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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) C08F
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) C08F
管理番号 1114031
審判番号 無効2002-35498  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-07-02 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-11-22 
確定日 2005-03-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第2141480号発明「透明膜を有する積層物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2141480号の特許請求の範囲第1項ないし第14項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 [手続の経緯]
本件特許第2141480号に係る8個の発明についての出願は、昭和60年12月23日に特許出願(特願昭60-287987号)され、平成7年6月7日に出願公告(特公平7-53782号)され、平成10年2月3日に特許異議申立の理由による特許法第29条第1項第3号の規定により拒絶査定がなされ、これに対し、拒絶査定不服の審判(平成10年審判第3052号)が請求され、平成10年10月30日に上記請求は成り立たないとする審決がなされ、これに対し、審決取消の訴え(平成10年(行ケ)第384号)が提起され、平成12年5月17日に審決取消の判決が出され、再開された審判においてその第1発明に対し、特許法第29条第2項の規定により拒絶理由通知がなされ、補正により第1発明を削除した後の7個の発明について、平成13年4月6日に特許権が設定登録された。
これに対してハイシート工業株式会社(以下、「請求人」という。)より、平成14年11月22日に本件無効審判の請求がなされ、平成15年3月7日付訂正請求書により、明細書の訂正が請求され、平成15年10月3日に第1回の口頭審理が行なわれ、平成15年3月7日付の訂正請求に対し平成16年4月6日付で訂正拒絶理由と書面審理通知がなされ、訂正拒絶理由通知の指定期間内である平成16年6月4日付で特許権者より意見書(乙第5号証を含む)が提出されたものである。
また、請求人からは、平成15年7月22日付で弁駁書、平成16年3月12日付弁駁書(参考資料3(実験証明書)を含む)が提出された。
一方、被請求人より、平成15年3月7日付の答弁書(乙第1号証、乙第2号証を含む)、平成15年10月3日付の口頭審理陳述要領書及び平成15年11月4日付第2答弁書(乙第3号証(スガ試験機製カラーコンピューターSM-3型の取扱説明書)、乙第4号証(実験証明書)を含む)が提出された。
[訂正の可否についての判断]
(1)訂正事項
特許第2141480号特許明細書の特許請求の範囲を下記のように訂正する。
「【請求項1】エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)を主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜と無機材料とを積層した積層物。
【請求項2】無機材料がガラスである特許請求の範囲第1項に記載の積層物。
【請求項3】ガラスが透明膜を介してその両側に位置した安全合せガラスあるいは擦過傷防止窓を構成した特許請求の範囲第2項に記載の積層物。
【請求項4】無機材料が金属である特許請求の範囲第1項に記載の積層物。
【請求項5】EVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜と有機材料とを積層した積層物。
【請求項6】有機材料がプラスチックである特許請求の範囲第5項に記載の積層物。
【請求項7】プラスチックスが、ポリエステル、ナイロン、アクリルまたはポリカーボネートである特許請求の範囲第6項に記載の積層物。
【請求項8】EVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜を介して無機材料と有機材料とを積層した積層物。
【請求項9】無機材料がガラスであり、有機材料がプラスチックであって擦過傷防止窓を構成する特許請求の範囲第8項に記載の積層物。
【請求項10】プラスチックが、ポリエステル、ナイロン、アクリルまたはポリカーボネートである特許請求の範囲第9項に記載の積層物。
【請求項11】EVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を持たない透明膜を介してガラスと太陽電池用モジュールを積層して太陽電池パネルを構成した積層物。
