樹脂組成物を有機繊維及び/又は無機繊維に含浸してなるプリプレグ。」(請求項1、請求項6)
「【産業上の利用分野】本発明は、多層積層用材料、成形材料、複合材料及び接着剤として有用な機械的特性、耐衝撃性に優れた難燃性エポキシ樹脂組成物及びプリプレグに関する。」(段落【0001】)
「また、特開昭62-138524号公報に示されたビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂に臭素含有量が70〜85%の臭素化芳香族化合物を配合した樹脂組成物は、難燃性は良好であるが、耐衝撃性は非常に弱いものであった。そこで本発明は、前記従来のエポキシ樹脂組成物にない性質、即ち、難燃性、耐衝撃性及び耐熱性を全て兼ね備えた難燃性エポキシ樹脂組成物及びその樹脂組成物を用いたプリプレグを提供することを目的とする。」(段落【0006】)
「プリプレグの製造法:本発明のプリプレグの製造法は特に限定されないが、例えば、ホットメルト法あるいは溶剤法を採用することが可能である。」(段落【0030】)
「燃焼性:前記に詳述したとおりの垂直燃焼試験を行なった。
耐熱性(ガラス転移温度):TMA針入モードを用いて、昇温速度20℃/分で測定した。
フィルムコーターを用いてこの樹脂組成物から樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを引き揃えた炭素繊維ベスファイトIM-400(登録商標、東邦レーヨン(株)製、引張強度4510MPa、引張弾性率294GPa)の両面から圧着させ、炭素繊維目付150g/m2 、樹脂含有率34%の一方向プリプレグを得た。」(段落【0032】)
◆刊行物3(実公昭2-31129号公報:甲第3号証の1)には、以下の記載がされている。
「溶融ポリマーを口金又はダイから押出して繊維又はフィルタを製造するに当り、ポリマー中の異物除去は製品品質上極めて重要な問題であり、従来より種々なフィルタが開発され使用されている。」(1頁左欄15〜19行)
◆刊行物4(実願昭49-64893号〈実開昭50-153589号〉のマイクロフィルム:甲第3号証の2)には、以下の記載がされている。
「効率のよいポーラスメタルフィルターに関し、特に飽和ポリエステル樹脂、その他一般樹脂の溶融、溶液流体の濾過に最適に用いられるフィルターに関する。」(1頁下から7〜4行)
「実施例1
厚み3mm、濾過精度20μ・・・よりなるフィルターを用い溶融ポリエチレンテレフタレート・・・で濾過して20μの厚さのフイルムを製膜した。」(3頁11〜16行)
◆刊行物5(特開平5-166169号公報:甲第3号証の3)には、以下の記載がされている。
「ところで基材フィルム上に被覆層として形成される・・・この被覆層中に混入することのある不溶性の異物に由来する粗大突起は・・・従って該被覆層に存在する粗大突起は極力少なくしなければならず、・・・この様な清浄度の高い塗布液を得るには、塗装前に該塗布液を孔径3μm程度以下、より好ましくは1.5μm程度以下のフィルターに通し、粗大不溶物を除去すればよい。」(段落【0035】【0036】【0037】)
◆刊行物6(「コーティング方式」:甲第3号証の4)には、以下の記載がされている。
「a.引かき傷とすじ発生の原因
ブレードコーティングにおける長さの短い引かき傷(scratch)は、ほぼ塗工剤の粘度または固形分濃度に比例する。・・・また、ウエブ上にある不純物(ちりなど)、不適切な塗工剤の濾過およびブレード状態も引かき傷のおもな原因である。」(47頁下から5〜末行)
「長いすじ(streak)の原因としては次のことが考えられる。
(1)端の鋭いすじは、スクリーンで取り除くことのできなかった原材料(顔料、結着剤など)の中に入っている砂状粒子のためである。
(2)かなり幅の広いすじは、スクリーンを通してから塗工剤中に落込んだ乾燥塗工剤片またはさびのような不純物によって生じる。・・・
(1)の砂状粒子については75μm以下(あるいは200メッシュ以下)の粒子では著しいすじを生じなく、160μm以上(あるいは100メッシュ以上)の粒子はすじを生じる。」(48頁13行〜24行)
「以上のことから、新しい塗工剤は少なくとも150〜200メッシュの、再循環塗工剤は100メッシュのスクリーンを通してから用いるべきである。」(49頁20〜21行)
(2)判断
【1】訂正後の請求項1に係る発明(以下、本件発明という)について
刊行物2には、難燃性エポキシ樹脂組成物を有機繊維及び/又は無機繊維に含浸してなるプリプレグを提供することに関して記載され、フイルムコーターを用いて樹脂組成物から樹脂フイルムを作成し、炭素繊維に圧着してプリプレグを得たことが記載されている。(請求項6、段落【0032】)
そこで本件発明と刊行物2に記載の発明とを対比すると、両者は、「樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いるエポキシ樹脂原料である、プリプレグ用エポキシ樹脂原料」の点で一致し、次の点で相違している。
