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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない F16H
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない F16H
管理番号 1114420
審判番号 訂正2002-39139  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-07-09 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-06-17 
確定日 2005-04-07 
事件の表示 特許第2988542号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
特許第2988542号の請求項1に係る発明についての出願は、平成3年9月13日に特許出願され、平成11年10月8日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 アイシン・エィ・ダブリュ株式会社により特許異議の申立てがなされ、平成13年10月2日に「特許第2988542号の請求項1に係る特許を取り消す。」旨の異議の決定がされ、平成13年11月19日に東京高等裁判所に出訴(平成13年(行ケ)第521号)され、平成14年6月17日に本件の訂正審判が請求され、平成14年8月26日に訂正拒絶理由の通知がされ、その指定期間内である平成14年10月28日に意見書が提出されたものである。

II.請求の内容
請求人は、本件特許第2988542号の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の内容を、審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、その訂正の内容は下記のとおりである。なお、下線部は対比の便のため当審において付したものである。

1.訂正事項a
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記ブレーキ機構を構成する部品の一部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置したことを特徴とする自動変速装置。」から、
「【請求項1】装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転体が、インプットシャフトに結合されているハイクラッチのハイクラッチドラムであり、前記ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有し、前記クラッチプレートは、前記ハイクラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置され、前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置したことを特徴とする自動変速装置。」と訂正する。
2.訂正事項b
特許明細書の段落【0007】を、
「すなわち、本発明の自動変速装置にあっては、装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記ブレーキ機構を構成する部品の一部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置した構成とした。」から、
「すなわち、本発明の自動変速装置にあっては、装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転体が、インプットシャフトに結合されているハイクラッチのハイクラッチドラムであり、前記ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有し、前記クラッチプレートは、前記ハイクラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置され、前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置した構成とした。」と訂正する。
3.訂正事項c
特許明細書の段落【0008】を、
「【作用】回転数センサがブレーキ機構を構成する部品の一部に形成されたセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通して設置されているため、回転数センサとブレーキ機構とが軸方向に重なって配置されることになり、自動変速装置の軸方向寸法が短くなる。」から、
「【作用】回転数センサがブレーキ機構を構成する腕に形成されたセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通して設置されているため、回転数センサとブレーキ機構とが軸方向に重なって配置されることになり、自動変速装置の軸方向寸法が短くなる。」と訂正する。
4.訂正事項d
特許明細書の段落【0029】を、
「第2速は、ローワンウェイクラッチLOW O.W.CとバンドブレーキB/Bとを締結させることで得られる。」から、
「第2速は、ロークラッチLOW/CとバンドブレーキB/Bとを締結させることで得られる。」と訂正する。
5.訂正事項e
特許明細書の段落【0040】「例えば、実施例ではブレーキ機構として多板クラッチ構造のハイクラッチH/Cを示したが、従来技術で示したバンドブレーキ構造にも適用することができる。すなわち、回転体としてのドラムの外周にブレーキ機構の一部を構成するブレーキバンドが巻き付けられ、ドラムを回転させたり、ケースに固定させたりする構造に適用することができる。」を削除する。
6.訂正事項f
特許明細書の段落【0041】「この場合、ブレーキバンドの一部にセンサ貫通用穴としての長穴を形成し(周方向に長く形成する)、この長穴を貫通させて回転数センサを設置し、ドラムの回転数を検出するようにする。したがって、ブレーキ機構を作動させた際に、ブレーキバンドがドラムに対して周方向に相対摺動しても、長穴によって、ブレーキバンドと回転数センサとの干渉を防止することができる。」を削除する。
7.訂正事項g
特許明細書の段落【0042】を、
「【0042】【発明の効果】以上説明してきたように、本発明の自動変速装置にあっては、ブレーキ機構を構成する部品の一部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて回転数センサを設置した構成としたため、回転数センサとブレーキ機構とを軸方向に重ねて配設することができ、これにより、自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図ることができるという効果が得られる。」から、
「【0040】【発明の効果】以上説明してきたように、本発明の自動変速装置にあっては、ブレーキ機構を構成する腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて回転数センサを設置した構成としたため、回転数センサとブレーキ機構とを軸方向に重ねて配設することができ、これにより、自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図ることができるという効果が得られる。」と訂正する。
8.訂正事項h
特許明細書の【符号の説明】を、
「H/C ハイクラッチ(ブレーキ機構)
4a ハイクラッチ(回転体)
4c センサ用板(回転体)
5h センサ用切欠(センサ貫通用穴)」から、
「L&R/B ロー&リバースブレーキ(ブレーキ機構)
4a ハイクラッチドラム(回転体)
4c センサ用板(回転体)
5h センサ用切欠(センサ貫通用穴)」と訂正する。

