• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て その他  H01L
管理番号 1105935
異議申立番号 異議2002-71385  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-03-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-03 
確定日 2004-09-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3234201号「半導体装置」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3234201号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3234201号の請求項1ないし8に係る発明の手続きの経緯は、以下のとおりである。
出願番号 特願平11-224995号
(特願平2-316598号の分割)
出願日 平成2年11月20日
設定登録 平成13年9月21日
特許異議の申立て 平成14年6月3日
(山枡幸文)
取消理由通知 平成14年9月11日
意見書、訂正請求書 平成14年11月23日


第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている、平成14年11月23日付け訂正請求書に添付された訂正明細書における訂正の内容は以下のとおりである。
訂正事項a.特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。
「【請求項1】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、かつ前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域には酸素、窒素または炭素が添加されており、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。」
訂正事項b.特許請求の範囲の請求項2を次のとおり訂正する。
「【請求項2】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域には酸素、窒素または炭素が添加されており、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記半導体のチャネル形成領域にはボロンが1×1015〜5×1017cm-3の濃度で添加されており、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。」
訂正事項c.特許請求の範囲の請求項3を次のとおり訂正する。
「【請求項3】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、かつ前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。」
訂正事項d.特許請求の範囲の請求項4を次のとおり訂正する。
「【請求項4】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記半導体のチャネル形成領域にはボロンが1×1015〜5×1017cm-3の濃度で添加されており、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。」
訂正事項e.明細書中の【0017】段落を次のとおり訂正する。
「【0017】
図1において、ANガラス、パイレックス(登録商標)ガラス等の約600 ℃の熱処理に耐え得るガラス(1) 上にマグネトロンRF(高周波) スパッタ法を用いてブロッキング層(38)としての酸化珪素膜を1000〜3000Åの厚さに作製した。」

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
ア.訂正事項a〜dについて
訂正後の請求項1〜4は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された発明において、さらに「前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ない」点の限定を図るものであり、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
そして、この点の構成は、特許明細書の【0007】段落、【0008】段落、【0019】段落、【0022】〜【0024】段落などに記載されていたものである。
したがって、訂正事項a〜dは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ.訂正事項eについて
訂正事項eについては、訂正前の【0017】段落の記載における「・・・パイレックスガラス・・・」を「・・・パイレックス(登録商標)ガラス・・・」と訂正し、用語パイレックスが登録商標であることを明らかにするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項eは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
(1)申立の理由及び取消理由通知の概要
ア.申立の理由の概要
特許異議申立人山枡幸文は、証拠として甲第1号証(特開昭64-1273号公報)、甲第2号証(特開昭64-66969号公報)、甲第3号証(特許第3029289号公報)を提出し、本件特許の請求項1、3、5〜8に係る発明は、本件出願前国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは本件出願前国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるので特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本件特許の請求項2、4に係る発明は、本件出願前国内において頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるので特許法第29条第2項の規定により特許をを受けることができず、また、本件特許の請求項1、3、5〜8に係る発明は、甲第3号証として示した本件特許発明の原出願に係る特許発明の請求項1、2、5と実質的に同一発明であり、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができず、取り消されるべきであると主張している。

イ.取消理由通知の概要
「本件の下記の請求項に係る発明は、その出願前に国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有するものが、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

刊行物1.特開昭64-1273号公報(申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2.特開昭64-66969号公報(申立人の提出した甲第2号証)
刊行物3.特開昭55-32026号公報(申立人の提出した参考資料1)
刊行物4.特開昭56-94386号公報(申立人の提出した参考資料2)
刊行物5.特開昭58-85478号公報(申立人の提出した参考資料3)
刊行物6.特開昭64-25573号公報(申立人の提出した参考資料4)
刊行物7.特開平2-14577号公報(申立人の提出した参考資料5)
刊行物8.特開昭62-147759号公報(申立人の提出した参考資料6)
刊行物9.特開昭62-219574号公報(申立人の提出した参考資料7)
刊行物10.特開昭63-261880号公報(申立人の提出した参考資料8)

・請求項1
・刊行物1、3〜8

・請求項2
・刊行物1〜10

・請求項3
・刊行物1、3〜8

・請求項4
・刊行物1〜10

・請求項5ないし8
・刊行物1〜10」

(2)本件請求項1ないし8に係る発明
上記「第2」で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1ないし8に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、かつ前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域には酸素、窒素または炭素が添加されており、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域には酸素、窒素または炭素が添加されており、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記半導体のチャネル形成領域にはボロンが1×1015〜5×1017cm-3の濃度で添加されており、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、かつ前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記半導体のチャネル形成領域にはボロンが1×1015〜5×1017cm-3の濃度で添加されており、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項において、前記半導体装置は前記薄膜トランジスタを複数有しており、前記薄膜トランジスタは、Pチャネル型薄膜トランジスタまたはNチャネル型薄膜トランジスタであることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項において、前記半導体装置は液晶表示装置であることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項において、前記半導体装置はイメージセンサであることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項において、前記半導体装置はモノリシック型集積回路であることを特徴とする半導体装置。」