【請求項12】EVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜を介してガラスと液晶表示パネルを積層して液晶表示体を構成した積層物。
【請求項13】EVA丁を主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜を介してガラスとエレクトロルミネッセンスパネルを積層してエレクトロルミネッセンス体を構成した積層物。
【請求項14】ガラスとガラス間あるいはガラスとプラスチックフィルム間にEVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜を介在させて積層物を得るに当たり、透明膜に接するガラスあるいはプラスチックフィルム面に導電性物質あるいは半導体物質を塗工あるいは蒸着することにより積層して、曇り防止窓、氷結防止窓、電磁波遮蔽窓あるいは熱線反射窓を構成した積層物。」
(2)判断
本件訂正は、訂正前の特許請求の範囲の内、請求項1、5、8、11、12、13及び14について、「ヘイズ値0.6以下を有する」を『さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない』にしたものである。
この訂正について、請求人は、次のとおりの主張をしている。
『本件特許の無効審判事件において、請求人より公知文献が提出され、その中に本件発明の特徴的要件であるトリアリルイソシアヌレートの記載があったため、これらの文献に記載されていない『曇点を実質的に持たない』との規定を加え、減縮したものである。
即ち、本件特許の三元共重合体架橋物(EVAT)を主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜の中で、特に曇点を実質的に持たない透明膜のみに限定したものであるので、特許請求の範囲の減縮に当たると考える。
『曇点を実質的に持たない』については、特公平7-53782号公報の第4欄、第2行〜第17行(出願当初明細書第4頁第18行〜第5頁第14)に曇点を持たない意味が、そして実施例の表の注として本件発明の透明膜が曇点を実質的に持たないことが記載されている。
従って、この訂正は、特許法第134条第2項第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」に該当するほか、準用する特許法第126条第2項ないし第4項にも違反しないものである。』
これに対し、平成16年4月6日付で次のとおりの訂正拒絶理由を通知した。
『平成15年3月7日付けの本件訂正は、次の理由によりその訂正は認められない。
(理由) 平成15年3月7日付け訂正は、本件特許請求の範囲の請求項1、5,8,11,12,13において、訂正前「・・・、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜・・・積層物」を訂正後「・・・、さらにヘイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜・・・積層物」としようとするものである。
これは、あらたに「且つ曇点を実質的に持たない」を追加するものである。
しかし、「曇点を実質的に持たない」とは、どの段階で曇点を持たないのか、又「実質的」とはいかなる意味か不明確であるといえる。
これについて、被請求人は答弁書で、従来技術の説明箇所と実施例の記載から、「EVATを主成分とする本件特許の透明膜が、加熱状態から冷却される際に、曇点、即ち白色点又は白濁点を目視で観察されなかったこと」であり、◎と○は熟練者の目視か否かの違いであり、△との差異が重要である旨の答弁をしているが、依然として実質的との定義を明らかにしているとはいえないし、仮に被請求人の答弁を是としたとしても、加熱状態や冷却などの具体的条件も定かでなく、明確性を欠くものといえる。』
これに対し、被請求人は、平成16年6月4日付の意見書で、『「どの段階で曇点を持たないのか」について まず曇点は、一般的には次のように定義されています。乙第5号証には「一般に、透明であった溶液が温度の変化により曇りを発生するときの温度をいう。」、及び「油脂や石油製品においては、冷却により高凝固点成分の析出やパラフィンろうその他の固形成分の析出分離によって、曇りが生じる温度をいう。」と記載されています。 従いまして、一般的には、曇点とは、溶液状態のものが冷却により曇りが生じる温度をいうと思われます。本件特許におきましても、EVAT樹脂が高温で架橋された後、放冷される過程で曇点が観察されておりますので、上記の一般的な定義と矛盾するものではないと思われます。但し、本件発明では、曇りが生じる温度と言うより「その温度における白色の程度」に重点がおかれて記載されています。
