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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200480218 審決 特許
無効2007800196 審決 特許
審判199223900 審決 特許
無効200680021 審決 特許
無効200480075 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A61K
管理番号 1115703
審判番号 無効2003-35505  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-08-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-12-03 
確定日 2005-04-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第3097997号発明「純天然血糖値降下剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3097997号の請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

(1-1)本件特許第3097997号に係る発明は平成9年7月2日(パリ条約による優先権主張1997年1月23日、中国)の出願(特願平9-193130号)であって、平成12年8月11日に特許権の設定の登録がなされたものである。

(1-2)これに対し、請求人により平成15年12月3日に、本件無効審判が請求されたため、当審は被請求人であるキャピタル グランド アセッツ リミテッドに対して審判請求書の副本を送達し、3ヶ月の期間を指定して答弁書を提出する機会を与え、その後被請求人から答弁書の提出期限の期間延長請求書が提出されたが、当該期間を経過した時点においても被請求人からは何らの応答もない。

2.本件発明

本件発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
荷花掌またはこれの抽出溶媒による抽出成分を含有してなる純天然血糖値降下剤。

【請求項2】
荷花掌をそのまま含有する血糖値降下剤。

【請求項3】
荷花掌を粉砕後、抽出溶媒により抽出しこれの濃縮物を含有する血糖値降下剤。」

3.請求人の主張

これに対して、請求人は、本件発明の特許を無効とする、との審決を求めて本件審判を請求し、その理由として、本件特許の請求項1に記載された発明(以下、「本件特許発明1」という。)は本件特許の優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明と同一であり、
本件特許発明1及び本件特許の請求項2に記載された発明(以下、「本件特許発明2」という。)は本件特許の優先日前に頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、
また、本件特許の請求項3に記載された発明(以下、「本件特許発明3」という。)は本件特許の優先日前に頒布された甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第5号証を提出している。

4.被請求人の主張

一方、被請求人は提出期限までに答弁書を提出しておらず、何らの主張をしていない。

5.甲第1号証ないし甲第5号証

請求人の提出した甲第1号証〜甲第5号証には、それぞれ以下の事項が記載されている。

甲第1号証(Family Magazine「家の光」、1996年9月1日発行 第72巻第10号、第230頁〜232頁及び表紙)

(甲1-1)「最近、糖尿病の高血糖を正常値に改善する自然漢方薬『石蓮花』(せきれんか)が発見され・・・」(第230頁、中見出し、第3〜5行)

(甲1-2)「中国が誇る漢方薬は、いくつかの生薬を調合して作られますが、石蓮花は、単独でも効果をもたらします。漢方薬としては、古い歴史がありますが、今のように注目を浴び出したのは、北京大学の研究チームが「長寿之郷ではなぜ、人も動物も長生きなのか」と、疑問を持ったことが始まりでした。」(第231頁、第3段、第1〜9行)

(甲1-3)「当時、北京大学生物学部の教授であった丁鑑(ていかん)博士をリーダーに研究チームが十年前からその解明に取り組み、一つの結論にたどりつきました。長寿之郷の人たち、そして動物たちが石蓮花の葉を食べていたのです。
同研究チームでは青島市人民医院で臨床実験を進める傍ら、成分分析をすると、この植物には著しい血糖値降下作用と脂肪燃焼作用、滋養強壮効果があることが分かり、さらにそれらを発揮すると思われる新しい成分を発見。詳細は今後の解明を待つことになりますが、研究チームでは「DSP(血糖値降下特許品)」と名付け、さらに研究を続けています。また、この成分を丁鑑博士の息子さんである丁慶(ていけい)博士が、「糖尿病の血糖値降下剤」として特許を取得しました。
彼らが一九九〇年から行っている臨床実験のデータを見ていると、石蓮花から抽出されたエキスDSPの基礎理論研究と臨床効果の確認が、着実に実を結んでいることが分かります。臨床実験は具体的には、四十〜七十代の糖尿病患者二十名に対し、二〇mg/回のDSP錠剤を一日三回、食前二〇分ぐらいに服用してもらいました。検査期間は三週間で、毎週一回血糖値などの検査を行い、同時に症状改善状況などの検査も行いました。その結果が左の表です。」(第231頁、第3段、第13行〜第232頁、第1段、第8行)

(甲1-4)「[インスリン非依存型]

DSP使用前 性別・年齢 DSP使用後

321 ( 1)・男・70 138
220 ( 2)・女・55 142
179 ( 3)・男・74 133
300 ( 4)・女・68 141
196 ( 5)・男・73 140
270 ( 6)・女・67 153
276 ( 7)・男・63 150
300 ( 8)・男・65 165
250 ( 9)・男・68 130
259 (10)・男・57 125

[インスリン依存型]

300 (11)・男・68 200
210 (12)・男・70 200
310 (13)・女・58 120
318 (14)・男・55 126
130 (15)・男・54 110
180 (16)・女・67 120
220 (17)・女・52 116
200 (18)・男・51 122
265 (19)・男・61 140
215 (20)・女・48 145」
(第232頁、第1から2段の左の表「DSPの臨床実験報告」(血糖値:mg))

