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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) G09F |
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管理番号 | 1113057 |
判定請求番号 | 判定2004-60058 |
総通号数 | 64 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 1990-01-18 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2004-07-20 |
確定日 | 2005-03-04 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2813608号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号写真,図面及びその説明書に示す「エスカレータの手すり広告」は、特許第2813608号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
1.請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は、「イ号製品(イ号図面及び説明書)のエスカレーターの手すり広告は、特許第2813608号の技術的範囲に属さない。」との判定を求めるものである。 2.本件特許発明 特許第2813608号の請求項1〜10に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された次のとおりのものである(以下、請求項1〜10に対応させて「本件発明1」〜「本件発明10」といい、まとめて「本件特許発明」という。)。 「【請求項1】手すり上に取外し自在に載置された広告物または印刷物がカバーを通して見られる様に、実質的にそれを覆う透明なカバーを有する、動く歩道、エスカレータ等のための動く手すりであって、 前記透明なカバーは、該手すりの上の部分として且つ手すりの上に突出することなく構成され、 また、長手方向軸線のまわりに延びる少なくとも1つのカットアウト部分が前記手すりに設けられ、そして、該少なくとも1つのカットアウト部分は、前記広告物または印刷物が表示されたカード等が置ける様になっており、 更に、前記カバーが前記カード上に設けられ、該カバーが前記カットアウト部分内にしっかりと、但し取り外し自在に保持されることを特徴とする動く手すり。 【請求項2】手すり上に取外し自在に載置された広告物または印刷物がカバーを通して見られる様に、実質的にそれを覆う透明なカバーを有する、動く歩道、エスカレータ等のための動く手すりであって、 前記透明なカバーは、該手すりの上の部分として且つ手すりの上に突出することなく構成され、 そして、ポケットが手すりの一側に且つ前記上の部分と下の部分との間に設けられ、前記広告物または印刷物がその中に挿入される様になっていることを特徴とする動く手すり。 【請求項3】ポケット内へ前記広告物または印刷物を挿入した後にプラグ等がポケット内へ挿入される様になっていることを特徴とする、請求項2記載の動く手すり。 【請求項4】手すり上に取外し自在に載置された広告物または印刷物がカバーを通して見られる様に、実質的にそれを覆う透明なカバーを有する、動く歩道、エスカレータ等のための動く手すりであって、 前記透明なカバーは、該手すりの上の部分として且つ手すりの上に突出することなく構成され、 そして、前記カバーは、その縁に沿って手すりに固定的にまたは取り外し自在に取り付けられた窓部分と、手すりの他側に保持されるのに適したばねまたはバイアス部分とを有することを特徴とする動く手すり。 【請求項5】手すり上に取外し自在に載置された広告物または印刷物がカバーを通して見られる様に、実質的にそれを覆う透明なカバーを有する、動く歩道、エスカレータ等のための動く手すりであって、 前記透明なカバーは、該手すりの上の部分として且つ手すりの上に突出することなく構成され、 そして、前記カバーは、一側にばねまたはバイアスされた縁部分を有する窓部分を有し、前記広告物または印刷物を手すり上に載置した後には、該カバーは、縁部と係合している該ばねまたはバイアス部分によって手すり上に保持されるのに適合していることを特徴とする動く手すり。 