(3)引用刊行物に記載された発明
当審で通知した取消理由で引用した刊行物1(特開昭64-1273号公報(申立人の提出した甲第1号証))には、「(1)非晶質基板上に非晶質シリコン薄膜を形成し、該非晶質シリコン薄膜の一部分に酸素をイオン注入した後、熱処理を加えて結晶化する工程において、該非晶質シリコン薄膜内の前記酸素をイオン注入していない領域から該非晶質シリコン薄膜内の前記酸素をイオン注入した領域へ結晶粒を成長させ、該結晶粒の成長方向をチャネル長方向として薄膜トランジスタを作成することを特徴とする多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法。」(第1頁左下欄、特許請求の範囲)であり、「近年、液晶や薄膜発光素子を用いた画像表示装置や、アモルファスシリコンを用いた光センサの駆動用に、多結晶シリコン薄膜トランジスタが使用され始めている。」(第1頁左下欄第19行〜同頁右下欄第2行)こと、「本発明の目的は電界効果移動度およびオフ電流特性をもとに改善する多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法を提供することにある。」(第2頁右下欄第7〜9行)こと、「[実施例]
以下本発明の製造方法の実施例について、第3図(a)〜(g)にしたがって説明する。第3図(a)に示すように、石英基板300上に真空蒸着法により、基板温度320℃で、非晶質シリコン薄膜301を厚さ0.2μm堆積する。このときの成膜時の真空槽内の圧力は1×10-7torr以下であった。次に、第3図(b)に示すように、フォトリソグラフィー工程により該非晶質シリコン薄膜301上に、フォトレジストをイオン注入用マスク302として整形した。前記工程の後、シリコンを加速電圧50KeV,ドーズ量5×1015cm-2の条件でイオン注入した。さらに、酸洗浄によりマスク302を除去した。前記工程の後、該石英基板300を電気炉によって、窒素雰囲気中で600℃,15時間の熱処理を加えた。前記工程の後、第3図(c)に示すように結晶化した薄膜301をフォトリソグラフィー工程により各トランジスタ領域303に分割する。この後、第3図(d)に示すように、ゲート酸化膜である酸化シリコン膜304を、水素化シリコン(SiH4)と亜酸化窒素(N2O)による気相化学反応により、基板温度630℃で、厚さ0.1μm形成した。さらに、多結晶シリコン薄膜を、水素化シリコン(SiH4)の熱分解による気相化学反応などを用いて、厚さ0.3μm形成し、ゲート電極305を形成した。この後、第3図(e)に示すように、リンイオンを5×1015cm-2イオン注入し、ソース領域306とドレイン領域307を形成した。さらに、650℃,1時間の熱処理を行い、ソース領域306とドレイン領域307の活性化を図った。前記工程の後、第3図(f)に示すように、酸化シリコン膜308を前述の気相化学反応により厚さ1μm形成し、フォトリソグラフィー工程により該ソース領域306、該ドレイン領域307上の酸化シリコン膜308にコンタクトホールを設けた。前記工程の後、真空蒸着等の方法により配線金属としてアルミニウムを堆積し、フォトリソグラフィー工程により第3図(g)に示すソース電極309とドレイン電極310とゲート電極間の配線を行った。この後、450℃,30分の水素中での熱処理を行った。
上記の工程により作成した薄膜トランジスタの特性は、電界効果移動度100cm2/Vsec,オフ電流10-10Aであった。」(第3頁右上欄第19行〜同頁右下欄第20行)ことが、第1図〜第3図と共に記載されている。

同刊行物2(特開昭64-66969号公報(申立人の提出した甲第2号証))には、「本発明はMOS型薄膜トランジスターの製造方法における不純物のチャンネルドープ工程の改良に関する。」(第1頁左下欄第第14〜16行)こと、「MOS型薄膜トランジスターは一般に第1図に示すような方法で製造されている。即ちまず絶縁基板1上にポリシリコン(p-Si)、アモルファスシリコン(a-Si)等のSi半導体膜を減圧CVD法等で形成し、ついでパターンニングを行なってSi半導体活性層2を設け[第1図(a)]、引続き熱酸化を行なってゲート酸化膜3を形成した後[第1図(b)]、通常イオン注入4により、しきい値電圧VTH制御のためのチャンネルドープを行う(第1図(c))。なお5はチャンネルドープされたSi半導体活性層である。またこの場合、不純物イオンは通常、nチャンネルトランジスターの場合はB+、またpチャンネルトランジスターの場合はAs+又はP+である。」(第1頁左下欄第18行〜同頁右下欄第12行)こと、「・・・、不純物拡散工程ではチャンネルドープ領域の不純物濃度は1×1016〜1×1018/cm3のオーダー・・・」(第2頁右下欄第1〜3行)が、第1図と共に記載されている。

同刊行物3〜5(特開昭55-32026号公報(申立人の提出した参考資料1)、特開昭56-94386号公報(申立人の提出した参考資料2)、刊行物5.特開昭58-85478号公報(申立人の提出した参考資料3))には、薄膜トランジスタ及び配線を覆うように基板上に有機樹脂膜を設けることや、その有機樹脂膜上に透明電極を設けることが、示されている。

刊行物6〜8(特開昭64-25573号公報(申立人の提出した参考資料4)、特開平2-14577号公報(申立人の提出した参考資料5)、特開昭62-147759号公報(申立人の提出した参考資料6))には、液晶表示素子などに用いられる多結晶シリコン薄膜TFTにおいて、チャネル領域に酸素、窒素、アルゴンなどのイオンを注入することが、示されている。

刊行物9、10(特開昭62-219574号公報(申立人の提出した参考資料7)、特開昭63-261880号公報(申立人の提出した参考資料8))には、しきい値電圧を制御するためにチャネル形成領域に適当な濃度のボロンを添加することが、示されている。

(4)対比・判断
ア.本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者は、「絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、かつ前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域には酸素、窒素または炭素が添加されており、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であることを特徴とする半導体装置。」の点で一致しているが、本件請求項1に係る発明が、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを有しているのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、薄膜トランジスタおよび配線を覆うように基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを有しているとの記載がない点(以下「相違点1」という。)、及び、本件請求項1に係る発明が、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、ソース領域の一部の酸素、窒素および炭素の総量は、チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないが、ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量と同じである点(以下「相違点2」という。)で相違している。

そこで、これらの相違点について検討する。
相違点1についての検討。
上記刊行物3〜5には、薄膜トランジスタ及び配線を覆うように基板上に有機樹脂膜を設けることや、その有機樹脂膜上に透明電極を設けることが示されており、周知である。
したがって、刊行物1に記載の発明において、このような周知事項を適用して薄膜トランジスタおよび配線を覆うように基板上に設けられた有機樹脂膜と、有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを設けることは、当業者が適宜なしえたことと認められる。