一方、この曇点の測定方法につきまして、本件特許明細書(特許公報)の第8欄、第10〜28行の実施例には、「EVATを挟んで厚さ0.38mmのシートを作製し、厚さ3mmのフロートガラス2枚の間にこのEVAT樹脂シートを挟み、約80℃にて予備圧着し、その後、オーブンにおいて大気圧でガラスの表面温度が150℃に到達した時点より15分間加熱し、合せガラスを得、上記合せガラスをオーブンよりとり出し、放冷する過程で曇点発生の有無を観察した。」と、概略、記載されております。即ち、厚さ0.38mmのEVATシートを厚さ3mmのフロートガラス2枚の間に侠み、150℃にて15分間加熱後、放冷する過程で曇点発生の有無を観察しています。従いまして、曇点発生の有無の観察は、上記の加熱された合わせガラスを放冷する途中で行われることは明らかであると思われます。また、上記実施例には、特許請求の範囲に加えられた「曇点」についての測定のための条件、即ち試料の作製、加熱、冷却等の条件についても上記のように明確に記載されていると思われます。従いまして、「どの段階で曇点を持たないのか」の点につきましては、本件特許明細書に明確に記載されていると思料いたします。即ち、曇点を持つ持たないは、上記実施例に記載された条件で合わせガラスを加熱した後放冷途中で判断されます。これは、前記曇点の定義にも矛盾するものではありません。また、理由の後半で述べておられる「加熱状態や冷却の具体的条件も定かでなく」との点についても、上記実施例の記載から、上記温度条件等で試料を作製し、常温で放冷しておりますので、本件特許明細書に明確に記載されているものと思料いたします。
また「曇点を実質的に持たない」の実質的にとはいかなる意味か不明確である、については、本件特許明細書の実施例には、「結果は、第1表に示す通りであり、EVATを用いた合わせガラスにおいては実質的に曇点の発生はみとめられなかった」(第7頁、第21〜23行)とあり、一方、比較例についての記載は「目視可能な曇点の発生をみとめた」(第7頁、第26行)とあります。従いまして、実施例の合わせガラスは曇点の発生は認められておりません。曇点の発生に関する評価として、◎と○の区別は表にのみ記載されていることであり、熟練技術者により敢えて付けられた差異であります。これは通常の当該技術者にとっては区別のつかないものです。
従いまして、「曇点を実質的に持たない」と「曇点を持たない」とは同じ意味であり、評価が目視による判断のため、一般的な用語として「実質的」は使用されていると言うべきであると思料します。
』と主張している。
しかし、実施例での測定法は、具体例であって、本件の測定条件として定義されているものではなく、また、熟練技術者と通常の当該技術者との区別は主観的であり客観性に欠くものであり、依然として実質的という意味が明確だとはいえない。
したがって、「曇点を実質的に持たない」とは不明確な記載であり、この不明確な記載を追加しようとする本件訂正は、特許請求の範囲の減縮にも、明りょうでない記載の釈明にも、誤記の訂正にも該当せず、訂正の目的のいずれにも合致しないものである。
したがって、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成15年法律第47号)付則第2条第7項の規定によりなお従前の例によるものとされる同法[第1条の規定]による改正前の特許法第134条第2項ただし書各号のいずれにも該当しないから、本件訂正は認められない。
[特許発明の認定]
上記のとおり本件訂正は、訂正要件に適合しないので認められない。
したがって、本件特許発明は、訂正前の特許明細書に記載された特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜14の次のとおりのものと認める。
「【請求項1】エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)を主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜と無機材料とを積層した積層物。
【請求項2】無機材料がガラスである特許請求の範囲第1項に記載の積層物。
【請求項3】ガラスが透明膜を介してその両側に位置した安全合せガラスあるいは擦過傷防止窓を構成した特許請求の範囲第2項に記載の積層物。
【請求項4】無機材料が金属である特許請求の範囲第1項に記載の積層物。
【請求項5】EVATを主成分とし、さりこへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜と有機材料とを積層した積層物。
【請求項6】有機材料がプラスチックである特許請求の範囲第5項に記載の積層物。
【請求項7】プラスチックスが、ポリエステル、ナイロン、アクリルまたはポリカーボネートである特許請求の範囲第6項に記載の積層物。
【請求項8】EVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜を介して無機材料と有機材料とを積層した積層物。