【請求項6】動く歩道、エスカレータ等のための動く手すりであって、 手すりの上の部分が、手すりの上面から手すりの長手方向の軸線のまわりに延びる少なくとも1つのカットアウト部分を有し、 カットアウト部分の上部の長手方向の対向した縁が、カットアウト部分の開口部に沿って、手すりの中心に向かって下方に傾いた内側の面を有する1対のリップを形成すること、 広告物または印刷物が書き込まれたカード等がカットアウト部分の下面の上に置かれること、及び、透明な材料でつくられたカバーが、カード等の上に置かれ、該カバーは、対応した形状であり、且つ前記リップによってカットアウト部分の中にしっかりと且つ取り外し自在に保持されるのに適したものであることを特徴とする動く手すり。 【請求項7】動く歩道、エスカレータ等のための動く手すりであって、 手すりが、上の部分に、手すりの第1の側から長手方向に実質的に同じ平面で手すりの上面に延びる少なくとも1つのポケットが設けられており、該少なくとも1つのポケットは、広告物または印刷物が書き込まれたカード等を該少なくとも1つのポケットの中に受けるのに適していること、及び、 プラグ等が、手すりの前記第1の側と当接関係で、該少なくとも1つのポケットの中にしっかりと但し随意に取り外し自在に挿入されており、手すりの該カード等の上の少なくとも上の部分が透明な材料でつくられていることを特徴とする動く手すり。 【請求項8】動く歩道、エスカレータ等のための動く手すりであって、 手すりの上の部分に、第1の縁に沿って手すりの第1の長手方向の側にヒンジ結合され、第2の縁に沿って、手すりの第2の長手方向の側に保持されるのに適したばね等のバイアス部分により第2の縁に沿って取り外し自在に保持された、少なくとも1つの窓部材が設けられており、広告物または印刷物が書き込まれたカード等を該窓部材と手すりの残りの部分の間に置くことができることを特徴とする動く手すり。 【請求項9】動く歩道、エスカレータ等のための動く手すりであって、 手すりの上の部分が、窓部材をその上で長手方向に受けるのに適しており、該窓部材が、それに沿って手すりのそれぞれの側で取り外し自在に受けられるのに適した長手方向のばねまたはバイアスされた縁を有し、広告物または印刷物を該窓部材と手すりの残りの部分との間に置くことができることを特徴とする動く手すり。 【請求項10】手すり上に置かれた広告物または印刷物がカバーを通して見ることができるように透明な材料のカバーを実質的にその上に有する非直線形の移動路を有する動く歩道、エスカレータ等のための動く手すりであって、 カバー及び広告物または印刷物が、手すりの該非直線形移動路に一致することを十分に可能にするように手すりの長手方向軸線に沿って曲げ自在であり、且つ、手すりの上面とカバーの上面との間に、該動く歩道、エスカレータ等の使用の間カバーの上面のかき傷を最小にするのに十分な凹部が設けられていることを特徴とする動く手すり。」 3.イ号製品 (1)判定請求書本文の第5頁下6行〜第6頁11行には次のようにイ号製品の説明が記載されている。 「これに対して、イ号製品のエスカレーターの手すり広告は、以下の構成要件からなるものである。 a 下記の(a-1)、(a-2)を有する広告用の一体化した多層構造フィルムであること、 (a-1)表面に画像、色彩などが印刷され、裏面に粘着剤が塗着された印刷部分のフィルム (a-2)前記印刷部分のフィルムの印刷面に粘着剤で貼着された透明な保護フィルム b 前記多層構造フィルムがその裏面に塗着された粘着剤によって手すりの上部の平坦部および両側部の曲面部を包み込むように手すりに貼着されていること c エスカレーターの動く手すりであること なお、印刷部分のフィルムと保護フィルムとは粘着によって一体化された多層構造フィルムであり、その粘着の程度は、一度貼着するとフィルムを損傷することなく剥がすのは難しく、また再粘着性がないため印刷部分のフィルムのみ、保護フィルムのみの再利用は不可能である。多層構造フィルムと手すりも貼着されており、同様にフィルムを損傷することなく剥がすのは難しく、また再貼着性がないため多層構造フィルムの再利用は不可能である。」 (2)判定請求書に添付されたイ号製品の写真と図面及びその説明書(以下、まとめて「添付説明書」という。)の、4枚目の「3.広告の変更/差し替え」項中の図3(フィルムの構造)とその説明によれば、イ号製品に使用されるフィルムの構造は、多層構造フィルムであり、エスカレータの手すりに貼付けられる側から順に、貼付時に剥がされる剥離紙、手すりに貼付けるための粘着層(以下、「第1粘着剤」という。)、広告表示のために上面に着色層を印刷したフィルム層(以下、「印刷フィルム」という。)