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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1108842
審判番号 不服2002-4537  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-08-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-03-15 
確定日 2004-12-10 
事件の表示 平成9年特許願第11639号「複数のICチップを備えた密封型半導体装置の構造」拒絶査定不服審判事件〔平成10年8月7日出願公開、特開平10-209370〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成9年1月24日の出願であって、平成14年2月4日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成14年3月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月15日付で手続補正がなされ、つづいて当審において最後の拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年10月21日付で手続補正がなされ、さらに当審において平成15年10月21日付の手続補正及び平成14年4月15日付の手続補正についての補正却下がなされ、その後再び最後の拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年5月27日付で手続補正がなされたものである。

II.平成16年5月27日付手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年5月27日付手続補正を却下する。

[理 由]

1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は次のとおり請求項1、2に補正された。
「【請求項1】少なくとも上面に回路素子及びワイヤボンディングパッドの多数個を形成して成るメインICチップと、片面に多数個の回路素子を形成して成る一つのサブICチップと、これら両ICチップを一緒に密封する合成樹脂製のパッケージ部とから成り、前記サブICチップを、前記メインICチップの上面側に、当該サブICチップの片面における回路素子が前記メインICチップにおける回路素子に対面するように下向きにして配設し、このサブICチップの下面に形成した各電極パッド及び前記メインICチップの上面に形成した各電極パッドの両方に突出する金製のバンプを設け、更に、前記サブICチップを、前記メインICチップに対して、その間に介挿した導電粒子入り接着フィルムにて、前記両バンプが当該接着フィルムを、前記メインICチップにおける各電極パッドに設けたバンプと前記サブICチップにおける各電極パッドに設けたバンプとが溶融することなく当該接着フィルムの中に食い込むように圧縮変形して接着したことを特徴とする複数のICチップを備えた密封型半導体装置の構造。
【請求項2】前記メインICチップの上面と、これよりも上下面の面積が小さいサブICチップの側面との間に、回路素子に対する耐防湿性に優れた合成樹脂による内部パッケージ層を、前記サブICチップの全周囲にわたって形成する一方、前記パッケージ部を、両ICチップに対する密着性に優れた合成樹脂製にして、前記両ICチップ及び前記内部パッケージ層の全体を密封するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の複数のICチップを備えた密封型半導体装置の構造。」

(1)本件補正による請求項1について
本件補正による請求項1は、補正前の平成13年11月5日付の手続補正書における請求項4に記載された「金製のバンプ」を「突出する金製のバンプ」と補正し、同じく請求項4に記載された「前記両バンプが当該接着フィルムを圧縮変形するようにして接着した」を、「前記両バンプが当該接着フィルムを、前記メインICチップにおける各電極パッドに設けたバンプと前記サブICチップにおける各電極パッドに設けたバンプとが溶融することなく当該接着フィルムの中に食い込むように圧縮変形して接着した」と補正したものである。
そこで、上記補正について検討すると、補正前の「金製のバンプ」を「突出する金製のバンプ」とした補正は、バンプの形状を具体的に限定したものであって、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当し、補正前の「圧縮変形するようにして」を、「メインICチップにおける各電極パッドに設けたバンプとサブICチップにおける各電極パッドに設けたバンプとが溶融することなく接着フィルムの中に食い込むように圧縮変形して」とした補正は、圧縮変形の仕方を具体的に限定したものであって、同法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

(2)本件補正による請求項2について
本件補正による請求項2は、補正前の平成13年11月5日付の手続補正書における請求項5に記載されたa:「合成樹脂製の内部パッケージ層」を、「回路素子に対する耐防湿性に優れた合成樹脂による内部パッケージ層」と補正し、同じく請求項5に記載されたb:内部パッケージ層を「前記サブICチップの全周囲にわたって形成した」を、「前記サブICチップの全周囲にわたって形成する一方、前記パッケージ部を、両ICチップに対する密着性に優れた合成樹脂製にして、前記両ICチップ及び前記内部パッケージ層の全体を密封するように構成した」と補正し、さらに同じく請求項5に記載されたc:「請求項1〜4のうちいずれかに記載の」を、「請求項1に記載の」と補正したものである。
そこで、上記補正について検討すると、a:での補正は、合成樹脂製の機能を具体的に限定したものであって、同法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当し、b:での補正は、パッケージ部の材料とその構造を具体的に限定したものであって、同法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当し、さらにc:での補正は、補正前の請求項1〜3を削除したことに対して引用する請求項を整合させたものであって、同法第17条の2第4項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当する。

