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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  D06Q
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06Q
審判 全部無効 2項進歩性  D06Q
審判 全部無効 特29条の2  D06Q
管理番号 1115686
審判番号 無効2004-80083  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-04-21 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-06-24 
確定日 2005-04-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第2983179号発明「繊維製品の脱色方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2983179号の請求項1ないし2に係る発明についての出願は、平成8年9月27日に特許出願され、平成11年9月24日にその特許権の設定登録がなされたものである。
(2)これに対して、請求人は、甲第1ないし9号証を証拠方法として、以下の理由1ないし3により、本件請求項1ないし2に係る特許は、特許法第123条第1項第2号または第4号に該当し、無効にすべきものである旨主張している。
理由1:本件請求項1ないし2に係る発明は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。(以下、「無効理由1」という。)
理由2:本件請求項1に係る発明は、甲第9号証に係る出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。(以下、「無効理由2」という。)
理由3:本件請求項1ないし2に係る特許は、実施可能要件を満たさず、特許を受けようとする発明が不明確であって不備な、特許法第36条第4項若しくは第6項に規定する要件を満たしていない特許出願について、特許されたものである。(以下、「無効理由3」という。)
(3)被請求人は、平成16年10月22日付けで手続補正された平成16年9月10日付けの訂正請求書により訂正を求めた。
(4)当審では、平成16年11月4日付けで、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項で準用する第126条第3項の規定に適合していない旨の訂正拒絶理由を通知した。
(5)被請求人は、平成16年12月3日付けで、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項で準用する第126条第3項の規定に適合するものである旨の意見書を提出した。

2.訂正について
(1)本件訂正の内容
平成16年10月22日付けで手続補正された平成16年9月10日付けの訂正請求書により被請求人が求めた訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】 レーザ光線を染色された繊維製品に照射するレーザ照射工程を備えた繊維製品の脱色方法であって、
前記レーザ照射工程は、レーザ光線を照射することにより、繊維製品の染料を蒸発させるとともに、繊維を炭化する工程を含む、繊維製品の脱色方法。」
とあるのを、
「【請求項1】 レーザ光線を染色された縫製後の繊維製品に照射するレーザ照射工程を備えた炭化可能な繊維からなる繊維製品の脱色方法であって、
前記レーザ照射工程は、レーザ光線を照射することにより、繊維製品の染料を蒸発させるとともに、繊維を炭化する工程を含む、繊維製品の脱色方法。」
と訂正するものである。

(2)訂正拒絶理由通知の概要
当審が平成16年11月4日付けで通知した訂正拒絶理由通知の概要は、以下のとおりである。
『平成16年9月10日付け訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、下記のとおり、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項で準用する第126条第3項の規定に適合していないから、その訂正は認められない。


1.本件訂正の内容
本件訂正は、平成16年10月22日付けで手続補正された平成16年9月10日付け訂正請求書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1について訂正するものであり、
以下の訂正事項(1)、(2)を含むものである。

訂正事項(1)
「レーザ光線を染色された繊維製品に照射する」とあるのを「レーザ光線を染色された縫製後の繊維製品に照射する」と訂正する。

訂正事項(2)
「レーザ照射工程を備えた繊維製品の脱色方法」とあるのを「レーザ照射工程を備えた炭化可能な繊維からなる繊維製品の脱色方法」と訂正する。

2.特許法第134条の2第1項ただし書に適合していないことについて
訂正事項(2)は、レーザ照射工程を経て脱色される繊維製品について、訂正前は明記されていなかった「炭化可能な繊維からなる」という文言を修飾語として付加するものである。
そこで、訂正前の請求項1の記載における、レーザ照射工程を経て脱色される繊維製品についてみてみると、「前記レーザ照射工程は、レーザ光線を照射することにより、・・・繊維を炭化する工程を含む、繊維製品の脱色方法」とあって、脱色される繊維製品の繊維は、レーザ光線を照射することにより炭化されるのであるから、炭化可能な繊維からなるものであるといえる。
してみれば、レーザ照射工程を経て脱色される繊維製品については、訂正前においても炭化可能な繊維からなるものであるから、訂正事項(2)は特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるとはいえない。
また、訂正前の請求項1の記載においては、上記したとおり、レーザ照射工程を経て脱色される繊維製品について、炭化可能な繊維であることは自明であり、このことに関して明りょうでないものとする記載も他にないから、訂正事項(2)は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。
さらに、訂正前の請求項1の記載に誤記はないから、訂正事項(2)は、誤記の訂正を目的とするものでもない。
よって、訂正事項(2)は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的としていないものである。

