• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01C
管理番号 1112580
審判番号 不服2000-16961  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-02-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-10-25 
確定日 2005-02-28 
事件の表示 平成11年特許願第214558号「田植機」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月 8日出願公開、特開2000- 37115〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第一、手続きの経緯
本願は、平成8年2月14日に特許出願した特願平8-52399号を、平成11年7月29日にその一部を分割して新たな特許出願とした特願平11-214558号の出願であって、平成12年9月19日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月22日付で手続補正がなされたものである。

第二、平成12年11月22日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成12年11月22日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「複数組のホッパ(37)(371)(372)及び繰出ケース(38)(381)(382)を左右方向に並設させる施肥部(36)を走行車(1)に設ける田植機において、中央のホッパ(37)及び繰出ケース(38)に対して左右のホッパ(371)(372)及び繰出ケース(381)(382)を回動自在に取付け、左右の繰出ケース(381)(382)に設ける繰出軸(137)を中央の繰出ケース(38)に設ける固定側軸(109)に対して着脱自在に噛合連結させ、爪体(138)(139)によって左右の繰出ケース(381)(382)の繰出軸(137)と中央の繰出ケース(38)の固定側軸(109)を連結させると共に、中央の繰出ケース(38)の固定側軸(109)端部の爪体(138)を中央のホッパ(37)の左右幅内に設け、前記爪体(138)(139)の噛合連結位置の前側に設ける支点軸(142)回りに左右繰出ケース(381)(382)を回転させて車体カバー(12)側部の補助ステップ(125)上方に移行させることを特徴とする田植機。」と補正された。

上記補正は
補正前(平成12年1月25日付手続補正により補正された特許請求の範囲)の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「左右繰出ケース(381)(382)」について、「爪体(138)(139)の噛合連結位置の前側に設ける支点軸(142)回りに回転させて車体カバー(12)側部の補助ステップ(125)上方に移行」させるように限定するものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2の1)特許法第29条第2項の検討
(あ)引用刊行物に記載された発明
引用刊行物1;特開平7-274645号公報
引用刊行物2;特開平5-304805号公報
引用刊行物3;特開平7-123821号公報

