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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) E04G
管理番号 1108637
審判番号 無効2003-35082  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-04-13 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-03-04 
確定日 2004-10-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2989166号発明「アルミニウム製可搬式作業台」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2989166号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.経緯

平成 9年 9月26日 実用新案出願(実願平9-9069号)
平成10年 2月10日 特許出願へ変更(特願平10-44670号)
平成11年10月 8日 登録(特許第2989166号)
平成15年 3月 4日 請求人、本件無効審判請求
平成15年 5月26日 被請求人、審判事件答弁書提出
平成15年10月 1日 被請求人、口頭審理陳述要領書提出
平成15年10月 6日 被請求人、口頭審理陳述要領書(2)提出
平成15年10月 7日 請求人、口頭審理陳述要領書提出
平成15年10月 7日 特許庁審判廷にて口頭審理
平成15年10月24日 無効理由通知
平成15年12月 1日 被請求人、訂正請求書提出
平成15年12月26日 被請求人、意見書提出
平成16年 1月 5日 請求人、意見書提出

2.請求人の請求の趣旨、無効理由及び被請求人の答弁の趣旨

(1)請求人は、特許第2989166号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする旨の審決を求め、無効理由として次のように主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
審判請求の理由の要旨は次のとおりである。
(ア)本件特許発明1は甲第1号証の先願の発明と同一であり、特許法第29条の2第の規定に該当し、無効理由を有する。
(イ)本件特許発明1は、甲第2号証ないし第4号証に記載された何れかの発明と、甲第5号証ないし甲第7号証に記載された何れかの発明に基づき当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、無効理由を有する。
(ウ)本件特許発明2は、甲第5号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、無効理由を有する。
(エ)本件特許発明2は、甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、無効理由を有する。
(オ)本件特許発明2は、甲第5号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、無効理由を有する。
(カ)本件特許発明2は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された何れかの発明、及び甲第5号証に記載された発明、甲第8号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、無効理由を有する。
・甲第1号証:特開平11-107519号公報
・甲第2号証:実願平5-504号(実開平6-56321号)のCD-ROM
・甲第3号証:特開平7-102758号公報
・甲第4号証:特開平9-32271号公報
・甲第5号証:実願昭58-107263号(実開昭60-15600号)のマイクロフィルム
・甲第6号証:実願平5-10880号(実開平6-59600号)のCD-ROM
・甲第7号証:特開平6-336888号公報
・甲第8号証:実願昭50-11487号(実開昭51-95541号)のマイクロフィルム
(2)一方、被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求め、答弁及び無効理由に対する意見として、請求人主張の無効理由や当審の無効理由はないと主張し、乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
・乙第1号証:「仮設機材認定基準とその解説」「第26章アルミニウム合金製可搬式作業台」第256頁〜260頁、平成12年4月1日社団法人仮設工業界編集・発行
・乙第2号証:「建設業の墜落予防作業手順」62〜63頁、平成7年5月25日労働基準調査会発行(意見書における表記と異なるが、事実上提出されたもの)
・乙第3号証:ポスター「脚立を正しく使いましょう」作成日不明、鹿島建設東京支社作成

