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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) C12M
管理番号 1109177
審判番号 無効2003-35328  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-08-11 
確定日 2004-12-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3002732号発明「麹基質の自動盛込方法及び自動盛込装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3002732号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1:本件の経緯の概要
本件特許第3002732号についての手続きの経緯の概要は以下のとおりである。
平成2年(1990)2月16日 特許出願(特願平2-37095号)
平成11年11月19日 特許権の設定登録(特許第3002732号)
平成14年5月23日 同一請求人による第1回無効審判請求(無効審判2002-35205)平成15年3月13日 請求不成立
平成15年8月11日 本件無効審判の請求(甲第1〜3号証)
平成15年11月5日 被請求人より答弁書の提出(乙第1号証)
平成15年11月26日 請求人及び被請求人に対して審尋(1)
平成16年1月27日 被請求人より回答書(1)の提出(乙第2〜7号証)
平成16年2月26日 請求人より回答書(1)の提出
平成16年3月2日 請求人及び被請求人に対して審尋(2)
平成16年4月28日 請求人より回答書(2)及び証人尋問申請書の提出(甲第4〜9号証)
平成16年5月28日 無効理由通知及び請求人に対して審尋(3)
平成16年7月29日 請求人より意見書及び回答書(3)の提出(甲第10〜11号証)
平成16年7月30日 請求人より意見書の提出(乙第8〜16号証)

第2:本件発明
本件の請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下、本件発明という。)

「【請求項1】円形培養床を回転させながら、培養床に麹基質を全面に薄層として盛込む操作を複数回繰返して目的とする層厚まで多層状に盛り込むことを特徴とする麹基質の自動盛込方法。」

第3:当審における無効理由通知
当審では、平成16年5月28日付で、引用文献3及び4の記載を鑑みれば、本件発明は引用文献1及び2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである旨の無効理由を通知した。

<引用文献>
1.実公昭53-42640号公報(本件明細書の従来技術1)
2.特開昭62-198382号公報(本件明細書の従来技術2 )
3.特開昭59-59186号公報
4.日本技術士会監修「モダンエンジニアリングライブラリーC402 醸造機械」地人書館発行(昭和44年10月30日)第85頁(請求人が甲第9号証として提出)

第4:引用文献との対比・判断
〔1〕引用文献1の記載との対比
引用文献1には、培養床である回転円盤上に、円盤半径方向に移動するベルトコンベアー型搬送機(以下、コンベア式搬送機ともいう。)を有する回転式自動製麹装置が記載され、当該装置において、「搬送機自体の円盤上の中心部及び外周部への移動時間を円盤の周速度に逆比例して制御」することにより、盛込後の「麹基質の表面の切削」が不要な程度に「麹基質の盛込を均一にならしめる」ことが記載されている。すなわち、「円形培養床を回転させながら、培養床に麹基質を全面に自動的に盛込む方法」において、「麹基質の均一な盛込」を目的として「搬送機自体の円盤上の中心部及び外周部への移動時間を円盤の周速度に逆比例して制御」する方法が実質的に記載されているといえる。
ここで、引用文献1には円盤の回転数と搬送機の速度についての関係は明記されていないため、回転円盤が1回転する間の搬送機の往復回数が不明であり、また一回の麹基質の盛込量が明記されていないため、盛込終了までの円盤の回転数も不明であることから、本件発明の特徴である「麹基質を全面に薄層として盛込む操作を複数回繰返して目的とする層厚まで多層状に盛り込むこと」については直接的に記載されていないといえる。
しかしながら、引用文献1記載の装置を麹基質の盛込みに実際に用いると、麹基質は回転円盤上に螺旋状に供給されて行くはずであるが、コンベア式搬送機から供給される麹基質の量が、盛込始点と盛込終点を含めて常に一定量であるとは考えにくいから、円盤が1回回転する間で、目的とする層厚まで麹基質を全て盛り込もうとすれば、特に盛込始点と終点の出合う位置で盛込不足もしくは盛込過多の供給量ばらつきが起こり、引用文献1が目的とする「麹基質の均一な盛込」が達成できないことは当業者にとって明らかである。
してみれば、引用文献1の装置を実際に運転して麹基質の「均一な盛込」を達成するためには、盛込の始点及び終点での供給量ばらつきの影響を極力少なくすることが必須であるが、そのためには、1回の供給量を少なくして、始点で供給された基質層の上を何回か基質が通過するように、目的の層厚になるまで盛込操作を複数回繰返せばよいと想起することも、当業者にとってはむしろ当然の発想である。
ところで、引用文献1には、そもそも「麹基質の均一な盛込」を目的として、搬送機の円盤上での移動時間を円盤の周速度に逆比例して「制御」することが記載されており、上記「多層状の盛込操作」は、円盤の周速度に対する搬送機の移動時間をできるだけ速くするように「制御」すればよいことも明らかであるから、ここでいう「制御」としては、まさにこのような「多層状盛込操作」のための「搬送機移動時間の制御」が典型的な場合として包含されているといえる。
そうしてみると、引用文献1に接した当業者にとっては、引用文献1には、回転式自動製麹装置において、「培養床に麹基質を全面に薄層として盛込む操作を複数回繰返して目的とする層厚まで自動的に多層状に盛り込むこと」も実質的に記載されているに等しいということもできる。
とはいえ、この点が本件発明の特徴であり、引用文献1との唯一の相違点であるので、以下当該相違点について検討する。

