• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1107216
審判番号 不服2002-2540  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-02-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-02-14 
確定日 2004-11-11 
事件の表示 平成 7年特許願第189502号「ワンウェイクラッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月10日出願公開、特開平 9- 42323〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成7年7月25日の出願であって、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年8月5日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

【請求項1】 断面円形の被駆動体と、
概略円筒状を成し上記被駆動体の外周に所定の間隙を持って配設され、該被駆動体と対向する内周面に周方向に複数個の凹部が設けられ、該凹部にはチャッキング治具が係合する加工基準面とするべく、上記駆動体の軸芯を中心とする断面円弧状の支持面およびテーパ状の斜面の双方が形成され、該テーパ状の斜面により上記被駆動体との間に楔形空間構成している駆動体と、
それぞれの上記凹部内に各々移動可能に収納され動力伝達時に上記テーパ状の斜面と係合するローラとを備え、
上記テーパ状の斜面および上記ローラを介して一回転方向にのみ上記駆動体から上記被駆動体に動力を伝達するワンウェイクラッチ。

2.引用刊行物
これに対し、平成16年6月10日付けで当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭62-4933号公報(以下「刊行物」という。)には、「ワンウエイクラッチ」に関し、次の事項が図面とともに記載されている。
(a)「ワンウエイクラッチは外輪と内輪との間に介在して、外輪または内輪の一方向の回転に対してのみトルクを伝達し、他の方向に対しては空転する機能をもっている。」(第1ページ右下欄第1行〜第4行)
(b)「第1,2図において、1は外輪構成部材としての合成樹脂製の主リングであり、一側内周には断面L字状の環状側壁1aが連設され、他側には押え蓋として作用する環状側壁1bが環状突条1cと環状凹溝1dの嵌合により固定され、主リング1の内周壁には環状室1eが形成される。
環状室1e内には、トルク伝達用転動体としてのスチールボール2と駆動用転動体としてのスチールボール3に対する保持器Aが設けられている。保持器Aは燒結金属から成るトルク伝達方向規制リング4と前記環状側壁1bに突設されて主リング1に達するようにして該リング4内に設けられる区画壁1fとから成る。各区隔壁1f間に収容室Rが形成される。」(第2ページ右上欄第6行〜右上欄第19行)
(c)「トルク伝達方向規制リング4は周方向に4等分されて、外周部には主リング1の突部(図示せず)と嵌合される4個の固定用凹部4aが形成され、内周部には接線と6.5°〜8°の角度をもったスチールボール2に対するトルク伝達用係合面4bと該係合面4bの拡開側の逃げ空間4b1に連続してスチールボール3に対する軸心に同心円状の弧状摺接面4cの一対が4組形成されている。」(第2ページ右上欄第20行〜左下欄第7行)
(d)「上記構成において、使用時には外輪構成部材としての主リング1内に内輪構成部材としての軸5が挿入され、トルク伝達用転動体としてのスチールボール2はX,Y点において係合面4bと軸5に当接し、駆動用転動体としてのスチールボール3は常時弧状摺接面4cと軸5に当接する。」(第2ページ左下欄第15行〜第20行)
(e)「第3図の実施例においてはトルク伝達用転動体2’と駆動用転動体3’として円柱状のスチールローラが用いられるので、この支持部材は区画壁1f’の内周側端において周方向に向けて突出するリブ1f’1,1f’1とローラ2’,3’間におけるバー部材1f”により構成される。」(第2ページ右下欄第10行〜第15行)
(f)「この場合に、軸5がP方向に回転すると区画壁1fに当接するまで微小間隙0.01〜0.05mm分だけスチールボール3が移動すると共にスチールボール2も移動して係合面4bから非係合面4b1へ逃げるので空転状態となり(仮想線位置)、逆に軸5がq方向に回転するとスチールボール2と共にスチールボール3が区画壁1fから離れる方向に上記微小間隙をもって移動し、スチールボール2は係合面4bとかみ合いを生じてトルク伝達状態となる。」(第5ページ左下欄第14行〜右上欄第3行)
(g)「7. 同上第4頁13行目、第5頁下から2行目及び第6頁11行目に「駆動用転動体」とあるのを「支持用転動体」と補正する。」(第5ページ右下欄第8行〜第10行)

ここで、上記摘記事項(c)中の「スチールボール3に対する軸心に同心円状の弧状摺接面4c」の技術的意味について検討する。
上記摘記事項(c)中の「スチールボール2に対するトルク伝達用係合面4b」と「スチールボール3に対する軸心に同心円状の弧状摺接面4c」との対比的な記載ぶりからして、「トルク伝達方向規制リング4」「内周部」に、「スチールボール2」に対して「トルク伝達用係合面4b」が、「スチールボール3」に対して「弧状摺接面4c」が、それぞれ形成されていると、解釈される。このように解釈した場合、該「軸心」とは、「ワンウエイクラッチ」の軸心、すなわち「軸5」の軸心を意味すると認められる。
また、「スチールボール3に対する軸心」とも解釈し得るが、このように解釈した場合、「スチールボール3」は球体ゆえ軸心はないので、該「軸心」とは「スチールボール3」の軌道円の中心、すなわち「軸5」の軸心を意味するものと認められる。
つまり、何れにせよ、「弧状摺接面4c」は「軸5」の軸心に同心円状に設けられたものと解すのが、合理的である。

また、「ワンウエイクラッチは外輪と内輪との間に介在して、外輪または内輪の一方向の回転に対してのみトルクを伝達し、他の方向に対しては空転する機能をもっている。」(上記摘記事項(a)参照)ものであるから、上記刊行物に記載された「ワンウエイクラッチ」は「主リング1」及び「軸5」のうち何れの側をも駆動側とし得るものと解される。

