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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1113029
異議申立番号 異議2003-70326  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-04 
確定日 2005-02-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第3310706号「帯電防止能を有するトリアセチルセルロースフィルム、そのフィルムを用いた偏光板及びその製造方法」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3310706号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3310706号の請求項1〜8に係る発明についての出願は、平成4年11月25日に特許出願され、平成14年5月24日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人塚田雅夫、凸版印刷株式会社及び弘川仁美より特許異議の申立がなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成15年7月22日付けで特許異議意見書が提出されたものである。
[2]本件発明
本件請求項1〜8に係る発明は本件特許明細書の記載からみて、特許明細書の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】紫外線硬化型樹脂中に樹脂硬化後に透明になる帯電防止剤、フッ素系又はシリコーン系のレベリング剤、及び溶剤乾燥型樹脂を含有する透明樹脂を、トリアセチルセルロースフィルム上に塗工し、紫外線により前記透明樹脂を硬化することにより得られる、帯電防止能を有する硬化塗膜を形成してなるトリアセチルセルロースフィルム。
【請求項2】前記レベリング剤の含有量を紫外線硬化型樹脂100重量部に対し、0.01〜0.5重量部としたことを特徴とする請求項1記載のトリアセチルセルロースフィルム。
【請求項3】前記帯電防止剤が有機化合物または無機化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載のトリアセチルセルロースフィルム。
【請求項4】前記無機化合物の粒径が可視光波長より小さいことを特徴とする請求項3記載のトリアセチルセルロースフィルム。
【請求項5】前記トリアセチルセルロースフィルムがケン化処理されたものであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のトリアセチルセルロースフィルム。
【請求項6】請求項1、2、3、4又は5記載の帯電防止能を有するトリアセチルセルロースフィルムが偏光素子に積層されたものであることを特徴とする偏光板。
【請求項7】トリアセチルセルロースフィルム上に、紫外線硬化型樹脂100重量部に対して10重量部以上100重量部以下の溶剤乾燥型樹脂としてのセルロース系樹脂、及び樹脂硬化後に透明になる帯電防止剤、及びフッ素系又はシリコーン系のレベリング剤を含有する塗料組成物を塗布し、紫外線を照射して塗膜を硬化させることを特徴とする帯電防止能を有するトリアセチルセルロースフィルムの製造方法。
【請求項8】前記レベリング剤の含有量を紫外線硬化型樹脂100重量部に対し、0.01〜0.5重量部としたことを特徴とする請求項7記載のトリアセチルセルロースフィルムの製造方法。
[3]特許異議申立の理由
特許異議申立人の主張する申立理由の概要はおおよそ次の通りである。
1.特許異議申立人塚田雅夫の申立理由
(1)本件請求項1〜8に係る発明は本出願前に頒布された特許異議申立人の提出する甲第1〜10号証の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)本件請求項1の「溶剤乾燥型樹脂」の構成が発明の詳細な説明に当業者が容易に実施し得る程度に記載されておらず、またそれは請求項の記載である「溶剤乾燥型樹脂」が発明の詳細な説明に記載しているとは言えないので、本件明細書は特許法第36条第4項及び第5項第1号に規定する記載要件を満たしていない。
2.特許異議申立人凸版印刷株式会社の申立理由