3.特許法第134条の2第5項で準用する第126条第3項の規定に適合していないことについて
訂正事項(1)は、レーザを照射される染色された繊維製品について、「縫製後」のものであるという要件を付加するものである。
そこで、訂正前の願書に添付された明細書及び図面(以下、「特許明細書等」という。)の記載における「縫製後」の繊維製品という概念について、以下に検討していく。
本件訂正請求書の「(4)請求の原因 1.訂正事項「縫製後の」について」によれば、訂正事項(1)は、特許明細書等における、ジーンズに関する明細書の複数箇所の記載と図1等に記載された縫製後のジーンズに基づくものである旨説明されているが、それら明細書の記載はあくまでもジーンズに関するものであって、その上位概念としての縫製後の繊維製品に関するものが開示されているとはいえないものであり、また、図1及び図2の記載は縫製後のジーンズに対する加工に関するものとは認められるが、その上位概念としての縫製後の繊維製品に関するものが一般的に開示されているとはいえない。そして、特許明細書等には他に関連する記載もないから、「縫製後」の繊維製品という概念についての直接的な記載は認められない。
次に、「縫製後」の繊維製品の概念が特許明細書等の記載から自明であるか否かについて検討する。
特許明細書等のジーンズに関する記載によれば、従来の繊維製品の脱色方法では、繊維製品に中古感覚を容易にもたせることができなかったところ、本件特許に係る発明では、レーザ光を照射して繊維製品の部分的な脱色を行うことによって、繊維製品において自然な中古感覚をもたせることができるようになった旨読みとることはできる。しかしながら、この脱色方法の発明における繊維製品について縫製の前後の関係は何ら記載されておらず、また、技術常識からみて、縫製後の繊維製品に係る方法が、縫製前の繊維製品に係る方法とは区別される特定の作用効果等に基づき、別異の技術思想を有したものであることが明らかであるともいえない。してみれば、技術常識を考慮しても、「縫製後」の繊維製品の概念が特許明細書等の記載から自明であるとはいえない。
以上のことから、発明を特定するための事項として、「縫製後の」繊維製品は、特許明細書等に直接的に記載されていたものではなく、また、技術常識を考慮して特許明細書等の記載から自明なものであるともいえない。
よって、訂正事項(1)は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

4.むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項で準用する第126条第3項の規定に適合していない。』

(3)訂正についての判断
(3-1)訂正拒絶理由通知で述べた訂正事項(1)について
訂正拒絶理由通知において、訂正事項(1)は願書に添付した明細書又は図面(以下、単に「明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてしたものであるとは認められないとしたことに対し、被請求人は、平成16年12月3日付け意見書において、本件の明細書等には「縫製後の繊維製品」の概念についての直接的な記載がないことは認めつつも、中古感覚とは縫製後の繊維製品において得られるものであり、まだ着用できない縫製前の繊維製品において得られるものではないことから、明細書等における中古感覚に関する記載に基づき「縫製後の繊維製品」の概念は当業者において自明である旨主張している。
しかしながら、仮に、中古感覚が着用によって得られるものであるとしても、当業者においては無縫製衣料(例えば、特開平1-201509号公報を参照)も周知であって、縫製されていない衣料を着用することによっても中古感覚が得られることはあるといえるから、中古感覚との記載により繊維製品が縫製後のものに限られることが自明であるとはいえない。また、例えば特開平7-3671号公報(請求人が提示した甲第5号証を参照)の記載をみても、着古した感じについて、着用による感覚や縫製後の繊維製品と結びつけている記載は見当たらない。
してみれば、中古感覚に関する記載から縫製後の繊維製品であることが自明であるとはいえないから、技術常識を考慮しても、「縫製後」の繊維製品の概念は、明細書等の記載から自明であるとはいえない。
よって、訂正事項(1)は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるとは認められないから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合していない。

(3-2)訂正拒絶理由通知で述べた訂正事項(2)について
訂正拒絶理由通知において、訂正事項(2)は特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正のいずれを目的としたものとも認められないとしたことに対し、被請求人は、平成16年12月3日付け意見書において、訂正事項(2)は特許請求の範囲を減縮したものである旨主張している。そして、その主張の要旨は、「訂正前の請求項1の記載において、脱色される繊維製品の繊維は、レーザ光線を照射することにより炭化されるのであるから、炭化可能な繊維からなるものであるといえる点については認めつつ、訂正事項(2)において、該繊維製品の繊維について、レーザ光線を照射することによって溶融する化繊を排除し、レーザ光線を照射することによって炭化する繊維からなるものに限定したことは、特許請求の範囲の減縮に該当する」というものであると認められる。
そこで、訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載について検討するに、「炭化可能な繊維からなる繊維製品」は、脱色される対象として、炭化可能な繊維を少なくとも含む繊維製品であると解され、炭化可能な繊維のみからなる繊維製品と解されるものではないから、例えば、炭化可能な繊維及びレーザ光線を照射することによって溶融する化繊の両者からなる繊維製品を排除するものであるとはいえない。また、被請求人も認めるとおり、訂正前の請求項1の記載において、脱色される繊維製品の繊維は、炭化可能な繊維からなるものであるといえるものである。
してみれば、「レーザ照射工程を備えた繊維製品の脱色方法」とあるのを「レーザ照射工程を備えた炭化可能な繊維からなる繊維製品の脱色方法」と訂正することは、訂正の前後において、特許請求の範囲に実質上何ら変更を与えるものではない。
よって、訂正事項(2)は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正のいずれを目的としたものともいえないから、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合していない。

