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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1114612
異議申立番号 異議2003-71760  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-06-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-14 
確定日 2005-02-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3366169号「多結晶シリコン薄膜積層体、シリコン薄膜太陽電池および薄膜トランジスタ」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3366169号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3366169号の請求項1ないし7に係る発明は、平成7年11月29日に特許出願され、平成14年11月1日にその特許の設定登録がなされ、その後、佐藤正より特許異議の申立てがなされ、平成16年5月25日に取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年7月26日に訂正請求(平成16年12月28日に取下げ)がなされた後、平成16年11月2日に再度取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月28日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
(1-1)訂正事項a
明細書の特許請求の範囲1における「結晶質を含むイオン結合性薄膜、多結晶シリコン薄膜」の記載を
「結晶質を含むイオン結合性薄膜であるZnO薄膜、ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜、(111)方向に優先配向した多結晶シリコン薄膜」と訂正する。
(1-2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2を削除し、請求項3〜請求項7を「
【請求項2】多結晶シリコン薄膜が、エネルギービーム照射下にシリコン原子あるいはシリコン化合物分子の堆積により形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項3】エネルギービームが電子ビームであることを特徴とする請求項2記載の多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項4】多結晶シリコン薄膜が、エネルギービームを一軸または二軸方向に走査するとともに、その一走査方向と実質的に直交する方向に基体を搬送することによって形成されたものであることを特徴とする請求項2又は3の何れかに記載の多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項5】請求項1、2、3又は4の何れかに記載の多結晶シリコン薄膜積層体を光吸収層として用いたことを特徴とするシリコン薄膜太陽電池。
【請求項6】請求項1、2、3又は4の何れかに記載の多結晶シリコン薄膜積層体をチャネル領域として用いたことを特徴とするシリコン薄膜トランジスタ。」とする。
(1-3)訂正事項c
明細書第4段落、課題を解決するための手段における「結晶質を含むイオン結合性薄膜、多結晶シリコン薄膜」を、「結晶質を含むイオン結合性薄膜であるZnO薄膜、ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜、(111)方向に優先配向した多結晶シリコン薄膜」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aの、「結晶質を含むイオン結合性薄膜」を「結晶質を含むイオン結合性薄膜であるZnO薄膜」とする訂正は、元の請求項2における「イオン結合性薄膜であるZnO薄膜、・・・よりなる群から選ばれた少なくとも1種のものである」との記載に基づき「イオン結合性薄膜」を、「イオン結合性薄膜であるZnO薄膜」と限定するもので、特許請求の範囲の減縮に該当する。
