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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16K
管理番号 1105881
異議申立番号 異議2003-72894  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-05-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-27 
確定日 2004-08-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3411980号「弁装置における異常診断及び劣化予測方法並びに装置」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3411980号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第3411980号に係る出願は、平成12年10月25日の出願であって、平成15年3月28日に設定登録(請求項の数;12)されたものであるが、本件特許の請求項1〜12の発明に関して、岡崎穣及び秋山重夫よりそれぞれ特許異議の申立てがあったので、当審において当該申立ての理由を検討の上、平成16年4月30日付けで当審より特許取消理由を通知したところ、その通知書で指定した期間内の平成16年7月12日に、特許異議意見書と共に訂正請求書が提出されたものである。

【2】訂正請求の可否
1.訂正の要旨
本件特許異議申立てに係る訂正請求における訂正の要旨は、次の(1)〜(15)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の末尾の「将来のメンテナンスプランを作成する…方法」を、「将来のメンテナンスプランを作成するとともに、前記トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット摩耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定することを特徴とする弁装置における異常診断及び劣化予測方法」と訂正する。
(2)訂正事項2
請求項2〜6を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7の末尾の「作成機能を付与した…装置」を、「作成機能を付与し、前記演算処理装置は、前記トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット摩耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定することを特徴とする弁装置における異常診断及び劣化予測装置」と訂正し、これを新請求項2とする。
(4)訂正事項4
請求項8〜12を削除する。
(5)訂正事項5
段落【0008】の3〜4行、「診断装置は、…開発されていない。」を「診断装置がある。」と訂正し、段落【0009】の1行目、「本発明は、」を「上記診断装置は、」と訂正し、段落【0009】の10〜11行、「実施できるように…目的とする。」を、「実施することができるようになっている。しかし、上記した従来の弁装置における異常診断及び劣化予測並びに装置における診断項目のみでは、弁装置における異常診断及び劣化予測を正確に行う上でなお不十分であった。」と訂正する。
(6)訂正事項6
段落【0010】の記載を、新請求項1と整合するように訂正し、段落【0011】〜【0015】の記載を削除する。
(7)訂正事項7
段落【0016】の記載を、新請求項2と整合するように訂正して新段落【0011】に移動させ、段落【0017】〜【0021】の記載を削除する。
(8)訂正事項8
段落【0022】の記載を、1行目の「以下、」の次に「従来の弁装置における異常診断及び劣化予測方法による具体的診断方法の説明とともに、」を加入して新段落【0012】に移動させる。
(9)訂正事項9
段落【0023】〜【0028】の記載を、新段落【0013】〜【0018】にそれぞれ移動させる。
(10)訂正事項10
段落【0029】の記載を、3行目の「ついて述べる。」の次に「なお、見出し(1)〜(12)は、従来の弁装置における異常診断及び劣化予測方法の具体例を示すものである。」を加入して新段落【0019】に移動させる。
(11)訂正事項11
段落【0030】〜【0042】の記載を、新段落【0020】〜【0032】にそれぞれ移動させる。
(12)訂正事項12
段落【0045】の記載を、1行目の(12)を(10)と訂正して新段落【0033】に移動させ、段落【0046】の記載を、1行目の(13)を(11)と訂正して新段落【0034】に移動させ、段落【0047】の記載を、1行目の(14)を(12)と訂正して新段落【0035】に移動させる。
(13)訂正事項13
段落【0043】の記載を、冒頭に「次に、本発明における診断項目及び診断方法を、(13)及び(14)として示す。」を加入し、かつ1行目の(10)を(13)と訂正して新段落【0036】に移動させ、段落【0044】の記載を、1行目の(11)を(14)と訂正して新段落【0037】に移動させる。
(14)訂正事項14
段落【0048】〜【0050】の記載を、新段落【0038】〜【0040】にそれぞれ移動させる。
(15)訂正事項15
段落【0051】の記載を削除し、段落【0052】の記載を新段落【0041】に移動させるとともに、【0042】以下の段落をすべて削除する。
(なお、訂正事項2については、訂正請求書の「(3)訂正事項」の(b)の記載では「請求項2〜5を削除する。」となっているが、訂正請求書に添付した訂正明細書の記載からみて上記のように訂正するものと判断し、さらに、新旧の段落同志の関係も、訂正請求書に添付した訂正明細書の記載に合わせて上記のように訂正するものと判断した。)

2.訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、3について
上記訂正事項1、3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、この訂正事項1については、願書に添付した明細書の【0043】、【0044】に記載されているから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2、4について
上記訂正事項2、4は、請求項2〜6、8〜12を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項5〜15について
上記訂正事項5〜15は、訂正事項1〜4の特許請求の範囲の訂正によって生じる特許明細書の発明の詳細な説明と特許請求の範囲との齟齬を解消しようとするものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.訂正請求の認容について
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】本件特許発明の認定
上記のとおり、平成16年7月12日付けの訂正請求は認容されるので、本件特許の請求項1、2に係る発明は、平成16年7月12日付けの訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める(請求項1に係る発明を、以下「本件発明」という。)。