(3-3)まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項の規定によって準用する同法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正を認めない。

3.無効理由について
(1)甲各号証の記載事項等
(1-1)甲第1号証:「Emblaser MODEL TLFD」多頭式レーザーカット刺繍機のカタログ、発売元 タジマ工業株式会社、製造元 東海工業ミシン株式会社
甲第1号証には、以下が認められる。
(ア)TLFDシリーズの機種として、TLFD-904及びTLFD-1204と記載され、頁右隅の発売元及び製造元の記載の下に「9601A」と記載されている。(表面右頁)
(イ)手法として、カット、ハーフカット、マーキング、平縫い(サテン)、ハメ込み合成、ボリューム(詰め込み)縫い、に分けていること。(内面左頁、右隅枠内)
(ウ)「マーキング
マーキングとは生地や皮革等の表面をレーザーで焦がし、柄を表現する方法です。
この刺繍機ではマーキングだけでなく多色刺繍とのミックス加工ができますので今迄にない刺繍表現ができます。」と記載されている。(内面右頁、中央部)
(エ)「●高品位のレーザー刺繍
レーザー加工に最適な枠送りとレーザー自動制御の開発に成功。〈PAT.P〉
レーザー加工と刺繍に最適な枠送りが、自動的に切り替わります。〈PAT.P〉
この方法により均一なマーキングやカッティングと通常刺繍とのコンビネーションを実現しました。」と記載されている。(内面右頁、左欄)
(オ)マーキングにより、生地に帆船模様を表したもの、皮革手袋にドラゴンを表したものの写真。(内面右頁、左欄)

(1-2)甲第2号証:「Emblaser Model TLFD」多頭式レーザーカット刺繍機のカタログ、発売元 タジマ工業株式会社、製造元 東海工業ミシン株式会社
甲第2号証には、以下が認められる。
(カ)TLFDシリーズの機種として、TLFD-604と記載され、右隅の発売元及び製造元の記載の下に「9509A」と記載されている。(裏面)
(キ)手法として、カット、ハーフカット、マーキング、平縫い(サテン)、ハメ込み合成、ボリューム(詰め込み)縫い、に分けていること。(裏面、左上枠内)
(ク)「■幅広い用途
操作パネルで用途にあわせたレーザーパワーの設定ができますので、マーキング、カッティング及びハーフカットが自由自在。」と記載されている。(裏面、左欄)
(ケ)「■高品位のレーザー刺繍
レーザー加工に最適な枠送りと刺繍に最適な枠送りが用途に応じて、自動的に切り替わり、均一なマーキング、精度の高いカット、最適な刺繍が得られます。」と記載されている。(裏面、右欄)
(コ)マーキングにより、生地に紅葉の図柄を表したもの、生地に帆船模様を表したものの写真。(裏面、右欄)

(1-3)甲第3号証:特開平8-197275号公報
甲第3号証には、以下の記載が認められる。
(サ)出願人が東海工業ミシン株式会社であること。(公報第1頁)
(シ)「本発明は、レーザービームの照射によって布などの被加工物にレーザ加工(カットや彫刻)を施すことができるレーザー加工機に関する。」(段落【0001】)
なお、請求人は、レーザーカット刺繍機の製造元である東海工業ミシン株式会社からは、レーザーカット刺繍機に関する数多くの特許出願がなされており、甲第3号証はその一例にすぎないとして、その他の例として特開平8-191973号等の特許公開公報を挙げている。

