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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B29C
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない B29C
管理番号 1105503
審判番号 審判1998-35204  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-05-12 
確定日 2004-09-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2501777号の特許無効審判事件についてされた平成11年 8月27日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成11(行ケ)年第0282号平成12年 9月26日判決言渡)があったので、さらに併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第2501777号は、昭和57年10月8日(優先権主張1981年10月8日、スウェーデン国)に出願した特願昭57-177486号(以下「原々出願」という)の一部を新たな出願としようとして平成4年9月30日に出願した特願平4-262343号(以下「原出願」という)の一部をさらに新たな出願としようとして平成6年7月26日に出願(特願平6-174348号)し、平成8年3月13日に設定の登録がされたものである。
これに対し、平成10年4月14日に四国化工機株式会社(以下「請求人1」という)から、平成10年5月12日に日本製紙株式会社(以下「請求人2」という)から、それぞれ、「本件特許を無効にする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求める審判が請求された。
平成10年12月24日に被請求人から答弁書が提出された後、当審は、請求人1の請求した審判事件(平成10年審判第35163号)及び請求人2の請求した審判事件(平成10年審判第35204号)を併合審理することとし、その旨を当事者に通知した。
平成11月5月10日に請求人1から、同年5月11日に請求人2から、それぞれ弁駁書が提出された後、平成11年6月24日に口頭審理を行い、平成11年7月14日に被請求人から第二答弁書が提出された。
審理の結果、本件の原出願は適法に分割されたものでなく、したがって本件の出願日は、原出願日以前に遡及しないから、本件発明は、本件出願前に頒布された原々出願の公開公報に記載された発明であり、その特許は無効であるとの審決が平成11年8月27日付けでされた。
この審決に対して、被請求人エービー テトラ パックは、審決取消の訴えを東京高等裁判所に対して行うとともに、平成11年10月19日に原々出願の発明(特許第1795565号)の特許請求の範囲第3項に記載された発明を削除することを含む訂正審判(平成11年審判第39085号)を請求した。当該訂正を容認する審決が平成12年3月23日になされ、この審決は確定し、上記特許無効の審決を取消す判決(平成11年(行ケ)第282号、平成12年9月26日判決言渡)がされた。
これに対し、請求人2は、平成13年12月6日付けで審判請求理由補充書を提出した。

2.本件特許発明
本件特許発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ泊等の導電性材料層(4)を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10,11)を互いに、その最内層である熱可塑性材料層(3,3)間でヒートシールする装置において、前記熱可塑性材料層(3,3)同志を互いに接触させて該一対の積層材料(10,11)を外側から押しつけるための作用面(8)を有するシールジョー(5)が設けられ、該シールジョー(5)は、非導電性の本体(6)と該本体(6)の一方の側面に設けた導電性の棒(7)とで構成され、該棒(7)は、該一方の側面とで前記作用面(8)を構成するとともに、前記一対の積層材料(10,11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し、該一対の積層材料(10,11)の最内層である前記熱可塑性材料層(3,3)を溶融するべく高周波電源に接続するようになっており、該作用面(8)により、該熱可塑性材料層(3,3)同志が前記シール帯域で圧接され、さらに前記導電性の棒(7)には、該シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられていることを特徴とする積層材料のヒートシール装置。」

3.当事者の主張
審判請求書、答弁書、弁駁書、第二答弁書、口頭審理、及び審判請求理由補充書における当事者の主張は、以下のとおりである。
(1)請求人1の主張する無効理由
(a)特許法第36条第3項及び第4項違反
「突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」との記載は技術的に不明瞭であるから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、又、上記記載は発明の詳細な説明に全く記載されていないから、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満足しない。

(b)本件出願の分割要件違反に基づく特許法第29条第1項第3号違反
「溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」との記載は、原出願の明細書に記載されていないから、本件出願は適法に分割されたものでなく、出願日は現実の出願日である平成6年7月26日となる。そして、上記記載を、被請求人が本件特許に係る平成8年(ワ)第18246号特許侵害行為差止等請求事件において釈明したとおりの「非対称とは、シール帯域を突条の中心線を中心として観念的に2つの部分に分けた場合、このシール帯域の両部分が線対称でないことを示している。」と解釈すると、本件発明は、甲第3号証(平成5年10月19日公開の原出願の公開公報)の図4に記載された発明である。

(c)特許法第29条第2項違反
本件発明は、甲第11〜13号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(d)原出願の分割要件違反に基づく特許法第29条第1項第3号違反
原出願は、原出願発明が原々出願の特許請求の範囲第3項記載の発明と実質的に同一であるから、不適法な分割であって出願日が現実の出願日である平成4年9月30日となる結果、原出願発明は、原々出願の公開公報に記載された発明であるとして拒絶された。
そうすると、昭和63年(行ツ)第164号の最高裁平成2年7月20日判決において「原々出願から分割出願された原出願が不適法な分割出願として拒絶され、その審決が確定している場合、原出願からの分割出願の出願日は原出願の日までは遡及するが、それ以前には遡及しない。」と判示されるとおり、本件出願の出願日は原出願の出願日以前には遡及しないから、その出願日は原出願の日である平成4年9月30日である。そして、本件発明は、甲第10号証(昭和58年8月11日公開の原々出願の公開公報)に記載された発明である。

そして、請求人1は、上記主張を立証する証拠方法として、次の書証を提出している。
甲第1号証:特許第2501777号登録原簿謄本
甲第2号証:特許第2501777号公報
甲第3号証:特開平5-269854号公報
甲第4号証:見坊豪紀他編「大きな活字の三省堂国語辞典第三版」三省堂(1982-5-15)第632頁「対称」
甲第5号証:特開平7-164523号公報
甲第6号証:平成7年6月28日付け拒絶理由通知書
甲第7号証:平成7年10月4日付け手続補正書
甲第8号証:平成8年(ワ)第18246号特許侵害行為差止等請求事件の1997年1月21日付け原告準備書面(二)
甲第9号証:同1997年9月24日付け原告準備書面(五)添付のイ号物件目録
甲第10号証:特開昭58-134744号公報
甲第11号証:フランス特許出願公開2,027,012号公報及び抄訳
甲第12号証:特公昭55-3215号公報
甲第13号証:米国特許第4,145,001号明細書及び抄訳
甲第14号証の1:特願平4-262343号の平成10年9月1日付け特許異議の決定謄本
甲第14号証の2:同拒絶査定
甲第15号証:特願平4-262343号の平成11年1月20日提出の手続補正書
甲第16号証:特願平4-262343号の平成8年8月20日付け手続補正書
参考資料1:孫出願の登録に至るまでの経過表
参考資料2:孫出願の登録に至るまでの分割・補正特許請求の範囲の比較表
参考資料3の1:染野義信・染野啓子編著、「判例工業所有権法(第二期版)9」、第一法規出版株式会社刊行、表題頁及び第1429頁
参考資料3の2:昭和63年(行ツ)第164号の最高裁平成2年7月20日判決
参考資料4の1:平成11年(ネ)第459号特許権侵害差止等請求控訴事件の平成11年2月4日付け第一審判決の取消事由書
参考資料4の2:平成11年(ネ)第459号特許権侵害差止等請求控訴事件の平成11年3月4日付け控訴人準備書面(一)
参考資料4の3:平成11年(ネ)第459号特許権侵害差止等請求控訴事件の平成11年3月9日付け証拠説明書

(2)請求人2の主張する無効理由
(e)要旨変更に基づく特許法第29条第1項第3号違反(その1)
「突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」点については当初明細書又は図面に記載されておらず、この点を加えた平成7年10月4日付けの補正は明細書の要旨を変更するものであるから、本件出願の出願日は平成7年10月4日とみなされる。
そして、甲第1号証(昭和58年8月11日公開の原々出願の公開公報)には、本件発明の上位概念で表現された発明が記載されているから、本件発明は甲第1号証に記載された発明である。

(f)要旨変更に基づく特許法第29条第1項第3号違反(その2)
平成7年10月4日付けの補正では、出願時の明細書に記載されていた、「前記一対の積層材料(10,11)の最内層である熱可塑性材料層(3,3)同士が前記シール帯域およびその両外側帯域で互いに圧接されるようにされ」の記載が削除されており、当該補正の結果、本件の侵害訴訟地裁判決の控訴審である平成11年(ネ)第459号特許権侵害差止等請求控訴事件における東京高裁の判決においては、原出願の明細書及び本件出願時の明細書に一貫して記載されていた、「シール帯域の突条に対応しない部分(隣接領域)に熱可塑性材料のたい積部分を形成される構成」が本件発明の要件ではないと判断されたから、当該記載を削除した平成7年10月4日付けの補正は明細書の要旨を変更するものであり、本件出願の出願日は平成7年10月4日とみなされる。
そして、甲第1号証(昭和58年8月11日公開の原々出願の公開公報)には、本件発明が記載されているから、本件発明は甲第1号証に記載された発明である。