、印刷フィルム上に貼付けるために下面に粘着層(以下、「第2粘着剤」という。)を有する印刷部分保護用のラミネートフィルムからなる表面特殊保護層(以下、「保護フィルム」という。)で構成されているものである。 (3)同添付説明書の、1枚目の「1.施行」項中の「<<施工工程2>>」における説明及び写真1(フィルムの貼付け),写真2(表面部分の貼付け状態),写真3(R部分),写真4(R部アップ)を上記(1),(2)を勘案しつつみれば、イ号製品は通常のエスカレータの手すりとそれに貼付けられる多層構造フィルとからなり、多層構造フィルムは、帯状であり、柔軟であり、表面が平坦なものであり、両側部分を含めて全体として曲げ加工が施されていない平板状のものであり、ただ、フラットなエスカレータの手すりの上部表面に貼付けた状態では、該上部表面からはみ出した両側部分が若干たれ気味になるようなものであり、保護フィルムは、印刷フィルムの全面を覆うものであり、手すりの上部表面に対応する部分は、貼付け後に実質的な手すりの上の部分になる平坦なものである。 (4)同添付説明書の、2枚目の「<<施工工程3>>」における説明及び写真5,6を上記(1)〜(3)を勘案しつつみれば、イ号製品の多層構造フィルムの両側部分は、手すりのサイド部分の曲面部に、手作業により曲面部を包み込むように曲げられて貼付けられるものである。 (5)同添付説明書の、4,5枚目の「3.広告の変更/差し替え」項中の写真8(フィルムの差し替え),写真9(フィルムの差し替え)とその説明を上記(1)〜(4)を勘案しつつみれば、第1粘着剤は、印刷フィルムと保護フィルムとが一体化した多層構造フィルムを損傷することなく剥がすのが難しいほどに強力であり、かつ、再粘着性がないために剥がした後の多層構造フィルムの再利用は不可能であり、また、第2粘着剤も、印刷フィルムと保護フィルムとを損傷することなく剥がすのが難しいほどに強力であり、かつ、再粘着性がないために剥がした後の印刷フィルムも保護フィルムも再利用は不可能になるものである。 以上のことを整理すると、イ号製品の構成は次のとおりである。 イ-a.通常のエスカレータの手すりとそれに広告のために貼付けられる多層構造フィルムとからなる動く手すりである。 イ-b.多層構造フィルムは、帯状で、柔軟で、表面が平坦で、両側部分を含め全体的に曲げ加工が施されていない平板状のものである。 イ-c.多層構造フィルムの両側部分は、手すりのサイド部分の曲面部へ、手作業により曲面部を包み込むように曲げられて貼付けられるものである。 イ-d.多層構造フィルムは、印刷フィルムと保護フィルムとが一体化したものである。 イ-e.印刷フィルムは、表面に広告用の印刷が施され、裏面に手すりに貼付けるための第1粘着剤を有するものである。 イ-f.印刷フィルムの第1粘着剤は、印刷フィルムと保護フィルムとが一体化した多層構造フィルムを損傷することなく剥がすのが難しいほどに強力であり、かつ、再粘着性がないために剥がした後の多層構造フィルムの再利用は不可能である。 イ-g.保護フィルムは、印刷フィルムの全面を覆う透明なものであり、裏面に印刷フィルムの印刷面に貼付けるための第2粘着剤を有し、手すりの上部表面に対応する部分は、実質的に手すりの上の部分になる平坦なものである。 イ-h.保護フィルムの第2粘着剤は、印刷フィルムと保護フィルムとを損傷することなく剥がすのが難しいほどに強力であり、かつ、再粘着性がないために剥がした後の印刷フィルムも保護フィルムも再利用は不可能である。 4.両当事者の主張 (1)請求人の主張 イ号製品は、本件発明1〜10のいずれに対しても構成要件を充足しないものがあるため、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 (2)被請求人の主張 「請求項1〜3、6〜8、10に係る発明については、判定被請求人は、イ号製品がこれらの発明の技術的範囲に属しないという結論については、反論しない。ただし、種々、比較されている点の内、特に、判定請求人の言う構成要件D(判定注;構成要件Dのうち、透明なカバーが手すりの上に突出することなく構成されている点。)については、反論する。」(答弁書3頁下13〜下10行)、すなわち、イ号製品は本件発明4,5,9の技術的範囲に属するものであり、本件発明1〜3,6〜8,10については、イ号製品がこれらの発明の技術的範囲に属しないことについて反論しないが、ただし、特に、透明なカバーが手すりの上に突出することがないという構成要件をイ号製品が充足しないとの請求人の主張に対しては反論する。 5.