III.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に、特許明細書の「前記ロー&リバースブレーキL&R/Bは、クラッチプレート5a,5bとピストン5cとリターンスプリング5dとを備えている。両クラッチプレート5a,5bは、前記ハイクラッチH/Cよりもトランスミッションケース1の中央側の位置において交互に配置され、」(特許明細書の段落【0023】参照)、「また、両プレート5a,5bを油圧により押圧して締結させるピストン5cは、サイドカバー2に形成されたシリンダ室2bに軸方向に摺動自在に収容されている。そして、ピストン5cには、複数の腕5eが固着され、この腕5eにより前記プレート5a,5bを押圧するようになっている。」(同段落【0023】参照)、「また、図中7は、インプットシャフトINの回転数を検出するための回転数センサであって、トランスミッションケース1を貫通して設けられていると共に、さらに、前記ピストン5cの腕5eに形成されたセンサ用切欠(センサ貫通用穴)5hを貫通して設けられ、」(同段落【0025】参照)、「先端が、前記インプットシャフトINにスプライン結合されているハイクラッチH/Cのハイクラッチドラム4aに取り付けられたセンサ用板4cに近接されている。」(同段落【0025】参照)、「インプットシャフトIN(ハイクラッチドラム4a)の回転数を検出する回転センサ7を設けるにあたり、」(同段落【0035】参照)の記載、及び図1の記載を根拠として、特許明細書における特許請求の範囲の請求項1に記載された回転体及びブレーキ機構の構成を、より下位概念の構成である「前記回転体が、インプットシャフトに結合されているハイクラッチのハイクラッチドラムであり、前記ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有し、前記クラッチプレートは、前記ハイクラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置され、前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し」と限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項b及びcは、発明の詳細な説明の記載の訂正であり、訂正事項aによる特許請求の範囲の請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項dは、図3に記載された締結論理図のロークラッチLOW/CとバンドブレーキB/Bとを締結させることで得られる第2速に関する記載から明らかなように、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
訂正事項e及びfは、発明の詳細な説明に記載された事項の削除であり、訂正事項aによる特許請求の範囲の請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項gは、発明の詳細な説明の記載の訂正であり、訂正事項aによる特許請求の範囲の請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項hは、「この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、」(請求項1)、「ロー&リバースブレーキL&R/BをハイクラッチH/Cの外側に配設するにあたり、」(同段落【0036】参照)、「ハイクラッチドラム4a」(同段落【0022】参照)等の記載から明らかなように、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
また、上記訂正事項a〜hは、いずれも特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

IV.独立特許要件
1.訂正発明
上記「III.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否」で述べたように、上記訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するので、以下、独立特許要件についての検討を行う。
訂正後の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】
装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転体が、インプットシャフトに結合されているハイクラッチのハイクラッチドラムであり、前記ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有し、前記クラッチプレートは、前記ハイクラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置され、前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置したことを特徴とする自動変速装置。

