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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1104466
異議申立番号 異議2002-71369  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-31 
確定日 2004-09-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第3235685号「脱酸素剤入り包装用材料」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3235685号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3235685号の請求項1〜2に係る発明についての出願は、平成5年1月11日に出願され、平成13年9月28日にその設定登録がなされ、その後、その請求項1〜2に係る発明の特許について、特許異議申立人三菱化学株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年6月29日に特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許第3235685号の請求項1〜2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明2」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】 プラスチック基材と該プラスチック基材の少なくとも片面に設けられた酸化珪素系薄膜層とからなるガスバリア性を有する包装材料において、該薄膜の比重が1.80〜2.20であることを特徴とする脱酸素剤入り袋用包装用材料。
【請求項2】 薄膜層上に、さらにヒートシール層が設けられている請求項1記載の脱酸素剤入り袋用包装用材料。

3.特許異議申立てについて
(1)特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人三菱化学株式会社は、甲第1号証(1の1)(特開平4-168041号公報)、甲第1号証(1の2)(三菱化学株式会社筑波事業所フィルム技術開発センターの吉田重信が作成した、2002年5月16日付けの実験報告書)、甲第2号証(特開平1-206036号公報)、甲第3号証(特開昭62-229526号公報)及び参考資料(伊藤隆司外2名著「電子材料シリーズVLSIの薄膜技術」、丸善株式会社、平成4年10月10日発行、p.40-43)を提出し、
[理由1]本件発明1〜2は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、
[理由2]本件発明の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、
本件発明1〜2に係る特許を取り消すべき旨主張している。

(2)取消理由の概要
当審において通知した、平成16年4月26日付け取消理由通知書の取消理由の概要は、本件発明1〜2は、刊行物1(特許異議申立人三菱化学株式会社提出の甲第1号証(1の1))に記載された発明であり、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、また、本件発明1〜2に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1〜2に係る特許は取り消されるべきである、というものである。

(3)甲各号証及び参考資料に記載の事項
甲第1号証(1の1)
ア.「(1)透明プラスチックフィルムの少なくとも片面に厚さ100〜5000Åのケイ素酸化物よりなる蒸着薄膜を有する蒸着フィルムおいて、蒸着薄膜のケイ素単結晶に対するESCA法によるエッチング速度の比が30倍以下であることを特徴とする蒸着フィルム。
(2)透明プラスチックフィルムの少なくとも片面にケイ素酸化物の薄膜を蒸着して蒸着フィルムを製造するに当り、5×10-4Torr以下の真空下において、次の(I)式で定義される蒸着速度V(Å/sec)が1000〜5000Å/secの範囲の条件下で真空蒸着することを特徴とする請求項第1項記載の蒸着フィルムの製造方法。

V= (t×v)/l (I)

上記(I)式において、tは蒸着されたケイ素酸化物薄膜の厚さ(Å)、vは蒸着中のフィルムの走行速度(m/sec)、lは蒸着有効長さ(m)を意味する。
(3)請求項第1項記載の蒸着フィルムをガスバリヤ性フィルムとして少なくとも1層含む透明な積層フィルムからなることを特徴とする透明ガスバリヤ性積層フィルム。
(4)少なくとも一方の外表面にヒートシール可能なシーラント層が積層されていることを特徴とする請求項第3項記載の透明ガスバリヤ性積層フィルム。」(請求項1〜4)
イ.「本発明の製造方法においては、真空チャンバー(1)内の圧力を5×10-4Torr以下とし、そして、次の(I)式で定義されるケイ素酸化物の蒸着速度(V)を1000〜5000(Å/sec)の範囲にすることが重要である。

V= (t×v)/l (I)

上記(I)式において、tは蒸着されたケイ素酸化物薄膜の厚さ(Å)、vは蒸着中のフィルムの走行速度(m/sec)、lは蒸着有効長さ(m)を意味する。
なお、上記の蒸着有効長さは、第1図中の2つの隔板(8)の間の長さである。
そして、上記のような特定の蒸着速度条件下の真空蒸着は、5×10-4Torr以下の真空条件下において、次の(II)式で定義される蒸着源収納ルツボに対する加熱用供給電力比(w)が0.01〜0.05kw/cm2の範囲の条件下で真空蒸着することにより達成される。

w= W/s (II)