(1-4)甲第4号証:川澄博通著「レーザ加工技術」日刊工業新聞社 昭和60年1月28日発行 表紙、第39-41頁、奥付
甲第4号証には、以下の記載が認められる。
(ス)「十分な強度を持ったレーザ光が加工物に吸収され,加工物温度が上昇し,融解温度あるいは蒸発温度に到達したときに相変化が生じる.図3・2には異なるパワー密度に対応して,表面温度・・・の時間変化が示してある.106W/cm2以上のパワー密度のときには,μsのオーダの時間で照射表面温度TSHは蒸発温度TVに達し表面は蒸発を開始する.・・・105W/cm2以下の低いパワー密度のときには,表面温度TSLが蒸発温度TVに達するのに数msを要し,その前に表面下温度TULは融解温度TMに達する.このときレーザ照射が終れば,ある深さの溶接が得られることになる.
したがって,パワー密度とパルス持続時間とが重要な役割を果たすことがわかる.図3・3は,パワー密度とレーザ照射時間との組合わせによって,どのような加工が行なわれるかを示したものである.もちろん加工物の種類によってこれらの値は変わることはいうまでもないが,傾向はほぼ同じである.」(第40頁第3行〜第41頁第1行))
(セ)「加工に適するパワー密度とパルス幅の範囲」と題した図3・3は、縦軸にパワー密度、横軸にパルス幅とし、実線により、それぞれマイクロ除去加工、穴あけ、切断、溶接、熱処理と記載された領域に分けられている。また、パルス幅が小さくパワー密度が大きい領域にはかっこ書きで「プラズマ発生」と、パルス幅が小さくパワー密度が小さい領域にはかっこ書きで「蒸発せず」と、パルス幅が大きくパワー密度が小さい領域にはかっこ書きで「蒸発」と、「蒸発」よりさらにパルス幅の大きい領域には「熱影響部大」とそれぞれ記載されている。(第40頁の図3.3)
(ソ)「高密度エネルギー熱加工であるから,方向性のある木材などでも騒音なしにきれいに自由曲線加工ができ、また加工条件およびレーザの種類を選べばプラスチック,布地,ゴム,紙などにいたるまで加工できる.」(第41頁第12〜14行)

(1-5)甲第5号証:特開平7-3671号公報
甲第5号証には、以下の記載が認められる。
(タ)「最近になつて、着古した感じとか、レトロ調が求められるようになり、一度糸や布帛を染色したのち、薬液によつて色を抜いたり、いわゆるスト―ンウオツシユやサンドウオツシユといつた物理的方法により部分的に脱色する方法がとられ、このような方法によつて得られる、いわゆるむら染め生地が消費者の人気を得るようになつてきた。
しかしながら、従来のこれらの方法では、意図した状態にむらを発生させることが困難で、歩留りの低さが問題となつていた。すなわち、消費者に人気のあるむら染めを効率的に、かつデザイナ―のデザインどおりに行うことは不可能で、実施してみないとわからないというのが実状であつた。
本発明は、上記従来の事情に鑑み、布帛に対し、デザイナ―などによる所望のデザインどおりに、かつ高い歩留りで、染色度に濃淡差のある模様柄をつける方法を提供することを目的としている。」(段落【0003】〜【0005】)
(チ)「本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、染色前または染色後の布帛に、電子線を遮断する材料をデザインどおりに形作つたものや、有形の物体などからなる電子線の遮蔽物を設置し、その上部から電子線を照射することにより、照射部分と未照射部分とで染色度に明確な濃淡差のある模様柄が得られることを見い出し、本発明を完成するに至つた。」(段落【0006】)
(ツ)「電子線を照射した部分の染料が、電子線により分解して退色し、未照射部分よりも淡色または白く抜染されたようになり、その結果、染色度に濃淡差のある模様柄が、彫刻物や有形の物体の形状に応じた所望のデザインどおりに、得られることになる。しかも、このような電子線の照射では、1秒以下の短時間で染料の分解、退色が起こるので、上記模様柄を短時間につけれるという利点がある。」(段落【0018】)

(1-6)甲第6号証:「同1条件レーザー加工試験の目視確認書」(平成16年4月23日 新潟県工業技術総合研究所 佐野正)
甲第6号証は、請求人である新潟パンチング(株)の依頼により佐野正が作成したものであると認められ、1)革(動物性)、2)デニム生地(植物性)に対し、同1条件下でレーザー加工して「ABC」のマーキングを施した試料1)、2)の写真及び現物が添付され、その観察結果が記載されている。
試料1)は薄茶色の革が黒茶色にマーキングされており、「レーザー照射箇所は、熱により表面の皮が炭化し黒く見えるものと思われる。」との観察コメントが付されている。
試料2)は表面が紺、裏が白の生地の表側が青白くマーキングされており、「糸の構成は、たて糸が着色綿で色は紺(糸の表面が染着)、よこ糸が白の綿/ポリウレタン(CSY)からなる。」、「レーザー照射箇所は、熱により表面の綿が炭化し、白に近い薄い青色に見えるものと思われる。」との観察コメントが付されている。