本件請求項1〜8に係る発明は本出願前に頒布された特許異議申立人の提出する甲第1〜7号証の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
3.特許異議申立人:弘川仁美の申立理由
(1)本件請求項1〜4及び請求項7〜8に係る発明は特許異議申立人の提出した甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
(2)本件請求項1〜4及び請求項6〜8に係る発明は特許異議申立人の提出する甲第1号証及び甲第2号証の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)本件請求項5に係る発明は特許異議申立人の提出する甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(4)本件請求項6に係る発明は特許異議申立人の提出する甲第2号証の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(5)本件明細書の唯一の実施例において使用する材料が「ポリエステルアクリレート」、「セルロース系ポリマー」及び「シリコーン」と、一般名でしか記載されておらず具体的な化合名や製品名の記載がなく、当業者が期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を行わない限り発明の実施をすることができないので、本件明細書の記載は特許法第36条第4項の記載要件を満たしていない。
(6)本件明細書の唯一の実施例において、使用したレベリング剤が酸素による紫外線硬化型樹脂の硬化阻害を防ぐことを裏付ける具体的な実験データがなく、効果が不明なばかりか、「フッ素系のレベリング剤」については実施例がないことはもとより、かかる一般的な記載では具体的な化合物名も不明であるから、当業者が容易に発明を実施することができないから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項の記載要件を満たしていない。
[4]取消理由通知の内容
〈1〉取消理由1
刊行物1:特開昭57-165252号公報(凸版印刷株式会社の特許異議申立ての甲第1号証)
刊行物2:特開昭55-139883号公報(同甲2号証)
刊行物3:特開昭59-178243号公報(同甲第3号証)
刊行物4:特開平1-105738号公報(同甲第4号証)
刊行物5:特開平4-61968号公報(同甲第5号証)
刊行物6:特開平1-165631号公報(同甲第6号証)
刊行物7:特開昭59-72645号公報(同甲第7号証)
刊行物1〜7には、凸版印刷株式会社が提出した特許異議申立書の10頁6行〜16頁14行に指摘されている発明が記載されているものと認められ、そうであれば、同書16頁16行〜20頁6行に記載されている理由により、本件請求項1〜8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとせざるを得ない。
〈2〉取消理由2
省略
[5]刊行物の記載内容
刊行物1:特開昭57-165252号公報(特許異議申立人凸版印刷株式会社提出した甲第1号証、特許異議申立人弘川仁美の提出した甲第1号証、特許異議申立人塚田雅夫の提出した甲第3号証)
(1-1)「放射線により重合可能な不飽和結合を有する化合物とZn…Sn…Wの中から選ばれる少くとも1種以上の金属の酸化物または/及びこれらの金属の酸化物より構成された少くとも1種以上の金属複合酸化物を主体とする導電性微粒子とよりなる層を少くとも1層設け放射線重合硬化せしめた事を特徴とするプラスチックフィルム。」(特許請求の範囲)
(1-2)「本発明の上記の目的はZn…Sn…Wの中から選ばれる少くとも1種以上の結晶性金属酸化物または/及びそれらの複合酸化物を主体とする導電性微粒子を放射線による重合可能な不飽和結合を有する化合物あるいは当該化合物を含有するバインダー中に分散し、プラスチックフィルム上に少なくとも1層設け該層を放射線により重合硬化せしめることにより達成された。」(第2頁右上欄10行〜18行)
(1-3)「本発明において利用される結晶性金属酸化物粒子の粒子サイズは、光散乱をできるだけ小さくするために小さい方が好ましいが、粒子とバインダーの屈折率の比をパラメーターとして決定される。従って使用される微粒子及びバインダーによって異なるが粒子サイズは0.01〜0.7μ、好ましくは0.02〜0.5μの粒子を用いることにより実質的に透明なフィルムを得ることができる。」(第2頁左下欄11〜18行)