原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-274645号公報(以下、「引用刊行物1」という)の、
公報第2頁第2欄第27行乃至第39行には、
「図中(1)は作業者が搭乗する走行車であり、(中略)ステップ(11)を介して作業者が搭乗する車体カバー(12)によって前記ギヤ変速ケース(4)等を覆い、前記車体カバー(12)上部に運転席(13)を取付け、」と、
公報第3頁第4欄第1行乃至第11行には、
「肥料を入れるタンク(46)、肥料を定量供給する繰出ケース(47)、フロート(34)(35)の側条施肥シュート(48)にフレキシブル形送出パイプ(49)を介して肥料を排出させる送風ターボファン(50)と、円筒形の施肥本体フレーム(51)とを、前記施肥機(36)に備えると共に、開閉自在な蓋(52)によって施肥本体フレーム(51)右側開口を閉塞し、施肥本体フレーム(51)左側端にターボファン(50)を取付け、6条分の6組の繰出ケース(47)…と送出パイプ(49)…を施肥本体フレーム(51)に配設させている。」と、
公報第4頁第5欄第22行乃至第30行には、
「また、前記施肥本体フレーム(51)にケースブラケット(68)を溶接固定させ、該ケースブラケット(68)に前記繰出ケース(47)をボルト止め固定させるもので、1ユニットとして構成する2条分の繰出ケース(47)(47)を左右の昇降レール(56)(56)間に配設させ、昇降レール(56)(56)の機外側に2条分の繰出ケース(47)(47)を夫々配設させ、2条1組として3ユニットの繰出ケース(47)…を左右に並設させている。」と、
公報第4頁第5欄第31行乃至第34行には、
「さらに、図10、図11、図12、図13、図14に示す如く、前記繰出ケース(47)の上面前側の取入口(69)に前記タンク(46)下部出口を嵌着させると共に、」と、
公報第5頁第8欄第11行乃至第32行には、
「また、前記繰出ケース(47)にクラッチケース(121)を固定させると共に、前記繰出軸(87)上端側にベベルギヤ(122)(123)を介して入力軸(124)を常時連結させるもので、入力軸(124)を前記クラッチ軸(116)に継断自在に連結させる条止めクラッチ(125)を備え、該クラッチ(125)を前記クラッチケース(121)に内設させると共に、前記条止めクラッチ(125)を継断操作するクラッチレバー(126)とクラッチアーム(127)を前記クラッチケース(121)の前後に振分け配設させ、(中略)そして、前記植付け条止めレバー(128)操作によって6条植え用の各植付爪(17)…のいずれかを停止させたとき、停止させた植付爪(17)に対応する条止めクラッチ(125)を切断動作させて施肥動作を中止させ、植付爪(17)によって苗を植付ける条にだけ施肥を行うもので、例えば左側と中央の4条の苗植付けを行うとき、左側と中央の4条の繰出ケース(47)…から施肥を行うと共に、」と、
公報第6頁第9欄第8行乃至第13行には、
「ターボファン(50)の送風により、繰出ケースに取出されたタンク(46)の肥料(A)が送出パイプ(49)から側条施肥シュート(48)に送出され、植付爪(17)による苗の植付け条に隣接させて肥料(A)を埋込む側条施肥が行われる。」と、
公報第6頁第10欄第18行乃至第26行には、
「【発明の効果】以上実施例から明らかなように本発明は、走行車(1)の車体フレーム(3)後端部にリンクフレーム(40)を立設させ、植付部(15)を支持させるリンク機構(27)を前記リンクフレーム(40)に連結させる乗用田植機において、前記車体フレーム(3)後端部でリンクフレーム(40)上側にベースフレーム(53)を取付け、左右方向に横架させる前記ベースフレーム(53)を介して施肥機(36)を設けたもので、」と、それぞれ記載されている。
そして、これらの記載と図面、特に施肥機部の背面図である【図1】の記載事項とを併せると、
引用刊行物1には、
「6組のタンク(46)及び繰出ケース(47)を左右方向に並設させる施肥機(36)を走行車(1)に設ける乗用田植機において、施肥本体フレーム(51)に対して中央の2条分の繰出ケース(47)及びタンク(46)と左右夫々に2条分の繰出ケース(47)及びタンク(46)とを取付け、繰出ケース(47)に固定されたクラッチケース(121)内でクラッチ軸(116)と入力軸(124)とを継断自在に連結させると共に、走行車(1)に車体カバー(12)を備えた乗用田植機」の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されていると認められる。