(1-7)甲第7号証:「証明書」(平成16年4月15日 新潟刺繍機販売株式会社 新井敏勇)
甲第7号証は、請求人である株式会社新潟パンチングの落合俊則宛に平成16年4月15日付けで新潟刺繍機販売株式会社の新井敏勇が作成したものであると認められ、以下の記載が認められる。
(テ)「発売元 タジマ工業株式会社、製造元 東海工業ミシン株式会社の係る工業用ミシン刺繍機についての下記のカタログを株式会社新潟パンチング落合俊則様に私が渡しました。
(1)刺繍機名TLFD-604のカタログは1995年11月頃渡したものです。
(2)刺繍機名TLFD-904のカタログは1996年4月頃渡したものです。」

(1-8)甲第8号証:http://www.joho-shimane.or.jp/vvl/h12/guide-14.php3をアドレスとしたインターネットホームページの印刷複写物
甲第8号証には、以下が認められる。
(ト)「繊維製品レーザーマーキング装置(特許第2983179号)」と記載された表題のもと、用途、能力・特徴、仕様について記載され、会社名は「株式会社 仁多産業」と記載されている。

(1-9)甲第9号証:特開平9-136176号公報
甲第9号証は、特願平7-291221号に係るものであり、以下の記載が認められる。
(ナ)「【請求項1】 レンズを通過して照射されるレーザービームによって所定の被加工物にレーザー加工を施すレーザー加工機において、前記レンズは被加工物に対する距離が変化する方向へ移動可能に支持されているとともに、このレンズを移動させるためのアクチュエータを備えていることを特徴としたレーザー加工機。」(特許請求の範囲請求項1)
(ニ)「【発明の属する技術分野】本発明は、布や皮革などの被加工物にレーザービームを照射することによって裁断や模様付け(マーキング)などのレーザー加工を行うためのレーザー加工機に関する。」(段落)【0001】)
(ヌ)「レーザー加工によってはレンズの合焦位置を頻繁に調整しなければならない場合がある。例えば二枚重ねの被加工物に対し、まず上側の被加工物を裁断した後に下側の被加工物を裁断する場合、あるいは皮革などの被加工物の表面を焦がして模様付け(マーキング)を行うときにレーザービームによる焦がし巾を変える場合などである。」(段落【0003】)
(ネ)「レンズ46を通過したレーザービームを、図4で示すようにミシンテーブル10の上面に位置している布などの被加工物200に照射でき、レンズ46の焦点で集光されたレーザービームによって裁断などのレーザー加工を行うことができる。」(段落【0010】)

(2)無効理由についての判断
(2-1)無効理由3について
無効理由3に係る請求人の主張は、概ね以下のa)、b)にあるものと認める。
a)綿や麻等の天然繊維に所定強度のレーザ光を照射すると、繊維の炭化に先立って繊維の表面を染色している染料が蒸発することは当然の作用であるのに対し、化繊にレーザ光を照射する場合には、化繊は、融解温度が染料の融解温度よりも低いため、レーザ光を照射されると染料が蒸発する前に化繊自体が融解してしまい、染料の蒸発を伴わないから、本件請求項1及び2に係る発明は実施不可能である。
b)本件請求項1及び2に係る発明には、繊維製品における繊維が天然繊維であるものも化繊であるものも含まれると解され、繊維製品が化繊製品である実施不可能な発明がこれら発明に含まれることになるから、これら発明は不明確である。
そこで、まず、本件請求項1の記載について検討する。
上記したように訂正は認められないから、本件請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】 レーザ光線を染色された繊維製品に照射するレーザ照射工程を備えた繊維製品の脱色方法であって、
前記レーザ照射工程は、レーザ光線を照射することにより、繊維製品の染料を蒸発させるとともに、繊維を炭化する工程を含む、繊維製品の脱色方法。」
請求項1に係る繊維製品の脱色方法は、繊維を炭化する工程が要件とされていることから、この脱色方法が適用される繊維製品は、例えば綿等のような少なくとも炭化可能な繊維を含むものでなければならないことは明らかである。そして、綿等の炭化可能な繊維を含む繊維製品であれば、レーザ光線の照射によって染料が蒸発する前に繊維自体がすべて融解してしまうような事態が生じることはないから、レーザ照射工程により染料の蒸発が伴う炭化する工程が実現できることは明らかである。請求人の上記主張a)は、要すれば、繊維製品が化繊のみからなる繊維製品である場合に発明が実施不可能であるというものであると認められるが、本件請求項1に係る発明の脱色方法が適用される繊維製品は、上記したように化繊のみからなるものを含むと解することが妥当とはいえないから、請求項1についての請求人の上記主張a)を採用することはできない。
また、繊維製品には通常その繊維として天然繊維も化学繊維も含まれることは明らかであるが、上記したとおり繊維製品は少なくとも綿等の炭化可能な繊維を含むのでなければならないことは明らかであって、請求項1に係る発明は実施不可能ではなく、そして、請求項1の記載において、少なくとも繊維製品との用語に関して文言上不明確なところは見当たらず、請求項1に係る発明が不明確とはいえないから、請求項1についての請求人の上記主張b)も採用することはできない。
次に、本件請求項2について、請求人は、本件請求項2は本件請求項1を引用して記載されているものであって、本件請求項1に係る発明は発明の詳細な説明が実施可能要件を満たさず、特許を受けようとする発明が不明確である以上、それを引用している請求項2に係る発明も同様であると主張しているものと認められるが、上記したように本件請求項1に係る発明は実施不可能なものではなく、不明確でもないから、本件請求項2に係る請求人の主張も採用できない。
以上のことから、無効理由3に係る請求人の主張は採用できないものであり、無効理由3によっては本件請求項1及び2に係る特許を無効とすることはできない。