3.訂正事項

平成15年12月1日付けでされた訂正請求は、特許請求の範囲の減縮及び明細書の明りょうでない記載の釈明を目的として、次のように訂正するものである。
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の
「【請求項1】 アルミニウム部材から構成された天板の両側端部にアルミニウム部材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において、天板の隅角部または天板の隅角部から延びる主脚に、手掛け部材を立設位置から主脚に沿って折り畳み可能に取付けたことを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。
【請求項2】 手掛け部材が天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に、該主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取付けられていることを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。
【請求項3】 手掛け部材に滑り止が装着されていることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のアルミニウム製可搬式作業台。
【請求項4】 手掛け部材の立設、折り畳み機構は、天板の偶角部から延びる主脚に固定される手掛け部材の取付片の溝部に手掛け部材を装着して、両者を第1のピン部材で回動可能に枢着し、第1のピン部材が挿通する手掛け部材の貫通孔は第1のピン部材が移動し得るようスロット状に形成され、第1のピン部材から離れた位置に手掛け部材に挿通する第2のピン部材を設け、手掛け部材の内部に位置する第1のピン部材と第2のピン部材の間をバネで連結し、手掛け部材より突き出た第2のピン部材の突出部が取付片の上部に形成された切欠部にバネの力に抗して嵌入するようにして手掛け部材を天板の隅角部に立設し、手掛け部材をバネの力に抗して上方に引き上げ且つ下方に回動させて、第2のピン部材の突出部を取付片の下部に形成された切欠部に嵌入することにより手掛け部材を主脚に沿って折り畳むよう構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム製可搬式作業台。」を、
「【請求項1】 アルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせた天板の両側端部に、アルミニウム押出形材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において、天板の4つの隅角部または天板の4つの隅角部から延びる主脚に、中空のアルミニウム押出形材で構成する手掛け部材を立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けたことを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。
【請求項2】手掛け部材に滑り止が装着されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム製可搬式作業台。
【請求項3】 手掛け部材の立設、折り畳み機構は、天板の偶角部から延びる主脚に固定される手掛け部材の取付片の溝部に手掛け部材を装着して、両者を第1のピン部材で回動可能に枢着し、第1のピン部材が挿通する手掛け部材の貫通孔は第1のピン部材が移動し得るようスロット状に形成され、第1のピン部材から離れた位置に手掛け部材に挿通する第2のピン部材を設け、手掛け部材の内部に位置する第1のピン部材と第2のピン部材の間をバネで連結し、手掛け部材より突き出た第2のピン部材の突出部が取付片の上部に形成された切欠部にバネの力に抗して嵌入するようにして手掛け部材を天板の隅角部に立設し、手掛け部材をバネの力に抗して上方に引き上げ且つ下方に回動させて、第2のピン部材の突出部を取付片の下部に形成された切欠部に嵌入することにより手掛け部材を主脚に沿って折り畳むよう構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム製可搬式作業台。」
と訂正する。
(イ)訂正事項2
明細書の発明の詳細な説明の段落番号0012の
「【0012】
手掛け部材6は、図1に示すように、天板3の4つの隅角部または天板3の4つの隅角部から延びる主脚4に全て設けるのが好ましいが、作業台の使用状況に応じて、設置本数を変えることもできる。また、作業者が手掛け部材6を手で握った場合の安全性を確保するために、図1に示すように、手掛け部材6の必要部分には、ゴムなどをライニングした滑り止9を設けるのが望ましい。」を、
「【0012】
手掛け部材6は、図1に示すように、天板3の4つの隅角部または天板3の4つの隅角部から延びる主脚4の縦部材に全て設ける。また、作業者が手掛け部材6を手で握った場合の安全性を確保するために、図1に示すように、手掛け部材6の必要部分には、ゴムなどをライニングした滑り止9を設けるのが望ましい。」
と訂正する。
(同日付けの訂正請求書においては、訂正の理由、訂正事項が明確に記載されていないが、添付した訂正明細書から上記のように認定した。)

4.訂正の適否について

被請求人は、訂正事項1について、訂正前の請求項1を削除し、請求項2を新しい請求項1とした旨主張するが、上記訂正事項1は、訂正前の請求項2を限定したものではなく、むしろ訂正前の請求項1を技術的に限定し、請求項2を削除し、それに伴い請求項3、4を請求項2、3に繰り上げると共に、引用形式の整合を図ったものと解するのが妥当である。
すなわち、訂正前の請求項2は、
「手掛け部材が天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に、該主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取付けられていることを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。」
であり、これを、新しい請求項1のように
「アルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせた天板の両側端部に、アルミニウム押出形材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において、天板の4つの隅角部または天板の4つの隅角部から延びる主脚に、中空のアルミニウム押出形材で構成する手掛け部材を立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けたことを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。」
と訂正したとすれば、訂正前の構成のどれを具体的に限定したのか不明確である一方、訂正前の請求項1の
「アルミニウム部材から構成された天板の両側端部にアルミニウム部材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において、天板の隅角部または天板の隅角部から延びる主脚に、手掛け部材を立設位置から主脚に沿って折り畳み可能に取付けたことを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。」
を上記のように訂正することは、被請求人がアンダーラインで示すように、天板、主脚、手掛け部材を技術的に限定していることが明確といえるからである。
以下、そのようなものとして検討を進めると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正事項2は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、上記訂正事項はいずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。
また、無効審判の請求されていない訂正後の請求項2、3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
したがって、上記訂正は、特許法第134条第2項ただし書き及び同条第5号で準用する特許法第126条第2項ないし第4項の要件を満たし、適法なものといえる。
(以下、訂正後の請求項1に係る発明を「本件訂正発明」という。)