(ア)エポキシ樹脂原料について、本件発明が、「#200メッシュ金網で常圧ろ過したときの異物量が0.1g/kg以下であること」としているのに対し、刊行物2に記載の発明においては、格別明記していない点。
そこで、この相違点について検討する。
刊行物6によれば、塗工剤を塗工する場合において、塗工の不具合の原因は原材料中に存在する砂状粒子であること、砂状粒子が200メッシュ以下の粒子であれば、著しいすじを生じないことが示されている。
また、刊行物1には、繊維シートに含浸する樹脂シート(樹脂フィルムと認める)の調製において、樹脂シート(樹脂フィルム)形成前に予め樹脂をフィルター濾過することが記載されている。
さらに、刊行物3には、ポリマー中の異物の除去は、製品品質上重要な問題であることも示されている。
そうすると、前記刊行物1、3、6に記載の技術に接した当業者であれば、樹脂組成物から樹脂フイルム製品を製作する場合、よりよいフイルム製品を作成するためには樹脂組成物として、予めフィルターで濾過し異物を除去した樹脂組成物を用いれば欠点のない製品が得られるであろうことは容易に予測できることである。
そうであれば、刊行物2に記載の、フイルムコーターを用いてエポキシ樹脂組成物から樹脂フイルムを製作してプリプレグを作成する技術において、よりよいエポキシ樹脂フィルム製品を得るために、採用すべきエポキシ樹脂を予め濾過して使用することは、当然の前処理というべきであって、格別創意工夫を要するものということはできない。
また、濾過に使用するフィルターとして200メッシュのものを採用することも、前記刊行物6の記載を参酌すれば、格別創意工夫なく採用し得るものといえる。さらに、濾過したときの異物量についても、刊行物6の記載を参酌すれば、200メッシュのフィルターで濾過したときの異物量が少ないものが良いことは容易に理解できるところであるから、「異物量が0.1g/kg以下」としたことも格別のことではない。
結局、本件発明が「#200メッシュ金網で常圧ろ過したときの異物量が0.1g/kg以下」としたことは、当業者が必要に応じて適宜設定できるものといえ、これらの数値の限定に臨界的意義があるとはいえない。
また、本件発明の筋状欠点の少ない樹脂フィルムを得るという効果も、刊行物6に記載の塗工技術から予想できる範囲のことである。
したがって、本件発明は、刊行物1、2、3、6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
【2】訂正後の請求項2に係る発明について
訂正後の請求項2に係る発明は、本件発明のプリプレグ用エポキシ樹脂原料において、「エポキシ樹脂原料は、樹脂フィルムを形成する温度範囲で液状であること」としているものである。
しかしながら、刊行物2には、フイルムコーターを用いてエポキシ樹脂組成物から樹脂フイルムを作製したことが記載されており、この記載は、樹脂フィルムを作製する温度範囲においては、エポキシ樹脂はフイルムコーターで処理できる粘性を有するものであって、即ち、これは液状というべきものである。
そして、訂正後の請求項2に係る発明が奏する効果は、格別予想外のものということはできない。
したがって、訂正後の請求項2に係る発明は、刊行物1、2、3、6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
【3】訂正後の請求項3に係る発明について
訂正後の請求項3に係る発明は、「樹脂原料をろ過した後、その樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いる樹脂原料であって、エポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の金網または該金網と同等のろ過性能を有するろ材を用いてろ過することを特徴とするプリプレグ用エポキシ樹脂原料の製造方法」である。
しかしながら、前記【1】において本件発明について示したとおり、「エポキシ樹脂原料を濾過して使用すること、濾過した樹脂をフィルム状に形成すること、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造すること、エポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の濾材を用いて濾過」することについては、刊行物1、2、3、6に記載の発明から容易になし得るものというべきものである。
そして、溶融液状樹脂をポーラスメタルフィルター等の種々の濾材を用いて濾過することは刊行物3、4に記載されているから、樹脂原料を濾過するに当たり、金網だけでなく「金網または該金網と同等のろ過性能を有するろ材」を用いることも、刊行物1、3、4に記載の技術から、格別の創意工夫を要せずして当業者が容易になし得たものといえる。