「多結晶シリコン膜」を「 ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜、(111)方向に優先配向した多結晶シリコン薄膜」とする訂正は、「ZnO薄膜の上に形成されたシリコン薄膜は(111)に優先配向するが、格子不整合がやや大きいため結晶性が損なわれる場合がある。これを回避するためにZnO薄膜の上にZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、S、Al2O3等からなる薄膜を1nm〜1μm、好ましくは3nm〜500nmの膜厚で形成するのが望ましい。」(明細書第7段落)の記載に基づき限定するもので、特許請求の範囲の減縮に該当する。
訂正事項bの請求項2の削除は、特許請求の範囲の減縮であり、それに伴い、それ以下の請求項数を繰り上げることは、明瞭でない記載の釈明に該当する。
訂正事項cは、請求項1の訂正に伴い、明細書の記載を整合させるためのもので、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項の規定において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについての判断
(1)申立理由の概要
申立人佐藤正は、甲第1号証(特開平7-263731号公報)、甲第2号証(特開平5-24149号公報)、および、甲第3号証(特開平5-206124号公報)、甲第4号証(D.F.SHRIVER(著)、玉虫伶太 他(訳)、「シュライバー無機化学(上)」株式会社東京化学同人、第1版 1996年3月22日発行)、甲第5号証(特開昭62-213115号公報)、甲第6号証(特開昭50-144376号公報)、甲第7号証(特開昭64-46968号公報)、を示し、本件請求項1、2、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であり、仮に同一でないとしても、甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証に基づいて当業者が容易に為し得た発明である。請求項3、4、5、7に係る発明は、甲第1号証、甲第5号証乃至甲第7号証に基づいて、当業者が、容易に為し得たものである。よって、本件特許は、特許法第29条第1項に該当し、あるいは、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものである旨主張している。
(2)本件請求項1に係る発明
上記訂正が認められるので、本件発明は、特許請求の範囲1乃至6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】基体上に、(111)方向に配向した金属薄膜、結晶質を含むイオン結合性薄膜であるZnO薄膜、ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜、(111)方向に優先配向した多結晶シリコン薄膜が順次積層されていることを特徴とする多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項2】多結晶シリコン薄膜が、エネルギービーム照射下にシリコン原子あるいはシリコン化合物分子の堆積により形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項3】エネルギービームが電子ビームであることを特徴とする請求項2記載の多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項4】多結晶シリコン薄膜が、エネルギービームを一軸または二軸方向に走査するとともに、その一走査方向と実質的に直交する方向に基体を搬送することによって形成されたものであることを特徴とする請求項2又は3の何れかに記載の多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項5】請求項1、2、3又は4の何れかに記載の多結晶シリコン薄膜積層体を光吸収層として用いたことを特徴とするシリコン薄膜太陽電池。
【請求項6】請求項1、2、3又は4の何れかに記載の多結晶シリコン薄膜積層体をチャネル領域として用いたことを特徴とするシリコン薄膜トランジスタ。」
(3)刊行物等
特許異議申立人が証拠として提示した刊行物にはそれぞれ、以下のような発明が記載されている。
a.刊行物1: 特開平7-263731号公報 (甲第1号証)
刊行物1には、「結晶シリコンとは異なる材料の基板上に多結晶シリコンを堆積したデバイスにおいて、前記基板と前記多結晶シリコンとの間に、ZnO層が存在することを特徴とする多結晶シリコンデバイス。」(特許請求の範囲請求項1)
「図1は、本発明の太陽電池の一構成例である。図において、1は基板、2は金属層、3はZnO層、4は多結晶シリコン層、5は多結晶シリコン層と反対導電型の半導体層、6は集電電極、7は反射防止膜である。」(第14段落)が記載されている。
b.刊行物2:特開平5-24149号公報(甲第2号証)