(甲1-5)「正常な人間の血糖値は「血液100ml中にブドウ糖が八〇〜一二〇mg」。「最低限が七〇mg/一〇〇ml」これ以下が低血糖です。「最高限が一五〇mg/一〇〇ml」これ以上が高血糖です。
インスリン非依存型糖尿病で、DSP錠剤を三週間服用してから八例の血糖値は正常になり、他の二例は最高値に近い数値になりました。・・・
インスリン依存型にもほぼ全員に血糖値の降下が確認され、糖尿病症状の改善が見られました。
そして、今年になり、このエキスをベースにした栄養補助食品『石蓮花』が、日本で発売されました。(第232頁、第1段、第9行〜同頁、第2段、第11行)

甲第2号証(「血糖値を下げ 糖尿病に克つ! 中国の長寿郷に自生『石蓮花』の秘密」、中冨 靖夫著、現代書林発行、1996年11月30日 初版第1刷、 第104〜107頁、表紙及び奥付)

(甲2-1)「丁博士による石蓮花の動物実験

●ネズミで証明された血糖降下作用
丁鑑博士たちは北京大学に石蓮花をもち帰り、石蓮花の薬理効果の研究に着手しました。
まず、6回にわたって、実施された動物実験の中から、典型的なものをご紹介しましょう。

[実験1]

1.Waster種系のラット(体重130〜180g)の健康な雄マウス50匹を選び、高血糖値モデルを作る。体重1kgにつき120mgのTetraoxypyrimidine溶液を腹に注射。注射後毎日血糖値を測定した結果、4日目に最高血糖値になった。

2.その中から健康な雄のラット24匹を選び、任意に3組に分けて、飲料水と餌を増加して与え、直接胃に石蓮花の生薬溶液を4日間、連続投与する。投与量は体重1kgにつき50g。対照組に同量の常水を胃から投入する。4日後にマウスの血液を採取し、血糖値を測定する。」(第104頁、第7行〜第105頁、第13行)

(甲2-2)「[測定結果]

組 動物数 薬剤量(g/kg) 血糖値x+SE% 下降率% P値

1 8 50 427±42.55 31.7 <0.01

2 8 50 426±51.06 33.8 <0.01

3 8 0 678±48.93」
(第105頁の表)、

(甲2-3)「1組・・・石蓮花の生薬懸濁液(石蓮花の葉を洗浄後、一晩水につけて、70%の薬用アルコールとともに高速粉砕。これを遠心分離器にかけて、黄緑色の透明液を分離。緑色の残液はその後、抽出に使う。透明液体をその後、回転蒸発器で減圧濃縮し、1mlにつき有効成分2gを含む溶液にする。)を投与した組。

2組・・・石蓮花の抽出エキス(1の緑色の残液を70%の薬用アルコールで3回に分けて抽出し、遠心分離器にかけて、淡い黄色の透明液を分離。回転蒸発器で減圧濃縮し、1mlにつき有効成分2gを含む溶液にする)を投与した組。

3組・・・何も投与していない、空白対照組。
この実験はダブル・ブラインド法といわれ、空白対照組と薬剤投与組の経過を比較し、薬剤がもっている薬理効果の実態を探っていくものです。実験1の結果からわかることは、3組の空白対照組と比べると、石蓮花の生薬の溶液を投与した1,2組には、30%以上も血糖値が降下していることです。」(第106頁、第1〜12行)

(甲2-4)「[実験2]

昆明種の雌マウス16匹を2組、8匹ずつに分け、石蓮花エキスの溶液0.29g/0.2mlを4日間、腹に注射する。空白対照組(3組)には投与しない。」(第107頁、第1〜5行)

(甲2-5)「[測定結果]

実験動物 血糖値(mg%) 血糖値下降 体重平均値

投与前 投与後 平均値 投与前 投与後 下降の平均値

1組 232.13 141.13 91.0 20.0 18.5 1.50

2組 219.00 146.5 72.5 20.38 18.94 1.44

3組 131.75 159.75 -27.25 21.5 28.12 -1.62」
(第107頁の表)


(甲2-6)「この実験では、石蓮花エキスを投与された1,2組のマウスの血糖値降下とともに、体重減少が明らかになっています。これに対して、空白対照組の3組では、血糖値も上昇し、体重も増加しました。」(第107頁、第8〜12行)

甲第3号証(特公平5-19554号公報)

景天科燕子掌またはこれの抽出溶媒による抽出成分を含有してなる血糖値降下剤、及び、景天科燕子掌を粉砕後、アルコール抽出し、これの濃縮物を含有する血糖値降下剤が記載されている。

甲第4号証(特開平2-247196号公報)

アスパラガスから精製サポニンを回収する方法において、出発原料のアスパラガスを粉砕した後、アルコールに浸漬して濃縮エキスを得る第1工程が記載されている。

甲第5号証(特開平10-203993号公報)