5.無効理由について

5-1 無効理由通知の要旨
平成15年10月24日付けで通知した無効理由の要旨は、訂正前の請求項1及び請求項2に係る発明(本件発明1及び本件発明2)について、
(1)刊行物1:「仮設機材マンスリー第152号」2〜4頁、平成9年5月1日、社団法人仮設工業会発行
(2)刊行物2:実願平5-10880号(実開平6-59600号)のCD-ROM
を示して、本件発明1及び本件発明2は、刊行物1、2記載の発明から当業者が容易に発明できたものであり、いずれの発明も特許法第29条第2項に該当し、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する、というものであった。
上記4に記載したように平成15年12月1日付けの訂正は適法なものであることから、本件訂正発明についてなお無効理由があるかどうか以下検討する。(訂正前の請求項2は削除された。)

5-2 本件特許出願前に頒布された刊行物及びそこに記載された事項
本件特許は、平成9年9月26日に出願された実用新案登録出願(実願平9-9069号)から適法に特許出願に変更されたものであるから、本件特許の出願日は平成9年9月26日までそ及し、その出願前に頒布された次の刊行物には、以下の記載が認められる。
(1)刊行物1:「仮設機材マンスリー第152号」2〜4頁、平成9年5月1日、社団法人仮設工業会発行
(ア)「アルミニウム合金製可搬式作業台の認定基準の制定について」(2頁表題)
(イ)「(2)構造等について イ)最大高さを、2m未満としたこと。また、仕様高さが1.5mを超えるものについては、安全に昇降できる「手がかり棒」等の備え付けを必要としたこと。(根拠:労働安全衛生規則第526条の規定により高さが1.5mを超える箇所での作業に、安全に昇降するための設備が必要とされている。)」(2頁右欄7〜13行)
(ウ)「4 材料等 4-1 可搬式作業台の主要部分に使用するアルミニウム合金は、次に掲げるもの、又はこれと同等以上の機械的性質を有するものでなければならない。(1)押出形材を使用する場合は、日本工業規格H4100(アルミニウム及びアルミニウム合金押出形材)に規定する記号A6063S(中略)の規格 (2)板及び条を使用する場合は、日本工業規格H4000(アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条)に規定する記号A5052P(中略)の規格・・・」(3頁左欄1〜12行)
(エ)「5 構造等 可搬式作業台は、支柱・・、天板、踏さん、折りたたみ金具及び支柱端具を有し、かつ、次の各号に定めるところに適合するものでなければならない。 5-1 開脚状態における垂直高さ・・は、2m未満であること。ただし、1.5mを超えるものにあっては、安全に昇降するため天板面から上に60cm以上の突出した手がかり棒等を設けたものであること。」(3頁左欄25〜33行)
上記記載及び3頁左上の図によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「アルミニウム部材から構成された天板の両側端部にアルミニウム部材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において、天板面から上に突出した手掛け部材を設けたアルミニウム製可搬式作業台。」
(以下、刊行物1記載の発明という。)
(2)刊行物2:実願平5-10880号(実開平6-59600号)のCD-ROM(請求人提出の甲第6号証)
(ア)実用新案登録請求の範囲
「【請求項1】(イ)パイプ2を持つ金具1を脚立4の足の上部に取りつけ固定する。(ロ)パイプ2に手すり3を通し、手すり3の下部とパイプ2をボルト5で結ぶ。(ハ)手すり3を下降して手すり3の上部とパイプ2を、ボルト5で結ぶこともできる。以上のように構成された手すり付き脚立。
【請求項2】金具1の中央部に手すり3の下部を軸に、手すり3が回転できる回転軸6を設け、且つ金具1の上部と下部に手すり3をボルト5で固定できる固定部7、8、をもつ、請求項1の手すり付き脚立。」
(イ)考案の詳細な説明
「この考案は脚立の台上に手すりをつけて、脚立への上がり下り等の安定を図る支えの器具に関するものである。 従来の脚立はその上部に人体を支える器具がないために、脚立への上がり下り又は上部での作業ではバランスが取りがたく、その使用には不安を感ずる人が少なくない。 又一部には椅子の形式で背もたれの付いているものもあるが、型が大きく移動や保管に不便であり且つ椅子で代用もできる。 本考案はこれらの点に留意し脚立の上部に手すりをつけて、これを活用することにより上がり下りや、脚立上での作業の安定化が図られるよう配慮した。 又手すりは上下できるよう工夫して使用済み後は、手すりを脚立の足に沿って下げ、場所をとらないよう保管の便を図った。 これを図面について説明すれば、 パイプ2を持つ金具1を脚立の足の上部に取りつけ固定し、パイプ2に手すり3を通して手すり3の下部とパイプをボルト5で締めて固定する。このことにより手すり3は脚立の台上に立って、これを支えにして利用者は安定して上がり下りができ、且つ上部での諸作業にも安定度が得られる。 又保管の場合は手すり3を下降して手すりの上部とパイプを、ボルト5で締めて場所をとらないようにした。 請求項2の金具1については、金具1の中央部に設けた回転軸6と金具1の上部と下部に、ボルト5で手すり3を固定できる固定部7、8、を設けて、手すり3を上部又は下部に固定できるようにして、使用時と保管時の利便を図った。」