「【請求項1】弁全開時の保持トルク値並びに弁全閉時の保持トルク値を、弁装置の弁開閉作動の始端と終端で検出するとともに、弁開閉作動の中間区間でランニングトルク値を検出し、さらに弁開閉動作の始端とランニングトルク検出区間の前端の間及びランニングトルク検出区間の後端と弁開閉動作の終端の間において、弁装置に固有的に変動するトルク値を検出してなるトルク信号を、弁装置の弁開閉動作に応じて検出するようにしたトルクセンサと、弁装置における弁を開閉駆動する駆動部に供給するエネルギの大きさを検出するようにしたエネルギセンサと、弁装置の振動を検出する振動センサとを弁装置に設け、前記弁装置の開閉作動時における前記3種類のセンサの検出値の変動を診断データとして記憶手段に収録するとともに、前記診断データと、予め設定された弁装置の仕様から算出した診断項目毎の許容値、及び過去の診断データとを比較して、前記診断データが前記許容値を越えるか、または過去の診断データから予め定めた値以上に変動しているときは異常、それ以外は正常と判断し、また、過去の複数回の診断データから、その変化の傾向を抽出し、診断データが、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求めることにより、劣化予測を行って、将来のメンテナンスプランを作成するとともに、前記トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット摩耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定することを特徴とする弁装置における異常診断及び劣化予測方法。
【請求項2】 弁全開時の保持トルク値並びに弁全閉時の保持トルク値を、弁装置の弁開閉作動の始端と終端で検出するとともに、弁開閉作動の中間区間でランニングトルク値を検出し、さらに弁開閉動作の始端とランニングトルク検出区間の前端の間及びランニングトルク検出区間の後端と弁開閉動作の終端の間において、弁装置に固有的に変動するトルク値を検出してなるトルク信号を、弁装置の弁開閉動作に応じて検出するようにしたトルクセンサを、弁装置の駆動部に恒久的に設け、かつ前記駆動部に対する供給エネルギの変動を検出するエネルギセンサ、及び弁装置の振動を検出する振動センサを、前記弁装置に仮設的に取付け、これら計3種類のセンサをデータ変換ユニットに接続し、データ変換ユニットにおいて、各センサから出力される検知信号を所定の信号に変換して、診断データとして演算処理装置に伝送するようにし、演算処理装置には、弁装置の開閉作動に伴う前記診断データの変動を記憶手段に収録する機能、前記診断データと、予め設定された弁装置の仕様から算出した診断項目毎の許容値、及び過去の診断データとを比較して、前記診断データが前記許容値を越えるか、または過去の診断データから予め定めた値以上に変動しているときは異常、それ以外は正常と判断する機能、及び前記許容値と過去の複数回の診断データとに基づいて、診断データの変化の傾向を抽出し、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求める劣化予測及びメンテナンスプランの作成機能を付与し、前記演算処理装置は、前記トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット摩耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定することを特徴とする弁装置における異常診断及び劣化予測装置。」

【4】取消理由の概要
平成16年4月30日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1.取消理由1
本件特許の優先日前に頒布された刊行物として、
刊行物1:知能化メカトロニクス調査研究分科会研究会報告Vol.2 No.2(平成7年9月21日 社団法人 精密工学会P13〜20「バルブアクチュエータ診断システムの開発(電動弁自動診断装置の開発)」)
刊行物2:特開平2-307033号公報
を引用し、
(1)上記刊行物1には、「弁全開時の保持トルク値並びに弁全閉時の保持トルク値を、弁装置の弁開閉作動の始端と終端で検出するとともに、弁開閉作動の中間区間でランニングトルク値を検出し、さらに弁開閉動作の始端とランニングトルク検出区間の前端の間及びランニングトルク検出区間の後端と弁開閉動作の終端の間において、弁装置に固有的に変動するトルク値を検出してなるトルク信号を、弁装置の弁開閉動作に応じて検出するようにしたトルクセンサと、弁装置における弁を開閉駆動する駆動部に供給する電流の大きさを検出するようにした電流センサと、弁装置の振動を検出する振動センサとを弁装置に設け、前記弁装置の開閉作動時における前記3種類のセンサの検出値の変動を他のセンサの検出値のデータと一緒に診断データとして記憶手段に収録するとともに、前記診断データを含む複数の診断データから、その波形を見たり過去のデータと比較することによって異常診断が行われ、また、過去の複数回のデータからその変化の傾向を抽出して劣化予測を行う弁装置における異常診断及び劣化予測方法。」の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されているものと認める。
(2)本件発明と刊行物1の発明とを対比すれば、本件発明は、刊行物1の発明と、「弁全開時の保持トルク値並びに弁全閉時の保持トルク値を、弁装置の弁開閉作動の始端と終端で検出するとともに、弁開閉作動の中間区間でランニングトルク値を検出し、さらに弁開閉動作の始端とランニングトルク検出区間の前端の間及びランニングトルク検出区間の後端と弁開閉動作の終端の間において、弁装置に固有的に変動するトルク値を検出してなるトルク信号を、弁装置の弁開閉動作に応じて検出するようにしたトルクセンサと、弁装置における弁を開閉駆動する駆動部に供給するエネルギの大きさを検出するようにしたエネルギセンサと、弁装置の振動を検出する振動センサとを弁装置に設け、前記弁装置の開閉作動時における前記3種類のセンサの検出値の変動を診断データとして記憶手段に収録するとともに、前記診断データから異常診断が行われ、また、過去の複数回の診断データから、その変化の傾向を抽出して劣化予測を行う、弁装置における異常診断及び劣化予測方法。」である点で一致し、
ア)本件発明のセンサは、トルクセンサ、エネルギセンサ、振動センサの3つであり、これら3つの診断データから異常診断が行われるのに対し、上記刊行物1の第1の発明では、センサとして、これ以外に弁棒のスラスト力を検出する歪みゲージと、バルブストロークを検出するアブソリュートエンコーダが用いられ、これらの全診断データから異常診断が行われる点。
イ)本件発明では、診断データが、予め設定された弁装置の仕様から算出した診断項目毎の許容値、及び過去の診断データと比較され、前記診断データが前記許容値を越えるか、または過去の診断データから予め定めた値以上に変動しているときは異常、それ以外は正常と判断されるのに対し、上記刊行物1の第1の発明では、診断データの波形を見たり過去のデータと比較することによって異常診断が行われるものの、異常、正常の判断が具体的にどのように行われるのか明らかでない点。
ウ)本件発明では、診断データが弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求めることにより、劣化予測を行って、将来のメンテナンスプランを作成するようにしているのに対し、上記刊行物1の第1の発明では、過去の複数回のデータから診断データの変化の傾向を抽出して劣化予測を行うものの、診断データが、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求めることにより、劣化予測を行って将来のメンテナンスプランを作成するようにしているものであるか否かは明らかでない点。
で相違しているものと認める。
(3)上記相違点について検討すれば、