(1-4)「放射線により重合可能な不飽和結合を有する化合物としてはビニルないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマーあるいはポリマーであり、モノマーとしては…などを上げることができる。
オリゴマーあるいはポリマーとして好ましくは主鎖に二重結合を有する化合物あるいは直鎖の両末端にアクリロイル、メタアクリロイル基を有する化合物であり、これらは…に引用されている。例えば
(1)CH2=CHCO2・CH2・CH2(OCOC6H10-CO2CH2CH2)nOCOCH=CH2 n=1〜10

(4)CH2=CCOOCH2-CHCH2OCOCH2CH2CO
| |
CH3 OX
(OCH2・CH2OCOCH2・CH2-CO)nOCH2・CH・

OX
CH2OCOC=CH2

CH3
X:H又はalkyl n=1〜15」(第2頁右下欄15行〜第3頁末 行)
(1-5)「導電性微粒子を上記重合性化合物に分散して塗布してもよいし、また導電性微粒子をバインダーに分散し、その分散液に上記重合性化合物を添加し塗布してもよい。
バインダーとしては通常コーティングに用いられるポリマーならばよく、例えばセルローズ・アセテート、…などのセルローズエステル類、…などを上げることが出来る。」(第4頁左下欄6〜17行)
(1-6)「使用しうるプラスチックフィルムとしては…セルローストリアセテート…のようなセルロースエステル類、…などを上げることが出来る。」(第5頁右上欄下から7行〜左下欄5行)
(1-7)「これらプラスチックフィルムへ前記の分散組成物よりなる層を設ける方法としてはブレードコート…等での塗布が利用でき…記載されている。」(第5頁左下欄6〜13行)
(1-8)「重合硬化せしめる放射線としては電子線、紫外線、X線、γ線などを上げることができる。」(第5頁左下欄14〜15行)
(1-9)「本発明によれば電導性微粒子分散組成物を塗布、乾燥し、次で放射線照射することにより、実質的に透明で、耐傷性、耐摩耗性がすぐれ、かつ、帯電防止性のすぐれたプラスチックフィルムを得ることが出来る。」(公報第5頁右下欄13〜17行)
刊行物2:特開昭55-139883号公報(特許異議申立人凸版印刷株式会社の提出した甲第2号証)
(2-1)「(1)基材上に硬化性樹脂を複数回塗布して硬化樹脂膜を形成する方法において、塗布操作を繰返す毎に塗布層に含まれるシリコーン系レべリング剤および/またはフッ素系界面活性剤の添加剤の含有量を漸増せしめることを特徴とする硬化樹脂膜の形成方法。」(特許請求の範囲)
(2-2)「次に、本発明において硬化性樹脂材料としては…反応基が熱、光または電子線等のエネルギによって重合反応を起こして硬化して皮膜を形成するものを使用する。例えば、…エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等の如き(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物等が挙げられる。」(第2頁右上欄14行〜左下欄3行)
(2-3)「硬化性樹脂にはシリコーン系レべリング剤を添加することにより、硬化性樹脂材料を基材に塗布する際の塗工性、表面の平滑性を大幅に改善することができる。」(第2頁左下欄6〜9行)
(2-4)「また、上記シリコーン系レベリング剤のかわりに、あるいはシリコーン系レベリング剤と併せてフッ素系界面活性剤を用いることも有効である。」(第2頁右下欄6〜8行)
(2-5)「これらのシリコーン系レべリング剤および、またはフッ素系界面活性剤の添加剤の添加量は、硬化性樹脂材料に対し、0.01〜5重量%が適当である。」(第3頁左上欄3〜6行)
(2-6)「本発明において、硬化性樹脂材料による皮膜は、表面強度、耐磨耗性、耐衝撃性等の諸堅牢性に優れ、更に基材との密着性も良好で剥離現象も起こらない。」(第3頁左下欄9〜12行)
刊行物3:特開昭59-178243号公報(同甲第3号証)
記載内容省略
刊行物4:特開平1-105738号公報(特許異議申立人:凸版印刷株式会社の提出した甲第4号証、弘川仁美の提出した甲第3号証、塚田雅夫の提出した甲第7号証)
