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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない B23F
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない B23F
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない B23F
管理番号 1107330
審判番号 訂正2004-39059  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-12-22 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-03-31 
確定日 2004-11-15 
事件の表示 特許第3165658号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成9年 6月 6日 特許出願(特願平9-148997号、
優先権主張平成9年4月10日)
同13年 3月 2日 特許権の設定の登録
同13年 6月29日 特許異議の申立て
同13年10月25日 特許異議の申立て
同14年 5月27日 訂正の請求
同14年11月21日 特許異議の決定(訂正認容、特許維持)
同15年 1月15日 特許無効の審判の請求
同15年 2月20日 同請求取り下げ
同15年 2月18日 特許無効の審判の請求
同15年 8月26日 訂正の請求
同15年11月13日 審決(訂正認容、特許無効)
同15年12月24日 訴え提起(平成15年(行ケ)第576号)
同16年 3月31日 本件訂正審判の請求
同16年 5月24日 訂正拒絶の理由の通知
同16年 7月23日 意見書の提出

第2 請求の要旨・訂正発明
本件訂正審判の請求の要旨は、願書に添付した明細書(前記特許異議の決定により訂正が認められた平成14年5月27日付訂正請求書に添付された訂正明細書)を本件訂正審判請求書に添付された訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものである。
上記本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
高速度工具鋼製の刃部を備えたホブを用いて歯形を創成する歯車加工方法において、
前記ホブとして、
(Ti(1-x)Alx)(NyC(1-y))
0.2 ≦x≦0.85
0.25≦y≦1.0
なる組成の膜を少なくとも一層コーティングしたホブを用い、
ブリネル硬さ120から350までのワーク材に対して、
切削速度を180m/min以上300m/min以下の範囲とし、
切削油剤を用いずに切削を行なうドライカットで歯形を創成し、切削油剤を用いるよりも上記刃部の逃げ面磨耗量を抑えたことを特徴とする歯車加工方法。(以下「訂正発明」という。)
【請求項2】
請求項1において、切削部にエアを吹き付けて歯形を創成することを特徴とする歯車加工方法。」
そして、訂正事項は次のとおりのものである。
訂正事項a
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1における「少なくとも一層コーティングしたホブを用い、」と「切削速度を120m/minをこえて400m/min以下の範囲とし」の間に、「ブリネル硬さ120から350までのワーク材に対して、」を挿入する。
訂正事項b
同請求項1における「切削速度を120m/minをこえて400m/min以下の範囲とし」を「切削速度を180m/min以上300m/min以下の範囲とし」と訂正する。
訂正事項c
同請求項1における「ドライカットで歯形を創成すること」を「ドライカットで歯形を創成し、切削油剤を用いるよりも上記刃部の逃げ面磨耗量を抑えたこと」と訂正する。
訂正事項d
願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】及び段落【0048】における「少なくとも一層コーティングしたホブを用い、切削速度を120m/minをこえて400m/min以下の範囲とし」を「少なくとも一層コーティングしたホブを用い、ブリネル硬さ120から350までのワーク材に対して、切削速度を180m/min以上300m/min以下の範囲とし」と訂正する。
訂正事項e
同発明の詳細な説明の段落【0010】及び段落【0048】における「ドライカットで歯形を創成すること」を「ドライカットで歯形を創成し、切削油剤を用いるよりも上記刃部の逃げ面磨耗量を抑えたこと」と訂正する。

第3 訂正拒絶の理由の概要
平成16年5月24日付けで通知した訂正拒絶の理由の概要は次のとおりである。
1 新規事項の追加
前記訂正事項cは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではない。
2 独立特許要件