(2-2)無効理由1及び2について
(2-2-1)本件特許発明
上記したように訂正は認められず、本件請求項の記載に不明確なところはないから、本件特許発明は、特許された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 レーザ光線を染色された繊維製品に照射するレーザ照射工程を備えた繊維製品の脱色方法であって、
前記レーザ照射工程は、レーザ光線を照射することにより、繊維製品の染料を蒸発させるとともに、繊維を炭化する工程を含む、繊維製品の脱色方法。
【請求項2】 前記レーザ照射工程は、繊維製品の脱色させたい領域において、該領域の中央付近ではレーザ光線の強度を周囲に照射する場合よりも相対的に強くして照射する工程を含む、請求項1記載の繊維製品の脱色方法。」

(2-2-2)無効理由1についての判断
(請求人の主張)
無効理由1に係る請求人の主張は、要すれば、甲第1号証に記載された発明は甲第2、3号証の記載に照らすと周知技術といえるものであり、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と甲第1号証に記載された発明との相違点は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に想到できたものであり、本件請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)は本件発明1を引用して当業者に自明な事項をさらに特定したにすぎないものであるから、本件発明1及び本件発明2は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというものであると認められる。また、甲第6号証は、甲第1号証に記載された発明が本件発明1と同一の作用効果を奏することを証しようとしたものであり、甲第7号証は、甲第1号証及び甲第2号証のカタログが本件特許出願前に頒布されたものであることを証しようとしたものであり、甲第8号証は、本件発明1の実態はマーキング方法と何ら変わることがないことを証しようとしたものであると認められる。
ところで、被請求人は、平成16年12月3日付け意見書(第12頁第13〜16行)において、甲第1号証及び甲第2号証はカタログであって、当該カタログの上記摘示(ア)及び(カ)に係る記載及び甲第7号証の証明書では、これらカタログが発行された発行日を特定する信憑性に乏しいとしており、甲第1号証及び甲第2号証のカタログが本件特許出願前に頒布されたものである点については争いがあるものと認められるが、ここでは、この点については、ひとまず請求人の主張のとおりであると仮定して、以下に検討していく。
(引用例発明について)
甲第1号証には、上記摘示(ウ)、(エ)より、刺繍機によるレーザー加工として、マーキングする方法が記載されており、上記摘示(ウ)に、「マーキングとは生地や皮革等の表面をレーザーで焦がし・・・」とあって、生地や皮革等が焦げることは炭化することと解される。また、甲第3号証の上記摘示(シ)、甲第4号証の上記摘示(ス)、(ソ)等より、刺繍機によるレーザー加工はレーザー光線の照射により行われることが技術常識上明らかであるといえるから、甲第1号証には、
「レーザ光線を生地や皮革等に照射するレーザ照射工程を備えた生地や皮革等のマーキング方法であって、前記レーザ照射工程は、レーザ光線を照射することにより、生地や皮革等の表面を炭化する工程を含む、生地や皮革等のマーキング方法。」の発明(以下、「引用例発明1」という。)が記載されていると認められる。
(本件発明1についての対比・判断)
本件発明1と引用例発明1とを対比するに、両者は以下の点で少なくとも相違している。
相違点1:レーザ光線を照射する対象が、本件発明1では、繊維製品であるのに対し、引用例発明1では、生地や皮革等である点。
相違点2:本件発明1の繊維製品は染色されたものであるのに対し、引用例発明1の生地や皮革等は、染色されたものであるか否かが不明である点。
相違点3:本件発明1では、レーザ光線を照射することにより、繊維製品の染料を蒸発させている点。
相違点4:本件発明1は、繊維製品の脱色方法であるのに対し、引用例発明1は生地や皮革等のマーキング方法である点。
まず、相違点1について検討するに、生地は、一般に布などの繊維製品を含むものと解され、甲第3号証の上記摘示(シ)には、カットや彫刻であって甲第1号証の上記摘示(イ)のカット等の手法に対応すると認められるレーザ加工において、その被加工物として布が代表的なものとして挙げられていることから、引用例発明1において生地として布等の繊維製品を選択し、レーザ加工の対象とすることは当業者が適宜なし得ることである。
次に、相違点2に関し、布として、染色されたものは普通に存在するところであるが、引用例発明1は生地等をレーザ加工により焦がす方法であることから、レーザ加工において焦がす場合に起こる物理(化学)現象を踏まえ、加工対象として染色された布を選択することがなされるか否かについて判断することが必要であるから、以下に相違点3についての検討を先に進め、その後、相違点2について併せ検討する。
相違点3に係る「蒸発」については、技術用語としてその意味するところのものは少なくとも当業者において明確である。例えば、「岩波 理化学辞典 第4版 1994年7月18日 株式会社岩波書店発行」の「蒸発」の項には、
