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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1111918
審判番号 不服2001-5719  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-06-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-04-12 
確定日 2005-02-07 
事件の表示 平成10年特許願第245269号「ドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジーを処置するためにAMPAレセプターアンタゴニストを投与する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月15日出願公開、特開平11-158072〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成10年8月31日(優先権主張1997年9月5日、米国)に出願されたものであって、平成13年1月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成13年4月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成13年4月12日付け及び平成13年4月25日付けで手続補正がされたものである。

2.平成13年4月12日付け及び平成13年4月25日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成13年4月12日及び平成13年4月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]

ア)平成13年4月25日付け手続補正について

この補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「哺乳動物のドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジーを処置する薬剤であって、群(C)、(D)もしくは(E)の内に入る化合物または前記化合物の薬学的に許容可能な塩の前記ジスキネジーを処置するのに有効な量を含み、群(C)、(D)および(E)が、以下のように:
(C)3-(2-クロロ-フェニル)-6-フルオロ-2-(2-ピリジン-2-イル-ビニル)-3H-キナゾリン-4-オン;
・・・・・・・・・・・・・
(D)6-クロロ-3-(2-クロロ-フェニル)-2-[2-ヒドロキシ-2-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-ビニル]-3H-キナゾリン-4-オン;
・・・・・・・・・・・・・)
(E)3-(2-クロロ-フェニル)-6-フルオロ-2-[(ピリジン-2-イルメチル)-アミノ]-3H-キナゾリン-4-オン;
・・・・・・・・・・・・・・・
であると定義される、前記薬剤。」(請求項1の記載のうち各化合物群の第2番目以降に列挙された化合物名は省略した。)
と補正された。

上記補正は、平成13年4月12日付け手続補正書に記載の請求項1及び4の(D)群化合物中の誤記を正した補正であるから、特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

アー1)化合物の製造方法の記載不備について
補正後の請求項1に記載の群(C)、(D)及び(E)の化合物の製造法に関連するものとして本願明細書の段落【0020】には、
「群(A)、(B)、(C)、(D)、(E)および(F)の化合物は、容易に製造される。群(A)の化合物は、上記した米国仮特許出願No.60/03890(1997年2月28日出願)に記載された1種以上の方法に従い、アトロプ異性体として製造および分離することができる。群(B)の化合物は、上記した米国仮特許出願 No. 60/038540(1997年2月28日出願)に記載された1種以上の方法に従い、アトロプ異性体として製造および分離することができる。群(C)の化合物は、上記したPCT国際出願No. PCT/IB97/00134(1997年2月17日出願)(WO 97/43276)に記載された1種以上の方法に従い製造することができる。群(D)の化合物は、上記した米国仮特許出願No. 60/049083(1997年6月9日に出願)(EP出願 98304522、公開No.EP0884316に対応する)に記載された1種以上の方法に従い製造することができる。群(E)の化合物は、上記した米国仮特許出願 No. 60/049082(1997年6月9日に出願)(EP出願98306719、公開No.EP0884310に対応する)、および、上記した発明者としてBertrabnd L. Chenard, Williard M. Welch and Anthony R. Reinhold連名で1997年7月21日に出願された“Quinazolin-4-one AMPA Antagonists“と題する米国仮特許出願に記載された1種以上の方法に従い製造することができる。群(F)の化合物は、上記した発明者としてBertrand L. Chenard and Willard M. Welch 連名で1997年8月27日に出願された“Novel Atropisomers Of 2,3-Disubstituted-(5,6)-Heteroarylfused-Pyrimidin-4-ones"と題する米国仮特許出願に記載された1種以上の方法に従い製造することができる。」との記載がある。

