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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01G
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01G
管理番号 1107941
異議申立番号 異議2003-71677  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-08-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-04 
確定日 2004-10-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3363369号「積層セラミックコンデンサ」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3363369号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3363369号に係る手続の主な経緯は次のとおりである。
特許出願(特願平10-18410号) 平成10年 1月30日
特許権設定登録 平成14年10月25日
特許異議申立て(特許異議申立人:雨山範子) 平成15年 7月 4日
特許異議申立て(特許異議申立人:ローム株式会社)
平成15年 7月 8日
取消理由通知 平成16年 4月20日
特許異議意見書 平成16年 6月29日
訂正請求書(後日取下) 平成16年 6月29日
取消理由通知 平成16年 8月12日
特許異議意見書・訂正請求書 平成16年 9月 7日

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1において、
「誘電体層と内部電極層とを交互に積層してなる磁器素体の両端面に、磁器素体側から金属成分とガラス成分を含有する第1導体層、金属成分と樹脂成分を含有する第2導体層、メッキ金属から成る第3導体層からなる外部電極を形成した積層セラミックコンデンサにおいて、
前記第1導電層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導電層は金属成分に対して樹脂成分が10〜40重量%含有するとともに、前記磁器素体と第1導体層との接合強度をF1、第1導体層と第2導体層との接合強度F2とした時、
F1 ≧2.0kgf、
F2 ≧1.0kgf、
F1>F2を満足していることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。」を、
「誘電体層と内部電極層とを交互に積層してなる磁器素体の両端面に、磁器素体側から金属成分とガラス成分を含有する第1導体層、金属成分と樹脂成分を含有する第2導体層、メッキ金属から成る第3導体層からなる外部電極を形成した積層セラミックコンデンサにおいて、
前記第1導体層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導体層は金属成分に対して分子量M(300<M≦1200)の熱硬化性エポキシ樹脂からなる樹脂成分が10〜40重量%含有するとともに、前記磁器素体と第1導体層との接合強度をF1、第1導体層と第2導体層との接合強度F2とした時、F1 ≧2.0kgf、F2 ≧1.0kgf、F1>F2を満足していることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。」と訂正する。
訂正事項b
明細書の段落【0012】に記載の「前記第1導電層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導電層は金属成分に対して樹脂成分が10〜40重量%含有する」を、「前記第1導体層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導体層は金属成分に対して分子量M(300<M≦1200)の熱硬化性エポキシ樹脂からなる樹脂成分が10〜40重量%含有する」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aについて
訂正事項aは、
(訂正事項a-1)
請求項1において、「前記第1導電層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導電層は」を、「前記第1導体層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導体層は」と、
(訂正事項a-2)
請求項1において、「金属成分に対して樹脂成分が10〜40重量%含有する」を、「金属成分に対して分子量M(300<M≦1200)の熱硬化性エポキシ樹脂からなる樹脂成分が10〜40重量%含有する」とするものである。
訂正事項a-1は、「第1導電層」という文言を「第1導体層」に、「第2導電層」という文言を「第2導体層」に訂正しており、「第1導電層」及び「第2導電層」という文言は、特許明細書中の段落【0038】、【0040】及び【0042】の記載との関係で誤りであることが明らかである。
したがって訂正事項a-1は、誤記の訂正を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
訂正事項a-2は、請求項1に記載された金属成分と樹脂成分を含有する第2導電体層について、「金属成分に対して樹脂成分が10〜40重量%含有する」を、より下位概念の、「金属成分に対して分子量M(300<M≦1200)の熱硬化性エポキシ樹脂からなる樹脂成分が10〜40重量%含有する」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の明細書の段落【0045】には、「・・・金属粉末に対する熱硬化性樹脂組成分の重量比が10〜40重量%の程度が望ましい。」と、段落【0046】には、「比較的低い分子量のエポキシ系樹脂を上述の範囲で用いることにより、磁器素体の端面の面積が小さい1608型(端面の面積:0.8×0.8mm)であっも、外部電極の引っ張り強度を使用上問題ないレベルである1kgf以上が達成できる。・・・」と記載されている。したがって、「第2導体層は金属成分に対して熱硬化性エポキシ系樹脂成分が10〜40重量%含有する」ように設定されることが望ましいことが開示されているといえる。
また、分子量については、同段落【0047】において、「尚、上記熱硬化性エポキシ樹脂の分子量が非常に低い場合、例えば300以下では過剰な反応性となってしまい、接合強度F2 を接合強度F1 未満にすることが困難となる。また、分子量が高い場合、例えば1200を超えると、接合強度F2 自身が得られなくなる。」と記載されており、前記熱硬化性エポキシ系樹脂の一例として「熱硬化性エポキシ樹脂」が用いられる場合には、「分子量M(300<M≦1200)」のものが好適に使用されることが開示されているといえる。
したがって、訂正事項a-2は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

訂正事項bについて
訂正事項bは、訂正事項aの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)特許異議申立理由の概要
ア.特許異議申立人雨山範子の主張
特許異議申立人雨山範子は、以下の甲第1〜6号証を提出し、特許第3363369号の請求項1に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と実質的に同一のものであり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また、同発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、さらに、同発明は、甲第6号証に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。
甲第1号証 :特開平8-107039号公報
甲第2号証 :特開平4-329616号公報
甲第3号証 :特開平7- 66001号公報
甲第4号証 :特開平8-298018号公報
甲第5号証 :特開平9- 55118号公報
甲第6号証 :特願平9- 93744号
(特開平10-284343号公報参照)

イ.特許異議申立人ローム株式会社の主張
特許異議申立人ローム株式会社は、甲第1〜4号証(それぞれ、特開平6-29144号公報、特開平8-107039号公報、特開平6-267784号公報、特開平8-203771号公報)、甲第5号証の1(特開平9-120932号公報)、甲第5号証の2(特開平5-144665号公報)、甲第5号証の3(実願昭63-96483号(実開平2-17829号)のマイクロフィルム)、甲第6号証(特開平4-273418号公報)、及び甲第7号証(“京セラ>製品情報>電子部品>コンデンサ”、[online]、京セラ株式会社、[平成15年7月3日検索]、インターネット<URL :
http://www.kyocera.co.jp/prdct/electro/i_kondensa.html>)を提出し、以下のように主張している。

(ア)申立ての理由の1(進歩性の点)について
特許第3363369号の請求項1に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、甲第3〜6号証に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。

(イ)申立ての理由の2(記載不備の点)について
a.特許第3363369号の請求項1に係る発明の構成要件である「磁気素体と第1導体層との接合強度をF1」及び「第1導体層と第2導体層との接合強度F2」について以下のように主張している。
「本件の特許明細書のどこにも、前記「接合強度」とは、どのような測定方法によるものかについては、一切、明らかにしていない。
この「接合強度」は、多分、前記甲第6号証における「引張強度」と同じ測定方法であろうと推測できるものの、本件の特許明細書においては、前記「接合強度」を、前記甲第6号証に記載されているように、明確に定義していないのであるから、本件の特許明細書の記載は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないと断定できる。」(以下、「申立ての理由2-a」という。)
b.また、特許第3363369号の請求項1に係る発明の構成要件である「接合強度F1 ≧2.0kgf、」及び「接合強度F2 ≧1.0kgf、」について以下のように主張している。
「前記「接合強度」が、前記甲第6号証における「引張強度」と同じ測定方法であるとすれば、この「接合強度F1,F2」には、磁気素体の端面における面積(大きさ)の関数が入って来るにもかかわらず、この面積(大きさ)の点を、一切、構成要件としていないのであるから、本件の特許明細書の記載は、明らかに特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないと断定できる。」(以下、「申立ての理由2-b」という。)
c.さらに、特許第3363369号の請求項1に係る発明の構成要件である「接合強度F1 ≧2.0kgf、」及び「接合強度F2 ≧1.0kgf、」について以下のように主張している。
本件の特許明細書においては、三種類の大きさの積層セラミックコンデンサを掲げているが、本件の特許権者が発行する「積層セラミックチップコンデンサ」のカタログである甲第7号証によると、「積層セラミックチップコンデンサ」には、前記した三種類の大きさのほかにも存在するが、これに、前記「接合強度F1 ≧2.0kgf、」及び「接合強度F2 ≧1.0kgf、」の関係が成立して、本件の特許明細書に記載されているような作用及び効果を得ることができるのであろうかは疑わしく、換言すると、本件の特許明細書に記載されているような作用及び効果を得ることができるという点については、一切、言及していないのであるから、本件の特許明細書の記載は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。(以下、「申立ての理由2-c」という。)

