• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 一部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1107884
異議申立番号 異議2003-71413  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-28 
確定日 2004-09-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3352200号「揮発性有機塩素化合物の処理方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3352200号の訂正後の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 平成 5年12月28日
設定登録 平成14年 9月20日
特許異議申立(申立人:伊勢川和江) 平成15年 5月28日
取消理由通知(発送日)平成15年 9月16日
訂正請求 平成15年11月 5日
特許異議意見書 平成15年11月 5日
審尋(発送日) 平成15年12月12日
回答 平成16年 2月 4日
2.訂正の適否について
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち訂正事項a乃至nのとおりに訂正しようとするものである。
訂正事項a
特許明細書の【請求項1】を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】土中および水中の少なくともいずれか一方に含有されるトリクロロエチレンを真空または曝気により抽出し、この抽出した前記トリクロロエチレンが含有される気体に酸素存在下で、波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する紫外線ランプから紫外線を照射して前記トリクロロエチレンを酸化して、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとし、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを含有する気体を、pH値が制御されて中性とされた水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成し、このジクロロ酢酸を好気性生物にて分解することを特徴とするトリクロロエチレンの処理方法。」
訂正事項b
特許明細書の【請求項2】を削除し、【請求項3】を訂正後の【請求項2】とするとともに、「請求項2記載の揮発性有機塩素化合物の処理方法。」を「請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法。」と訂正する。
訂正事項c
特許明細書の【発明の名称】の「揮発性有機塩素化合物」を「トリクロロエチレン」と訂正する。
訂正事項d
特許明細書の段落【0001】の「揮発性有機塩素化合物」を「トリクロロエチレン」と訂正する。
訂正事項e
特許明細書の段落【0012】の「揮発性有機塩素化合物」を「トリクロロエチレン」と訂正する。
訂正事項f
特許明細書の段落【0013】を次のとおり訂正する。
「【課題を解決するための手段】
請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法は、土中および水中の少なくともいずれか一方に含有されるトリクロロエチレンを真空または曝気により抽出し、この抽出した前記トリクロロエチレンが含有される気体に酸素存在下で、波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する紫外線ランプから紫外線を照射して前記トリクロロエチレンを酸化して、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとし、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを含有する気体を、pH値が制御されて中性とされた水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成し、このジクロロ酢酸を好気性生物にて分解するものである。」
訂正事項g
特許明細書の段落【0014】を削除する。
訂正事項h
特許明細書の段落【0015】を次のとおり訂正する。
「請求項2記載のトリクロロエチレンの処理方法は、請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法において、ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解した水を返送手段にて返送しホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドと接触させて閉鎖還流回路を形成するものである。」

訂正事項i
特許明細書の段落【0016】の「揮発性有機塩素化合物」を「トリクロロエチレン」に訂正する。
訂正事項j
特許明細書の段落【0017】を次のとおり訂正する。
「また、ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解するので、トリクロロエチレンが無害な最終生成物に確実に処理される。」
訂正事項k
特許明細書の段落【0018】の「請求項3」及び「揮発性有機塩素化合物」を、「請求項2」及び「トリクロロエチレン」に訂正する。
訂正事項l
特許明細書の段落【0111】の「揮発性有機塩素化合物」を「トリクロロエチレン」に訂正する。
訂正事項m
特許明細書の段落【0112】を次のとおり訂正する。
「また、ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解するので、トリクロロエチレンが無害な最終生成物に確実に処理される。」
訂正事項n
特許明細書の段落【0013】を次のとおり訂正する。
「請求項2記載のトリクロロエチレンの処理方法によれば、請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法の効果に加え、ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解した水を返送手段にて返送して再びホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドと接触させる閉鎖還流回路を形成するため、副生成物が系外に漏洩することなく確実に処理できるとともに、ジクロロ酢酸の処理効率が向上でき、このジクロロ酢酸の処理コストを低減できる。」
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、(a-1)「揮発性有機塩素化合物」を「トリクロロエチレン」に限定し、(a-2)「紫外線を照射」を「波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する紫外線ランプから紫外線を照射」に限定し、(a-3)「水」を「pH値が制御されて中性とされた水」に限定し、(a-4)訂正前の請求項2の「ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解する」構成に限定したものであるから、訂正事項aの(a-1)乃至(a-4)はいずれも特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、上記(a-1)は、特許明細書の【0002】、【0021】に記載されており、上記(a-2)は、特許明細書の【0020】に記載されており、上記(a-3)は、特許明細書の【0031】に記載されているから、訂正事項aは願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項bは、(b-1)訂正前の請求項2を削除し、(b-2)訂正事項aとの整合を図るとともに特許請求の範囲の記載と整合を図るものであるから、上記(b-1)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、また、上記(b-2)は明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、上記訂正事項bは、訂正事項aで見たとおり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項c乃至nは、訂正事項a、bとの整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、上記訂正事項c乃至nは、訂正事項a、bで見たとおり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについて
3-1.本件発明
以上のとおり、訂正は認められるから、本件特許の訂正後の請求項1に係る発明は、訂正された特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのもの(以下、「本件発明」という)である。
【請求項1】土中および水中の少なくともいずれか一方に含有されるトリクロロエチレンを真空または曝気により抽出し、この抽出した前記トリクロロエチレンが含有される気体に酸素存在下で、波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する紫外線ランプから紫外線を照射して前記トリクロロエチレンを酸化して、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとし、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを含有する気体を、pH値が制御されて中性とされた水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成し、このジクロロ酢酸を好気性生物にて分解することを特徴とするトリクロロエチレンの処理方法。
3-2.特許異議申立の理由
(ア)訂正前の本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に実質的に記載された発明であるか、又は甲第1乃至3号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、又は同条第2項の規定により特許を受けることができない。
(イ)訂正前の本件の請求項2に係る発明は、甲第1乃至4号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(ウ)記載不備
(ウ-1)本件訂正前の請求項1には「揮発性有機塩素化合物を酸化して、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとし、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを含有する気体を水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成する」と記載されている。しかしながら、本件特許明細書に記載されているように、揮発性有機塩素化合物であるテトラクロロエチレン、cis-1,2-ジクロロエチレンからはジクロロアセチルクロリドは生成しておらず、また、ホスゲンと水との反応ではジクロロ酢酸は生成しないことから、テトラクロロエチレン、cis-1,2-ジクロロエチレンを分解した気体が水と接触しても、ジクロロ酢酸は生成されないこととなる。したがって、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではなく、特許法第36条第5項第2号の規定を満たしておらず、特許を受けることができない。
(ウ-2)また、訂正前の本件の請求項1に係る発明は、揮発性有機塩素化合物の紫外線酸化を、塩化水素などの酸性の分解ガスになる前に途中で止め、ホスゲンとジクロロアセチルクロリドを生成させるものと認められる。しかしながら、本件特許明細書には、各種の揮発性有機塩素化合物に紫外線を20秒照射した場合、トリクロロエチレンからホスゲンとジクロロアセチルクロリドが生成しうること等が示されているにすぎない。そして、光反応では通常、光強度を適宜設定することにより、反応時間は適宜設定し得るものであるから、照射時間を単に20秒とするだけで、ホスゲンとジクロロアセチルクロリドを生成させることに技術的意義はない。したがって、当業者が容易に本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がなされておらず、特許法第36条第4項の規定を満たしておらず、特許を受けることができない。
3-3.証拠の記載内容
(1)甲第1号証(特開昭62-191095号公報)には、下記の記載がある。
(1a)「第1図中、符号1はトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の有機塩素化合物を含有する排水である。排水1はまずブロワー等の送気装置3に接続した散気機構4が配設されている曝気処理装置2に送られ、散気機構4から放出される空気により曝気処理される。曝気処理された排水は処理水5として排出され、一方、放散された排ガス6、たとえばトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンを含むガスは内部照射型の低圧水銀ランプで構成された紫外線照射装置7に送られ、紫外線照射処理される。その結果、排ガスは分解して塩化水素等の酸性の分解ガス8となり、このガスは次いでアルカリ洗浄装置9に送られて無害化処理される。」(第2頁左上欄第12行〜右上欄第5行)
(2)甲第2号証(「ACTA CHEMICA SCANDINAVICA 23」(1969) No.9,第3081〜3090頁)には、下記の記載がある。
(2a)「トリクロロエチレンの非増感光酸化反応を速度論的に検討した。結果は連鎖反応であるとして解釈できる。この連鎖反応は、励起されたトリクロロエチレン分子と基底状態にある別のトリクロロエチレン分子との反応により開始されると考えられる。連鎖反応の主生成物はジクロロアセチルクロライドであり、最大量子収率はトリクロロエチレンと酸素の分圧が高い条件で約20である。ホスゲン生成の量子収率はジクロロアセチルクロライドの約1/5である。(第3081頁要約、訳文)
(3)甲第3号証(「モリソン ボイド 有機化学(中)」(第5版)1989年4月1日発行)には、下記の記載がある。
(3a)アシルクロリドが水との接触で加水分解されてカルボン酸と塩酸が生成されることが記載されている。(1086頁1.a)式)
(4)甲第4号証(「大阪府立公衛研所報」(公衆衛生編第30号)平成4年(1992年)第89頁〜第96頁)には、下記の記載がある。
(4a)ジハロ酢酸は、ハロ酸脱ハロ酵素により、グリオキシール酸(CHOCOOH)とハロ酸に分解されることが記載されている。(第90頁左欄式)
(4b)「そのため、OS-2株酵素の各ハロ酸に対する活性をトルエン処理菌体を用いて測定し、CAに対する活性を基準(100)として比を表3に示した。2CP(2-クロロプロピオン酸)に対する活性が一番高く、BA(ブロモ酢酸)も同程度の値を示した。次いでCA(クロロ酢酸)、IA(ヨード酢酸)がほとんど同じで、DCA(ジクロロ酢酸)、DCP(2,2-ジクロロプロピオン酸)の順であった。(第92頁右欄下から6行目〜1行目)
(4c)「pH9.5前後で最も高い酵素活性を示し、pH9.5以上になると急速な失活が認められた。」(第93頁右欄第16〜17行)
3-4.対比・判断
(1)特許異議申立の理由(ア)及び(イ)について
甲第1号証には、記載事項(1a)からみて、これを本件発明の記載振りに則して整理すると、「トリクロロエチレンを含有する排水を空気により曝気処理し、前記曝気処理により放散されたトリクロロエチレンを含む排ガスに、内部照射型の定圧水銀ランプから紫外線を照射してトリクロロエチレンを分解して塩化水素等の酸性の分解ガスとし、このガスをアルカリ洗浄して無害化処理するトリクロロエチレンの処理方法」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「曝気処理」は、排水中に含まれていたトリクロロエチレンを曝気処理後の排ガスに含ませようとするものであるから、技術内容から本件発明の「トリクロロエチレンを曝気により抽出」に他ならなく、また、甲1発明の「曝気処理により放散されたトリクロロエチレンを含む排ガスに、内部照射型の定圧水銀ランプから紫外線を照射」は、「曝気処理」が「空気により」行われる以上、曝気処理された「排ガス」には、「酸素」が存在することは明らかであるから、本件発明の「気体に酸素存在下で紫外線ランプから紫外線を照射」に相当するといえる。また、甲1発明の「トリクロロエチレンを分解して塩化水素等の酸性の分解ガスとし」は、本件発明の「トリクロロエチレンを酸化して」いることに相当することも自明である。以上のことからみれば、本件発明と甲1発明は、「水中に含有されるトリクロロエチレンを曝気により抽出し、この抽出したトリクロロエチレンが含有される気体に酸素存在下で紫外線ランプから紫外線を照射して前記トリクロロエチレンを酸化するトリクロロエチレンの処理方法」という点で一致するものの、両者は以下の点で相違する。
(i)本件発明では、紫外線ランプが「波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する」ものであるのに対し、甲1発明では、それが「内部照射型の低圧水銀ランプ」である点