1)相違点ア)に関しては、電動弁の診断に当たって、どのような項目を、どのようなセンサを用いて検査するかは、当業者が検査対象の必要性に応じて適宜選択する設計事項である(例えば、刊行物2の発明においても、色々な項目が色々なセンサによって検査されている。)から、本件発明で、センサとしてトルクセンサ、エネルギセンサ、振動センサの3つを用い、これらのデータから異常診断を行うようにした点は当業者が適宜行い得たものである(シート力、摺動抗力等のスラスト力が、トルクセンサの検出結果によっても求め得ることは、例えば刊行物2において、弁棒のスラスト力をトルクスイッチ回転変位センサと駆動装置の締め付け力の関係を求めた相関データから検出していることからも解るように当業者において自明である。なお付言するならば、本件発明の図4を参酌すれば、本件発明の診断結果には、これら3つのセンサでは診断できないバルブストロークの診断等も含まれているから、本件発明は、特に上記3つのセンサだけで異常診断を行うものとは言い切れない。)。
2)相違点イ)に関しては、上記刊行物2には、弁装置の開閉作動時におけるセンサの検出値の変動を診断データとして記憶手段に収録するとともに、前記診断データと、予め設定された診断項目毎の基準値とを比較して、前記診断データが前記基準値を越えて変動しているときは異常、それ以外は正常と判断する発明が記載されており、該基準値を、予め設定された弁装置の仕様や電動弁が健全な状態である時に採取した基礎データに基づいて定めることは、例えば審査における拒絶の理由に引用した特開平6-300667号公報にみられるように周知技術である。してみれば、刊行物1の第1の発明で、異常、正常の判断を、診断データを予め設定された弁装置の仕様から算出した診断項目毎の許容値、及び過去の診断データと比較し、前記診断データが前記許容値を越えるか、または過去の診断データから予め定めた値以上に変動しているときを異常、それ以外を正常と判断することは、刊行物1の第1の発明に上記刊行物2の発明と上記周知技術を適用することにより当業者が容易に行うことができたものである。
3)相違点ウ)に関しては、過去の複数回のデータから診断データの変化の傾向を抽出して劣化予測を行う場合、その劣化の時期を、診断データが何時弁装置の健全性を判定するための基準値に到達するかで判断することはごく一般的な手法であるから、このような手法を採用することは当業者が容易に行い得たものである。また、そのような時期に達する前にメンテナンスを行うようにメンテナンスプランを作成することは当業者が当然考慮する技術事項である。
(請求項2〜12の発明については省略)
(4)したがって、本件の請求項1〜12に係る発明は、上記刊行物1、2に記載された発明と上記各周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1〜12に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべき特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

2.取消理由2
本件の請求項12には、演算処理装置には、「弁装置の開閉作動毎に得られる前記診断データと、弁装置が健全な状態であるときに予め採取して記録しておいた基礎データとを比較して、その変動分を記憶手段に収録する機能」を付与したと記載されているが、発明の詳細な説明の欄には、【0021】にこの記載が繰り返されているだけで、この構成に関する説明が何らなされていない。従って請求項12は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件の請求項12に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

【5】取消理由に対する当審の判断
1.取消理由1に関して
刊行物1、刊行物2には、「【4】1.」で上述した発明がそれぞれ記載されているが、本件発明の発明特定事項である、「トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット摩耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定する」点については一切記載されておらず、それを示唆する記載も存在しない。
そして本件発明は、上記の構成により、平成16年7月12日付けの意見書に記載されたような、「ステムナットの摩耗量によるガタの量、及びロッキングナットの緩みによるガタの量を、適正に計測して、両ガタの量が、いずれが原因で生じたものかどうかを判別することができ、完全な形での異常診断装置を提供することができ」るという顕著な効果を奏しうるものであるから、本件発明は、上記刊行物1の発明に上記刊行物2の発明を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
また、本件の訂正後の請求項2に係る発明は、本件発明の上記発明特定事項と同じ事項を発明特定事項とするものであるから、本件発明についての判断と同様の理由により、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

2.取消理由2に関して
上記のとおり、平成16年7月12日付けの訂正請求は認容され、請求項12は削除されたから、これにより取消理由2は解消された。

3.むすび
以上のとおりであるから、平成16年4月30日付けで通知した取消理由によっては本件の請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことはできない。

【6】特許異議申立理由の概要と当審の判断
1.特許異議申立人岡崎穣の申立理由の概要
特許異議申立人岡崎穣は、証拠方法として後記の甲第1号証ないし甲第6号証を提出して、本件請求項1ないし12に係る発明についての特許は、次の理由により拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである旨主張している。
〔理由〕
本件特許の請求項1〜4、6〜10、12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、或いは甲第1号証と甲第2号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項5、11に係る発明は、甲第1号証と甲第5号証に記載された発明とに基づいて、或いは甲第1号証と甲第2号証と甲第5号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
すなわち、甲第1号証には請求項1の発明特定事項のうち、「過去の複数回の診断データから、その変化の傾向を抽出し、診断データが、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求めることにより、劣化予測を行って、将来のメンテナンスプランを作成する」以外の発明特定事項がすべて記載されており、甲第1号証におけるトレンドグラフは変化の傾向に相当するから過去の診断データからその診断項目別の変化の傾向を抽出することは開示されている。そして診断データが、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求めることにより、劣化予測を行って将来のメンテナンスプランの作成に至ることは当業者が適宜選択しうることであるから、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。しかも、甲第2号証には請求項1の上記カッコ内の発明特定事項が記載されていると認められ、甲第1号証と甲第2号証は同一の技術分野に属するから、請求項1に係る発明は、甲第1号証と甲第2号証とに記載された発明に基づいても、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
