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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1112830
審判番号 不服2002-15506  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-13 
確定日 2005-03-09 
事件の表示 平成5年特許願第340588号「車室側部材一体エアバッグドアの構造およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成7年6月20日出願公開、特開平7-156737〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年12月7日の出願であって、その各請求項に係る発明は、平成14年6月21日付け及び平成14年9月10日付けの各手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】 表皮材によって覆われた車室側部材に合接線に沿って表皮材によって覆われたエアバッグドア部が一体に形成されてなるエアバッグドアの構造であって、
前記エアバッグドア部裏面側にはエアバッグドア部芯材が一体に形成されており、
前記エアバッグドア部表皮材と車室側部材表皮材は前記合接線に沿ってそれぞれの表皮材裏側方向へ折り曲げられたフランジ部を有し、前記エアバッグドア部表皮材と車室側部材表皮材のいずれか一方の表皮材のフランジ部には肉厚部を有しかつ溝内部より狭く形成された開口部を有する凹溝部が形成され、かつ他方の表皮材のフランジ部には根元部が細幅に形成され前記一方の表皮材の凹溝部に嵌入した際に該根元部が前記肉厚部によって係合保持される突条部が突設されていて、前記凹溝部に前記突条部が係合することによって前記各表皮材のフランジ部同士が所定の合接線を形成するように合着され、
前記フランジ部を含む各表皮材裏面側には共通の樹脂層が一体に形成されていて、
エアバッグの膨張時にはその膨張圧力によって、前記エアバッグドア部が前記車室側部材との合接線を介して前記樹脂層から前記エアバッグドア部芯材もろとも分離して押し開かれるように構成された
ことを特徴とする車室側部材一体エアバッグドアの構造。」

2.引用例の記載内容
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件特許出願前に頒布された刊行物である、実願昭61-200999号(実開昭63-104259号)のマイクロフィルム(以下「第1引用例」という。)及び実願平3-11670号(実開平4-101730号)のマイクロフィルム(以下「第2引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。

(1)第1引用例
(イ)「エアバッグカバーの発泡層がインストルメントパネル中の発泡層と一体的に発泡成形されて相互につながっているか又はインストルメントパネル中の発泡層がエアバッグカバーの裏面まで延在し、該裏面に付着しているので、当初からエアバッグカバーとインストルメントパネルが一体化構成され、後の組立て操作は不要となる。……
……
エアバッグカバーは主として発泡層を介してインストルメントパネルとつながっており、エアバッグが膨張してエアバッグカバーが内側から押されると、エアバッグカバーとインストルメントパネルの境界部の発泡層のところが破断する。発泡層は引張に対し比較的脆弱であるから、破断は円滑になされる。
この後エアバッグカバーは完全に開き、エアバッグはインストルメントパネル等と乗員との間に膨出する。」(明細書第4頁第6行〜第5頁第12行)
(ロ)「第1図ないし第5図、第15図及び第16図に基づき本考案の一実施例を説明する。
これらの図において符号1は車両のインストルメントパネルであってそのパセンジヤ席2に対向する箇所にはエアバッグカバー3がインストルメントパネル1と一体的に設けられている。エアバッグカバー3の内方には折り畳まれたエアバッグ4を収納した収納箱5が設置されている。収納箱5はインストルメントパネルの内側に固定されている。
……
エアバッグカバー3は表皮8、発泡層9、基材層10を積層して成っており、概略四角形であって、表皮8のところでインストルメントパネル1と面一化されている。
インストルメントパネル1も表皮11、発泡層12、基材層13を積層して成っており、……
……
上記エアバッグカバー3の発泡層9とインストルメントパネル1の発泡層12は一体的に発泡成形され相互につながっている。」(明細書第6頁第1行〜第7頁第12行)
(ハ)「第6図ないし第10図に基づき本考案の第2の実施例を説明する。
この場合前記実施例1におけると異なり、表皮8,11同士の接合に溶着でなく第9図で示されるような接合具22が用いられている。
すなわち、両表皮8,11の隣接縁は共に内方に屈曲して重なり合い重合部23を形成している。
……
この接合具22が上記表皮8,11の重合部23をその溝24中にくわえ込んでいる。
このように表皮8,11の切断端はカバー3等の肉厚内に入り込み外部に露出しないから、カバー3等の外観はさらに見栄えが良くなる。
……
この後前記実施例1におけると同様にして発泡成形を行なって第6図示の構造を得る。
この実施例によれば、エアバッグ4が膨張するときは第7図示の如くエアバッグカバー3の表皮8の重合部23における端縁が接合具22の溝24外へ離脱することになる。」(明細書第10頁第11行〜第12頁第9行)
(ニ)「……エアバッグカバーとインストルメントパネルの発泡層が連続しており、かつ表皮同士も相互に接しているので、エアバッグカバーとインストルメントパネルとの境界にガタつき等を何ら生じることがない。しかも外観に優れている。
また、エアバッグカバーは専ら発泡層を介してインストルメントパネルに接続されているので、車両緊急時にはそこが確実に破断し、……」(明細書第15頁第6〜14行)