(g)特許法第29条第2項違反
本件発明は、請求人2が提出した甲第12号証、参考資料5〜7(参考資料6は、請求人2が後に提出した甲第14号証に同じ)及び請求人1が提出した甲第11号証に基いて、もしくは、請求人2が提出した甲第12〜14号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(h)本件出願の分割要件違反に基づく特許法第29条第1項第3号違反
本件の侵害訴訟地裁判決の控訴審である平成11年(ネ)第459号特許権侵害差止等請求控訴事件における東京高裁判決の判示するところによれば、本件発明は、シール帯域の隣接領域内に熱可塑性材料の堆積部分を形成しない構成、シール帯域以外を加熱する構成及び溶融熱可塑性材料をシール帯域の外にまで押し流す構成をも包含する発明であるが、原出願の明細書の発明の詳細な説明又は図面には、その要旨とする技術事項のすべてが当業者においてこれを正確に理解しかつ容易に実施することができる程度に記載されていないから、本件出願は適法に分割されたものでなく、出願日は現実の出願日である平成6年7月26日である。そして、本件発明は、甲第1号証(昭和58年8月11日公開の原々出願の公開公報)に記載された発明である。

そして、請求人2は、上記主張を立証する証拠方法として、次の書証を提出している。
甲第1号証:特開昭58-134744号公報
甲第2号証:四国化工機株式会社 開発部 藍原武彦が1999年1月22日付けで作成した「横シール装置のシールテスト報告書」
甲第3号証:本件特許に基づく平成11年(ネ)第459号特許権侵害差止等請求控訴事件における東京高裁の判決
甲第4号証の1:最高裁(一小)昭和53年(行ツ)第101号同55年12月18日判決・民集34巻7号917〜942頁
甲第4号証の2:最高裁(二小)昭和56年3月13日判決・判例工業所有権法現行法編二一二七の一二六〜二一二七の一三六頁
甲第4号証の3:最高裁(二小)昭和49年(行ツ)第2号同53年3月28日判決・審決取消訴訟判決集(昭和53年)173〜188頁
甲第5号証:特開平5-269854号公報
甲第6号証:原原出願(特願昭57-177486号)の平成2年3月12日付手続補正書
甲第7号証:特公平2-42055号公報
甲第8号証:原原出願(特願昭57-177486号)の平成4年1月23日付手続補正書
甲第9号証:東京高等裁判所昭和57年(行ケ)第225号同59年5月23日判決(確定)・無体裁集16巻2号344〜355頁
甲第10号証:原原出願(特願昭57-177486号)の平成4年1月23日付特許異議答弁書
甲第11号証:本件特許第2501777号公報
甲第12号証:特公昭55-3215号公報
甲第13号証:米国特許第4145001号明細書及びその抄訳
甲第14号証:実願昭51-68836号のマイクロフィルム
参考資料1:原原出願(特願昭57-177486号)の願書に最初に添付された明細書及び図面並びに優先権証明書
参考資料2:参考図(A)〜(E)
参考資料3:特開平8-244728号公報
参考資料4:原原出願の特許に対する無効審判事件における平成7年12月31日付け訂正請求書
参考資料5:特開昭55-113550号公報
参考資料6:実願昭51-68836号のマイクロフィルム
参考資料7:特開昭54-72185号公報
参考資料8:特許第2571977号公報
参考資料9:特公平2-42055号公報
参考資料10:平成9年異議第73281号の特許異議申立てについての決定

(3)請求人1の主張に対する被請求人の反論
(3-1)請求人1の主張(a)に対して
平成8年(ワ)18246号東京地裁判決では、「「突条(9)が前記シール帯域(13,14)に非対称的に位置して設けられている」とは、突条がシール帯域(熱と圧力によって共に液密状態にシールされる帯域)の幅方向の中心線から外れた位置に設けられているという意味であると解釈することができる」(判決文第64頁6〜10行)と判示されているのであるから、当該記載自体も明確である。
また、「突条(9)が前記シール帯域(13,14)に非対称的に位置して設けられている。」という構成に対応する技術的説明は、図4及び【0013】(特許公報第7欄1〜12行)に明りょうに記載されている。

(3-2)請求人1の主張(b)に対して
原出願の当初明細書には、突条9が加熱区域に対して非対称に位置して設けられている第2実施例が記載され(甲第3号証第5欄34〜37行)、第2実施例は、図4に示されている。そして、原出願には加熱区域とシール帯域とが一致する態様が示されているのであるから、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」は「シール帯域に対する突条9の非対称的な位置決め」を意味することが明らかである。したがって「溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(13,14)に非対称的に位置して設けられている」という事項は、原出願に明瞭に記載されている。
図4に示されているものは、突条の一側方のみにしかシール帯域が形成されないが、これは、「ある種の充てん物と共に使用するには」突条が一側方に極端に片寄っていることが有利であることからこのような例として第2実施例を説明するために画かれているものであって、もとより突条の一側方のみにしかシール帯域が形成されないものに限定されない。

(3-3)請求人1の主張(c)に対して
本件発明が甲第11〜13号証の発明によって進歩性が否定されるものでないことは、本件発明と基本的構成が同じである原々出願発明に関する、東京高裁平成8年(行ケ)264号判決(原々出願特許に係る無効不成立審決の取消請求事件)によって、既に判断されている。
本件発明と甲第11号証記載の発明とは、本件発明が高周波誘導加熱によりシール帯域以内で導電性材料(4)を加熱するのに対し、甲第11号証はジョー(9)とジョー(11)とを加熱し加熱による伝熱により熱可塑性材料層を加熱するものである点、及びジョーの構造・作用の点で相違する。そして、本件発明の高周波加熱の技術的意義は、シール帯域の熱可塑性材料層全体を瞬時にかつ高速に溶融することにあり、突条による溶融材料の帯域13から帯域14への高速押出と熱可塑性材料層の混合を効果的に行うものであるが、甲第11、12号証には、本件発明の高周波加熱の特徴について示唆するところはない。そして、甲第13号証に記載されている突出リップ(32)は、本件発明の突条と、その技術的意義が全く異なるものである。
また、本件発明は「内容物が在る間に積層材料のシールが行われる、即ちシールを行い得る前に互いに対向して置かれた熱可塑性材料の表面間のすきまから内容物を先ず押し出さなければならない、という形式の包装製造に特有の問題」を解決しようというものであるのに対し、甲第11号証記載のものはこのような包装製造に特有の問題を解決しようとするものではない。

(3-4)請求人1の主張(d)に対して
本件出願は原出願に対し分割要件のすべてを満たしており、本件出願に係る発明を原出願に係る発明であるとしたとき、原出願が原々出願に対して、分割要件のうちの実体的要件のすべてを満たしているから、本件出願は適法な分割出願である。
請求人1が引用する判決の事案は、拒絶査定不服審判についての審決取消訴訟が東京高裁に係属中であるとともに、その原出願の拒絶査定が確定しているという分割出願の事案であるのに対し、本件は、特許権が設定登録されており、原出願が審判に係属中であるという分割出願の事案であって、その条件が異なるから、請求人1が引用する判決の判示事項は本件特許の場合には当てはまらない。
また、本件出願は、別個独立の出願であって、原出願が拒絶査定となったとしても遡って効力が否定されるべきものではない。

そして被請求人は、上記の主張を立証する証拠方法として、次の書証を提示している。
乙第1号証:平成8年(ワ)第18246号判決文 第1〜78頁
乙第2号証:平成8年(行ケ)第264号判決文 第1〜10,20,21,63〜76頁
乙第3号証:請求人が平成8年(行ケ)第264号審決取消訴訟において提出したフランス特許の訳文

(4)請求人2の主張に対する被請求人の反論
(4-1)請求人2の主張(e)に対して
当初明細書の実施例においては加熱区域とシール帯域とが一致する態様を示している(図3)から、実施例の説明において「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」という表現を採用しているが、その意味するところが、「シール帯域に対する突条9の非対称的な位置決め」であることは明らかである。
請求人は、「発明の詳細な記載の『加熱区域に対する突状(9)の非対称的な位置決めにより』なる記載は、凸状が加熱区域の端部に位置することを明らかにしているものの、『突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている』点について何ら開示するものではない。」と主張しているが、図4は、加熱区域に対して非対称的に位置して設けられている一実施例を端的に示したものである。というのも、図4の「凸条が加熱区域の端部に位置すること」は「突条が加熱区域に対して非対称的に位置すること」を最大限に実現しているに他ならないからである。