【請求項9】無機材料がガラスであり、有機材料がプラスチックであって擦過傷防止窓を構成する特許請求の範囲第8項に記載の積層物。
【請求項10】プラスチックが、ポリエステル、ナイロン、アクリルまたはポリカーボネートである特許請求の範囲第9項に記載の積層物。
【請求項11】EVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜を介してガラスと太陽電池用モジュールを積層して太陽電池パネルを構成した積層物。
【請求項12】EVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜を介してガラスと液晶表示パネルを積層して液晶表示体を構成した積層物。
【請求項13】EVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜を介してガラスと工レクトロルミネッセンスパネルを積層して工レクトロルミネッセンス体を構成した積層物。
【請求項14】ガラスとガラス間あるいはガラスとプラスチックフィルム間にEVATを主成分とし、さらにへイズ値0.6以下を有し且つ曇点を実質的に持たない透明膜を介在させて積層物を得るに当たり、透明膜に接するガラスあるいはプラスチックフィルム面に導電性物質あるいは半導体物質を塗工あるいは蒸着することにより積層して、曇り防止窓、氷結防止窓、電磁波遮蔽窓あるいは熱線反射窓を構成した積層物。」
[当事者の主張]
(請求人の主張)
本件発明を無効とすべき理由
<特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反する無効理由>
《1》本件発明の構成上の特徴について
本件発明の構成上の特徴は、上記特許請求の範囲第1項、第5項、第8項、第11項、第12項、第13項および第14項に記載された7つの発明からなるものである。
つまり、第1の発明は、「エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共 重合体架橋物(EVAT)を主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜と無機材料とを積層した積層物」
第2の発明は、「EVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜と有機材料とを横層した積層物」
第3の発明は、「EVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜を介して 無機材料と有機材料とを積層した積層物」
第4の発明は、「EVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜を介して ガラスと太陽電池用モジュールを積層して太陽電池用パネルを構成した積層物」
第5の発明は、「EVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜を介して ガラスと液晶表示パネルを積層して液晶表示体を構成した積層物」
第6の発明は、「EVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜を介して ガラスとエレクトロルミネッセンスパネルを積層してエレクトロルミネッセンス体を構成した積層物」
第7の発明は、「ガラスとガラス間あるいはガラスとプラスチックフィルム間にEVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜を介在させて積層物を得るに当たり、透明膜に接するガラスあるいはプラスチックフィルム面に導電性物質あるいは半導体物質を塗工あるいは蒸着することにより積層して、曇り防止窓、氷結防止窓、電磁波遮蔽窓あるいは熱線反射窓を構成した積層物」
《2》本件明細書の実施例に開示された透明膜のへイズについて
本件明細書の実施例において開示されたへイズ値とは、実施例に開示された、中間にEVATの透明膜を積層したガラス/透明膜/ガラスからなる合せガラスのへイズ値であり、EVATからなる透明膜のへイズ値は本願明細書のどこにも示されていない。
実施例に示された合わせガラスは、下記の方法によって製作されている。 (a) エチレン-酢酸ピニル共重合樹脂とトリアリルイソシアヌレートを主成分とした第1表に示す配合成分を約80℃に加熱したロールミルにて混合し、EVAT樹脂を調整した。
第1表に示された配合組成は、次のとおりである。
(ア)エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂
(イ)トリアリルイソシアヌレート
(ウ)ジクミルパーオキサイドまたは
(ウ)’2,5-ジメチル-2,5-(t-ブチルパーオキシ)へキサン
(エ)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