(2)取消しの理由の概要
平成16年8月12日付け取消理由通知書における取消しの理由(以下、「第2回取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。

ア.理由1.特許法第29条第1項第3号の規定違反について
特許第3363369号の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、同発明は、特許異議申立人雨山範子により申立てがなされた特許異議申立書(以下、「特許異議申立書1」という。但し、「甲第1号証」、「甲第2号証」は、それぞれ「刊行物1」、「刊行物2」と読み替える。)第6頁第16行〜第11頁第25行、第18頁第1行〜第20頁第23行記載の理由により、下記刊行物1又は刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、同発明の特許は取り消されるべきものである。

イ.理由2.特許法第29条第2項の規定違反について
(ア)特許第3363369号の請求項1に係る発明は、特許異議申立書1(但し、「甲第3号証」ないし「甲第5号証」は、それぞれ「刊行物3」ないし「刊行物5」と読み替える。)第6頁第16行〜第16頁第2行、第20頁第24行〜第22頁第5行記載の理由により、下記刊行物1ないし刊行物5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(イ)特許第3363369号の請求項1に係る発明は、特許異議申立人ローム株式会社により申立がなされた特許異議申立書(以下、「特許異議申立書2」という。但し、「甲第1号証」、「甲第2号証」、及び「甲第3号証」は、それぞれ「刊行物6」、「刊行物1」、及び「刊行物7」と、「甲第6号証」は「刊行物12」と読み替える。)第4頁第17行〜第9頁第11行、第13頁第12行〜第16頁第20行記載の理由により、下記刊行物1、刊行物6、刊行物7、及び刊行物12に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(ウ)特許第3363369号の請求項1に係る発明は、特許異議申立書2(但し、「甲第4号証」は「刊行物8」と、「甲第5号証の1」ないし「甲第5号証の3」は、それぞれ「刊行物9」ないし「刊行物11」と読み替える。)第8頁下から第2行〜第9頁第11行、第9頁第20行〜第13頁第11行、第16頁第21行〜第17頁下から第6行記載の理由により、下記刊行物7ないし刊行物12に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(エ)特許第3363369号の請求項1に係る発明は、下記刊行物1ないし刊行物12に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。



刊行物1:特開平8-107039号公報
(特許異議申立人雨山範子が提出した甲第1号証。
特許異議申立人ローム株式会社が提出した甲第2号証)
刊行物2:特開平4-329616号公報
(特許異議申立人雨山範子が提出した甲第2号証)
刊行物3:特開平7-66001号公報
(特許異議申立人雨山範子が提出した甲第3号証)
刊行物4:特開平8-298018号公報
(特許異議申立人雨山範子が提出した甲第4号証)
刊行物5:特開平9-55118号公報
(特許異議申立人雨山範子が提出した甲第5号証)
刊行物6:特開平6-29144号公報
(特許異議申立人ローム株式会社が提出した甲第1号証)
刊行物7:特開平6-267784号公報
(特許異議申立人ローム株式会社が提出した甲第3号証)
刊行物8:特開平8-203771号公報
(特許異議申立人ローム株式会社が提出した甲第4号証)
刊行物9:特開平9-120932号公報
(特許異議申立人ローム株式会社が提出した甲第5号証の1)
刊行物10:特開平5-144665号公報
(特許異議申立人ローム株式会社が提出した甲第5号証の2)
刊行物11:実願昭63-96483号(実開平2-17829号)の
マイクロフィルム
(特許異議申立人ローム株式会社が提出した甲第5号証の3)
刊行物12:特開平4-273418号公報
(特許異議申立人ローム株式会社が提出した甲第6号証)

ウ.理由3.特許法第29条の2の規定違反について
特許第3363369号の請求項1に係る発明は、特許異議申立書1(但し、「甲第6号証」は「先願1」と読み替える。)第6頁第16行〜第7頁第14行、第16頁第3行〜第17頁下から第1行、第22頁第6行第6行〜第23頁第4行記載の理由により、同発明の特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された上記先願1(特願平9-93744号(特開平10-284343号公報参照)、特許異議申立人雨山範子が提出した甲第6号証参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一の者ではなく、またこの出願の時において、その出願人と上記特許出願の出願人とが同一の者でもないので、同発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。

エ.理由4.特許法第36条第4項及び第6項の規定違反について
特許異議申立書2第17頁下から第5行〜第19頁第14行記載の理由により、特許第3363369号の請求項1に係る発明の特許は、その特許が特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)本件発明
特許第3363369号の請求項1に係る発明は、平成16年9月7日付けの上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】誘電体層と内部電極層とを交互に積層してなる磁器素体の両端面に、磁器素体側から金属成分とガラス成分を含有する第1導体層、金属成分と樹脂成分を含有する第2導体層、メッキ金属から成る第3導体層からなる外部電極を形成した積層セラミックコンデンサにおいて、
前記第1導体層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導体層は金属成分に対して分子量M(300<M≦1200)の熱硬化性エポキシ樹脂からなる樹脂成分が10〜40重量%含有するとともに、前記磁器素体と第1導体層との接合強度をF1、第1導体層と第2導体層との接合強度F2とした時、F1 ≧2.0kgf、F2 ≧1.0kgf、F1>F2を満足していることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。」(以下、「本件発明」という。)

(4)特許異議申立てについての検討
ア.特許法第29条第1項第3号第29条第2項の規定違反について
(ア)各刊行物の記載事項
a.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物1(特開平8-107039号公報、特許異議申立人雨山範子提出の甲第1号証、特許異議申立人ローム株式会社提出の甲第2号証)
刊行物1には、「セラミック電子部品」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「セラミック焼結体と、
前記セラミック焼結体の外表面に形成された外部電極とを備え、
前記外部電極が、焼結体外表面に導電ペーストを塗布・焼き付けることにより形成された第1の電極層と、
前記第1の電極層よりも外側に形成された第2の電極層と、
前記第1,2の電極層の間に形成されており、かつ厚みが20〜150μmである導電性樹脂層とを有することを特徴とする、セラミック電子部品。」(特許請求の範囲の請求項1)
「・・・。上記第1の電極層を構成する材料としては、・・・種々の導電ペーストを用いることができる。このような導電ペーストの例としては、Ag、Cu、Ag-Pd合金などの導電性に優れた材料粉末を主成分とするものが用いられる。導電ペーストは、上記のような導電性粉末にガラス,樹脂バインダ及び溶剤を混練することにより得られ、・・・」(段落【0012】)
「また、本発明における第2の電極層は、・・・従って、好ましくは、第2の電極層は、形成の容易なメッキ法により形成される。」(段落【0013】)
「本発明では、上記第1,第2の電極層の間に、上記導電性樹脂層が介在されている。導電性樹脂層は、エポキシ樹脂、・・・などの熱硬化性樹脂を含む適宜の合成樹脂中に、Ag、Cuなどの導電性粉末を分散させることにより構成されている。」(段落【0015】)
「・・・複数の内部電極23〜27が内部形成されている4.5×3.2×2.0mm寸法のセラミック焼結体22を用意した。Agを主成分とする導電ペーストを乾燥後の厚みが50μmとなるように塗布し、800℃の温度で焼成することにより破断強度50N/mm2 の第1の電極層28a,29aを形成した。・・・」(段落【0032】)
「次に、第4の電極層28d,29d上に、エポキシ樹脂にAg粉末を重量比で20対80の割合で混合してなる導電性樹脂を、下記の表1に示す厚みとなるように塗布し、150℃で1時間硬化させ、導電性樹脂層30,31を形成した。」(段落【0033】)
「・・・上記試料番号1〜7の各積層コンデンサにつき、プリント回路基板上に実装し、プリント回路基板から遠ざかる方向に外力を加え、積層コンデンサが外れるに至った際の外力を、取付け強度として測定した。結果を下記の表1に併せて示す。」(段落【0037】)

b.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物2(特開平4-329616号公報、特許異議申立人雨山範子提出の甲第2号証)
刊行物2には、「積層形電子部品」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「セラミック素体の内部に埋め込まれた少なくとも2層以上の内部電極層と、この内部電極層の端部が交互に露出するセラミック素体の端面に形成された外部電極と、この外部電極を被覆して形成された金属粉末と樹脂からなる導電層と、この導電層の表面にスズ及び鉛合金からなるはんだ付け可能な金属膜を備えたことを特徴とする積層形電子部品。」(特許請求の範囲の請求項1)
「・・・内部電極1の端面が露出している直方体の端面に銀粉末80部、ガラスフリット10部、エチルセルローズ樹脂5部、ターピネオール5部からなるペーストを浸漬法により塗布し、・・・次に市販の銀粉末80部を含むエポキシ系導電接着材を前記外部電極3層を被覆するように浸漬塗布し、200℃ 30分の加熱により硬化させ導電層4を形成した。・・・次に公知のめっき技術によって、スズ90%、鉛10%からなるはんだめっき液を用いて電気めっき法によって厚さ5μmのはんだ膜5を形成した。」(段落【0009】)