さらに、本件の請求項2〜4、6〜10、12に係る発明も同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて、或いは甲第1号証と甲第2号証に記載された発明とに基づいて、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、甲第5号証には請求項5、11に係る発明の発明特定事項のうち、「弁装置が電動弁であり、かつエネルギセンサが、駆動部に取り付けた磁気センサである」点が記載されているから、本件特許の請求項5、11に係る発明は、甲第1号証と甲第5号証に記載された発明とに基づいて、或いは甲第1号証と甲第2号証と甲第5号証に記載された発明とに基づいて、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、本件の請求項1〜12に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべき特許出願に対してなされたものである。
〔証拠方法〕
甲第1号証:取消理由1における上記刊行物1と同じ
甲第2号証:特開2000-65246号公報
甲第3号証:第35回研究発表会予稿集(平成10年7月15日・16日)「電動弁診断技術の高度化」四国電力(株)・(株)四国総合研究所
甲第4号証:電気評論(1999年1月)「4.電動弁劣化診断システムの開発」(株)電気評論社
甲第5号証:第37回研究発表会予稿集(平成12年7月13日・14日)「機器診断データ無人収集システムの開発」四国電力(株)・(株)四国総合研究所
甲第6号証:国際公開第95/14186号パンフレット(1995)

2.特許異議申立人秋山重夫の申立理由の概要
特許異議申立人秋山重夫は、証拠方法として後記の甲第1号証ないし甲第4号証を提出して、本件請求項1ないし12に係る発明についての特許は、次の理由により拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである旨主張している。
〔理由〕
本件特許の請求項1、3、6、7、9、12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2、5、8、11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項4、10に係る発明は甲第1号証に記載された発明である。
すなわち、甲第1号証には、本件特許の請求項1に係る発明の構成要件が全て開示されており、さらに「過去の複数回の診断データから、その変化の傾向を抽出し、診断データが、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求めることにより、劣化予測を行って、将来のメンテナンスプランを作成する」構成要件は甲第2〜4号証にも開示されているから、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
さらに、本件の請求項3、6、7、9、12に係る発明も同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項4、10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
また、本件の請求項2、8に係る発明の診断項目は、甲第1号証に記載されているか、甲第1号証から予測しうるものであり、磁気センサを用いてエネルギー量を検出することは周知技術であるから、本件の請求項2、5、8、11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上のとおりであるから、本件の請求項1〜12に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべき特許出願に対してなされたものである。
〔証拠方法〕
甲第1号証:取消理由1における上記刊行物1と同じ
甲第2号証:エネルギーフォーラム No.519 116頁(1998年3月)電力新報社
甲第3号証:申立人岡崎穣の甲第4号証と同じ
甲第4号証:電気技術指針 原子力編 軽水型原子力発電所の運転保守指針 JEAG4803-1999 C33〜C34,C36〜C38,C42〜C44,C47〜C48 (平成12年6月5日)社団法人日本電気協会

3.当審の判断
特許異議申立人岡崎穣の提出した甲第1号証ないし甲第6号証、同じく申立人秋山重夫の提出した甲第1号証ないし甲第4号証には、本件発明の発明特定事項である、「トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット摩耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定する」点については一切記載されておらず、それを示唆する記載も存在しない。
そして本件発明は、上記の構成により、「【5】1.」で前述したような顕著な効果を奏しうるものであるから、本件発明は、申立人岡崎穣の提出した甲第1号証ないし甲第6号証、又は申立人秋山重夫の提出した甲第1号証ないし甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件の訂正後の請求項2に係る発明は、本件発明の上記発明特定事項と同じ事項を発明特定事項とするものであるから、本件発明についての判断と同様の理由により、申立人岡崎穣の提出した甲第1号証ないし甲第6号証、又は申立人秋山重夫の提出した甲第1号証ないし甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、異議申立人岡崎穣、秋山重夫の主張はそれぞれ採用できない。

【7】むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠方法、並びに当審の取消理由で引用した刊行物1、刊行物2によっては本件の請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1、2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
弁装置における異常診断及び劣化予測方法並びに装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 弁全開時の保持トルク値並びに弁全閉時の保持トルク値を、弁装置の弁開閉作動の始端と終端で検出するとともに、弁開閉作動の中間区間でランニングトルク値を検出し、さらに弁開閉動作の始端とランニングトルク検出区間の前端の間及びランニングトルク検出区間の後端と弁開閉動作の終端の間において、弁装置に固有的に変動するトルク値を検出してなるトルク信号を、弁装置の弁開閉動作に応じて検出するようにしたトルクセンサと、弁装置における弁を開閉駆動する駆動部に供給するエネルギの大きさを検出するようにしたエネルギセンサと、弁装置の振動を検出する振動センサとを弁装置の振動を検出する振動センサとを弁装置に設け、前記弁装置の開閉作動時における前記3種類のセンサの検出値の変動を診断データとして記憶手段に収録するとともに、前記診断データと、予め設定された弁装置の仕様から算出した診断項目毎の許容値、及び過去の診断データとを比較して、前記診断データが前記許容値を越えるか、または過去の診断データから予め定めた値以上に変動しているときは異常、それ以外は正常と判断し、また、過去の複数回の診断データから、その変化の傾向を抽出し、診断データが、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求めることにより、劣化予測を行って、将来のメンテナンスプランを作成するとともに、前記トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット磨耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定することを特徴とする弁装置における異常診断及び劣化予測方法。