刊行物2には、 「【0019】一般に、スパッタ法で作成したAg膜は、(111)面が基体に平行に配向しやすい。したがって、通常、Ag(111)回折線のみが観察される。」(第19段落) が記載されている。
c.刊行物3:特開平5-206124号公報(甲第3号証)
刊行物3には、「【0004】・・・Alは面心立方構造を持ち、その界面エネルギーは(111)面が最も小さい。そのため、Al膜をスパッタリング法などで形成した場合、界面でのエネルギーが最小になるように形成されるため、(111)主配向を示す。従って、下地絶縁膜との界面に対して鉛直方向には(111)軸を形成するように膜の成長が起こる。・・・」ことが記載されている。
d.刊行物4:シュライバー無機化学 (甲第4号証)
刊行物4には、「Ag,Al,Au、Ca、Cu、Ni,Pb,Ptは立方最密(fcc)の結晶構造を持つ」の記載がある。
e.刊行物5:特開昭62-213115号公報(甲第5号証)
刊行物5には、エネルギービーム(電子線)照射下にシリコン原子あるいはシリコン化合物分子の堆積により多結晶シリコン薄膜を形成することが記載されている。
f.刊行物6:特開昭50-144376号公報(甲第6号証)
刊行物6には、エネルギービーム(電子ビーム4B)を一軸方向に走査するとともに、その一走査方向と実質的に直交する方向に基体(基板1)を搬送することにより半導体膜を形成することが記載されている。
g.刊行物7:特開昭64-46968号公報(甲第7号証)
刊行物7には、多結晶シリコン薄膜積層体をチャネル領域として用いたシリコン薄膜トランジスタが記載されている。
(4)対比・判断
本件請求項1に記載の発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、本件発明では、「ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜」をZnO薄膜と多結晶シリコン薄膜間に有しているのに対し、刊行物1に記載の発明には、この構成の記載がない。
したがって、本件請求項1に記載の発明は、刊行物1に記載された発明ではない。
よって、本件請求項1に記載の発明は、刊行物1に記載された発明ではないので、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
請求項2及び6に記載の発明は、請求項1を引用しているので、請求項1と同じ理由により、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
本件請求項1に記載の発明と上記刊行物1ないし7に記載の発明とを対比すると、本件発明では、「ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜」をZnO薄膜と多結晶シリコン薄膜間に設けているのに対し、刊行物1ないし7には、「ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜」をZnO薄膜と多結晶シリコン薄膜間に設ける構成の記載がなく、また、該構成を示唆する記載もないので、本件請求項1に記載の発明は刊行物1ないし7に記載の発明から容易に成し得るものとも認められない。よって、特許法第29条第2項の規定に違反しない。
また、本件請求項2ないし6に記載の発明は、請求項1の記載を引用しているので、上記理由と同じ理由により刊行物1乃至7の記載に基づいて当業者が容易に成し得たものとは認められない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多結晶シリコン薄膜積層体、シリコン薄膜太陽電池および薄膜トランジスタ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 基体上に、(111)方向に配向した金属薄膜、結晶質を含むイオン結合性薄膜であるZnO薄膜、ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜、(111)方向に優先配向した多結晶シリコン薄膜が順次積層されていることを特徴とする多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項2】 多結晶シリコン薄膜が、エネルギービーム照射下にシリコン原子あるいはシリコン化合物分子の堆積により形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項3】 エネルギービームが電子ビームであることを特徴とする請求項2に記載の多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項4】 多結晶シリコン薄膜が、エネルギービームを一軸または二軸方向に走査するとともに、その一走査方向と実質的に直交する方向に基体を搬送することによって形成されたものであることを特徴とする請求項2又は3の何れかに記載の多結晶シリコン薄膜積層体。