c.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物3(特開平7-66001号公報、特許異議申立人雨山範子提出の甲第3号証)
刊行物3は、「チップ型電子部品用導電性ペースト」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「金属粉末と無機酸化物結晶と不活性有機ビヒクルとを含む導電性ペーストであって、セラミック焼成体からなるベアチップの表面に塗布した後、焼付けで端子電極を形成するチップ型電子部品の端子電極用導電性ペーストにおいて、
前記無機酸化物結晶は、・・・とを含み、前記金属粉末に対して、該無機酸化物結晶が1〜15重量%配合されていることを特徴とするチップ型電子部品用導電性ペースト。」(特許請求の範囲の請求項1)
「・・・セラミックコンデンサ10は、ベアチップ11と、このチップ11の両端部に形成された端子電極(無機酸化物結晶を含むAg電極)12とを備える。チップ11は鉛ペロブスカイト系(Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 )であって、貴金属のAg70/Pd30からなる内部電極13を有し、長さ3.2mm、幅1.6mm、厚み0.85mmのサイズを有する。Ag下地端子電極12は焼付け電極層からなり、端子電極12の表面にはNiめっき膜14及びSn/Pbめっき膜15がこの順に形成されている。」(段落【0023】)

d.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物4(特開平8-298018号公報、特許異議申立人雨山範子提出の甲第4号証)
刊行物4は、積層磁器コンデンサの端子電極材料などに用いられる、磁器との接着強度を改善した導電性ペーストに関して、以下の事項が記載されている。
「・・・Ag粉末と・・・Pd粉末と2〜11重量%のガラスフリットとから成り、該ガラスフリットの組成成分が15〜40重量%のPbOと40〜70重量%のBi2 O3 と0〜15重量%(ただし0重量%を除く)のSiO2 と0〜20重量%(ただし0重量%を除く)のB2 O3 と5〜10重量%のIn2 O3 とから成ることを特徴とする導電性ペースト。」(特許請求の範囲の請求項1)
「ガラスフリットは誘電体磁器などのセラミック基体と端子電極との接着性および電極膜の半田耐熱性の向上のために用いるものであり、その組成割合は2〜11重量%の範囲が半田濡れ性や耐熱性などの半田特性ならびに接着強度の点で好ましい。ガラスフリットが2重量%未満の場合には接着強度が低下し、耐熱性が劣化する傾向があり、他方11重量%を超える場合には半田濡れ性が劣化する傾向がある。」(段落【0032】)

e.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物5(特開平9-55118号公報、特許異議申立人雨山範子提出の甲第5号証)
刊行物5は、セラミック積層コンデンサの外部電極、特に内部電極にFe、Co、Ni、Cu等の卑金属を用いたセラミック積層コンデンサの外部電極に用いられる導体ペーストに関して、以下の事項が記載されている。
「Ag、Au、Cu、Ni、PdおよびPtから選ばれる少なくとも1種以上の導電材とガラスフリットとをビヒクル中に分散した導体ペースト組成物であって、前記ガラスフリットが酸化物換算で、
SrO:40.0〜70.0重量%
B2O3:15.0〜30.0重量%
Al2O3:10.0〜20.0重量%
SiO2:3.0〜20.0重量%
MnO:0〜20.0重量%
からなることを特徴とする導体ペースト。」(特許請求の範囲の請求項1)
「前記導電材100重量部に対する前記ガラスフリットの含有量が0.5〜10.0重量部である請求項1〜3に記載の導体ペースト。」(特許請求の範囲の請求項4)

f.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物6(特開平6-29144号公報、特許異議申立人ローム株式会社提出の甲第1号証)
刊行物6には、積層チップインダクタ,積層チップコンデンサ等の各種セラミック電子部品に関し、より詳しくは外部電極の構造に関して、以下の事項が記載されている。
「セラミック素体の上に外部電極を有するセラミック電子部品において、前記外部電極が、セラミック素体の上に形成された銀又は銅とガラスとを主成分とする第一層と、この第一層の上に形成される金属粉末と硬化性樹脂とを主成分とする第二層とから構成されたことを特徴とするセラミック電子部品。」(特許請求の範囲の請求項1)
「前記第二層の上に半田又は錫から成る第三層を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載のセラミック電子部品。」(特許請求の範囲の請求項3)
「セラミック素体12を形成するチタン酸バリウム系のセラミック材料と、内部電極13を形成する・・・を用意し、これに外部電極14の第一層14aとして、銀粉末,ほう珪酸鉛系のガラスフリット及び有機ビヒクルから成る導電ペーストを塗布して、650℃で1時間焼き付け、次に第二層14bとして表面に銀めっきした銅粉末,エポキシ樹脂及び溶剤から成る導電ペーストを塗布し、・・・、表面に第三層14cとして半田層を設けて外部電極14が形成される。」(段落【0025】)

g.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物7(特開平6-267784号公報、特許異議申立人ローム株式会社提出の甲第3号証)
刊行物7には、導電性樹脂組成物、そして特に積層セラミックチップコンデンサ用の端子として有用なそのような組成物に関して、以下の事項が記載されている。
「本発明の導電性樹脂ペーストは、貴金属粉末と、エポキシ系樹脂と熱硬化性または熱可塑性を示す樹脂との少なくとも2種類の樹脂の混合物からなる樹脂バインダーと硬化剤とを有機媒体中に分散させてなる導電性樹脂組成物であって、貴金属粉末と熱硬化性樹脂成分とをほぼ100:5〜100:45の重量比で含有することを特徴とするものである。」(段落【0009】)
「・・・通常、コンデンサ素子の内部電極取り出し面に一回の塗膜を施して端子電極部を形成する場合は、導電フィラー100重量部に対して樹脂固形成分の全重量部が45以下、好ましくは35以下であることが必要である。そして5重量部以下になると接着性が劣化するなどの好ましくない問題を生じることがある。」(段落【0017】)
「また、本発明においては、本発明の導電性樹脂ペーストを用いて積層セラミックチップコンデンサ素子の相対向する内部電極取り出し面に端子電極部を一層塗膜形成するほかに、複数の塗膜から成る層構造を有した端子電極部を形成することも考えられる。多層構造を有した端子電極部を形成する場合、導電性フィラー成分と樹脂固形成分との配合比を変化させ、チップコンデンサ素子の内部電極取り出し面に直接接合する層(電極接合層)にあっては、コンデンサ素子の内部電極との良好な電気的接続を確保し、・・・の特性劣化を防ぎ、一方多層構造の最外層であって、回路基板にはんだ付けされる層(はんだ付け層)にあっては接着強度の向上、弾性率の低下を実現するものである。すなわち、電極接合層の塗膜にあっては、樹脂固形成分のペースト中への含有量を・・・、逆にはんだ付け層を塗膜形成するためのペースト中には、・・・の範囲であることが好適である。」(段落【0023】)

h.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物8(特開平8-203771号公報、特許異議申立人ローム株式会社提出の甲第4号証)
刊行物8には、積層コンデンサなどのようなセラミック電子部品に関し、特に、外部電極構造が改良されたセラミック電子部品に関して、以下の事項が記載されている。
「セラミック焼結体と、
前記セラミック焼結体内に形成された内部電極と、
前記セラミック焼結体の外表面に形成された外部電極とを備え、
前記外部電極は、焼結体外表面に導電ペーストを塗布・焼き付けることにより形成された第1の電極層と、
前記第1の電極層の外側に形成され、・・・導電性樹脂層、または・・・低強度合金層のいずれか一方からなる第2の電極層と、
前記第2の電極層の外側に形成されたNiメッキ層からなる第3の電極層と、
前記第3の電極層の表面に形成された第4の電極層とを有しており、
前記第3の電極層のNiメッキ層は、5μm以上の厚みに形成されていることを特徴とする、セラミック電子部品。」(特許請求の範囲の請求項1)
「外部電極は、・・・1の電極層を有する。第1の電極層を構成する材料としては、従来よりセラミック電子部品の外部電極の形成時に汎用されている種々の導電ペーストを用いることができる。例えば、Ag、Cu、Ag-Pd合金などの導電性に優れた材料粉末を主成分とする導電ペーストが用いられる。導電ペーストは、上記のような導電性粉末にガラス、樹脂バインダと溶剤を混練することにより得られる。そして、この第1の電極層は、上記の導電ペーストをセラミック焼結体の外表面に塗布し、焼き付けることにより形成されている。」(段落【0014】)
「さらに、第1の電極層の外側に形成された第2の電極層を備える。第2の電極層は、導電性樹脂層または低強度合金層のいずれか一方から構成される。・・・」(段落【0015】)
「さらに、第2の電極層の外側に第3の電極層を有する。第3の電極層は、Niメッキ層から構成される。Niメッキ層は、その膜厚が5μm以上に形成されていることを特徴とする。」(段落【0016】)
「また、セラミック焼結体2の端面2a,2bには、外部電極8,9が形成されている。外部電極8,9は4層の電極の積層構造を有している。
まず、第1の電極層8a,9aは、Ag、Ag-Pd、Cuなどの金属粉末を主成分とする導電ペーストを塗布し、焼き付けることにより形成されている。そして、この第1の電極層8a,9aは、10〜100μm程度の厚みを有し、かつ焼結体2の端面2a,2bに強固に密着されている。」(段落【0022】)
「第1の電極層8a,9aの表面上には導電性樹脂層10,11が形成されている。導電性樹脂層10,11は、例えばエポキシ系導電性樹脂を塗布した後、硬化処理を施すことにより形成されている。・・・」(段落【0023】)

