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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1114207
審判番号 不服2003-8051  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-12-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-08 
確定日 2005-03-24 
事件の表示 平成10年特許願第149233号「ディスプレイ用電磁波シールド性フィルムの製造法」〔平成11年12月10日出願公開(特開平11-340682号)〕拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯と本願の発明
本願は、平成10年5月29日の出願であって、当審より、平成16年10月19日付で拒絶理由を通知したところ、平成16年12月27日に、請求人より意見書の提出と共に、明細書についての手続補正がされたもので、本願の発明は、上記手続補正に係る明細書の特許請求の範囲における請求項1〜10に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】プラスチックフィルムに加熱又は加圧により流動する接着剤層を介して該接着剤層への貼合せ面が粗化されている導電性材料の金属箔を貼り合わせて接着剤層に金属箔の貼合せ面の粗化形状が転写される工程と、貼り合わせた金属箔に三角形又は四角形からなり、ライン幅が40μm以下、ライン間隔が100μm以上、ライン厚みが40μm以下で、ライン交差部分のふくれ率が400%以内である幾何学図形を、マスク及びエッチング液を用いるケミカルエッチング法により形成する工程とを有することを特徴とするディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
【請求項2】導電性金属で描かれた幾何学図形のライン幅が1〜40μm、ライン間隔が100μm以上1mm以下、ライン厚みが1〜40μmである請求項1記載のディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
【請求項3】幾何学図形の開口率が50%以上である請求項1又は2に記載のディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
【請求項4】幾何学図形を形成するライン幅においてライン交差部分のライン幅を狭くなるようにする請求項1〜3のいずれか1項に記載のディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
【請求項5】幾何学図形を形成するライン幅において導電性金属のライン交差部分に図形を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
【請求項6】プラスチックフィルムがポリエチレンテレフタレートフイルム又はポリカーボネートフイルムである請求項1〜5のいずれか1項に記載のディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
【請求項7】導電性材料が常磁性金属である請求項1〜6のいずれか1項に記載のディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
【請求項8】導電性材料が、厚さ1〜40μmの銅、アルミニウムまたはニッケルである請求項1〜7のいずれか1項に記載のディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
【請求項9】導電性材料が銅であり、少なくともその表面が黒化処理されている請求項8に記載のディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
【請求項10】接着剤層中に赤外線吸収剤が含有されている請求項1〜9のいずれか1項に記載のディスプレイ用電磁波シールド性フイルムの製造法。
(上記各発明のうち、請求項1に係る発明を、以下、「本願発明」という)

【2】拒絶理由の概要
これに対し、当審からの平成16年10月19日付拒絶理由通知で指摘した、第1の理由の概要は、本願のいずれの発明も、本願の出願前に頒布された下記刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたというものである。
<引用刊行物>
第1引用例:特開平10-75087号公報
第2引用例:金属表面技術協会編,「金属表面技術講座5 化学表面加工法」,初版,株式会社朝倉書店,昭和45年8月20日,第75〜93頁