前記訂正発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用例1:「GEAR TECHNOLOGY 」,NOVEMBER/DECEMBER 1994,p.26-30、引用例2:日本機械学会講演論文集(C編),48巻436号(昭57-12),p.383-391,高速度鋼ホブによる高速ホブ切の研究(第2報,はすば歯車のホブ切におけるホブの損傷について)及び引用例3:「機械と工具」,第38巻第9号,1994年9月1日,(株)工業調査会,p.54-58に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

第4 新規事項の追加についての当審の判断
前記訂正事項cが願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるか否かについて、以下検討する。
訂正事項cの「ドライカットで歯形を創成し、切削油剤を用いるよりも上記刃部の逃げ面磨耗量を抑えたこと」における切削油剤を用いる場合のホブの材質・被膜、ワークの硬さ及び切削速度についてのデータがどのようなものであるのか、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には明記されていないものの、上記「切削油剤を用いるよりも上記刃部の逃げ面磨耗量を抑えた」とは、ドライカットの場合の逃げ面磨耗量と比較するものであり、このような磨耗量を比較をする場合には、同じ工具、同じワーク及び同じ切削速度の条件の下で加工して比較するのが通常であるので、上記「切削油剤を用いる」場合のデータは、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されているドライカットの場合と同じデータ、すなわち工具が高速度工具鋼製の刃部を備え、(Ti(1-x)Alx)(NyC(1-y)) 0.2 ≦x≦0.85 0.25≦y≦1.0なる組成の膜を少なくとも一層コーティングしたホブであり、ワークがブリネル硬さ120から350までのものであり、切削速度が180m/min以上300m/min以下の範囲であると解される。
そこで、このような切削油剤を用いる場合のデータに関する事項について、本件の請求人が、訂正事項cは願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであることが明らかであるとして、指摘している願書に添付した明細書の段落【0009】、【0017】及び【0018】並びに図面(特に、図2及び図3)についてみると、
「本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、超硬製の工具を用いることなく切削速度を大幅に向上させることができる歯車加工方法を提供することを目的とする。」(段落【0009】)、
「図2に示すように、切削速度が80m/minで、xの値が0.2≦x≦0.85の範囲にある組成の(Ti(1-x)Alx)N をコーティングしたホブ16が実用限界(0.2mm)を下回り、実用可能となる。切削速度80m/minから切削速度180m/minまで高めていくと、逃げ面摩耗は減少し、また、広いxの値の範囲でホブ16の摩耗が実用摩耗限界を下回る。切削速度を180m/minより高めていくと、逃げ面摩耗は増加していく。xの値の範囲を0.2≦x≦0.85とすば、切削速度が80m/minをこえて400m/minまでの全領域で逃げ面摩耗は実用可能な範囲に収まる。」(段落【0017】)、
「逃げ面摩耗の実用限界は0.2mm以下であるが、図3に示したクレータ摩耗の実用限界は0.1mm以下であることが望ましい。図3に示すように、クレータ摩耗は切削速度が80m/minの時に最も少なく、切削速度が高まる程増加する。しかし、切削速度が400m/minに至っても、クレータ摩耗は0.05mm程度であり、問題のない範囲に収まっている。」(段落【0018】)
と記載され、図面にグラフ(特に、図2には逃げ面摩耗の状況を表すグラフ及び図3にはクレータ摩耗の状況を表すグラフ)が示され、また、平成16年7月23日付意見書第5頁第13-15行で指摘している願書に添付した明細書の段落【0006】に、
「【発明が解決しようとする課題】
ホブ盤1による歯形の創成において加工コストを低減するには、ホブ5をより高速で回転させ、短い時間で加工を行なう必要がある。しかし、現状では摩耗等の関係で、ホブ5の刃部の周速度(切削速度)は120m/min程度が上限であり、ホブ5の回転速度及び加工時間の短縮には限度があった。このため、加工コスト低減の障害になっているのが実情である。」
と記載されているものの、願書に添付した明細書又は図面には、上記データ、すなわち工具が高速度工具鋼製の刃部を備え、(Ti(1-x)Alx)(NyC(1-y)) 0.2≦x≦0.85 0.25≦y≦1.0なる組成の膜を少なくとも一層コーティングしたホブであり、ワークがブリネル硬さ120から350までのものであり、切削速度が180m/min以上300m/min以下の範囲である条件の下、切削油剤を用いて切削することについて記載も示唆もなく、また、このような切削油剤を用いた切削における逃げ面磨耗量が同条件の下のドライカットにおける逃げ面磨耗量よりも多いことについても記載も示唆もない。