【請求項5】 請求項1、2、3又は4の何れかに記載の多結晶シリコン薄膜積層体を光吸収層として用いたことを特徴とするシリコン薄膜太陽電池。
【請求項6】 請求項1、2、3又は4の何れかに記載の多結晶シリコン薄膜積層体をチャネル領域として用いたことを特徴とするシリコン薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、低温で形成可能な高品位多結晶シリコン薄膜及びそれを用いた薄膜太陽電池、並びに薄膜トランジスタに関する。
【0002】
【従来技術】
非晶質シリコンを用いた薄膜太陽電池や薄膜トランジスタは大面積基板上に安価に作製できるため実用に供されているが、性能面では十分とはいえず、多結晶シリコン薄膜の利用が検討されている。
多結晶シリコン薄膜の形成法としては、CVD法で作製した非晶質シリコン薄膜を600℃程度の温度で長時間アニールして結晶化させる固相成長法や、同じくCVD法で作製した非晶質シリコン薄膜にレーザービームを照射して結晶化させる方法が知られている。前者は(1)600℃以上の耐熱性を要するため安価なガラス基板が使えない、(2)アニール時間が長くスループットが悪い、等の問題があり、後者は大面積を一度に処理できないため量産性において不利である。
これらの問題を解決するために、基板上に直接多結晶シリコン薄膜を形成する方法が提案されている。特開平2-2621号公報では基板をフッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、スピネル、アルミナ、酸化バリウムまたは酸化ストロンチウムからなる層で被覆し、この上に電子ビーム蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法などでシリコンを堆積させることで、400℃以下の基板温度で多結晶シリコン薄膜を得ているが、得られた膜の移動度がそれほど大きくないことから、配向性及び粒径の大きさが不十分であると考えられる。また特開昭62-213115号公報では基板に加速した電子線を照射しながらシリコンを蒸着することにより、比較的粒径の大きい多結晶シリコン薄膜を得ているが、基板温度は600℃程度を必要とする。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、安価な基板が使用可能な低温で形成可能で、かつ欠陥が少なく均質で粒径が大きく、さらには配向性の優れた多結晶シリコン薄膜を有する多結晶シリコン薄膜積層体を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基体上に、(111)方向に配向した金属薄膜、結晶質を含むイオン結合性薄膜であるZnO薄膜、ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜、(111)方向に優先配向した多結晶シリコン薄膜が順次積層されていることを特徴とする多結晶シリコン薄膜積層体、該多結晶シリコン薄膜積層体を使用したシリコン薄膜太陽電池ならびに薄膜トランジスタに関する。なお、本発明で言うイオン結合性薄膜とは、薄膜を形成する原子間の結合に概ね10%以上のイオン性が含まれる薄膜である。
次に本発明を、実施の態様に基づいてさらに具体的に説明する。
【0005】
【実施の態様】
1.本発明の第1の多結晶シリコン薄膜の構成及びその形成方法を図1に基づき説明する。
図1において1はガラス、セラミックス、プラスチック、金属等からなる基体で、パイレックスやソーダライムガラスあるいはポリイミド等の耐熱性プラスチックが低コスト化の点で特に好ましく用いられる。2はZnO、ZnS、ZnSe、AlN、GaN等からなるイオン結合性薄膜で、少なくとも結晶質を含む。典型的な形態は多結晶体であるが、非晶質中に単結晶粒子が分散した構造であってもよい。いずれにしてもこれらを構成する結晶粒子は一方向に強く配向した面方位を有することが望ましい。このようなイオン結合性薄膜はスパッタリング法、イオンプレーティング法、MOCVD法等で形成され、膜厚は1nm〜10μm、好ましくは10nm〜1μmである。3はシリコン薄膜で、イオン結合性薄膜2の結晶方位を反映した高配向性の多結晶体である。シリコン薄膜の形成は電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマCVD法等で行われ、用途に応じて適当な膜厚範囲が選択される。一例をあげるならば、太陽電池の光吸収層に用いる場合は1μm〜10μm、薄膜トランジスタのチャネル領域に用いる場合は50nm〜1μmが適当である。これらの薄膜は基体温度が500℃以下、好ましくは400℃以下で形成される。