相違点2についての検討。
本件請求項1に係る発明の、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ない点については、上記刊行物3〜8のいずれにも、記載も示唆もない。
そして、かかる点により、本件請求項1に係る発明は、チャネル形成領域に酸素等の不純物を添加して非感光性の半導体とするとともに、ソース及びドレインにはこれらの不純物の添加をせずにドナーまたはアクセプタのイオン化率の向上を図るという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである(【0070】段落の記載を参照)。
したがって、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1、3〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者は、「絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域には酸素、窒素または炭素が添加されており、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であることを特徴とする半導体装置。」の点で一致しているが、本件請求項2に係る発明が、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを有しているのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、薄膜トランジスタおよび配線を覆うように基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを有しているとの記載がない点(以下「相違点3」という。)、本件請求項2に係る発明が、前記半導体のチャネル形成領域にはボロンが1×1015〜5×1017cm-3の濃度で添加されているのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、半導体のチャネル形成領域のボロンの添加については記載がない点(以下「相違点4」という。)、及び、本件請求項1に係る発明が、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、ソース領域の一部の酸素、窒素および炭素の総量は、チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないが、ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量と同じである点(以下「相違点5」という。)で相違している。

そこで、これらの相違点について検討する。
相違点3についての検討。
上記刊行物3〜5には、薄膜トランジスタ及び配線を覆うように基板上に有機樹脂膜を設けることや、その有機樹脂膜上に透明電極を設けることが示されており、周知である。
したがって、刊行物1に記載の発明において、このような周知事項を適用して薄膜トランジスタおよび配線を覆うように基板上に設けられた有機樹脂膜と、有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを設けることは、当業者が適宜なしえたことと認められる。

相違点4についての検討。
上記刊行物2、9、10には、半導体のチャネル形成領域にボロンを添加して、しきい値の調整をすることが記載されており、周知である。そして、ボロンの濃度は、所定のしきい値とするために、当業者が適宜設定できる程度のものと認められる。

相違点5についての検討。
本件請求項2に係る発明の、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ない点については、上記刊行物2〜10のいずれにも、記載も示唆もない。
そして、かかる点により、本件請求項2に係る発明は、チャネル形成領域に酸素等の不純物を添加して非感光性の半導体とするとともに、ソース及びドレインにはこれらの不純物の添加をせずにドナーまたはアクセプタのイオン化率の向上を図るという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである(【0070】段落の記載を参照)。
したがって、本件請求項2に係る発明は、上記刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件請求項3に係る発明について
本件請求項3に係る発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者は、「絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、かつ前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であることを特徴とする半導体装置。」の点で一致しているが、本件請求項3に係る発明が、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを有しているのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、薄膜トランジスタおよび配線を覆うように基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを有しているとの記載がない点(以下「相違点6」という。)、及び、本件請求項3に係る発明が、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、ソース領域の一部の酸素、窒素および炭素の総量は、チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないが、ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量と同じである点(以下「相違点7」という。)で相違している。

そこで、これらの相違点について検討する。
相違点6についての検討。
上記刊行物3〜5には、薄膜トランジスタ及び配線を覆うように基板上に有機樹脂膜を設けることや、その有機樹脂膜上に透明電極を設けることが示されており、周知である。
したがって、刊行物1に記載の発明において、このような周知事項を適用して薄膜トランジスタおよび配線を覆うように基板上に設けられた有機樹脂膜と、有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを設けることは、当業者が適宜なしえたことと認められる。

相違点7についての検討。
本件請求項3に係る発明の、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ない点については、上記刊行物3〜8のいずれにも、記載も示唆もない。
そして、かかる点により、本件請求項3に係る発明は、チャネル形成領域に酸素等の不純物を添加して非感光性の半導体とするとともに、ソース及びドレインにはこれらの不純物の添加をせずにドナーまたはアクセプタのイオン化率の向上を図るという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである(【0070】段落の記載を参照)。
したがって、本件請求項3に係る発明は、上記刊行物1、3〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ.本件請求項4に係る発明について
本件請求項4に係る発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者は、「絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であることを特徴とする半導体装置。」の点で一致しているが、本件請求項4に係る発明が、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを有しているのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、薄膜トランジスタおよび配線を覆うように基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを有しているとの記載がない点(以下「相違点8」という。)、本件請求項4に係る発明が、前記半導体のチャネル形成領域にはボロンが1×1015〜5×1017cm-3の濃度で添加されているのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、半導体のチャネル形成領域のボロンの添加については記載がない点(以下「相違点9」という。)、及び、本件請求項4に係る発明が、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないのに対して、上記刊行物1に記載の発明は、ソース領域の一部の酸素、窒素および炭素の総量は、チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないが、ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量と同じである点(以下「相違点10」という。)で相違している。

そこで、これらの相違点について検討する。
相違点8についての検討。
上記刊行物3〜5には、薄膜トランジスタ及び配線を覆うように基板上に有機樹脂膜を設けることや、その有機樹脂膜上に透明電極を設けることが示されており、周知である。
したがって、刊行物1に記載の発明において、このような周知事項を適用して薄膜トランジスタおよび配線を覆うように基板上に設けられた有機樹脂膜と、有機樹脂膜上に設けられた透明電極とを設けることは、当業者が適宜なしえたことと認められる。

相違点9についての検討。
上記刊行物2、9、10には、半導体のチャネル形成領域にボロンを添加して、しきい値の調整をすることが記載されており、周知である。そして、ボロンの濃度は、所定のしきい値とするために、当業者が適宜設定できる程度のものと認められる。