2.本願の出願の日前に頒布された刊行物に記載された発明及び技術的事項
(1)刊行物1:特開平2-31166号公報
(2)刊行物2:国際公開パンフレットWO89/10281
(3)刊行物3:特開昭50-21170号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「自動変速機における回転数検知装置」に関して、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「(イ)産業上の利用分野
本発明は、自動変速機における回転数検知装置に係り、詳しくはケース内方に支持した回転軸の回転数を検知する回転数検知センサを備えてなる自動変速機における回転数検知装置に関する。」(第1頁右下欄第1〜5行)、
(b)「(ハ)発明が解決しようとする課題
しかし、上述回転数検知センサは、軸方向及び径方向に設置スペースが必要となり、更に自動変速機の中心部に設置される入力軸等の回転部材の回転数を検知する場合、前記回転数検知センサを入力軸の後端側部近傍に設置するか、又は入力軸から外径方向に向けてフランジ部材を固定し、該フランジ部材の回転を検知すべくセンサをケース側面に設置しなければならず、これによりセンサを入力軸側方に配置する場合は、トランスアクスルケースの軸方向の寸法が増加し、またセンサをケース側面に配置するものは、トランスアクスルケースの半径方向寸法が増加し、近時の傾向である車輌のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)化に伴う設置スペースの狭小化に対応できなくなる虞れを生ずる。
そこで、本発明は、回転数検知センサを、入力軸端部に固定したスリーブ内周面に臨んで配置することにより、軸方向及び径方向がコンパクトに構成された回転数検知装置を提供することを目的とするものである。」(第1頁右下欄第16行〜第2頁左上欄第16行)、
(c)「自動変速機1は、第3図に示すように、トランスアクスルケース14に収納されかつトルクコンバータまたはロックアップクラッチにより動力が伝達される入力軸10を有している。該入力軸10の後端部には、スリーブ10aが固定されており、更に該スリーブ10aにはリング状のクラッチドラム12が固定されている。そして、該クラッチドラム12の内周面には第1の可動部材15が油密状に配設されており、ドラム12と可動部材15とにより、後述する第1のクラッチ(フォワードクラッチ)C1用の油圧アクチュエータ16を構成している。」(第2頁左下欄第6〜17行)、
(d)「一方、前記トランスアクスルケース14の先端にはリヤカバー(ケース)11がボルト等により固定されており、該リヤカバー11には環状の段部11bが形成されており、該段部11bにはスリーブ20が固定されている。更に、該スリーブ20にはシリンダ部材21が固定されており、該シリンダ部材21の内周面にはピストン部材22が油密状に設置されている。そして、シリンダ部材21とピストン部材22とにより、後述する第3のクラッチ(オーバドライブクラッチ)C0及び第4のクラッチ(F0クラッチ)C0a用の油圧アクチュエータ23を構成している。」(第2頁右下欄第2〜13行)、
(e)「なお、ドラム26の内周面に沿って、第3のクラッチC0と第4のクラッチC0aとの間に連結部材25が配置されており、これにより、第3及び第4クラッチC0,C0aが前記1個の油圧アクチュエータ23により、同時に作動される。」(第3頁左上欄第20行〜右上欄第5行)
(f)「そして、第1図及び第2図が示すように、前記スリーブ部10aの端部10cは前記クラッチドラム12から後方延長されて、該端部10cにはスリット5が形成されている。また、前記リヤカバー11のハブ部11aは一部切欠かれており、該切欠き部11d内には回転数検知センサ3が挿入され、かつ該センサ3はリヤカバー11にボルト7にて抜止め・固定されている。そして、回転数検知センサ3の検知部3aは前記スリット5の内径側から該スリットを検知し、したがって回転数検知センサ3及びスリット5にて回転数検知装置2を構成している。」(第3頁右上欄第14行〜左下欄第5行)、
(g)「ついで、上述実施例の作動について説明する。
トルクコンバータ又はロックアップクラッチを介して動力伝達される入力軸10の回転はクラッチドラム12に伝達され、更に変速段に応じて各油圧アクチュエータ16,19,23への油圧供給に基づき各クラッチC1,C2,C0a,C0が接続し、プラネタリギヤユニット30の所定ギヤ要素に伝達される。この際、ハブ部11aに配置された回転数検知センサ3がスリット3をその内径側から検出し、入力軸10を回転数が検出される。」(第3頁左下欄第6〜16行)、
(h)「(ト)発明の効果
以上説明したように、本発明によると、回転数検知センサ(3)が回転軸(10)に固定したスリーブ部(10a)端部に形成した被検知部(5)をその内径側から検知するように構成したので、回転数検知センサ(3)を設置するための特別のスペースを必要とせず、ケース(11),(14)を軸方向側及び半径方向側に突出することはなく、自動変速機の軸方向及び径方向寸法を増大することはなく、更に回転軸(10)の振れによる影響を減少して、検知精度を大幅に向上することができる。
また、前記回転軸10が入力軸であり、かつケースが、該入力軸の後端を支持するリヤカバー(11)であると、プラネタリギヤユニット(30)の中心部分に位置する入力軸(10)の回転数を、自動変速機の軸方向及び半径方向の寸法増大を伴うことなくかつ極めて簡単な構成でもって、確実かつ正確に検知することができる。」(第3頁右下欄第2〜20行)
したがって、上記摘記事項(a)〜(h)、明細書及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
【引用発明1】
装置内部にクラッチC1のクラッチドラム12が設けられていると共に、このクラッチC1のクラッチドラム12の外側にはクラッチ機構C0,C0aが設けられ、かつ、このクラッチC1のクラッチドラム12を構成する部品の一部の回転数を検出する回転数検知センサ3が設けられている自動変速機において、前記クラッチC1のクラッチドラム12を構成する部品の一部が、入力軸10に結合されているクラッチC1のクラッチドラム12を構成する部品の一部であり、前記クラッチ機構C0,C0aは、シリンダ部材21に軸方向に摺動自在に収容されたピストン部材22と、このピストン部材22に設けられた突出部及び連結部材25と、この突出部及び連結部材25により押圧されるクラッチプレートを有し、前記クラッチプレートの一部は、前記クラッチC1よりもトランスアクスルケース14の中央側の位置において交互に配置され、リヤカバー11に形成された切欠き部11d内に前記回転数検知センサ3を設置した自動変速機。