(2)第2引用例
(ホ)「本考案は、隣接した2つの表皮材を備えた自動車用内装品に関する。」(第3頁第4行)
(ヘ)「本考案は……、2つの表皮材の接合作業を容易にするとともに、経済的および外観にも優れた自動車用内装品を提供することを目的とする。」(第4頁第4〜6行)
(ト)「表皮材9a、9bは、隣接する端部が表面側(図2において右側)から裏面側ににそれぞれ折り曲げられて接合部8a、8bが形成され、これら接合部8a、8bが互いに接合されている。」(第5頁第19〜21行)
(チ)「接合部8aには、図2〜図4に示すように、下方に開放部81を有する断面Ω形状の嵌合部82が形成されている。嵌合部82のΩ形状は、接合部8aの表面側から裏面側に向かって突出して形成されている。一方、接合部8bには、嵌合部82と同様、下方に開放部83を有する断面Ω形状の被嵌合部84が形成されている。被嵌合部84のΩ形状は、接合部8bの裏面側から表面側に向かって突出して形成されている。嵌合部82の内周面82aは、被嵌合部84の外周面84aとほぼ一致した曲面に形成されている。これにより、嵌合部82の開放部81から被嵌合部84を挿入して嵌合させると、嵌合部82の内周面82aに被嵌合部84の外周面84aが密着した状態で表皮材9aと9bとが互いに接合される。」(第5頁第23行〜第6頁第3行)
(リ)「表皮材9aと表皮材9bとの表面側境部9c」(第6頁下から2行)
(ヌ)「本考案の自動車用内装品によれば、2つの接合部のうちの一方の接合部に、他方の接合部側が開放された断面Ω形状の嵌合部を形成し、他方の接合部に、前記嵌合部に対応した断面Ω形状の被嵌合部を形成し、前記嵌合部の開放部から前記被嵌合部を挿入して嵌合させることにより前記表皮材を接合している。したがって、自動車用内装品を製造する際、容易に2つの表皮材を接合することができ、コスト低減を図ることが可能となる。」(第7頁下から7〜2行)