上記(II)式において、Wは高周波誘導加熱コイル(7)よりルツボ(5)に与えられる加熱用全供給電力(kw)、sはルツボ(5)の全表面積(全側面積と全開口部面積の和)(cm2)を意味する。
本発明の製造方法において、好ましい圧力(真空度)は、1×10-4Torr以下であり、また、好ましい加熱用供給電力比(w)は、0.015〜0.04kw/cm2の範囲である。
圧力が5×10-4Torr以上(低真空側)の場合、または、加熱用供給電力比(w)が0.01kw/cm2以下(低加熱電圧)の条件では、上記の(I)式で定義される蒸着速度(V)が1000Å/sec未満となり、・・・ケイ素単結晶のエッチング速度の30倍以上となり、極めてエッチングされ易い。
圧力が5×10-4Torr以下(高真空側)の場合、または、加熱用供給電力比(w)が0.01kw/cm2以上(高加熱電圧)の条件では、・・・蒸着速度(V)が5000(Å/sec)を超え、その結果、ルツボが破壊されたり、蒸発材料が粒子に飛散してフィルム面にピンホールが発生する。」(第3頁右下欄4行〜第4頁右上欄10行)
ウ.「透明ガスバリヤ性積層フィルムは、蒸着フィルムの片面にヒートシール可能な・・・シーラント層を積層して構成することができる。」(第4頁右下欄6〜9行)
エ.「〈ESCAによるエッチング速度〉
エッチングは、X線光電子分光装置・・・を使用し、装置内の真空度が2×10-5から4×10-4Paになるまでアルゴンガスを導入し、・・・Ar+イオンを試料に照射することによって行った。・・・
そして、ケイ素単結晶のエッチング速度は、・・・エッチング面と非エッチング面の段差を触針式表面粗さ計を用いて測定し、その結果より算出した。
一方、透明プラスチックフィルム上に形成したケイ素酸化物蒸着薄膜のエッチング速度は、・・・フィルム表面が露出するまで上記のエッチング処理を行い、それに要した時間と予め測定していた蒸着薄膜の厚さから算出した。」(第5頁左上欄12行〜右上欄15行)
オ.「実施例1
第1図に示すような真空蒸着装置を使用して行った。
ルツボ(5)は、口径3.5cmφ、高さ5.3cm、のルツボ(表面積68cm2)のものを使用した。
二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム・・・をフィルム供給ロール(2)から冷却ロール(3)を経てフィルム巻取りロール(4)に巻き取った。
そして、真空チャンバー(1)内を1×10-4Torrの圧力下に維持し、高周波誘導加熱コイル(7)に2.5kwの電力(加熱電力w=0.037)を供給し、ルツボ(5)内の一酸化ケイ素(純度99.9%)を加熱蒸発させ、フィルムの片面の1000Åのケイ素酸化物の透明な蒸着薄膜層を形成させた。得られた蒸着フィルムのケイ素酸化物蒸着薄膜側にシーラント層としてウレタン系接着剤によりポリプロピレンの未延伸フィルム(厚さ50μ)を積層することにより2層構成の透明積層フィルムを得た。
上記の積層フィルムの各物性等を測定し、その結果を表-1に示した。
実施例2〜10及び比較例1〜3
表-1に示した条件に従って実施例1と同様の方法により、蒸着フィルムを得、その各物性等を測定し、結果を表-1に示した。」(第5頁左下欄6行〜右下欄11行、第1図参照)
カ.第6頁上欄の表-1には、実施例、比較例に基づいた蒸着条件、薄膜の特性、積層フィルムの構成、透湿度、酸素透過度及び透明性についての測定データが記載されている。(第6頁上欄表-1)
キ.「以上説明した本発明によれば、ガスバリヤ性・・・に優れた蒸着フィルムが提供され、・・・食品、医薬品、化学薬品などの包装材料として好適に使用することができる」(第6頁左下欄2〜6行)

