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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1115319
審判番号 不服2002-16332  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-06-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-27 
確定日 2005-04-07 
事件の表示 平成11年特許願第 7830号「窒化物半導体素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月 6日出願公開、特開2000-156544〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年1月14日に出願した特許出願(優先権主張 平成10年9月17日)であって、原審において、平成14年7月16日付で拒絶査定がなされたところ、同年8月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、これに対して、当審において、平成16年9月28日付で拒絶理由を通知したところ、同年12月6日に手続補正がなされたものであって、その請求項に係る発明は、上記手続補正がなされた明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のものである。

「【請求項1】 基板上にIII族原料ガス及び窒素元素を含むV族原料ガスを導入することにより、前記基板上に第1の窒化物半導体からなる第1の半導体層を形成する第1の半導体層形成工程と、
前記第1の半導体層形成工程の後に、前記窒素元素を含むV族原料ガスを導入したまま、前記III族原料ガスの導入を停止するIII族原料ガス停止工程と、
前記第1の半導体層の上にIII族原料ガス及びV族原料ガスを導入することにより、前記第1の半導体層の上に、インジウムを含む第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層を形成する第2の半導体層形成工程とを備え、
前記III族原料ガス停止工程は、前記第1の半導体層の雰囲気を、前記窒素元素を含むV族原料ガスを含み且つ圧力が1気圧以上とする工程を含むことを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。」

2.引用例
当審の拒絶の理由に引用された特開平7-235505号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、

(ア)「【0001】【産業上の利用分野】
本発明は半導体層の結晶成長方法に関する。」、
(イ)「【0011】本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は高い結晶品質を有する半導体層の結晶成長方法を提供するものである。
【0012】【課題を解決するための手段】
本発明による半導体層の結晶成長方法は、半導体層を構成する元素及を含む複数の原料ガスであって、このうち少なくとも1種類は有機金属化合物である複数の原料ガスを成長室に導入する工程と、該成長室内の成長圧力を1気圧以上に保ちながら、加熱された基板の表面近傍において該原料ガスを分解させることにより、該基板上に該半導体層をエピタキシャル成長させる工程とを包含しており、そのことにより上記目的が達成される。」、
(ウ)「【0026】【作用】
半導体層を成長させる際、成長圧力を1気圧以上の高圧にし、また必要に応じて半導体層を構成する元素のうち、飽和蒸気圧の高い元素を含む原料ガスが、飽和蒸気圧の低い元素を含む原料ガスよりも過剰に存在するように原料ガスを供給する。これにより、結晶の品質が向上する高温で半導体層を成長させても、飽和蒸気圧の高い元素が基板上にほぼ化学量論的に結晶成長できるとともに、成長した半導体層から構成元素が離脱することがない。従って、高品質の結晶性を有する半導体層が得られる。」、
(エ)「【0053】(実施例3)以下に図5及び図6を参照しながら、GaN系の発光ダイオードに用いられる半導体構造を形成する方法を説明する。
【0054】・・・半導体成長装置102はキャリアガスとして用いられるN2を供給するN2ボンベ41、ガリウムを供給するためのTMG(トリメチルガリウム)ボンベ42、インジウムを供給するためのTMI(トリメチルインジウム)ボンベ43、アルミニウムを供給するためのTMA(トリメチルアルミニウム)ボンベ44、及び窒素を供給するためのNH3(アンモニア)ボンベ45、及びこれらのボンベ41〜45から流す原料ガスおよびキャリアガスの流量をコントロールするための流量制御計46〜50を更に備えている。
【0055】図6に示されるように、本実施例で作製する半導体構造105は、非単結晶GaN層53、非単結晶GaN層53上に形成されたGaN層54、GaN層54上に形成されたGaInN層55、及びGaInN層55上に形成されたGaN層56を有している。
【0056】まず、脱脂洗浄した6H-SiCからなる基板51をモリブデン製のサセプタ52にセットする。そして、流量制御計46を用いて、窒素ガスを窒素ボンベ41から成長室1に10L/minの割合で導入し、成長室1の圧力を1〜5気圧程度、好ましくは2気圧に保つ。成長室1の圧力は圧力計16で計測される。圧力計16で検出した値に基づいて、流量制御計17が自動的に制御され、一定の成長圧力に保たれる。・・・
【0057】基板51の温度が1200℃になるようにサセプタ2を加熱し、基板51の表面を清浄化する。その後、サセプタ2の加熱を調節し、基板51の温度を600℃に保つ。NH3ボンベ45から成長室1へ5L/minの割合でアンモニアガスを流し、1分後、TMGボンベ42から成長室1へ50cc/minの割合でトリメチルガリウムを流すことにより、基板51上に非単結晶GaN層53を成長させる。非単結晶GaN層53の厚さが約20nmに達したら、アンモニアガス及びトリメチルガリウムの供給を停止する。
【0058】次に、基板51を約1000℃に保ちながら、NH3ボンベ45から成長室1へ5L/minの割合でアンモニアガスを流し、1分後、TMGボンベ42から成長室1へ100cc/minの割合でトリメチルガリウムを流す。これにより、3μmの厚さを有するGaN層54が非単結晶GaN層53上に成長する。GaN層54は十分な厚さを有しているため、基板51と非単結晶GaN層53との界面で発生した欠陥の影響は著しく低減され、GaN層54の表面は平坦となる。
【0059】次に、基板51を約800℃に保ちながら、NH3ボンベ45から成長室1へ10L/minの割合でアンモニアガスを流し、同時にTMGボンベ42及びTMIボンベ43から成長室1へそれぞれ50cc/min及び400cc/minの割合でトリメチルガリウム及びトリメチルインジウムを流す。これにより、5nmの厚さを有するGaInN層55がGaN層54上に成長させられる。」と記載されている。