3.発明の対比・当審の判断
本願発明と第1引用例の記載とを対比するに、第1引用例記載の「インストルメントパネル1」は本願発明の「車室側部材」に相当し、以下同様に、「エアバッグカバー3」は「エアバッグドア部」に、「基材層10」は「エアバッグドア部芯材」に、「表皮8」は「エアバッグドア部表皮材」に、「表皮11」は「車室側部材表皮材」に、「発泡層9,12」は「樹脂層」に、それぞれ相当する。
そして、第1引用例の記載事項(ハ)の「両表皮8,11の隣接縁は共に内方に屈曲して重なり合い重合部23を形成している。」という技術事項、及び第6,7図に開示されている技術事項からみて、「重合部23」は本願発明の「各表皮材のフランジ部」に相当すると共に、この「重合部23」を形成するための、“両表皮8,11の隣接縁は共に内方に屈曲して重なり合う”という構成によって、本願発明の、“各表皮材のフランジ部同士が形成する所定の合接線”に相当するものを構成しているといえるし、同じく記載事項(ハ)の「接合具22が上記表皮8,11の重合部23をその溝24中にくわえ込んでいる。」という技術事項からみて、第1引用例記載のものも、本願発明と同様に、“各表皮材のフランジ部同士が所定の合接線を形成するように合着されている”ということもできる。
また、同引用例の記載事項(イ)の「エアバッグが膨張してエアバッグカバーが内側から押されると、エアバッグカバーとインストルメントパネルの境界部の発泡層のところが破断する。発泡層は引張に対し比較的脆弱であるから、破断は円滑になされる。この後エアバッグカバーは完全に開き、エアバッグはインストルメントパネル等と乗員との間に膨出する。」、記載事項(ハ)の「エアバッグ4が膨張するときは第7図示の如くエアバッグカバー3の表皮8の重合部23における端縁が接合具22の溝24外へ離脱することになる。」、記載事項(ニ)の「エアバッグカバーは専ら発泡層を介してインストルメントパネルに接続されているので、車両緊急時にはそこが確実に破断し、」、及び第1図、第6図に開示されている技術事項等からみて、同引用例記載の“エアバッグカバー3”も、エアバッグの膨張時にはその膨張圧力によって、インストルメントパネル1との合接線を介して発泡層9,12から基材層10もろとも分離して押し開かれるように構成されていることが明らかである。
したがって、本願発明と第1引用例に記載の発明(以下、「引用発明」という。)の一致点と相違点は次のとおりである。
[一致点]
「表皮材によって覆われた車室側部材に合接線に沿って表皮材によって覆われたエアバッグドア部が一体に形成されてなるエアバッグドアの構造であって、
前記エアバッグドア部裏面側にはエアバッグドア部芯材が一体に形成されており、
前記エアバッグドア部表皮材と車室側部材表皮材は前記合接線に沿ってそれぞれの表皮材裏側方向へ折り曲げられたフランジ部を有し、前記各表皮材のフランジ部同士が所定の合接線を形成するように合着され、
前記フランジ部を含む各表皮材裏面側には共通の樹脂層が一体に形成されていて、
エアバッグの膨張時にはその膨張圧力によって、前記エアバッグドア部が前記車室側部材との合接線を介して前記樹脂層から前記エアバッグドア部芯材もろとも分離して押し開かれるように構成された
車室側部材一体エアバッグドアの構造。」
[相違点]
各表皮材のフランジ部同士が合接線を形成するように合着する手段として、本願発明は、「エアバッグドア部表皮材と車室側部材表皮材のいずれか一方の表皮材のフランジ部には肉厚部を有しかつ溝内部より狭く形成された開口部を有する凹溝部が形成され、かつ他方の表皮材のフランジ部には根元部が細幅に形成され前記一方の表皮材の凹溝部に嵌入した際に該根元部が前記肉厚部によって係合保持される突条部が突設されていて、前記凹溝部に前記突条部が係合する」構成にしているのに対し、引用発明では、「接合具22が表皮8,11(各表皮材)の重合部23(フランジ部)をその溝24中にくわえ込む」構成としたものであって、本願発明のような上記した構成を備えていない点。