【3】引用例の記載事項の概要
1.第1引用例には、次のア〜キのとおりの記載がある。
ア 「【発明の属する技術分野】本発明はCRT、PDP(プラズマ)、液晶、ELなどのディスプレイ前面から発生する電磁波のシールド性および赤外線の遮蔽性を有する接着フィルム及びその接着フィルムを用いたディスプレイ、電磁波遮蔽構成体に関する。」(第2頁第1欄第43〜47行)
イ 「【発明の実施の形態】・・・本発明でいうプラスチック基材とはポリエチレンテレフタレート(PET)、・・・ポリカーボネート、・・・などのプラスチックからなるフィルムで全可視光透過率が70%以上のものをいう。」(第3頁第4欄第28〜37行)
ウ 「【0007】本発明の導電性材料としては・・・導電性、回路加工の容易さ、価格の点から銅、アルミニウムまたはニッケルが適しており、厚みが3〜40μmの金属箔であることが好ましい。・・・厚みが3μm未満では、表面抵抗が大きくなり、電磁波シールド効果に劣るためである。導電性材料が銅であり、少なくともその表面が黒化処理されたものであると、コントラストが高くなり好ましい。」(第3頁第4欄第45行〜第4頁第5欄第5行)
「また導電性材料が常磁性金属であると、磁場シールド性に優れるために好ましい」(第4頁第5欄第13〜15行)
エ 「【0008】本発明中の幾何学図形とは正三角形・・・などの三角形、正方形・・・などの四角形・・・などを組み合わせた模様であり、これらの単位の単独の繰り返し、あるいは2種類以上組み合わせで使うことも可能である。」(第4頁第5欄第26〜32行)
オ 「【0009】このような幾何学図形のライン幅は40μm以下、ライン間隔は200μm以上、ライン厚みは40μm以下の範囲とされる。・・・ライン間隔は、・・・大きくなり過ぎると、電磁波シールド性が低下するため、1mm以下とするのが好ましい。」(第4頁第5欄第43行〜同第6欄第1行)
カ 「【0014】 次に接着フィルムの900〜1、100nmの領域における赤外線吸収率が平均で50%以上にする方法としては、酸化鉄・・・などを上記接着剤に含有させたり、バインダー樹脂中に分散させた組成物を接着フィルムの接着剤面または接着フィルム背面に塗布して使うことができる。」(第5頁第8欄第17〜27行)
キ 「【実施例】・・・プラスチック基材として厚さ50μmの透明PETフィルム(屈折率n=1.575)を用い、その上に接着層となるエポキシ系接着シート(ニカフレックスSAF;ニッカン工業(株)製、n=1.58、厚み20μm)を介して導電性材料である厚さ18μmの電解銅箔を、その粗化面がエポキシ系接着シート側になるようにして、180℃、30kgf/cm2の条件で加熱ラミネートして接着させ・・・得られた銅箔付きPETフィルムにフォトリソ工程(レジストフィルム貼付け-露光-現像-ケミカルエッチング-レジストフィルム剥離)を経て、ライン幅25μm、ライン間隔500μmの銅格子パターンをPETフィルム上に形成し、構成材料1を得た。」(第6頁第9欄第25〜39行)
2.第2引用例には、「3.2化学打抜き」(第76頁以下)の項において、次のとおりの記載がある。
「レジストパターンがくぼんだ角ととがった角をもつ場合、打抜き後の部品上では、とがった角はレジストパターンとほぼ同じ形状をもつが、くぼんだ角では丸みが生ずる(図3.13(a)).同一面上では腐食液の作用はすべての方向に同一になるので、この丸みはレジストパターン上の角の頂点を中心とし、サイドエッチを半径とする円弧の一部になる.この丸みを除いて部品上に鋭い角を生ずるためには、レジストパターン上で角の部分にV型のみぞをつける必要がある・・・(図(b)).」(第90頁下から4行〜第91頁第3行)