甲第1号証(1の2)
ク.「1.実験の目的
特開平4-168041号公報、実施例1、実施例2、実施例3、比較例1に記載された酸化珪素を薄膜の比重を本特許(特許第3235685号)記載の測定方法に従って測定すること。」(第1頁)
ケ.「3.実験方法
(1)蒸着フィルムの作成
a)特開平4-168041号公報の実施例1に従い、該公報の第1図に示す構造の真空蒸着装置を用いて蒸着フィルムを作成した。るつぼ(5)は、口径3.5cmφ、高さ5.3cmのルツボ(表面積68cm2)のものを使用した。二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(延伸倍率3×3倍、厚さ25μm)をフィルム供給ロール(2)から冷却ロール(3)を経てフィルム巻取り口一ル(4)に巻き取った。そして、真空チャンバー(1)内を1×10-4Torrの圧力下に維持し、高周波誘導加熱コイル(7)に2.5kwの電力(加熱電力w=0.037)を供給した。ルツボ(5)内の一酸化ケイ素(純度99.9%)を、圧力3×10-5(Torr)、蒸着速度2000Å/sの条件下で加熱蒸発させ、フィルムの片面に膜厚1000Åのケイ素酸化物の透明な蒸着薄膜層を形成させ、蒸着フィルムを得た。
b)特開平4-168041号公報の実施例2に基づき、圧力1×10-4(Torr)、蒸着速度2000Å/s、膜厚1000Åの蒸着フィルムを得た。
c)特開平4-168041号公報の実施例3に基づき、圧力5×10-4(Torr)、蒸着速度2000Å/s、膜厚1000Åの蒸着フィルムを得た。
d)特開平4-168041号公報の比較例1に基づき、圧力1×10-3(Torr)、蒸着速度2000Å/s、膜厚1000Åの蒸着フィルムを得た。
(2)比重の測定
本件明細書記載の方法により、上記の蒸着フィルム試料のポリエステルフィルム分を溶解し、薄膜の密度をJISK7112に準拠した密度測定法により密度を測定し比重を算出した。
a)試料の調整方法
蒸着フィルムより薄膜の単独膜を採取するため約5cm2の試料を切り出し、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)とクロロホルムを1:1の割合で混合した溶媒に、室温にて3時間程度浸漬して基材のポリエチレンテレフタレートフィルムを溶解した。薄膜のみからなる単独膜の状態とし、密度測定の試料片とした。
b)密度の測定
四塩化炭素とブロモホルムとを混合した密度勾配管により密度を測定した。比重はJIS K7112より、次の式により算出した。
S=ρ/K ここに
S:t℃における比重
ρ:t℃における試料の密度
K:t℃における水の密度
4℃の水の密度:0.999972」(第1〜2頁)
コ.第2頁4.測定結果には、特開平4-168041号公報の実施例1〜3、比較例1を追試した薄膜の比重がそれぞれ2.10、1.95、1.83、1.72であることが記載されている。(第2頁)

参考資料
サ.参考資料には、膜の緻密性が下がるとエッチング速度は大きくなることが記載されている。(42頁)

甲第2号証
シ.「1 プラスチック基材と、該プラスチック基材の片面に設けられた、ケイ素原子と酸素原子の比が1:0.3〜2であるケイ素酸化物の透明薄膜層とからなるバリヤー性を有する透明な脱酸素剤入り包装用包装材料。
2 透明薄膜層上にさらにヒートシール層が設けられている請求項1の記載の脱酸素剤入り包装用包装材料。」(請求項1〜2)
ス.「本発明は脱酸素剤入り包装用包装材料に関する。さらに詳しくは、食品を脱酸素剤と共に封入して包装するための包装材料であって、酸素などに対するバリヤー性がすぐれた透明な包装材料に関する。」(第1頁左下欄下3行〜右下欄2行)