したがって、工具が高速度工具鋼製の刃部を備え、(Ti(1-x)Alx)(NyC(1-y)) 0.2≦x≦0.85 0.25≦y≦1.0なる組成の膜を少なくとも一層コーティングしたホブであり、ワークがブリネル硬さ120から350までのものであり、切削速度が180m/min以上300m/min以下の範囲である条件の下、切削油剤を用いて切削し、このような切削油剤を用いた切削における逃げ面磨耗量が同条件の下のドライカットにおける逃げ面磨耗量よりも多いことが、願書に添付した明細書又は図面に記載されているとすることはできない。
以上のとおりであるので、「ドライカットで歯形を創成し、切削油剤を用いるよりも上記刃部の逃げ面磨耗量を抑えたこと」と訂正することは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではない

第5 独立特許要件についての当審の判断
1 引用例記載事項
前記引用例1乃至3に記載されている事項は、次のとおりである。
(1)引用例1
(ア)第29頁右欄第7行-第30頁左欄第3行
「チタニウムナイトライドは多くの用途があるが、最近のコーティングの幾つかは、用途が特定されている。例えば、TiCNは、TiNが許容できるレベルとならない擦過性の強い領域(鋳鉄加工)では有望である。一方、TiCNは、高速度が試みられる場合に、温度に敏感である。温度が問題となる場合は、TiAlNがより良い選択であり得る。まさにこの理由で、高速度工具鋼にTiAlNを被覆したホブでドライホブ切りしたいくつかの業績がある。」
(イ)第30頁左欄第15-44行
「最後に探索すべきは、最近なされた、ギヤのドライホブ切りの業績である。この主題については、開発された多数の分野があるが、共通の目的は、クーラントを使用することなくギヤのホブ切りを行うことである。クーラントを使用することなくギヤのホブ切りを行う利点は多いが、とりわけ以下の費用のコストダウンを含む。
・・・新たなコーティングに関する実際の解決策は、用途に依存することになろう。このテクノロジーを開発するための基本的な方法は、
・高速度工具鋼製ホブ
・超硬製ホブ
・サーメット製ホブ
に分類することが可能である。
(ドライホブ切りに)最初に成功したのは、TiAlNを被覆した高速度工具鋼製ホブである。この例の材料の除去率は、高切削速度かつ低速送りの超硬製ホブのホブ切りに相当する。工具寿命は、TiNを被覆した工具でクーラントを使用したものより、良い方であった。」
上記記載事項より、引用例1には、次の「歯車加工方法」の発明が記載されていると認める。
高速度工具鋼製の刃部を備えたホブを用いて歯形を創成する歯車加工方法において、
前記ホブとして、TiAlNなる組成の膜を少なくとも一層コーティングしたホブを用い、
切削油剤を用いずに切削を行なうドライカットで歯形を創成する歯車加工方法。(以下「引用例1記載の発明」という。)
(2)引用例2
(ア)第383頁表題
「高速度鋼ホブによる高速ホブ切の研究」
(イ)第383頁右欄第6-8行
「この歯切り法によれば,浸炭鋼をホブ切する場合,切削速度180〜200m/min程度の高速ホブ切りが可能となった.」
(ウ)第383頁表1
歯車の材質がSCM415であり、硬度がHB140であること及び切削油として有機モリブデン添加油を使用すること。
上記記載事項より、引用例2には、次の事項が記載されていると認める。
高速度工具鋼製の刃部を備えたホブを用い、ブリネル硬さ140のワーク材に対して、切削油剤を用いて歯形を創成するときの切削速度を180〜200m/min程度とすること。(以下「引用例2記載の技術的事項」という。)
(3)引用例3
(ア)第54頁右欄第20-26行
「バイオレットコーティングは,・・・2成分窒化膜(Al,Ti)Nのコーティングを,ハイス・粉末ハイスの母材に適用したものであり,ラフィングエンドミルやホブ,ピニオンカッタなどの重切削用の新製品に商品化している。」
(イ)第55頁左欄下から第3行-第56頁左欄下から第5行
「ラフィングエンドミルは主に粗加工に用いられるため,刃先に大きな衝撃が加わると同時に,切削熱による摩耗が問題となる。このような切れ刃の耐熱性について,その指標となる(Al,Ti)Nのコーティングの耐酸化性を図3に示す。TiNコーティングは620℃で酸化が始まるのに対し,(Al,Ti)Nのコーティングは840℃まで酸化せず,より高い耐熱性を持っている。
また,図4に示すように酸化されるときにも,表面のAlが選択的に酸化されAl2O3の硬い被膜が生成されるために,より高い耐摩耗性を示す。
以上のようにバイオレットコーティングのコーティング膜質である(Al,Ti)Nは硬く,密着性に優れ,さらに熱に強いという特性を備えており,切削工具にとって非常に適切なコーティングであると言える。
このバイオレットコーティングを試験的に2枚刃のスクエアエンドミルに適用し,切削速度を変化させて切削試験を行った結果を図5に示す。この図から分かるように,バイオレットコーティングは切削速度を40〜60〜80m/minと変化させても,摩耗量の増加が少ない。一方,TiCN系コーティングのエンドミルでは切削速度が上がるにつれて摩耗量が大きく増加している。また,溶解ハイスにTiNコーティングを施したエンドミルでは切削速度が60〜80m/minと速くなると摩耗が大きくなり過ぎて切削不可能になった。このように,バイオレットコーティングは耐熱性に優れるため,従来のコーティングに比べ高速での切削に適している。