【4】発明の対比
1.本願発明(請求項1の発明)の構成事項と第1引用例の上記記載事項とを対比する。
(1)先ず、第1引用例(キ)記載の「プラスチック基材」(「厚さ50μmの透明PETフィルム」)は、本願発明における「プラスチックフィルム」に、同様に「導電性材料である厚さ18μmの電解銅箔」は、「導電性材料の金属箔」に相当する。また、同引用例記載の「接着層となるエポキシ系接着シート」は、本願発明の「接着剤層」に対応している。
(2)次に、同引用例で「電解銅箔を、その粗化面がエポキシ系接着シート側になるようにして、180℃、30kgf/cm2の条件で加熱ラミネートして接着」としている点は、本願発明でいう「接着剤層への貼合せ面が粗化されている導電性材料の金属箔を貼り合わせて接着剤層に金属箔の貼合せ面の粗化形状が転写される」過程を表現したものと解しうる。また、上記のプラスチック基材と電解銅箔とが、エポキシ系接着シートを介して「180℃、30kgf/cm2の条件で加熱ラミネート」される以上、当該「エポキシ系接着シート」には、加熱又は加圧による流動性が生じていると考えられる。
(3)そして、同じく第1引用例(キ)では「銅箔付きPETフィルムにフォトリソ工程(レジストフィルム貼付け-露光-現像-ケミカルエッチング-レジストフィルム剥離)を経て、ライン幅25μm、ライン間隔500μmの銅格子パターンをPETフィルム上に形成し、構成材料1を得た」としているが、同引用例(エ)及び(オ)では、「三角形・・・四角形」などの「幾何学図形」と共に、「ライン間隔は200μm以上」とすることにも言及している。
上記の記載に加えて、技術常識(露光時にマスクが使用されること)も参酌すると、第1引用例には、<貼り合わせた金属箔に三角形又は四角形からなり、ライン幅が40μm以下、ライン間隔が200μm以上、ライン厚みが40μm以下である幾何学図形を、マスク及びエッチング液を用いるケミカルエッチング法により形成する>過程について、実質上の開示があるといえる。
更に、上記の対比で言及した第1引用例の記載事項は、上記アの記載からみて<ディスプレイ用電磁波シールド性フィルムの製造法>に係るものといえる。
(4)一方、本願発明では、ライン間隔について、「100μm以上」とはするものの、上限については特段の言及がなく、また、本願発明に係る実施例でも「ライン間隔250μm」(【0020】)とされているところから、本願発明が、ライン間隔に関して「200μm以上」の場合を含むものであることは明らかである。
2.上記の対比から、本願発明と第1引用例記載の発明との一致点及び相違点を次のとおりに認定することができる。
<一致点>「プラスチックフィルムに加熱又は加圧により流動する接着剤層を介して該接着剤層への貼合せ面が粗化されている導電性材料の金属箔を貼り合わせて接着剤層に金属箔の貼合せ面の粗化形状が転写される工程と、貼り合わせた金属箔に三角形又は四角形からなり、ライン幅が40μm以下、ライン間隔が200μm以上、ライン厚みが40μm以下である幾何学図形を、マスク及びエッチング液を用いるケミカルエッチング法により形成する工程とを有するディスプレイ用電磁波シールド性フィルムの製造法」に係る発明である点。
<相違点> 本願発明の「ライン交差部分のふくれ率が400%以内」という要件について、第1引用例記載の発明では言及がない点。