(4-1)「(1)未ケン化のトリアセテートフィルムの一方の面に、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂からなる硬化塗膜を設けたことを特徴とする耐擦傷性、耐薬品性にすぐれたトリアセテートフィルム」(特許請求の範囲)
(4-2)「本発明は、耐擦傷性、耐薬品性、防眩性にすぐれたトリアセテートフイルムに関するものである。当該トリアセテートフィルムの利用分野としては偏光板、…など広汎に可能であるが、とくに沃素及び、もしくは二色性染料系偏向フィルムに貼合するトリアセテートフィルムとして使用すれば、耐擦傷性、耐薬品性、防眩性のきわめてすぐれた偏光板を作ることができる。該偏光板を用いて液晶表示体を構成すると、偏光板に対する保護板や保護フィルムが不用となり、軽量で厚みが薄く視認性の高い表示体が得られる。」(第1頁左下欄18行〜右下欄10行)
(4-3)「通常、偏光板の成形時には、トリアセテートフィルムは偏光フィルムとの貼合前に接着性を上げるためにケン化処理を受けるが、ケン化処理されたトリアセテートフィルムに対しては、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂は著しく塗膜密着性が劣る。…
本発明のトリアセテートフィルムを偏光板の構成材料として利用するには、該樹脂の硬化塗膜を設けたトリアセテートフィルムのもう一方の面にケン化処理を施した後、通常の成形工程を経て偏光板とすればよい。」(第2頁左上欄17行〜右上欄11行)
刊行物5:特開平4-61968号公報(特許異議申立人:凸版印刷株式会社の提出した甲第5号証、特許異議申立人:弘川仁美の提出した甲第2号証、特許異議申立人:塚田雅夫の提出した甲第1号証)
(5-1)「基材表面に少なくとも機能性添加剤及び有機溶剤を含有する電離放射線硬化性塗料を塗布し、該塗料を乾燥し該機能性添加剤を塗膜表面に浮上させた後電離放射線を照射して電離放射線硬化性塗膜を硬化させることを特徴とする形成方法」(特許請求の範囲)
(5-2)「基材シート1は従来から使用されている公知のプラスチックシートが用いられ、例えば…三酢酸セルロース…等が挙げられる。」(第2頁右下欄14行〜第3頁左上欄16行)
(5-3)「これらの機能性添加剤2として例えば導電性を付与するためのものに、導電顔料があり…酸化スズ…などの金属酸化物の粉末…が挙げられる。
機能性添加剤2として、上記の導電顔料以外にも、表面機能を改質する添加剤として滑剤、…等があり、以下に具体的な材質を挙げる。
例えば、滑剤としては…シリコーン系、弗素系の液状のもの等がある。」(第3頁右上欄2〜14行)
(5-4)「電離放射線硬化性塗料3に用いられる前記プレポリマー、オリゴマーの例としては、例えば、…ポリエステルメタクリレート…等のメタクリレート類、ポリエステルアクリレート、…ウレタンアクリレート…等のアクリレート類…等が挙げられる。」(第4頁左上欄18行〜同頁左下欄18行)
(5-5)「電離放射線硬化性塗料3を硬化するために用いられる電離放射線とは、…を言い、…工業的に利用できるのは、紫外線…等があり、…。」(第5頁左下欄3〜8行)
(5-6)「実施例4
基材シートとして厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム(…)を用い、…を3.5%含有したポリエステルアクリレート系の紫外線硬化塗料(…)…稀釈したもの(粘度30cps)をグラビアリバースコート法によりコーティングを行い、…紫外線を照射して塗膜の硬化を行った(…)。
得られたコーティングフィルムは、…HAZEが14.6%の光学特性を有し、透視性、防眩性に優れ、又風合い、解像性にも優れたものであり、偏光板の支持材として好適のものであった。」(第7頁右上欄7行〜左下欄4行)
刊行物6:特開平1-165631号公報(特許異議申立人:凸版印刷株式会社の提出した甲第6号証)
記載内容省略
刊行物7:特開昭59-72645号公報(特許異議申立人:凸版印刷株式会社の提出した甲第7号証)
記載内容省略
[6]対比・判断(特許法第29条第2項について)
1.本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」といい、本件請求項2〜8に係る発明も同様。)について
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比する。
まず、それぞれの発明の層構成について検討する。