そして被請求人は、上記の主張を立証する証拠方法として、次の書証を提示している。
乙第1号証:本件特許の出願当初の明細書および図面
乙第2号証:平成7年10月4日付手続補正書
乙第3号証:平成8年(ワ)第18246号判決文 第1〜78頁

4.当審の判断
(1)特許法第36条第3項及び第4項違反について(=請求人1の主張(a))
本件特許明細書の段落【0012】には、「ある種の充てん物と共に使用するには、より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行することが有利であろう。この手法によれば、前述の実施例に比べて更に円滑且つ柔軟性のあるシールを達成することが可能である。」と記載されている。また、同段落【0013】には、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」が記載されており、これを説明する図面として図4が示されている。
これらの記載及び図面からすると、「非対称的に位置して」とは、突条の両側に幅の異なる隣接領域が形成されるような位置、すなわち、ある幅を持った区域の幅方向の中心線から外れた位置を意味するものと解釈できる。
そうすると、「非対称的に位置して」の記載の定義は明確であるから、「突条(9)が前記シール帯域(13,14)に非対称的に位置して設けられている」の記載も明確である。
また、本件特許明細書の段落【0012】によれば、「溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行する」という手法が「前述の実施例に比べて更に円滑且つ柔軟性のあるシールを達成する」という課題を解決するものであることが把握でき、また、段落【0013】の記載からすると、「突条前記シール帯域に非対称的に位置して設けられる」ことは、上記「溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行する」具体的態様であると理解できるものである。
そうすると、発明の詳細な説明には、「突条(9)が前記シール帯域(13,14)に非対称的に位置して設けられている。」という構成に対応する技術的説明が記載されていると認められる。
したがって、上記主張は採用できない。

(2)本件出願の分割要件違反に基づく特許法第29条第1項第3号違反について
(2-1)請求人1の主張(b)について
原出願の明細書中には、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」については記載されるものの、「溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」ことについて明示的な記載はない。
しかし、原出願の明細書の段落【0012】に、「ある種の充てん物と共に使用するには、より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行することが有利であろう。この手法によれば、前述の実施例に比べて更に円滑且つ柔軟性のあるシールを達成することが可能である。」と記載されることからすると、「溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行する」という作用・効果のあるシール装置一般が記載されていたと認められる。そして、「溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行する」という作用・効果は、原出願の明細書の段落【0013】に記載されるような、加熱区域に対して突条9が非対称的な位置決めされるものだけでなく、シール帯域に対して突条9が非対称的に位置して設けられるものであってもこれを奏することは、技術的に自明であり、しかも、ほとんどの場合において、「シール帯域に対して突条9が非対称的に位置する」ことは、「加熱区域に対して突条9が非対称的な位置する」ことに等しいものである。
そうすると、「溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」ことは、原出願の明細書に記載されているに等しいと認められる。
なお、請求人2は、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決めにより」の節が「本発明による装置の第2実施例が用いられる場合には」という限定節に続いて記載されていること、「前述の利点は、突条9の縦方向の縁の一方が作用面8の加熱領域の一方の縁と概ね合致し(図4)」と記載されること、及び、第2実施例を具体的に図示するものが図4に限られること、を理由に、原出願の明細書には、第2実施例、すなわち、突条が加熱区域の「端部」に設けられている態様のみが記載されているのであって、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」ということ自体記載されていないと主張している。
しかし、原出願の明細書の段落【0012】には、「ある種の充てん物と共に使用するには、より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行することが有利であろう。この手法によれば、前述の実施例に比べて更に円滑且つ柔軟性のあるシールを達成することが可能である。」と記載されており、この記載中では、「この手法」が「前述の実施例」と比較されることからすると、「この手法」とは、第2実施例の説明に相当するものと認められる。そうすると、第2実施例の目的とするところは、「より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行する」ことであると認められ、当該目的達成のためには、必ずしも突条が加熱区域の「端部」に設けられる必要はなく、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」によっても当該目的を達成できると認められるから、発明の詳細な説明に記載される第2実施例は、図4に具体的に示される態様に限られるとは認められない。
そうすると、本件出願は、適法に分割されたものであり、本件出願日は原々出願日である昭和57年10月8日まで遡及するから、請求人1の甲第3号証(平成5年10月19日公開の原出願の公開公報)は、本件出願日前に頒布された刊行物であるとは認められない。
よって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるとは認められない。

(2-2)請求人2の主張(h)について
請求人2の分割要件違反の主張は、本件特許の侵害訴訟での地裁判決の控訴審である平成11年(ネ)第459号特許権侵害差止等請求控訴事件における東京高裁の判決において、本件発明の技術的範囲が、堆積部分を形成させる構成に限定されず、シール帯域以外を加熱することやシール帯域の外にまで押し流すことが禁止されていないものであると解釈されたことに基づくものである。しかし、当該解釈に含まれる事項は、本件発明において、構成要件として規定されるものではないから、分割要件の適否を左右するものではない。
したがって、請求人2の上記主張は採用できない。

(3)原出願の分割要件違反に基づく特許法第29条第1項第3号違反について(=請求人1の主張(d))
原々出願については、平成11年10月19日にその特許時の特許明細書(特許第1795565号)の特許請求の範囲第3項に記載された発明を削除することを目的とする審判(平成11年審判第39085号)が請求され、その審判請求書に添付した訂正明細書のとおりの明細書の訂正を容認する審決がなされ、この審決は確定した。
これにより、原出願発明が原々出願の特許請求の範囲第3項記載の発明と実質的に同一であるから、原出願の分割は不適法であるという理由は解消した。
そうすると、本件出願日は原々出願日である昭和57年10月8日まで遡及するから、請求人1の甲第10号証(昭和58年8月11日公開の原々出願の公開公報)は、本件出願日前に頒布された刊行物ではない。
よって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるとは認められない。

(4)要旨変更に基づく特許法第29条第1項第3号違反について
(4-1)請求人2の主張(e)について
出願時の明細書中には、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」については記載されるものの、「溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」ことについて明示的な記載はない。
しかし、出願時の明細書の段落【0012】に、「ある種の充てん物と共に使用するには、より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行することが有利であろう。この手法によれば、前述の実施例に比べて更に円滑且つ柔軟性のあるシールを達成することが可能である。」と記載されることからすると、「溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行する」という作用・効果のあるシール装置一般が記載されていたと認められる。そして、「溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行する」という作用・効果は、出願時の明細書の段落【0013】に記載されるような、加熱区域に対して突条9が非対称的な位置決めされるものだけでなく、シール帯域に対して突条9が非対称的に位置して設けられるものであってもこれを奏することは、技術的に自明であり、しかも、ほとんどの場合において、「シール帯域に対して突条9が非対称的に位置する」ことは、「加熱区域に対して突条9が非対称的な位置する」ことに等しいものである。
そうすると、「溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」ことは、出願時の明細書に記載されているに等しいと認められる。
なお、請求人2は、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決めにより」の節が「本発明による装置の第2実施例が用いられる場合には」という限定節に続いて記載されていること、「前述の利点は、突条9の縦方向の縁の一方が作用面8の加熱領域の一方の縁と概ね合致し(図4)」と記載されること、及び、第2実施例を具体的に図示するものが図4に限られること、を理由に、出願時の明細書には、第2実施例、すなわち、突条が加熱区域の「端部」に設けられている態様のみが記載されているのであって、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」ということ自体記載されていないと主張している。
しかし、出願時の明細書の段落【0012】には、「ある種の充てん物と共に使用するには、より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行することが有利であろう。この手法によれば、前述の実施例に比べて更に円滑且つ柔軟性のあるシールを達成することが可能である。」と記載されており、この記載中では、「この手法」が「前述の実施例」と比較されることからすると、「この手法」とは、第2実施例の説明に相当するものと認められる。そうすると、第2実施例の目的とするところは、「より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行する」ことであると認められ、当該目的達成のためには、必ずしも突条が加熱区域の「端部」に設けられる必要はなく、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」によっても当該目的を達成できると認められるから、発明の詳細な説明に記載される第2実施例は、図4に具体的に示される態様に限られるとは認められない。
そうすると、本件出願日は原々出願日である昭和57年10月8日まで遡及するから、請求人2の甲第1号証(昭和58年8月11日公開の原々出願の公開公報)は、本件出願日前に頒布された刊行物ではない。
よって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるとは認められない。

(4-2)請求人2の主張(f)について
請求人2の要旨変更の主張は、本件特許の侵害訴訟での地裁判決の控訴審である平成11年(ネ)第459号特許権侵害差止等請求控訴事件における東京高裁の判決において、平成7年10月4日付けで補正された特許請求の範囲の記載に基づく本件発明の技術的範囲が、堆積部分を形成させる構成に限定されず、シール帯域以外を加熱することやシール帯域の外にまで押し流すことが禁止されていないものであると解釈されたことに基づくものである。しかし、当該解釈に含まれる事項は、本件発明において、構成要件として規定されるものではないから、分割要件の適否を左右するものではない。
したがって、請求人2の上記主張は採用できない。