(ii)本件発明では、「トリクロロエチレンを酸化して、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとし、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを含有する気体をpH値が制御されて中性とされた水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成し、このジクロロ酢酸を好気性生物にて分解する」のに対し、甲1発明では、「トリクロロエチレンを酸化して、塩化水素等の酸性の分解ガスとし、このガスをアルカリ洗浄して無害化処理している」点
そこでまず、相違点(ii)について他の証拠に基づいて検討する。甲第2〜4号証をみてみると、相違点(ii)に係る本件発明の構成に関し、甲第2号証には記載事項(2a)からみて「トリクロロエチレンに紫外線を照射するとホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドが生成される」ことが記載されるといえ、また甲第3号証には、記載事項(3a)に「アシルクロリドが水との接触で加水分解されてカルボン酸と塩酸が生成される」ことが記載され、そのアシルクロリドがジクロロアセチルクロリドであればジクロロ酢酸が生成されることが記載されるといえ、そして甲第4号証には、記載事項(4a)(4b)からみて「ジクロロ酢酸が脱ハロ酵素によりグリオキシール酸に分解される」ことが、記載されているといえる。しかしながら、本件発明は、本件明細書の段落【0016】【0017】からみて「酸素存在下で紫外線を照射して揮発性有機塩素化合物を酸化させてホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとするので、この揮発性有機塩素化合物を紫外線を照射して塩化水素にする場合に比べ、紫外線の照射効率が向上して紫外線による酸化分解効率が向上し、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成し、ジクロロ酢酸を好気性生物で分解するので無害な最終生成物が確実に処理される」というものであるのに対し、甲1発明は、「トリクロロエチレンを含む排ガスに、紫外線を照射して塩化水素等の酸性の分解ガスとし、このガスをアルカリ洗浄して無害化処理する」ものであるから、甲1発明には、本件発明のようなトリクロロエチレンを分解してホスゲン及びジクロロアセチルクロリドを生成しようとする認識はなく、本件発明の上記した技術思想は甲1発明には何処にも見出せない。しかも、相違点(ii)に係る本件発明の構成の「ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを含有する気体をpH値が制御されて中性とされた水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成」する構成については、甲第2〜4号証には記載されていない。そうすると、甲1発明と甲第2〜4号証記載の発明を組み合わせて、トリクロロエチレンを分解してホスゲン及びジクロロアセチルクロリドを生成させ、pH値が制御されて中性とされた水と接触させてジクロロ酢酸を生成し、これを生物分解しようとすることが困難なくできるとはいえない。上記した「ジクロロ酢酸」の生成に関して、甲1発明ではアルカリ洗浄していることから、洗浄水という点では本件発明の「水」で処理するといえるが、その処理の目的が異なることは明白であり、しかも相違点(ii)に係る本件発明の構成の「pH値が制御されて中性とされた水」とは相違するのである。
仮に、甲1発明の「塩化水素等」に、甲第2、3号証からみてホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドが含まれ、「アルカリ洗浄」によってジクロロ酢酸が生成されていたとしても、甲1発明は、上記したようにトリクロロエチレンを塩化水素等の酸性の分解ガスに分解しようとするものであり、そこには上記したとおり、本件発明のようにホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを生成しようとする意図はなく、アルカリ洗浄して無害化することにとどまるものであるから、たとえ甲第2〜4号証に上記した技術的事項が開示されていたとしても、これらは、本件発明の構成の部分的な技術事項を開示するにすぎなく、これらを有機的に結び付けて本件発明のように構成する動機付けが見当たらないというべきである。しかも、本件発明の「気体をpH値が制御されて中性とされた水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成し」という構成については導き出すことはできない。この構成に関し、甲第4号証の記載事項(4b)及び(4c)には「ジクロロ酢酸の分解酵素の活性を高く維持するためにpHを制御する」という技術事項が記載されているが、これは「アルカリ性条件下に制御」するものであるから、本件発明の「pH値を制御して中性と」することを示しているとはいえない。しかも、その技術事項は、本件発明の「中性とされた水と接触させてジクロロ酢酸を生成する」処理におけるものではないから、甲第4号証の技術事項が上記本件発明の構成を意味しないことは明らかである。
そして、本件発明は、上記相違点(ii)の構成を採ることによって、紫外線による酸化分解効率を向上し、揮発性有機塩素化合物を効率よく確実に処理して無害化できるという本件明細書に記載の効果を奏するものといえる。
したがって、上記相違点(ii)で挙げた本件発明の構成要件は、当業者が容易になし得たものであるとすることはできないから、本件発明は、相違点(i)を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明であるということはできず、また、甲第1乃至4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
なお、異議申立人が回答書に添付した参考文献1(”The Impact of the Chlorocarbon Industry on the Ozone Layer”(P.J.Cruzen et.al., Journal of Geophysical Research, 83,C1,January 20,第345-363頁(1978))には、上記相違点(i)に挙げた本件発明の構成要件におけるトリクロロエチレンに照射する紫外線の波長についての記載はあるものの、上記相違点(ii)に挙げた本件発明の構成要件については、何も記載されていない。
(2)特許異議申立の理由(ウ)について
(ウ-1)について、本願の請求項1は、訂正によって「揮発性有機塩素化合物」を、酸化されてジクロロアセチルクロリドを生成する「トリクロロエチレン」に限定された。これにより、本件発明は、被処理ガスを酸化することにより、ホスゲン及びジクロロアセチルクロリドを生成するものとなり、そして、このジクロロアセチルクロリドと水を接触させてジクロロ酢酸を生成することは表2から明らかといえる。したがって、この不備は解消された。
(ウ-2)について、本件発明は、上記3-1.のとおり、「土中および水中の少なくともいずれか一方に含有されるトリクロロエチレンを真空または曝気により抽出し、この抽出した前記トリクロロエチレンが含有される気体に酸素存在下で、波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する紫外線ランプから紫外線を照射して前記トリクロロエチレンを酸化して、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとし、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを含有する気体を、pH値が制御されて中性とされた水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成し、このジクロロ酢酸を好気性生物にて分解することを特徴とするトリクロロエチレンの処理方法」である。そして、本件特許明細書には、「トリクロロエチレンを含有するガスに、波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する紫外線ランプから紫外線を20秒間照射してトリクロロエチレンを酸化して、ホスゲン及びジクロロアセチルクロリドとする実施例」が記載されているから、本件特許明細書には、当業者が容易に本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がなされていないとまではいえない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件訂正後の請求項1に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件訂正後の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