つまり、本件明細書の実施例における配合組成は、エチレン-酢酸ビニル共重合体に、配合剤である、架橋促進剤(イ)、架橋剤(ウ)または(ウ)’、シランカップリング剤(エ)を約80℃のロールミルで加熱混合し、EVAT樹脂を調製している。
(b)次に、上記調製したEVATをポリエチレンテレフタレートフィルムに挟み、プレスを用いて厚さ0.38mmのシートを作製した。放冷してシナートが室温になった後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、予め洗浄乾燥した厚さ3mmのフロートガラス2枚の間にEVAT樹脂シートを挟み、これをポリエチレンテレフタレート製の袋に入れて真空脱気し、約80℃で予備圧着する、その後、予備圧着された合せガラスをオーブン中に入れて大気圧でガラスの表面温度が150℃こ到達した時点より15分間加熱した。得られた合せガラスは、透明度が高く、光学的なゆがみのないものであったことが報告されている。
(c)オーブンで加熱硬化させた上記合せガラスをオーブンより取り出し、放冷する過程で曇点発生の有無を観察し、その結果を第1表に示している。
つまり、第1表に開示されたへイズ値(%)および曇点とは、第1表に示した配合組成からなる透明膜を用いて、これを2枚のガラス板で挟んで作製した合わせガラスについて測定した値であり、EVATからなる透明膜自体のへイズ値(%)および曇点状態を示すものではない。
これに対して、比較例として示された4種類の例では、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂に、実施例における架橋剤、架橋促進剤を配合せずに、シランカップリング剤であるγーメタクリロキシプロピルトリメトキシシランを添加して実施例と同様にして合わせガラスを作製して、そのへイズ値と露点を測定してその結果を実施例と同様に第1表に示している。
これによれば、比較例における合わせガラスは、いずれも曇点が発生したり、白濁点が見られるものであり、そのへイズ値は、0.65から0.9である。
さらに、本件特許請求の範囲に記載された7つの発明のうち、本件明細書に具体的にその構成が開示されているものは、前述した唯一の実施例における「ガラス/EVATの透明膜/ガラスからなる合わせガラス」、つまり、透明膜と無機材料とを積層した積層物だけであり、第2の発明である「EVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜と有機材料とを積層した積層物」、第3の発明である「EVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜を介して無機材料と有機材料とを積層した積層物」、第4の発明である「EVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜を介してガラスと太陽電池用モジュールを積層して太陽電池用パネルを構成した積層物」、第5の発明である「EVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜を介してガラスと液晶表示パネルを積層して液晶表示体を構成した積層物」、第6の発明である「EVATを主成分とし、へイズ値0.6以下を有する透明膜を介してガラスとエレクトロルミネッセン.スパネルを積層してエレクトロルミネッセンス体を構成した積層物」および第7の発明である「ガラスとガラス間あるいはガラスとプラスチックフィルム間にEVATを主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜を介在さて積層物を得るに当たり、透明膜に接するガラスあるいはプラスチックフィルム面に導電性物質あるいは半導体物質を塗工あるいは蒸着することにより積層して、曇り防止窓、氷結防止窓、電磁波遮蔽窓あるいは熱線反射窓を構成した積層物」は、いずれも、一般的な記載がなされているだけで、それらが具体的にいかなる積層物を構成し、いかなる効果を伴うものであるのかが全く示されていない。
《3》本件特許明細書に記載された発明が特許法第36条第3項及び第4頃に規定する要件を満たしていない理由
イ.特許請求の範囲に記載された発明の要件と発明の詳細な説明に記載された発明の不一致
a.本件特許第1の発明は、「エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート三元共重合体架橋物(EVAT)を主成分とし、ヘイズ値0.6以下を有する透明膜と無機材料とを積層した積層物。」を要件とするものであることは前述したとおりである。
しかるに、本件明細書の実施例において具体的に示されたへイズ値とは、「ガラス/EVATの透明膜/ガラスからなる合わせガラス」のへイズ値であり、EVATの透明膜のへイズ値ではない。また、上記合わせガラスのへイズ値から透明膜のへイズ値を特定することは実質的に不可能である。
事実、特許権者は、上記合わせガラスのへイズ値から透明膜自体のへイズ値を特定する手段を本件明細書中には何も開示していない。