「[1]液体又は固体の表面だけで起こる気化の現象をいう。液体では沸点以下の温度でおこり、沸点で沸騰する。固体の場合は特に昇華とよばれることが多い。蒸発は与えられた温度で気相の圧力(蒸気圧)が一定(飽和蒸気圧、昇華圧)になるまで進行し、そこで平衡状態に達する。
[2]高励起の複合核状態にある原子核から中性子、陽子、α粒子などが放出される過程は、・・・蒸発または核蒸発とよばれることがある。・・・(以下略)」
のように記載されており、本件発明1における「蒸発」がこのうちの[1]を意味していることは明らかであり、染料が、例えば化学的に分解したり、溶融したりして表面から物理的に剥がれるようなことを意味するものでないことも明らかである。
そこで、レーザ加工条件と蒸発との関係について考察するに、甲第4号証によれば、上記摘示(ス)により、十分な強度を持ったレーザ光が加工物に吸収され、加工物温度が上昇し、融解温度あるいは蒸発温度に到達するとの記載から、概ねレーザのパワー密度によって温度上昇の条件が定まることは読み取れる。他方、上記摘示(ス)における図3・3についての記載及び上記摘示(セ)によれば、パワー密度とレーザ照射時間(パルス幅)との組み合わせによって、少なくとも蒸発に至る相変化の条件は異なること、また、パワー密度とレーザ照射時間との組み合わせ条件は、材料除去や熱処理等の加工目的により異なること、さらには、加工物の種類によってもその組み合わせ条件は異なることなどが読み取れるものである。
ところで、引用例発明1は、生地等の表面を焦がす、即ち、炭化する目的においてレーザ照射をするものであるから、生地等を加工物とした場合の熱処理という加工目的に合わせてレーザ加工条件が設定され、少なくとも生地等を構成する炭化対象の繊維において蒸発温度に達する前に処理が終了するような条件になっているものと解される。仮に、生地等が染色された布である場合には、少なくともこの設定された条件下において、染料が表面から除去等されるようになっていないと、生地等の表面を焦がすことはできないことになるが、上記したようにレ-ザ加工において少なくとも蒸発に至る条件は加工物の種類によって異なるものであることからすれば、染料の種類によってその挙動は異なるから、この設定された条件下において、少なくとも染料が必ず蒸発するとはいえない。してみれば、引用例発明1においては、生地等は染色された布ではないものであるか、仮に染色されたものであっても、染料の種類は特定されておらずレーザ加工条件と染料の蒸発温度との関係は不明であるから、少なくとも染料を蒸発させることが示唆されているとはいえない。
甲第2号証には、上記摘示(キ)〜(コ)に、甲第1号証同様、刺繍機によるレーザー加工として、マーキングする方法が記載されているが、引用例発明1において、生地等に染色された布を用いるか、または染料を蒸発させることについて、示唆するものとはいえない。
甲第3号証には、上記摘示(サ)〜(シ)に、レーザービームの照射によって布などにレーザ加工(カットや彫刻)を施すことができるレーザー加工機に関し記載されているが、引用例発明1において、生地等に染色された布を用いるか、または染料を蒸発させることについて、示唆するものとはいえない。なお、請求人が甲第3号証のその他の例として挙げている特許公開公報については、レーザーカット刺繍機について数多くの特許出願がなされていることを示すにすぎない。
甲第4号証には、上記摘示(ス)〜(ソ)に、レーザ加工は、レーザ光の照射によりレーザ光が加工物に吸収され、パワー密度とレーザ照射時間との組み合わせによって色々の加工(マイクロ除去、穴あけ、切断、溶接、熱処理)が行われることを示すだけであって、レーザ加工条件と蒸発との関係については上記で考察したとおりであるから、引用例発明1において、生地等に染色された布を用いるか、または染料を蒸発させることについて、示唆するものとはいえない。
甲第5号証は、上記摘示(タ)〜(ツ)によれば電子線照射により布帛を加工するものであって、レーザ加工条件について示唆するものではない。
甲第6号証について、請求人は、染色されたデニム生地にレーザ光を照射した場合の試験結果であって、本件発明1と同一の作用効果を奏し、染料が蒸発することは所定強度を有するレーザ光を染色されたデニム地に所定時間照射すると生じる当然の作用でしかないことを主張しているが、甲第6号証は、脱色又は変色が起こった結果を示すだけであって、染料が蒸発して現象を示したものではなく、また、特定の染料を使用した生地における試験結果を示すだけであって、染料一般に起こる当然の作用を示すものでもない。
以上のことから、少なくとも相違点2又は3については、甲第2ないし5号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、相違点4その他については検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
(本件発明2についての対比・判断)
本件発明2は、本件発明1を技術的に限定したものであるから、本件発明1が、甲第1ないし5号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2も、甲第1ないし5号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(まとめ)
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1によっては、本件発明1及び2に係る特許を無効とすることはできない。