【請求項2】 弁全開時の保持トルク値並びに弁全閉時の保持トルク値を、弁装置の弁開閉作動の始端と終端で検出するとともに、弁開閉作動の中間区間でランニングトルク値を検出し、さらに弁開閉動作の始端とランニングトルク検出区間の前端の間及びランニングトルク検出区間の後端と弁開閉動作の終端の間において、弁装置に固有的に変動するトルク値を検出してなるトルク信号を、弁装置の弁開閉動作に応じて検出するようにしたトルクセンサを、弁装置の駆動部に恒久的に設け、かつ前記駆動部に対する供給エネルギの変動を検出するエネルギセンサ、及び弁装置の振動を検出する振動センサを、前記弁装置に仮設的に取付け、これら計3種類のセンサをデータ変換ユニットに接続し、データ変換ユニットにおいて、各センサから出力される検知信号を所定の信号に変換して、診断データとして演算処理装置に伝送するようにし、演算処理装置には、弁装置の開閉作動に伴う前記診断データの変動を記憶手段に収録する機能、前記診断データと、予め設定された弁装置の仕様から算出した診断項目毎の許容値、及び過去の診断データとを比較して、前記診断データが前記許容値を越えるか、または過去の診断データから予め定めた値以上に変動しているときは異常、それ以外は正常と判断する機能、及び前記許容値と過去の複数回の診断データとに基づいて、診断データの変化の傾向を抽出し、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求める劣化予測及びメンテナンスプランの作成機能を付与し、該演算処理装置は、前記トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット磨耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定することを特徴とする弁装置における異常診断及び劣化予測装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動弁(電磁弁を含む)その他の弁装置を、プラントの運転中においても、短時間に合理的に診断することができ、弁装置の保全を、時間管理保全から状態監視保全に転換することができるようにした弁装置の異常診断と、この診断結果、弁仕様、定期検査計画及び診断を含むメンテナンス履歴からなるデータベースを用いた弁装置の劣化予測、ひいてはメンテナンスプランの作成に関する。
【0002】
【従来の技術】
電動弁(電磁弁を含む)その他の弁装置のカバー等を開放したりして、弁装置に手を加えて、センサを取り付け、異常の診断を行うことは、従来行われている。
【0003】
しかし、このように、被検弁に手を加え、センサを仮設して診断をするためには、作業安全上、電源を切る必要があるため、実施時期がプラントの停止中に限られ、かつ診断ごとに、カバーの取り外しやセンサを取り付けるための仮設治具を、作業スペースの狭い現場で設置しなければならず、診断完了後の復旧作業も考慮すると、作業時間の多くが、センサの着脱作業に費やされてしまう。
【0004】
また、被検弁に関連するすべてのセンサを恒久的に設置して診断を行うようにすると、個々の弁毎にすべてのセンサが必要となる上、センサケーブルも恒久的に敷設しなければならず、費用面と管理面に問題が生じることとなる。
【0005】
弁装置に手を加えずに診断を行う装置として、例えば複数の電動弁の駆動電源をコントロールするために、所定の場所に集中させたモータコントロールセンタにおいて、動力線及び制御線の電流と電圧を測定し、モータの消費電力を基に、電動弁の診断を行うようにした装置も存在する。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
弁装置の駆動源たるモータの電力を計測して、弁装置における弁開閉時の機械的特性を検出しようとする場合、弁を駆動するモータには、所要比率の電圧低下時にも確実に弁を開閉しうるように、定格電圧時には、余分な出力を出せるような大きなモータが使用されているため、弁側の微小な負荷変動に対して、電力変動を生じ難くなっている。
そのため、モータの電力変動を監視して、ステムねじの磨耗やガタ等の経時変化を診断するのは困難である。
また、モータの駆動電力を監視して診断する場合、モータへの電圧及び電流の供給が停止した後の機械的な慣性力の大きさや、モータ停止後に電動弁が保持しているトルクが流体遮断に充分なものであるか否かを判定することは、原理的に不可能である。
【0007】
さらに、電力を駆動部出力トルクに換算する際に必要となる変換係数は、時々刻々変化するため、これを正確に知ることはできず、精度が低いという問題がある。
【0008】
一方、カバーの開放や分解を一切行なわず、弁装置の高精度診断を行なうために不可欠なトルク測定機能を有し、プラント運転中にも、運用可能な診断装置がある。
【0009】
上記診断装置は、弁装置に恒久的に設けたトルクセンサと、ワンタッチで装着可能な仮設センサを用いることにより、弁装置に一切手を加えることなく、プラント運転中又は定期検査中に、弁装置全体における異常の兆候把握と異常個所の特定化を行い、もって、総合的に、修理部位の特定、弁装置の点検範囲の限定、及び異常兆候の判定を行ない、また蓄積データから傾向管理を行なうことによる部品取り替え時期の予測やメンテナンス時期の決定を行ない、しかも熟練を要することなく、実施することができるようになっている。
しかし、上記した従来の弁装置における異常診断及び劣化予測方法並びに装置における診断項目のみでは、弁装置における異常診断及び劣化予測について、完全なものと言うことはできなかった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)弁全開時の保持トルク値並びに弁全閉時の保持トルク値を、弁装置の弁開閉作動の始端と終端で検出するとともに、弁開閉作動の中間区間でランニングトルク値を検出し、さらに弁開閉動作の始端とランニングトルク検出区間の前端の間及びランニングトルク検出区間の後端と弁開閉動作の終端の間において、弁装置に固有的に変動するトルク値を検出してなるトルク信号を、弁装置の弁開閉動作に応じて検出するようにしたトルクセンサと、弁装置における弁を開閉駆動する駆動部に供給するエネルギの大きさを検出するようにしたエネルギセンサと、弁装置の振動を検出する振動センサとを弁装置の振動を検出する振動センサとを弁装置に設け、前記弁装置の開閉作動時における前記3種類のセンサの検出値の変動を診断データとして記憶手段に収録するとともに、前記診断データと、予め設定された弁装置の仕様から算出した診断項目毎の許容値、及び過去の診断データとを比較して、前記診断データが前記許容値を越えるか、または過去の診断データから予め定めた値以上に変動しているときは異常、それ以外は正常と判断し、また、過去の複数回の診断データから、その変化の傾向を抽出し、診断データが、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求めることにより、劣化予測を行って、将来のメンテナンスプランを作成するとともに、前記トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット磨耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定する。