したがって、訂正後の請求項3に係る発明は、刊行物1〜4、6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
【4】訂正後の請求項4に係る発明について
訂正後の請求項4に係る発明は、「樹脂原料をろ過した後、その樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸するプリプレグの製造方法において、前記エポキシ樹脂原料をろ過する際にエポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の金網または該金網と同等のろ過性能を有するろ材を用いてろ過し、次にコーターを用いてフィルム状にコーティングすることを特徴とするプリプレグの製造方法」というものである。
しかしながら、前記【3】において示したとおり、「エポキシ樹脂原料をろ過した後、その樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸するプリプレグの製造方法において、前記エポキシ樹脂原料をろ過する際にエポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の金網または該金網と同等のろ過性能を有するろ材を用いてろ過」することは、刊行物1〜4、6に記載された技術から当業者が容易になし得るところである。
そして、刊行物2には、樹脂をフイルム上に形成するに当たり、フイルムコーターを用いることが示され、また、刊行物6には、コーターを用いてフィルム状にコーティングする技術も記載されている。
そうすると、エポキシ樹脂原料をフィルム状に形成するに当たり「コーターを用いてフィルム状にコーティングすること」は、刊行物2、6に記載の技術から容易になし得るところといえる。
したがって、訂正後の請求項4に係る発明は、刊行物1〜4、6に記載された発明に基いて当業者容易になし得たものといえる。
V.むすび
以上のとおり、訂正後の請求項1〜4に係る発明は、上記刊行物1〜4、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、訂正後の請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、訂正後の請求項1〜4に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められ、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する 。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プリプレグ用樹脂原料およびその製造方法ならびにプリプレグの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いるエポキシ樹脂原料であって、#200メッシュ金網で常圧ろ過したときの異物量が0.1g/kg以下であることを特徴とするプリプレグ用エポキシ樹脂原料。
【請求項2】 エポキシ樹脂原料は、樹脂フィルムを形成する温度範囲で液状であることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ用エポキシ樹脂原料。
【請求項3】 樹脂原料をろ過した後、その樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いる樹脂原料であって、エポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の金網または該金網と同等のろ過性能を有するろ材を用いてろ過することを特徴とするプリプレグ用エポキシ樹脂原料の製造方法。
【請求項4】 樹脂原料をろ過した後、その樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸するプリプレグの製造方法において、前記エポキシ樹脂原料をろ過する際にエポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の金網または該金網と同等のろ過性能を有するろ材を用いてろ過し、次にコーターを用いてフィルム状にコーティングすることを特徴とするプリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はエポキシ樹脂原料およびプリプレグの製造方法に関し、さらに詳しくは樹脂フィルムに形成したエポキシ樹脂原料を強化繊維に含浸してプリプレグを製造する場合に、得られるプリプレグの欠点を減少せしめることができるプリプレグ用エポキシ樹脂原料およびその製造方法ならびにかかるプリプレグの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】炭素繊維を始めとする高機能強化繊維は、樹脂や金属などのいわゆるマトリックス材料と組み合わせて複合材料(コンポジット)を形成することにより、構造材料として広く用いられている。