また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-304805号公報(以下、「引用刊行物2」という)の、
公報第2頁第1欄第33行乃至第45行には、
「【課題を解決するための手段】この発明は、前記の従来技術のもつ課題を解決すべく、乗用型走行車体1にリンク機構23を介して苗植装置25を上下動自在に装着した乗用型苗植機に施肥装置36を装備してなる施肥装置付き乗用型苗植機において、(中略)施肥装置36の施肥タンク37の機体左右方向幅を左右最外側の苗植付け装置33・33の左右幅と同じかそれよりも小さくなるように構成した施肥装置付き乗用型苗植機としたものである。」と、
公報第2頁第1欄第47行乃至第2欄第6行には、
「【発明の作用効果】この発明は、上記のように構成したので、通常の施肥田植え作業時には適正な作業ができ、圃場から別の圃場へ移動する時・路上走行をする時・トラックに積む時・納屋に保管する時等には、(中略)施肥タンク37…の機体左右方向幅も左右最外側の苗植付け装置33・33の左右幅と同じかそれよりも小さいので、移動及び積込が容易に行なえ、保管場所も狭くてすむ。」と、
公報第3頁第3欄第3行乃至第10行には、
「21はFRPにて成型された車体カバ-であって、エンジン4の周囲を覆うエンジンカバ-部21aと、前記エンジン4の前方及び左右側方に設けられたステップ21bと、ハンドルポストカバー21cと、エンジン4の後方に設けられたステップ21dとが一体形成され、左右フレーム2・2上に固定されている。22は操縦座席で、前記車体カバー21上面に設置固定されている。」と、
公報第3頁第4欄第10行乃至第23行には、
「36は施肥装置であって、前記支持フレーム24の上端部に固着されており、施肥タンク37…と、該各施肥タンク37…の下部に装着され施肥タンク37内の粒状肥料を一定量づつ繰り出す肥料繰出装置38…と、該肥料繰出装置38にて繰り出された肥料を案内する透明の施肥パイプ39…と、(中略)とにより構成されている。尚、41は肥料繰出装置38…を駆動する駆動アームであって、移動フレーム3上に固設の施肥駆動ケース42に連結されており、施肥駆動ケース42には走行ミッションケース5より駆動軸43にて動力が伝達されるように構成されている。」と、
公報第3頁第4欄第24行乃至第32行には、
「そして、施肥タンク37…は2条単位の3つの肥料タンク37a…と1条単位の2つの肥料タンク37b…とにより構成され、1条単位の2つの肥料タンク37b…は2条単位の3つの肥料タンク37a…の左右両外側に各々蝶番37c・37cにて連結されており、図3に示すようにイ方向に収納できるように構成されている。尚、1条単位の2つの肥料タンク37b…は収納位置と施肥作用位置とで周知の係合部材で固定できるように構成している。」と、
公報第4頁第6欄第12行乃至第16行には、
「施肥タンク37…も左右外側の1条単位の肥料タンク37b…をイ方向に回動させて収納位置とすれば、機体の横幅は左右最外側の苗植付け装置33・33の幅W1となり、移動及び積込が容易に行なえ、保管場所も狭くてすむ。」と、それぞれ記載されている。
そして、これらの記載と、乗用型田植機の全体側面図である【図1】及び主要構成部材を示す平面図である【図2】並びに主要構成部材の作用を説明する平面図である【図3】の記載事項とを併せると、
引用刊行物2には、
8条分の肥料タンク37a,37b及び肥料繰出装置38…を左右方向に並設させる施肥装置36を乗用型走行車体1に設ける乗用型田植機において、中央の肥料タンク37a及び肥料繰出装置38…に対して左右の肥料タンク37b…及び肥料繰出装置38…を回動自在に取付け、肥料繰出装置38…は施肥駆動ケース42に連結される駆動アーム41により駆動され、中央の肥料タンク37aと左右の肥料タンク37b…との連結位置の前側に設ける蝶番37c,37cの回りに左右の肥料繰出装置38…を回転させて車体カバー21のステップ21d上方に移行させることにより、移動及び積込が容易に行なえ、保管場所も狭くてすむ施肥装置36付き乗用型田植機」の発明が記載されていると認められる。