〔2〕引用文献2の記載
引用文献2には、当該引用文献1の改良方法であることが明記されており、具体的には、当該引用文献1における欠点として(1)円形培養床の周速度に逆比例させるためのコントロールが困難であった点と共に、(2)盛込始点と終点に盛込みのない部分が生じる点、を挙げ、(1)(2)の2点を改良した方法であることが記載されている。
そして、その解決手段として、「回転式製麹装置の円形床面を盛込容積が同じとなるように同心円状に複数に分割すべく、盛込装置の麹基質供給口を各分割された盛込床面内で往復させ、所定の盛込高さになったとき他の分割盛込領域に移動させる(第1頁右下欄)」ものであることが記載され、具体例として、円形培養床を3分割し、各盛込領域には上下2段に供給される場合が図示されており、その作用について、「各分割された盛込領域内で複数回の盛込がなされるので、表面が脈状とならず平滑面となる(第2頁左上欄、下線は合議体による。)」旨記載されている。
つまり、引用文献1の回転式製麹装置における麹基質の盛り込みの際に、(1)「全面」ではなく「同心円状の分割領域」ごとに盛込むことと共に、(2)分割区画内での「複数回」の盛込みにより、引用文献1の2つの欠点を解決しようとしたものであることが読みとれる。ここで、後者の「複数回」盛込みの操作は、(2)の盛込始点と終点に盛込みのない部分が生じることによって表面が脈状になるのを防ぐために設けられたことは、上記下線部の記載からみても明らかである。
しかして、当該盛込み操作において1回ごとに供給される麹基質は「目的とする層厚」からみれば「薄層」であるはずだから、まさに、引用文献2には、分割された各盛込領域内において、供給された基質表面を脈状ではなく均質にする目的で、円形回転床に対して盛込装置(搬送機)を複数回往復させるという、麹基質を「薄層」として盛込む操作を複数回繰返して、目的とする層厚まで多層状に盛込むことが記載されていると認められる。
してみれば、引用文献1の自動製麹装置において、回転円盤上の全面に盛り込む場合にも、盛込始点と終点の盛込みむらを防ぎ麹基質表面を均一にしようとして、引用文献2の各分割盛込領域における盛込方法と同様に、麹基質を「薄層」として盛込む操作を複数回繰返して、目的とする層厚まで多層状に盛込むことは、当業者にとって極めて容易に想到できることである。
そして、そのことによる効果は、当業者が当然に期待する効果を越えるものではなく格別のものとはいえない。

〔3〕まとめ
以上述べたように、本件発明と引用文献1との相違点に対して何ら困難性は見いだせないから、本件発明は、引用文献1及び2の記載に基づいて当業者が容易に想到することができるとするのが相当である。

第5:被請求人の主張に対して
この点に関する被請求人の主張について、以下検討する。
〔1〕請求人自身が、本件発明が公開されるまで、「薄層多段式盛込法」の認識がなかった旨の主張について:
被請求人は、平成16年7月30日意見書において、新たに乙第8〜16号証を提出し、先に提出した乙第1号証の記載と合わせ、請求人自身が引用文献1の装置を用いて実際に麹基質を盛込む際に、1回転する間に所定の層厚までの麹基質の盛込みを終えていた旨主張しており、その根拠として、下記の(1)〜(3)の点を挙げている。
(1) 請求人自身の昭和47年から昭和59年にかけての出願明細書には、全て「所定厚さの1段盛込」の記載しかなかった(乙第8〜13号証)点。
(2) 本件特許公開後の平成6年に、本件と同様な薄層多段式盛込法の出願及び研究発表をしている(乙第6、14及び15号証)点。
(3) 被請求人の警告に対して、非侵害の抗弁しかしなかった(乙第1号証)点。