5-3 対比、判断
(1)対比
本件訂正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は次のとおりであると認められる。
一致点:
「アルミニウム部材から構成された天板の両側端部にアルミニウム部材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において、天板面から上に突出した手掛け部材を設けたアルミニウム製可搬式作業台。」
相違点1:本件訂正発明の天板がアルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせた天板であるのに対し、刊行物1記載の発明の天板はアルミニウム部材であるものの、アルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせたものかどうか不明な点、
相違点2:本件訂正発明の梯子状の主脚は、アルミニウム押出形材からなるのに対し、刊行物1記載の発明の主脚はアルミニウム部材であるものの、アルミニウム押出形材からなるのかどうか不明な点、
相違点3:本件訂正発明の手掛け部材は、天板の4つの隅角部または天板の4つの隅角部から延びる主脚に、中空のアルミニウム押出形材で構成する手掛け部材を立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けたのに対し、刊行物1記載の発明においては、手掛け部材の取付けや材料について記載されていない点。

(2)相違点に対する判断
(ア)相違点1、2について
刊行物1記載の発明において、天板はアルミニウム部材であるものの、アルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせたものかどうか、また、刊行物1記載の発明の主脚はアルミニウム部材であるものの、アルミニウム押出形材からなるのかどうか不明であるが、刊行物1には、材料等として、主要部に使用するアルミニウム合金として、押出形材を使用する場合や、板及び条を使用する場合が記載されており(3の(1)の(ウ)参照)、刊行物1発行当時において、アルミニウム合金製可搬式作業台の主要部材がアルミニウム合金の押出形成や板及び条で製造されることが一般的であったことが認められる。そうすると、本件訂正発明の上記相違点1、2に係る構成は当業者が適宜できた設計的事項にすぎない。
(イ)相違点3について
上記刊行物2の特に図8ないし図10には、脚立に関し、脚立の脚の1本の上部に回動軸6を中心に回動自在に「手すり3」を設け、この手すり3は図10に示すように脚に沿って収納されることが記載されており、この手すり3は、脚の上部に、立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けたものであると認められる。そして、この手すり3は、「脚立の上部に手すりをつけて、これを活用することにより上がり下りや、脚立上での作業の安定化が図られるよう配慮した」(公報4頁9〜10行)ものであるから、本件訂正発明の手かけ部材と基本的な機能や作用効果において変わるところがない。
本件訂正発明においては、手掛け部材が天板の4つの隅角部または天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設けられているが、手がけ部材を作業台天板の4つの偶角部に設ければ、作業台への昇降や、作業台上での作業の安全性がより向上することは当然であるから、当業者が適宜できる設計的事項にすぎない。
さらに、手掛け部材を中空のアルミニウム押出形材で構成した点については、中空のアルミニウム押出形材で製造した可搬式作業台自体が公知である以上、その付属品ともいうべき手掛け部材を中空のアルミニウム押出形材とすることは当業者が適宜採用し得る設計的事項にすぎないし、当該構成とした目的や作用効果について明細書には何ら記載されていないが、本件訂正発明の課題の一つである「軽量化」にあるとしても、当然に奏する作用効果にすぎない。
そして、両者の技術分野は共通しており、適用を除外すべき理由もないから、刊行物1記載の発明の手かけ部材に、刊行物2記載の構成の上記手すりを適用し、設計変更をすることによって、本件訂正発明の各相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できた事項にすぎない。また、本件訂正発明が奏する作用効果は、「本発明によれば、従来の可搬式作業台の構造、軽量性をほとんど変えることなく、作業の安全性が大幅に向上し、その結果として、作業性の向上も期待できるアルミニウム製可搬式作業台が提供される。」(段落番号0020参照)というものであり、刊行物1記載の発明に刊行物2に記載された事項を適用すれば当然に奏する作用効果であって格別なものではない。
したがって、本件訂正発明は、刊行物1、2記載の発明から当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項に該当するものである。