i.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物9(特開平9-120932号公報、特許異議申立人ローム株式会社提出の甲第5号証の1)
刊行物9には、「積層電子部品」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「内部電極と、・・・含む誘電体材料とを交互に積層してなり、前記内部電極と接続する外部電極を有する積層電子部品において、該外部電極は、前記内部電極と電気的に接続する焼き付け層と、メッキ層と、焼き付け層とメッキ層との間に配置された熱硬化性樹脂に金属粉末を含有した金属粉末含有樹脂層とを有し、該金属粉末含有樹脂層の厚みが5〜200μmであることを特徴とする積層電子部品。」(特許請求の範囲の請求項1)
「前記金属粉末含有樹脂層の熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、・・・の少なくとも1種であり、金属粉末は、Ag、・・・の少なくとも1種である請求項1〜3に記載の積層電子部品。」(特許請求の範囲の請求項4)
「・・・さらに、Ag、ガラスフリット及び樹脂バインダーを混合した導電ペーストを塗布、700℃で焼き付けを行い焼付け層を形成し、その後Agの含有量が80wt%のAg-エポキシ樹脂系導電ペーストを熱硬化後に表1の樹脂層厚みとなるように塗布、・・・金属粉末含有樹脂層を形成した。この後、電気メッキにてNiメッキ層、さらにSn/Pbメッキ層を形成した。」(段落【0027】)

j.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物10(特開平5-144665号公報、特許異議申立人ローム株式会社提出の甲第5号証の2)
刊行物10には、積層セラミックコンデンサに係り、特にその外部電極層の構造に関して、以下の事項が記載されている。
「誘電体層と内部電極層とが交互に積層されて一体化され、これらの少なくとも側面に外部電極層が形成されてなる積層セラミックコンデンサにおいて、
上記外部電極層は、上記内部電極層に接続され焼結により形成された電極層と、この電極層上に形成された柔軟性を有する導電性接着樹脂層と、この導電性接着樹脂層上に形成されたニッケルめっき層と,・・・半田めっき層とからなることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。」(特許請求の範囲の請求項1)
「・・・電極層8は、Agを主材として電極材とガラスフリットとを含んだ電極ペーストを塗布して、乾燥焼き付けして形成したものである。又、導電性接着樹脂層9は、例えばシリコーン系導電性樹脂などを塗布し硬化させたものである。・・・」(段落【0011】)

k.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物11(実願昭63-96483号(実開平2-17829号)のマイクロフィルム、特許異議申立人ローム株式会社提出の甲第5号証の3)
刊行物11には、「チップ状セラミック電子部品」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「セラミック素体11の表面に、複数層の導体層14a、14b…からなる半田付け用の電極14、15が形成されたチップ状セラミック電子部品に於いて、前記半田付け用の電極14を構成する最下の導体層14aと、これより表層側にある導体層との間に、熱硬化性樹脂に導体材料を分散した硬化型導体層14cを介在させたことを特徴とするチップ状セラミック電子部品。」(実用新案登録請求の範囲)
「次ぎに、この上にフェノール樹脂やメラミン樹脂等の熱硬化性型樹脂に導体を分散させた市販の熱硬化型導電ペーストを塗布し、・・・この硬化型導体層14cの上にNiメッキを施し、Ni層14bを形成・・・」(第6頁第17行〜第7頁第3行)

l.当審が通知した第2回取消理由で引用した刊行物12:特開平4-273418号公報(特許異議申立人ローム株式会社提出の甲第6号証)
刊行物12には、下地外部電極が金属粉末とガラスフリットを含むペーストを焼付けた電極層からなり、この焼付け電極層の表面にめっき層を有する積層セラミックコンデンサに関し、更に詳しくは焼付け電極層が2層からなる積層セラミックコンデンサに関して、以下の事項が記載されている。
「内部電極(13)を有する・・・セラミック誘電体(11)と、金属粉末とガラスフリットを含むペーストを前記誘電体(11)の両端部に焼付けることにより前記内部電極(13)と電気的に接続された下地外部電極(12)と、前記下地外部電極(12)の表面に形成されためっき層(14,15)とを備えた積層セラミックコンデンサ(10)において、前記下地外部電極(12)が前記誘電体(11)に接する内層(12a)と前記内層の表面に積層された外層(12b)との2層の焼付け電極層からなり、前記内層(12a)は金属成分に対して5〜20重量%のガラスフリットを含む内層用ペーストを焼付けて形成され、前記外層(12b)は金属成分に対して前記内層用ペーストより少ない1〜5重量%のガラスフリットを含む外層用ペーストを焼付けて形成されたことを特徴とする積層セラミックコンデンサ。」(特許請求の範囲の請求項1)

(イ)対比・判断
本件発明と刊行物1ないし12に記載された発明とを対比すると、刊行物1ないし12には、本件発明の発明特定事項である「誘電体層と内部電極層とを交互に積層してなる磁器素体の両端面に、磁器素体側から金属成分とガラス成分を含有する第1導体層、金属成分と樹脂成分を含有する第2導体層、メッキ金属から成る第3導体層からなる外部電極を形成した積層セラミックコンデンサ」であって、「前記第1導体層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導体層は金属成分に対して分子量M(300<M≦1200)の熱硬化性エポキシ樹脂からなる樹脂成分が10〜40重量%含有する」点について記載も示唆もされていない。
そして、本件発明は、上記の点を備えることにより、以下の明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
「上述の磁器素体の端面と外部電極の第1導体層との第1の接合界面の接合強度F1 は、第1導体層を形成する際に用いる導電性ペーストのガラス成分の組成によって制御が可能である。また、前記第1導体層と第2導体層との第2の接合界面の接合強度F2 は、第2導体層を形成する導電性樹脂ペーストの例えばエポキシ系熱硬化性樹脂の重量比率によって制御することができる。」(明細書の段落【0015】)
「・・・金属粉末に対するガラスフリットの重量比を5〜20重量%とすることが重要である。このガラスフリットの添加量によって、磁器素体と第1導体層11との接合強度F1 を制御できるためである。上述の量比でガラスフリットを添加することにより、磁器素体の端面の面積が小さい例えば、1608型(端面の面積:0.8×0.8mm)であっても、接合強度F1 を2kgf以上にすることができ、外部電極5、5の引っ張り強度が使用上問題のないレベルである1kg以上とすることができる。」(明細書の段落【0038】)
「比較的低い分子量のエポキシ系樹脂を上述の範囲で用いることにより、磁器素体の端面の面積が小さい1608型(端面の面積:0.8×0.8mm)であっても、外部電極の引っ張り強度を使用上問題ないレベルである1kgf以上が達成できる。しかも、この導電性樹脂ペーストによって形成した第2導体層12と第1導体層11との接合強度F2 を、磁器素体1と第1導体層11との接合強度F1 未満に容易に制御することができる。」(明細書の段落【0046】)
「尚、上記熱硬化性エポキシ樹脂の分子量が非常に低い場合、例えば300以下では過剰な反応性となってしまい、接合強度F2 を接合強度F1 未満にすることが困難となる。また、分子量が高い場合、例えば1200を超えると、接合強度F2 自身が得られなくなる。」(明細書の段落【0047】)
したがって、本件発明は、刊行物1又は刊行物2に記載された発明でないばかりか、刊行物1ないし12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ.特許法第29条の2の規定違反について
特願平9-93744号(特開平10-284343号公報参照、特許異議申立人雨山範子提出の甲第6号証)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書又は図面」という。)には、セラミック製の表面実装型電子部品に関して、以下の事項が記載されている。
「図示の積層セラミックコンデンサ10は、表面実装型のチップコンデンサであり、内部電極1を有する鉛系ペロブスカイトのセラミック誘電体2を複数回積層して得られたグリーンチップを焼成して得られるチップ状素体3の両端面に、内部電極1と電気的に接続された第1電極層としての焼結型電極層4a及び第2電極層としての導電性樹脂電極層4bからなる2層構造の外部電極4を形成したものである。」(段落【0018】)
「この積層セラミックコンデンサ10は、外部電極4の表面に更にNiメッキ皮膜5及びSn又はSn/Pd半田メッキ皮膜6を形成して使用される。」(段落【0031】)
「・・・外部電極の形成に用いた導電性ペーストI〜IIIの配合は次の通りである。」(段落【0034】)
「導電性ペーストI配合
Ag粉末:74重量%
・・・
ガラスフリット(SiO2:25重量%・・・):Ag粉末に対して8重量%
導電性ペーストII配合
・・・
導電性ペーストIII 配合
Ag粉末:56.8重量%
エポキシ系樹脂:8重量%
・・・」(段落【0035】)
しかしながら、上記先願明細書又は図面には、磁器素体と第1導体層との接合強度をF1、第1導体層と第2導体層との接合強度F2とした時、F1 ≧2.0kgf、F2 ≧1.0kgf、F1>F2を満足していること、及び、第2導体層は、金属成分に対して分子量M(300<M≦1200)の熱硬化性エポキシ樹脂からなる樹脂成分が10〜40重量%含有することについて、記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明が上記先願明細書又は図面に記載された発明と同一であるとは認められないので、本件発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものではない。