(5)特許法第29条第2項違反について
(5-1)甲各号証、参考資料の記載内容
・請求人1の甲第11号証(抄訳は請求人1に対する答弁書提出時の乙第3号証によった)
ア.「本発明は、熱融着可能な材料よりなる接触層と、ある程度の機械強さを有しかつ軟化点がその熱融着可能な材料よりも高い材料よりなる外層とを備えた形式の層状成形材料の融着方法、およびこの方法により熱融着された層状成形材料に関する。」(第1頁第1〜7行)
イ.「本発明の目的は、次のとおりである。-完全な安全性を与え、かつ例えば食料品の粒子によって被融着面が汚されても菌に対して確実に気密な熱溶融が可能なように所定形式の層状成形材料を融着する方法。」(第1頁第10〜15行)
ウ.「本発明によれば、これらの目的ならびに他の目的を達成するのには、特殊外形の融着ジョーを用いて層状成形材料の各熱融着可能な層を相互に押しつけ、これによって分離線から出発し、その両側に広がる漸進的な熱融着の動きによる融着の故に、各接触層を強制的に横に分離する。こうして別々の2つの融着が行われ、それぞれ互いに押しあっている熱融着可能な層の表面にたまたま存在する汚れ粒子を包みこむ。さらに、別々の2つの熱融着部が得られるので、これらの融着部のうちの1つに現われるかも知れない亀裂が他の融着部へ広がる傾向がない。」(第1頁第20〜33行)
エ.「本発明の好ましい1つの実施例によれば、層状に成形された材料には、薄い金層箔よりなる外層と、熱可塑性材料よりなる接触層が含まれている。層状に成形された材料を食料品の包装に使用する場合は、ポリプロピレン被覆の薄いアルミニウム箔によって優れた結果が得られる。本発明の別の特徴によれば、この方法の実施には、常時加熱した融着ジョーを使用する。」(第1頁第34行〜第2頁第3行)
オ.「本発明による方法の実施のため、少なくとも1つが特殊外形を有し、すなわち融着面上に突起領域を呈する融着ジョーを用いるのが好ましい。このジョーの作用面すなわち融着面は外形がV状であり、対向ジョーが平らな融着面を呈し、かつVの各脚がそれぞれ、その平らな面に対し小さな角度をなしていることが好ましい。」(第2頁第13〜20行)
カ.「第1図に示す容器は、蓋(2)によって閉じられた筒と類似の本体(1)からなっている。本体(1)の上縁にはフランジ(3)があり、これに蓋(2)の対応フランジ(4)が熱融着される。容器本体(1)はある程度の機械強さをもつ材料の外層(5)と、熱融着可能な接触層(6)よりなる層状体でできている。蓋(2)の材料は、これと類似の構造をしており、ある程度の機械強さをもつ外層(7)と、熱融着可能な接触層(8)とからなる。各融着ジョーは平らな作用融着面(10)を有する下部ジョー(9)と、2つの融着面すなわち作用面(12)と(13)からなる特殊外形の上部ジョー(11)とからなるが、後者は、断面がV形を呈し、かつそれぞれ平らな作用面(10)と角度αおよびβを画定している。図示の実施例において、角度αおよびβは8度である。蓋(2)を容器本体(1)上に置き、かつ充填容器を、そのフランジが加熱ジョー(9)と(11)の間にくるように配置すると、上部ジョー(11)を層状成形材料(5)(6)および(7)(8)を圧縮する位置まで下げる。層(5)と(7)で伝達される熱により、ジョー(9)と(11)の間に含まれる中央領域において、層(6)と(8)の融着可能材料は溶け、この領域は、圧縮を続けている間徐々に広がる。この圧縮は、層(6)と(8)の溶けた材料が毛細管現象で縮み、中央層(第2図)を去って横方向に分かれ、この領域の両側で熱融着部(14)と(15)を形成するまで続けられる。層(6)と(8)の間にたまたま存在する汚れ粒子(16)は、その縮み移動の際に、溶けた材料の中に完全に埋没してしまう。第2図に示し、かつ層(5)と(7)および熱融着部(16)によって画定された2つの空洞(17)は、それぞれ層(5)と(6)および(8)と(7)にきわめて薄い皮膜として以前に存在しかつこれらの層を相互に接着せしめるために使用された、変形された成層材によってうめられたことが分るだろう。第2図において、図示されているように、層(5)と(7)が、分離線に沿って、たとえ接触していても、これらの層の間には真の接触は存在しないのである。割に高い圧力のもとでも、或る量の成層材は分離線上に残存している。その結果、融着ジョーが相互に離間すると、蓋(2)は容器本体(1)に熱融着され、菌に対し気密となる。トマトソースをかけた魚のような食料品の、本体も蓋もアルミニウム箔で覆われたポリプロピレン製の筒に類似した容器による包装において、優れた結果が得られた。この場合、アルミニウム箔の厚さは50ミクロンであり、ポリプロピレンの層も厚さが50ミクロンである。上部ジョーの作用面(12)と(13)および下部ジョーの作用面(10)との間にそれぞれ形成される角度αおよびβは8°である。各ジョー間の平均圧力は、融着領域については23kgf/cm2であり、この圧力は1.5秒間維持される。上部ジョーの温度は225℃であり、下部ジョーの温度は200℃である。容器のフランジが、包装される食料品によって汚されている場合でも、なお、確実で、菌に完全に気密な熱融着を行なうことができる。」(第2頁第39行〜第4頁第21行)

・請求人1の甲第12号証(請求人2の甲第12号証と同じ)
キ.「包装技術の分野では、例えばポリエチレンやポリプロピレンといつた熱可塑性材料層を含む包装材料がしばしば用いられている。前記熱可塑性材料はそれ自体、流体に対する不透過性のあること及び脂肪酸等に対する良好な抵抗性のあることが認められているだけでなく、2枚の相対向せる積層材料中の可塑性材料を互いに圧せさせこれにより両熱可塑性層間に表面溶融を生じさせながら、これを軟化するまで加熱することによつて、互いにシールされ得るという重要な特性をも有している。前記熱可塑性材料は機械的堅さのある包装材料を得るために、紙等としばしばラミネートされる。そして、気密性即ち良好な風味維持特性のある包装材料が要求される場合には、この積層体はアルミニウム・フオイル等の金属フオイル層をしばしば備えている。(第1頁第1欄第31行〜第2欄9行)
ク.「本発明が提供する装置は可塑性材料より成るシール層と共に金属フオイル層をも含む積層包装材料をシールするときにおける前記の各積困難を避け、これによつて前記各層を互いに好ましい状態にラミネートするものであり、互いに相対向して配置される積層包装材料は、各自の熱可塑性材料層が互いに向い合うように方向決めされ、且2つの加圧ユニツト間で一緒に加圧され、少なくとも被加圧帯域のある部分は、包装材料に対して実質的に直角の方向に向けられた高周波交流磁界の作用を受けさせ、前記電磁界の作用を受ける包装材料中の金属フオイル層の前記部分内には発熱作用のある渦電流を誘導させ、これによつて当該部分を加熱し、熱伝導によつて熱を熱可塑性シール層に伝導させ、かくしてこれを溶融させ、堅密かつ機械的耐久性あるシール接合が成される。(第2欄第30行〜第3欄第9行)
ケ.「第1図に示された包装材料6は、紙又はカートン等より成る基礎層10、ポリエチレン又はポリプロピレン等の熱可塑性材料より成る内側シール層2、好ましくアルミニウム・フオイルより成る金属フオイル層1、及び、基礎層10と金属フオイル層1間の接合層として作用すべく意図されたラミネート層9によつて構成されている。本実施例において、包装材料6はウエツブ状に製造されており、チューブを形成している。・・・このシール装置は、ベークライト、ステアタイト鋳造プラスチック等の電気的絶縁材料で作られた相互に進退可能である2個の加圧ユニット4,5によって構成されている。一方の加圧ユニット4は、図示していない高周波発生装置に接続できるコイル3を装備している。」(第3欄第19〜44行)
コ.「シール作業は加圧要素としての加圧ユニット4,5を互いに圧接させることによって実施される。前記操作によって、両加圧ユニット間に配置されているチューブは扁平にされ、熱可塑性シール層2は互いに対向させられ、相互に圧せられることになる。そして両加圧ユニット4,5が各自の加圧位置に達すると、0.5MHzと2MHzの間の高周波交流好ましくは約1.5MHzの高周波電流が、図示していない高周波発生装置から前記動作コイルを経て導入され、金属フオイル層1を通過する高周波電磁界がコイル3によって発生する。」(第4欄第3〜13行)
サ.「コイル3の誘導作用を増大させるため、ある場合には鉄粉コア、所謂フエライト・コアをコイル3内に配置することが推奨される。高周波電磁界がコイルより0.3mmから1mmの距離にある金属フオイル層1を貫通する結果、所謂渦電流が金属フオイル層1内に誘導され、金属フオイル層1を発熱させる。」(第4欄第14〜20行)
シ.「金属フオイル層1内に発生した熱は、隣接の熱可塑性材料層2に伝えられ、これらの層2は溶融して均質に接着する。前記の接着部は、交流磁界を断った後、冷却され機械的耐久性あるシール部7を形成する。」(第4欄第21〜25行)
ス.「本発明の適用にあたっては、包装材料に少なくとも一枚の金属フオイル層1好ましくはアルミ・フオイルが含まれていること、及び、このアルミ・フオイルがシール層2に直接ラミネートされていることを前提条件にする。これは、シールに必要な熱が金属フオイル層内に発生させられること、及び、前記熱がその後にシール層に伝えられるということに本発明が基礎を置いているからである。第2図に示されている加圧ユニット4はコイル3の輪郭をよく示すものであり、この場合には、動作コイルはエポキシ樹脂に埋設された2巻きの銅棒で構成されている。コイル3の端子11は約1.5MHzの高周波電流を供給する高周波発生装置Gに接続されている。この高周波電流は交流磁界に変換され、その最も強い部分がコイルの巻線に沿って集中する。交番磁界がコイルの曲りに沿って非常に強く集中するという事実のため、加圧ユニットが第2図のように設計されているとすると、互いの間に図中の距離Aに相当するだけの間隔を置いた2本のシール縁が、このシール工程で得られる。シールされたチューブは、前記シール区域を通って切断することにより都合よく分断され、かくして、完全にシールされた包装ユニットが分離されるのである。チューブの全幅にわたつて当該チューブを確実にシールするためには、勿論、チューブの全ての部分がコイルの範囲内に入るように、コイル3は扁平にされたチューブの幅よりも長くなければならない。」(第4欄第29行〜第5欄第13行)
セ.「以上に説明した本装置は、要約して述べれば、積層体中のある層を、同一積層体中の隣接層内に熱を発生させることにより間接的に加熱するものである。本例でいえば、シール温度にまで加熱されるのは熱可塑性シール層であり、シール層のこのような加熱は、金属フオイル層内に渦流損を生じさせる高周波電磁界によって隣接の金属フオイル層が加熱されることにより行われる。金属フオイル層内に発生した渦電流は金属フオイル材料を急速に加熱するが、隣接の可塑性層は、高周波電磁界の直接的影響によっては殆ど変化を受けない。加熱された金属フオイル層が可塑性シール層に隣接して配置されているという事実によって前記シール層は金属フォイル層からの熱伝導によって加熱され、結果としてシール温度にまで間接的に加熱されるのである。」(第5欄第14〜29行)