【5】相違点の検討
1.相違点について
上記第2引用例でいう「化学打抜き」とは、金属の薄板や箔を「貫通エッチング」することをいうと解されるから(第2引用例第76頁第7行〜第77頁第4行参照)、同引用例記載の、「くぼんだ角」に生じた「丸み」は、エッチングされずに、レジストパターンからはみ出すように残った部分であって、本願発明でいう、「ライン交差部分のふくれ」と、基本的には同様のものを意味すると考えられる。このような第2引用例の記載事項からみて、エッチング条件によっては、上記のような<ふくれ>が発生しうることは、当業者であれば、通常認識している事項と認められる。そして、ディスプレイ用電磁波シールド性フィルムにおいて、当該ふくれが過大となれば、その透明性を損なうことは明らかである。
そうすると、ケミカルエッチングの工程を含む、ディスプレイ用電磁波シールド性フィルムに係る第1引用例記載の発明において、上記の<ふくれ>に関する面積の上限を考慮することは、特段、想到しがたいこととはいえないし、また、当該面積の上限について、本願発明で規定される「ふくれ率が400%以内」という数値も、当業者が適宜の実験等を行うことにより、容易に設定できる程度のものと考えられる。
したがって、上記相違点で指摘した本願発明の構成は、当業者が容易に想到しうる設計事項というべきである。
2.意見書(平成16年12月27日付)における主張について
(1)請求人は、本願の発明では、線幅40μm以下の「PDPにも適用可能な高精細なもの」を求めるのに対して、第2引用例記載の技術は、これより「ずっと大きい」寸法の加工に係るもので、第2引用例記載の「丸み」は、本願発明におけるふくれとは、「類似の物であっても、同様の物とは言えない」し、同引用例では、「特に電磁波シールド性と非視認性を考慮しておらず、本願発明とは別異な技術である」旨主張する。(上記意見書第2頁第8〜9行、同頁第41〜48行参照)
(2)しかし、第2引用例では「線幅が約50μ以下に縮写される場合」についても言及しているから(第91頁第4〜5行)、請求人の上記主張は必ずしも合理的な根拠があるとはいえない。また、仮に、第2引用例記載の技術と本願発明との間で、加工対象物の寸法や精度において格段の相違があるとしても、そうであるからといって、両者の間に技術上の類縁性が全くないとはいえない。
この点について詳述すると、上述のとおり、第2引用例では「くぼんだ角では丸みが生ずる」としているが、この「丸み」は、「腐食液の作用」が十分には行われなかった部分とみることができる。そして、加工対象物の寸法や精度の如何にかかわらず、エッチング作用(腐食液の作用)が、全ての加工部分で均一に進行するものでないことは技術常識というべきであって、上記の「くぼんだ角」で生じる「丸み」は、本願発明で問題とする「ライン交差部分のふくれ」を類推させるに十分なものである。
また、請求人は、第2引用例では、「電磁波シールド性と非視認性」に係る技術課題が考慮されていない旨主張するが、このような技術課題については、第1引用例(【発明の属する技術分野】、【従来の技術】、【発明が解決しようとする課題】等)において十分な開示がなされており、透明性が要求されるディスプレイ用電磁波シールド材では、エッチングされずに残る金属箔の部分が、「非視認性」に影響を与えることは、当業者であれば、容易に想到できるところというべきである。
(3)更に、請求人は、上記意見書(第2頁第21〜35行)において、本願発明の開発過程で、第1引用例記載の発明に関して、「光透過率が大きくならず、また、導電性材料による幾何学図形が場合によれば視認される」ことが問題になった旨述べている。
しかし、当業者であれば、光透過率の程度や、「導電性材料による幾何学図形」が視認されるか否かを判断するのに、特段の困難を伴うとは考え難いし、また、幾何学図形が視認される場合に、「ライン交差部分」のエッチング不足を疑うことも同様である。
そうすると、本願発明で問題としている「ライン交差部分のふくれ」に係る技術課題は、第2引用例の記載事項の如何にかかわらず、当業者が容易に想到できたことになる。

【6】請求項2以下の発明について
請求項2以下に規定される事項は、下記のとおり、格別のものではなく、請求項2以下、いずれの発明も、本願発明と同様に、上記引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(1)本願請求項2記載の発明で規定される事項は、第1引用例の上記ウ及びオの記載によって示唆されているといえる。
(2)同じく請求項3記載の発明で規定される「幾何学図形の開口率が50%以上」という条件は、第1引用例記載の発明における透明性の確保または向上という発明の目的からみて、自明、若しくは当業者が容易に設定できる設計事項といえる。
(3)また、本願請求項4記載の発明で規定される「幾何学図形を形成するライン幅においてライン交差部分のライン幅を狭くなるようにする」点は、第2引用例の「レジストパターン上で角の部分にV型のみぞをつける」という記載によって示唆されているといえる。
(4)本願請求項5記載の発明に係る「幾何学図形を形成するライン幅において導電性金属のライン交差部分に図形を有する」という記載では、第1引用例に記載されているものとの間に相違が認められない。
(5)本願請求項6記載の発明で規定される事項は、第1引用例の上記イの記載によって開示されている。
(6)本願請求項7〜9記載の発明で規定される事項は、第1引用例の上記ウの記載によって開示されている。
(7)本願請求項10記載の発明で規定される事項は、第1引用例の上記ア及びカの記載によって示唆されているといえる。

【7】むすび
以上のとおり、本願発明をはじめとする本願のいずれの発明も、上記の引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、本願各発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2005-01-21 
結審通知日 2005-01-25 
審決日 2005-02-07 
出願番号 特願平10-149233
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川内野 真介内田 博之中島 成  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 増岡 亘
鈴木 久雄
発明の名称 ディスプレイ用電磁波シールド性フィルムの製造法  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  

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