本願補正発明は「哺乳動物のドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジーを処置する薬剤」であって化合物(C)、(D)及び(E)の医薬用途に関する発明であるが、これらの化合物は本願優先日においても現実の出願日においてもその製法が広く知られているとはいえない化合物である。
一般に、化学物質を化学反応によって製造することができるか否かは、実際に実験してみなければ分らないものであって、化学理論上進行しうると考えられる反応でも現実には進行しない場合があるということは、当業者が日常経験するところである。
そうすると、本願の化合物についてはその製造方法や製造して得られる物質がその化合物であることを確認するための物性値を知らなければ当業者は当該医薬化合物を製造することができない。しかるに、補正後の本願明細書には、上記のとおり、その製造方法はもとより、その物性値等、これが現実に製造されたことを裏付ける記載は見あたらない。各化合物群について対応する出願番号や公開番号の記載はあるものの、これらの記載は単なる出願や公開番号を特定する数字としての意味しかなく、その化合物の入手方法や製造方法を記載したことにはならない。

なお、本願明細書を理解するにあたり、出願時の技術常識を利用することは許されるとしても、(D)の出願に対応する欧州特許出願公開第884316号明細書(1998年12月16日発行、その最先公知のファミリーであるメキシコ国第9804631号明細書も1998年12月1日に発行)、(E)の出願に対応する欧州特許出願公開第884310号明細書(1998年12月16日発行、その最先公知のファミリーであるカナダ国特許第2240138号明細書も1998年12月9日に発行)は、本願の出願日(1998年8月31日)より後に公開されたものである。また、(C)の出願に対応する国際公開第97/43276号パンフレット(公知日1997年11月20日)は、本願出願日の9ヶ月前に公開されているものの、この1つの文献の存在から直ちに化合物(C)の製造方法が本願出願時の当業者の技術常識であるとすることはできない。

そうすると、化合物(C)、(D)及び(E)のいずれも明細書にその製法や物性の具体的な記載がなく、かつ出願時の技術水準を参酌しても当業者が容易に実施できるようには記載されていないと言う他はない。
したがって、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明を当業者が容易に実施できるように記載されていないから、特許法第36条第4項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

アー2)薬理作用の記載不備について

補正後の本願明細書は以下の点でも不備であるから、この理由によっても独立して特許を受けることができない。

本願補正発明の医薬用途は、「ドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジーを処置する薬剤」であるとされ、それに対する薬理試験結果は、培養した小脳細胞を予め試験化合物とインキュベートし、その細胞を、AMPAレセプターアゴニストのカイニン酸と45Ca2+と反応させ、45Ca2+の細胞への取り込みが50%低下した化合物の適用濃度で示したもの(表1)が示されている。
このことから、試験化合物が小脳細胞でAMPAレセプターアゴニストの作用に拮抗する作用を示していることは認められるが、AMPAレセプターは運動に関する領域の他、記憶などにも作用することが知られているのであるから、この試験方法によって、直ちに試験化合物が「ドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジー」を治療する薬剤であることを証明するものとは認められない。そして、本願明細書には化合物(C)、(D)及び(E)が「ドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジー」の治療に有用であることを裏付ける具体的実験データの記載はなく、AMPAレセプターアゴニストの拮抗作用を有しさえすれば「ドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジー」の治療効果が得られることの理論的な説明もなされていない。

そうすると、本願明細書の記載から、本願の化合物を上記疾病の処置に使用する薬剤とすることの技術的意義を当業者は理解することができない。
請求人は、明細書の段落【0029】の記載でサルのジスキネジーモデルを用いて評価しているとするが、当該箇所は単に評価のための試験方法が記載されているのみであって、具体的試験化合物の薬理作用を確認した結果が記されているわけではない。
したがって、試験化合物がAMPAレセプタ-アンタゴニストであることを確認したのみでは、ドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジーの治療に有効であることが開示されているとすることはできない。

イ)平成13年4月12日付け手続補正について

上記補正は拒絶査定時の請求項1に記載されていた群(A)及び(B)の化合物を削除するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、補正後の請求項1の記載は(D)に列挙された化合物の一部に誤記がある点を除き前記の平成13年4月25日付け手続補正書に記載された請求項1とその記載は同一である。
そうすると、この補正後の発明にしても上記に述べたと同じ理由により特許出願の際、独立して特許を受けることができない。