・請求人1の甲第13号証及び抄訳(請求人2の甲第13号証と同じ)
ソ.「揮発性のある物質から気体を選択的にコントロールして放出する包装を製造する方法であって、以下の工程からなる方法。
(a)解放層と透過性の内層とを、両層が所定の接着強さとなるようにラミネートする段階であって、上記透過層が、揮発性のある物質からの気体を透過できるような熱可塑性材料から形成されている段階、
(b)解放層-透過層のラミネートの解放層側を第1の外層にラミネートし、第1積層パネルを形成する段階であって、その外層が揮発性のある物質からの気体を透過できない材料から形成されており、解放層と該不透過層との間の接着力が解放層と該透過層との間の接着力よりも大きくなっている段階、
(c)第2の熱可塑性樹脂の内層を第2の不透過層の上にラミネートして、第2の積層パネルを形成する段階であって、第2の内層と第2の不透過層の間の接着力が、第1の積層パネルにおける透過層と解放層との間の接着力よりも大きくなっている段階、
(d)第1と第2のパネルを、共に所定量の揮発性物質を覆うように、透過層と第2の内層が向き合うように載置する段階、
(e)第1と第2の層の間に、所定量の揮発性物質を取り囲むような接合部でヒートボンドを形成し、そのヒートボンドは、解放層の透過層への接着力が、透過層と第2の内層の間の結合接着力よりも小さく、解放層とさらに接着された不透過層との接着力よりも小さく、また、第2の内層とさらに接着された不透過層との間の接着力よりも小さくなるように形成されている段階。」(請求項14)
タ.「請求項14の方法において、第1及び第2のパネルを貼り合わせるヒートボンドの段階が、第1と第2のパネルを、所望のヒートボンドの外形を有する上部加熱金型と下部弾性加熱裏当てとの間で押圧することからなる方法。」(請求項15)
チ.「請求項15の方法において、金型の一つのエッジが包装の一方の端部から離れており、金型は、そのエッジに沿って突出するリップを備えており、該上部金型と下部裏当てが、第1及び第2のパネルを覆うように互いに押圧された時、突出するリップが熱可塑性の内層を溶融し押し広げて、包装内の弱いラインを形成するようにし、包装が開封された時、その熱可塑性の透過性のある層が、その弱いラインで裂け、解放層から引き剥がされ、第2パネルの層に結合して残る方法。」(請求項16)
ツ.「図4を参照すると、揮発性脱臭剤液を持つ吸収パッド(28)は、第1と第2積層パネル(13)と(14)の間で部分的に示されている。図4は、包装の層の間から気体の洩れ出しを防ぐため、パッド(28)の周囲に包装の層を密閉する好適な方法を例示する。包装の層は、上部加熱金型(30)と下部弾性裏当てパッド(31)の間でヒートシールされている層を示す。図4で示す金型(30)は、V字形または山形に沿った密閉に使われ、そして面の前端に突出リップ(32)があって、面の残りからわずかに延長している。リップ(32)の延長部は、一般に包装そのものの厚さより大きくなく、4〜5000分の1インチの範囲内が好ましい。金型(30)と裏当てパッド(31)が熱せられるため、包装内の熱可塑性層を金型と裏当てパッドで一定時間充分にプレスすると、熱可塑性層は溶着する。熱可塑性の内層(16)と(17)の間に形成したヒートボンドは非常に強く、パッドの揮発性液体によって層間はく離は起きない。さらに、相当な幅のボンドにより、透過層(16)を通って側方透過による気体の洩れ出しは比較的少ない。上記で述べたように、図1と2の(11)で図示されるヒートシールは、揮発性物質を取り囲むように形成されている。しかし、同時に全てのボンドを形成する必要はない。例えば、V字形の前と長い側面は最初に形成してもよい。それから、パネル(13)と(14)の間に出来たポケットに揮発性物質を含むパッドを置き、その後に密封を完成するのに端面シール(11b)を形成すればよい。液体脱臭剤を初めにできたポケットに直接置いて密封すれば、パッドを運搬する必要がなくなる。図4で示す金型部(30)は、包装の一端から横方向へ離れた位置において最初のV字形ボンドを用意するために使用される。包装の側面部と他端へのヒートボンドを提供するためには、これらの側にボンドの弱い線を設ける必要がないため、平らで突出したリップを具備しない金型を使うことが好ましい。このような弱い線(11a)は、突出リップ(32)の作用により熱可塑性層(16)に形成される。なぜなら、流体熱可塑性材がリップ(32)の下で希薄になり、リップの横へと突き出るからである。よって、リップ(32)の真下の線に沿った透過層(16)は、非常に薄いのである。包装の(16)と(17)層を引離すと、透過層(16)は、線の弱い(11a)の箇所で裂けるが、金型(30)の平たい部分の下でこれらの層の間にできた強いヒートボンドのため、透過層(16)は下にある内層(17)に付着したままである。このように、上層(18)(19)(20)(21)と(22)は引きはがされ、吸収パッド(28)を覆う透過層(16)だけが残る。この結果を図5の断面図で示す。これによってパッド(28)の回りは完全に密封されるが、パッドからの揮発性気体は、透過層(16)を通して大気へ放散することができる。」(第5欄第47行〜第6欄第42行)