次に、本件補正後の請求項1、2のうち請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
当審の平成16年3月31日付の拒絶理由に引用された本願出願前に国内で頒布された刊行物である、特開平8-125112号公報(以下、「引用刊行物1」という。)、特開平7-66241号公報(以下、「引用刊行物3」という。)、及び実願昭63-128376号(実開平2-52339号)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)引用刊行物1
(1a)「【請求項1】 リードの内端部に第1のバンプを介して接続された第1の半導体素子と、前記リードを介して前記第1の半導体素子に対向し、前記リードあるいは当該リードの支持構造の厚さ寸法よりも高さの高い第2のバンプを介して当該第1の半導体素子に接続された第2の半導体素子とからなることを特徴とする半導体装置。
・・・
【請求項3】 前記第1および第2の半導体素子の背面を露出させた状態で前記リードに対するボンディング部位を樹脂封止してなることを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項4】 第1および第2の半導体素子におけるボンディングパッドに第1および第2のバンプを形成する第1の工程と、前記第1のバンプを介して前記第1の半導体素子をリードの内端部に接続する第2の工程と、前記第1の半導体素子に対して前記リードを介して対向させた姿勢で、前記リードあるいは当該リードの支持構造の厚さ寸法よりも高さの高い前記第2のバンプを介して前記第2の半導体素子を前記第1の半導体素子に接続する第3の工程とを含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】 前記第3の工程に引き続いて、前記第1および第2の半導体素子の背面を露出させた状態で前記第1および第2のバンプを含むボンディング部位を樹脂封止する第4の工程を行うことを特徴とする請求項4記載の半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲)
(1b)「【0006】本発明の目的は、個々の半導体素子の形状や位置関係の制約を受けることなく、多様な形状の半導体素子の積層実装を可能にした半導体装置およびその製造技術を提供することにある。
【0007】本発明の他の目的は、多様な形状の半導体素子の積層実装を、高い信頼性をもって実現することが可能な半導体装置およびその製造技術を提供することにある。」
(1c)「【0011】【作用】上記した手段によれば、第1の半導体素子の突起電極と第2の半導体素子の突起電極を対向させることにより、接続部の位置決めが容易でかつ整合しやすくなる。また、第1および第2の半導体素子の寸法を自由に選べるので、個々の半導体素子の形状や位置関係の制約を受けることなく、多様な形状の半導体素子の積層実装を行うことができる。・・・」
(1d)「【0013】(実施例1)図1(a)〜(e)は、本発明の一実施例である半導体装置の製造工程の一例を工程順に示す説明図である。
【0014】まず、第1の半導体素子1aのパッド2a上に、・・・たとえば金(Au)からなるボール3a・・・を1段に圧着形成する(図1(a)の左側)(第1の工程)。
【0015】次に、このボール3aを平坦化治具・・・を用いて一括加重する・・ことにより、全てのボール3aを圧縮平坦化して高さの揃った金(Au)からなるバンプ4a(たとえばバンプ径130μm,バンプ高さ50μm)を形成する(図1(b)の左側)(第1の工程)。
【0016】また、同様に、第2の半導体素子1bのパッド2b上には、・・たとえば金(Au)からなるボール3bを3段に圧着形成する(図1(a)の右側)(第1の工程)。
【0017】次に、このボール3bを第1の半導体素子1aのボール3aと同様に圧縮平坦化して高さの揃った金(Au)からなるバンプ4b・・・を形成する(図1(b)の右側)(第1の工程)。
【0018】次に、・・・絶縁性の樹脂等からなるキャリアテープ5bに支持されたリード5a(たとえば厚さ100μm)の内端部5cを、第1の半導体素子1aのバンプ4a上に位置決めし、熱圧着等の方法で接続する。この場合、リード5aを支持するキャリアテープ5bと同一側面側に第1の半導体素子1aはボンディングされる。この時、第1の半導体素子1a上の複数のバンプ4aの一部は、ボンディングされず、キャリアテープ5bおよびリード5aの間隙から、上方に対して露出した状態となる(図1(c))(第2の工程)。
【0019】その後、第2の半導体素子1bの多段のバンプ4bを、キャリアテープ5bおよびリード5aの間隙から露出した、第1の半導体素子1aのバンプ4aの上に重なり合うように位置決めし、所定の温度に加熱しつつ、第2の半導体素子1bの背面より加重することにより熱圧着で接続する。・・・(図1(d))(第3の工程)。
【0020】その後、たとえば、図示しない金型成形装置等により、レジン6にて、第1の半導体素子1aと第2の半導体素子1bの間隙を封止し、さらに必要に応じてリード5aの外端部5d側をキャリアテープ5bから切り離す切断操作を経て、半導体装置D1を形成する。この時、たとえば、第1の半導体素子1aおよび第2の半導体素子1bの背面は外部に露出するように封止される。(図1(e))(第4の工程)。」
(1e)「【0023】たとえば、第1の半導体素子1aと第2の半導体素子1bとを同一の寸法にする場合、両者を同一の半導体素子で構成することにより、たとえば容易に大容量の半導体メモリを構築できる。・・・
【0024】また、第1の半導体素子1aおよび第2の半導体素子1bを同一寸法、同一機能とし、パッド2aおよび2bの配置を鏡面対称にして、同一のパッド同士を接続する構成としてもよい。
【0025】また、第1の半導体素子1aおよび第2の半導体素子1bとを異なる寸法にする場合には、たとえば一方をマイクロプロセッサ等の論理素子で構成し、他方を、当該論理素子によってアクセスされるキャッシュメモリとすることで、配線遅延の少ない高速なマイクロプロセッサユニットを小さな実装スペースで実現することができる。
【0026】また、第1の半導体素子1aおよび第2の半導体素子1bの一方に、素子の一部として、あるいは一方を置き換える形で受動素子、たとえば高容量のパスコンデンサ、インダクタ、抵抗素子等を形成した構成としてもよい。」