相違点10についての検討。
本件請求項4に係る発明の、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ない点については、上記刊行物2〜10のいずれにも、記載も示唆もない。
そして、かかる点により、本件請求項4に係る発明は、チャネル形成領域に酸素等の不純物を添加して非感光性の半導体とするとともに、ソース及びドレインにはこれらの不純物の添加をせずにドナーまたはアクセプタのイオン化率の向上を図るという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである(【0070】段落の記載を参照)。
したがって、本件請求項4に係る発明は、上記刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ.本件請求項5ないし8に係る発明について
本件請求項5ないし8に係る発明は、少なくとも本件請求項1ないし4に係る発明のいずれかを引用し、さらに限定した発明であるので、上記ア.〜エ.と同様な理由により、上記刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、特許異議申立人山枡幸文の、本件特許の請求項1、3、5〜8に係る発明は、甲第3号証として示した本件特許発明の原出願に係る特許発明の請求項1、2、5と実質的に同一発明であり、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができず、取り消されるべきであるという主張については、本件特許の請求項1、3、5〜8に係る発明は、本件特許発明の原出願に係る特許発明の請求項1、2、5と同一とは認められないので、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないというものではない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし8に係る発明の特許を取り消すことができない。
そして、他に本件請求項1ないし8に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、かつ前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域には酸素、窒素または炭素が添加されており、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域には酸素、窒素または炭素が添加されており、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記半導体のチャネル形成領域にはボロンが1×1015〜5×1017cm-3の濃度で添加されており、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、かつ前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
絶縁表面を有する基板と、前記基板上に設けられ、かつチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域を含む結晶性を有する半導体を有する薄膜トランジスタと、前記基板上に設けられ、前記ソース領域または前記ドレイン領域に接続された配線と、前記薄膜トランジスタおよび前記配線を覆うように前記基板上に設けられた有機樹脂膜と、前記有機樹脂膜上に設けられた透明電極と、を有する半導体装置であって、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量は1×1020cm-3〜20原子%であり、前記半導体のチャネル形成領域にはボロンが1×1015〜5×1017cm-3の濃度で添加されており、前記ソース領域および前記ドレイン領域の酸素、窒素および炭素の総量は、前記チャネル形成領域の酸素、窒素および炭素の総量よりも少ないことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項において、前記半導体装置は前記薄膜トランジスタを複数有しており、前記薄膜トランジスタは、Pチャネル型薄膜トランジスタまたはNチャネル型薄膜トランジスタであることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項において、前記半導体装置は液晶表示装置であることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項において、前記半導体装置はイメージセンサであることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項において、前記半導体装置はモノリシック型集積回路であることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクティブ型液晶表示装置またはイメ-ジセンサに用いる薄膜構造を有する絶縁ゲイト型電界効果トランジスタ(以下TFTという)およびその作製方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、TFTを用いたアクティブ型の液晶表示装置が知られている。この場合、TFTにはアモルファスまたは結晶粒界を有する多結晶型の半導体を用い、1つの画素にPまたはN型のいずれか一方の導電型のみのTFTを用いる。即ち、一般にはNチャネル型TFT(NTFTという)を画素に直列に連結している。
【0003】
しかしアモルファス構造の半導体は、キャリア移動度が小さく、特にホ-ルのキャリア移動度が0.1cm2/Vsec以下と小さい。また多結晶構造の半導体は、結晶粒界に偏析した酸素等の不純物および不対結合手によりドレイン耐圧を充分大きくとれない、Pチャネル型のTFTができにくい等の欠点があった。さらにこれらは光感度(フォトセンシティビティ PSという)を有し、光照射によりVg-ID(ゲイト電圧-ドレイン電流)特性等が大きく変化してしまう欠点を有している。
【0004】
そのため、チャネル形成領域に光照射が行われないように遮光層を作ることが重要な工程であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図3において、液晶(12)を有し、それに直列に連結してNTFT(11)を設け、これをマトリックス配列せしめたものである。一般には640×480または1260×960と多くするが、この図面ではそれと同意味で単純に2×2のマトリックス配列をさせた。このそれぞれの画素に対し、周辺回路(16),(17)より電圧を加え、所定の画素を選択的にオンとし、他の画素をオフとした。するとこのTFTのオン、オフ特性が一般には良好な場合、コントラストの大きい液晶表示装置を作ることができる。しかしながら、実際にかかる液晶表示装置を製造してみると、TFTの出力即ち液晶にとっての入力(液晶電位という)の電圧VLC(10)は、しばしば”1”(High)とするべき時に”1”(High)にならず、また、逆に”0”(Low)となるべき時に”0”(Low)にならない場合がある。液晶(12)はその動作において本来絶縁性であり、また、TFTがオフの時に液晶電位(VLC)は浮いた状態になる。そしてこの液晶(12)は等価的にキャパシタであるため、そこに蓄積された電荷によりVLCが決められる。この電荷は従来のTFTは光感光性であるため、遮光が充分でない時、TFTのチャネルを通じて電流がリ-ク(15)してしまい、結果としてVLCのレベルが変動してしまう。さらに液晶がRLCで比較的小さい抵抗となりリ-ク(14)が生じた場合には、VLCは中途半端な状態になってしまう。このため1つのパネル中に20万〜500万個の画素を有する液晶表示装置においては、高い歩留まりを成就することができない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、薄膜型絶縁ゲイト型電界効果トランジスタを非感光性とせしめたものである。また、ソ-ス、ドレインをよりP+またはN+とするためのものである。そしてその応用としてのアクティブ型の液晶表示装置において、液晶電位を1フレ-ムの間はたえず初期値と同じ値として所定のレベルを保ち、そのレベルがドリフトしないようにTFTを改良したものである。