・請求人2の甲第14号証(請求人2の参考資料6と同じ)
テ.「水、油等の液体を含む包装物を収納するパックにフイルムを被せシールするシーラの構造において、シーラの先端部の形状に段差を設けることを特徴とするシーラの構造。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
ト.「第1図において、パック1に包装物2を投入するとき、包装物2内に水等の液体2′を含むものはどうしても縁1′に付着する。この縁についた液体2′を除去することは難しく、これがシールのさまたげとなる。」(第1頁第15〜19行)
ナ.「5は包装物2をカバーするフイルムであり、シーラ6が下つてプレスすればシーラの凸部(イ、ロ、ハ)でパック1とフイルム5とは加熱溶融する。シーラ6の温度は150〜220℃に加熱され圧力は1〜3kg/cm2で行う。良好なシールを行うにはシールの圧力及び温度を低目にして長時間加圧するのがよいとされているか、長時間プレスすると、パック1の縁1′に残っている液体2′が加熱され水蒸気となるが、外部に放出できないので内圧が上昇して、シーラ6が上昇したときに、一度シールした部分をはがして密閉不良を起すこととなる。この密閉不良は食物の腐食に直接影響を与えるので大きな欠陥であり商品とはならない。」(第2頁第3〜15行)
ニ.「本考案はこの欠点を除去するためシーラの構造を改良しようとするものである。第3図において、従来のシーラ6Aはシーラの先端部(凸部)が水平一直線上に配列されているのに対し、第3図(b)(c)は本考案の一実施例を示し、b図はシーラ6Bのシーラ先端部の一部(イ部)が他部(ロ、ハ)よりもHだけ高くした場合を示し、(c)図はシーラ6Cの先端部が連続的に傾斜した場合(円弧状、直線状)を示している。(第2頁第16行〜第3頁第4行)
ヌ.「本考案によるシーラの構造はヒートシール方式によるほか、インパルスシール、高周波加熱、超音波溶接等に用いても効果がえられる。」(第4頁第9〜11行)

・請求人2の参考資料5
ネ.「ヒートシール可能な合成樹脂フィルム1よりなる筒状体をその長手方向に沿って相対して内側に折り込み部2を形成し、下端には底シール部5を形成してなる自立袋において、前記底シール部5の片方の側の上側縁に沿って凹溝6を形成したことを特徴とする自立袋。」(特許請求の範囲第1項)
ノ.「チューブ状のフィルムに折込部を形成し、底シールを設けて、内容物を充填すると、自立する袋はいわゆるガゼット袋として既に知られているが、底シール部は折込部と背シール部においてフィルムが4枚重合し、その他の部分は2枚重っている。これを所定幅に一線状に底シールするため、重なりの厚さに段部が生じ、その段差部に充分な熱シールが行われにくく、この部分に小さな空洞が残るため接着不良で強度が弱い部分が生じやすい。・・・またこのように底シール部はフィルムが4枚重なった部分と2枚が重なった部分とが帯状をなして融着されているため波うち状となり、内容物を充填した時袋底部の一方の側にきちんと折れ曲らず自立の安定性を欠く。・・・本発明はこれらの欠点をすべて解消したものである。」(第1頁右欄16行〜第2頁左上欄第15行)
ハ.「5は底シール部でフィルム全体を袋幅全域に亘り一体に熱シールしたものである。6は本発明の特徴をなす凹溝で前記底シール部5の上側縁に沿って袋の片方の面に袋幅全体に亘って形成されたものである。しかして凹溝6の形成は該底シール部5を融着すると同時に形成することが肝要である。すなわち底シール部のフィルムが熱により軟化状態にある時押圧成形されねばならない。」(第2頁右上欄第3〜11行)
ヒ.「本発明においては、この底シール部5の融着時に凹溝6を形成させるために第5図に示すような突条9を有する押圧金型を用いて押圧する結果、極めて強く圧縮が行われ第2図、第3図に示すように空洞やシールむらなどを全く生じせしめることなく一様に強度高く段差部を融着させることができ底シール全体が強化される。」(第2頁左下欄第5〜12行)
フ.端部に突条を備えた押圧金型(第5図)

・請求人2の参考資料7
ヘ.「加熱し得るシールジョーを備えた包装機械における包装材の熱シール装置において、前記シールジョー(13)は包装材のシール域に向けられた一または二以上の流体排出孔(16)を有することを特徴とする包装材の熱シール装置。」(特許請求の範囲第7項)
ホ.「最近の包装技術では、積層された包装材、たとえば紙およびアルミ箔を含み、さらに多くの場合一または二以上の熱可塑性材料の外側の層を含む包装材が往々用いられている。熱可塑性材料の層は包装用ラミネートになめらかな表面を与え、それがラミネートに耐漏洩性および油脂に対する抵抗のような望ましい性質を付与する。」(第2頁右上欄第9〜15行)
マ.「第2図には成形シール装置7の底部を示す。成形シール装置はほぼ細長い形になっており、且つ包装材のチューブに面するくぼんだ管形状の区域11と、この装置の底部に設置されて包装材のチューブに向って突出するリップ12を有し、そのリップはシール部の本体、即ち第3図に拡大して示されているシールジョー13を支持する。シールジョー13は長くて幅狭の形のものであり、そして平らにされた包装材のチューブの幅を越える長さを有する。シールジョー13はその作用面が包装材のチューブに面するように装置7のリップ12に取付けられている。」(第4頁左上欄第20行〜右上欄第11行)
ミ.「作用面14には二つの平行な長手方向の加熱区域15を備え、それらの加熱区域はその全長に沿って非伝導材で作られたシールジョーの作用面14に機械的に取付けられた平行な帯状の電気抵抗材から成っている。加熱区域15または帯は接続線(図示せず)を介して電源に接続され、適当な作動温度に加熱され得る。」(第4頁左上欄第11行〜右上欄第18行)
ム.「この位置ではシールジョーの加熱区域15は付勢され、そして熱は区域15から強く圧縮された材料を介して伝達されるので、互に向き合うチューブ内側に設けられた熱可塑性材料は溶融されて互に溶着する。」(第4頁右下欄第4〜8行)

(5-2)請求人1の主張(c)について
上記ア〜カによれば、請求人1の甲第11号証(以下、「甲第11号証」という)には、アルミニウム箔の内側にポリプロピレンが被覆された層状成形材料をヒートシールする装置であって、作用面の外形がV状である常時加熱した上部融着ジョーと平らな融着面を有する常時加熱した対向ジョーを有しており、両加熱ジョーの間に2つの層状成形材料をポリプロピレンが内側になるように配置して、該加熱ジョーにより圧縮することにより、層状成形材料を熱融着する装置が記載されている。上記カの記載からすると、甲第11号証に記載された発明においては、V字形状の上部融着ジョーは溶融された融着可能材料(ポリプロピレン)を横方向に押し流す働きをするものと認められる。また、層状形成材料のシールに寄与する領域は、中央層の横方向で溶けた融着可能材料(ポリプロピレン)が縮んで形成された熱融着部と、当該熱融着部の間に存在する成層材からなる領域の両方であり、同領域を、シールされた内容ではなく、シールされる位置として見れば、これは、本件発明の「シール帯域」に相当するものと認められる。そして、甲第11号証記載の「ポリプロピレン」、「常時加熱した上部融着ジョー(11)」のそれぞれは、本件発明の「熱可塑性材料層(3)」、「シールジョー(5)」のそれぞれに相当する。
本件発明と甲第11号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「アルミ箔等の導電性材料層の内側に熱可塑性材料層を有する一対の積層材料を互いに、その最内層である熱可塑性材料層間でヒートシールする装置において、前記熱可塑性材料層同志を互いに接触させて該一対の積層材料を外側から押しつけるための作用面を有するシールジョーが設けられ、該作用面により、該熱可塑性材料層同志がシール帯域で圧接され、さらに、該シールジョーの形状が、熱可塑性の材料層を押し流す形状である積層材料のヒートシール装置。」である点で一致しているが、
(i)本件発明においては、繊維質材料の支持層がアルミ箔等の導電性材料層の外層に設けられている積層材料を用いることに対応して、シールジョーを、非導電性の本体と導電性の棒とで構成され、該導電性の棒が高周波電源に接続された、高周波誘導加熱方式のものとするのに対し、甲第11号証に記載された発明においては、アルミ箔が最外層に設けられている積層材料を用いることに対応して、シールジョーを、単一構造の直接加熱方式のものとする点、
(ii)本件発明においては、シールジョーの作用面である導電性の棒に設けられた「突条」によって熱可塑性の材料層を押し流すようにし、かつ、該突条はシール領域に対して非対称的に位置して設けられるのに対し、甲第11号証に記載された発明においては、作用面全体の外形がV状とされたシールジョーの突起領域で熱可塑性の材料層を押し流すようにする点
で相違している。
そこで、上記相違点について検討する。
上記(i)の点について
請求人1の甲第12号証(以下、「甲第12号証」という)によれば、包装用の積層材料として紙が最外層に設けられており、その内側にアルミニウムフォイル、熱可塑性材料が設けられたものを用い、これを2枚対向させて、熱可塑性材料を加熱、軟化することによりシールして包装するものは、周知のものである(上記キ参照)。また、このような積層材料をシールする装置として、高周波誘導加熱方式のものは、高周波電磁界によって発生した渦電流で金属フォイルを高速に加熱できるため、シール時間が短縮できることも公知であると認められる(上記ク〜セ参照)。そして、当該高周波誘導加熱方式のシール装置の加圧ユニット(本件のシールジョーに相当する)を、基本的に電気的絶縁材料により構成し、かつ、その一部に高周波発生装置に接続できるコイルを内蔵した構造のものとすることについても記載されている(上記ケ〜サ参照)。
そうすると、紙等の繊維質材料がアルミフォイルの外層に設けられている積層材料を用いることに対応して、シールジョーを、非導電性の本体と導電性の棒とで構成され、該導電性の棒が高周波電源に接続された、高周波誘導加熱方式のものとすること自体は、甲第12号証によって公知であったと認められる。
一方、甲第11号証に記載される発明において、外形がV形のシールジョーを用いるのは、「特殊外形の融着ジョーを用いて層状成形材料の各熱融着可能な層を相互に押しつけ、これによって分離線から出発し、その両側に広がる漸進的な熱融着の動きによる融着の故に、各接触層を強制的に横に分離する。こうして別々の2つの融着が行われ、それぞれ互いに押しあっている熱融着可能な層の表面にたまたま存在する汚れ粒子を包みこむ」(上記ウ参照)と記載されるように、溶融した樹脂を流動させて特定の融着状態にするためであり、当該融着状態の形成は、特定の積層材料と加熱方式のの組合せでなければ達成できないとは認められないものである。
そうすると、甲第11号証に記載されるシール装置における積層材料とシールジョーの組合せを、アルミ箔が最外層に設けられている積層材料と直接加熱方式シールジョーとの組合せに変えて、甲第12号証によって公知の、紙等の繊維質材料がアルミフォイルの外層に設けられている積層材料と、非導電性の本体と導電性の棒とで構成された高周波誘導加熱方式のシールジョーとの組合せとすることは、当業者が容易になしうると認められる。