また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-123821号公報(以下、「引用刊行物3」という)の、
公報第2頁第2欄第21行乃至第45行には、
「乗用田植機1は、走行車体2の後側に昇降作動する昇降リンク装置3を介して苗移植機4が装着されて構成されている。また、走行車体2の後部には、側条施肥装置5が設けられている。側条施肥装置5は、肥料を収容する横長で一体のホッパー部5aとその下側に苗植付条数と同数個横一列で一体的に設けられる肥料繰り出し部5b…が座席20の後側で苗載台42の前側、且つリヤステップ部21c上に配置され、各肥料繰り出し部5b…と各条植付個所近傍に設けられた施肥ガイド部5d…がホース5c…で連結され、そのホース5c…内を流れる圧風により肥料繰り出し部5b…で繰り出された肥料が施肥ガイド部5d…に搬送されて側条施肥されるように構成されている。(中略)尚、ブロアー5eは左側外側方に突出しているが、機体を左右幅縮小するときは、エアーチャンバー5fとの連結を外して上下軸5g回りに回動させ左右方向内側に移動させられるようになっている。」と、
公報第3頁第3欄第39行乃至第41行には、
「更に、エンジンEの上側がエンジンカバー19で覆われ、そのカバー19上に座席20が取り付けられている。」と、
公報第3頁第4欄第38行乃至第4頁第5欄第1行には、
「【0012】また、走行車体2には、メインステップ21が座席20より低位で前輪6・6の上側を覆うようにして設けられている。このステップ21は、座席20及びハンドル18の左右両側の左右ステップ部21a・21aと、座席20の前側で左右ステップ部を連繋する中央ステップ部21bとで構成される。また、座席20の後側には、メインステップ21よりステップ面が高く後輪7・7の上側を覆うようにしたリヤステップ部21cが、左右ステップ部の後端部を連繋するように左右にわたって設けられている。
【0013】更に、左右拡張ステップ22・22が、左右ステップ部21a・21aの左右両外側で、前輪車軸上方位置近傍からリヤステップ部21c左右外側位置に渡って設けられている。」と、
公報第5頁第7欄第20行乃至第39行には、
「【0021】また、苗載台42の各条苗載面42a…下位側にはベルト式の苗縦送り装置45…が設けられていて、苗載台42が左右方向に移動して植付装置41…が苗分割口43c…から苗の下端部一列分を分割し移植し終えると、次に分割し移植される下端部一列分が苗分割口43c…上に位置するよう苗を移送する。この苗縦送り装置45の構成は、駆動ローラー45aと回転自在に支持された回転ローラー45bとそのローラー45a、45bに掛け回された無端で外周に小突起の付いた苗送りベルト45cからなる。駆動ローラー45a…はローラー2条分が1本のローラー駆動軸45d…で一体回転するように取り付けられ、各ローラー駆動軸45d…にはそれぞれ駆動アーム45e…がラチェット機構45f…を介して取り付けられている。駆動アーム45e…は、苗載台42が左右往復終端位置に移動したときに、伝動ケース40から突出して回転する苗縦送り駆動軸45gに一体に取り付けられた苗縦送り駆動アーム45h…のローラー部45h’…が接当して、所定の回転角度回転され、駆動ローラー45a…が駆動回転されて苗送りベルト45cが所定量だけ回転する。」と、
公報第8頁第13欄第33行乃至第36行には、
「よって、左右両端条の苗載部42-1・42-8を折り畳み回動軸60・60回りに回動させて内側の苗載せ部42-2・42-7の上側に被さった状態まで折りたためる構成になっている。」と、
公報第9頁第16欄第35行乃至第10頁第17欄第7行には、
「【0043】ところで、左右両端条の苗載部42-1・42-8を作業可能状態に広げるときに、この苗載部42-1・42-8の苗縦送り装置45-1・45-8と内側の苗載せ部42-2・42-7の苗縦送り装置45-2・45-7とが連動するように連結される。即ち、内側の苗載部42-2・42-7のローラー駆動軸45d-2・45d-7は、その内側軸端部に駆動アーム45e・45eがラチェット機構45f・45fを介して取り付けられ、外側軸端部にクラッチ爪を備えた駆動クラッチ体72a・72aが一体に取付られている。この駆動クラッチ体72a・72aに、苗載部42-1・42-8のローラー駆動軸45d-1・45d-8に一体回転するように取り付けられた従動クラッチ体72b・72bが、左右両端条の苗載部42-1・42-8の装着時に噛み合う。従動クラッチ体72b・72bは、ローラー駆動軸45d-1・45d-8に一体回転且つ軸芯方向には摺動可能に取り付けられ、更に、スプリング72c・72cにより軸端側に付勢されている。よって、駆動クラッチ体72a・72aと連結するときに、双方のクラッチ爪どうしが突き合っても従動クラッチ体側が逃げることができるので、両クラッチ体の位相が合っていなくても無理なく連結でき、且つ、噛み合い状態へ速やかに移行する。」と、
公報第12頁第21欄第15行乃至第18行には、
「【0052】よって、以上のようにこの田植機は、苗移植機4の左右幅を縮小可能に構成とし、苗移植機に設けられる左右往復動する苗載台42の左右外側の条の苗載部42-1・42-8を左右内側に移動可能に設け、」と、
公報第12頁第21欄第34行乃至第37行には、
「【0054】よって、左右幅を縮小するときの誤操作を防止でき、また、左右幅縮小時のコンパクト性の向上を図ることができ、機体の運搬時や倉庫への格納時等における省スペース性の向上を図ることができる。」と、それぞれ記載されている。
そして、これらの記載と、図面、特に乗用田植機の側面図である【図5】及び乗用田植機の平面図である【図6】並びに左右両端条の苗載部を折りたたんだ状態の断面図である【図10】の記載事項とを併せると、
引用刊行物3には、
「ホッパー部5a及び複数の肥料繰り出し部5b…を左右方向に並設させる側条施肥装置5と複数の苗載部を左右方向に並設させる苗移植機4とを走行車体2に設ける乗用田植機1において、
側条施肥装置5におけるブロアー5eは、エアーチャンバー5fとの連結位置の前側に設ける上下軸5g回りにブロアー5eを回動させてエンジンカバー19側部の左右拡張ステップ22上方に移行させるものであり、
苗移植機4は、内側の苗載部42-2・42-7に対して左右両端条の苗載部42-1・42-8を回動自在に取付け、左右両端条の苗載部に設けるローラー駆動軸45d-1・45d-8を内側の苗載部42-2・42-7に設けるローラー駆動軸45d-2・45d-7に対して着脱自在に噛合連結させ、軸端部に設けられた双方のクラッチ爪によって左右両端条の苗載部のローラー駆動軸と内側の苗載部のローラー駆動軸を連結させると共に、前記双方のクラッチ爪の噛合位置の上側に設ける折り畳み回動軸60・60回りに左右両端条の苗載部42-1・42-8を回動させて内側の苗載せ部42-2・42-7の上方に移行させることにより、
左右幅縮小時のコンパクト性の向上を図ることができ、機体の運搬時や倉庫への格納時等における省スペース性の向上を図ることができる乗用田植機1」の発明が記載されていると認められる。