(3)被請求人の主張について
被請求人は、平成15年12月26日付けの意見書において、刊行物2記載の手すり3に関し、実際は脚立の昇降用の手掛け部材ではなく、本来、脚立は天板上の作業を予定しておらず、万が一作業する場合においても、脚立上に上がったときに身体のバランスを取るものであるから、刊行物2には本件訂正発明の「手掛け部材を立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けた」構成は開示されておらず、さらに刊行物2に記載された脚立と本件訂正発明の可搬式作業台とでは技術分野を異にするものである旨主張する(意見書6〜7頁)。
しかしながら、刊行物2に記載の手すりは、上記5-2の(2)の(イ)に記載されているように「脚立への上がり下がり等の安定を図る」ことも、脚立上での作業の安定を図ることもできるのであって、この手すりは脚立上に上がったときに身体のバランスを取るためにだけ用いられるものではない。
また、脚立と可搬式作業台とは、ともに折り畳み可能で、可搬式であって、高所での作業を容易に行うために使用されるものである点で技術分野が共通しているから、被請求人の主張は採用できない。

6.まとめ
以上のように、本件訂正発明(訂正後の請求項1記載の発明)の特許は、特許法第29条2項の規定に違反してなされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アルミニウム製可搬式作業台
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせた天板の両側端部に、アルミニウム押出形材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において、天板の4つの隅角部または天板の4つの隅角部から延びる主脚に、中空のアルミニウム押出形材で構成する手掛け部材を立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けたことを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。
【請求項2】 手掛け部材に滑り止が装着されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム製可搬式作業台。
【請求項3】 手掛け部材の立設、折り畳み機構は、天板の偶角部から延びる主脚に固定される手掛け部材の取付片の溝部に手掛け部材を装着して、両者を第1のピン部材で回動可能に枢着し、第1のピン部材が挿通する手掛け部材の貫通孔は第1のピン部材が移動し得るようスロット状に形成され、第1のピン部材から離れた位置に手掛け部材に挿通する第2のピン部材を設け、手掛け部材の内部に位置する第1のピン部材と第2のピン部材の間をバネで連結し、手掛け部材より突き出た第2のピン部材の突出部が取付片の上部に形成された切欠部にバネの力に抗して嵌入するようにして手掛け部材を天板の隅角部に立設し、手掛け部材をバネの力に抗して上方に引き上げ且つ下方に回動させて、第2のピン部材の突出部を取付片の下部に形成された切欠部に嵌入することにより手掛け部材を主脚に沿って折り畳むよう構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム製可搬式作業台。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築工事現場などで使用されるアルミニウム製可搬式作業台に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、建築物などの天井、内壁面などの作業には、図6に示すように、天板3にステップ5をそなえた梯子状の主脚4、4を設けた作業台(足場)2が使用されている。(実開平6-56321号公報他)
【0003】
作業台2は、地上や建築工事現場の高所に設けられた作業面に設置されて使用されるが、通常、作業台2には、天板3とステップ5の間に屈曲自在のステイ7が取付けられ、作業終了後はステイ7を屈曲部8で折り曲げて、作業台2を折り畳み、移動できるようになっている。
【0004】
そのため、作業台2は、軽量化の観点から、天板3はアルミニウム押出形材の組合わせ、アルミニウム板とアルミニウム形材の組合わせなどアルミニウム部材から構成され、主脚4、ステップ5も、例えばアルミニウム押出形材から構成されている。
【0005】