ちなみに、プラスチックの光学的試験方法を規定する規格において、ヘイズの測定方法として公的なものは、日本工業規格であるJIS規格とアメリカスタンダード試験方法の規格であるASTM規格の2種類が知られている。
先ず、JIS規格としては、JIS K 7105におけるプラスチックの光学的試験方法のなかの6.4に、ヘーズ(曇価)の試験方法について、下記の説明がなされている。
「6.4.1 要旨:へーズ(曇価)は、微分球式光線透過率測定装置を用いて、拡散透過率及び全光線透過率を測定し、その比によって表わす。
6.4.2 装置:5.5光線透過率に規定する微分球式光線透過率測定装を用いる。
6.4.3 試験片:5.5.2に規定する試験片を用いる。
(5.5.2には、試験片の寸法は、50×50mmの大きさとし、厚さは原厚とすること、ならびに試験片は3個とすることが規定されている。)
6.4.5 計算方法:次の式によってヘーズ(曇価)を算出する。
H= Td /Ti × 100
ここに、H:へーズ(曇価)(%)
Td:拡散透過率(%)
Ti:全光線透過率(%)
6.4.6 結果の表し方:へーズ(曇価)は小数点1けたまで求め、次の例のように表す。
例:H=4.5(%)、H=76.3(%)」
上記JIS K 7105における「ヘーズ」が、本件発明の「ヘイズ」と同義であることは言うまでもないことである。
次にASTM D 1300-92には、下記の条件で透明プラスチックィルムのへイズ(曇り率)を測定する方法が規定されている。
「5.装置:
5.2:特定の出力を有する光源並びに光検出器が備えられた装置を用い、
6.試験片:
6.2:試験片として、直径50mm(2in)の円か、1辺が50mm(2in)の正方形の試験片を準備する。
6.3:所定の1試料当たり3枚の試験片を準備する。
7.調整:
1.2:試験条件-温度23±2℃(73.4±3.6°F)、相対湿度50±5%に維持された雰囲気内に試験装置をセットする。
10.報告書:
10.1.5:%へイズを0.1%の単位まで記録する。」
つまり、本件発明における「ヘイズ値」とは、このいずれの方法によって測定された値を意味するものであるか、あるいは、それ以外の方法よって測定された値を意味するものであるのかは、本件明細書に開示された事項からは全く知る術がない。
しかも、本件明細書に開示されたへイズ値を見ると、本件発明の例5においては0.55、比較例の4においては0.65という小数点2けたまでの表示がされており、この本件明細書に開示されたへイズ値は、小数点1けたまで求めて表示することを規定する上記JIS規格ならびにASTM規格に則った方法ではないものと解するのが相当である。
参考までに、JIS K 7105、およびASTM D 1300にかかる試験規格およびその訳文を、参考資料1、および参考資料2として添付する。
以上詳述した理由から、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件明細書の特許請求の範囲において規定する「透明膜のへイズ値」は、全く記載されていない事項であるから、本件明細書の特許請求の範囲に記載された発明は、明細書中の発明の詳細な説明に全く開示されていない事項を要件とするものであり、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない。
b.本件特許請求の範囲には、第1番目ないし第7番目に及ぶ独立した7つの発明が規定されていることは前述した通りである。
ところが、本件明細書に具体的にその構成とそれに伴う効果が開示されているものは、前述した唯一の実施例における「ガラス/EVATの透明膜/ガラスからなる合わせガラス」だけ、つまり、第1番目の発明の要件である「透明膜自体のへイズ」については、その効果が全く示されていないばかりでなく、第2番目から第7番目までの6つの発明についても、簡単な一般的記載がなされているだけで、その具体的な構成ならびに効果については、全く何も記載されていないものである。
言い換えれば、本件明細書の特許請求の範囲に規定された第1番目から第7番目までの全ての発明は、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をできる程度に、発明の目的、構成、効果が記載されているものとは言えない。
したがって、本件特許請求の範囲に規定された第1番目から第7番目の発明は、発明の詳細な説明に記載されていない事項を要件とするものであり、特許法第36条第3項及び第4項の要件を満たしていない。
ロ.特許請求の範囲に記載された発明の要件の特定不能
本件特許明細書には、本件発明における最も重要な要件である「透明膜のへイズ値」とは、いかなる方法で測定した値なのかが全く記載されていない。
このように、発明の重要な要件である透明膜の物性を数値で規定するものにおいては、当然に、その規定が、いかなる方法によって測定された値であるかを明確に規定しなければならない。