刊行物1に記載された発明は、その特許請求の範囲にも記載されているように(1-1参照)、放射線により重合可能な不飽和結合を有する化合物の硬化層とプラスチックフィルムとの2層構成の積層体であるところ、本件発明1もまた、紫外線硬化型樹脂を硬化した層とトリアセチルセルロースフィルムの2層構成の積層体であり、両者の発明は共に2層構成の積層体であるという大枠の点で一致している。
基材となるトリアセチルセルロースフィルムについては、刊行物1では基材に相当するプラスチックフィルムとしてセルローストリアセテートが使用できることが示されており(1-6及び実施例1参照)、これは本件発明1のトリアセチルセルロースフィルムと一致している。
次に、基材フィルムの上に設ける放射線によって硬化する樹脂層については、刊行物1に記載された発明では、その一例として両末端にアクリロイル基を有するポリエステルのアクリレートが化学式(1)と(4)で示され(1-4参照)、これは本件発明1で紫外線硬化型樹脂の好適なものとして例示され、実施例でも使用されているポリエステルアクリレートと同じものである。
また、硬化に使用する放射線として、刊行物1に記載された発明では紫外線が挙げられており(1-8参照)、紫外線により硬化する本件発明1と差異はない。
帯電防止剤については、刊行物1にはSn等の金属の酸化物の導電性微粒子(なお、導電性があれば帯電防止性を付与し得ることは自明のことである。)を使用することが記載され(1-1及び1-2参照)、その粒子サイズは0.01〜0.7μを用い、実質的に透明なフィルムを得ることができることも記載されている(1-3参照)。
一方、本件明細書でも、段落【0008】にSnO2等の微粒子は透明性を出すためには、粒径が可視光の波長以下、即ち700nm以下とするのが好ましいと記載され、実施例では500nm(即ち0.5μ)のSnO2の微粒子が使用されているから、刊行物1の帯電防止剤は透明性の点でも実質的に本件発明1の帯電防止剤と同一のものである。
溶剤乾燥型樹脂については、刊行物1では、導電性微粒子を分散するためのバインダーとして、例えばセルローズ・アセテートなどのセルローズエステル類などが挙げられており(1-5参照)、このセルローズエステル類は、本件発明1においても溶剤乾燥型樹脂として挙げられ(本件明細書段落【0014】)、実施例でも使用されているセルロース系樹脂に該当する。
さらに、刊行物1に記載された発明は、導電性微粒子、バインダー等を含有する重合性化合物の分散液をプラスチックフィルムの上に塗布し、放射線によって硬化するのであるから(1-1、1-2、1-5、1-7参照)、本件発明1で規定されている製法限定の部分も同一である。
以上のことを総括すると、本件発明1と刊行物1に記載された発明は、「紫外線硬化型樹脂中に樹脂硬化後に透明になる帯電防止剤、及び溶剤乾燥型樹脂であるセルロースエステル類を含有する透明樹脂を、トリアセチルセルロースフィルム上に塗工し、紫外線により前記透明樹脂を硬化することにより得られる、帯電防止能を有する硬化塗膜を形成してなるトリアセチルセルロースフィルム。」である点で一致し、本件発明1が硬化塗膜の成分として「フッ素系又はシリコーン系のレベリング剤」を配合するのに対し、刊行物1に記載された発明では該レベリング剤について記載されていない点で相違している。
しかし、レベリング剤は、紫外線硬化樹脂の配合成分として必要に応じ配合される一般的な成分であり(例えば、「新高分子文庫21 UV硬化技術入門(加藤清視、他1名著(株)高分子刊行会1984年1月15日発行)」29頁参照。)、刊行物1に記載された発明においてレベリング剤を配合することは、上記周知の技術に基づき、当業者が必要に応じ適宜なし得る程度のことと認める。
そして、刊行物2には、硬化性樹脂中にレベリング剤としてシリコーン系のものを配合することが記載されており(2-1、2-2参照)、該レベリング剤の配合により塗工性や表面の平滑性を改善できること(2-3参照)、配合対象の硬化性樹脂が本件発明1と同じポリエステルアクリレートであること(2-2参照)、レベリング剤を配合した硬化性樹脂の皮膜が表面強度、耐磨耗性、耐衝撃性等の諸堅牢性に優れることも記載されている(2-6参照)。
このように、刊行物2には、レベリング剤としてシリコーン系のものが硬化性樹脂の皮膜に平滑性を与え、その皮膜は表面強度、耐磨耗性、耐衝撃性等の諸堅牢性に優れたものであるから、刊行物1に記載された発明において、一般的な配合剤であるレベリング剤を配合し、そのレベリング剤として刊行物2に記載された「シリコーン系レベリング剤」を選択することは当業者が容易に想到し得ることであると言わざるを得ない。