この形式の作業台は、作業床部の高さが2m未満のものであり、作業床面となる天板には滑り止めの措置も行われているが、天井や壁面の作業に必要なものを手に持って作業を行う場合などに、安定性を欠き、落下する事故の生じることが少なくない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、天板に梯子状の主脚を折り畳み可能に設けた作業台における上記従来の難点を解消するためになされたものであり、その目的は、従来の可搬式作業台の構造、軽量性をほとんど変えることなしに、天板に載って作業を行う場合における作業の安全性を大幅に向上させたアルミニウム製可搬式作業台を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明によるアルミニウム製可搬式作業台は、アルミニウム部材から構成された天板の両側端部にアルミニウム部材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において、天板の隅角部または天板の隅角部から延びる主脚に、手掛け部材を立設位置から主脚に沿って折り畳み可能に取付けたことを第1の特徴とする。
【0008】
また、手掛け部材が天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に、該主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取付けられていること、および手掛け部材にゴムなどからなる滑り止が装着されていることを第2および第3の特徴とする。
【0009】
さらに、手掛け部材の立設、折り畳み機構は、天板の偶角部から延びる主脚に固定される手掛け部材の取付片の溝部に手掛け部材を装着して、両者を第1のピン部材で回動可能に枢着し、第1のピン部材が挿通する手掛け部材の貫通孔は第1のピン部材が移動し得るようスロット状に形成され、第1のピン部材から離れた位置に手掛け部材に挿通する第2のピン部材を設け、手掛け部材の内部に位置する第1のピン部材と第2のピン部材の間をバネで連結し、手掛け部材より突き出た第2のピン部材の突出部が取付片の上部に形成された切欠部にバネの力に抗して嵌入するようにして手掛け部材を天板の隅角部に立設し、手掛け部材をバネの力に抗して上方に引き上げ且つ下方に回動させて、第2のピン部材の突出部を取付片の下部に形成された切欠部に嵌入することにより手掛け部材を主脚に沿って折り畳むよう構成されていることを第4の特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のアルミニウム製可搬式作業台の好ましい態様を以下に説明する。従来と同じ部材には同一の符号を付した。本発明の作業台は、図3に示すように、アルミニウム部材から構成された天板3の両側端部に、アルミニウム部材からなる梯子状の主脚4を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた従来の可搬式作業台において、天板3の隅角部または天板3の隅角部から延びる主脚に、手掛け部材6を立設位置から主脚に沿って折り畳み可能に取付けたものである。手掛け部材6は主脚4の縦部材に沿って折り畳むのが好ましい。図1〜2には、天板3の隅角部から延びる主脚4の縦部材に、取付片12を介して手掛け部材6を主脚4の縦部材に沿って折り畳み可能に取付け構造の可搬式作業台が例示されている。
【0011】
手掛け部材6は、作業者が作業台となる天板3に昇降する場合、天板上に載って作業を行う場合に、手掛けとなり、安全性および作業性を向上させるためのもので、図2に示すように、立設位置Aから折り畳み位置Bの間を回動可能になっており、主脚4の側面に沿って折り畳まれる。
【0012】
手掛け部材6は、図1に示すように、天板3の4つの隅角部または天板3の4つの隅角部から延びる主脚4の縦部材に全て設ける。また、作業者が手掛け部材6を握った場合の安全性を確保するために、図1に示すように、手掛け部材6の必要部分には、ゴムなどをライニングした滑り止9を設けるのが好ましい。
【0013】
作業台1には、従来の作業台と同様に、図1〜2に示すように、天板3とステップ5の間に屈曲自在のステイ7が取付けられている。ステイ7は両端部10、11が、それぞれ主脚4のステップ5および天板3に枢着されており、作業終了後はステイ7を屈曲部8で折り曲げて、図3に示すように作業台1を折り畳み、移動できるようになっている。
【0014】
手掛け部材6の立設、折り畳み機構について説明すると、詳しくは図4に示すように、天板3の偶角部から延びる主脚4の上部に固定される手掛け部材6の取付片12の溝部13に手掛け部材6を装着して、両者を第1のピン部材14で回動可能に枢着し、第1のピン部材14が挿通する手掛け部材6の貫通孔15は第1のピン部材14が移動し得るようスロット状に形成される。