(刊行物2)
刊行物2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、本件特許について特許異議の申立てに係る特許異議申立人が提出した甲第1号証の1(日本語抄訳)の記載を参照すれば、「電子制御適応型自動変速装置」に関して、下記の技術的事項が記載されている。
(i)「1.発明の分野
本発明は、主に自動車用の自動変速装置、より詳しくは、電子的に及び流体的に制御される“適応型”の変速装置に関する。」(第1頁第4〜8行)
(j)「3.本発明の目的
本発明の主目的の1つは、完全に適応型である著しく進歩した電子的制御変速装置を提供することにある。完全に適応型であるとは、実質的に全ての変速操作が閉ループ制御(例えば、フィードバック制御)を用いて行われることである。特に、制御は、速度、速度比、又はNt(トルクコンバータのタービン)及びNe(エンジン)か、それともNt及びNo(出力)の組合せのスリップ速度について閉ループで行われ、それにより、速度比又はスリップ速度が与えられる。この変速制御もまた、過去の結果から“学習”し、それに基づいて適切な調節を行うこともできる。
本発明の別の目的は、従来の機械流体式の単なる自動変速システムを用いている車を含めて、多種のエンジン及び車のサイズやタイプに応じて容易に利用することができる4速の自動変速装置のデザインを提供することである。
本発明の他の目的は、エンジンの性能変動や構成部品の状態に応じて、変速品質がエンジンのサイズに拘わらず、ほぼ一様に維持される自動変速装置を提供することにある。(例えば、変速制御システムは、エンジン性能、又は変速装置の種々の摩擦部品の状態変化に適合する。)
本発明の付加的目的は、受容可能な変速品質を得るために通常必要とされる若干の所定の要素(クラッチ、バンド、ワンウェイクラッチ)の必要性をなくすことである。
本発明のより特定的な目的は、今日の3速ユニットと比較して歯車組立体の付加歯車及びオーバーランニング(ワンウェイ)クラッチに対する必要性をなくす共に、変速装置のコンパクト性を増大させ、軸方向長さを減少させるのに、余分の摩擦要素しか必要としない独特のクラッチ及び歯車配置構成を提供することにある。」(第4頁第1〜32行)
(k)「変速装置100を介してのパワーの流れの生じる際、マルチクラッチ組立体300は、2つの別個の部材同士間での接続と解除を行うための手段を提供する。言い換えれば、マルチクラッチ組立体300は、変速装置の歯車が選択的に、エンジンのクランクシャフト114、又は変速装置ケース102に対して接続又は解除される手段である。変速装置100の入力側の付近では、マルチクラッチ組立体300は、アンダードライブクラッチ302(1速、2速、3速で締結)、オーバードライブクラッチ304(3速、4速で締結)、及び逆転クラッチ306(1速、後退速で締結)を有する。」(第24頁第13〜26行)
(l)「図1C及び図1Dに示すように、入力クラッチ組立体302,304,306を収容するため入力クラッチリテーナーハブ312が設けられる。入力クラッチリテーナーハブ312は、全体的に軸方向に延びる肩部分313及び全体的に軸方向に延びる部分314を有している。間隔をおいて配置された複数のシールリング315が相応の環状溝316内に配置され、それらの環状溝316は、反力軸サポート204に沿って形成される。入力クラッチリテーナーハブ312は、また317において、入力軸176にスプライン結合されている。スラスト軸受318は、反力軸サポート204の一端と、入力クラッチリテーナーハブ312の軸方向に延びる部分314の間に配置されている。入力クラッチリテーナーハブ312は、その外周部に歯319を有している。タービン速度センサ320は、トランスミッションケース102の孔322にネジ付け可能に係合し、入力クラッチリテーナーハブ312の歯319の、すぐ上方に配置された、又は半径方向に間隔をおいて設けられた一端324を有する。タービン速度センサ320は、時間に関連づけてそこを通過する歯319をカウントすることにより、タービン組立体128の回転速度をモニター又は検出するために用いられる。好ましくは、受動型の速度センサがタービン速度センサ320として用いられる。」(第24頁第27行〜第25頁第7行)
(m)「低速/逆転クラッチ組立体310は、軸方向に間隔をあけた、複数の環状のクラッチプレート466と、軸方向に間隔をあけた、複数の環状のクラッチディスク468と、で構成する。該クラッチプレート466とクラッチディスク468は、アンダードライブクラッチ組立体302のそれらと同様である。該クラッチプレート466は、トランスミッションケース102の内側にてケースクラッチフィンガー439のスプライン470に装着される。クラッチディスク468は、前述したギア組立体500の環状ギア542の外周部のスプライン472に装着される。
低速/逆転クラッチ組立体310を適用するため、第4の油圧ピストン474は、環状のピストンハウジング478により形成されている凹部476の中で作動する。該ピストンハウジング478は、トランスミッションケース102の環状の凹み480に配置され、かつボルト481などの適当な固着手段にてトランスミッションケース102に固着されている。第4の油圧ピストン474の滑らかな径には、その外周に形成された、外側シールリング484用の溝482と、その内周に形成された、内側シールリング488用の内側の溝486と、を有している。スプリング404と同様な、ベルビル(皿ばね)様のスプリング490等のスプリング手段が、第4の油圧ピストン474を図に示す非作動状態である元の位置に偏奇又は復帰すべく、第4の油圧ピストン474とギア組立体500との間に配置されている。スナップリング492が、トランスミッションケース102にスプリング490の片端を保持している。」(第29頁第7〜29行)
(n)「第2の第2のプラネットキャリア524は、532において回転可能な出力歯車534にスプライン結合された内側部分530を有し、出力歯車534は、トランスミッション100の出力部材として作用する。」(第30頁第23〜26行)
(o)「第2のプラネットキャリア524は、その外部部分の外周部における歯車544を含む。出力回転数センサ546は、トランスミツンヨンケース102の穴548にネジ結合しており、かつ第2のプラネットキャリア524の歯車544の直上に空間をあけて半径方向に配置された先端550を有する。出力回転センサ546は、歯車544の通過を検出又はカウントすることにより、それによって時間に関係して、第2のプラネットキャリア524の回転数(毎分)を検出又はモニターするために用いられる。出力回転数センサ546は、タービンセンサ320と同様のものである。それは、また、他の適当な回転数センサが、トランスミッションコントローラ3010に出力回転数信号に供すべく、トランスミッション100の中や又はその後続部分に用いてもよいことに、注意すべきである。」(第31頁第1〜12行)
(p)「低速/逆転クラッチ組立体310を適用するため、第4の油圧ピストンハウジング476と第4の油圧ピストン474の間に入る流体からの油圧が、第4の油圧ピストン474を軸方向に動かせ、それによってスプリング490を撓ませる。第4の油圧ピストン474は、低速/逆転クラッチ組立体310のクラッチプレート466とディスク468とを反作用プレート445に対して押付け、そしてそれらの間に摩擦力を生じさせる。該低速/逆転クラッチプレート466は固定状態にある故に、それらがトランスミッションケース102に連結されると、摩擦力は、低速/逆転クラッチディスク468を固定状態に保持し、そして、第2の環状ギア542と第1のプラネットキャリア508とを固定状態に保持する。該低速/逆転クラッチ組立体474(310の誤記)、即ち第4の油圧ピストン474への流体が抜けると、撓まされたスプリング490が、第4の油圧ピストン474へ付勢力を作用し、それにより、図示されている非作動位置に第4の油圧ピストン474を復帰する。」(第36頁第28行〜第37頁第6行)
したがって、上記摘記事項(i)〜(p)、及び図1A〜図1Eの記載等から看取できる事項からみて、刊行物2には、下記の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。
【引用発明2】
装置内部に歯車544が設けられていると共に、この歯車544の外側には低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474が設けられ、かつ、この歯車544の回転数を検出する出力回転数センサ546が設けられている自動変速装置において、前記歯車544が、出力軸に結合されている歯車544であり、前記低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474は、シリンダ室626に軸方向に摺動自在に収容された第4の油圧ピストン474と、この第4の油圧ピストン474に設けられた突出部と、この突出部により押圧されるクラッチプレート466及びクラッチディスク468を有し、前記クラッチプレート466及びクラッチディスク468は、前記歯車544よりもトランスミッションケース102の中央側の位置において交互に配置され、前記低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474を構成する前記突出部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記出力回転数センサ546を設置した自動変速装置。