対比・判断 イ号製品が本件発明4,5,9以外の発明の技術的範囲に属しないことについては両当事者間に争いがないので、以下、本件発明4,5,9についてのみ検討する。 (1)本件発明4について 本件発明4(前者)とイ号製品(後者)とを対比するに、後者の「印刷フィルム」及び「保護フィルム」は前者の「広告物または印刷物」及び「カバー」にそれぞれ対応するから、後者が前者の「広告物または印刷物がカバーを通して見られる様に、実質的にそれを覆う透明なカバーを有する、動く歩道、エスカレータ等のための動く手すり」を充足することは明らかであって、充足についてさらに検討すべき前者の構成要件は次のとおりである。 <構成要件4-A>「手すり上に取外し自在に載置された広告物または印刷物」であること。 <構成要件4-B>「前記透明なカバーは、該手すりの上の部分として且つ手すりの上に突出することなく構成され」ていること。 <構成要件4-C>「前記カバーは、その縁に沿って手すりに固定的にまたは取り外し自在に取り付けられた窓部分と、手すりの他側に保持されるのに適したばねまたはバイアス部分とを有する」こと。 以下、イ号製品が上記構成要件4-A〜4-Cを充足するか否かについて検討する。 <構成要件4-Aについて> 本構成要件における「取外し」は、「とりつけてあるものをはずす」(広辞苑等)意であり、「取外しのできる装置」や「取外しがきく」あるいは動詞として「網戸を取外す」などと用いられる(広辞苑等)言葉であって、「取除く」が「じゃまなものや不要なものなどを取ってなくする」(広辞苑等)意であることに比すれば、取付てあるものを多少の損傷があり得るとしても再利用できる状態で外すという意味合いが強いものである。 また、「自在」は、「おもいのまま」(広辞苑等)の意であり、「取外し自在」というときには、単に取外しが可能であるというだけではなく、きわめて簡単に取外せるという意味合いを生じるものである。 本構成要件でもそのような意味合いであることは、上記構成要件4-Cや他の請求項に係る発明における「取外し自在」の用いられ方をみれば、「広告物または印刷物」を随時替える狙いが見て取れることからも、明らかなことといえる。 さらに、「載置」は文字通り載せて置くの意であるが、本構成要件においては、「取外し自在」を可能とするように貼付けることを除外するものではない。 これに対して、イ号製品の印刷フィルム裏面の第1粘着剤は多層構造フィルムを損傷することなく剥がすのが難しいほどに強力である(イ-f)としているが、時間をかけるなどしてきわめて慎重に剥がせば損傷せずに剥がせる可能性を完全には否定しておらず、また、第1粘着剤は再粘着性がないために剥がした後の多層構造フィルムの再利用は不可能である(イ-f)としているが、新たに第1粘着剤を塗布して再利用できる可能性を完全には否定していない。 しかしながら、時間をかけるなどしてきわめて慎重に剥がすようなことが「取外し自在」の上述した概念に入るとは言い難く、加えて、イ号製品の印刷フイルムは、両側部分が手すりのサイド部分の曲面部を包み込むように貼付けられる(イ-c)と共に、全面で保護フィルムを貼付け支持する基礎となるべきものであり(イ-g)、そのような印刷フィルムを手すりのサイド部分の曲面部を包み込むように貼付けることまでもが、「手すり上に・・・載置」の概念に入るとも言い難い。 したがって、イ号製品は構成要件4-Aを充足しない。 なお、被請求人は、答弁書4頁29〜31行において、請求人が、「取外し自在」にはイ号製品に係る「貼着」も含まれると認めている旨主張しているが、その根拠は、請求書7頁5〜15行の、「「取外し自在に載置」と「貼着」とは異なる概念であり、しかも本件特許発明の明細書中には・・・「貼着」または「接着」については一切記載がない。・・・したがって、イ号製品は構成要件A(判定注;即ち、本構成要件。)を充足しないと考えるが、・・・手すりから剥がすことが可能であることから、この「貼着」も取外し自在の一態様であると解釈される可能性がある。そこで、一歩譲って、イ号製品は構成要件Aを充足する可能性があるとする。」との記載にあるところ、これによれば、請求人は、本来、イ号製品は本構成要件を充足しないと考えているのであって、しかも、イ号製品の第1粘着剤による貼付けが「取外し自在」の上述した概念に入るとはいえないのであるから、この主張は採用できない。 <構成要件4-Bについて> イ号製品の保護フィルムも手すりの上の部分となるものである(イ-g)。 