これらの繊維強化コンポジットは、高度な機械的特性、耐熱性、電気的性質、耐微生物特性などを有しているので、飛行機やロケットなどの航空宇宙用品の構造部材、ゴルフクラブ、テニスラケット、釣竿などのスポーツ用品などとして広く使用され、生産されている。このような複合材料は、特にエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などを予め含浸させたいわゆるプリプレグとして製造され、その後成形に必要な形態に積層された後、硬化させて必要な製品とするのが一般的である。一般的には、プリプレグは、マトリックス樹脂を溶融してフィルム状に形成するか、もしくはマトリックス樹脂を溶剤に溶解してフィルム状に形成した後溶剤を除去して得た樹脂フィルムを強化繊維に含浸して製造されるか、またはマトリックス樹脂を溶剤に溶解して、それを直接強化繊維に含浸してからシート状に形成しその後溶剤を除去することにより製造される。特に、強化繊維が一方向に配列したプリプレグの場合には、通常、前者の方法が採用されることが多い。
【0003】マトリックス樹脂をフィルム状に形成する場合、各種のコーターを用いてマトリックス樹脂を離型紙などの離型材料にコーティングする。通常、プリプレグに用いる樹脂フィルムは、その膜厚が200μm以下と非常に薄く、膜厚の均一性のためには、供給樹脂量の制御の高度な均一性が要求される。しかし、従来、マトリックス樹脂を樹脂フィルムとなした時に樹脂の塗布量の少ない部分や、極端な場合は、未塗布部分が筋状に発生する、いわゆる筋状の欠点を誘発するという問題があった。このような樹脂フィルムにおける筋状の欠点は、これを用いてプリプレグとなした場合に、欠点部分に存在する強化繊維が樹脂未含浸となって樹脂含浸斑を生じ、そのままプリプレグ製品の欠点となり得る。
【0004】
【発明の解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、筋状欠点や樹脂含浸斑などの欠点の少ないプリプレグを与え得るマトリックス樹脂として用いるプリプレグ用エポキシ樹脂原料およびかかるプリプレグの製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明のプリプレグ用エポキシ樹脂原料は、上記課題を解決するため、次の構成を有する。すなわち、樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いるエポキシ樹脂原料であって、#200メッシュ金網で常圧ろ過したときの異物量が0.1g/kg以下であることを特徴とするプリプレグ用エポキシ樹脂原料である。
【0006】また、本発明のプリプレグ用エポキシ樹脂原料の製造方法は、上記課題を解決するため、次の構成を有する。すなわち、樹脂原料をろ過した後、その樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸することで繊維強化プリプレグを製造する方法に用いるエポキシ樹脂原料であって、樹脂原料を#200メッシュ以上の金網または該金網と同等のろ過性能を有するろ材を用いてろ過することを特徴とするプリプレグ用エポキシ樹脂原料の製造方法である。さらに、本発明のプリプレグの製造方法は、樹脂をろ過した後、その樹脂をフィルム状に形成し、得られた樹脂フィルムを強化繊維に含浸するプリプレグの製造方法において、前記エポキシ樹脂原料をろ過する際にエポキシ樹脂原料を#200メッシュ以上の金網または該金網と同等の性能を有するろ材を用いてろ過し、次にコーターを用いてフィルム状にコーティングすることを特徴とするプリプレグの製造方法である。
【0007】以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】マトリックス樹脂をコーターでフィルム状にコーティングする際、通常、樹脂をポットなどに一定時間滞留させるが、本発明者らが検討したところによると、樹脂液がコーターのスリットを通過する際、異物が存在するとスリットによるろ過がおこり、異物の蓄積が生じると共に異物の成長が起こることを見出した。そして、これにより、コーティング時にコーターのスリット部分から吐出される樹脂の流れを妨害して、樹脂フィルムに筋状の欠点が生じるのである。
【0009】このような異物は、その核が、樹脂の変性物、人間の皮膚などの有機物、塵、埃に由来すると考えられる無機物からなっており、ポットなどの中での滞留、攪拌によって徐々に成長する。したがって、スリットにおける樹脂吐出を妨害する大きさ、すなわちスリットの幅以上の大きさの異物を予め除いておくだけでは不十分であり、もっと小さな粒子をも除去する必要があることを見い出し、本発明に到達した。