【0007】
本発明は、TFTのチャネル形成領域の半導体材料を光に対し非感光性の材料とし、特にそのためTFTのチャネル形成領域に選択的に酸素、炭素または窒素の不純物を添加したシリコンを用い、その領域を結晶性を有しながらも光感光性をなくしたものである。そして一対の不純物領域を構成するソ-ス、ドレインにはその不純物の添加をしない、またはより少なくすることにより、PまたはN型の導電型を示す不純物のイオン化率を向上させたものである。
【0008】
またチャネル形成領域にイオン注入法等により選択的にO,C,Nの不純物の総量を1×1020cm-3〜20原子%、好ましくは3×1020cm-3〜5原子%としたことにより非感光性とせしめ、しかしながらかつ500〜750℃の熱処理により結晶化せしめ、キャリア移動度として5cm2/Vsec以上とするため結晶粒界を実質的になくし、かつ結晶性を有する半導体材料としたものである。
【0009】
この材料は非感光性、即ちオン状態での電流変化を10%以下とし、かつオフ状態(サブスレッシュホ-ルド状態)で暗電流が10-9Aのオ-ダのものが10-7Aのオ-ダ以下の増力、即ち変化の程度を2桁以下に2000カンデラの可視光照射で成就させたものである。
【0010】
本発明を液晶表示装置に用いる場合、マトリックス構成したそれぞれのピクセル(透明導電膜とTFTとの総合したもの)の一方の透明導電膜(画素)の電極に相補型のTFTの出力端子を連結せしめた。即ちマトリックス配列したすべての画素にPチャネル型のTFT(以下PTFTという)とNTFTとを相補型(以下C/TFTという)として連結してピクセルとしたものである。
【0011】
その代表例を図4に回路として示す。また実際のパタ-ンレイアウト(配置図)の例を図5に示す。
【0012】
即ち図4の2×2のマトリックスの例において、PTFTとNTFTとのゲイトを互いに連結し、さらにY軸方向の線VGG(22)、またはVGG’(23)に連結した。またC/TFTの共通出力を液晶(12)に連結している。PTFTの入力(VSS側)をX軸方向の線VDD(18),VDD’(18’)に連結し、NTFTの入力(VSS側)をVSS(19)に連結させている。するとVDD(18),VGG(22)が”1”の時、液晶電位(10)は”0”となり、またVDD(18)が”1”、VGG(22)が”0”の時液晶電位(10)は”1”となる。即ち、VGGとVLCとは「逆相」となる。
【0013】
そして液晶電位(10)はVDD(18)、または接地またはVSS(19)のいずれかに固定させるため、フロ-ティングとなることがない。
【0014】
図4においては、NTFTとPTFTとを逆に配設すると、VGGとVLCとは「同相」とすることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に実施例に基づき、本発明を示す。
【0016】
【実施例】
「実施例1」
この実施例では図1及び図2を用いて本発明を示す。ガラス基板にC/TFTを作らんとした時の製造工程を図1及び図2に基づき示す。
【0017】
図1において、ANガラス、パイレックス(登録商標)ガラス等の約600℃の熱処理に耐え得るガラス(1)上にマグネトロンRF(高周波)スパッタ法を用いてブロッキング層(38)としての酸化珪素膜を1000〜3000Åの厚さに作製した。
【0018】
プロセス条件は酸素100%雰囲気、成膜温度150℃、出力400〜800W、圧力0.5Paとした。タ-ゲットに石英または単結晶シリコンを用いた成膜速度は30Å/分であった。
【0019】
この上に、酸素、炭素または窒素の総量が7×1019cm-3好ましくは1×1019cm-3以下しか添加させていないシリコン膜をLPCVD(減圧気相)法、スパッタ法またはプラズマCVD法により形成した。 減圧気相法で形成する場合、結晶化温度よりも100〜200℃低い450〜550℃、例えば530℃でジシラン(Si2H6)またはトリシラン(Si3H8)をCVD装置に供給して成膜した。反応炉内圧力は30〜300Paとした。成膜速度は30〜100Å/分であった。NTETとPTFTとのスレッシュホ-ルド電圧(Vth)を概略同一に制御するため、ホウ素をジボランを用いて1×1015〜5×1017cm-3の濃度として成膜中に添加してもよい。
【0020】
スパッタ法で行う場合、スパッタ前の背圧を1×10-5Pa以下とし、単結晶シリコンをタ-ゲットとし、アルゴンに水素を50〜80体積%に混入した雰囲気で行った。例えばアルゴン20体積%、水素約80体積%とした。成膜温度は150℃、周波数は13.56MHz、スパッタ出力400〜800Wとした。圧力は0.5Paであった。
【0021】
プラズマCVD法により珪素膜を作製する場合、温度は例えば300℃とし、モノシラン(SiH4)またはジシラン(Si2H6)を反応性気体として用いた。これらをPCVD装置内に導入し、13.56MHzの高周波電力を加えて成膜した。
【0022】
これらの方法によって形成された被膜は、酸素が7×1019cm-3好ましくは1×1019cm-3またはそれ以下しか含有しないようにした。するとこの被膜は感光性を有するが、酸化等が添加されていない場合よりもより結晶化をしやすいという特長を有する。
【0023】
この実施例では図1(A)に示す如く、第1のフォトマスク▲1▼で所定の領域のみ、半導体膜(2),(2’)を残し他部を除去した。さらに第2のフォトマスク▲2▼を用い、フォトレジスト(35)を選択的に除去した。この除去された領域(36),(35)は、それぞれPTFT、NTFTのチャネル形成領域を覆っている。この開孔(35),(36)に対し、C、NまたはO、例えばOを5×1014〜5×1016cm-2のド-ズ量不純物をイオン注入法により添加した。加えた電圧は30〜50KeV例えば35KeVとした。
【0024】
その結果、さらに一対の不純物領域であるソ-スまたはドレインとなる領域は、酸素等の不純物がきわめて少なく、結晶化はより強く進んだ。またその一部は後工程においてソ-ス、ドレインとある領域において0〜5μmの横方向の深さにまでわたって設けられている。即ち、理想的には0が好ましいが、工程上の問題を考慮すると0を含み5μm程度の範囲の間で横方向に渡って設けることが好ましかった。
【0025】
即ち非感光性を有せしめるにはC,O,Nを添加すればよいが、多すぎるとその後の熱処理でも結晶化しにくくなり、ひいてはキャリア移動度が5cm2/Vsec以上、好ましくは10〜100cm2/Vsecを得ることができないからである。
【0026】
かくして、アモルファス状態の珪素膜を500〜10000Å(1μm)、例えば2000Åの厚さに作製の後、500〜750℃の結晶成長を起こさない程度の中温の温度にて12〜70時間非酸化物雰囲気にて加熱処理した。例えば窒素または水素雰囲気にて600℃の温度で保持した。
【0027】
この半導体膜の下側の基板表面は、アモルファス構造の酸化珪素膜が形成されているため、この熱処理で特定の核が存在せず、全体が均一に加熱アニ-ルされる。即ち、成膜時はアモルファス構造を有し、また水素は単に混入しているのみである。