本構成要件の「手すりの上に突出することなく」について、被請求人は、答弁書3頁下5〜末行で、「手すりの上に凹凸を生じない」ことであると釈明しているが、そのようには読めないのであって、むしろ、本件特許発明に係る実施例からみて、例えば図面の第1,2,5図にみられるように、カバーが手すりと面一又は一段低くなっていることであると理解するのが自然であり、一方、イ号製品の保護フィルムが手すりの上に突出していることは明らかであるから、イ号製品は本構成要件を充足していないといえる。 なお、被請求人は、答弁書6頁2〜3行において、「発明4は、これ(判定注;実願昭56-17617号(実開昭57-130883号)のマイクロフイルム、請求人提示の公知技術文献1且つ被請求人提示の乙第1号証。)に比べ、凹凸のない点に特許性が認められて、特許されたものであり、この凹凸のないという特徴は、イ号製品も備えている。」と述べ、あたかも、本件発明4が特許されたのは、「手すりの上に突出することなく」が「手すりの上に凹凸を生じない」と解されたからであるかのように主張している。 しかしながら、「手すりの上に突出することなく」を「手すりの上に凹凸を生じない」と読めないことは上述したとおりであるし、また、実願昭46-66913号(実開昭48-25687号)のマイクロフイルム(請求人提示の公知技術文献4且つ被請求人提示の乙第4号証。)に、広告3を描いた薄い合成樹脂の表示帯4(即ち広告物)を交換自在にエスカレータのベルト2(即ち手すり)上に載置し、その上を、手すりのサイド部分の曲面部に係合する湾曲部を両側部に有する合成樹脂透明板5(即ち透明なカバー)で被覆した手摺帯a(即ち動く手すり)が記載され、図面等には、透明なカバーである合成樹脂透明板5として「手すりの上に凹凸を生じない」ものが例示されていて、透明なカバーが手すりの上に凹凸を生じない点は周知ともいえることであって、本件発明4の特許理由が、「手すりの上に突出することなく」が「手すりの上に凹凸を生じない」と解されたからであるとは必ずしもいえないから、この主張は採用できない。 <構成要件4-Cについて> イ号製品の保護フィルムは、その全体が印刷フィルムの上面全体に第2粘着剤で貼付けられているものであって(イ-d,イ-g)、「その縁に沿って手すりに固定的にまたは取り外し自在に取り付けられた窓部分」を有するものではなく、また、その両側部分は、印刷フィルムと共に、手すりのサイド部分の曲面部へ、手作業により曲面部を包み込むように曲げられて貼付けられるものであって(イ-c)、「手すりの他側に保持されるのに適したばねまたはバイアス部分」を有するものではないから、イ号製品は本構成要件を充足しない。 なお、被請求人は、答弁書4頁13〜25行において、本構成要件のカバーの取付方法には、可塑性PVC等のコーティングによる場合が含まれるため、窓部分の縁部分を手すりに貼着する方法も含むといえるから、その点ではイ号製品も同じであると主張し、根拠として、本件特許明細書の「図示されていない他の実施例は、如何なる形での印刷物などでも手すり1へ載置することから成り、この上に、乾燥した時に不透明でない硬化性液体の形のコーティングを施される。可塑性のPVC等の様なこのコーティングは、印刷物を掻き傷、野蛮な取り外しや、手すり機構の操作による損傷または取り外しから保護することができる。」(本件特許掲載公報7欄39行〜8欄1行)を挙げている。 しかし、可塑性PVC等のコーティングは、上記明細書の記載によれば、手すりに載置された印刷物の上に施されて印刷物を保護するものであって、窓部分の縁部分を手すりに貼着するためのものではなく、かつ、「その縁に沿って手すりに固定的にまたは取り外し自在に取り付けられた窓部分と、手すりの他側に保持されるのに適したばねまたはバイアス部分とを有する」カバーとは明らかに異なるから、本構成要件に含まれるものとはいえないし、また、仮に、可塑性PVC等のコーティングが窓部分の縁部分を手すりに貼着するためのものであって、窓部分の手すりへの取付方法に含まれるとしても(認め難いことではあるが。)、イ号製品の保護フィルムは、多層構造体を手すりに貼付ける前に予め印刷フィルム上に貼り付けられて多層構造体を構成するフィルムであって、保護フィルムの縁部分が手すりに直に貼付けられているものではないから、この主張は採用できない。 また、被請求人は、同書4頁下17〜下8行において、イ号製品の保護フィルムも「バイアス部分」を有していると主張する。 しかし、本構成要件の「バイアス部分」は、本件特許明細書に、例えば、「カバー16の他の側には、手すり1の底部19とカチンと係合するばねまたはバイアスされる部分18が設けられている。