ウ.特許法第36条第4項及び第6項の規定違反について
(ア)特許異議申立人ローム株式会社主張の申立ての理由2-aについて
「接合強度」の測定方法に関しては、本件特許明細書段落【0062】において、「磁器素体と第1導体層との接合強度を測定可能とするために、ニッケル及びスズメッキを施して、リード線を端面中央に垂直に半田接合し、ロードセル試験器で引っ張り強度試験を行った。」と明確に記載されており、当該引っ張り強度試験は、「JIS C 0051」に記載の方法に該当するものと認められ、そのことは当業者であれば当然に理解できる事項であるものと認められる。
したがって、該特許明細書の記載が、特許法第36条第4項及び第6項の規定を満たしていないということはできない。

(イ)特許異議申立人ローム株式会社主張の申立ての理由2-b及び2-cについて
本件発明において、接合強度F1、F2は、各層間における剥離性の大小を示すパラメータとして規定されるものであり、当該数値は、磁気素体の端面における面積(大きさ)に関係なく設定されたものであり、しかも、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、同発明を、3タイプのサイズ積層セラミックコンデンサに適用した場合の例が開示されており、当該明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確にかつ十分に記載したものであるといえる。
また、本件発明の積層セラミックチップコンデンサは、磁気素体の端面と外部電極の第1導体層との第1の接合界面の接合強度F1 は、第1導体層を形成する際に用いる導電性ペーストのガラス成分の組成によって制御が可能である。また、第1導体層と第2導体層との第2の接合界面の接合強度F2 は、第2導体層を形成する導電性樹脂ペーストの例えばエポキシ系熱硬化性樹脂の重量比率によって制御することができる等の明細書記載の作用効果を奏するものと認められる。
したがって、面積(大きさ)の点を発明特定事項としていないことをもって、本件特許明細書の記載が、特許法第36条第4項及び第6項の規定を満たしていないということはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人雨山範子による特許異議申立ての理由及び証拠、又は特許異議申立人ローム株式会社による特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
積層セラミックコンデンサ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】誘電体層と内部電極層とを交互に積層してなる磁器素体の両端面に、磁器素体側から金属成分とガラス成分を含有する第1導体層、金属成分と樹脂成分を含有する第2導体層、メッキ金属から成る第3導体層からなる外部電極を形成した積層セラミックコンデンサにおいて、
前記第1導体層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導体層は、金属成分に対して分子量M(300<M≦1200)の熱硬化性エポキシ樹脂からなる樹脂成分が10〜40重量%含有するとともに、前記磁器素体と第1導体層との接合強度をF1、第1導体層と第2導体層との接合強度F2とした時、F1≧2.0kgf、F2≧1.0kgf、F1>F2を満足していることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、コンデンサ磁器素体の端部に、焼き付け導体である第1導体層、導電性樹脂の硬化による第2導体層、メッキ処理により形成した第3導体層を有する外部電極を形成した積層セラミックコンデンサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の積層セラミックコンデンサは、例えばチタン酸バリウムなどの誘電体セラミック材料からなる誘電体層と、銀または銀-パラジウム合金などの貴金属材料あるいはニッケルや銅などの卑金属材料からなる内部電極層とが互いに積層された直方体形状の磁器素体の対向する端部、即ち、端面及びその外周面に外部電極が形成されて構成されていた。磁器素体に配置された積層方向に互いに隣接しあう内部電極層は、磁器素体の異なる端面に導出されており、この導出部分で外部電極と接続していた。
【0003】磁器素体の両端部に形成した外部電極は、例えば、磁器素体側からAg、Ag-Pd合金、Cu、Niからなる導電ペーストの焼き付けによって形成された厚膜導体層、該厚膜導体層の表面を被覆し、半田食われが生じ難い材料からなるニッケルメッキ層、該ニッケルメッキ層8の表面を被覆するにスズ(Sn)または半田(Sn-Pb合金)からなる電極層から構成されていた(厚膜導体-メッキ型外部電極という)。
【0004】また、別の構造の外部電極として、例えば、特公昭58-40161号公報に示すように、磁器素体の端部に、Ag、Ag-Pd合金からなる導電ペーストの焼き付けによって厚膜下地導体膜を形成し、該厚膜下地導体膜上に、Ag粉末を含有するレジン系の導電性樹脂ペーストの硬化によって第2導体層を被着していた(厚膜導体-樹脂硬化型外部電極という)。これにより、磁器素体と厚膜下地導体膜との密着強度を高め、部品の交換可能回数を向上させていた。
【0005】さらに、別の構造の外部電極として、例えば、特開平4-257211号公報に示すように、磁器素体の端部に厚膜下地導体膜を形成し、この厚膜下地導体膜上にAg粉末を含有するエポキシ/フェノール系の熱硬化性樹脂ペーストの硬化して緩衝材層を被着し、さらに緩衝材層にメッキ層を被着していた(厚膜導体膜-樹脂-メッキ型外部電極という)。
【0006】これのような構造により、特に、緩衝材層で機械的および熱的なストレスを吸収していた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、厚膜導体-メッキ型外部電極を有する積層セラミックコンデンサでは、厚膜導体膜が外部電極の主体となる導体となり、充分な厚みを有していた。このため、厚膜導体膜と磁器素体との間に、特に磁器素体の端部の外周部分に、厚膜導体膜の焼き付け時に金属粉末の焼結収縮、誘電体セラミック層へのガラス成分の拡散によってストレスが生じてしまう。このような積層セラミックコンデンサをプリント配線基板上に半田を用いて接合し、温度サイクル試験や熱衝撃試験のような急激な熱変化する厳しい環境にさらすと、外部電極、半田、プリント配線基板の各々の熱膨張係数差による応力の吸収が不十分となり、上述のストレスの残存する磁器素体にクラックが発生してしまうという問題点があった。
【0008】その結果、積層セラミックコンデンサとして全く機能しなくなってしまう。
【0009】また、厚膜導体-樹脂硬化型外部電極や厚膜導体膜-樹脂-メッキ型外部電極を有する積層セラミックコンデンサでは、外部電極に対し、磁器素体側から外側に働く応力が加わると、導電性樹脂層に部分的な剥離が生じやすくなる。このような導電性樹脂層に剥離が発生した積層セラミックコンデンサをプリント配線基板に半田接合性すると固着力の低下により、積層セラミックコンデンサ自体がプリント配線基板から脱落してしまう。
【0010】また、許容量以上の急激な熱応力や外部応力が外部電極にかかると、外部電極内に破壊が発生し、磁器素体にクラックが入ることもある。これは、磁器素体と厚膜下地導体層との接合強度、厚膜下地導体層と導電性樹脂層との接合強度のバラランスが不良であると考えられる。
【0011】本発明は、上述の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は過激な温度環境の変化によって応力が生じても、外部電極内の欠陥が乗じにくい高信頼性の積層セラミックコンデンサを提供することにある。さらに、磁器素体にクラックが発生しない高信頼性の積層セラミックコンデンサを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、誘電体層と内部電極層とを交互に積層してなる磁器素体の両端面に、磁器素体側から金属成分とガラス成分を含有する第1導体層、金属成分と樹脂成分を含有する第2導体層、メッキ金属から成る第3導体層からなる外部電極を形成した積層セラミックコンデンサにおいて、前記第1導体層は、金属成分に対してガラス成分が5〜20重量%含有し、第2導体層は金属成分に対して分子量M(300<M≦1200)の熱硬化性エポキシ樹脂からなる樹脂成分が10〜40重量%含有するとともに、前記磁器素体と第1導体層との接合強度をF1、第1導体層と第2導体層との接合強度F2とした時、F1≧2.0kgf、F2≧1.0kgf、F1>F2を満足している。