【0006】
2.本発明の第2の多結晶シリコン薄膜の構成及びその形成方法を図2に基づき説明する。
図2において基体1、イオン結合性薄膜2およびシリコン薄膜3は、図1のものと同様なものである。4はAu、Ag、Al、Pt、Cu、Ni等からなる金属薄膜で、典型的な形態は(111)方向に配向した多結晶体である。このような金属薄膜はスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等により、膜厚1nm〜1μm、好ましくは10nm〜300nmで基体1上に形成される。該金属薄膜4上には、前記図1の場合と同様にしてイオン結合性薄膜2およびシリコン薄膜3が形成された。この場合に金属薄膜4を設けた場合にはその上に形成されるイオン結合性薄膜2の配向性がより高まるため、シリコン薄膜3もさらに高配向性の多結晶体となる。また、この多結晶シリコン薄膜を太陽電池の光吸収層に用いた場合には金属薄膜4が光反射層を兼ねることができるという利点もある。なお、上記金属薄膜は必要に応じて2層以上の積層構造としてもよい。
【0007】
3.本発明の第3の多結晶シリコン薄膜は上記第1及び第2の多結晶シリコン薄膜において、イオン結合性薄膜が特にZnOからなるものである。
このような膜は300℃以下の低基体温度でも得られため、基体材料の低コスト化の点で非常に有利である。該ZnO薄膜の形成はスパッタリング法、イオンプレーティング法、MOCVD法等により行われるが、低温化あるいは膜の均一性の点でMOCVD法が好ましい。
以下にMOCVD法によるZnO薄膜の形成方法を述べる。
原料ガスはZnの供給源として、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、アセチルアセトネート亜鉛等が、酸素の供給源として、H2O、O2、CO2、D2O、N2O等が使用される。Zn供給源を0〜100℃に加熱し、H2、Ar、He、N2、CO2等のキャリアガスとともに10〜500sccmの流量で、また酸素供給源を単独または上記のキャリアガスとともに1〜1000sccmの流量で同時に反応チャンバーに導入する。チャンバー内圧力は大気圧あるいは130Pa〜13kPa、好ましくは650Pa〜2600Paに調整される。反応チャンバー内には100〜500℃、好ましくは100〜300℃の温度に加熱された基体が設置されており、原料ガスは基体上で分解、反応し、ZnO薄膜が得られる。
前記のようにZnO薄膜は300℃以下の低基体温度でも得られるため、使用可能な基体の種類の範囲が広がり、基体材料として安価な材料を選択することができるので低コスト化の点で非常に有利である。
前記ZnO薄膜は典型的にはウルツ鉱型の結晶構造を有し、(001)方向に配向しており、また該ZnO薄膜はZn過剰な組成とすることで導電性を付与することができる。さらにはAlやGa等をドープすることにより、抵抗値の制御性を高めることができる。このような導電性を有する膜は透明電極を兼ねることができるという利点がある。
ZnO薄膜の上に形成されたシリコン薄膜は(111)に優先配向するが、格子不整合がやや大きいため結晶性が損なわれる場合がある。これを回避するためにZnO薄膜の上にZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、S、Al2O3等からなる薄膜を1nm〜1μm、好ましくは3nm〜500nmの膜厚で形成するのが望ましい。これらの膜はMOCVD法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等によって形成される。特にZnSは格子定数の面で最も好適である。
ZnS薄膜はS供給源として、H2S、CS2等を使用すること以外は上記と同様のMOCVD法によって形成できる。
【0008】
4.前記本発明の第1、第2および第3の多結晶シリコン薄膜の製造法の1例を図3に基づき説明する。
真空チャンバー11内にイオン結合性薄膜2を有する基体1を設置し、500℃以下、好ましくは、400℃以下の所定の温度に保持する。チャンバー11内を1×10-4Pa以下に排気した後、製膜手段に応じた所定の雰囲気に保持する。例えば、電子ビーム蒸着法では1×10-4Pa以下の高真空または1×10-3Pa以下のH2雰囲気、イオンプレーティング法及びスパッタリング法では1×10-2〜10PaのAr、He、N2、H2等及びこれらの混合ガス雰囲気、プラズマCVD法では1×10-2〜100PaのSiH4、Si2H6、SiF4、SiH2Cl2等及びこれらとH2との混合ガス雰囲気等が選択される。次にエネルギービーム源12から電子ビーム、イオンビーム、レーザービーム等を基体に照射すると同時に、Si源13からシリコン原子あるいはシリコン化合物分子を発生させ、基体上にシリコン薄膜を堆積させる。