【0015】
第1のピン部材14から離れた位置に手掛け部材6に挿通する第2のピン部材16を設け、手掛け部材6の内部に位置する第1のピン部材14と第2のピン部材16の間をバネ17で連結し、手掛け部材6より突き出た第2のピン部材16の突出部18が、図5に示すように、取付片12の上部に形成された切欠部19、19にバネ17の力に抗して嵌入するようにして、手掛け部材6を天板3の隅角部に立設された位置にもたらす。この場合、第1のピン部材14はスロット状貫通孔15の上端に位置する。
【0016】
手掛け部材6を折り畳むには、図5に示すように、手掛け部材6をバネ17の力に抗して上方(矢印Xの方向)に引き上げ、且つ立設位置Aから下方に回動させて折り畳み位置Bにもたらすと、手掛け部材6がバネ17の作用で上方(矢印Yの方向)に移動し、第2のピン部材16の突出部18が取付片12の下部に形成された切欠部20、20に嵌入し、その結果、手掛け部材6は主脚4の側面に沿って折り畳まれる。この場合、第1のピン部材14はスロット状貫通孔15の下端に位置する。
【0017】
本発明の作業台1の天板3、主脚4はアルミニウム部材からなる。例えば、天板3はアルミニウム押出形材の組合わせ、アルミニウム板とアルミニウム形材の組合わせなどからなり、主脚4、ステップ5はアルミニウム押出形材から構成される。手掛け部材6も中空のアルミニウム押出形材で構成するのが好ましい。作業台となる天板の表面には凹凸模様その他の滑り止加工を施すのが望ましい。また、主脚4は、従来のものと同様、伸縮可能とすることもできる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
実施例アルミニウム押出形材(材質:A6063S)とアルミニウム板(材質:A5052P)を組合わせた天板(寸法:長さ1500mm、幅500mm)、A6063押出形材からなる梯子状の主脚、手掛け部材を用いて、図1〜3に示す構造の、高さ1600mm、主脚の伸縮幅400mmの作業台を組立てた。
【0019】
この作業台を実際の建築工事現場において、建築工事現場の高所に設けられた作業面に設置して使用したところ、手掛け部材の存在により、きわめて安全に作業を行うことができ、作業性も向上することが確認された。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の可搬式作業台の構造、軽量性をほとんど変えることなく、作業の安全性が大幅に向上し、その結果として、作業性の向上も期待できるアルミニウム製可搬式作業台が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明によるアルミニウム製可搬式作業台の実施例を示す斜視図である。
【図2】
図1の正面図である。
【図3】
図1の作業台を折り畳んだ状態を示す正面図である。
【図4】
本発明の手掛け部材と取付片との結合機構を示す一部を切り欠いた斜視図である。
【図5】
本発明の手掛け部材の立設、折り畳み機構を示す一部正面図である。
【図6】
従来のアルミニウム製可搬式作業台を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 本発明のアルミニウム製可搬式作業台
2 従来のアルミニウム製可搬式作業台
3 天板
4 主脚
5 ステップ
6 手掛け部材
7 ステイ
8 屈曲部
9 滑り止
10 両端部
11 両端部
12 取付片
13 溝部
14 第1のピン部材
15 スロット状貫通孔
16 第2のピン部材
17 バネ
18 突出部
19 切欠部
20 切欠部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-02-03 
結審通知日 2004-02-06 
審決日 2004-02-17 
出願番号 特願平10-44670
審決分類 P 1 122・ 121- ZA (E04G)
最終処分 成立  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 山口 由木
長島 和子
登録日 1999-10-08 
登録番号 特許第2989166号(P2989166)
発明の名称 アルミニウム製可搬式作業台  
代理人 小林 幸夫  
代理人 小林 幸夫  
代理人 小林 幸夫  
代理人 久保 司  
代理人 久保 司  
代理人 久保 司  
代理人 藤川 忠司  

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