トリクロロエチレンの処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 土中および水中の少なくともいずれか一方に含有されるトリクロロエチレンを真空または曝気により抽出し、
この抽出した前記トリクロロエチレンが含有される気体に酸素存在下で、波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する紫外線ランプから紫外線を照射して前記トリクロロエチレンを酸化して、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとし、
これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを含有する気体を、pH値が制御されて中性とされた水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成し、
このジクロロ酢酸を好気性生物にて分解する
ことを特徴とするトリクロロエチレンの処理方法。
【請求項2】 ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解した水を返送手段にて返送しホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドと接触させて閉鎖還流回路を形成する
ことを特徴とする請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、土中、水中に含有されるトリクロロエチレンを抽出して分解するトリクロロエチレンの処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、トリクロロエチレン(CHCl=CCl2)やテトラクロロエチレン(CCl2=CCl2)などの塩素基を有する揮発性有機塩素化合物の処理方法としては、例えば特開平2-184393号公報または特開平2-115096号公報に記載の構成が知られている。
【0003】
そして、特開平2-184393号公報に記載の揮発性有機塩素化合物の処理方法は、揮発性有機塩素化合物を含有する水溶液にオゾンおよび過酸化水素を導入するとともに、紫外線を30分から1時間程度照射して揮発性有機塩素化合物を酸化分解するものである。
【0004】
ところで、この特開平2-184393号公報に記載の方法では、オゾンの導入および紫外線の照射とともに、過酸化水素を使用している。しかしながら、過酸化水素を使用しなければ、水溶液中に含有された揮発性有機塩素化合物はほとんど分解されないことが知られている。このため、水溶液中の揮発性有機塩素化合物を酸化分解するには、高価で運用が煩雑な過酸化水素を必要とし、処理装置が複雑化するとともに処理コストが増大する問題がある。
【0005】
また、紫外線が水溶液中を通過する際、相当量の紫外線が遮断されるため、紫外線の照射による揮発性有機塩素化合物の分解効率が低下するので、水溶液中に未分解の揮発性有機塩素化合物が残留せず、確実に分解させるには、紫外線を少なくとも30分から1時間以上の長時間照射しなければならず、処理効率が低下するとともに処理コストが増大する問題がある。
【0006】
一方、特開平2-115096号公報に記載の揮発性有機塩素化合物の処理方法は、水溶液中に含有される揮発性有機塩素化合物を揮発させ、この揮発した揮発性有機塩素化合物をオゾンとともに多孔質吸着物に吸着させ、この多孔質吸着物に紫外線を照射して揮発性有機塩素化合物を酸化分解するものである。
【0007】
そして、この特開平2-115096号公報に記載の方法では、水溶液より抽出された気体中の揮発性有機塩素化合物をオゾンとともに多孔質吸着物に吸着させ、紫外線を照射するため、水により紫外線が遮断されることがないので効率よく酸化分解できる。しかしながら、この酸化分解により、ホスゲン(COCl2)やジクロロアセチルクロリド(Cl2CHCOCl)などの別の有機塩素化合物を生成する。したがって、これらをさらに酸化分解し、最終分解物の塩化水素および二酸化炭素に酸化分解するには、紫外線を非常に長時間照射しなければならず、処理効率が低下するとともに処理コストが増大する問題がある。また、揮発性有機塩素化合物をオゾンとともに吸着させる多孔質吸着物を必要とし、装置が複雑化し装置価格が上昇する問題もある。さらに、未分解の揮発性有機塩素化合物や副生成物が、多孔質吸着物に確実に吸着されず、そのまま排気されるおそれがあるとともに、副生成物が吸着する多孔質吸着物を無害に処理するには、多大な労力と費用とが必要となる。
【0008】
また、特開平2-184393号公報および特開平2-115096号公報に記載の方法において、水溶液が下水などの汚水の場合、揮発性有機塩素化合物の分解処理の他に、別途汚水の浄化処理を行う必要があり、揮発性有機塩素化合物を含有する下水の浄化処理が煩雑で、処理効率が低下する問題も有している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、上記特開平2-184393号公報に記載の方法では、水溶液中の揮発性有機塩素化合物を酸化分解するため、高価で運用が煩雑な過酸化水素を必要とし、処理装置の複雑化、処理コストの増大が生じ、また、水溶液による紫外線の照射量の低減により、揮発性有機塩素化合物の分解効率が低下し、処理効率の低下、処理コストの増大が生じる問題がある。
【0010】
また、特開平2-115096号公報に記載の方法では、紫外線の照射による酸化分解された副生成物である別の有機塩素化合物が生成し、最終分解物への酸化分解には、紫外線の長時間照射が必要で、処理効率の低下、処理コストの増大が生じ、また、多孔質吸着物を必要とし、装置が複雑化する問題がある。
【0011】
さらに、下水などの汚水の場合には、揮発性有機塩素化合物の分解処理、汚水の浄化処理の別工程を行わなければならず、浄化処理の煩雑化、処理効率の低下を生じる問題がある。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたもので、土中または水中に含有されるトリクロロエチレンを効率よく確実に処理して無害化するトリクロロエチレンの処理方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法は、土中および水中の少なくともいずれか一方に含有されるトリクロロエチレンを真空または曝気により抽出し、この抽出した前記トリクロロエチレンが含有される気体に酸素存在下で、波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する紫外線ランプから紫外線を照射して前記トリクロロエチレンを酸化して、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとし、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを含有する気体を、pH値が制御されて中性とされた水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成し、このジクロロ酢酸を好気性生物にて分解するものである。
【0014】(削除)
【0015】
請求項2記載のトリクロロエチレンの処理方法は、請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法において、ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解した水を返送手段にて返送しホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドと接触させて閉鎖還流回路を形成するものである。
【0016】
【作用】
請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法は、真空または曝気により土中または水中に含有されるトリクロロエチレンを抽出して、酸素存在下で紫外線を照射してトリクロロエチレンを酸化させてホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとするので、このトリクロロエチレンを紫外線の照射で塩化水素にする場合に比べ、紫外線の照射率が向上して紫外線による酸化分解効率が向上し、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成させて水に含有させるため、取り扱いが容易な水が有害なトリクロロエチレンから分解されたジクロロ酢酸のキャリヤとなり、このジクロロ酢酸の処理が容易となる。
【0017】