しかしながら、被請求人が挙げた上記各乙号証は、いずれも「搬送用スクリュー」を搬送機として用いている麹基質の盛込装置及び盛込方法に関する文献である。乙第1号証での抗弁の対象となった装置も同様である。
そして、「所定厚さの1段盛込」がなされていたとする本件公開日前の請求人自身の乙第8〜13号証は、いずれも搬送用スクリュー(回転スクリュー)と共に、表面を均一にならすための手入れ用切刃を有する装置に関するものである。
一方、引用文献1及び2はいずれもコンベア式搬送機を用いており、しかも特に手入れ切刃等の手入れ機を設けていない点で、全く異なる機構を有する装置であるといえるから、「搬送用スクリュー」タイプにおける開発の経緯・事情を直ちに当該装置の場合に当てはめることはできない。
そうであるから、仮に請求人自身が従来は「搬送用スクリュー」タイプの麹基質盛込装置では搬送用スクリューと手入れ用切刃により「所定厚さの1段盛込」を行っており、平成6年以降になってはじめて搬送用スクリューのみによる薄層多段式盛込法を開発したことが事実であったとしても、引用文献1における、コンベア式搬送機タイプを用いた場合の盛込方法も「所定厚さの1段盛込」であったことを立証することにはならない。むしろ反対に、引用文献1での「制御」は、「手入れ切刃」を伴わないにもかかわらず「均一盛込」を目的とするものであるから、当該「制御」が「薄層多段盛込」であったことを強く示唆するものでもある。
なお、たとえ請求人自身が引用文献1を出願した時点(昭和48年)で「薄層」として盛込む操作を複数回繰返して、目的とする層厚まで多層状に盛込むことについての認識がなかったとしても、また仮に請求人自身は本件出願内容が公開されるまで当該認識に至らなかったことが事実であったとしても、上記認定は左右されない。つまり、引用文献1がひとたび公知文献として当業者の知るところになった以上、その開示内容は本件出願(平成2年2月16日)当時の当業者全てが共有する情報であるから、請求人自身の認識を云々すること自体が失当である。
したがって、この点についての被請求人の主張は採用できない。

〔2〕本件出願以前において、麹基質の盛込厚さが薄かったため、基質表面を均質にするという課題自体がなかった旨の主張について:
被請求人は、平成16年1月27日審判事件回答書において、「本件特許の出願以前は、麹基質の盛り込み厚さがせいぜい30cm程度であり、一度に所定厚さまで盛り込むことに当時としては何ら問題はなかった。本件出願時の平成2年以降現在のように50〜60cm厚になってはじめて本件方法の全面薄層多段の発想が生まれたのである。」旨主張しており、平成16年7月30日付意見書でも同様の主張をしているので、その点についても述べる。
引用文献3の連続自動蒸きょう製麹装置においては、資料を10〜20cmずつの薄層として供給して蒸きょうし、「10〜20cmずつ堆積層が増すように」少なくとも3回以上繰り返した後、崩壊手入れ機で資料の崩壊、種切りをしてから、同一の培養床で製麹まで行うことが記載されている(第3頁右下欄〜第4頁左上欄)。すなわち、その際の麹基質の盛込層の厚さは、少なくとも30〜60cm、さらにはそれ以上であることが読みとれることができ、当該層厚が特別のものである旨の記載はない。
なるほど、当該装置は原料米を蒸きょうから製麹まで一貫して行う装置であり、「薄層多段」とした目的が蒸きょうの均一化を図るためである旨記載されているものの、「薄層多段」とした原料米は、蒸きょう冷却後そのまま麹基質として製麹工程に移行することになるから、製麹工程時の麹基質の層厚が「少なくとも30〜60cm、さらにはそれ以上」であることにかわりはない。
また、昭和44年という本件出願から20年以上も前の一般図書である引用文献4にすら、麹基質の盛込層の厚さとして30〜50cmの厚さも必要に応じて採用されていた旨のことが記載されていることからみても、30cm以上の層厚が平成2年以降になってはじめて採用されるようになった層厚であるということはできない。
なお、たとえ本件出願前の麹基質の層厚が一般的に30cm程度であったことが事実であったとしても、1回で所定厚さまでの盛込に問題がなかったことにはならない。上述の如く引用文献1及び2には、盛込時の麹基質の表面を均一にするという目的が記載されており、そもそも被請求人が提示した本件出願前の乙第8〜11号証において設けられている手入れ切刃の役割が盛込時の表面を均一にすることにあることは明らかであることからも、盛込始点及び終点の供給量ばらつきを原因とする麹表面の不均一性をなくそうとする技術的課題の存在は、麹基質の層厚に関わりなく存在していたとするのが相当である。
いずれにしても、この点についての被請求人の主張も採用できない。

第5:まとめ
以上述べたとおりであるから、本件発明は、引用文献1及び2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので取消を免れない。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2004-10-19 
結審通知日 2004-10-27 
審決日 2004-11-15 
出願番号 特願平2-37095
審決分類 P 1 122・ 121- Z (C12M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鵜飼 健  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 種村 慈樹
河野 直樹
登録日 1999-11-19 
登録番号 特許第3002732号(P3002732)
発明の名称 麹基質の自動盛込方法及び自動盛込装置  
代理人 森 廣三郎  
代理人 森 寿夫  
代理人 石山 博  
代理人 中務 茂樹  

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