【0028】
このアニ-ルにより、チャネル形成領域の半導体膜はアモルファス構造から秩序性の高い状態に移り、その一部は結晶状態を呈する。特にシリコンの成膜時に比較的秩序性の高い領域は特に結晶化をして結晶状態となろうとする。しかし、これらの領域間に存在する珪素により互いの結合がなされるため、珪素同志は互いにひっぱりあう。結晶としてもレ-ザラマン分光により測定すると、単結晶の珪素(111)結晶方位のピ-ク522cm-1より低周波側にシフトした格子歪を有した(111)結晶ピ-クが観察される。その見掛け上の粒径は、半値巾から計算すると、50〜500Åとマイクロクリスタルのようになっているが、実際はこの結晶性の高い領域は多数あってクラスタ構造を有し、その各クラスタ間は互いに珪素同志で結合(アンカリング)がされたセミアモルファス構造の被膜を形成させることができた。
【0029】
例えばSIMS(二次イオン質量分析)法により深さ方向の分布測定を行った時、添加物(不純物)として最低領域(表面または表面より離れた位置(内部))において酸素が3.4×1020cm-3、窒素4×1017cm-3を得た。また水素は4×1020cm-3であり、珪素4×1022cm-3として比較すると1原子%であった。
【0030】
この結晶化は酸素濃度が例えば1.5×1020cm-3においては1000Åの膜厚で600℃(48時間)の熱処理で可能である。これを5×1020cm-3にすると膜厚を0.3〜0.5μmと厚くすれば600℃でのアニ-ルによる結晶化が可能であったが、0.1μmの厚さでは650℃での熱処理が結晶化のためには必要であった。即ちより膜厚を厚くする、より酸素等の不純物濃度を減少させるほど、結晶化がしやすかった。
【0031】
結果として、この被膜は実質的にグレインバウンダリ(GBという)がないといってもよい状態を呈する。キャリアは各クラスタ間をアンカリングされた個所を通じ互いに容易に移動し得るため、いわゆるGBの明確に存在する多結晶珪素よりも高いキャリア移動度となる。即ちホ-ル移動度(μh)=10〜50cm2/Vsec、電子移動度(μe)=15〜100cm2/Vsecが得られる。
【0032】
またフォトセンシティビティは、TFTとしてのVg(ゲイト電圧)-ID(ドレイン電流)特性を得ながらガラス側より2000ルックスの光を照射してIDがオン状態の領域で10%以下しか変動しない(ドリフトしない)条件またはサブスレッシュホ-ルド電圧の領域にてIDが2桁以下の増加(ドリフト)しかない条件(オフ電流が充分小さい条件)として測定した。すると、チャネル形成領域での酸素濃度が8×1019cm-3等の少ない濃度であるとドリフトがあるが、1×1020cm-3以上好ましくは3×1020cm-3以上とするとほとんどドリフトがPTFTでもNTFTでもみられなかった。
【0033】
他方、上記の如く中温でのアニ-ルではなく、900〜1200℃の高温アニ-ルにより被膜を多結晶化すると、核からの固相成長により被膜中の酸素等の不純物の偏析がおきて、GBには酸素、炭素、窒素等の不純物が多くなり、結晶中の移動度は大きいが、GBでのバリア(障壁)を作ってそこでのキャリアの移動を阻害してしまう。そして結果としては5cm2/Vsec以下の移動度しか得られず、結晶粒界でのドレインリ-ク等による耐圧の低下がおきてしまうのが実情であった。
【0034】
即ち、本発明の実施例ではかくの如く、感光性がなくかつ結晶性を有するセミアモルファスまたはセミクリスタル構造を有するシリコン半導体を用いている。
【0035】
またこの上に酸化珪素膜をゲイト絶縁膜として厚さは500〜2000Å例えば1000Åに形成した。これはブロッキング層としての酸化珪素膜の作製と同一条件とした。この成膜中に弗素を少量添加してもよい。
【0036】
この酸化珪素と下地の半導体膜との界面特性を向上し、界面準位を除くため、紫外光を同時に加え、オゾン酸化を行うとよかった。即ち、ブロッキング層(38)を形成したと同じ条件のスパッタ法と光CVD法との併用方法とすると、界面準位を減少させることができた。
【0037】
さらにこの後、この上側にリンが1〜5×1020cm-3の濃度に入ったシリコン膜またはこのシリコン膜とその上にモリブデン(Mo)、タングステン(W),MoSi2またはWSi2との多層膜を形成した。これを第3のフォトマスク▲3▼にてパタ-ニングした。そしてPTFT用のゲイト電極(4),NTFT用のゲイト電極(4’)を形成した。例えばチャネル長10μm、ゲイト電極としてリンド-プ珪素を0.2μm、その上にモリブデンを0.3μmの厚さに形成した。
【0038】
図1(C)において、フォトレジスト(31’)をフォトマスク▲4▼を用いて形成し、PTFT用のソ-ス(5),ドレイン(6)となる領域でありかつ酸素濃度の少ない領域に対し、ホウ素を1〜2×1015cm-2のド-ズ量をイオン注入法により添加した。
【0039】
次に図1(D)の如く、フォトレジスト(31)をフォトマスク▲5▼を用いて形成した。そしてNTFT用のソ-ス(5’)、ドレイン(6’)となる領域に対しリンを1×1015cm-2の量、イオン注入法により添加した。
【0040】
これらはゲイト絶縁膜(3)を通じて行った。しかし図1(B)において、ゲイト電極(4),(4’)をマスクとしてシリコン膜上の酸化珪素を除去し、その後、ホウ素、リンを直接珪素膜中にイオン注入してもよい。
【0041】
次に、これらフォトレジスト(31)を除去した後、630℃にて10〜50時間再び加熱アニ-ルを行った。そしてPTFTのソ-ス(5),ドレイン(6),NTFTのソ-ス(5’),ドレイン(6’)を不純物を活性化してP+、N+の領域として作製した。
【0042】
この領域は酸素等が少ないため、同じ温度でもより結晶化度が進む。結果としてホウ素、リン等の導電型を与える不純物のイオン化率(アクセプタまたはドナ-の数/注入した不純物の量)が50〜90%にまで可変することができた。
【0043】
またゲイト電極(4),(4’)下にはチャネル形成領域(7),(7’)がセミアモルファス半導体として形成されている。
【0044】
酸素等の不純物の添加された領域の端部(42)を不純物領域の端部(41)より不純物領域にわたらせることにより、ここでのホウ素またはリンのイオン化率は減少するが、同時にN+-I、P+-Iの存在する面に結晶粒界が存在しにくく、結果としてドレイン耐圧を高くすることができる。
【0045】
かくすると、セルフアライン方式でありながらも、すべての工程において700℃以上に温度を加えることがなくC/TFTを作ることができる。そのため、基板材料として、石英等の高価な基板を用いなくてもよく、本発明の大画素の液晶表示装置にきわめて適しているプロセスである。
【0046】
熱アニ-ルは図1(A),(D)で2回行った。しかし図1(A)のアニ-ルは求める特性により省略し、双方を図1(D)の熱アニ-ルにより兼ねさせて製造時間の短縮を図ってもよい。図2(A)において、層間絶縁物(8)を前記したスパッタ法により酸化珪素膜の形成として行った。この酸化珪素膜の形成はLPCVD法、光CVD法を用いてもよい。例えば0.2〜1.0μmの厚さに形成した。その後、図2(A)に示す如く、フォトマスク▲6▼を用いて電極用の窓(32)を形成した。
【0047】
さらにこれら全体はアルミニウムを0.5〜1μmの厚さにスパッタ法により形成し、リ-ド(9),(9’)およびコンタクト(29),(29’)をフォトマスク▲7▼を用いて図2(B)の如く作製した。
【0048】
かかるTFTの特性を略記する。移動度(μ)、スレッシュホ-ルド電圧、ドレイン耐圧(VBDV)、フォトセンシティビティ(PS)は表1の通りであった。
【0049】
【表1】