また、ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解するので、トリクロロエチレンが無害な最終生成物に確実に処理される。
【0018】
請求項2記載のトリクロロエチレンの処理方法は、請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法において、ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解した水を返送手段にて返送して再びホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドと接触させる閉鎖還流回路を形成するため、副生成物が系外に漏洩することなく確実に処理されるとともに、ジクロロ酢酸の処理効率が向上し、このジクロロ酢酸の処理コストが低減する。
【0019】
【実施例】
本発明の揮発性有機塩素化合物の処理方法を実施する装置の一実施例の構成を図面を参照して説明する。
【0020】
図1において、1は照射槽で、この照射槽1は、気密構造に形成され、キセノンランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプなどの紫外線を照光する図示しない紫外線ランプを配設している。そして、この紫外線ランプは、例えば不純物が0.001%以下の合成石英ガラスにて形成され、波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過する図示しないガラス管にて構成されている。
【0021】
また、この照射槽1には、真空および曝気により土中および水中の揮発性有機塩素化合物を空気とともに抽出する抽出装置2が接続されている。さらに、照射槽1には、揮発性有機塩素化合物が紫外線ランプの紫外線照射により分解された第1副生成物、例えば揮発性有機塩素化合物としてトリクロロエチレン(CHCl=CCl2)を使用した場合、ホスゲン(COCl2)やジクロロアセチルクロリド(Cl2CHCOCl)などを排出する送気管4が接続されている。
【0022】
また、送気管4には原水槽6が接続され、この原水槽6は、気密構造に形成されているとともに、酸性水などにより腐食されないように耐腐食構造に形成されている。そして、この原水槽6には、水が流入される図示しない流水口が形成されているとともに、この導入された水を攪拌する図示しない攪拌手段が設けられている。
【0023】
さらに、原水槽6の底部には、送気管4に連通された散気装置7が形成され、この散気装置7から照射槽1より送気管4を介して搬送される第1次副生成物を含有する空気が、流水口から流入された水に散気される。また、原水槽6には、散気された水のpH値を検出し、水を中性に制御するpH制御装置8が接続されている。さらに、原水槽6の底部には、搬送ポンプ9を設けた搬送管10が接続され、原水槽6内の水が送出される。
【0024】
なお、原水槽6に、散気装置7から散気した気体を、原水槽6の上部に設けた吸気手段にて吸気し、この気体を空気などの酸素含有ガスとともに再び照射槽1に返送し、再び紫外線照射させてもよい。この吸気手段により、確実に揮発性有機物を第1次副生成物に分解でき、系外へ有毒な揮発性有機物を漏洩することを防止でき、確実に処理できる。
【0025】
そして、搬送管10には、曝気槽12が接続され、この曝気槽12には、有機物質や窒素化合物などの汚染物質が含まれる汚水13が流入される図示しない原水管が接続されている。さらに、曝気槽12の上部には、原水槽6から搬送ポンプ9により搬送管10を介して搬送される水が吐出される吐出部14が設けられている。
【0026】
また、曝気槽12内には充填層15が設けられ、この充填層15は流入した汚水13中の有機物質や窒素化合物などの汚染物質を分解する好気性生物が担持される多数の図示しない多孔質材料が充填されて形成されている。さらに、曝気槽12の上部には、汚水13に空気を散気し充填層15の好気性生物に酸素を供給するブロワ16が接続された曝気装置17が設けられている。
【0027】
そして、この曝気槽12の底部には、充填層15の好気性生物により浄化処理された処理水を放水する放水ポンプ18が設けられた放水管19が接続されている。なお、この曝気槽12には、図示しない逆流洗浄手段が設けられ、適宜曝気槽12内を逆流洗浄し、回収した汚泥などは別途処理されるようになっている。
【0028】
次に、この装置についての動作を汚水の処理について説明する。
【0029】
有機物質や窒素化合物などの汚染物質が含まれるとともに、トリクロロエチレン(CHCl=CCl2)やテトラクロロエチレン(CCl2=CCl2)などの揮発性有機塩素化合物を含有する汚水13を、抽出装置2に流入し、この汚水13に空気を散気して汚水13中の揮発性有機塩素化合物を空気中に揮発させる。そして、この揮発性有機塩素化合物を含有する空気を照射槽1に流入する。また、揮発性有機塩素化合物が除かれた汚水13は、図示しない原水管を介して曝気槽12に流入する。
【0030】
次に、照射槽1の図示しない紫外線ランプを点灯させ、照射槽1に流入された揮発性有機塩素化合物を含有する空気に紫外線を照射する。そして、紫外線を所定時間照射後、照射槽1内の空気を送気管4を介して原水槽6に送気する。
【0031】
一方、原水槽6内に流水口から水を流入し、送気管4を介して送気された空気を、原水槽6の底部に設けた散気装置7から散気する。さらに、この散気の際、pH制御装置8にて原水槽6内の水のpH値を測定し、適宜水酸化ナトリウムなどを投入してpH値をほぼ中性となるように制御しつつ、図示しない攪拌手段にて水を攪拌する。
【0032】
そして、散気装置7からの散気が終了し、水酸化ナトリウムなどを投入せずとも、pH値がほぼ中性で一定となった後、攪拌を停止して、搬送ポンプ9を駆動させ、搬送管10を介して原水槽6内の水を曝気槽12に搬送する。
【0033】
次に、原水槽6から搬送された水は、曝気槽12の上部に設けた吐出部14より吐出され、図示しない原水管から流入された汚水13に流入される。そして、汚水13と混合された水は、曝気装置17から曝気される空気とともに、曝気槽12内の充填層15を流過する。また、この充填層15の流過の際、汚水13と混合した水は、充填層15の図示しない多孔質材料に担持された好気性生物により浄化処理され、曝気槽12の底部に流下する。
【0034】
そして、曝気槽12の底部の浄化処理された処理水を、放水ポンプ18を駆動させて放水管19より放水する。
【0035】
また、以上の処理工程を続けることにより、曝気槽12内の充填層15に担持された好気性生物が増殖したり、汚水13中の汚泥が充填層15に濾過され、流過抵抗が向上する場合には、図示しない逆流洗浄手段により、汚泥などを除去する。
【0036】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0037】
照射槽1、原水槽6、曝気槽12における処理について各種実験を行った。
【0038】
まず、照射槽1として、図2に示すような照射槽1を形成する。この照射槽1は、直径が略400mm、高さが1000mmの円筒状の鋼板製の管体21からなり、気密に形成されている。
【0039】
また、この管体21に紫外線ランプである長さが約500mmの15Wの低圧水銀灯22を配設する。なお、この低圧水銀灯22は、例えば不純物が0.001%以下の合成石英ガラスにて形成され、波長が200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を構成している。さらに、この管体21の上端面には注入部23が形成されている。また、この管体21内に乾燥空気を充填させておく。
【0040】
そして、この管体21内に揮発性有機塩素化合物としてトリクロロエチレンを0.1ml注入し、紫外線の照射時間を変化させて、トリクロロエチレンの酸化分解状況についての実験1-1を行った。その結果を図3および表1に示す。
【0041】
なお、図3は、縦軸が管体21内のトリクロロエチレン濃度(単位はppm)、横軸が低圧水銀灯22の点灯時間(単位は秒)で表したグラフである。また、酸化分解された第1次副生成物の定性、および、揮発性有機塩素化合物および第1次副生成物の定量は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS:Gas Chromatograph Mass Spectrometer)を用いて測定した。
【0042】
そして、図3に示す実験1-1において、紫外線の照射時間が長くなるにしたがって、注入されたトリクロロエチレン濃度は、ほぼ指数関数的に減少することが分かる。また、この紫外線の照射時間も20秒間の照射のみでほとんどが酸化分解されていることが分かる。
【0043】