上記(ii)の点について
本件発明において、突条を、シールジョーの導電性の棒にシール帯域に非対称的に位置して設けるのは、シール帯域の突条に対応する部分では、不純物の無い非常に薄い熱可塑性材料の層を形成し、シール帯域の突条に対応しない部分では、不純物が混入された熱可塑性材料の体積部分を形成できるようにするとともに、溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分を突条の加熱される側に向けて指向させるためである。
請求人1の甲第13号証(以下、「甲第13号証」という)には、上記ソ〜チに記載されるように、良好なヒートシール性のある樹脂材料からなる透過層、透過層とあまり強くないヒートシール性を有する解放層、アルミフォイル等の外層、及び、紙等の保護層を設けた第1パネルと、良好なヒートシール性のある第2内層、アルミフォイル等の外層、及び、紙等の保護層を設けた第2パネルとを、その間に揮発性物質を配置した状態でヒートシールするための装置であって、その上部加熱金型(本件のシールジョーに相当)の端部に突出リップが形成されたものが記載されており、当該装置は、当該突出リップが上部加熱金型の端部に位置しているという、上部金型の形状の概略においては、本件発明のシール装置と類似点を有するものである。
しかし、甲第13号証に記載される発明において、突出リップを有する金型を用いるのは、当該突出リップによって接着される部分のシールを弱くし、リップのない部分では強固に接着されるようにすることで、上記揮発性物質を内部に配置した第1パネルと第2パネルによりなる包装が、その使用時において、当該突出リップによるシールの弱い線によって裂け、結果として強固に接着された層が最外層に残るようにするためであって、しかも、そのような突出リップを有する加熱金型を用いる箇所は、当該包装を引き剥がす部位である、包装材のV字形の辺に限られるものである(上記ツ参照)。
そうすると、甲第13号証に記載される発明において、上部加熱金型の端部に突出リップを設けることの技術的意味は、本件発明において、突条を、シールジョーの導電性の棒にシール帯域に非対称的に位置して設けることの技術的意味とは全く異なるから、本件の発明の課題と解決手段に照らすと、上記相違点(ii)については、甲第13号証に記載される発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。
また、本件発明の課題と甲第13号証に記載される発明の課題の共通性による動機付けではなく、甲第11号証に記載される発明と甲第13号証に記載される発明との関係による別個の動機付けによって、上記相違点(ii)が当業者にとって容易になしうるかについても検討するに、甲第11号証に記載される発明においてジョーの外形をV状とするのは、確実なシールが要求される食品などのシール装置において、被融着面が汚されても菌に対して気密な熱融着が可能となるように、V状外形のジョーの圧縮によって、溶けた材料が毛細管現象で横に別れさせ、中央領域の左右に汚れ粒子が埋没した熱融着部を形成させるようにするという理由であり(上記イ、ウ、カ参照)、甲第13号証に記載される発明のように、使用時に、一部の層を引き剥がし特定の層を露出することができるようなシールを形成するために、特定の外形のシールを採用することとは、シールの形を特定の形状とする理由が全く異なるものである。
そうすると、甲第11号証に記載される発明と甲第13号証に記載される発明とでは、シールジョーの形状を特定の形にする目的及び作用、効果が全く異なっており、甲第11号証に記載される発明におけるV状外形を有するジョーに代えて、甲第13号証に記載される突出リップのある加熱金型(シールジョー)を採用することは想定できないから、上記相違点(ii)については、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。
そして、本件発明においては、上記(ii)の点により、シール帯域の中央には不純物の無い非常に薄い熱可塑性の層のみが残り、これが包装積層材料の支持層と密着し、一方シール帯域の端部では双方の熱可塑性の層からの良く混合された熱可塑性材料のたい積部分によって強みと優れた密封性が保証されるとともに、突条の直前にある高圧帯域から絞り出された熱可塑性材料の細長いふくらみ、またはたい積部分は、ふくらみ部をより柔軟性のあるものとし、シールを更に強力なものとする、より平たんで細長い断面形状を与えられるという、優れた効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、甲第11〜13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5-3)請求人2の主張(g)について
甲第12号証には、積層材料として、熱可塑性材料、アルミニウムフオイル、紙からなるものを用い、これを2枚対向させて、熱可塑性材料でを加熱、軟化することによりシールする装置であって、高周波発生装置に接続できるコイルと、当該コイルの内側に位置するフェライト・コアとを装備した、電気的絶縁材料によりなる加圧ユニットを、その一部に内蔵した構造としたものが記載されている(上記ケ〜サ参照)。そして、「コイル」については、「高周波発生装置に接続できるコイル」(上記ケ参照)、「金属フォイル層1を通過する高周波電磁界がコイル3によって発生する」(上記コ参照)、「高周波電磁界がコイルより0.3mmから1mmの距離にある金属フォイル層1を貫通する結果、所謂渦電流が金属フォイル層に誘導され、金属フォイル層を発熱される」(上記サ参照)、「交番磁界がコイルの曲りに沿って非常に強く集中するという事実のため、加圧ユニットが第2図のように設計されているとすると、互いの間に図中の距離Aに相当するだけの間隔を置いた2本のシール縁がこのシール工程で得られる」(上記ス照)と記載され、一方「フェライトコア」については、「コイル3の誘導作用を増大させるため、ある場合には鉄粉コア、所謂フェライト・コアをコイル3内に配置することが推奨される。」(上記サ参照)と記載されることからすると、甲第12号証における「コイル」が、本件発明における、「棒」に相当するものと認められる。 さらに、「シール作業は加圧要素としての加圧ユニット4,5を互いに圧接させることによって実施される。前記操作によって、両加圧ユニット間に配置されているチューブは扁平にされ、熱可塑性シール層2は互いに対向させられ、相互に圧せられることになる。」(上記コ参照)と記載されることからすると、甲第12号証に記載される発明においては、加圧ユニットが内蔵されたコイル、フェライト・コアとともに作用面を形成するものと認められる。
本件発明と甲第12号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「繊維質材料の支持層の内側にアルミ箔等の導電性材料層を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層を有する一対の積層材料を互いに、その最内層である熱可塑性材料層間でヒートシールする装置において、前記熱可塑性材料層同志を互いに接触させて該一対の積層材料を外側から押しつけるための作用面を有するシールジョーが設けられ、該シールジョーは、非導電性の本体と該本体の一方の側面に設けた導電性の棒とで構成され、該棒は、該一方の側面とで前記作用面を構成するとともに、前記一対の積層材料の導電性材料をシール帯域以内で高周波誘導加熱し、該一対の積層材料の最内層である前記熱可塑性材料層を溶融するべく高周波電源に接続するようになっており、該作用面により、該熱可塑性材料層同志が前記シール帯域で圧接されるもの」である点において一致しているが、
本件発明においては、導電性の棒には、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層を押し流す突条が設けられており、かつ、該突条は、シール帯域に非対称的に位置して設けられているのに対し、甲第12号証に記載された発明においては、突条を設ける点について何ら記載がない点、
において相違している。
そこで、上記相違点が、請求人1の甲第11号証、請求人2の甲第13、14号証及び参考資料5、7に基づいて容易になしうるかどうかについて検討する。
(a)請求人1の甲第11号証
請求人1の甲第11号証(以下、「甲第11号証」という)には、上記(5-2)に記載したとおり、アルミニウム箔の内側にポリプロピレンが被覆された層状成形材料をヒートシールする装置であって、作用面の外形がV状である常時加熱した上部融着ジョーを備えた装置が記載されているが、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層を押し流す「突条」を設けること、及び、該「突条」をシール帯域に非対称的に位置して設けることについては何ら記載がない。
よって、上記相違点については、甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。