また、刊行物2で「シリコーン系レベリング剤」と同等のものとして記載されている「フッ素系界面活性剤」を使用することも、当業者が容易に想到し得ることであると言わざるを得ない。
特許権者は、特許異議意見書において、シリコーンレベリング剤を0〜0.1重量部配合した実験例により、酸素による硬化阻害抑制効果を主張し、 また、スチールウールを用い荷重4.9Nで硬化塗膜表面を往復させた実験の結果を示し、耐擦傷性の効果を奏すると主張する
しかし、シリコーン系レベリング剤の配合により得られる効果皮膜が表面強度、耐磨耗性、耐衝撃性等の諸堅牢性に優れたものであることは刊行物2に記載されており、特許権者が主張する効果も、得られる塗膜の性能から見れば予測される範囲のものであり、格別顕著なものとは認められない。
なお、特許権者はセルロース系ポリマーを0〜10重量部添加した追試実験に基づき、塗膜の均一性の効果をヘイズ値のばらつき%(塗膜のばらつき%)で示している。しかし、ヘイズ値のばらつき%(塗膜のばらつき%)がどのような技術的意味を有するのか説明がなく、塗膜の均一性と「ヘイズ値のばらつき%(塗膜のばらつき%)」とがどのように関係するものか不明であり、これをもって本件発明1の効果とすることはできない。
以上のとおりであるから、本件発明1は本出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に対し「前記レベリング剤の含有量を紫外線硬化型樹脂100重量部に対し、0.01〜0.5重量部とした」ことを特徴とするものである。
しかし、1.で述べたようにシリコーン系レベリング剤を使用することが容易である以上、その配合量を実験等により決定することは当業者が適宜なし得る程度のことである。
したがって、本件発明2は本出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
3.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2に対し、「前記帯電防止剤が有機化合物または無機化合物であること」の要件を付加するものである。
しかし、刊行物1に記載された発明も導電性微粒子としてSn等の金属酸化物を使用しており、付加された要件は刊行物1に記載されている事項である。
したがって、本件発明3は上記1.及び2.と同様の理由により、本出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
4.本件発明4について
本件発明4は、本件発明3に対し「前記無機化合物の粒径が可視光波長より小さいこと」の要件を付加するものである。
しかし、刊行物1に記載された発明で導電性微粒子として使用されるSn等の金属の酸化物の粒径は0.01〜0.7μであり(1-3参照)、可視光の波長は0.38〜0.78μであるから(「化学大辞典」の「可視光線」の項、異議申立人:弘川仁美の提出した甲第8号証参照)、この点は刊行物1に記載されていた事項である。
したがって、本件発明4は上記1.及び3.と同様の理由により、本出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
5.本件発明5について
本件発明5は、本件発明1〜4に対し「前記トリアセチルセルロースフィルムがケン化処理されたものであること」の要件を付加するものである。
しかし、刊行物4には、「未ケン化のトリアセテートフィルムの一方の面に、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂からなる硬化塗膜を設けたことを特徴とする耐擦傷性、耐薬品性にすぐれたトリアセテートフィルム」(特許請求の範囲)が記載され(4-1参照)、このトリアセテートフィルムの硬化塗膜が設けられていない面に、フィルムの接着性を上げるためのケン化処理を施す旨のことが記載されている(4-3参照)。
そして、刊行物4のフィルムは、基材であるトリアセテートフィルムに紫外線硬化型樹脂の塗膜を設けた2層構造の積層体である点では本件発明や刊行物1記載のもの共通し、該フィルムが耐擦傷性を有する点(4-2参照)でも刊行物1のフィルムと共通するものである。
してみれば、刊行物1記載の積層体の基材となるトリアセテートフィルムの非塗布面をケン化することは、刊行物4の記載を併せ見れば当業者が容易に想到し得ることである。