(い)本願補正発明と引用発明1との比較・検討
引用発明1の「6組のタンク及び繰出ケース」は、本願補正発明の「複数組のホッパ及び繰出ケース」に相当し、以下同様に、「施肥機」は「施肥部」に、「走行車」は「走行車」に、「乗用田植機」は「田植機」に、「中央の2条分の繰出ケース及びタンク」は「中央のホッパ及び繰出ケース」に、「左右夫々に2条分の繰出ケース及びタンク」は「左右のホッパ及び繰出ケース」に、「車体カバー」は「車体カバー」に、それぞれ相当する。そして、引用発明1の「繰出ケース(47)に固定されたクラッチケース(121)内のクラッチ軸(116)と入力軸(124)」は、本願補正発明の「左右の繰出ケース(381)(382)に設ける繰出軸(137)と中央の繰出ケース(38)に設ける固定側軸(109)」と比較して「左右の繰出ケースに設ける施肥動作軸と中央の繰出ケースに設ける施肥動作軸」の限りにおいて一致するから、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

一致点
「複数組のホッパ及び繰出ケースを左右方向に並設させる施肥部を走行車に設ける田植機において、中央のホッパ及び繰出ケースの左右夫々にホッパ及び繰出ケースを取付け、中央の繰出ケース及び左右の繰出ケースに施肥動作軸を設けると共に、走行車に車体カバーを備えた田植機」

相違点(A)
本願補正発明では中央のホッパ及び繰出ケースに対して左右のホッパ及び繰出ケースを回動自在に取付け、支点軸回りに左右繰出ケースを回転させて車体カバー側部の補助ステップ上方に移行させるのに対し、引用発明1ではそのような構成を有していない点
相違点(B)
本願補正発明では左右の繰出ケースに設ける繰出軸を中央の繰出ケースに設ける固定側軸に対して着脱自在に噛合連結させ、その噛合連結位置を支点軸の後側に設け、爪体によって左右の繰出ケースの繰出軸と中央の繰出ケースの固定側軸を連結させると共に、中央の繰出ケースの固定側軸端部の爪体を中央のホッパの左右幅内に設けるのに対し、引用発明1ではそのような構成を有していない点