(2-2-3)無効理由2についての判断
(先願発明について)
甲第9号証に係る出願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、上記摘示(ナ)、(ニ)に、レーザー加工機により、布や皮革などの被加工物にレーザービームを照射することによって模様付け(マーキング)する方法が記載されており、上記摘示(ヌ)に、「皮革などの被加工物の表面を焦がして模様付け(マーキング)を行う」とあって、皮革などが焦げることは炭化することと解されるから、
「レーザ光線を布や皮革等に照射するレーザ照射工程を備えた布や皮革等のマーキング方法であって、前記レーザ照射工程は、レーザ光線を照射することにより、布や皮革等の表面を炭化する工程を含む、布や皮革等のマーキング方法。」の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されていると認められる。
(本件発明1と先願発明1との対比・判断)
本件発明1と先願発明1とを対比するに、両者は以下の点で少なくとも相違している。
相違点1:本件発明1の繊維製品は染色されたものであるのに対し、先願発明1の布や皮革等は、染色されたものであるか否かが不明である点。
相違点2:本件発明1では、レーザ光線を照射することにより、繊維製品の染料を蒸発させている点。
相違点3:本件発明1は、繊維製品の脱色方法であるのに対し、先願発明1は布や皮革等のマーキング方法である点。
よって、先願発明1と本件発明1とは同一とはいえない。
(請求人の主張等について)
請求人は、相違点1について、布は染色されているのが普通であると主張し、相違点2について、染料は繊維製品が炭化する前に蒸発してしまうから、炭化による布の模様付けを行う際には染料の蒸発は同時に生じていると主張し、相違点3について、繊維製品の脱色方法と布の模様付け方法とは実質的に同じであると主張しているものと認められる。
そこで、相違点1及び2について検討するに、相違点1に関し、布として、染色されたものは普通に存在するところであるが、先願発明1においては少なくとも上記摘示(ナ)〜(ネ)からは染色された布に適用可能であるか否か不明であり、また、相違点2に係る「蒸発」に関し、先願発明1は、布や皮革等の表面を焦がす、即ち、炭化する目的においてレーザ照射をするものである。してみれば、これら相違点1及び2については、上記「無効理由1についての判断」における相違点2及び3についての判断と同様であって、これら相違点1又は2は公知技術から当業者が容易に想到できたものであるともいえないものであるから、これら相違点1又は2が少なくとも実質的な相違点であることは明らかである。
以上のことから、相違点3についての請求人の主張について検討するまでもなく、少なくとも相違点1又は2については、実質的な相違点であり、甲第9号証に係る先願発明を特定するための事項であるとはいえない。
(まとめ)
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由2によっては、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1及び2に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2005-02-18 
結審通知日 2005-02-22 
審決日 2005-03-08 
出願番号 特願平8-256391
審決分類 P 1 113・ 16- YB (D06Q)
P 1 113・ 537- YB (D06Q)
P 1 113・ 121- YB (D06Q)
P 1 113・ 536- YB (D06Q)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 鈴木 由紀夫
菊地 則義
登録日 1999-09-24 
登録番号 特許第2983179号(P2983179)
発明の名称 繊維製品の脱色方法  
代理人 牛木 護  
代理人 酒井 將行  
代理人 外山 邦昭  
代理人 堀井 豊  
代理人 野田 久登  
代理人 仲村 義平  
代理人 深見 久郎  
代理人 森田 俊雄  
代理人 清水 榮松  

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