なお、スパッタリング法ではSiターゲットが、プラズマCVD法ではカソードがSi源の代わりに設置され、それに直流または高周波電界を印加することによって製膜がなされる。エネルギービームの照射によって、シリコン原子の基体表面での移動度が大きくなるため、低い基体温度でも粒径の大きい多結晶シリコン薄膜が形成できる。イオン結合性薄膜を有することによる高配向性と相まって、高品位な多結晶シリコン薄膜を得ることができる。
前記本発明の多結晶シリコン薄膜の製造法において、エネルギービームとしては電子ビームが好ましい。電子ビームは荷電粒子の質量が小さいため、イオンビームに比べて下地や堆積膜に与えるダメージが少なく、低欠陥の膜が得られるという長所がある。さらに電子ビームは磁界や電界による偏向が可能であり、特に電界偏向を用いれば長距離を高速に走査することができるので、レーザービームに比べて均一性に優れた膜が得られるという利点がある。電子ビーム源としては、熱電子を放出するフィラメント、加速電極、収束レンズ、偏向レンズ等から構成される通常の電子銃を使用することができるが、製膜中のチャンバー内圧力が高い場合には、電子銃の動作を安定化させるために電子銃内部を差動排気する必要がある。
照射する電子ビームのエネルギーは加速電圧が100V〜100kV、好ましくは1kV〜30kVで、電流密度が1μA/cm2〜1A/cm2、好ましくは10μA/cm2〜1mA/cm2が適当である。
【0009】
5.前記4の多結晶シリコン薄膜の製造方法において、電子ビームを一軸または二軸方向に走査するとともに、その一走査方向と実質的に直交する方向、好ましくは90°±35°以内、より好ましくは90°±25°以内の方向に基体を搬送することによって、基体の全面、特に大面積の基体であってもその全面に均一な多結晶シリコン薄膜を形成することができる。このシリコン薄膜の形成方法を図4に基づき説明する。
電子ビーム源12から発射された電子ビームは出口付近に設けられたX-Y静電偏向電極(図示せず)に1kHz〜1MHzの交流電界を印加することによって、基板1上のエリアSの領域を所定の周期で移動しながら照射する。これと同時にSi源13からシリコン蒸気を発生させ、基体1上にシリコン薄膜を堆積する。基体を矢印Aの方向に一定速度で連続的または間欠的に搬送することによって、基体の全面に大面積の多結晶シリコン薄膜が形成される。
前記方法においては、特に搬送方向には長さの制限がないのでロール状の基体にも形成が可能である。なお、電子ビーム源及びSi源は必要に応じて複数個並べてもよい。
【0010】
6.本発明のシリコン薄膜太陽電池の1例の構成及びその製造方法を図5に基づき説明する。
基体1上に金属薄膜4及びイオン結合性薄膜2を前述の方法で形成する。その上に光吸収層となるp型多結晶シリコン薄膜31を例えば、基体に電子ビームを照射しながら、シリコンを電子ビーム蒸着することによって形成する。この時、p型伝導とするためにB、Al等を固体ソースまたはガスソースを使用したクヌーセンセル、あるいはイオン銃を用いて供給する。ガスソースとしてはB2H6、B(C2H5O)3、Al(C5H7O2)3、Al(C3H7O)3等が使用できる。このp型多結晶シリコン薄膜31の厚さは0.5〜100μm、好ましくは1〜10μmが適当である。次にpn接合を形成するためにn型多結晶、微結晶または非晶質シリコン薄膜32を上記と同様あるいは通常のプラズマCVD法によって形成する。この時、n型伝導とするためにP、As等を上記と同様あるいは通常のCVDガスソースで供給する。ガスソースとしてはPH3、P(C2H5)3、AsH3等が使用できる。この膜の厚さは10〜100nmが適当である。このn型多結晶、微結晶または非晶質シリコン薄膜32上にZnO、ITO、SnO2等の透明導電性薄膜33をスパッタリング法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、MOCVD法等で形成する。この薄膜33の厚さは10nm〜1μmが適当である。この後、前記透明導電性薄膜33、シリコン薄膜32、31及びイオン結合性薄膜2を順次エッチングして、端子34、35をつければ完成する。
なお、イオン結合性薄膜2が導電性を有する場合には該膜をエッチングしなくてもよい。
【0011】
7.本発明のシリコン薄膜太陽電池の他の例の構成を図6に示す。このシリコン薄膜太陽電池の製造法は以下の通りである。