そうすると、以上の記載事項及び図面の記載からみて、上記刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「断面円形の軸5と、
概略円筒状を成し上記軸5の外周に所定の間隙を持って配設され、トルク伝達方向規制リング4と区画壁1fとから成り、該軸5と対向する内周面に周方向に複数個の収容室Rが設けられ、該トルク伝達方向規制リング4における該収容室Rに対応する部分には接線と6.5°〜8°の角度をもったトルク伝達用係合面4b及び上記軸5の軸心と同心円状の弧状摺接面4cが形成されている、保持器Aと、
それぞれの上記収容室R内に各々移動可能に収容され、トルク伝達時に上記トルク伝達用係合面4bとかみ合うスチールローラ2’と、常時弧状摺接面4cと軸5に当接するスチールローラ3’とを備え、
上記トルク伝達用係合面4bおよび上記スチールローラ2’を介して一回転方向にのみ上記保持器Aから上記軸5にトルクを伝達するワンウエイクラッチ」

3.対比及び判断
本願発明と引用発明とを、その有する機能を勘案して対比すると、引用発明における「軸5」は本願発明における「被駆動体」に相当し、以下同様に、「保持器A」は「駆動体」に、「収容室R」は「凹部」に、「トルク伝達用係合面4b」は「テーパ状の斜面」に、「スチールローラ2’」は「ローラ」に、「ワンウエイクラッチ」は「ワンウェイクラッチ」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「弧状摺接面4c」は、駆動体の軸芯を中心とする断面円弧状の面である点において、本願発明における「支持面」に相当する。
故に、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

[一致点]
「断面円形の被駆動体と、
概略円筒状を成し上記被駆動体の外周に所定の間隙を持って配設され、該被駆動体と対向する内周面に周方向に複数個の凹部が設けられ、該凹部には上記駆動体の軸芯を中心とする断面円弧状の面およびテーパ状の斜面の双方が形成され、該テーパ状の斜面により上記被駆動体との間に楔形空間構成している駆動体と、
それぞれの上記凹部内に各々移動可能に収納され動力伝達時に上記テーパ状の斜面と係合するローラとを備え、
上記テーパ状の斜面および上記ローラを介して一回転方向にのみ上記駆動体から上記被駆動体に動力を伝達するワンウェイクラッチ」

[相違点]
本願発明は、「断面円弧状の」面を、「チャッキング治具が係合する加工基準面とするべく、上記駆動体の軸芯を中心とする」「支持面」としているのに対し、引用発明1においてはその点が明らかでない点

そこで、上記相違点につき検討する。
一般にワンウェイクラッチの駆動体(クラッチアウタ)は、冷間鍛造あるいはブローチ加工等で内周部を一体に成形された後、旋盤等で円筒部分が旋削されるものであり、旋削の際に内周面をチャッキング治具支持面とすることは、当業者に知られているところである(本願明細書段落【0005】参照)。
加えて、チャッキングの際の芯出しの問題についても、周知である(例えば、特開昭58-187652号公報参照。)。
そして、通常、旋削加工に際し、芯出しを考慮しチャッキング治具支持面として適宜の面を選択することは、当然の事項であって、引用発明においても、後の旋削加工に際し、芯出しを考慮し適宜の面をチャッキング治具支持面として選択することは、発明の具体化における通常の創作能力の発揮の範囲内の事項である。
であるから、引用発明において、当該円弧状の面をチャッキング治具支持面として利用することが、当業者にとって格別技術的に困難なものではなく、それを阻害する特段の要因も認められない。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものと認められる。

さらに、本願発明の奏する作用及び効果について検討しても、引用発明及び周知の技術的事項から予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成16年8月5日付け意見書において概略、「上記引用文献1には、『軸芯に同心円状の弧状摺接面』とありますが、この弧状摺接面は駆動用転動体であるスチールボールに同心円状であって、トルク伝達方向規制リングの軸芯と同心円状ではありません。」旨主張する。
しかしながら、スチールボールに同心円状、すなわち、スチールボール3の中心に対し同心円状であるとすれば、スチールボール3は弧状摺接面4cと常時当接するものであるから(上記摘記事項(d)参照)、弧状摺接面4cはスチールボール3を包持するような曲面ということとなり、そうすると引用発明の作用とも矛盾し、図面の記載とも整合しない。
そして、上記摘記事項(c)中の「スチールボール3に対する軸心に同心円状の弧状摺接面4c」の記載を、「スチールボール3に対する」「軸心に同心円状の弧状摺接面4c」、又は「スチールボール3に対する軸心」に「同心円状の弧状摺接面4c」の何れに解釈しても、該軸心とは「軸5」の軸心を意味すると認められ、結局「弧状摺接面4c」は「軸5」の軸心に同心円状に設けられたものと解すのが合理的であることは、既に述べたとおりである。
また、請求人は、「また、この弧状摺接面はトルク伝達の係合面としての機能をはたすものであって、本願発明とは目的も構成も異なります。」とも主張する。
しかしながら、引用発明においてトルク伝達の係合面として機能するのは、「トルク伝達用係合面4b」であって、「弧状摺接面4c」ではない(上記摘記事項(c)〜(f)参照)。
よって、請求人の主張は何れも採用することができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記刊行物に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-09-02 
結審通知日 2004-09-07 
審決日 2004-09-27 
出願番号 特願平7-189502
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾川口 真一  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 町田 隆志
窪田 治彦
発明の名称 ワンウェイクラッチ  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道照  
代理人 古川 秀利  
代理人 池谷 豊  
代理人 白石 泰三  
代理人 鈴木 憲七  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