そこで、この相違点について検討する。
本願発明は、「この種従来のエアバッグドア構造にあっては、エアバッグドア構造体をインストルメントパネル等の車室側部材と別成形する必要がある。そして、このエアバッグドアを、当然のように、車室側部材に形成されたエアバッグ展開開口部に嵌め込み取り付ける作業工程を必要とする。これらのコストは決して低いものではない。……また、エアバッグドアの取付はそれ自体煩雑な作業であるばかりでなく、エアバッグ展開開口部へ別成形されたエアバッグドアを取り付けるに際しては、両者の境界に段差やスキが不可避的に生じ、製品外観上好ましくないばかりか、該段差やスキによって生ずる見切りラインがフロントガラス等に写って運転者の視界を妨げることにもなりかねない。」(段落【0004】、【0005】を参照。)という問題を認識し、本願発明が解決しようとする課題として、「この発明は、このような問題を一挙に解決するために提案されたものであって、インストルメントパネル等の車室側部材と一体にエアバッグドアを形成することによって、該エアバッグドアを別成形することによって生ずる経済的、工程的ならびに製品上の不利益を一挙に解消しようとするものである。」(段落【0006】を参照。)としている。
しかしながら、引用発明においても、「当初からエアバッグカバーとインストルメントパネルが一体化構成され、後の組立て操作は不要となる。」(記載事項(イ))、「エアバッグカバーとインストルメントパネルの発泡層が連続しており、かつ表皮同士も相互に接しているので、エアバッグカバーとインストルメントパネルとの境界にガタつき等を何ら生じることがない。しかも外観に優れている。」(記載事項(ニ))として、本願発明と同様の課題を解決しようとしたものであり、しかも、第2引用例において、「2つの表皮材の接合作業を容易にするとともに、経済的および外観にも優れた自動車用内装品を提供することを目的とする。」(記載事項(ヘ))というように、本願発明及び引用発明と同様の目的を達成すべく、各表皮材の接合部8a、8b(フランジ部)同士が表面側境部9c(合接線)を形成するように合着するための手段として、本願発明と同じ構成とする技術事項が記載されている(記載事項(チ)と共に図3に記載の技術事項を参照)。
そして、この技術事項は、自動車用内装品に係るものである点で、引用発明と同じ技術分野に属するものであって、引用発明の、前記した合着する手段に代えて、第2引用例に記載のこの技術事項を採用することに格別困難性はなく、上記相違点でいう本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到することができたものである。
そして、本願発明により得られる効果も、各引用例に記載された発明及び技術事項から、当業者であれば予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

なお、審判請求人は、(a)本願発明の、「肉厚部を有しかつ溝内部より狭く形成された開口部を有する凹溝部」と、他方の表皮材のフランジ部に形成された「根元部が細幅に形成され前記一方の表皮材の凹溝部に嵌入した際に該根元部が前記肉厚部によって係合保持される突条部」については、各引用例のいずれにも記載されてなく、また、(b)本願発明は、突条部は中実であって、剛性のある突条部が凹溝部内にしっかりと嵌合するのに対し、第2引用例記載のものは、突条部は断面Ω状の被嵌合部84であって中実ではなく嵌合部82との合着が確実ではない、旨の主張をしているが、(a)の点については、第2引用例の記載事項(チ)でいう「断面Ω形状の嵌合部82」及び「断面Ω形状の被嵌合部84」は、図3からみて、それぞれ、「肉厚部を有しかつ溝内部より狭く形成された開口部を有する凹溝部」及び「根元部が細幅に形成され前記一方の表皮材の凹溝部に嵌入した際に該根元部が前記肉厚部によって係合保持される突条部」を構成していることが明らかであり、また、(b)の点については、請求項1の記載からみて、本願発明の「突条部」が“中実”であることのみに限定されるものではないばかりでなく、たとえ、この突条部が“中実”の点で明確になったとしても、“中実”になすこと自体は通常の設計的事項であって、この点に格別な技術的意義は認められないから、請求人のこれらの主張は採用できない。

4.むすび
したがって、本願発明は、第1,2引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-21 
結審通知日 2005-01-04 
審決日 2005-01-17 
出願番号 特願平5-340588
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大谷 謙仁  
特許庁審判長 鈴木 久雄
特許庁審判官 神崎 潔
増岡 亘
発明の名称 車室側部材一体エアバッグドアの構造およびその製造方法  
代理人 後藤 憲秋  

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