【0010】本発明のエポキシ樹脂原料は、#200メッシュ金網で常圧ろ過したときの異物量が0.1g/kg以下であることが必要である。常圧ろ過は、樹脂原料が液状となる温度に保持して行うか、またはエポキシ樹脂原料を溶剤に溶解して行なうことができる。異物量が上記範囲を越えると、マトリックス樹脂をコーターでフィルム状にコーティングする場合、コーターのスリットへの異物の蓄積、成長が顕著に発生し、これにより、コーティング時にコーターのスリット部分から吐出される樹脂の流れを妨害して樹脂フィルムに筋状の欠点が生じる。
【0011】本発明のエポキシ樹脂原料としては、特に限定されるものではなく、複数種のエポキシ樹脂の混合物であってもよい。
【0012】また、本発明のエポキシ樹脂原料としては、特にそれが樹脂フィルムに形成する温度範囲で液状であるエポキシ樹脂原料であることが好ましい。かかる温度範囲としては、好ましくは30〜150℃、より好ましくは60〜110℃である。
【0013】本発明のエポキシ樹脂原料は、各種樹脂の混合物であっても良い。また、実質的にエポキシ樹脂のみからなっていても良いし、エポキシ樹脂以外に、硬化剤、添加剤、溶剤などの成分を含んでいても良い。かかる成分を含むエポキシ樹脂原料において、樹脂フィルムに形成する際の温度、濃度においてかかる成分が固体状でない場合には、かかる成分を含み、かつ異物量を前記範囲とする樹脂原料をそのままマトリックス樹脂として用いることができる。一方、かかる成分を含むエポキシ樹脂原料が、樹脂フィルムに形成する際の温度、濃度において固体状の成分を含むときには、かかる固体状の成分を配合する前のエポキシ樹脂原料中の異物量を前記範囲とするか、かかる成分とともに溶剤に溶解されてなるエポキシ樹脂原料中の異物量を前記範囲とすることが好ましい。
【0014】本発明のプリプレグ用エポキシ樹脂原料は次のようにして製造することができる。
【0015】本発明においてプリプレグに用いる樹脂原料の種類としては、前記したものが用いられる。
【0016】かかる樹脂原料はあらかじめろ過することにより樹脂原料中の異物量を前記範囲とすることができる。ろ材の材質としては、とくに限定はなく、金網、焼結金網、金属繊維、焼結金属繊維、ガラス繊維、パウダーろ材、メンブレン、起毛布等が挙げられる。これらろ材を用いて、ストレーナー、カートリッジタイプやディスクプレートタイプのろ過機、フィルタープレスなどの装置で常圧、または加圧して、好ましくは成分の変性を生じない程度の温度、時間加熱してろ過するのである。樹脂原料をエクストルーダーで混練して配合するような場合には、その出口にろ過機を設置して加圧ろ過し、混練とろ過を連続して実施することもできる。ろ材として金網を用いる場合は、#200メッシュ以上、好ましくは#400メッシュのものであることが必要である。
【0017】金網以外のろ材を用いる場合には、#200メッシュ以上、好ましくは#400メッシュ以上の金網と同等の性能を有するろ材であることが必要である。このようなろ材の例としては、100ミクロンのポーラスメタル、#100SUSろ材などがある。
【0018】エポキシ樹脂原料が、エポキシ樹脂以外に、硬化剤、添加剤、溶剤など、マトリックス樹脂となすための他の成分を含む場合において、配合物であるエポキシ樹脂原料が、樹脂フィルムに形成する際の温度、濃度において固体状の成分を含まないときには、配合物となした後にろ過することが好ましい。その場合にはエポキシ樹脂原料をそのままマトリックス樹脂として使用することができる。一方、配合物であるエポキシ樹脂原料が、樹脂フィルムに形成する際の温度、濃度において固体状の成分を含むときには、配合物とした後にろ過するよりも、むしろかかる固体状の成分を配合する前の樹脂原料についてろ過を行い、その後に固体状の成分と配合してマトリックス樹脂とすることが好ましい。この場合、固体状の成分は、その成分にもよるが、粉砕時の粒度の制御と粉砕後の2次凝集の防止により粗大粒子が存在しないように、具体的には、固体状の成分の粉砕後の粒度がコーターのスリット幅の1/2以下となるようにしておけば異物の核になることは少ない。したがって、実質的に液状のエポキシ樹脂のみからなる樹脂原料をろ過しておくだけでも本発明の効果を十分得ることができるのである。
【0019】本発明において、ろ過後に樹脂原料同士を配合したり、樹脂原料と各種成分の配合を行なう場合には、配合のための装置として、エクストルーダータイプの混練器、バーバリーニーダー、静止型攪拌機、ミリングロールなどを用いて、常温または加温して実施できるが、この工程でエポキシ樹脂原料などが熱履歴による変性のため新たな異物が生じないようにするため、配合の温度、時間は混合状態が均一となるに最小限の必要量にとどめることが好ましい。また、これらの配合に用いる装置は、エポキシ樹脂原料などの滞留部分が少なく、容易に清掃できる構造であるのが好ましい。さらに、かかる配合装置は、塵、埃等から隔離された環境雰囲気内に設置されるのが好ましい。より好ましい環境雰囲気の例としては、クラス1万以下の清浄雰囲気、更に好ましくはクラス1千以下の清浄雰囲気を挙げることが出来る。また、作業員も防塵衣、防塵帽子を着用し、塵、埃等が混入しないよう充分な対策を取ることが好ましい。防塵衣はフィラメントを素材とし、制電性を付与したものが好ましい。