基体1上に好ましくはAl等をドープしたZnO薄膜2を前述の方法で形成する。その上にn型多結晶シリコン薄膜32及びp型多結晶薄膜31を上記と同様の方法で形成する。この上に金属薄膜等の反射膜36を真空蒸着法、スパッタリング法等で形成する。この膜の厚さは10nm〜1μmが適当である。この後、反射膜36、シリコン薄膜31、32を順次エッチングして、端子34、35をつければ完成する。この構成では光の入射は基体側から行われる。これらの太陽電池は光吸収層に高配向性で大粒径の多結晶シリコン薄膜を用いているので、高い変換効率が得られる。
【0012】
8.前記多結晶性シリコン薄膜を用いたシリコン薄膜トランジスタの1例の構成を図7に基づいて説明する。このシリコン薄膜トランジスタの製造法は以下の通りである。
基体1上に10〜100nmの厚さの金属薄膜を真空蒸着法、スパッタリング法等で形成し、パターニングしてソース電極41とドレイン電極42を形成する。次に、前述の方法でイオン結合性薄膜2を形成し、その上に多結晶シリコン薄膜3を例えば、基体に電子ビームを照射しながら、シリコンを電子ビーム蒸着することによって形成する。
このシリコン薄膜3の厚さは50nm〜1μmが適当である。次に、SiO2、SiN、SiON等の絶縁体薄膜をプラズマCVD法、スパッタリング法等で10nm〜1μmの厚さに堆積し、ゲート絶縁膜43を形成する。最後に、10〜100nmの厚さの金属薄膜を真空蒸着法、スパッタリング法等で形成し、パターニングしてゲート電極44を形成すれば完成する。この薄膜トランジスタは高配向性で大粒径の多結晶シリコン薄膜を用いているので、チャネル領域を通るキャリアの移動度が大きくなり、トランジスタ特性が向上する。
【0013】
【実施例】
次に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
実施例1
図1に示す多結晶シリコン薄膜を以下のように形成した。パイレックス基板1を反応チャンバー内に設置し、300℃に加熱した。チャンバーを排気し、Arをキャリアガスとして、アセチルアセテートジンクをソース温度60℃、流量100sccmで、H2Oをソース温度40℃、流量30sccmで導入し、圧力が1300Paになるように調節した。所定時間反応させることによって、膜厚100nmのZnO薄膜2を形成した。X線回折により、この膜は(001)方向に優先配向していることがわかった。次に、この基板を図3に示す真空チャンバー内に設置し、400℃に加熱した。チャンバーを7×10-5Paに排気し、電子ビーム源12から基板に電子ビームを、加速電圧30kV、電流密度100μA/cm2で照射した。シリコン塊の充填された坩堝(Si源)13から電子ビーム加熱によってシリコン蒸気を発生させ、膜厚1μmのシリコン薄膜3を形成した。このシリコン薄膜は(111)方向に優先配向し、結晶粒径は約1μmであった。
【0015】
比較例1
ZnO薄膜を形成しないで、実施例1の方法でシリコン薄膜を形成した。このシリコン薄膜は(220)の微弱な回折ピークが観測されたのみで、結晶性の劣る膜であった。
【0016】
比較例2
基板に電子ビームを照射しないで、実施例1の方法でシリコン薄膜を形成した。このシリコン薄膜は(111)方向に配向はしているが、結晶粒径は100nm程度と小さかった。
【0017】
実施例2
図2に示す多結晶シリコン薄膜を以下のように形成した。パイレックス基板1上に電子ビーム蒸着法で、膜厚100nmのAu薄膜4を形成した。この上に実施例1と同様の方法でZnO薄膜2を形成した。この膜は実施例1よりもさらに強い(001)配向を示していた。続いて、この上に実施例1と同様の方法でシリコン薄膜3を形成した。このシリコン薄膜は実施例1よりもさらに強い(111)配向性を示した。
【0018】
以下、本発明の実施態様を示す。
1. 基体上に少なくとも結晶質を含むイオン結合性薄膜および該イオン結合性薄膜の上に多結晶シリコン薄膜が積層されていることを特徴とする多結晶シリコン薄膜積層体。
2. イオン結合性薄膜がZnO、ZnS、ZnSe、AlNおよびGaNよりなる群から選ばれた少なくとも1種のものである前記1の多結晶シリコン薄膜積層体。
3. イオン結合性薄膜が、ウルツ鉱型の結晶構造を有し、(001)方向に配向したものである前記1または2の多結晶シリコン薄膜積層体。
4. イオン結合性薄膜がスパッタリング法、イオンプレーティング法、MOCVD法等で形成されたものである前記1ないし3の多結晶シリコン薄膜積層体。
5. イオン結合性薄膜の膜厚が1nm〜10μm、好ましくは10nm〜1μmである前記1ないし4の多結晶シリコン薄膜積層体。
6. 基体とイオン結合性薄膜の間に、金属薄膜を有するものである前記1ないし5の多結晶シリコン薄膜積層体。
7. 多結晶シリコン薄膜の形成が、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマCVD法等で行われる前記1ないし6の多結晶シリコン薄膜積層体。