【0011】
(2)弁全開時の保持トルク値並びに弁全閉時の保持トルク値を、弁装置の弁開閉作動の始端と終端で検出するとともに、弁開閉作動の中間区間でランニングトルク値を検出し、さらに弁開閉動作の始端とランニングトルク検出区間の前端の間及びランニングトルク検出区間の後端と弁開閉動作の終端の間において、弁装置に固有的に変動するトルク値を検出してなるトルク信号を、弁装置の弁開閉動作に応じて検出するようにしたトルクセンサを、弁装置の駆動部に恒久的に設け、かつ前記駆動部に対する供給エネルギの変動を検出するエネルギセンサ、及び弁装置の振動を検出する振動センサを、前記弁装置に仮設的に取付け、これら計3種類のセンサをデータ変換ユニットに接続し、データ変換ユニットにおいて、各センサから出力される検知信号を所定の信号に変換して、診断データとして演算処理装置に伝送するようにし、演算処理装置には、弁装置の開閉作動に伴う前記診断データの変動を記憶手段に収録する機能、前記診断データと、予め設定された弁装置の仕様から算出した診断項目毎の許容値、及び過去の診断データとを比較して、前記診断データが前記許容値を越えるか、または過去の診断データから予め定めた値以上に変動しているときは異常、それ以外は正常と判断する機能、及び前記許容値と過去の複数回の診断データとに基づいて、診断データの変化の傾向を抽出し、弁装置の健全性を判定するための基準値に達する時期を求める劣化予測及びメンテナンスプランの作成機能を付与し、該演算処理装置は、前記トルク信号に基づき、閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、弁装置が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗じて、ステムナット及びロッキングナットガタ吸収区間のガタ量を検知し、このガタ量が徐々に変化するときには、このガタ量を、ステムナット磨耗量として、またガタ量が急激に変化するときには、このガタ量を、ロッキングナットの緩みとして、それぞれ判定する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、従来の弁装置における異常診断及び劣化予測方法による具体的診断方法の説明とともに、本発明を、電動弁(電磁弁を含む)に適用した実施の形態を、図面に基づいて具体的に述べる。なお本発明は、流体圧式その他の弁装置にも適用しうるものである。
【0013】
図1において、(1)は、被検弁である電動弁、(2)は、弁の開閉を行なう電動駆動装置(駆動部)、(3)は、電動駆動装置(2)における図示しないモータに、電圧及び電流を供給する電力ケーブルである。
【0014】
電動弁(1)における電動駆動装置(2)には、トルクセンサ(4)が恒久的に内蔵され、かつ振動センサ(5)が、仮設的に取付けられている。電力ケーブル(3)には、供給電流または漏洩電流を検出する電流センサ(エネルギセンサ)(6)が、仮設的に取付けられている。
【0015】
電流センサ(6)を電力ケーブル(3)に取付ける代わりに、磁気センサを電動駆動装置(2)に取付けて実施することもある。
【0016】
上記各センサ(4)(5)(6)は、データ変換ユニット(7)に接続され、データ変換ユニット(7)は、各センサ(4)(5)(6)の出力信号を変換し、診断データとして、演算処理装置(8)に伝送する。
【0017】
演算処理装置(8)は、受信データをA/D変換し、即座に、診断データ情報の解析演算処理を行なうことにより、測定現場において診断結果を表示する機能と、診断結果と診断データを記憶手段に収録し、これらの診断データ、過去の診断データ及び定期検査計画を基に、駆動部分及び弁の異常個所の限定、及び異常部品の取り替え時期を、総合的に判断する機能を有している。
【0018】
図2は、本発明の装置により得られる情報の一例で、上段の波形は、トルクセンサ(4)の出力によるトルク信号波形(A)、中段の波形は、電流センサ(6)の出力による漏洩電流波形(B)、下段の波形は、振動センサ(5)の出力による機械振動波形(C)である。
図3は、本発明装置のブロック構成の一例、図4は、正常または異常の判定結果を表す画面の例、図5は、劣化予測の例、図6は、各トルク信号波形と診断要素の関係を示す。
【0019】
次に、上記センサ(4)(5)(6)によって、電動弁(1)の機能、及び電動駆動装置(2)のどのような異常を診断するかについて述べる。なお、(1)〜(12)は、従来の弁装置における異常診断及び劣化予測方法の具体例を示すものである。
電動弁(1)の動作状態は、主にその電動駆動部のトルクを判定することにより、容易に知ることができ、かつ、採取データを、演算処理装置によって、電動弁(1)の作動特性と比較することによって、把握することができる。すなわち、電動弁(1)の作動が正常な場合のトルクのデータは、弁の操作力データと同期して変動するため、次のように作動状態を推測することができ、診断上の指針となりうる。
【0020】
(1) 全閉→全開作動時の記録(仕切弁トルクシート時)
図6のトルク信号波形(A1)に示す如く、起動前(閉側の保持トルクが働いている)→電動機始動(閉方向トルク緩和)→ハンマーブロー→ドライブスリーブ以降の伝達系のガタ吸収(トルクほぼゼロ)→弁棒と弁体間のガタ吸収(トルクやや増加)→弁体引き抜き(トルク一時的に増大)→弁中間作動(ランニングトルクは減小しほぼ安定)→弁全開によりトルク停止(トルク大)。
同じく、トルク信号波形(A1)から、起動前に、流体を遮断するために必要な適正な保持トルクを維持していれば、健全である。また、ハンマーブロー後ガタを吸収し終わるまでの時間が増大していなければ、伝達系に摩耗や緩みは生じていないと判断される。
弁中間作動中のトルク(ランニングトルク)が、健全時に対して増大または減少していなければ、摺動部分に異常がないことが分かる。
更に、モータへの電力が遮断された時のトルク(設定トルク)及び停止後のトルク(保持トルク)が、健全時に対して増大または減少していなければ、劣化しておらず、摺動部分に異常はないと判断される。
【0021】
(2) 全開→全閉作動時の記録(仕切弁トルクシート時)
図6のトルク信号波形(A2)に示す如く、起動前(開側に保持トルクが働いている)→電動機始動(開方向トルク緩和)→ハンマーブロー→ドライブスリーブ以降の伝達系のガタ吸収(トルクほぼゼロ)→弁中間作動(トルクはやや増大し、ほぼ安定)→弁全閉によりトルク停止(トルク増大)。
起動前に、適正な保持トルクを維持していれば健全である。また、ハンマーブロー後ガタを吸収し終わるまでの時間が増大していなければ、伝達系に摩耗や緩みは生じていないと判断される。
弁中間作動中のランニングトルクが、健全時に対して増大または減少していなければ、摺動部分に異常がないことが分かる。
更に、モータへの電力が遮断された時のトルク(設定トルク)及び停止後のトルク(保持トルク)が、健全時に対して増大又は減少していなければ、摺動部分に異常はないと判断される。
【0022】
以下、図6に示すトルク信号波形(A1)(A2)(A3)(A4)と、各診断項目の関係、並びに診断要素及び評価方法について説明する。
【0023】
【表1】

【0024】
(1)シート力
1)検出要素
保持トルク
2)測定方法
開作動、閉作動いずれの場合も、トルク停止にてモータが停止した後、慣性等による電動弁の挙動が落ち着き、トルクが安定した時の値を計測(自動計測の場合、採取したトルクセンサ信号の最終データとなる)。
3)判定
保持トルクに関する規格はないが、実験により、設定トルクがある割合で変化した場合、保持トルクも、ほぼ同様の割合で変化することがわかっているため、次のように判定する。