【0020】さらに、ろ過後の樹脂原料やマトリックス樹脂を取り扱う際には、塵、埃等の混入を防ぐため、清浄な環境で、包装材、作業手袋などの部分混入を避けるのが良い。特に人間が樹脂原料を扱う際、直接の接触を避けるため、通常、作業手袋を使用するが、樹脂の粘着性のため手袋を構成する繊維が樹脂中に混入したり、直接皮膚の一部が混入したりするのを防止するのが望ましく、この場合、直接の接触を避けるか、繊維が脱落する可能性のないライニング加工された手袋や、ゴム手袋を使用することが好ましい。
【0021】このようにして得られたエポキシ樹脂原料をマトリックス樹脂としてフィルム状に形成して、強化繊維に含浸するのである。
【0022】本発明においてマトリックス樹脂をフィルム状に形成するための装置としては、ナイフエッジコーター、リバースロールコーター、スクイーズロールコーター等の各種コーターが用いられる。
【0023】かかるコーターは、樹脂配合装置と同様に、塵、埃等から隔離された環境雰囲気に設置し、作業員も防塵衣、防塵帽子を着用するなどの充分な対策を取ることが好ましい。より好ましい環境雰囲気の例としては、JIS B 9920で規定する清浄度クラス1万以下の清浄雰囲気、更に好ましくは清浄度クラス1千以下の清浄雰囲気を挙げることができる。
【0024】また、プリプレグに用いる強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、あるいはシリコーンカーバイド繊維などの無機繊維、ナイロン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリルなどの有機繊維が適用できる。なかでも炭素繊維、ガラス繊維がその性能、コストの面から最も好適に使用される。炭素繊維はその前駆体(プリカーサ)として、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系その他特に限定はされるものではないが、特に引張強さが2GPa以上で、引張弾性率が200GPa以上、好ましくは270GPa以上のアクリル系炭素繊維やピッチ系炭素繊維では著しい効果が発揮されるので好ましく適用される。強化繊維のストランド当たりのフィラメント数としては、通常500〜100000の範囲で選ぶことが出来る。
【0025】強化繊維とマトリックス樹脂を組み合わせたプリプレグとしては、強化繊維を一方向に互いに平行にシート状に引き揃えたものや、強化繊維を織物やマットなどに形成せしめたものにマトリックス樹脂を含浸したものがある。また、通常、これらのプリプレグにはその一面にスクリムクロスなどや、離型紙などが貼り合わせてあることが多い。
【0026】特に繊維目付けが200g/m2以下の、いわゆる薄ものプリプレグを製造する場合には、それに用いる樹脂フィルム品位に対する品質要求が特に厳しいので、本発明の効果がより顕著に現れる場合が多い。
【0027】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに具体的、かつ詳細に説明する。
【0028】なお、本実施例中、樹脂原料中の異物量、樹脂フィルムの筋状欠点の量およびプリプレグの品位は、次のようにして評価した。
【0029】樹脂原料中の異物量は、1kgの樹脂原料を#200メッシュ金網で常圧ろ過したときのろ別された異物の重量(g)で評価した。
【0030】樹脂フィルムの筋状欠点の量は、樹脂フィルムに0.5mm幅以上の筋が発生した場合を欠点1回と数え、その樹脂フィルム1km当たりの回数を数えた。
【0031】プリプレグの品位は、プリプレグの含浸性を目視観察して評価した。評価結果の記号の意味は、次の通りである。
【0032】◎:未含浸部分がない
○:わずかながら未含浸部分がある
△:やや未含浸部分が多い
×:未含浸部分が多い
(実施例1)テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンタイプのエポキシ樹脂、ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂、およびビスフェノールFタイプのエポキシ樹脂を配合した、90℃で液状の樹脂原料を#200メッシュ金網でろ過した。ろ過後の樹脂原料中の異物量は、表1に示す通りであった。得られた樹脂原料に硬化剤としてジアミノジフェニルサルフォンを配合したマトリックス樹脂を90℃に加熱して目付け50g/m2の樹脂フィルムに形成し、引張弾性率29.5×103kgf/mm2、引張強さ560kgf/mm2の炭素繊維を引揃え、上下から該樹脂フィルムではさんで含浸して、炭素繊維の重量含有率が55%である一方向プリプレグを作製した。評価結果を表1に示す。