3.対比
そこで、本願発明と引用例に記載された事項とを以下に対比する。

(a)引用例の【0058】に記載された「基板51を約1000℃に保ちながら、NH3ボンベ45から成長室1へ5L/minの割合でアンモニアガスを流し、1分後、TMGボンベ42から成長室1へ100cc/minの割合でトリメチルガリウムを流す。これにより、3μmの厚さを有するGaN層54が・・・成長する。」なるGaN層54を形成する工程において、「アンモニアガス」が、「窒素元素を含むV族原料ガス」に、「トリメチルガリウム」が、「III族原料ガス」に、「GaN層54」が「窒化物半導体からなる第1の半導体層」に相当するから、同工程が、本願発明の「基板上にIII族原料ガス及び窒素元素を含むV族原料ガスを導入することにより、前記基板上に第1の窒化物半導体からなる第1の半導体層を形成する第1の半導体層形成工程」に相当することは明らかである。

(b)同様に、引用例の【0059】に記載された「次に、基板51を約800℃に保ちながら、NH3ボンベ45から成長室1へ10L/minの割合でアンモニアガスを流し、同時にTMGボンベ42及びTMIボンベ43から成長室1へそれぞれ50cc/min及び400cc/minの割合でトリメチルガリウム及びトリメチルインジウムを流す。これにより、5nmの厚さを有するGaInN層55がGaN層54上に成長させられる。」なるGaInN層55を形成する工程において、「トリメチルガリウム及びトリメチルインジウム」が、「III族原料ガス」に、「GaInN層55」が、「インジウムを含む第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層」に相当するから、同工程が、本願発明の「前記第1の半導体層の上にIII族原料ガス及びV族原料ガスを導入することにより、前記第1の半導体層の上に、インジウムを含む第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層を形成する第2の半導体層形成工程」に相当することは明らかである。