そして、この結果に基づいて、揮発性有機塩素化合物としてテトラクロロエチレンを0.1ml、cis-1.2.ジクロロエチレン(CHCl=CHCl)を0.05ml、それぞれ注入し、紫外線を約20秒照射し、これらテトラクロロエチレン、cis-1.2.ジクロロエチレンの酸化分解状況についても同様に実験を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
この表1に示すGC/MSの測定結果から、20秒間の紫外線の照射により、トリクロロエチレンは、第1次副生成物として、ほとんどがホスゲン(COCl2)、ジクロロアセチルクロリド(Cl2CHCOCl)に酸化分解され、ホスゲンは32ppm、ジクロロアセチルクロリドは130ppm検出された。また、テトラクロロエチレンおよびcis-1.2.ジクロロエチレンも、ほとんどが塩化水素、二酸化炭素、ホスゲンなどに酸化分解され、ホスゲンは、テトラクロロエチレンが37ppm、cis-1.2.ジクロロエチレンは26ppm検出された。なお、テトラクロロエチレンおよびcis-1.2.ジクロロエチレンでは、分解されて生成された上記以外の副生成物が存在したが、特定できなかった。
【0046】
次に、波長が200nm以下の紫外線を50%以下透過する溶融石英ガラスにて形成したガラス管を備えた低圧水銀灯22を照射槽1に配設して、実験1-1と同様な操作にて実験1-2を行った。その結果を図4に示す。
【0047】
この図4に示す実験1-2の結果から、波長が200nm以下の紫外線が少ないと、紫外線を長時間照射しても、トリクロロエチレンは、ほとんど酸化分解されないことがわかる。
【0048】
そして、内径が1cmのガラスセル中に、トリクロロエチレンを528ppmおよびテトラクロロエチレンを328ppm投入して、それぞれの透過率を測定した結果を図5に示す。この図5に示す結果から、トリクロロエチレンおよびテトラクロロエチレンは、波長が240nm以下の紫外線を吸収し、200nm以下ではほぼ50%近く吸収することがわかる。
【0049】
次に、実験1-1および1-2の紫外線照射された管体21内の気体を、図示しないガラス製シリンダにて80ml抽出し、さらに、このシリンダにイオン交換水10mlを採取し、このシリンダを約10分間振盪し、実験2を行った。その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
まず、シリンダ内の気体をGC/MSにて定性分析した結果、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、cis-1.2.ジクロロエチレンとも、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドなど揮発性有機塩素化合物や第1次副生成物は検出されなかった。
【0052】
また、シリンダ内の液体のpH値を測定したところ、トリクロロエチレンの場合にはpH値は3.9で、第2次副生成物である易分解性のジクロロ酢酸(CHCl2COOH)などが検出された。なお、ジクロロ酢酸は5.9mg/l検出された。さらに、テトラクロロエチレンおよびcis-1.2.ジクロロエチレンの場合には、ジクロロ酢酸も検出されなかった。
【0053】
このため、第1次副生成物のホスゲン、ジクロロアセチルクロリドや特定できなかった第1次副生成物は、イオン交換水との接触により全てイオン交換水に溶解もしくは加水分解されたものと考えられる。
【0054】
次に、塩化ビニルにて、直径が略400mm、高さが略600mmの合成槽25と、縦が略210mm、横が略145mm、高さが略500mmの曝気槽26と、直径が略150mm、高さが略210mmの沈殿池27とを形成する。そして、図6に示すように、合成槽25の底部と曝気槽26の上部とを原水ポンプ28を介して原水管29で接続する。また、曝気槽26の底部と沈殿池27の上部とを送水ポンプ30を介して送水管31で接続するとともに、沈殿池27の底部と曝気槽26の上部とを還流ポンプ32を介して還流管33で接続する。さらに、曝気槽26には、曝気装置として送気ポンプ34に接続された散気管35が接続され、曝気槽26内に空気を曝気するようになっている。また、沈殿池27の上部には、上澄みの処理水が装置外に放流される放水管36を接続する。そして、この装置を用いて実験3を行った。
【0055】
まず、合成槽25に水を流入し、この水に酢酸を200mg/l、ペプトンを100mg/l添加し、合成汚水37を生成する。なお、この合成汚水37は、生化学的酸素要求量(BOD)が176mg/l、化学的酸素要求量(COD)が42mg/lであった。一方、曝気槽26に合成した合成汚水37を流入し、好気性生物を増殖させておく。なお、この曝気槽26は、図1に示す充填層15を設けず曝気のエアリフトにより好気性生物が合成汚水37中に浮遊して浄化処理するものである。
【0056】
また、合成汚水37の処理においては、合成汚水37を合成槽25から14ml/分で曝気槽26に流入させ、曝気槽26から処理された処理水および浮遊する好気性生物を沈殿池27に14ml/分で流入させ、沈殿池27の底部から沈降した好気性生物を7ml/分で曝気槽26に還流させ、沈殿池27の上部の上澄みの処理水を14ml/分で放水管36から放水させる。
【0057】
そして、下表3に示す条件にて、実験2で生成された第2次副生成物のジクロロ酢酸を合成汚水37に添加し、合成汚水37の浄化処理を行った。合成汚水37の浄化処理状況として、沈殿池27から放水管36を介して放流される上澄みの処理水のBODを測定し、その結果を図7に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
この図7に示す結果から、ジクロロ酢酸を添加しない合成汚水37のみの浄化処理である第1処理段階(RUN1)では、BOD値は、10〜20mg/lまで浄化処理されることが分かる。
【0060】
そして、この合成汚水37の処理状況の中で、合成汚水37に20mg/lのジクロロ酢酸を添加して第2処理段階(RUN2)の浄化処理を行うと、若干BOD値が上昇し、少量のジクロロ酢酸が処理水中に検出されたが、処理の後期段階では、BODも15mg/l以下に低下し、ジクロロ酢酸も検出されなくなった。
【0061】
さらに、第3処理段階(RUN3)でジクロロ酢酸の添加量を増加させても、同様に処理の後期段階ではBODも低下し、ジクロロ酢酸も検出されなくなる。そして、さらにジクロロ酢酸の添加量を増加させた第4処理段階(RUN4)では、処理の前期段階でもジクロロ酢酸は検出されなくなり、ジクロロ酢酸の添加によるBODの上昇も少なくなり、処理水のBODも15mg/l以下に低下する。
【0062】
すなわち、曝気槽26内にジクロロ酢酸を分解する好気性生物が少ない運転初期段階では、多少処理水中にジクロロ酢酸が検出されるが、曝気槽26内でジクロロ酢酸を分解する好気性生物が順養されると、合成汚水37とともに確実に分解されることがわかる。
【0063】
したがって、本発明の処理方法によれば、有毒な揮発性有機塩素化合物を短時間の紫外線照射のみで第1次副生成物に分解し、水との接触により好気性生物にて浄化処理可能な易分解性の第2次副生成物を生成させ、揮発性有機塩素化合物を抽出した汚水13,37とともに浄化処理するので、オゾンや過酸化水素などを用いずとも、容易で確実に効率よく安価に無害化できるとともに、汚水13,37の浄化処理とともに副生成物を浄化処理するため、副生成物による汚染を防止でき、効率よく浄化処理できる。
【0064】
なお、上記実施例において、紫外線の照射により分解生成された第1次副生成物を、原水槽6にてpH値を制御しつつ一旦第2次副生成物にし、この生成された第2次副生成物を曝気槽12にて浄化処理したが、例えば図8に示すように、原水槽と曝気槽12とを一体的に形成する構造としてもよい。
【0065】
すなわち、曝気槽12を気密構造とし、この曝気槽12にpH制御装置8を設けて、第1次副生成物を直接曝気槽12中の汚水13に曝気させ、第2次副生成物を生成させるとともに、この第2次副生成物を上部に還流させて吐出部14より吐出させ、曝気槽12内の空気を還流される汚水13に接触させつつ、充填層15を形成するラーシッヒリングや多孔質材料などの充填材に担持された好気性生物にて汚水13中の第2次副生成物を分解させる。この場合には、さらに、処理装置の構造を簡略化できる。
【0066】
また、第1次副生成物の水との接触として、水中に曝気して説明したが、第1次副生成物を充填した原水槽6内に水を噴霧するなどいずれの方法でもできる。
【0067】
さらに、汚水13および土中から揮発性有機塩素化合物を真空などにより抽出し、この揮発性有機塩素化合物を紫外線にて第1次副生成物に分解し、水との接触後、汚水13とは別に曝気槽12内で好気性生物にて分解処理した後、汚水13と別に放水してもできる。
【0068】
また、塩素基を有する揮発性有機塩素化合物を用いて説明したが、ベンゼンやトルエンなどでも同様に分解処理できる。
【0069】
次に、他の実施例を図面を参照して説明する。
【0070】
