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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C |
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管理番号 | 1110721 |
審判番号 | 不服2002-9018 |
総通号数 | 63 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1992-12-11 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-05-20 |
確定日 | 2005-01-24 |
事件の表示 | 平成 3年特許願第174293号「Ni-Cr-Fe系軟質磁性合金」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年12月11日出願公開、特開平 4-358045〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成3年6月4日の出願であって、平成14年4月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成14年5月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、当審において平成16年4月6日付けで拒絶の理由が通知され、平成16年6月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願請求項1、2に係る発明は、平成16年6月11日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 3×(Ni%)-5×(Cr%)≦80の条件で35〜40重量%のNi及び5〜14重量%のCrを含有し、残部が実質的にFeからなるNi-Cr-Fe系合金において、S≦0.0010重量%及びO≦0.0024重量%で且つS+O≦0.0032重量%となるようにS及びOを規制し、更にSi≦0.30重量%,Mn≦0.80重量%,P≦0.03重量%及びAl≦0.30重量%となるようにSi,Mn,P及びAlを規制したことを特徴とするNi-Cr-Fe系軟質磁性合金。」(以下「本願発明1」という。) 3.刊行物の記載事項 当審の拒絶の理由に引用された引用例1(特開昭60-248865号公報)、引用例2(特開平1-252756号公報)及び引用例3(特開平3-90546号公報)には、それぞれ以下の事項が記載されている(なお、拒絶理由通知において引用例3を特開昭3-90546号公報と記載しているが、「特開昭」は「特開平」の明らかな誤記であり、審判請求人も平成16年6月11日付け意見書において、特開平3-90546号公報として対応しているから、再度拒絶理由を通知しないこととする)。 (1)引用例1:特開昭60-248865号公報 (1a)「本願発明は、高透磁率合金に関し、・・・・・CとOとNiとSiとSとMnとAlとMgの含有率に加えてMoとCuとCrとNbとTaとWとVの含有率を限定することにより磁気特性および機械的特性を高めたものである。」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第3行) (1b)第1図には、「PB材」(高透磁率Fe-Ni系合金)の成分組成が示されており、「従来合金」No.1〜4と「本発明合金」No.5〜9の「S(%)」がいずれも「0.001」と示されている。(第3頁右下欄) (2)引用例2:特開平1-252756号公報 (2a)「なお、P,S,O,Nなどの不可避的不純物は交流磁気特性の向上の点からは、できる限り低減することが望ましい。」(第3頁左上欄第9行〜同欄第11行) (2b)第1表には、Ni-Fe-Cr系軟質磁性合金の成分組成が示されており、その試料No.10、12、18の「S」の含有量(%)が「0.001」と示されている。(第3頁下欄) (3)引用例3:特開平3-90546号公報 (3a)「本発明は、Ni:35〜40% Cr:5〜14% を含み残部Feおよび不可避的不純物からなり、さらに 3(Ni%)-5(Cr%)≦80 かつ (Ni%)-(Cr%)≧25 を満足する交流磁気特性に優れた磁気シールド部材用Ni-Fe-Cr軟質磁性合金を提供する。本発明は上記合金であって、不純物元素であるS、O、Bがそれぞれ S≦0.003% O≦0.005% B≦0.008% かつ S+O+B≦0.008 を満足する合金を提供する。なお脱酸剤として使用されるSi、Alおよび脱酸、脱硫剤として使用されるMnが総量で1%以下含有することは許される。」(第2頁左上欄第18行〜同頁右上欄第18行) (3b)「S、O、B、P、Nなどの不純物元素は、磁気特性の向上の点からできる限り低減することが望ましい。」(第2頁右下欄第6行〜同欄第8行) (3c)第1表には、No.27の合金例が「Ni:37.9,Cr:7.8,C:0.01,Si:0.18,Mn:0.45,Al:0.023,P:0.010,N:0.0021,S:0.0012,O:0.0013,B:0.0010,S+O+B:0.0035」と示されている。