【0033】(実施例2)ろ材を#500メッシュ金網に変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。樹脂原料中の異物量などの評価結果を表1に示す。
【0034】(比較例1)ろ過を行なわなかった以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。樹脂原料中の異物量などの評価結果を表1に示す。なお、個々のエポキシ樹脂の異物量の合計は、0.225g/1kgであった。
【0035】(比較例2)ろ材を#150メッシュ金網に変更した以外は、実施例1と同様にして、プリプレグを作製した。樹脂原料中の異物量などの評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

(実施例3)フェノールノボラックタイプのエポキシ樹脂、クレゾールノボラックタイプのエポキシ樹脂、ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂、硬化剤としてジシアンジアミドを配合したマトリックス樹脂を製造するに際し、ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂原料(90℃で液状)のみを#200メッシュ金網でろ過した後配合した。ろ過後のビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂原料中の異物量は表2の通りであった。
【0037】得られたマトリックス樹脂を、70℃に加熱して目付け70g/m2の樹脂フィルムに形成し、引張弾性率30×103kgf/mm2、引張強さ500kgf/mm2の炭素繊維を引揃え、上下から該樹脂フィルムではさんで含浸して、炭素繊維の重量含有率が60%である一方向プリプレグを作製した。評価結果を表2に示す。
【0038】(実施例4)ろ材を#500メッシュ金網に変更した以外は、実施例3と同様にしてプリプレグを作製した。樹脂原料中の異物量などの評価結果を表2に示す。
【0039】(比較例3)ろ過を行なわなかった以外は、実施例3と同様にしてプリプレグを作製した。樹脂原料中の異物量などの評価結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

(実施例5)テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンタイプのエポキシ樹脂、ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂、硬化剤としてジアミノジフェニルサルフォン、および添加剤としてポリエーテルイミドタイプの熱可塑性樹脂をメチルエチルケトンに溶解した。この配合樹脂溶液中の異物量は,0.146g/1kgであった。
【0041】この配合樹脂溶液を#500メッシュ金網でろ過した。ろ過後の配合樹脂溶液の異物量は0.003g/1kgであった。ろ過後の配合樹脂溶液をフィルムに形成した後、溶剤を除去した。樹脂フィルムの目付けは70g/m2であり、筋状欠点量は、2.4回/kmであった。
【0042】(比較例4)ろ過を行なわなかった以外は、実施例5と同様にして樹脂フィルムを作製した。樹脂フィルムの目付けは70g/m2であり、筋状欠点量は、10.9回/kmであった。
【0043】
【発明の効果】本発明により、プリプレグを製造するに必要な樹脂フィルムを樹脂量均一として形成できるため、特に筋状欠点のない樹脂フィルムを得ることができる。それにより樹脂フィルムに強化繊維を含浸した後の樹脂含浸斑が防止できるため、筋状欠点の少ないプリプレグを製造することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-06-08 
出願番号 特願平6-312199
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B29B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 佐野 整博
石井 あき子
登録日 2002-08-23 
登録番号 特許第3341505号(P3341505)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 プリプレグ用樹脂原料およびその製造方法ならびにプリプレグの製造方法  

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