甲第3号証
セ.「1.非磁性基板上に磁性薄膜を有し、前記薄膜上に非磁性保護膜を有し、さらに前記保護膜上にオイル潤滑層を有する磁気記録媒体において:
前記非磁性保護膜は見掛け密度が1.70g/cm3〜2.05g/cm3の範囲の酸化シリコンより成る保護膜であることを特徴とする磁気記録媒体。
2.前記非磁性基板は可撓性高分子フィルムであることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の磁気記録媒体。」(特許請求の範囲1、2項)
ソ.「なお、後述の実施例で明らかなように、酸化シリコン膜の見掛け密度を2.05g/cm3以下となるように形成した時には媒体の耐久性は著しく向上し・・・また、酸化シリコン膜の見掛け密度が1.70g/cm3以下である場合にはヘッド摺動によりキズが発生し易い傾向にあった。・・・酸化シリコン膜の見掛け密度が1.70g/cm3から2.05g/cm3の範囲となるように設定すれば、・・・酸化シリコン膜を高周波スバック法によって直接形成することができる。
次に本発明を実施例について説明する。
実施例
ポリエチレンテレフタレートフィルムあるいはポリイミドフィルム上にCo―Cr垂直磁化膜、あるいはパーマロイとCo―Crの二層垂直磁化膜を形成し、該媒体上にSiO2ターゲットを用いて高周波スバッタ法により酸化シリコン膜を320Åの厚さに形成した。・・・
酸化シリコン保護膜の見掛け密度が小さくなるに従って耐久性は向上し、特に見掛け密度が2.05g/cm3以下での耐久性の上昇が大きいことがわかる。・・・酸化シリコン膜の見掛け密度1.80g/cm3以下になると媒体の耐久性は急激に低下し、見掛け密度が1.70g/cm3未満ではキズが発生し易い傾向を示した。
また、第5図は酸化シリコン保護膜の見掛け密度と耐久性とには強い相関関係があることを示すものであり、酸化シリコン保護膜の見掛け密度が小さくとも1.80g/cm3以上の場合には・・・金属媒体の耐久性を高くしていると理解される。」(第4頁右上欄19行〜第5頁左上欄19行)

4.当審の判断
(4-1)特許異議申立てについての判断
(4-1-1)[理由1]について
(本件発明1について)
本件発明1(前者)と甲第1号証(1の1)に記載された発明(後者)との対比・検討
甲第1号証には、上記ア〜キより、プラスチックフィルムの少なくとも片面にケイ素酸化物よりなる蒸着薄膜を有するガスバリヤ性蒸着フィルムが記載され、蒸着フィルムが食品等の包装材料として好適に使用されることが記載されていると認められる。したがって、両者は、
「 プラスチック基材と該プラスチック基材の少なくとも片面に設けられた酸化珪素系薄膜層とからなるガスバリア性を有する包装材料」である点において一致するが、次の点で相違しているものと認められる。
(相違点1)酸化珪素系薄膜の比重が、前者においては、1.80〜2.20と特定されているのに対し、後者においては、該薄膜の比重について記載されてない点。
(相違点2)包装材料が、前者においては、脱酸素剤入り袋用であるのに対し、後者においては、脱酸素剤入り袋用として使用することについて明記されてない点。
まず、相違点1について検討すると、甲第1号証(1の1)において、この相違点1に係る事項が自明の技術的事項であるとも認められず、甲第1号証に記載されているに等しい事項ともいえない。
一方、甲第2号証には、脱酸素剤入り包装用包装材料のプラスチック基材に設けられるケイ素酸化物のケイ素原子と酸素原子の比について記載されているが(上記シ、ス)、ケイ素酸化物薄膜の比重については記載されておらず、相違点1について記載も示唆もされていない。
甲第3号証には、見掛け密度が1.70g/cm3〜2.05g/cm3の範囲の酸化シリコンより成る保護膜を非磁性基板上に形成した磁気記録媒体(上記セ、ソ)が記載されているが、用途が異なり、包装材として用いる記載も示唆もなく、相違点1を示唆するものとはいえない。
また、相違点1について、特許異議申立人は、甲第1号証(1の2)を提示し、甲第1号証(1の1)の実施例1〜3、比較例1を追試した該甲第1号証(1の2)により、この実施例1〜3のものが同等のものであることが証明されている旨主張する。
以下、この主張について検討すると、甲第1号証(1の2)には、甲第1号証(1の1)の実施例1〜3、比較例1を追試したとする(上記ケ)測定結果として薄膜の比重(上記コ)は記載されているが、薄膜の透湿度、酸素透過度については測定されておらず、エッチング速度についても実際に測定したものでなく、甲第1号証(1の1)の実施例1〜3、比較例1のデータをそのまま転記したものであり、また、薄膜の比重に影響を及ぼすと推測されるフィルムの走行速度についても何ら記載されていない。
してみると、甲第1号証(1の2)の実験報告書は、甲第1号証(1の1)の実施例と同一の酸化珪素系薄膜を実施例を忠実に追試して形成したものと認めることはできず、甲第1号証(1の2)の測定結果を直ちには採用することができない。
したがって、相違点1について、甲第1号証(1の1)に記載も示唆もされていない。
以上、相違点1は、甲第1〜3号証から当業者が容易に想到し得たものと認めることはできない。
そして、本件発明1は、この点により本件特許明細書に記載するような作用効果を生じるものであり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易になし得た発明であるとすることはできない。