▲1▼ウォームとウォームホイールが自動締まりの場合。
電動弁が健全な状態であるときに採取した基礎データに基いて、上限値及び下限値を予め定めておき、計測値が、これらのいずれかを超えた場合には、異常と判定する。
▲2▼ウォームとウォームホイールが非自動締まり(モータブレーキ付き)の場合。
上限値:電動弁が健全な状態であるときに採取した基礎データから求めた値に対して、一定限度を超えた場合は、異常と判定する。
下限値:モータブレーキ制動トルク×レシオ×効率にて算出した値よりも低い場合には、異常と判定する。
【0025】
(2)摺動抗力
1)検出要素
ランニングトルク。
2)測定方法
開作動、閉作動いずれの場合も、弁中間作動状態において電動弁の挙動が落ち着き、トルクが安定した時の値を計測。
3)判定
摺動抗力に関する規格はなく、使用者の設定した値を判定基準とするが、特に指定のない場合は、次のようにする。
▲1▼無負荷運転の場合
電動弁が健全な状態であるときに採取した基礎データに基いて、上限値及び下限値を予め定めておき、計測値が、これらのいずれかを超えた場合には、異常と判定する。
▲2▼実負荷運転の場合
電動弁が健全な状態であるときに採取した基礎データ採取後の初回実圧下データ値に基いて、上限値及び下限値を定めておき、計測値がこれらのいずれかを超えた場合には、異常と判定する。
ただし、全閉全開の作動を行い、グランドパッキンからの流体漏れが無い範囲とする。また、無負荷運転実負荷運転共、判定基準から正常の範囲内であっても、傾向管理グラフに急激な変化を生じた場合には、精密診断を実施する。
【0026】
(3) トルクスイッチの調整不良及び故障。
1)検出要素
設定トルク。ただし、設定トルクが不明確な場合は保持トルク。
2)測定方法
▲1▼設定トルクの測定方法
モータの漏洩電流またはモータ電流から判断できるモータ電流遮断時のトルク値を計測。
▲2▼保持トルクの測定方法
開作動、閉作動いずれの場合も、トルク停止にてモータが停止した後、慣性等による電動弁の挙動が落ち着き、トルクが安定した時の値を計測。
3)判定
▲1▼設定トルク
規格(JEM1446)により、設計値の±10%以内と定められている。従って、設定トルクが仕様書で規定されている値の±10%から外れた場合は、異常と判定する。
▲2▼保持トルク
保持トルクに関する規格はないが、実験により設定トルクがある割合で変化した場合、保持トルクもほぼ同様の割合で変化することがわかっているため、次のように判定する。
a)ウォームとウォームホイールが自動締まりの場合。
電動弁が健全な状態であるときに採取した基礎データから求めた値に基いて、上限値及び下限値を定めておき、測定値が、これらのいずれかを超えた場合には、異常と判定する。
b)ウォームとウォームホイールが非自動締まり(モータブレーキ付き)の場合。
上限値:電動弁が健全な状態であるときに採取した基礎データから求めた値に対して一定量を超えた場合には、異常と判定する。
下限値:モータブレーキ制動トルク×レシオ×効率にて算出した値よりも低い場合、異常と判定する。
【0027】
(4) 実負荷における駆動部のトルク余裕度
1)検出要素
設定トルクとランニングトルクの比。
2)測定方法
保持トルク÷ランニングトルク
▲1▼保持トルクの測定
開作動、閉作動いずれの場合も、トルク停止にてモータが停止した後、慣性等による電動弁の挙動が落ち着き、トルクが安定した時の値を計測。
▲2▼ランニングトルクの測定
開作動、閉作動いずれの場合も、弁中間作動状態において電動弁の挙動が落ち着き、トルクが安定した時の値を計測。
3)判定
規格等の明確な基準がないため、計測した保持トルクとランニングトルクの比が、弁仕様や弁の使用状況に応じて個別に定めた基準値を下回った場合、異常と判断する。
【0028】
(5) 伝達系の異常
1)検出要素
ランニングトルク及びトルク信号波形。
2)測定方法
波形の目視
3)判定
伝達系の異常は、採取したトルクセンサ信号のランニングトルク波形に、周期的な乱れとなって表れるので、波形からオペレーターが判断し、周期的な乱れがある場合には、その周期から故障個所を特定する。
【0029】
(6) 弁固着現象
1)検出要素
ランニングトルク及びトルク信号波形。
2)測定方法
開作動、閉作動いずれの場合も、弁中間作動状態において電動弁の挙動が落ち着き、トルクが安定した時の値を計測。
3)判定
弁が固着している場合には、モータの回転力が弁棒に伝達されると、直ちに設定トルク以上のトルクが発生して、トルクスイッチが作動しトルク停止する。そのため、摺動抗力の判定において異常となるとともに、採取した波形が過去に採取したものと著くし異なり、また、他の不具合による波形とも異なるため、トルク波形から、オペレーターが判断することが出来る。
【0030】
(7) 弁棒の曲がり
1)検出要素
ランニングトルク及びトルク信号波形。
2)測定方法
開作動、閉作動いずれの場合も、弁中間作動状態において、電動弁の挙動が落ち着き、トルクが安定した時の値を計測。
3)判定
弁棒に曲がりが生じた場合、弁棒の湾曲個所とグランドパッキン等の干渉部分が近くなると、電動弁の摺動抗力が増加する。そのため、摺動抗力の判定で異常となるとともに、採取した波形が過去に採取したものと著しく異なり、また、ランニングトルクがゆっくり上昇し、湾曲部が干渉部分を通過すると、ランニングトルクがゆっくり低下するという特徴を有するので、トルク波形からオペレーターが判断することができる。
【0031】
(8) 弁棒折損
1)検出要素
ランニングトルク及びトルク信号波形。
2)測定方法
開作動、閉作動いずれの場合も、弁中間作動状態において電動弁の挙動が落ち着き、トルクが安定した時の値を計測し、かつトルク信号波形を観察する。
3)判定
弁棒が折損している場合には、モータの回転力が伝達されると、弁棒が空転してしまい、摺動抗力が低くなる。そのため、摺動抗力の判定で異常となるとともに、採取した波形が過去に採取したものと著しく異なるため、トルク波形から、オペレーターが判断することができる。
【0032】
(9) ポジションシート弁の開閉時間及び弁ストローク変化
1)検出要素
運転時間
2)測定方法
トルクデータ波形から、ハンマーブローから弁停止までの時間を測定する。
3)判定
規格(JEM1446)では、開閉時間に関して15%の幅を許容しているので、計測したデータが基礎データ(電動弁健全時のデータ)に対して+10〜-5%範囲から外れていれば、異常と判断する。
【0033】
(10) 仕切り弁における弁棒と弁体結合部分のガタの量
1)検出要素
ガタの吸収時間。
2)測定方法
トルク停止により、全閉状態にある弁を開作動させるときの、ロッキングナットの緩み、及びステムナットの摩耗によるガタを吸収し終わってから、弁引き抜きにいたるまでの時間を計測し、これに、予め基礎データとして計測してある弁棒の移動速度を乗ずることにより、弁棒と弁体の結合部分の摩耗量を検知できる。
3)判定
仕切り弁における弁棒と弁体の結合部分の摩耗量に関しては、一般的な規定がないため、予めデータベースに入力されているメーカー既定値、またはユーザ既定値との比較により、異常を判定する。
【0034】
(11) 瞬時バイパスリミットスイッチの作動位置
1)検出要素
起動時のトルク信号波形。
2)判定
▲1▼閉側トルクシート仕切弁の場合
全閉状態より、開方向運転にて弁体引き抜き時に開側設定トルク以上の力量を必要とした場合、適正なトルクバイパスリミットスイッチの作動位置であれば、確実に弁体が引き抜け、正常に作動する。
しかし、トルクバイパスリミットスイッチの作動位置が全閉側にズレを生じた状態にて開方向運転を行った場合、弁引き抜き以前に、開側設定トルクの力量にて停止してしまうので、これがトルク信号にて観測された場合には、異常と判断する。