【0050】
上記はチャネル長10μm、チャネル巾30μmの場合を示す。かかる半導体を用いることにより、一般に不可能とされていたTFTに大きな移動度を得ることができ、加えて感光性がなく、かつドレイン耐圧を大きなレベルで得た。そのため、初めて図3、図4に示した液晶表示装置用のNTFTまたはC/TFTを構成させることができた。
【0051】
この実施例は液晶表示装置例であり、またこのC/TFTの出力を画素に連結させるためさらに図2(B)において、ポリイミド等の有機樹脂(34)を形成した。そしてフォトマスク▲9▼により再度の窓あけを行った。2つのTFTの出力端を液晶装置の一方の透明電極に連結するため、スパッタ法によりITO(インジュ-ム・スズ酸化膜)を形成した。それをフォトマスク▲8▼によりエッチングして、透明電極(33)を構成させた。このITOは室温〜150℃で成膜し、それを200〜300℃の酸素または大気中のアニ-ルにより成就した。
【0052】
かくの如くにしてPTFT(21)とNTFT(11)と透明導電膜の電極(33)とを同一ガラス基板(1)上に作製した。
【0053】
「実施例2」
図5(A)に図4に対応した実施例を示す。X軸方向にVDD(18)、VSS(19)、VDD’(18’)を有するX軸方向の配線(以下X線ともいう)を形成した。なおY軸方向はVGG(22)、VGG’(23)とY軸方向の配線(以下Y線ともいう)を形成した。図面(A)は平面図であるが、そのA-A’の縦断面図を図5(B)に示す。またB-B’の縦断面図を図5(C)に示す。
【0054】
またPTFT(21)をX線VDD(18)とY線VGG(22)との交差部に設け、VDD(18)とVGG’(23)との交差部にも他の画素用のPTFT(21’)が同様に設けられている。またNTFT(11)はVSS(19)とVGG(22)との交差部に設けられている。VSS(19)とVGG(22)との交差部の下側には他の画素用のNTFT(11’)が設けられている。C/TFTを用いたマトリックス構成を有せしめた。それらPTFTはソ-ス(5)がコンタクト(32)を介してX線VDD(18)に連結され、ゲイト(4)は多層形成がなされたY線VGG(22)に連結されている。ドレイン(6)はコンタクト(29)を介して透明導電膜の電極(33)に連結している。
【0055】
これらのNTFT、PTFTのチャネル形成領域(7),(7’)には酸素が意図的に添加され、ソ-ス、ドレインには添加させないようにした。
【0056】
他方、NTFTはソ-ス(5’)がコンタクト(32’)を介してX線VSS(19)に連結され、ゲイト(4’)はY線VGG(22)に、ドレイン(6’)はコンタクト(29’)を介して透明導電膜(33)に連結している。かくして2本のX線(18),(19)に挟まれた間(内側)に画素である透明導電膜(33)とC/TFT(21),(11)とにより1つのピクセルを構成せしめた。かかる構造を左右、上下に繰り返すことにより、2×2のマトリックスの1つの例またはそれを拡大した640×480、1280×960といった大画面の液晶表示装置を作ることが可能となった。
【0057】
ここでの特長は、1つの画素に2つのTFTが相補構成をして設けられていること、また電極(33)は液晶電位VLCを構成するが、それは、PTFTがオンでありNTFTがオフか、またはPTFTがオフでありNTFTがオンか、のいずれのレベルに固定されることである。
【0058】
そしてこのガラス基板側より例え光が照射されても、C/TFTはソ-ス、ドレインはおろか、特にチャネル形成領域が光に対し非感光性であるため、反射型のみならず透光型の液晶表示装置であっても遮蔽手段を設けることなしに動作をさせることが可能であった。
【0059】
図5で明らかなように、制御要素のVSSが新たに増えても、液晶装置における開口率(全面積(34)に対し実際に表示する液晶表示有効面積(33)の割合)に関しては、従来の図1の1つのみの導電型をもつTFTを各画素に連結した場合とまったく変わらず、不利にならない。
【0060】
図5において、それら透明導電膜上に配向膜、配向処理を施し、さらにこの基板と他方の液晶の電極(図5(34))を有する基板との間に一定の間隔をあけ、公知の方法により互いに配設をした。そしてその間に液晶を注入して液晶表示装置として完成させた。
【0061】
液晶材料にTN液晶を用いるならば、その間隔を約10μm程度とし、透明導電膜双方に配向膜をラビング処理して形成させる必要がある。
【0062】
また液晶材料にFLC(強誘電性)液晶を用いる場合は、動作電圧を±20Vとし、また、セルの間隔を1.5〜3.5μm例えば2.3μmとし、反対電極(図5)(34)上にのみ配向膜を設けラビング処理を施せばよい。
【0063】
分散型液晶またはポリマ-液晶を用いる場合には、配向膜は不用であり、スイッチング速度を大とするため、動作電圧は±10〜±15Vとし、セル間隔は1〜10μmと薄くした。
【0064】
特に分散型液晶またはポリマ-液晶を用いる場合には、偏光板も不用のため、反射型としても、また透過型としても光量を大きくすることができる。その液晶はスレッシュホ-ルドがないため、本発明のC/TFTに示す如く、明確なスレッシュホ-ルド電圧が規定されるC/TFT型とすることにより大きなコントラスト実現することとクロスト-ク(隣の画素との悪干渉)を除くことができた。
【0065】
この実施例2は、C/TFTにおいてVDD側にPTFTを、VSS側にNTFTを形成した。するとその出力はVDDまたはVSSを作るため明確なレベルを決定できる。しかしVGGに対しては、VLCはインバ-タ(逆相)となる。