(刊行物3)
刊行物3には、「自動車用動的液圧-機械式変速機」に関して、下記の技術的事項が記載されている。
(q)「第2図には、多板ブレーキ(25)用の操作ピストン(26)の正確な配置が示されている。この操作ピストン(26)は管状に形成され、ケース(28)のトルクコンバーターとは逆側の端面側からクラッチカバー(22)とカバー(22)に係合するブレーキバンド(23)を介して同心的に多板ブレーキ(25)迄延在し、該ブレーキ(25)には端部にリング状のカラー(43)を有する操作ピストン(26)が係合している。逆側の端には操作ピストン(28)((26)の誤記)はリング状の押圧ピストン(27)を有し、該ピストン(27)はケース(28)の凹所(44)とオイルポンプケース(33)の調心孔(45)との間に挿入されている。」(第4頁左上欄第15行〜右上欄第7行)
(r)「第2,3図に示されている様に、操作ピストン(26)はその外周に棚状の破孔(49)を有し、この破孔(49)を通じて、ブレーキバンド(23)の操作部材が、ライニング(51)を備えたブレーキバンドを引張るために案内されている。」(第4頁右上欄第17行〜左下欄第1行)
(s)「多板ブレーキ(25)を第1遊星歯車列、前進用クラッチ、クラッチカバー上に同心に設け、ブレーキバンド(50)とクラッチヨーク(22)を介して管状に把持する操作ピストンを多板ブレーキに前述の様に付設することによって、付加的な軸方向の構造長を必要とせずに、遊星歯車機構を軸方向に短くした構造様式を実現出来ることを図面は明示している。」(第4頁右下欄第2〜9行)