図9および図10に示す実施例は、図1ないし図7に示す実施例の曝気槽12の代わりに吸着処理装置を設けたものである。
【0071】
すなわち、波長が200nm以下の紫外線を50%以上照光する図示しない紫外線ランプを収容した気密構造の照射槽1に、工場排水などの汚水13中の揮発性有機塩素化合物を空気とともに抽出する抽出装置2が接続されている。
【0072】
そして、この抽出装置2は、ブロワ41からの空気を曝気する曝気手段42を底部近傍に配設した抽出槽43を備え、この抽出槽43には、曝気により汚水13中から抽出された揮発性有機塩素化合物を、流量が流量調節装置44にて調整されて送気する抽出管45が接続されている。
【0073】
さらに、照射槽1には、紫外線照射により分解生成された第1副生成物を、送気管4を介して散気装置7から散気する原水槽6が接続されている。
【0074】
また、この原水槽6は、図10に示すように、図1ないし図7に示す実施例と同様に、気密かつ耐腐食構造に形成されている。さらに、水48が流入される図示しない流水口が形成されているとともに、この導入された水48を攪拌する図示しない攪拌手段が設けられている。
【0075】
そして、原水槽6の底部には、送気管4に連通された散気装置7が形成され、この散気装置7から照射槽1より送気管4を介して搬送される第1次副生成物を含有する空気が、流水口から流入された水48に散気される。また、原水槽6の中間部には、図8に示す実施例と同様に、図示しないラーシッヒリングなどの充填材が充填された充填層49が形成されている。
【0076】
さらに、原水槽6には、散気された水48のpH値を検出するセンサ8aと、水酸化ナトリウム(NaOH)や炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)などの中和剤を添加する中和装置8bとを設けた水を中性に制御するpH制御装置8が接続されている。
【0077】
また、原水槽6の底部には、循環手段としての循環ポンプ51を設けた循環管52が接続され、途中に設けた流量計53にて流量を調整しつつ原水槽6内の水48を再び原水槽6の上部に設けた散水手段55にて散水して循環する閉鎖循環回路が構成されている。そして、この循環管52には、バルブ57が設けられた搬送管10が接続され、一部は原水槽6に返送し、適宜原水槽6内が水48を引き抜くようになっている。
【0078】
さらに、原水槽6の上部には、散気装置7から散気した気体を吸気する図示しない吸気手段が設けられ、吸気管59を介して、吸気した気体を照射槽1に返送して再び紫外線照射させるようになっている。なお、この吸気管59からの気体は、適宜図示しない吸気処理装置に送気するようにしてもよい。
【0079】
なお、吸気処理装置は、図示しない活性炭などの吸着剤が充填された吸着層が形成され、この吸着層の通過により、原水槽6から引き抜いた空気に含まれる揮発性有機塩素化合物、各種副生成物などを吸着処理し、処理された空気は、系外に排気される。
【0080】
次に、上記図9および図10に示す実施例の装置についての処理動作を説明する。
【0081】
トリクロロエチレン(CHCl=CCl2)やテトラクロロエチレン(CCl2=CCl2)などの揮発性有機塩素化合物を含有する工業排水などの汚水13を、抽出装置2に流入し、この汚水13にブロワ41からの空気を曝気手段42から曝気して汚水13中の揮発性有機塩素化合物を空気中に揮発させる。そして、この揮発性有機塩素化合物を含有する空気を照射槽1に流入する。
【0082】
次に、照射槽1に流入した揮発性有機塩素化合物を含有する空気に、図1ないし図7に示す実施例と同様に、図示しない紫外線ランプにて紫外線を適宜照射し、揮発性有機塩素化合物を、例えば揮発性有機塩素化合物としてトリクロロエチレンを使用した場合、ホスゲン(COCl2)やジクロロアセチルクロリド(Cl2CHCOCl)などの第1副生成物に分解する。
【0083】
そして、紫外線を所定時間照射後、照射槽1内の第1副生成物を含有する空気を送気管4を介して原水槽6に送気する。次に、原水槽6内にあらかじめ流水口を介して流入した水48に、pH制御装置8にてpH値をほぼ中性となるように制御し、図示しない攪拌手段にて水を攪拌しつつ、送気管4を介して送気された空気を散気装置7から散気する。
【0084】
なお、この散気の際、循環ポンプ51を駆動させ、上部に設けた散水手段55より充填層49に、照射槽1からの空気が曝気された水48を散水し、再び原水槽6内の空気と接触させる。また、適宜図示しない吸気手段から吸気管59を介して空気を照射槽1に返送する。
【0085】
そして、この散気により、空気に含有する第1副生成物は、水48との接触により水48に溶解もしくは加水分解されて、ジクロロ酢酸(CHCl2COOH)などの易分解性の第2次副生成物となる。また、水48との接触により水48中に第2次副生成物として含有されずに水面から原水槽6内に拡散した第1次副生成物は、散水手段55からの散水により再び水48と接触される。
【0086】
このため、第1次副生成物が系外に漏洩することなく、確実に水48に捕捉できるとともに、散水する水48は、既に第1次副生成物が第2次副生成物となって含有されているため、水48中への第2次副生成物の濃度が上昇し濃縮できる。
【0087】
さらに、吸気手段にて原水槽6内の空気を照射槽1に送気するため、紫外線照射により分解されなかった揮発性有機塩素化合物が、第1次副生成物を含有する空気とともに原水槽6に流入したとしても、再び照射槽1に返送されて紫外線照射により分解されるので、有害な揮発性有機塩素化合物を系外に漏洩することなく確実に第1次副生成物に分解して、水48に捕捉できる。また、照射槽1に返送せず適宜引き抜いた吸着処理装置58に送気することにより、抽出装置2にて抽出した揮発性有機塩素化合物に紫外線難分解性の物質が含有していても、吸着剤にて確実に吸着除去されるため、系外に有害な揮発性有機塩素化合物が漏洩することを防止できる。
【0088】
そして、散気装置7からの散気が終了し、水酸化ナトリウム(NaOH)などの中和剤を投入せずとも、pH値がほぼ中性で一定となった後、攪拌を停止して、駆動する循環ポンプ51により、原水槽6内の第2次副生成物が濃縮された水48を、バルブ57を調整して搬送管10を介して適宜引き抜き、焼却や生物処理などにて処理する。したがって、濃縮させない処理方法に比し、第2次副生成物の処理する水48の量が減少し、処理コストが低減できる。
【0089】
次に、さらに他の実施例を図面を参照して説明する。
【0090】
図11および図12に示す実施例は、図9ないし図10に示す実施例に、図1ないし図7に示す実施例の曝気槽12を設けたものである。
【0091】
すなわち、波長が200nm以下の紫外線を50%以上照光する図示しない紫外線ランプを収容した気密構造の照射槽1に、ブロワ41からの空気を曝気手段42にて曝気し、工業排水などの汚水13中の揮発性有機塩素化合物を空気とともに抽出する抽出装置2が接続されている。
【0092】
そして、照射槽1には、紫外線照射により分解生成された第1副生成物を、送気管4を介して散気装置7から散気する原水槽6が接続されている。
【0093】
また、この原水槽6は、図9ないし図10に示す実施例と同様に、気密かつ耐腐食構造に形成されている。さらに、水48が流入される図示しない流水口が形成されているとともに、この導入された水48を攪拌する図示しない攪拌手段が設けられている。
【0094】
そして、原水槽6の底部には、送気管4に連通された散気装置7が形成され、この散気装置7から照射槽1より送気管4を介して搬送される第1次副生成物を含有する空気が、流水口から流入された水48に散気される。また、原水槽6の中間部には、図8に示す実施例と同様に、ラーシッヒリングなどの充填材が充填された充填層49が形成されている。
【0095】
また、原水槽6の底部には、循環手段としての循環ポンプ51を設けた循環管52が接続され、途中に設けたバルブ57にて流量を調整しつつ原水槽6内の水48を再び原水槽6の上部に設けた散水手段55にて散水して循環する閉鎖循環回路が構成されている。そして、この循環管52には、バルブ57が設けられた搬送管10が接続され、循環管52にて循環されない一部の水48を、適宜曝気槽12に送水するようになっている。
【0096】
さらに、原水槽6の上部には、散気装置7から散気した気体を吸気する図示しない吸気手段が設けられ、この吸気手段から吸気管59を介して、吸気した空気を再び照射槽1に返送して再び紫外線照射させるようになっている。なお、この吸気管59からの空気は、適宜図示しない活性炭などの吸着剤が充填された吸着処理装置58に送気し、揮発性有機塩素化合物や副生成物などを吸着除去し、浄化処理された空気を大気中に排気するようにしている。
【0097】