【0066】
このVGGとVLCとが同相(同じ向きの電圧)となる場合の2Tr/cell方式(C/TFT方式)を以下の実施例にて示す。
【0067】
「実施例3」
この実施例は、図4、図5において、VDD側に逆にNTFT(11)を、VSS側に逆にPTFT(21)を連結したC/TFT構成を有する。すると、その出力であるVLCはVGGと同相(VGGが正電圧のとき正電圧の出力、負電圧の時負電圧の出力)になり、その出力電位はVGG-VthpおよびVGG-Vthnで与えられる。VthpとVthnとが異なる時は図4の液晶の他の端子(13)にオフセットバイアスを加えて等しくすると好ましかった。かくするとVGGをVDDより大にしなければならない欠点はあるが、ゲイト電極とVLCとの間で多少のリ-クがあってもあまり気にしなくてもよいという特長を有する。
【0068】
かかる場合、図5においても同様に、PTFTとNTFTとを互いに逆に設ければよい。そのため、実施例2と図5における製造工程および開口率はまったく同じ値を作ることができる。その他は実施例2と同様である。
【0069】
「実施例4」
この実施例は、図3に示した各ピクセルに、NTFTのみを各画素等に連結して設けた1Tr/cell方式のものである。するとVLCのレベルは、フロ-ティングとなりバラツキがあるが、本発明に示すTFTが非感光性であるため、実使用の際のTFTに光が照射されることを防ぐ遮光手段を設ける必要がなく、従来より簡単にアクティブ型液晶表示装置を作ることができた。その他は実施例1,3と同様である。
【0070】
【発明の効果】
本発明はNTFT、PTFTに対し非感光性とすることにより、特にチャネル形成領域に酸素等の不純物を添加して非感光性のセミアモルファス半導体とするとともに、ソ-ス、ドレインにはこれらの不純物の添加をせずにドナ-またはアクセプタのイオン化率の向上を図ることにより遮光手段が不用となった。さらにかかるTFT、特にC/TFTとしてマトリックス化された各画素に連結することにより、
1)遮蔽手段が不要となった液晶表示装置を作ることができる
2)ソ-ス、ドレインのシ-ト抵抗の低下による高速化
3)酸素をPI、NIよりもソ-ス、ドレイン側にわたらせることにより、ドレイン耐圧を3〜10Vも 向上せしめた
という多くの特長を有する。
【0071】
本発明は非感光性のTFTを作り、その応用として液晶表示装置に用いた例を示した。しかしその他の半導体装置、例えばイメ-ジセンサ、モノリシック型集積回路における負荷または三次元素子として用いることも可能である。
【0072】
本発明においてかかるC/TFTに対し、半導体として非感光性のセミアモルファスまたはセミクリスタル構造のシリコンを主成分とする材料を用いた。しかし同じ目的のために可能であるならば他の結晶構造の半導体を用いてもよい。またセルフアライン型のC/TFTによることにより高速処理を行った。しかしイオン注入法を用いずに非セルフアライン方式によりTFTを作ってもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のPチャネル型およびNチャネル型のTFTの作製方法を示す図。
【図2】 本発明のPチャネル型およびNチャネル型のTFTの作製方法を示す図。
【図3】 1Tr/cell方式のアクティブ型TFTを用いた液晶表示装置を示す図。
【図4】 本発明の相補型TFTを用いた2Tr/cell方式アクティブ型液晶装置の回路図。
【図5】 図4に対応した液晶表示装置の一方の基板の平面図(A)、縦断面図(B),(C)
【符号の説明】
(1)・・・・ガラス基板
(2),(2’)・・半導体薄膜
(3)・・・・ゲイト絶縁膜
(4),(4’)・・ゲイト電極
(5),(5’)・・ソ-ス
(6),(6’)・・ドレイン
(7),(7’)・・チャネル形成領域
(10)・・・・液晶電位(VLC)
(11)・・・・Nチャネル型薄膜トランジスタ(NTFT)
(12)・・・・液晶
(14),(15)・リ-クをさせる抵抗
(16),(17)・周辺回路
(18),(18’)・VSS(X線の1つ)
(19),(19’)・VDD(X線の1つ)
(21)・・・・Pチャネル型薄膜トランジスタ(PTFT)
(22),(23)・VGG、VGG’(Y線)
(31),(31’)・フォトレジスト
(38)・・・・ブロッキング層
(33),(34)・透明電極
▲1▼〜▲8▼・・・フォトマスクを用いたプロセス
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-08-18 
出願番号 特願平11-224995
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01L)
P 1 651・ 5- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河本 充雄  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 岡 和久
橋本 武
登録日 2001-09-21 
登録番号 特許第3234201号(P3234201)
権利者 株式会社半導体エネルギー研究所
発明の名称 半導体装置  
代理人 加茂 裕邦  
代理人 加茂 裕邦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