【0013】また、前記磁器素体の両端面に形成した第1導体層、第2導体層、第3導体層からなる外部電極の一部が、磁器素体の下面に延在しており、且つ前記第2導体層の延在長さが、第1導体層の延在長さよりも0.05mm以上長くすることが望ましい。
【0014】
【作用】本発明では、磁器素体の端面と外部電極の第1導体層との第1の接合界面の接合強度F1と前記第1導体層と第2導体層との第2の接合界面の接合強度F2との関係を特定したものである。
【0015】上述の磁器素体の端面と外部電極の第1導体層との第1の接合界面の接合強度F1は、第1導体層を形成する際に用いる導電性ペーストのガラス成分の組成によって制御が可能である。また、前記第1導体層と第2導体層との第2の接合界面の接合強度F2は、第2導体層を形成する導電性樹脂ペーストの例えばエポキシ系熱硬化性樹脂の重量比率によって制御することができる。
【0016】たとえば磁器素体の長手方向に外部電極を引っ張った時、1608型(サイズ:長さ×幅×厚み=1.6×0.8×0.8mm)では磁器素体と第1導体層との第1の接合界面の接着の接合強度F1が2.0kgf以上、第1導体層と第2導体層との第2の接合界面の接着の接合強度F2が1.5〜2.0kgfとなるようにする。また、2012型(サイズ:2.0×1.25×0.6〜1.25mm)では接合強度F1が2.5kgf以上、接合強度F2が1.5〜2.5kgfとなるようにする。3216型(サイズ:3.2×1.6×0.6〜1.6mm)では接合強度F1が3.0kgf以上、接合強度F2が1.5〜3.0kgfとなるようにする。
【0017】このような接合強度F1、F2との組み合わせた2層の導体層上に、Niメッキ層とSnメッキ層が被着された外部電極は、その引っ張り固着強度が、第1導体層と第2導体層間の接合強度F2で律速されることになる。この場合、接合強度F2は、実用的な要求接合強度である1kgf以上であるため、プリント配線基板に積層セラミックコンデンサを半田接合しても、十分な接合強度が達成される。
【0018】また、許容以上の外力により破壊される時には、まず第1導体層と第2導体層間の剥離が発生するので、磁器素体と第1導体層との接合界面には悪影響なく、従来のような素体磁器にクラックなどの破壊が発生することがない。
【0019】また、磁器素体の端部の外周部において、第2導体層は第1導体層を完全被覆して、さらに、第1導体層の先端から0.05mm以上延在して磁器素体の少なくとも下面と直接被着することになる。
【0020】これにより、外部電極に外部から過度の応力が加わった時に、外部電極と磁器素体との際に集中した応力を、第2導体層で吸収させることができるため、磁器素体の端部の外周で発生するクラックなどの破損を有効に防止できる。
【0021】特に、第2導体層が第1導体層の先端から0.05mm以上延在していると、その効果は高く、逆に、0.05mm未満では、従来の厚膜導体-メッキ型のように磁器素体の端部の外周で発生するクラックなどの破損が顕著となる。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の積層セラミックコンデンサを図面に基づいて詳説する。
【0023】図1は本発明の積層セラミックコンデンサの外観斜視図であり、図2は縦断面を示す構造である。
【0024】図において、積層セラミックコンデンサ10は、チタン酸バリウムなどの誘電体磁器材料となる誘電体層2と内部電極3、4とが交互に積層されて磁器素体1と、該磁器素体1の両端部に形成された外部電極5、5とから構成されている。
【0025】内部電極3、4は、PdまたはAg-Pd合金などの貴金属材料あるいはニッケル(Ni)などの卑金属材料からなり、内部電極3の一方端部は磁器素体1の一方の端面に延出し、一方の外部電極5に接続されている。また、内部電極4の他方端部は磁器素体1の他方の端面に延出し、他方の外部電極5に接続されている。
【0026】外部電極5、5は、磁器素体の両端部、即ち、端面及びその周囲の外周面に形成されており、磁器素体側から、AgまたはAg合金などからなる導電ペーストの焼き付けにより形成された第1導体層11、前記第1導体層表面にAg粉末をエポキシ系熱硬化性樹脂に混合した導電性樹脂の硬化により形成された第2導体層12、第2導体層12の表面に半田食われが発生しにくい材料のニッケルなどのメッキ形成した第3導体層13を被着する。尚、必要応じて、第3導体層13上にスズ(Sn)または半田(Sn-Pb合金)などの材料からなるスズまたは半田のメッキ層を形成する。
【0027】ここで、第2導体層12は、第1導体層11を完全に覆うように形成されており、その結果、磁器素体1の端面部分は勿論のこと、端面の周囲の外周部、即ち磁器素体の上面、下面及び両側面部分の端部に延在して被着されている。しかも、第2導体層12の延在部12aの長さは、第1導体層11の延在部11aの長さよりも、0.05mm以上長くなっている。この延在長さの差を延在変位量としてΔxと記載する。
【0028】次に、上述の構造の積層セラミックコンデンサの製造方法を説明する。
【0029】まず、誘電体層2となり、複数の素子が抽出できる形状のセラミックグリーンシートを周知のテープ成型により形成する。次に、各素子領域に内部電極3または4となる導体膜を金属粉末のペーストを用いて印刷・乾燥により形成する。この導体膜はセラミックグリーンシート上に多数の長方形が規則的に並ぶように配列されることになる。
【0030】次にこのように印刷されたセラミックグリーンシートを磁器素体の積層数に応じた枚数を積層し、熱圧着を行い、各素子ごとに所定形状に寸法に切断して積層チップ体を形成する。この時、積層チップ体の一対の端面から内部電極3、4となる導体膜が露出するようにする。
【0031】次に裁断した積層チップ体を所定の雰囲気、温度で焼成して、磁器素体1を形成する。
【0032】次に、磁器素体1の両端部に外部電極5、5を形成する。まず、外部電極5、5の第1導体層11は、磁器素体1の両端部を、AgまたはAg合金、Cuなどの卑金属などからなる導電ペーストに浸漬し、乾燥して塗布膜を形成した後、この塗布膜を所定の雰囲気および温度で焼き付けることにより形成する。焼成された第1導体層11の厚みは、例えば20〜30μmである。具体的には、1608型が20μm、2012型が30μm、3216型が30μmである。ここで、第1導体層11は浸漬により形成されるため、端面から浸漬した量に相当して磁器素体1の端面のみならず、端面の周囲の外周部にも第1導体膜が形成されることになる。
【0033】その後、第1導体層11の表面に導電性エポキシ系熱硬化性樹脂からなる第2導体層12を形成する。具体的には、AgまたはAg合金などからなる金属粉末にエポキシ系熱硬化性樹脂に混合された導電性樹脂ペーストに、第1導体層11が被着形成された磁器素体1の端部を浸漬し、乾燥してのち、塗布膜を約150〜250℃で硬化させて形成する。硬化された第2導体層12の厚みは、例えば25〜70μmである。具体的には、1608型が25μm、2012型が60μm、3216型が70μmである。ここで、第2導体層12を浸漬により形成すれば、磁器素体1の端面から浸漬した量に相当して磁器素体1の端面周囲の外周部にも第2導体膜12を形成することができる。即ち、端面外周部において、第1導体層11の先端部から延在変位量Δxとして0.05mm以上延在されて第2導体層を形成することから、第2導体層を樹脂ペーストの浸漬形成するにあたり、浸漬量を、第1導体層を形成するために導電性ペーストに浸漬した浸漬量に比較して、さらに、0.05mm以上深く浸漬させればよい。
【0034】尚、第2導体層12は、上述のように、樹脂ペーストの浸漬、乾燥、硬化で形成するだけでなく、例えば、樹脂ペーストの所定位置への印刷、乾燥、硬化で形成しても構わない。
【0035】次に、第2導体層12上に、外部電極5,5の半田食われを防止するために、例えば、ニッケルメッキなどの第3導体層を形成する。さらに、外部電極5、5に半田付着を容易にするために、例えばスズ(Sn)または半田(Sn-Pb合金)などの材料からなるスズまたは半田のメッキ層を形成する。このようなメッキは電解メッキなどで形成できる。
【0036】これにより、図1に示す積層セラミックコンデンサが完成する。
【0037】尚、外部電極4、5の形成にあたり、上述のように積層素体1の両端部を、導電性ペーストや導電性樹脂ペーストに浸漬するために、積層素体1の端部の外周部に第1導体層11、第2導体層12が夫々延在するが、例えば、プリント配線基板への半田接合を考慮して、磁器素体1の端部の下面側のみに外部電極4、5の延在部分を形成しても構わない。