(c)引用例の上記(エ)の記載事項によれば、引用例の上記「第1の半導体層形成工程」と上記「第2の半導体層形成工程」の間の期間において、基板51の設定温度の変更、及び少なくともIII族原料ガスの供給停止を含む原料ガスの変更が行われることは自明であり、またその間 、引用例の上記【0056】に記載されているように、成長室1内には窒素ガスが導入され、同室内が1気圧以上の圧力に保たれているのは明らかであるから、当該期間は、本願発明の「前記第1の半導体層の雰囲気を、前記窒素元素を含み且つ圧力が1気圧以上とする工程を含むIII族原料ガス停止工程」に相当する。

したがって、両者は、
「基板上にIII族原料ガス及び窒素元素を含むV族原料ガスを導入することにより、前記基板上に第1の窒化物半導体からなる第1の半導体層を形成する第1の半導体層形成工程と、前記第1の半導体層の上にIII族原料ガス及びV族原料ガスを導入することにより、前記第1の半導体層の上に、インジウムを含む第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層を形成する第2の半導体層形成工程とを備え、前記第1の半導体層形成工程と第2の半導体層形成工程との間のIII族原料ガス停止工程は、前記第1の半導体層の雰囲気を、前記窒素元素を含み且つ圧力が1気圧以上とする工程を含む窒化物半導体素子の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点]本願発明のIII族原料ガス停止工程は、「窒素元素を含むV族原料ガスを導入したまま、III族原料ガスの導入を停止し、前記第1の半導体層の雰囲気を、前記窒素元素を含むV族原料ガスを含み且つ圧力が1気圧以上とする工程」であるのに対し、引用例に記載のものは、同工程においてIII族原料ガスの導入を停止し、前記第1の半導体層の雰囲気を、窒素元素を含み且つ圧力が1気圧以上とするものの、「窒素元素を含むV族原料ガスを導入したまま、III族原料ガスの導入を停止する」ものであるか明示の記載がない点。

4.判断
引用例には、第1の半導体層形成工程と第2の半導体層形成工程の間のIII族原料ガス停止工程において、窒素元素を含むV族原料ガスを導入したまま、III族原料ガスの導入を停止するのか否か明確な記載がない。
しかしながら、引用例に記載のものにおいては、少なくともその間キャリアガスである窒素ガスは引き続き成長室1内に導入されているものと解され、これにより当該工程の間も成長室1内は窒素を含む雰囲気を維持し、その圧力が1気圧以上に保たれていることは明らかであるから(上記(エ)の【0056】)、本願発明の課題(「【0024】 さらに、原料ガスの切り替え時の平衡状態において、半導体結晶の成長界面から構成原子の脱離を防ぐ第2の解決手段として、下地層の雰囲気を加圧状態の窒素元素を含むガス雰囲気とすると、下地層の上に成長する活性層の結晶品質が劣化しないという知見を得ている。」(本願明細書段落24))を十分解決したものということができる。
そして、引用例に記載のものにあっては、同工程の間、V族原料ガスの供給を停止してもしなくとも半導体層の結晶の質の良否に特段の影響を及ぼさないこと、また、V族原料ガスはアンモニアガス(NH3)であるから、III族原料ガスに比べて格段に安価なものであること、第1の半導体層形成工程において成膜を中止するにはIII族原料ガスのみ供給を停止すれば足りること、等々は当業者が容易に理解し得るところである。
してみると、同工程の間、V族原料ガスの供給を停止するか、そのまま供給するかによっては、成膜を終了した第1の半導体層の結晶の性質に格別影響を与えないのであるから、当該操作は、当業者が適宜実施すべき事項というにすぎず、かかる操作を採用した本願発明は、引用例に記載された発明に基づき容易に想到し得たものである。

また、本願発明の作用効果も、引用例に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-07 
結審通知日 2005-02-08 
審決日 2005-02-22 
出願番号 特願平11-7830
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 幸浩  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 山下 崇
稲積 義登
発明の名称 窒化物半導体素子の製造方法  
代理人 前田 弘  

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