2.VA-SFPRによる切削事例
VA-SFPRは粉末ハイスの母材に前述のバイオレットコーティングを施した粗加工用のラフィングエンドミルである。・・・
図6にVA-SFPRを用いたSKD61(HB330)の切削事例を示す。この切削事例ではφ20のラフィングエンドミルでSKD61を8m切削しているが,VA-SFPRは外周二番面の摩耗幅で0.16mmと小さく,TiCN系のコーティングを施したエンドミルに比べて約2/3の摩耗幅となっている。」
(ウ)第56頁図5
(Al,Ti)Nコーティングの切削速度変化による摩耗比較。
(エ)第56頁図6
VA-SFPRのSKD61切削事例。
上記記載事項より、引用例3には、次の事項が記載されていると認める。
高速度工具鋼製の切削工具の被膜として、(Al,Ti)Nは、切削時の高温状態において酸化され、表面にAl2O3の硬い被膜が生成されることにより、TiNより高い耐熱性及び耐摩耗性を持ち、高速度工具鋼製のエンドミルを用いて、ブリネル硬さ230のワーク材に対して、切削油を用いずに切削する場合に、(Al,Ti)Nをコーティングしたものは、TiCN系をコーティングしたものやTiNをコーティングしたものに比較して、切削速度を高くしても摩耗量の増加が少ないということ。(以下「引用例3記載の技術的事項」という。)
2 対比
訂正発明は、前記第2に記載したとおりのものであり、訂正発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明のTiAlN膜は、その組成割合について明らかにされているものではないことから、特別な組成割合のものではないと理解できるものであり、そして、例えば、「神戸製鋼技報」,Vol.43,No.3/Oct. 1993,通巻第175号,p.25に記載されているように、引用例1の頒布当時、Ti(1-x)AlxN膜の代表的な組成はx値が0.5のものであることは、技術常識であるので、引用例1記載の発明のTiAlN膜は、その代表的な組成割合のもの、即ちTi(1-x)AlxNで表した場合のx値が0.5のもの、あるいはそれからあまり外れない組成割合のものであるx値がおおよそ0.5であるとみるのが相当である。
そうすると、訂正発明と引用例1記載の発明とは、膜について、(Ti(1-x)Alx)(NyC(1-y))で表した場合のx値がおおよそ0.5で、y値が1.0であること、即ちTi(1-x)AlxN 但し、x値がおおよそ0.5で一致していることになり、両者は、次の一致点及び相違点を有していることになる。
(1)一致点
高速度工具鋼製の刃部を備えたホブを用いて歯形を創成する歯車加工方法において、
前記ホブとして、
Ti(1-x)AlxN
x;おおよそ0.5
なる組成の膜を少なくとも一層コーティングしたホブを用い、
切削油剤を用いずに切削を行なうドライカットで歯形を創成する歯車加工方法。
(2)相違点
訂正発明では、ワーク材がブリネル硬さ120から350までのものであるのに対し、引用例1記載の発明では、ワーク材がどのようなブリネル硬さのもであるのか明らかではない点(以下「相違点1」という。)。
訂正発明では、切削速度の範囲が180m/min以上300m/min以下であるのに対し、引用例1記載の発明では、どのような切削速度であるのか明らかではない点(以下「相違点2」という。)。
訂正発明では、切削油剤を用いるよりも上記刃部の逃げ面磨耗量を抑えているのに対し、引用例1記載の発明では、そのようなものではない点(以下「相違点3」という。)。
3 相違点の検討
前記相違点1乃至3について、以下検討する。
(1)相違点1について
切削により歯形を創成する際のワーク材のブリネル硬さとして、120から350までのものを使用することは、例えば、前記1の(2)のとおり、引用例2に記載されているワーク材の硬さがブリネル硬さ140であるように、通常使用されているワーク材のブリネル硬さであり、また、ワーク材のブリネル硬さを120から350までのものとすることに臨界的意義も見当たらないので、引用例1記載の発明において、ワーク材のブリネル硬さを120から350までの範囲に含まれるものとすることに、格別の困難性は見当たらない。
(2)相違点2について
引用例3には、前記1の(3)のとおりの技術的事項が記載されており、この技術的事項はエンドミルに関するものであるが、当業者であれば、この技術的事項より、高速度工具鋼製の切削工具を用いて切削油を用いずに切削する場合、(Al,Ti)Nをコーティングしたものは、高温において表面にAl2O3の硬い被膜が生成されるために、従来のコーティング(TiCN系やTiNのコーティング)をしたものと比較して、切削速度を高くしても摩耗量の増加が少ないので、従来のものよりも高い切削速度での加工が期待できると認識することは、当然のことである。
また、ホブを用いて歯形を創成する際に切削速度の高速化を図ることは、自明の課題である。