【0019】
8. 多結晶シリコン薄膜が、エネルギービーム照射下にシリコン原子あるいはシリコン化合物分子の堆積により形成されたものである前記1ないし7の多結晶シリコン薄膜積層体。
9.エネルギービームが電子ビームである前記8の多結晶シリコン薄膜積層体。
10.多結晶シリコン薄膜がイオン結合性薄膜の結晶方位を反映した高配向性の多結晶体である前記1ないし9のシリコン薄膜積層体。
11.多結晶シリコン薄膜が、エネルギービームを一軸または二軸方向に走査するとともに、その一走査方向と実質的に直交する方向に基体を搬送することによって形成されたものである前記1ないし10の多結晶シリコン薄膜積層体。
12.イオン結合性薄膜と多結晶シリコン薄膜の間に、ZnS、CaF2、ZnSe、ZnTe、Se、Te、SおよびAl2O3よりなる群から選ばれた少なくとも1種のもので構成された薄膜を有するものである前記1ないし11のシリコン薄膜積層体。
13.前記1ないし12の多結晶シリコン薄膜積層体を光吸収層として用いたことを特徴とするシリコン薄膜太陽電池。
14.前記1ないし12の結晶シリコン薄膜積層体をチャネル領域に用いたことを特徴とするシリコン薄膜トランジスタ。
【0020】
【発明の効果】
1.基体上に少なくとも結晶質を含むイオン結合性薄膜を有し、その上にシリコン薄膜が堆積されているので、低い基体温度であっても高配向性の多結晶シリコン膜となる。
2.イオン結合性薄膜が特にZnO薄膜である場合、この膜は低温で容易に高配向性となるため、より低温で配向性の優れた多結晶シリコン膜が得られる。このことは基体材料の低コスト化に多大な効果をもたらす。
3.基体とイオン結合性薄膜の間に金属薄膜を有するので、イオン結合性薄膜の配向性が高まるため、さらに配向性の優れた多結晶シリコン膜となる。
4.シリコン薄膜の形成を、基体へのエネルギービーム照射下にシリコン原子あるいはシリコン化合物分子の堆積により行われているので、低い基体温度であっても粒径の大きな多結晶シリコン膜となる。
特にエネルギービームが電子ビームである場合、低欠陥で、均一性の良い多結晶シリコン膜となる。
エネルギービーム、特に電子ビームを一軸または二軸方向に走査するとともに、その一走査方向と概ね直交する方向に基体を搬送する方法によってシリコン薄膜が堆積されているので、大面積の基体上に均一な多結晶シリコン膜が得られる。
5.上記の多結晶シリコン薄膜をシリコン薄膜太陽電池の光吸収層に用いていると、高い変換効率のシリコン薄膜太陽電池が得られる。
6.上記の多結晶シリコン薄膜をシリコン薄膜トランジスタのチャネル領域に用いていると、実効キャリア移動度が大きくなり、優れたトランジスタ特性のシリコン薄膜トランジスタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
請求項1および2の多結晶シリコン薄膜の構成を示す図である。
【図2】
請求項3の多結晶シリコン薄膜の構成を示す図である。
【図3】
請求項4および5の多結晶シリコン薄膜を形成する装置を示す図である。
【図4】
請求項6の多結晶シリコン薄膜を形成する装置を示す図である。
【図5】
請求項7の多結晶シリコン薄膜太陽電池の構成を示す図である。
【図6】
請求項7の多結晶シリコン薄膜太陽電池の別の構成を示す図である。
【図7】
請求項8の多結晶シリコン薄膜トランジスタの構成を示す図である。
【符号の説明】
1 基体
2 イオン結合性薄膜
3 シリコン薄膜
4 金属薄膜
11 真空チャンバー
12 エネルギービーム源(電子ビーム源)
13 Si源
31 p型シリコン薄膜
32 n型シリコン薄膜
33 透明導電性薄膜
34 端子
35 端子
36 反射膜
41 ソース電極
42 ドレイン電極
43 ゲート絶縁膜
44 ゲート電極
S 電子ビーム照射
X 電子ビーム走査範囲
Y 電子ビーム走査範囲
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-24 
出願番号 特願平7-334123
審決分類 P 1 651・ 113- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 岡 和久
特許庁審判官 松本 邦夫
橋本 武
登録日 2002-11-01 
登録番号 特許第3366169号(P3366169)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 多結晶シリコン薄膜積層体、シリコン薄膜太陽電池および薄膜トランジスタ  
代理人 友松 英爾  
代理人 友松 英爾  

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