そして、曝気槽12には、上部に原水槽6から循環ポンプ51により搬送管10を介して搬送される水48が吐出される吐出部14が設けられている。また、曝気槽12内には中間に充填層15が設けられ、この充填層15は流入した水中の第2次副生成物を分解する好気性生物が担持される多数の図示しない多孔質材料などの充填材が充填されて形成されている。
【0098】
さらに、曝気槽12の下部には、汚水13に空気を散気し充填層15の好気性生物に酸素を供給するブロワ16が接続された曝気装置17が設けられている。なお、曝気槽12には、図示しない逆流洗浄手段が設けられ、適宜曝気槽12内を逆流洗浄し、回収した汚泥などは別途処理したり、後述する好気性生物の栄養源として用いてもよい。
【0099】
また、曝気槽12の上部には、充填層15の好気性生物の生殖に必要な窒素、燐、マグネシウム、鉄、カルシウム、マンガン、カルシウムなどの栄養源を添加する添加装置61が設けられている。なお、添加装置61の栄養源の代りに、曝気槽12の上部に、有機物質や窒素化合物などの汚染物質が含まれる汚水13や汚泥物を流入するようにしてもよい。
【0100】
さらに、この曝気槽12の底部には、充填層15の好気性生物により浄化処理された水48を流出する流出管62が接続されている。また、この流出管62の下流側には、図9および図10に示す実施例と同様、pH値を検出するセンサ8aおよび中和剤を添加する中和装置8bを設けたpH制御装置8と、図示しない攪拌手段を備えた水槽63が設けられている。
【0101】
そして、この水槽63の底部には、途中に放水ポンプ18およびバルブ65を設けた返送手段としての返送管66が接続され、水槽63の水48を適宜原水槽6の散水手段55および曝気槽12の吐出部14に返送して還流させる閉鎖還流回路が形成されている。
【0102】
なお、この返送管66には、図示しないバルブを設けた放水管19が形成され、適宜水槽63の処理された水48を放水するようにしている。また、そのまま放水せず、吸着剤などにて浄化処理後に放水するようにしてもよい。
【0103】
次に、上記図11および図12に示す実施例の装置についての処理動作を説明する。
【0104】
トリクロロエチレン(CHCl=CCl2)やテトラクロロエチレン(CCl2=CCl2)などの揮発性有機塩素化合物を含有する工業排水などの汚水13を、図1ないし図7に示す実施例、および、図9および図10に示す実施例と同様に、抽出装置2にて曝気して揮発性有機塩素化合物を空気中に揮発させる。そして、この揮発性有機塩素化合物を含有する空気を照射槽1にて紫外線を適宜照射して第1副生成物に分解し、この第1副生成物を含有する空気を送気管4を介して原水槽6に送気する。
【0105】
次に、原水槽6内にあらかじめ流水口を介して流入した水48に、送気管4を介して送気された空気を散気装置7から散気する。
【0106】
なお、この散気の際、循環ポンプ51を駆動させ、上部に設けた散水手段55より充填層49に、照射槽1からの空気が曝気された水48を散水し、再び原水槽6内の空気と接触させ、空気に含有する第1副生成物を、水48との接触により水48に溶解もしくは加水分解されて易分解性の第2次副生成物を生成させる。そして、循環ポンプ51により、適宜バルブ57を調整して搬送管10を介して曝気槽12に送水する。また、原水槽6内の空気は、適宜図示しない吸気手段から吸気管59を介して空気を照射槽1に返送して循環させ、一部は吸着処理装置58に送気して吸着処理して排気する。
【0107】
そして、原水槽6からの水48を、曝気槽12の上部に設けた吐出部14より吐出させ、適宜栄養源を投入し曝気装置17から空気を曝気しつつ、充填層15を流過させて、充填層15の充填材に担持する好気性生物により第2次副生成物を浄化処理する。なお、好気性生物が増殖した場合には、図示しない逆流洗浄手段により、汚泥などを除去する。
【0108】
さらに、浄化処理した水48を、流出管62を水槽63に流出させ、攪拌手段にて攪拌しつつセンサ8aにてpHを監視しながら中和装置8bから中和剤を適宜投入してpH値を若干アルカリ性にする。この水48を適宜放水ポンプ18により返送管66を介して、原水槽6の散水手段55および曝気槽12の吐出部14に返送して還流させる。
【0109】
そして、適宜水槽63のpH調整され浄化処理された水48を、放水管19から吸着処理装置58に流入させ、図示しない放水口を介して放水する。
【0110】
したがって、上記実施例によれば、有毒な揮発性有機塩素化合物を短時間の紫外線照射のみで第1次副生成物に分解し、水48との接触により好気性生物にて浄化処理可能な易分解性の第2次副生成物を生成させ、適宜処理した水48および空気を還流させつつ浄化処理し、処理した空気および水48を排気および放水する前に適宜吸着剤にて吸着処理してさらに浄化処理するため、確実に有毒な吸着除去されるので、系外に有害な揮発性有機塩素化合物が漏洩することなく確実に浄化処理できる。
【0111】
【発明の効果】
請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法によれば、酸素存在下で紫外線を照射して、抽出したトリクロロエチレンを酸化させて、ホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドとするので、紫外線の照射率が向上して紫外線による酸化分解効率を向上でき、これらホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドを水と接触させて易分解性のジクロロ酢酸を生成させて水に含有させるため、取り扱いが容易な水が有害なトリクロロエチレンから分解されたジクロロ酢酸のキャリヤとなり、このジクロロ酢酸を容易に効率よく処理できる。
【0112】
また、ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解するので、トリクロロエチレンを無害な最終生成物に確実に処理できる。
【0113】
請求項2記載のトリクロロエチレンの処理方法によれば、請求項1記載のトリクロロエチレンの処理方法の効果に加え、ジクロロ酢酸を好気性生物にて分解した水を返送手段にて返送して再びホスゲンおよびジクロロアセチルクロリドと接触させる閉鎖還流回路を形成するため、副生成物が系外に漏洩することなく確実に処理できるとともに、ジクロロ酢酸の処理効率が向上でき、このジクロロ酢酸の処理コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の揮発性有機塩素化合物の処理方法を実施する装置の一実施例の構成を示す系統説明図である。
【図2】
本発明の揮発性有機塩素化合物の紫外線照射による第1次副生成物への酸化分解を説明する実験装置を示す斜視図である。
【図3】
同上200nm以下の紫外線を50%以上透過するガラス管を有する紫外線ランプを用いた揮発性有機塩素化合物のトリクロロエチレンの分解状況を示すグラフ化した図である。
【図4】
同上200nm以下の紫外線を50%以下透過するガラス管を有する紫外線ランプを用いた揮発性有機塩素化合物のトリクロロエチレンの分解状況を示すグラフ化した図である。
【図5】
同上揮発性有機塩素化合物の透過率を示すグラフ化した図である。
【図6】
同上第2次副生成物のジクロロ酢酸を好気性生物にて浄化処理する装置の構成を示す系統説明図である。
【図7】
同上ジクロロ酢酸の浄化処理状況を示すグラフ化した図である。
【図8】
他の実施例の装置の構成を示す説明図である。
【図9】
さらに他の実施例の装置の構成を示す系統説明図である。
【図10】
同上原水槽を示す説明図である。
【図11】
さらに他の実施例を示す装置の構成を示す系統説明図である。
【図12】
同上原水槽および曝気槽を示す説明図である。
【符号の説明】
1 照射槽
6 原水槽
12 曝気槽
48 水
66 返送手段としての返送管
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-03 
出願番号 特願平5-337298
審決分類 P 1 652・ 121- YA (B01D)
P 1 652・ 534- YA (B01D)
P 1 652・ 113- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 慶子  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 岡田 和加子
中村 泰三
登録日 2002-09-20 
登録番号 特許第3352200号(P3352200)
権利者 アタカ工業株式会社
発明の名称 トリクロロエチレンの処理方法  
代理人 樺澤 聡  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 聡  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 襄  
代理人 樺澤 襄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