そこで、上記相違点について検討する。
相違点(A)について
引用刊行物2には、中央のホッパ(肥料タンク)及び繰出ケース(肥料繰出装置)に対して左右のホッパ及び繰出ケースを、ホッパの前側に設けた蝶番の回りに回動自在に取付け、左右の繰出ケースをステップ上方に移行させる田植機が記載されている。ここで、蝶番が支点軸を有することは通常の技術であり、引用発明1において、施肥本体フレーム(51)の前側に支点軸を設け、中央のホッパ(タンク)に対して左右のホッパを前方に移行させるようにして、相違点(A)に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。
相違点(B)について
引用刊行物3には、施肥部(側条施肥装置)を設ける田植機(乗用田植機)における動力伝達機構として、左右の部材(左右両端条の苗載部)に設ける駆動軸(ローラー駆動軸)を中央の部材(内側の苗載部)に設ける固定側軸(ローラー駆動軸)に対して、爪体(双方のクラッチ爪)の噛合位置の上側に設ける支点軸(折り畳み回動軸)回りに回動させることにより着脱自在に噛合連結させ、これらの両軸の噛合連結側の端部に設けられた爪体によって左右の部材の駆動軸と中央の部材の固定側軸を連結させる技術が記載されている。そして、引用刊行物1には、施肥本体フレーム(51)の後方に繰出駆動軸(109)が設けられており(【図9】及び【図15】参照)、引用発明1において、中央のホッパ(タンク)に対して左右のホッパを前方に移行させるようにした際、繰出駆動軸の噛合連結位置を支点軸の後側にし、相違点(B)に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

そして、引用刊行物1には本願補正発明が解決しようとする課題である「左右幅を縮小し運搬作業性の向上を図る」ことについて記載されていないが、田植機の分野において当該課題を解決しようとすることは当業者であれば容易に想到できることであるから、施肥部を備えた田植機において共通する技術が示された引用刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて本願補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得るものであり、また本願補正発明の効果は、引用刊行物1乃至3に記載されたものと比較しても格別のものは認められない。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第三、本願発明について
平成12年11月22日付の手続き補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という)は、平成12年1月25日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「複数組のホッパ(37)(371)(372)及び繰出ケース(38)(381)(382)を左右方向に並設させる施肥部(36)を走行車(1)に設ける田植機において、中央のホッパ(37)及び繰出ケース(38)に対して左右のホッパ(371)(372)及び繰出ケース(381)(382)を回動自在に取付け、左右の繰出ケース(381)(382)に設ける繰出軸(137)を中央の繰出ケース(38)に設ける固定側軸(109)に対して着脱自在に噛合連結させ、爪体(138)(139)によって左右の繰出ケース(381)(382)の繰出軸(137)と中央の繰出ケース(38)の固定側軸(109)を連結させると共に、中央の繰出ケース(38)の固定側軸(109)端部の爪体(138)を中央のホッパ(37)の左右幅内に設けたことを特徴とする田植機。」

特許法第29条第2項の検討

引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は前記「第二、(2の1)(あ)」に記載したとおりである。

本願発明と引用発明との対比・判断
本願補正発明は、本願発明における「左右繰出ケース」について「爪体の噛合連結位置の前側に設ける支点軸回りに回転させて車体カバー側部の補助ステップ上方に移行」させるとの限定を付加したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第二、(2の1)(い)」に記載したとおり、引用刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第四、むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-16 
結審通知日 2004-12-21 
審決日 2005-01-07 
出願番号 特願平11-214558
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01C)
P 1 8・ 121- Z (A01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 昭次  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 川島 陵司

渡部 葉子
発明の名称 田植機  
代理人 東野 正  
代理人 石井 暁夫  
代理人 西 博幸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