(2)引用刊行物3
(2a)「【0002】【従来の技術】図5は従来の異方導電性接着剤を用いた電子部品の接続構造を示す・・・この第1基板1上には、接続用の第1電極2が形成されている。・・・この第2基板3上には、接続用の第2電極4が形成されている。・・・5は異方導電性接着剤であり、この異方導電性接着剤5は、導電性フィラー6および絶縁性接着剤7から構成される。
【0003】この構成による接続構造では、第1基板1の一端と第2基板3の一端との間に、異方導電性接着剤5が充填されるので、その接続用の第1電極2と接続用の第2電極4とは、その導電性フィラー6によって電気的に接続する。そして、第1基板1と第2基板3とは、絶縁性接着剤7によって、しっかりと接続・保持することができる。
【0004】・・・図5(B)に示すように、異方導電性接着剤は、接続用の第1電極と第2電極の間に充填されることは当然であるが、この電極間を除く第1基板と第2基板との間にも充填される。・・・」と記載され、図5(B)には、突出した状態の第1、2電極が異方導電性接着剤中の導電性フィラーによって電気的に接続していることが示されている。
(2b)「【0014】図4は本発明に係る異方導電性接着剤を用いた電子部品の接続構造の他の実施例を示す断面図である。一例として、基板に半導体素子を異方導電性接着剤を用いて接続する場合である。図において、10は半導体素子であり、この半導体素子10には複数のバンプ電極11が設けられている。」と記載され、図4には、第1基板1上の第1の電極2が突起状の電極を形成しており、異方性導電接着剤5により半導体素子10のバンプ電極11と接続していることが示されている。
(2c)「【0018】なお、以上の実施例では、基板と基板の接続、基板と半導体素子の接続について説明したが、これに限定せず、他の電子部品の接続についても同様にできることはもちろんである。」

(3)引用刊行物4
(3a)「チップ部品の電極に接合するチップ側バンプと、配線パターンに接合する基板側バンプと、上記チップ側バンプ及び基板側バンプ間を接合する異方性導電膜でなる接合膜とを有する接合部材によって上記チップ部品を上記配線パターンに接合することを特徴とする配線基板。」(実用新案登録請求の範囲)
(3b)「接合膜13は、ゴムでなる支持材料中に厚さ方向に導電性を呈するように導電性粒子を配列させた構造を有し、厚さ方向に導電性をもつのに対して、幅方向には導電性をもたないような電気的異方性を呈すると共に、チツプ側バンプ11及び基板側バンプ12の接合面に幅方向にずらすような圧力が付与されたとき、厚さ方向の導電性に影響を与えることなく変形し得るような機械的特性を呈する。以上の構成において、接合部材10はチップ部品3の電極5を、チツプ側バンプ11、接合膜13、基板側バンプ12を順次介して絶縁基板1の配線パターン2上に電気的に接触させると同時に機械的に結合し、かくしてチップ部品3を絶縁基板1上に接合保持する状態が得られる。」(6頁6行〜末行)