3.対比・判断
訂正発明と引用発明1とを対比すると、それぞれの有する機能に照らし、引用発明1の「クラッチC1のクラッチドラム12」は訂正発明の「回転体」に相当し、以下同様に、「クラッチ機構C0,C0a」は「クラッチ機構」に、「回転数検知センサ3」は「回転数センサ」に、「自動変速機」は「自動変速装置」に、「入力軸10」は「インプットシャフト」に、「シリンダ部材21」は「シリンダ室」に、「ピストン部材22」は「ピストン」に、「突出部及び連結部材25」は「腕」に、「クラッチC1」は「クラッチ」に、「クラッチドラム12」は「クラッチドラム」に、「トランスアクスルケース14」は「トランスミッションケース」に、それぞれ相当するものと認められるので、刊行物1には、訂正発明の用語に倣えば、下記の発明(以下、「引用発明1’」という。)が記載されているということができる。
【引用発明1’】
装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはクラッチ機構が設けられ、かつ、この回転体を構成する部品の一部の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転体を構成する部品の一部が、インプットシャフトに結合されているクラッチのクラッチドラムを構成する部品の一部であり、前記クラッチ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有し、前記クラッチプレートの一部は、前記クラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置され、リヤカバーに形成された切欠き部内に前記回転数センサを設置した自動変速装置。
したがって、訂正発明及び引用発明1’の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側には摩擦係合要素が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転体が、インプットシャフトに結合されているクラッチを構成する部品の少なくとも一部であり、前記摩擦係合要素は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有し、前記クラッチプレートの少なくとも一部は、前記クラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置された自動変速装置。
<相違点>
(相違点1)
回転体の外側に設けられた摩擦係合要素に関し、訂正発明は、「ブレーキ機構」であるのに対し、引用発明1’は、クラッチ機構である点。
(相違点2)
回転数センサの設置に関し、訂正発明は、「ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて」設置しているのに対し、引用発明1’は、リヤカバーに形成された切欠き部内に設置している点。
(相違点3)
クラッチよりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置されたクラッチプレートに関し、訂正発明は、「クラッチプレート」の全体が中央側の位置に配置されているのに対し、引用発明1’は、クラッチプレートの一部が中央側の位置に配置されている点。
(相違点4)
回転体に関し、訂正発明は、「ハイクラッチのハイクラッチドラム」であるのに対し、引用発明1’は、クラッチのクラッチドラムを構成する部品の一部である点。
(相違点5)
腕に関し、訂正発明は「複数の腕」であるのに対し、引用発明1’の腕は複数の腕であるかどうか不明である点。