透明膜のへイズ値を測定する方法は、公的なものだけでも前述したように、JISとASTMに規定された二つの方法があり、かつ、その測定条件に至っては、後述する甲第4号証(実験証明書)の記載事項からも明らかなように、当該透明膜を製造する際の冷却温度などの条件によって大きく異なるものであるところ、本件明細書には、本件発明で言うところのへイズ値とは、いかなる対象物を、いかなる方法で測定した値を規定しているのかが全く何も明らかにされていない。
したがって、かかる本件明細書の記載を以てしては、本件発明の技術的範囲を特定することができず、この点でも、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない。
(被請求人の主張)
本件発明が無効でない理由
1.平成15年3月10日付け訂正明細書第8頁第1表に記載されている「○曇点の発生実質的になし」及び「◎曇点の発生なし」の相違点の技術的に正確な説明
上記訂正明細書の実施例についての記載は、「放冷する過程で曇点発生の有無を観察した」(第7頁、第20〜21行)、「EVATを用いた合わせガラスにおいては実質的に曇点の発生はみとめられなかった」(第7頁、第22〜23行)であり、一方、比較例についての記載は「目視可能な曇点の発生をみとめた」(第7頁、第26行)であります。
これらの記載から、実施例の合わせガラスは、全て目視観察では曇点の発生がみとめられなかったこと意味しています。従いまして、○と◎とは、共に目視では曇点の発生は認められないという点で共適しています。そして、◎は特に熟練者の目視においてよりクリアーであったため、曇点の認められないものの中でも○のものに対してあえて差をつけたものであります。
本発明の範囲は、実施例において目視で曇点の発生がみとめられかった◎と○とに限定したものです。ここで、実質的にという用語は、曇点の発生が目視判定であったために用いられたものです。即ち、曇点が認められるか否かを精度の高い装置を用いて厳密に判定したものではない(そのような判定が可能化否かは別として)ことから実質的という用語を用いているものです。なお、このように目視で判定しているのは、実際の使用においても目視で問題が無ければ実質的に問題が無いと考えられるからです。
しかし、発明の明確性の観点で、この◎と○の区別が求められているのであれば、むしろ○と△の相違が明確か否かが検討されるべきと考えます。本件発明の範囲は○と△の間に明確に境界を有するものです。
即ち、曇点の評価において、比較例における△については「わずかに発生」と記載されています。従って、○と△の差は曇点の発生の有無という点において明確であり、本件特許請求の範囲の「曇点を実質的に持たない」につきましては、実施例により充分に明確にされております。以上より、本件特許請求の範囲は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていると考えます。
2.実施例2に記載されている「スガ試験器製カラーコンピューターSM-3型」の操作方法の提出について
スガ試験器製カラーコンピューターSM-3型の取扱説明書乙第3号証として提出いたします。この取扱説明書の4.キー操作の説明の光学系選択でヘ-ズとあり、8.へ一ズ値の測定方法が記載されていますので、ヘイズ値の測定が可能であることが分かります。
尚、ヘイズの測定方法につきましては、実施例2に「各合わせガラス中央部周辺より50×50mmの小片を各3個ずつ切りとり、スガ試験器製カラーコンピューターSM-3型を用いてへイズを測定し、その各平均値を第1表に示した。」と明確に記載されており、実施例の記載として測定方法が疑問であるとの請求人のご指摘は失当であると思われます。
3.実施例2に記載されている「フロートガラス2枚の値が0.3〜0.5であること」が正確な数値であることを前提とした、平成15年10月3日付け口頭審理陳述要領書の修正も含んだ説明
実施例2に記載されている、フロートガラス2枚を重ねたもののへイズ値を測定した結果が、0.3〜0.5であることは、実際の測定結果をそのまま記載したものであり事実であります。ガラス2枚のへイズ値に関し、その値に大きな影響を与える因子についてまず述べます。
第1に、薄いフロートガラスは、製造時にはそのへイズ値はほぼ0でありますが、経時的に汚れや表面の変化等の影響により徐々に上昇するという点です。また勿論、厚さの影響も少し受けて、薄いほど低くなる傾向にあります。
第2に、上記実施例2の「0.3〜0.5」の値は、フロートガラス2枚を単に重ねた状態でへイズ値を測定しており、この様に中間の接着層を介することなくガラスを2枚重ねた場合、ガラスとガラスとの間は完全な接触にはならず、この界面部分の存在によりへイズ値が上昇すると考えられる点です。すなわち、界面の存在により散乱光が増加するものと考えられ、また、実際の測定によってもその結果を確認することができます。