(b)請求人2の甲第13号証
本件発明において、突条を、シールジョーの導電性の棒にシール帯域に非対称的に位置して設ける技術的意味は、上記、(5-2)の「上記(ii)の点について」に記載したとおりである。
また、請求人2の甲第13号証(以下、「甲第13号証」という)に記載されるヒートシール装置の構成、当該ヒートシール装置において、突出リップが上部加熱金型の端部に位置することの技術的意味、及び形成しようとするシールの状態は、上記(5-2)の「上記(ii)の点について」で認定したとおりである。
そうすると、甲第13号証に記載される発明において、上部加熱金型の端部に突出リップを設けることの技術的意味は、本件発明において、突条を、シールジョーの導電性の棒にシール帯域に非対称的に位置して設けることの技術的意味とは全く異なるから、本件の発明の課題と解決手段に照らすと、上記相違点については、甲第13号証に記載される発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。
また、本件発明の課題と甲第13号証に記載される発明の課題の共通性による動機付けではなく、甲第12号証に記載される発明と甲第13号証に記載される発明との関係による別個の動機付けによって、上記相違点が当業者にとって容易になしうるかについても検討するに、甲第12号証に記載される発明は、確実なシールが要求される、食品包装等のシールを行うシール装置に係るものであり、甲第13号証に記載される発明のように、使用時に、一部の層を引き剥がし特定の層を露出することができるようなシールを形成するすることは、全く想定し得ないものである。
そうすると、甲第12号証に記載される発明と甲第13号証に記載される発明とでは、形成しようとするシールが異なるのであるから、甲第12号証に記載される発明における加熱ユニットに埋設されたコイルの形状を、甲第13号証に記載されるような端部に突出リップのある形状とすることは、当業者が容易になしうるものではない。
よって、上記相違点については、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。

(c)請求人2の甲第14号証(請求人2の参考資料6に同じ)
上記テ〜ヌ によれば、請求人2の甲第14号証(以下、「甲第14号証」という)には、ヒートシール方式、高周波加熱方式等の種々の加熱方式に採用できるシーラにおいて、包装時にパックの縁に付着する液体によるシール不良の問題を解決するために、従来からシーラに複数設けられていた凸部同士に段差を設けたシーラが記載されている。また、上記ナの「シーラ6が下つてプレスすればシーラの凸部(イ、ロ、ハ)でパック1とフイルム5とは加熱溶融する」の記載によれば、当該シーラを用いてシールされる領域は、凸部に対応する部分のみであるから、複数のシール線が形成されるものと認められる。
そうすると、甲第14号証に記載されるシーラにおける凸部とは、シール領域を形成するための部材であると認められるから、甲第14号証には、シール領域に対してさらに突条を設けることや、該突条をシール領域に対して非対称に設けることについては、記載されてるとは認められない。
したがって、上記相違点については、甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。

(d)請求人2の参考資料5
本件発明において、突条を、シールジョーの導電性の棒にシール帯域に非対称的に位置して設ける技術的意味は、上記、(5-2)の「上記(ii)の点について」に記載したとおりである。
一方、請求人2の参考資料5(以下「参考資料5」という)には、上記ネ〜フに記載されるように、端部に突条を有する押圧金型を備えたヒートシール装置が記載されている。
しかし、参考資料5に記載される装置は、上記ノに記載されるとおり、チューブ状のフィルムに折込部を設けたものをシールして自立性の袋を製造するための装置であって、該折込部により生じる段差部がシールに悪影響を与えるという、自立性の袋に特有の問題を解決するために、押圧金型の端部に突条を設けたのであり、しかも、当該押圧金型を用いる箇所は、袋の底シール部に限られるものである。
そうすると、参考資料5に記載される発明において、押圧金型の端部に突条を有する技術的意味は、本件発明において、突条を、シールジョーの導電性の棒にシール帯域に非対称的に位置して設けることとは全く異なるから、本件の発明の課題と解決手段に照らすと、上記相違点については、参考資料5に記載される発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。
また、本件発明の課題と参考資料5に記載される発明の課題の共通性による動機付けではなく、甲第12号証に記載される発明と参考資料5に記載される発明との関係による別個の動機付けによって、上記相違点が当業者にとって容易になしうるかについても検討するに、甲第12号証に記載される発明は、食品包装等の一般的なシール装置に係るものであって、包装中のシールを行う部位については何ら特定されないものであるが、参考資料5に記載されるシール装置は、上記したとおり、折込部により生じる段差部がシールに悪影響を与えるという、自立性の袋に特有の問題を解決するために、押圧金型の端部に突条を設けたものである。
そうすると、特定の問題解決のために用いられる参考資料5に記載される発明の金型形状を、甲第12号証に記載される一般的なシール装置のコイルの形状に採用することは、当業者が容易になしうるものではない。
よって、上記相違点については、参考資料5に記載された発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。

(e)請求人2の参考資料7
請求人2の参考資料7(以下、「参考資料7」という)には、紙およびアルミ箔を含み、さらに多くの場合一または二以上の熱可塑性材料の外側の層を含む包装材をシールするシール装置であって、包装材のチューブに面するくぼんだ管形状の区域と、この装置の底部に装置されて包装材のチューブに向って突出するリップを有し、このリップにシールジョーが支持されたものが記載されている(上記ヘ〜ム参照)。そして、上記ミの記載によれば、当該シールジョー13は、その作用面14に二つの平行な長手方向の加熱区域15を備えており、当該加熱区域の形状は、第3、4図からすると、突条の形状であるが、当該加熱区域は、本件発明でいう加熱区域(すなわち棒の作用面)に対応するものであり、本件でいう、加熱区域上の突条には相当しないものである。しかも、上記シールジョーは、加熱区域が電源に接続された「電気抵抗材」からなっているから、いわゆる導電性のものとは認められないものである。
そうすると、参考資料7には、導電性の棒に、突条を形成すること自体何ら記載されていないから、上記相違点については、参考資料7に記載された発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。

以上のとおり、上記相違点については、甲第11、13、14号証及び参考資料5、7に記載された発明に基づいて当業者が容易になしうるものではない。そして、本件発明は、上記「導電性の棒には、シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層を押し流す突条が前記シール帯域に非対称的に位置して設けられている」点により、シール帯域の中央には不純物の無い非常に薄い熱可塑性の層のみが残り、これが包装積層材料の支持層と密着し、一方シール帯域の端部では双方の熱可塑性の層からの良く混合された熱可塑性材料のたい積部分によって強みと優れた密封性が保証されるとともに、突条の直前にある高圧帯域から絞り出された熱可塑性材料の細長いふくらみ、またはたい積部分は、ふくらみ部をより柔軟性のあるものとし、シールを更に強力なものとする、より平たんで細長い断面形状を与えられるという、優れた効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、甲第11〜14号証及び参考資料5、7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.むすび
以上のとおり、本件特許については、請求人1、2の主張及び証拠方法によっては、これを無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-08-16 
結審通知日 1999-08-24 
審決日 1999-08-27 
出願番号 特願平6-174348
審決分類 P 1 112・ 121- Y (B29C)
P 1 112・ 534- Y (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 紀 俊彦綿谷 晶廣  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 淑久
加藤 志麻子
石井 克彦
鴨野 研一
登録日 1996-03-13 
登録番号 特許第2501777号(P2501777)
発明の名称 包装積層品をヒ―トシ―ルする装置  
復代理人 岩崎 幸邦  
代理人 岸本 瑛之助  
代理人 清水 正三  
代理人 田中 義敏  
代理人 牧野 利秋  
代理人 久田原 昭夫  
代理人 田中 義敏  
復代理人 米山 尚志  
復代理人 岩崎 幸邦  
復代理人 原 裕子  
復代理人 三好 秀和  
代理人 廣田 雅紀  
復代理人 三好 秀和  
代理人 清水 正三  
代理人 久世 勝之  

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