本件発明の公開特許公報であり、本件発明の出願時に石蓮花が荷花掌とも呼ばれていたことが記載されている。

6.対比・判断

甲第1号証には、

(6-1)石蓮花の抽出物であるDSPが血糖値を降下する薬理効果を有すること(摘記事項(甲1-3)及び(甲1-4))が記載されており、石蓮花は天然のものであるから、「石蓮花の抽出溶媒による抽出成分を含有してなる純天然血糖値降下剤」が実質的に記載されている。

甲第2号証には、

(6-2)石蓮花の抽出エキスが血糖値を降下する薬理効果を有すること(摘記事項(甲2-2)、(甲2-3)及び(甲2-5))が記載されており、石蓮花は天然のものであるから、「石蓮花の抽出溶媒による抽出成分を含有してなる純天然血糖値降下剤」が実質的に記載されている。

本件特許明細書には、

「荷花掌(石蓮花とも呼ばれる)」(段落【0006】、第2頁、第3欄、第4〜5行)、「荷花掌(石蓮花とも呼ばれる)」(段落【0007】、第2頁、第3欄、第9行)、「本発明に於いて使用する荷花掌は景天科に属し、景天科石蓮花属(中国植物誌第34巻第1分冊第63頁)石蓮花種又は荷花掌とも呼ばれる(河北植物誌第1巻第575〜576頁;Hort.ex Ba-ker.in Saund.Refug.Bot.1:sub T.61.1863-Cotyledon glauca Baker)。荷花掌(石蓮花とも呼ばれる)」(段落【0008】、第2頁、第3欄、第22〜29行)、及び「文献記載によれば、荷花掌(石蓮花とも呼ばれる。以下石蓮花という)」(段落【0009】、第2頁、第3欄、第43〜44行)と記載されていて、本件特許明細書に記載された、「荷花掌」は前記摘記事項(6-3)〜(6-6)により、「石蓮花」の別の名称であって、荷花掌と石蓮花とは同一の植物であることが明らかである。

A.上記のとおり「石蓮花」と「荷花掌」は同一の植物であるから甲第1号証及び甲第2号証には、「荷花掌またはこれの抽出溶媒による抽出成分を含有する純天然血糖値降下剤」が実質的に記載されており、本件特許発明1は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明である。

B.本件特許発明2と甲第1号証の発明(6-1)及び甲第2号証の発明(6-2)とを比較すると、両者は荷花掌の血糖値降下剤である点で一致し、ただ、本件特許発明2では荷花掌由来をそのまま含有するのに対して、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明では、荷花掌の抽出成分を含有する血糖値降下剤である点で両者は相違している。
ところで、一般に有用な薬理作用を有する植物を利用して、該植物をそのまま含有させるか、或いは抽出した成分を含有する薬剤とするのかは適宜選択できることであるうえ、甲第1号証には石蓮花(荷花掌)をそのまま食べていたことが石蓮花の有効性の解明のきっかけとなったことが記載されており、抽出することなくそのままでも有効であることが示唆されている。
してみれば、本件特許発明2に係る、荷花掌をそのまま含有する血糖値降下剤は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の、荷花掌の抽出溶媒による抽出成分が血糖値降下作用を有する旨の記載に基づいて、当業者であれば容易になし得たことである。

C.本件特許発明3と甲第1号証の発明(6-1)及び甲第2号証の発明(6-2)とを比較すると、両者は、荷花掌を抽出溶媒により抽出して得られる抽出成分が血糖値降下作用を有する点で一致し、ただ、本件特許発明3では、血糖値降下剤が荷花掌を粉砕後、抽出溶媒により抽出しこれの濃縮物を含有するものであるのに対して、甲第1号証及び甲第2号証には、荷花掌を、抽出溶媒による抽出処理に先だって粉砕すること、及び抽出溶媒による抽出処理後に濃縮処理を行うことにより血糖値降下剤を得ることは記載されていない点(以下、「相違点1」という。)で両者は相違する。

(C-1)相違点1について

一般に有用な薬効成分を含有する植物から抽出溶媒による抽出処理を行って薬剤を調製するにあたり、原料植物を粉砕処理した後、抽出溶媒により抽出処理を行い、さらに濃縮処理を行うことにより原料植物の有効成分を含有する薬剤を得ることは、例えば、甲第3号証及び甲第4号証にも記載されているように本願の出願前に周知の技術事項である。

してみれば、当該周知の技術事項を勘案すれば、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明において、荷花掌を抽出溶媒による抽出処理に先だって粉砕したこと、及び抽出溶媒による抽出処理後に濃縮処理を行うことにより血糖値降下剤を得たことは当業者であれば容易になし得たことである。

7.むすび

以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、本件特許発明2及び本件特許発明3は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許第3097997号の請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号並びに特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-11-12 
結審通知日 2004-11-16 
審決日 2004-12-08 
出願番号 特願平9-193130
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A61K)
P 1 112・ 113- Z (A61K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 弘實 謙二
深津 弘
登録日 2000-08-11 
登録番号 特許第3097997号(P3097997)
発明の名称 純天然血糖値降下剤  
代理人 石田 喜樹  
代理人 武蔵 武  

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