▲2▼閉側トルクシートの玉形弁の場合
開方向運転において、ハンマーブロー効果により、開側設定トルク以上の力量が発生した場合、適正なトルクバイパスリミットスイッチ作動位置であれば、正常に作動する。
しかし、トルクバイパスリミットスイッチの作動位置が、全閉側にズレを生じた状態において開方向運転を行った場合、ハンマーブロー位置で、開側設定トルクの力量にて停止してしまうので、これがトルク信号にて観測された場合には、異常と判断する。
【0035】
(12) 全域バイパスリミットスイッチの作動位置
1)検出要素
トルクバイパスリミットスイッチの作動位置が適切であれば、開作動中は、全開付近にて、また閉作動中は、全閉付近にてトルクバイパスリミットスイッチ接点がOFFし、その後、トルクスイッチ(設定トルク)にて弁が停止する。
しかし、トルクバイパスリミットスイッチの作動位置が、トルクスイッチ作動位置より開作動時においては全開側に、また閉作動時においては、全閉側にズレを生じた場合、トルクバイパスリミットスイッチ接点がONの間は、トルクスイッチが作動してもモータは停止せず、モータの出し得る力量内でバイパスが解除されるまで動作し続ける。結果として、見かけ上設定トルクが上昇するとともに、保持トルクが上昇する。
従って、検出要素は設定トルクまたは保持トルクとなる。
2)測定方法
▲1▼設定トルクの測定方法
モータの漏洩電流またはモータ電流から判断できるモータ電流遮断時のトルク値を計測する。
▲2▼保持トルクの測定方法
開作動、閉作動いずれの場合も、トルク停止にてモータが停止した後、慣性等による電動弁の挙動が落ち着き、トルクが安定した時の値を計測。
3)判定
▲1▼設定トルク
規格(JEM1446)において、設計値の±10%以内と定められている。従って、設定トルクが仕様書で規定されている値の±10%から外れた場合には異常と判定する。
▲2▼保持トルク
保持トルクに関する規格はないが、実験により設定トルクがある割合で変化した場合、保持トルクも、ほぼ同様の割合で変化することがわかっているため、次のように判定する。
a)ウォームとウォームホイールが自動締まりの場合。
電動弁が健全な状態であるときに採取した基礎データから求めた値に基いて、上限値及び下限値を定め、これらのいずれかを超えた場合、異常と判定する。
b)ウォームとウォームホイールが非自動締まり(モータブレーキ付き)の場合。
上限値:電動弁が健全な状態であるときに採取した基礎データから求めた値の一定範囲を超えた場合、異常と判定する。
下限値:モータブレーキ制動トルク×レシオ×効率にて算出した値よりも低い場合、異常と判定する。
【0036】
次に、本発明における診断項目及び診断方法を、(13)および(14)として示す。
(13) ステムナット摩耗量によるガタの量
1)検出要素
ガタの吸収時間。
2)測定方法
閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、電動弁が健全な状態にあるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗ずることにより、ロッキングナット部分及びステムナットに生ずるガタの量を検知することができる。
3)判定
ステムナットの摩耗量は、ステムナットネジ山幅の30%以内と規定されているので、これを超えた場合は、異常と判断する。
また、ロッキングナットの緩みは、急激に進行するのに対し、ステムナット摩耗は、長い時間をかけて徐々に進行するという特徴を持っているので、データを積み重ね、傾向管理を行なうことにより、両者を区別することができる。
【0037】
(14) ロッキングナットの緩みによるガタの量
1)検出要素
ガタの吸収時間。
2)測定方法
閉作動時におけるハンマーブローから、ランニングトルクが発生するまでの時間を計測し、これに、電動弁が健全な状態であるときに、予め基礎データとして計測しておいた弁棒の移動速度を乗ずることにより、ステムナット及びロッキングナット部分に生ずるガタの量を検知できる。
3)判定
ロッキングナットの緩み量の検出要素及び検出方法は、ステムナット摩耗と全く同じであるため、基準値は、ステムナット摩耗と同一であり、ステムナットネジ山幅の30%を超えるガタが検出された場合は、異常と判断する。ステムナットの摩耗は、長い時間をかけて徐々に進行するのに対し、ロッキングナットの緩みは、急激に進行するという特徴を持っているので、データを積み重ね傾向管理を行なうことにより、両者を区別することができる。
【0038】
上記した診断により異常と判定された場合には、警告もしくは警報を発信させる等、必要な対策を執らせることとなる。
【0039】
劣化予測とメンテナンスプランの作成
ある電動弁について、図5に示す如く、複数回の診断データが蓄積されている場合には、これらの診断項目毎の診断データ情報から変化の傾向を抽出し、電動弁の健全性を判定するための基準値に達する時期を求める。
さらに、定期検査の予定がデータベースに設定されている場合には、被検弁の劣化が基準値に達する時期の直前にある定期検査の際のメンテナンス対象弁の一つとしてリストアップし、メンテナンス内容を、データベースに追加するとともに表示する。
【0040】
【発明の効果】
本発明は、データ交換ユニットと演算処理装置からなる小型軽量な携帯型異常診断及び劣化予測装置であって、恒久的に内蔵されて、弁装置に固有的なトルク信号を出力するトルクセンサ、及びワンタッチで装着可能な漏洩電流を含む電流等を検知する仮設のエネルギセンサと、振動を検知する仮設の振動センサを用いることにより、各種の弁機能の診断を精密に行うことができるとともに、診断に際して、カバー等を開放することも不要とし、弁装置に一切手を加えることなく、短時間に診断を行なうことが可能となり、かつプラント停止中のみならず、運転中にも実施することができ、しかも、1台の装置で、複数の弁装置を管理することができる。
【0041】
しかも、各摺動部その他の可動部分の劣化、ひいてはその使用限界もしくは交換時期等を予測することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明装置の一実施形態を略示する図である。
【図2】
本発明の装置により得られる情報の一例を示す図である。
【図3】
本発明の装置のブロック構成の一例を示す図である。
【図4】
正常または異常の判定結果を表す画面の例を示す図である。
【図5】
劣化予測の例を示す図である。
【図6】
波形と診断要素の関係を示す図である。
【符号の説明】
(1)電動弁
(2)電動駆動装置
(3)電力ケーブル
(4)トルクセンサ
(5)振動センサ
(6)電流センサ
(7)データ変換ユニット
(8)(9)演算処理装置
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-07-27 
出願番号 特願2000-324979(P2000-324979)
審決分類 P 1 651・ 113- YA (F16K)
P 1 651・ 537- YA (F16K)
P 1 651・ 121- YA (F16K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 八日市谷 正朗
特許庁審判官 ぬで島 慎二
増岡 亘
登録日 2003-03-28 
登録番号 特許第3411980号(P3411980)
権利者 日本原子力発電株式会社 日本ギア工業株式会社
発明の名称 弁装置における異常診断及び劣化予測方法並びに装置  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 中馬 典嗣  

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