(本件発明2について)
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1をさらに技術的に限定したものであるから、上記本件発明1について述べたと同趣旨の理由により、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であると認めることはできない。

(4-1-2)[理由2]について
異議申立人が主張する、本件特許明細書は、特許法第36条に規定する要件を満たしていないとする理由の概要は、次のとおりである。
本件明細書には、表1中の薄膜の各比重がどのような製造条件を選択すれば得ることができるのか具体的に記載されておらず、かかる手段は周知のものでもない。
例えば、実施例、比較例の薄膜は製造条件が特定されておらず当業者が該実施例、比較例の薄膜を容易に得ることができない。
そこで、この主張について検討すると、本件特許明細書の段落【0013】には、電子ビーム蒸着法で、フィルムに酸化硅素系ガスバリア薄膜の形成するときの条件として、加熱源として、電子銃(以下EB銃)を用い、EB銃のエミッション電流を0.7〜1.8Aとし、フィルム送り速度は、30〜120m/minと変化させ、蒸気圧は、酸素ガスの供給量を変え、1×10-5〜8×10-3Torrまで条件を変えたと記載され、このような製造条件の範囲内で本件請求項1に規定する比重の薄膜が形成されることは明らかであり、当業者であれば、本件出願時の技術常識を参酌し、前記製造条件を適宜選択して該比重の薄膜を形成することができるものと認められるから、各製造条件が具体的に例示されていないことを以て、本件特許明細書に記載不備があるとはいえず、異議申立人の前記主張は、採用することができない

(4-2)取消理由についての判断
当審において通知した取消理由(3.(2)取消理由の概要参照)の、本件発明1〜2は、刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない、という取消理由については、上記「(4-1-1)[理由1]について(本件発明1について)」で記載したとおり、本件発明1は、刊行物1に記載された発明でなく、また、本件発明1〜2に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、という取消理由については、上記「(4-1-2)[理由2]について」で記載したとおり、本件特許明細書に記載不備がなく、該取消理由はいずれも理由がない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-08-26 
出願番号 特願平5-2675
審決分類 P 1 651・ 531- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 石井 克彦
鴨野 研一
登録日 2001-09-28 
登録番号 特許第3235685号(P3235685)
権利者 東洋紡績株式会社
発明の名称 脱酸素剤入り包装用材料  
代理人 松田 寿美子  
代理人 天野 浩治  
代理人 谷口 操  
代理人 近藤 久美  
代理人 南野 雅明  
代理人 高島 一  
代理人 長谷川 一  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 幸 芳  
代理人 栗原 弘幸  
代理人 山本 健二  
代理人 土井 京子  

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