(第3頁下欄) 4.当審の判断 4-1.引用発明 引用例3の上記(3a)には、「Ni:35〜40% Cr:5〜14% を含み残部Feおよび不可避的不純物からなり、さらに、3(Ni%)-5(Cr%)≦80 かつ (Ni%)-(Cr%)≧25 を満足する交流磁気特性に優れた磁気シールド部材用Ni-Fe-Cr軟質磁性合金」が記載され、この具体的な合金例として、上記(3c)には、「Ni:37.9,Cr:7.8,C:0.01,Si:0.18,Mn:0.45,Al:0.023,P:0.010,N:0.0021,S:0.0012,O:0.0013,B:0.0010」という組成のNi-Fe-Cr軟質磁性合金が記載されている。そして、この合金例の「3(Ni%)-5(Cr%)」は、74.7であり、「S+O」も0.0025%であるから、これら記載を本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例3には、 「3×(Ni%)-5×(Cr%)=74.7の条件で37.9重量%のNi及び7.8重量%のCrを含有し、残部が実質的にFeからなるNi-Cr-Fe系合金において、S:0.0012重量%及びO:0.0013重量%で且つS+Oが0.0025重量%にS及びOを規制し、更にSi:0.18重量%、Mn:0.45重量%、P:0.010重量%、Al:0.23重量%にSi、Mn、P及びAlを規制し、B:0.0010重量%を含むNi-Cr-Fe系軟質磁性合金」という発明(以下「引用発明」という)が記載されているといえる。 4-2.対比・判断 そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、「3×(Ni%)-5×(Cr%)=74.7の条件で37.9重量%のNi及び7.8重量%のCrを含有し、残部が実質的にFeからなるNi-Cr-Fe系合金において、O 0.0013重量%で、S+O=0.0025重量% に規制し、更にSi 0.18重量%、Mn 0.45重量%、P 0.010重量%、Al 0.23重量%となるようにSi,Mn,P及びAlを規制したNi-Cr-Fe系軟質磁性合金」という点で一致し、以下の点で相違する。 相違点イ:本願発明1は、「S≦0.0010重量%」であるのに対して、引用発明は、「S 0.0012重量%」である点 相違点ロ:本願発明1は、Bを含まないのに対して、引用発明は、Bを0.0010重量%含む点 そこで、上記相違点について検討する。 (i)相違点イについて 引用例3の上記(3b)には、「S、O、B、P、Nなどの不純物元素は、磁気特性の向上の点からできる限り低減することが望ましい。」と記載されているから、引用発明でも、磁気特性を向上させるためには、その「S」の含有量をできる限り低減させる方が望ましいことは明らかである。そして、軟質磁性合金において、その磁気特性を向上させるために、その「S」の含有量を0.001重量%まで低減させることも、引用例1の上記(1a)及び(1b)並びに引用例2の上記(2a)及び(2b)に記載されているとおり既に周知の事項であるから、磁気特性をさらに向上させるために、引用発明のS含有量を0.0012重量%から「S≦0.0010重量%」まで低減することは、当業者が容易に想到することができたといえる。 (ii)相違点ロについて 引用発明の「B」は、引用例3の上記(3a)及び(3b)の記載から明らかなように、不純物元素であるから、本願発明1が磁気特性の向上のためにその含有量を低減する「S、O」という不純物と同種のものであると云える。 本願発明1は、明細書の段落【0019】の「Bは、本来拡散し易い元素であり、水素雰囲気中で行われる磁気焼鈍時の焼鈍条件を選択することにより完全に除去することができる。この点で、本発明は、Bに関する制約を緩和した利点も兼ね備えている。」という記載によれば、その「B」の除去容易性のためにその制限すべき不純物の対象から除外しているが、Bを含有しない方が磁気特性の改善に有利であることは、両者に共通していることであって、しかも引用例3によって知られていることであるから、Bを制限すべき不純物の対象とするか否かの取捨選択は当業者であれば適宜容易になし得ることと云うべきである。 してみると、本願発明1の上記相違点イ及びロは、いずれも引用例1乃至3の記載や周知事項に基づいて当業者が容易に想到することができたことであるから、本願発明1は、引用例1乃至3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。 5.むすび したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-11-12 |
結審通知日 | 2004-11-24 |
審決日 | 2004-12-07 |
出願番号 | 特願平3-174293 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C22C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 陽一 |
特許庁審判長 |
沼沢 幸雄 |
特許庁審判官 |
綿谷 晶廣 平塚 義三 |
発明の名称 | Ni-Cr-Fe系軟質磁性合金 |
代理人 | 小倉 亘 |