3.対比・判断
引用刊行物1には、上記摘記事項(1e)及び図1によれば、第1の半導体素子の上面、第2の半導体素子の片面には論理素子、キャッシュメモリ、パスコンデンサ、インダクタ、抵抗素子等(以下、「論理素子等」という。)が形成されたものが記載されており、これらの論理素子等は通常半導体素子の面に多数個形成されるものであって、又上記摘記事項(1d)によれば、第1、2のバンプは金製のバンプであることが記載されている。
そして、上記摘記事項(1a)〜(1e)を総合すると、引用刊行物1には、「リードの内端部に第1のバンプを介して接続され、上面に論理素子等を多数個形成して成る第1の半導体素子と、前記リードを介して前記第1の半導体素子に対向し、前記リードあるいは当該リードの支持構造の厚さ寸法よりも高さの高い第2のバンプを介して当該第1の半導体素子に接続され、片面に論理素子等を多数個形成して成る第2の半導体素子と、これら第1および第2の半導体素子の背面を露出させた状態で前記リードに対するボンディング部位を樹脂封止してなり、前記第2の半導体素子を、前記第1の半導体素子の上面側に、当該第2の半導体素子の片面における論理素子等が前記第1の半導体素子における論理素子等に対面するように下向きに配設し、この第2の半導体素子の下面に形成した各パッド及び前記第1の半導体素子の上面に形成した各パッドの両方に突出する金製のバンプを設けて接合した半導体装置。」の発明(以下、「引用刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていることになる。

本願補正発明1と引用刊行物1に記載された発明とを対比すると、引用刊行物1に記載された発明の「第1の半導体素子」、「第2の半導体素子」、「論理素子等」は、順に本願補正発明1の「メインICチップ」、「サブICチップ」、「回路素子」に相当している。ここで、引用刊行物1に記載された発明では、樹脂封止は第1および第2の半導体素子の背面を露出させた状態で前記リードに対するボンディング部位を樹脂封止しているが、通常チップオンチップにおいて素子の背面を露出させずに両素子を密封することも周知のこと(必要ならば、特開平2-90541号公報の第7図、特開平6-209071号公報の図1参照)であり、引用刊行物1に記載された発明の「樹脂封止」の樹脂の部分は本願補正発明1の「パッケージ部」に相当している。
そうすると、両者は、「少なくとも上面に回路素子及びリードと接続するパッドの多数個を形成して成るメインICチップと、片面に多数個の回路素子を形成して成る一つのサブICチップと、これら両ICチップを一緒に密封する合成樹脂製のパッケージ部とから成り、前記サブICチップを、前記メインICチップの上面側に、当該サブICチップの片面における回路素子が前記メインICチップにおける回路素子に対面するよう下向きにして配設し、このサブICチップの下面に形成した各電極パッド及び前記メインICチップの上面に形成した各電極パッドの両方に突出する金製のバンプを設けて接合した複数のICチップを備えた密封型半導体装置の構造」で一致するものの、次の点で相違している。
(a)リードと接続するパッドについて、本願補正発明1ではワイヤボンディング用パッドとしているのに対し、引用刊行物1に記載された発明ではリードと第1のバンプを介して接続するパッドとしている点。
(b)バンプの接合について、本願補正発明1は「前記サブICチップを、前記メインICチップに対して、その間に介挿した導電粒子入り接着フィルムにて、前記両バンプが当該接着フィルムを、前記メインICチップにおける各電極パッドに設けたバンプと前記サブICチップにおける各電極パッドに設けたバンプとが溶融することなく当該接着フィルムの中に食い込むように圧縮変形して接着した」のに対し、引用刊行物1に記載された発明はそのようなものではない点。

そこで、上記相違点(a)、(b)について検討する。
相違点(a)について
チップ上に形成したパッドとリードとをワイヤで接続することは本願出願前普通に知られた技術にすぎないから、引用刊行物1に記載された発明での第1の半導体上に形成されたリードと接続するパッドを、ワイヤボンディング用パッドとすることは当業者ならば適宜なし得ることである。