よって、本件発明5は本出願前に頒布された刊行物1、2、4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
6.本件発明6について
本件発明6は、本件発明1〜5に対し「帯電防止能を有するトリアセチルセルロースフィルムが偏光素子に積層されたものであること」の要件を付加するものである。
しかし、刊行物4には、「未ケン化のトリアセテートフィルムの一方の面に、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂からなる硬化塗膜を設けたことを特徴とする耐擦傷性、耐薬品性にすぐれたトリアセテートフィルム」(特許請求の範囲)が記載され(4-1参照)、このトリアセテートフィルムの硬化塗膜のない面にケン化処理を施した後、通常の成形工程を経て偏光板とすることが記載されている(4-3参照)。
刊行物4のフィルムは、基材であるトリアセテートフィルムの上に紫外線硬化型樹脂の塗膜を設けた2層構造の積層体である点では本件発明や刊行物1記載のもの共通する。
したがって、刊行物1記載の積層体の基材となるトリアセテートフィルムに偏光フィルム(偏向素子)を貼り合わせ積層し偏光板とすることは、刊行物1及び4の記載を併せ見れば当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、この点については刊行物5にも、基材表面に、機能性添加剤を含有する電離放射線硬化性塗料を塗布し、電離放射線を照射して該塗膜を硬化させること、それが偏光板の支持板となり得ることが記載されているから(5-1、5-7参照)、帯電防止能を有するトリアセチルセルロースフィルムを偏向素子に積層し偏光板とすることは、刊行物5の記載からも容易に想到し得ることである。
よって、本件発明6は本出願前に頒布された刊行物1、2及び4又は5に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
7.本件発明7について
本件発明7は製造方法のカテゴリーで表現されているが、その構成要件は本件発明1と概ね一致し、本件発明7が「紫外線硬化型樹脂100重量部に対して10重量部以上100重量部以下の溶剤乾燥型樹脂としてのセルロース系樹脂」の要件が付加されている点で本件発明1と相違していると言える。
この点について、刊行物1では本件発明7のセルロース系樹脂に対応するバインダーとしてのセルローズエステル類の使用量について記載されていない。
しかし、バインダーとしてセルローズエステル類を使用することが刊行物1に記載されているのであるから、その配合量を実験等により決定することは当業者が適宜なし得る程度のことである。
したがって、結局本件発明7は、本件発明1と同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
8.本件発明8について
本件発明8は本件発明7に対し、「前記レベリング剤の含有量を紫外線硬化型樹脂100重量部に対し、0.01〜0.5重量部としたこと」の要件を付加するものである。
しかし、本件発明2は本件発明1に対し同様のことを規定しており、その点が容易になし得ることであることは既に2.で述べたとおりである。
それ以外の点については、本件発明7と同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
[7].むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1〜8に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-12-16 
出願番号 特願平4-314594
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 佐野 整博
船岡 嘉彦
登録日 2002-05-24 
登録番号 特許第3310706号(P3310706)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 帯電防止能を有するトリアセチルセルロースフィルム、そのフィルムを用いた偏光板及びその製造方法  
代理人 光来出 良彦  

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