ウ)結論
以上のとおりであるから、本件両補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

平成13年4月12日付け及び同年4月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成12年5月29日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「哺乳動物のドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジーを処置する薬剤であって、群(A)、(B)、(C)、(D)もしくは(E)の内に入る化合物、または、前記化合物の薬学的に許容可能な塩の前記ジスキネジーを処置するのに有効な量を含み、群(A)、(B)、(C)、(D)および(E)が、以下のように:
(A) (S)-3-(2-クロロ-フェニル)-2-[2-(5-ジエチルアミノメチル-2-フルオロ-フェニル)-ビニル]-6-フルオロ-3H-キナゾリン-4-オン;
・・・・・・・・・・・・・
(B) (S)-6-フルオロ-2-[2-(2-フルオロ-フェニル)-ビニル]-3-(2-メチル-ピリジン-3-イル)-3H-キナゾリン-4-オン;
・・・・・・・・・・・・・
(C) 3-(2-クロロ-フェニル)-6-フルオロ-2-(2-ピリジン-2-イル-ビニル)-3H-キナゾリン-4-オン;
・・・・・・・・・・・・・
(D) 6-クロロ-3-(2-クロロ-フェニル)-2-[2-ヒドロキシ-2-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-ビニル]-3H-キナゾリン-4-オン;
・・・・・・・・・・・・・
(E) 3-(2-クロロ-フェニル)-6-フルオロ-2-[(ピリジン-2-イルメチル)-アミノ]-3H-キナゾリン-4-オン;
・・・・・・・・・・・・・
であると定義される薬剤。」
(請求項1の記載のうち各化合物群の第2番目以降に列挙された化合物名は省略した。)

本願発明は、アー1)で検討した本願補正発明の(C)、(D)及び(E)に加え、本願優先日当時新規物質である群(A)及び(B)から有効成分を選択しうる薬剤に係るものである。そして、本願明細書における化合物(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)の製造方法についての記載内容は、アー1)で引用した段落【0020】の記載において、(A)(B)の化合物に対応する米国仮出願に更に以下のようにPCT出願番号及びPCT公開番号の記載が存在するものである。

「群(A)、(B)、(C)、(D)、(E)および(F)の化合物は、容易に製造される。群(A)の化合物は、上記した米国仮特許出願No.60/038905(1997年2月28日出願)(PCT出願98/IB00150、公開No.WO98/38173に対応する)に記載された1種以上の方法に従い、アトロプ異性体として製造および分離することができる。群(B)の化合物は、上記した米国仮特許出願 No. 60/038540(1997年2月28日出願)(PCT出願98/IB00151、公開No.WO98/38187に対応する)に記載された1種以上の方法に従い、アトロプ異性体として製造および分離することができる。・・・・・・・”Novel Atropisomers Of 2,3-Disubstituted-(5,6)-Heteroarylfused-Pyrimidin-4-ones”(EP出願98306744、公開No.EP090799に対応する)と題する米国仮特許出願に記載された1種以上の方法に従い製造することができる。」
(・・・で省略した部分は上記アー1)に摘記した記載と同一である。)

そうすると、本願発明の一部である化合物群(C)(D)及び(E)に対しても、前記アー1)に記載したとおり、発明の詳細な説明の記載が当業者が容易に実施できる程度に記載されていないものであり、さらに、群(A)及び(B)の化合物についても単に米国仮特許出願番号とPCT出願番号及びその公開番号が記載されているだけで具体的な製造方法が記載されていないのであるから、上記アー1)で述べたと同様の記載不備がある。

なお、請求人は、平成15年10月27日付けの回答書において、薬剤の有効成分を群(C)の化合物のみに減縮する補正をする意向を示しているが、かかる補正によっても本願明細書のアー1)及びアー2)に指摘する不備は解消するものではない。

(3)むすび

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を容易に実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-09-03 
結審通知日 2004-09-07 
審決日 2004-09-28 
出願番号 特願平10-245269
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横尾 俊一内藤 伸一  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 深津 弘
渕野 留香
発明の名称 ドーパミンアゴニスト療法に付随するジスキネジーを処置するためにAMPAレセプターアンタゴニストを投与する方法  
代理人 社本 一夫  
代理人 富田 博行  
代理人 今井 庄亮  
代理人 小林 泰  
代理人 増井 忠弐  

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