相違点(b)について
引用刊行物3の従来例には、突出した状態の第1、2電極間を除く第1基板と第2基板との間にも導電性フィラー入り異方導電性接着剤が充填されていることから(上記摘記事項(2a))、突出した状態の第1、2電極が異方導電性接着剤を圧着して電気的に接続しているものと認められ、上記摘記事項(2b)によれば、半導体素子との接続には、半導体素子上の複数のバンプ電極11と突起状の第1の電極とを異方性導電接着剤で接続することが示され、異方性導電接着剤の接続では電極同士は溶融することなくフィラーを介して接続するものであり、また引用刊行物4に記載された異方性導電膜からなる接合膜も、その支持材料はゴムで形成され導電性粒子を有している以上、チップを基板側に圧力を付与して、チップ側バンプ及び基板側バンプ間を厚さ方向に電気的に接合する場合には、バンプ相互が溶融することなく支持材料中に食い込むように圧縮変形して接続していることは明らかである。
そうすると、引用刊行物4には、電極相互の接続において、突出したバンプ同士が溶融することなく異方性導電膜、即ち導電粒子入り接着フィルムの中に食い込むように圧縮変形して接着したことが開示されていることになる。
一方、チップ上にチップを積み重ねる際に異方性導電膜を用いて接続することも、例えば特開平8-213427号公報、特開平6-334217号公報(7欄段落【0024】【0025】、図9)、特開平4-340758号公報(【請求項2】)に示されていることであって、しかもバンプ相互の接続も電極相互の接続であることに変わりはないから、引用刊行物1に記載された半導体装置でのバンプ相互の接続において、引用刊行物4に示された、突出したバンプ同士が溶融することなく導電粒子入り接着フィルムの中に食い込むように圧縮変形して接着することを適用することは当業者ならば容易に想到し得ることである。
そして、本願補正発明1の作用効果も、引用刊行物1、3、4及び上記周知ないし従来技術に記載された事項から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願補正発明1は、引用刊行物1、3、4及び上記周知ないし従来技術に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成16年5月27日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜5に係る発明は、平成13年11月5日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定されるのとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】 少なくとも上面に回路素子及びワイヤボンディング用パッドの多数個を形成して成るメインICチップと、片面に多数個の回路素子を形成して成る一つのサブICチップと、これら両ICチップを一緒に密封する合成樹脂製のパッケージ部とから成り、前記サブICチップを、前記メインICチップの上面側に、当該サブICチップの片面における回路素子が前記メインICチップにおける回路素子に対面するよう下向きにして配設し、このサブICチップの下面に形成した各電極パッドを、前記メインICチップの上面に形成した各電極パッドに対して、これら両電極パッドに設けた金製のバンプを介して接合したことを特徴とする複数のICチップを備えた密封型半導体装置の構造。」

1.引用刊行物とその記載事項
当審の平成16年3月31日付最後の拒絶理由通知に引用された引用刊行物1、及びその記載事項は、前記「II.2.引用刊行物とその記載事項」に記載されたとおりである。

2.対比・判断
前記「II.3.対比・判断」で示したとおり、引用刊行物1には「引用刊行物1に記載の発明」が記載されていることになり、本願発明1と引用刊行物1に記載の発明とを対比すると、引用刊行物1に記載の発明の「第1の半導体素子」、「第2の半導体素子」は、本願発明1の「メインICチップ」、「サブICチップ」に相当している。ここで、引用刊行物1に記載された発明では、樹脂封止は第1および第2の半導体素子の背面を露出させた状態で前記リードに対するボンディング部位を樹脂封止しているが、通常チップオンチップにおいて素子の背面を露出させずに両素子を密封することも周知のこと(必要ならば、特開平2-90541号公報の第7図、特開平6-209071号公報の図1参照)であり、引用刊行物1に記載された発明の「樹脂封止」の樹脂の部分は本願補正発明1の「パッケージ部」に相当している。
そうすると、両者は「少なくとも上面に回路素子及びリードと接続するパッドの多数個を形成して成るメインICチップと、片面に多数個の回路素子を形成して成る一つのサブICチップと、これら両ICチップを一緒に密封する合成樹脂製のパッケージ部とから成り、前記サブICチップを、前記メインICチップの上面側に、当該サブICチップの片面における回路素子が前記メインICチップにおける回路素子に対面するよう下向きにして配設し、このサブICチップの下面に形成した各電極パッドを、前記メインICチップの上面に形成した各電極パッドに対して、これら両電極パッドに設けた金製のバンプを介して接合した複数のICチップを備えた密封型半導体装置の構造」で一致するものの、次の点で相違する。
リードと接続するパッドについて、本願発明1ではワイヤボンディング用パッドとしているのに対し、引用刊行物1に記載された発明ではリードと第1のバンプを介して接続するパッドとしている点。

そこで上記相違点について検討すると、この上記相違点は、前記「II.3.対比・判断」で示した相違点(a)と同じであるから、そこで述べたとおり、引用刊行物1に記載された発明での第1の半導体上に形成されたリードと接続するパッドを、ワイヤボンディング用パッドとすることは当業者ならば適宜なし得ることである。
そして、本願発明1の作用効果も、引用刊行物1、及び上記周知技術に記載の事項から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願発明1は、引用刊行物1、及び上記周知技術に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の本願の請求項2〜5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2004-09-27 
結審通知日 2004-10-05 
審決日 2004-10-19 
出願番号 特願平9-11639
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中澤 登  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 中西 一友
市川 裕司
発明の名称 複数のICチップを備えた密封型半導体装置の構造  
代理人 西 博幸  
代理人 東野 正  
代理人 石井 暁夫  

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