したがって、フロートガラスを単に2枚重ねた状態で測定したへイズ値を、合わせガラスのへイズ値から差し引いた値が透明膜(中間層)のへイズ値ということにはならないものです。
なぜなら、合わせガラスには2枚のガラスが存在しますが、それぞれのガラスは透明膜(中間層)に完全に密着されているため、上記の単に2枚のガラスを重ねた状態、すなわち、重ね部分に界面の生じる状況とは異なっているからです。
この様な事実から、実施例に記載した、2枚重ねたガラスのへイズ値を合わせガラスのへイズ値から差し引けば、それが透明膜のへイズ値ではないかという主張は誤りであります。また、ガラスは厚さが倍になるとへイズ値も2倍になるという関係にもありません。
上記の事実を確認するため、ガラス、単に重ねたガラスのへイズの相違について、被請求人は実験を行いました。その実験報告書を乙第4号証として提出いたします。
この実験報告書に示されてますように、フロートガラス(厚さ3mm)1枚のみのへイズ値は0.05であり、一方、中間層なしで単に2枚重ねただけのガラスは0.46という測定結果となりました。
従って、この実験報告書より、訂正明細書の実施例2に記載されている、フロートガラス2枚を重ねて測定したもののへイズ値である0.3〜0.5が、そのまま合わせガラスのへイズ値に加算されるものでは無く、合わせガラスのへイズ値がほぼ透明膜のものに近いことはご理解いただけると思料いたします。
4.次に、訂正明細書の実施例においては、合わせガラスについてのへイズ値が0.6以下であることが示されており、特許請求の範囲では透明膜のへイズ値が0.6以下と記載されている点について
上述のように、透明膜単独のへイズ値の測定の困難性から実施例におけるへイズ値の表示は、合わせガラスのものになっています。ガラスのへイズ値は、製造直後の純粋なもので完全に平滑なものを想定すれば、そのへイズ値はほぼ0と考えられることから、実施例において合わせガラスのへイズ値として示したへイズ値を特許請求の範囲の記載において透明膜のへイズ値が0.6以下であるものとして記載したものです。従って、この特許請求の範囲における限定は当業者において実施例の記載から自明の事項であり、拒絶査定不服の審判、更に、東京高裁から差し戻された後の拒絶理由通知の段階においても適正な補正であると認められていたものと思料します。
(4)当審の判断・結論
本件特許に係る発明は、上記特許請求の範囲第1項、第5項、第8項、第11項、第12項、第13項および第14項に記載された7つの発明からなるものである。これらはいずれも「ヘイズ値0.6以下」を必須の構成とするものである。
しかし、このヘイズ値は、その特許請求の範囲で測定方法が特定されず、発明の詳細な説明でも測定方法が記載されておらず、僅かに実施例において、スガ試験機製カラーコンピューターSM-3型を用いてヘイズ値を測定、と記載されているだけで、それが定義されているとはいえない。また、実施例では、合せガラスとした場合のヘイズ値であり、透明膜そのもののヘイズ値が記載されているものでもない。しかも、ヘイズ値が測定方法によりかなり変動することは、審判請求人の主張のとおりであり、当業者の技術常識である。
したがって、「ヘイズ値0.6以下」との構成は、技術的に不明確なものであり、発明の詳細な説明に記載された発明の構成に欠くことができない事項とはいえない。
また、上記したように、発明の詳細な説明に透明膜自体のヘイズ値が開示されているとはいえず、特定の数値のヘイズ値を有する透明膜が記載されているとまではいえないので、当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的、構成、効果が記載されているものとはいえない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第3項、第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
尚、特許法第36条第3項、第4項の適用条文は、経過措置の規定によるものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-01-12 
結審通知日 2005-01-13 
審決日 2005-01-25 
出願番号 特願昭60-287987
審決分類 P 1 112・ 531- ZB (C08F)
P 1 112・ 532- ZB (C08F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 板橋 一隆一色 由美子  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
石井 あき子
登録日 2001-04-06 
登録番号 特許第2141480号(P2141480)
発明の名称 透明膜を有する積層物  
代理人 江藤 聡明  
代理人 庄子 幸男  

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