以下、上記相違点1〜5について検討をする。
(相違点1〜3について)
上記相違点1〜3は、自動変速装置の被回転数検知部材である回転体の外側に設けられた摩擦係合要素に係わる相違点であるので、以下、まとめて検討をする。
(イ)技術的課題について
刊行物1には、「センサを入力軸側方に配置する場合は、トランスアクスルケースの軸方向の寸法が増加し、またセンサをケース側面に配置するものは、トランスアクスルケースの半径方向寸法が増加し、近時の傾向である車輌のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)化に伴う設置スペースの狭小化に対応できなくなる虞れを生ずる。そこで本発明は、・・・軸方向及び径方向がコンパクトに構成された回転数検知装置を提供することを目的とするものである。」(上記摘記事項b参照)と記載されている。
また、刊行物2には、「本発明のより特定的な目的は、・・・変速装置のコンパクト性を増大させ、軸方向長さを減少させる・・・独特のクラッチ及び歯車配置構成を提供することにある。」(上記摘記事項j参照)と記載されている。
したがって、刊行物1及び2には、それぞれの刊行物に記載された発明が解決すべき共通の技術的課題である「自動変速装置の軸方向及び径方向寸法を短縮させてコンパクト化を図る」ことが記載又は示唆されている。
(ロ)構成について
刊行物2に記載された「低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474」は、刊行物2の図1B,図1D、及び上記摘記事項(p)等からみて、トランスミッションケース102に固定状態にあるクラッチプレート466とクラッチディスク468を反作用プレート445に対して押し付け、これらの間に摩擦力を生ずることにより、第2の環状ギア542と第1のプラネットキャリア508とを固定状態に保持するものであり、いわゆるブレーキ機構であるから、訂正発明と引用発明2とを対比すると、それぞれの有する機能に照らし、引用発明2の「低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474」は訂正発明の「ブレーキ機構」に相当し、また、以下同様に、「歯車544」は「回転体」に、「出力回転数センサ546」は「回転数センサ」に、「シリンダ室626」は「シリンダ室」に、「第4のピストン474」は「ピストン」に、「突出部」は「腕」に、「クラッチプレート466及びクラッチディスク468」は「クラッチプレート」に、「トランスミッションケース102」は「トランスミッションケース」に、それぞれ相当するものと認められるので、刊行物2には、訂正発明の用語に倣えば、下記の発明(以下、「引用発明2’」という。)が記載されているということができる。
【引用発明2’】
装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転体が、出力軸に結合されている歯車であり、前記ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有し、前記クラッチプレートは、前記回転体よりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置され、前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置した自動変速装置。
してみれば、引用発明2’は、
(a)回転体の外側に設けられた摩擦係合要素が、ブレーキ機構である、
(b)回転数センサを、ブレーキ機構を構成する腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて設置している、
(c)回転体よりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置されたクラッチプレートが、クラッチプレートの全体である、
という、上記相違点1〜3に係る訂正発明の構成と同様又は類似の構成を具備しているということができる。
(ハ)まとめ
自動変速装置において、クラッチ機構の外側にブレーキ機構を設けることは、従来周知の技術手段(必要であれば、刊行物3等の記載を参照。なお、刊行物3には、刊行物3の第2図に記載されているような、ブレーキ機構のピストンを、クラッチ機構の一部と軸方向に重ねて配置したレイアウトとすることにより、「付加的な軸方向の構造長を必要とせずに、遊星歯車機構を軸方向に短くした構造様式を実現出来る」(上記摘記事項s参照)と記載され、クラッチ機構の動作形態に拘わらず、上述のような配置・レイアウトとすることにより、「自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図る」作用効果を奏することが記載又は示唆されている。)である。
してみれば、引用発明1’の回転数センサの配置を、より軸方向寸法を短縮させ、同時に径方向寸法の短縮化にも配慮して、自動変速装置のコンパクト化を図るために、その配置を変更し、上記「(ロ)構成について」で述べた引用発明2’の構成、及び上記従来周知の技術手段を適用して、上記相違点1〜3に係る訂正発明の構成とすることは、引用発明1’及び引用発明2’が、その技術的課題においてその軌を一にするものであるとともに、そのような構成の変更に際して特段の阻害要因も見出せないので、同じ技術分野に属する引用発明1’及び引用発明2’、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものである。