【0038】上述の第1導体層11を形成するために用いる導電性ペーストは、AgやAg合金などの金属粉末、低融点ガラスフリット、分散材、バインダー、溶剤との混合組成物、またはこれにアルミナやシリカなどのセラミック粉体を入れた混合組成物で構成される。金属粉末に対するガラスフリットの重量比を5〜20重量%とすることが重要である。このガラスフリットの添加量によって、磁器素体と第1導体層11との接合強度F1を制御できるためである。上述の量比でガラスフリットを添加することにより、磁器素体の端面の面積が小さい例えば、1608型(端面の面積:0.8×0.8mm)であっても、接合強度F1を2kgf以上にすることができ、外部電極5、5の引っ張り強度が使用上問題のないレベルである1kg以上とすることができる。
【0039】上述のガラスフリットの比率が5重量%未満であると、磁器素体1と第1導体層11の強度F1は低下してしまい、接合強度F1を1kgf以上とできても、第1導体層11と第2導体層12との接合強度F2よりも大きくすることが困難となる。
【0040】上述のガラスフリットの比率が20重量%を越えると磁器素体1と第1導体層11の強度F1は増加するものの、逆に第1導体層11の表面にガラス成分が析出されてしまい、第2導体層12との電気的導通の劣化や接合強度を劣化させることになる。
【0041】上記金属粉末は、Ag、Pd、Cu、Ni、及びそれらの合金が用いられ、ガラスフリットは、Zn、Pb、Biなどのホウケイ酸塩などの混合物が用いられ、バインダーには炭化水素系、アクリル系、アルキド系、アミノ系のポリエステルやロジン誘導体などが用いられ、溶剤は炭化水素系、アルコール系、エーテル系、ケトン系、脂肪族系などが用いられる。
【0042】第2導体層12を形成する導電性樹脂ペーストは、金属粉末と熱硬化性エポキシ系樹脂と硬化剤との混合組成物に有機媒体を入れた混合組成物によって形成される。
【0043】熱硬化性エポキシ系樹脂の分子量あるいは金属粉末と熱硬化性エポキシ系樹脂重量比で第1導体層に対する接合強度を制御することができる。
【0044】熱硬化性エポキシ系樹脂の分子量は、比較的低いことが望ましく、例えば、千数百以下が望ましい。
【0045】また、金属粉末に対する熱硬化性樹脂組成分の重量比が10〜40重量%の程度が望ましい。
【0046】比較的低い分子量のエポキシ系樹脂を上述の範囲で用いることにより、磁器素体の端面の面積が小さい1608型(端面の面積:0.8×0.8mm)であっても、外部電極の引っ張り強度を使用上問題ないレベルである1kgf以上が達成できる。しかも、この導電性樹脂ペーストによって形成した第2導体層12と第1導体層11との接合強度F2を、磁器素体1と第1導体層11との接合強度F1未満に容易に制御することができる。
【0047】尚、上記熱硬化性エポキシ樹脂の分子量が非常に低い場合、例えば300以下では過剰な反応性となってしまい、接合強度F2を接合強度F1未満にすることが困難となる。また、分子量が高い場合、例えば1200を超えると、接合強度F2自身が得られなくなる。
【0048】また、エポキシ樹脂と金属粉末との重量比率において、樹脂比率が多いほど固着強度が増加する。そして、エポキシ樹脂の金属粉末に対する比率が40重量%を越えるでは、硬化した第2導体層12の表面に樹脂が偏在してしまい、第3導体層13であるメッキ層の被覆が不可能となってしまう。
【0049】また、エポキシ樹脂の比率が10重量%未満では、第1導体層11と第2導体層12との接合強度F2を1.0kgf以上とすることが困難となる。
【0050】上記金属粉末は金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ニッケル、銅を単独でまた、それらの合金などからなる。
【0051】また、エポキシ系樹脂は分子中に2個またはそれ以上のエポキシ基を有する化合物からなり、硬化剤または触媒の作用で硬化する。そして、このエポキシ系樹脂はビスフェノールA型エポキシ系樹脂、ビスフェノールF型エポキシ系樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ系樹脂の液状エポキシ樹脂より選択する。
【0052】硬化剤にはポリアミト硬化剤、脂肪族ポリアミン硬化剤、環状脂肪族ポリアミン硬化剤、芳香族ポリアミン硬化剤、ジシアンジアミド等を使用する。上記有機媒体として、各種の脂肪族アルコールとそのエステル、カルビトール系溶媒、ケトン系溶媒、または炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0053】第2導体層12は、上述したように、導電性樹脂ペーストをスクリーン印刷、浸漬などによって塗布膜を形成し、80〜140℃の温度にて仮乾燥させ、その後、導電性樹脂ペースト中の溶媒成分を完全に除去するために60〜120℃の温度雰囲気で15〜90分間脱溶剤を行い、しかる後に、150〜250℃の温度にて30〜120分間加熱することで、硬化されて形成される。
【0054】以上のように、本発明のの積層セラミックコンデンサによれば、磁器素体2と第1導体層11との接続強度F1及び第1導体層11と第2導体層12との接続強度F2との関係を、上述のようにして制御して、各々の接続1.0kgf以上として、且つ両接合強度F1及びF2の関係が、F1>F2となるように設定した。
【0055】これにより、外部電極5、5を剥離しようとする通常の外部からの応力がかかっても、磁器素体1と第1導体層11との接合界面及び第1導体層11と第2導体層12との接合界面で剥離発生がない。しかも、急激な熱変化や過度の外力による衝撃を受けても、第2導体層12である導電性を有するエポキシ系熱硬化性樹脂層でその急激な衝撃を吸収するために、磁器素体1にクラックや破損を発生させることがない。
【0056】仮に、許容衝撃を超える外力などが印加されたときには、磁器素体1の誘電体磁器層2にクラックが発生せず、接合強度F1とF2との差により、外部電極5、5の第1導体層11と第2導体層12との界面で剥離が発生するだけであり、コンデンサ磁器素体にクラックが入るという最も致命的な内部電極3、4間の電気的短絡故障を回避することができる。
【0057】また、本願発明は同時に、磁器素体1の両端部の外周部、即ち、磁器素体1の両端部の両主面及び両側面に、第2導体層12が、第1導体層11の端縁よりも中央部寄りに延在変位量Δxとして0.05mm以上延在して被覆している。尚、第1導体層の延在部を符号11aで、第2導体層12の延在部を符号12aで示す。
【0058】従って、上述したように、外部電極5、5に外部から衝撃等の応力が加わっても、第1導体層11にその応力が加わる前に、第2導体層12全体で吸収している。この第1及び第2導体層11、12の延在部11a、12aにおいても、同様に、第1導体層11の延在部11aから磁器素体1の表面にかかる応力を、第1導体層11の延在部11aに印加される前に、第2導体層12の延在部12aで吸収することになる。
【0059】従って、第1及び第2導体層11、12の延在部11a及び12aと磁器素体1との接合部分で磁器中にクラックの発生を有効に抑えられることになる。
【0060】これに対して、第2導体層12の延在部12aが、第1導体層11の延在部11aよりも中央寄りに延出していない場合や、仮に延出していても、0.05mm未満であると、第1導体層11の延在部11aと磁器素体1との接合界面部分で応力集中してしまい、その結果、磁器にクラックなどが発生してしまう。
【0061】
【実施例】(例1)本発明の2012型(2.0×1.25×0.85mm)の積層セラミックコンデンサの磁器素体1を用いて、磁器素体1の対向する端部に厚み30μmの第1導体層11を形成した。第1導体層11を形成する導電性ペーストは、Agを主成分とし、ガラスフリットにホウケイ酸亜鉛系のものとホウケイ酸鉛系の2種類用い、Ag粉末に対してガラスフリットの添加量を重量にして5〜20%の範囲で変化させた。尚、あらかじめ、異質な塗布形状とならないようにペースト粘度を溶剤量で調整した。また、焼き付け時の電極割れが起こらないように銀粉末を微粉タイプとフレーク状の粗粒タイプとの混合比率を変えて調整した。
【0062】そして、第1導体層11のみを形成した後、磁器素体と第1導体層との接合強度を測定可能とするために、ニッケル及びスズメッキを施して、リード線を端面中央に垂直に半田接合し、ロードセル試験器で、引っ張り強度試験を行った。その際に50個の試料について調べた。