そうすると、引用例1記載の発明と引用例3記載の技術的事項とは、高速度工具鋼製の切削工具であって、(Al,Ti)Nをコーティングして、切削油を用いずに切削することで技術分野が一致するので、引用例1記載の発明において、引用例3記載の技術的事項を参酌し、その切削速度を従来のものより高速にすることを試みることに格別の困難性は見当たらず、また、切削速度を180m/min以上300m/min以下とすることは、逃げ面摩耗量が実用摩耗限界量以下となる80m/min以上400m/min以下の切削速度の範囲から適宜選定したというものであって、その数値限定に臨界的意義が見当たらず、さらに、前記1の(2)のとおり、切削油剤を用いているものであるが、引用例1記載の発明と同じ高速度工具鋼製の刃部を備えたホブを用い、ブリネル硬さ140のワーク材に対して歯形を創成するときの切削速度として、180〜200m/min程度とするという技術的事項が引用例2に記載されているので、上記高速にすることを試みる具体的な切削速度として、引用例2記載の切削速度である180〜200m/min程度、換言すると、180m/min以上300m/min以下の範囲に含まれるものとすることは、当業者が容易に想到することができたことである。
また、仮に、切削速度を180m/min以上300m/min以下とすることにそれなりの意義があるとしても、上記のとおり、切削速度を従来のものより高速にすることを試みることに格別の困難性は見当たらず、上記のとおり、切削速度を180〜200m/min程度とすることが記載されているのであるから、引用例1記載の発明において、その切削速度を180m/min以上300m/min以下の範囲に含まれるものとすることは、当業者が容易に想到することができたことである。
(3)相違点3について
訂正発明は、前記第2に記載したとおりのものであり、
「高速度工具鋼製の刃部を備えたホブを用いて歯形を創成する歯車加工方法において、
前記ホブとして、
(Ti(1-x)Alx)(NyC(1-y))
0.2 ≦x≦0.85
0.25≦y≦1.0
なる組成の膜を少なくとも一層コーティングしたホブを用い、
ブリネル硬さ120から350までのワーク材に対して、
切削速度を180m/min以上300m/min以下の範囲とし、
切削油剤を用いずに切削を行なうドライカットで歯形を創成し、」
という発明特定事項(以下「発明特定事項A」という。)を有するものであり、そして、このような発明特定事項Aを有することにより、「切削油剤を用いるよりも上記刃部の逃げ面磨耗量を抑えたこと」という発明特定事項(以下「発明特定事項B」という。)をも有することになるものと認められる。
そうすると、発明特定事項Aを有することが発明特定事項Bを有することになり、そして、発明特定事項Aは、上記ア、イで述べたとおり、引用例1記載の発明と引用例2及び3記載の技術的事項とを組み合わせることにより当業者が容易に想到し得ることであるので、発明特定事項Bについても、同様に、引用例1記載の発明と引用例2及び3記載の技術的事項とを組み合わせることにより当業者が容易に想到し得ることであるといえることになる。
(4)訂正発明の作用効果について
上記(2)のとおり、引用例3記載の技術的事項より、当業者であれば、高速度工具鋼製の切削工具を用いて切削油を用いずに切削する場合、(Al,Ti)Nをコーティングしたものは、高温において表面にAl2O3の硬い被膜が生成されるために、従来のコーティング(TiCN系やTiNのコーティング)をしたものと比較して、切削速度を高くしても摩耗量の増加が少ないので、従来のものよりも高い切削速度での加工が期待できると認識することは、当然のことであるので、同じく(Al,Ti)Nのコーティングを有する高速度工具鋼製の切削工具を用いて切削油を用いずに切削する引用例1記載の発明において、切削速度を大幅に向上させることができるという作用効果は、当業者が予測することができる範囲のものである。
したがって、訂正発明の作用効果は、引用例1記載の発明並びに引用例2及び3記載の技術的事項から当業者が予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。
4 むすび
以上のとおり、訂正発明は、引用例1記載の発明並びに引用例2及び3記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

第6 むすび
したがって、本件訂正は、特許法第126条第3項及び第5項の規定に適合していない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-09-15 
結審通知日 2004-09-16 
審決日 2004-10-05 
出願番号 特願平9-148997
審決分類 P 1 41・ 841- Z (B23F)
P 1 41・ 856- Z (B23F)
P 1 41・ 121- Z (B23F)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 岡野 卓也
宮崎 侑久
登録日 2001-03-02 
登録番号 特許第3165658号(P3165658)
発明の名称 歯車加工方法  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 弟子丸 健  
代理人 辻居 幸一  
代理人 岡 潔  
代理人 相良 由里子  

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