ばね部分18・・・バイアスされる部分18」(本件特許掲載公報7欄25〜30行)と記載があるように、手すりの底部にカチンと係合するばねと同様の機能を持つ部分であって、具体的には、本件特許発明に係る図面第5図において符号18で示されるように曲げ加工がなされている部分であり、一方、イ号製品の保護フィルムは、曲げ加工などなされていないものであり(イ-b)、手すりのサイド部分の曲面部への貼付けは、印刷フィルムと共に手作業により曲面部を包み込むように曲げられてなされるのであって(イ-c)、本構成要件の「バイアス部分」があるとはいえないから、この主張も採用できない。 以上のことから、イ号製品は本件発明4に属しない。 (2)本件発明5について 本件発明5(前者)とイ号製品(後者)とを対比するに、後者の「印刷フィルム」及び「保護フィルム」は前者の「広告物または印刷物」及び「カバー」にそれぞれ対応するから、後者が前者の「広告物または印刷物がカバーを通して見られる様に、実質的にそれを覆う透明なカバーを有する、動く歩道、エスカレータ等のための動く手すり」を充足することは明らかであって、充足についてさらに検討すべき前者の構成要件は次のとおりである。 <構成要件5-A>「手すり上に取外し自在に載置された広告物または印刷物」であること。 <構成要件5-B>「前記透明なカバーは、該手すりの上の部分として且つ手すりの上に突出することなく構成され」ていること。 <構成要件5-C>「前記カバーは、一側にばねまたはバイアスされた縁部分を有する窓部分を有し、前記広告物または印刷物を手すり上に載置した後には、該カバーは、縁部と係合している該ばねまたはバイアス部分によって手すり上に保持されるのに適合している」こと。 以下、イ号製品が上記構成要件5-A〜5-Cを充足するか否かについて検討する。 <構成要件5-A,5-Bについて> 上記構成要件4-A,4-Bについて述べた理由と同様の理由により、イ号製品は本両構成要件を充足しない。 <構成要件5-Cについて> 上記構成要件4-Cについて述べたところからみて、イ号製品の保護フィルムは、「一側にばねまたはバイアスされた縁部分を有する」ものではなく、「縁部と係合している該ばねまたはバイアス部分によって手すり上に保持される」ものでもないから、イ号製品は本構成要件を充足しない。 以上のことから、イ号製品は本件発明5に属しない。 (3)本件発明9について 本件発明9(前者)とイ号製品(後者)とを対比するに、後者が前者の「動く歩道、エスカレータ等のための動く手すり」を充足することは明らかであって、充足についてさらに検討すべき前者の構成要件は次のとおりである。 <構成要件9-A>「手すりの上の部分が、窓部材をその上で長手方向に受けるのに適しており、該窓部材が、それに沿って手すりのそれぞれの側で取り外し自在に受けられるのに適した長手方向のばねまたはバイアスされた縁を有し、広告物または印刷物を該窓部材と手すりの残りの部分との間に置くことができる」こと。 以下、イ号製品が上記構成要件9-Aを充足するか否かについて検討するに、イ号製品の保護フィルムは、上記構成要件4-Cについて述べたところからみて、「手すりのそれぞれの側で取り外し自在に受けられるのに適した長手方向のばねまたはバイアスされた縁」を有しておらず、また、イ号製品の印刷フィルムは、手すりのサイド部分の曲面部をも包み込むように貼付けられるものであって(イ-c)、「該窓部材と手すりの残りの部分との間に置」かれる「広告物または印刷物」とはいえないから、イ号製品は本構成要件を充足しない。 以上のことから、イ号製品は本件発明9に属しない。 7.むすび 以上のとおりであるから、イ号製品は本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2005-02-22 |
出願番号 | 特願昭63-504259 |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(G09F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 松澤 福三郎 |
特許庁審判長 |
小沢 和英 |
特許庁審判官 |
藤井 靖子 砂川 克 |
登録日 | 1998-08-14 |
登録番号 | 特許第2813608号(P2813608) |
発明の名称 | 動く手すり |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 篠崎 正海 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 廣江 武典 |
代理人 | 鶴田 準一 |