【0063】その結果、磁器素体1と第1導体層11との間の接合強度F1は、図3の特性図に示す結果となった。尚、縦軸は強度、横軸は金属成分を100とした時のガラス重量比率である。
【0064】Agに対してガラスフリットの添加量を多くするにつれて固着強度が向上してきている。また、ガラスフリット量が多くなるにつれて焼き付け電極表面にガラスがにじみ出てくる現象が強くなり、ガラスフリット量が20重量%を超えると、その後にアルミナ研磨粉と水を入れたポットで回転バレルをかけても表面浮きガラス層がきれいにとれなかった。この表面ガラス層は電気的導電性ばかりでなく、この後の熱硬化性樹脂への接合強度も低下させる。
【0065】(例2)上述の例1にて作成した積層セラミックコンデンサの試料の第1導体層11を形成した試料を用いて、第1導体層11上に第2導体層12を熱硬化型導電性ペースト形成し、第1導体層11と第2導体層との接合強度について測定した。尚、第1導体層11である焼き付けAg導体膜上にAg系導電性粉末をエポキシ系樹脂に分散した導電性樹脂ペーストを第1導体層11を完全に覆うように60μmの厚みで塗布し、さらに乾燥し、ついで80〜120℃の温度にて脱溶剤し、その後、150〜200℃の温度で硬化させ、これによってエポキシ系熱硬化性樹脂からなる第2導体層12を形成した。そして、ニッケルメッキ層13を電解メッキで形成し、このニッケルメッキ層13の上にスズ系層を電解メッキで形成した。このような積層セラミックコンデンサを作製するに当たって、導電性樹脂ペーストの金属成分100に対して樹脂固形分比率を10〜40重量%変化させて測定した。
【0066】その結果、第1導体層11と第2導体層12との間の接合強度F2は、図4の特性図に示す結果となった。
【0067】その結果、図4に示すように、接合強度F2は、図4の特性図において、尚、線a、線bともに横軸は固形成分に対するガラスフリットの重量比率を示す。
【0068】尚、エポキシ樹脂の重量比率が、40重量%を越えると、第2導体層12の表面に樹脂成分が析出されて、安定してニッケルメッキ層13を形成することができなくなる。
【0069】また、温度サイクル耐久性テストは、-55℃の雰囲気に30分間保持し、そして、150℃の雰囲気に30分間保持し、その冷却/加熱サイクルを1000回おこなって、容量の低下状況を調べた。その際に50個の試料について、磁器素体のクラックの発生頻度と外部電極の剥離を測定した。
【0070】温度サイクルテストの結果、固形分比率が銀粉末に対して10〜40wt%の試料は初期の固着強度が高く、さらに温度サイクル耐久性テストをおこなっても、ほとんど低下しなった。また、コンデンサ本体にクラックが発生せず、外部電極の剥離もなった。
【0071】(例3)図3、図4に示す2つの接合強度F1、F2との関係をF1>F2とすることが重要である。従って、例えば、第1導体層11を形成する導電性ペーストのガラス重量比率が10重量%で、第2導体層12を形成する導電性樹脂ペーストの樹脂重量比率が20重量%以上では、強度のバラツキなどにより、F1>F2とならない場合がある。従って、各々の接合強度F1、F2を測定し、F1>F2が満足するように制御しなくてはならない。
【0072】そこで、本発明者らは、1608型、2012型、3216型の積層セラミックコンデンサの外部電極を構成する第1導体層11の導電性ペーストのガラス重量比率を10重量%に設定し、第2導体層13の導電性樹脂ペーストのエポキシ樹脂の20重量%に設定した。そして、磁器素体1と第1導体層11との接合強度F1と第1導体層11と第2導体層12との接合強度F2を図5で合成した。
【0073】尚、試料の形式による第1導体層の11、第2導体層12の厚みは、夫々先の具体例に示す値とした。また、図5において、横軸は、各形式、縦軸は接合強度を示している。
【0074】図5から理解できるように、この組み合わせでは、各々の接合強度F1、F2にばらつきが生じても、接合強度F1、F2を各々1.0kgf以上として、しかも、F1>F2となっている。
【0075】また、この例で、第1導体層11のガラス重量比率が10重量%であるが、図3の結果を参酌すれば、第2導体層12のエポキシ樹脂の重量比率を変えずに、ガラス重量比率を10重量%以上に設定しても、なんら支障のないことがわかる。
【0076】(例4)(例2)の積層セラミックコンデンサ試料の中で良好な結果を得た条件で、第2導体層12を第1導体層11の表面を完全に覆い、しかも、磁器素体1の端部の外周面で、第1導体層11の延在部11aの先端部から延在する距離Δxを種々変えた試料を作成した。
【0077】そして、上述した温度サイクル耐久性テストを行い、磁器素体1の内部に発生する内部クラック観察を併用した。
【0078】その結果、磁器素体1の端部の外周部に延在する第1導体層11の延在部よりも、第2導体層12の延在部12aが、磁器素体の中央部側に少なくとも0.05mm以上延在すると、密着強度テスト、さらに温度サイクル耐久性テストのいずれにも良好な結果が得られた。これに対し、第2導体層12の延在部12aが第1導体層11の延在部11aからさらに延在する延在変位量Δxが0.05mm未満の場合には、クラックの発生が観察された。
【0079】このことは、プリント配線基板に試料を半田接合した後、プリント配線基板を強制的にたわませて、試料に機械的応力を与えたのみ試験に検証された。例えば、90mmのスパンで10mmたわませる加速たわみ試験で図6に示すように、延在変位量Δxが0.05mm以上では、全数の試料でクラックは発生しない。
【0080】以上の結果より磁器素体1の端部の外周部に、第2導体層12の延在部12aを第1導体層11の延在部11aよりも磁器素体中央寄りに少なくとも0.05mm以上延ばさなければならないとが判明した。
【0081】尚、上述の実験例では、2012型サイズの磁器素体を用いて実験を行ったが、端面の面積が比較的小さな1608型サイズ、端面の面積が比較的大きな3216型サイズであっても同様な結果が得られた。
【0082】
【発明の効果】以上のとおり、本発明のによれば、回路基板に実装し、その後、温度サイクルや熱衝撃によって応力が発生したとしても、磁器素体にクラックが発生することがなく、さらに外部電極が剥離しなくなり、しかも、実装基板との固着強度にも優れ、その結果、高品質かつ長期信頼性の積層セラミックコンデンサとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る積層セラミックコンデンサの外観斜視図である。
【図2】本発明の積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図3】本発明の積層セラミックコンデンサの磁器素体と第1導体層との接合強度及び第1導体層と第2導体層の接合強度を示す特性図である。
【図4】本発明の積層セラミックコンデンサの第1導体層と第2導体層の接合強度を示す特性図である。
【図5】本発明の形状別の積層セラミックコンデンサの磁器素体と第1導体層との接合強度及び第1導体層と第2導体層の接合強度を示す特性図である。
【図6】本発明の積層セラミックコンデンサの磁器素体表面における第2導体層延在距離Δxによるクラック発生率を示す特性図である。
【符号の説明】
10・・・積層セラミックコンデンサ
1・・・磁器素体
2・・・誘電体磁器層
3、4・・・内部電極
5、5・・・外部電極
11・・・第1導体層
12・・・第2導体層
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-22 
出願番号 特願平10-18410
審決分類 P 1 651・ 113- YA (H01G)
P 1 651・ 536- YA (H01G)
P 1 651・ 537- YA (H01G)
P 1 651・ 121- YA (H01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 江畠 博  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 恩田 春香
橋本 武
登録日 2002-10-25 
登録番号 特許第3363369号(P3363369)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 積層セラミックコンデンサ  
代理人 西 博幸  
代理人 東野 正  
代理人 石井 暁夫  

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