なお、請求人は、平成14年10月28日付の意見書において、訂正拒絶理由に対する反論として、
(1)「訂正発明は、クラッチの外側に配置されるブレーキ機構と入力回転数センサとを軸方向に並設した場合には、軸方向寸法が長くなってしまうという原因の解明に基づく発明である。」(意見書第7頁第17〜19行)、
(2)「対比した引用発明1や引用発明2に内容には、・・・訂正発明に対して、少なくとも、入力回転数センサとクラッチとブレーキ機構とを関連づける動機づけが必要である。しかしながら、引用発明1や引用発明2には、入力回転数センサとクラッチとブレーキ機構とを関連づける動機づけが記載されていない」(同第8頁第12〜17行)
(3)「訂正発明で使用される『コンパクト化』と、引用発明1で使用される『コンパクト化』とはその意味が相違する。すなわち、刊行物1は、回転検知センサには、軸方向取り付けセンサと径方向取り付けセンサの二種類があることを従来技術とし、径方向取り付けセンサはケースの半径方向寸法が増大するといっている。したがって、回転検知センサを入力軸方向に取り付けて軸方向寸法が長くならないようにしたといっているので、訂正発明のような回転数センサの径方向取り付け構造は、刊行物1でいう『コンパクト化』を目指すための選択枝からは完全に除外されている。よって、『自動変速装置の軸方向寸法を短縮化させてコンパクト化を図る』という訂正発明の技術的課題が、刊行物1に記載されているとはいえない。」(同第8頁下から第3行〜第9頁第8行)、
(4)「技術的課題が共通であるという間接的な動機づけのみで、引用発明1’及び引用発明2’、及び従来周知の技術手段に基づいて、通常の技術者が容易に発明することができたとは到底考えることができない。」(同第9頁下から第4〜1行)
等と主張している。
しかしながら、刊行物1には、「回転数検知センサは、軸方向及び径方向に設置スペースが必要となり、更に自動変速機の中心部に設置される入力軸等の回転部材の回転数を検知する場合、・・・センサを入力軸側方に配置する場合は、トランスアクスルケースの軸方向の寸法が増加し、またセンサをケース側面に配置するものは、トランスアクスルケースの半径方向寸法が増加し、近時の傾向である車輌のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)化に伴う設置スペースの狭小化に対応できなくなる虞れを生ずる。そこで、本発明は、・・・軸方向及び径方向がコンパクトに構成された回転数検知装置を提供することを目的とするものである。」(上記摘記事項b参照)等と記載されていることから、刊行物1には、近時の傾向である車輌のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)化に伴う設置スペースの狭小化に対応するために、自動変速機の中心部に設置される入力軸等の回転部材の回転数を検知するに際し、自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図るという動機づけが記載又は示唆されており、また、上記「(ロ)構成について」の(b)で述べたように、刊行物2に記載された発明である引用発明2’は、回転数センサとブレーキ機構とを軸方向に重ねて配置する構成を具備しており、この構成は、回転数センサとブレーキ機構とを軸方向に並設する場合に比べて、自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図ることができるものであることは技術的に自明のことであるので、上記請求人の主張は採用することができない。

(相違点4について)
刊行物2には、「変速装置100の入力側の付近では、マルチクラッチ組立体300は、アンダードライブクラッチ302(1速、2速、3速で締結)、オーバードライブクラッチ304(3速、4速で締結)、及び逆転クラッチ306(1速、後退速で締結)を有する。」(上記摘記事項k参照)、「図1C及び図1Dに示すように、入力クラッチ組立体302,304,306を収容するため入力クラッチリテーナーハブ312が設けられる。・・・入力クラッチリテーナーハブ312は、また317において、入力軸176にスプライン結合されている。・・・入力クラッチリテーナーハブ312は、その外周部に歯319を有している。・・・タービン速度センサ320は、時間に関連づけてそこを通過する歯319をカウントすることにより、タービン組立体128の回転速度をモニター又は検出するために用いられる。」(上記摘記事項l参照)と記載されていることから、刊行物2には、自動変速装置の入力軸176に結合されているオーバードライブクラッチ304を含む入力クラッチ組立体302,304,306を収容するための入力クラッチリテーナハブ312の回転数をタービン速度センサ320により検知する構成が記載されていると認める。
ところで、刊行物2に記載された「オーバードライブクラッチ304(3速、4速で締結)」は、その有する機能に照らし、訂正発明の「ハイクラッチ」に相当するから、刊行物2には、自動変速装置のインプットシャフトに結合されているハイクラッチに相当する構成を含む回転体の回転数を入力回転数センサにより検知する構成が実質的に記載又は示唆されているということができる。
してみれば、引用発明1’の被入力回転数検出部材であるクラッチのクラッチドラムを構成する部品の一部に代えて、刊行物2に実質的に記載又は示唆されている同じく被入力回転数検出部材の一部であるハイクラッチの構成を適用することにより、上記相違点4に係る訂正発明の構成とすることは、同じ技術分野に属する引用発明1’及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものである。

(相違点5について)
自動変速装置のブレーキやクラッチの摩擦係合部材のピストンにおいて、ピストンに複数の腕を設けることは、従来周知の技術手段であり、引用発明1’の腕を複数の腕とすることにより、上記相違点5に係る訂正発明の構成とすることは、引用発明1’及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が技術的に格別の困難性を要することなく容易に想到し得たものである。

最後に、訂正発明の奏する作用効果についてみても、引用発明1’及び引用発明2’、刊行物2に記載された発明及び上記従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。

4.独立特許要件についてのむすび
以上のとおり、訂正発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明、及び上記従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

V.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-11-11 
結審通知日 2002-11-14 
審決日 2002-11-28 
出願番号 特願平3-234675
審決分類 P 1 41・ 856- Z (F16H)
P 1 41・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 礒部 賢  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 常盤 務
秋月 均
前田 幸雄
船越 巧子
登録日 1999-10-08 
登録番号 特許第2988542号(P2988542)
発明の名称 自動変速装置  
代理人 朝倉 悟  
代理人 綾田 正道  

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