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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1115725
審判番号 不服2002-2970  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-02-21 
確定日 2005-04-27 
事件の表示 平成 6年特許願第 21060号「インク噴射方法およびインク噴射記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 8月29日出願公開、特開平 7-227967〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年2月18日の出願であって、その請求項1乃至11に係る発明は、平成15年12月1日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至11に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりである。
「発熱抵抗体を加熱することによってインク液路に供給されたインクに気泡を発生させ、この気泡の膨張力によって前記発熱抵抗体の近傍に設けられた吐出口からインクの一部を吐出するインク噴射記録装置におけるインク噴射方法であって、
3μ秒以下の印加パルス幅でパルス通電して前記発熱抵抗体を加熱し、この加熱の度にインクに気泡を発生させ、かつその際、前記パルス通電により前記発熱抵抗体に与える印加エネルギを、発生した気泡が前記加熱の開始後1μ秒において少なくとも5μm以上の高さに成長するように与え、
発生した前記気泡によって、前記インク液路中のインクを吐出すべきインクと残留側インクとに分断させた後、分断した状態で前記吐出すべきインクを1つのインク液滴として吐出することを特徴とするインク噴射方法。」

2.引用例
これに対して、当審が通知した拒絶の理由2で引用された特開平5-193132号公報(以下、「引用例」という)には、図面と共に次の事項が記載されている(記載中、「・・・」は中略を示す)。
a.「本出願人は、それまでの噴射記録方法とは違う噴射記録方法を先に提案した。この噴射記録方法は、記録媒体に記録信号に応じた熱エネルギーを付与することにより前記記録媒体内に泡を発生させ、この泡により記録媒体を吐出口から吐出させて記録を行う際に、この泡を外気に連通させるもので(以下、連通噴射記録方法)、この連通噴射記録方法によると、記録媒体のスプラッシュやミストを防ぐことができ、被記録材や装置内を汚すことがない。また、この連通噴射記録方法によると、発生した泡と吐出口との間の記録媒体は全て吐出するため、飛翔する記録媒体の量は、ノズルの形状とヒータの位置によって決まり、従って、飛翔する小滴量が常に一定な、安定した記録を行うことができる。」(2頁2欄20〜33行)
b.「本発明は、本出願人が先に提案した連通噴射記録方法を改良したもので、記録媒体を加熱して記録媒体内の泡を発生させる前に記録媒体を予備加熱するものである。」(2頁2欄47〜50行)
c.「以下、図面を参照して本出願人が先に提案した連通噴射記録方法について説明する。・・・図1に示す・・・タンク21に収容された記録媒体は供給路22を通って記録ヘッド23に供給され・・・ヘッド23は、図2に示すように、基板1上に平行に並べられた壁8と、液室10を形成する壁14とが設けられ・・・上に天板4が配置され・・・天板4にはインク供給口11が形成され、・・・壁8と壁8の間は・・・記録媒体が通るノズル15となっており、各ノズル15の途中の基板1上には記録媒体に記録信号に応じた熱エネルギーを付与するためのヒーター2が設けられ・・・ヒーター2からの熱エネルギーにより記録媒体に泡が発生し、記録媒体がノズル15の吐出口5から吐出する。」(3頁3欄1〜27行)
d.「図4は・・・1本のノズル15の断面で、図4(a)は発泡前の状態を示す。ヒーター2に瞬間的に電流を流し、パルス的にヒーター2近傍の記録媒体3を加熱すると、記録媒体3は急速な沸騰を起こし勢いよく泡6が発生し、膨張を始める(図4(b))。泡6は・・・成長し・・・吐出口5から突き抜け外気と連通する(図4(c))。泡6より吐出口5側の記録媒体3は・・・前方へ飛び出し、やがて独立な小滴7となって・・・被記録材へ飛翔する(図4(d))。」(3頁3欄40行〜4欄1行)
e.「ヒーター2の発生する熱エネルギー量、インク物性、記録ヘッド23の各部の大きさ(吐出口5とヒーター2間の距離、吐出口5やノズル15の幅及び高さ)などを所望に応じて選択することにより泡を外気と連通させることができる。・・・ヒーター2の吐出口側の端から吐出口5間での距離(図8に示す記録ヘッドの場合は、ヒーター2の表面から吐出口5までの距離)が、5μm以上80μm以下・・・であることが好ましい。」(3頁4欄8〜19行)
f.「泡が外気と連通せず・・・ヒーター上に小泡が残ると、次の小滴吐出の際・・・泡の発生及び成長が正しく行われない・・・この点、泡を外気と連通させる連通噴射記録方法では、泡と吐出口との間にある記録媒体が全て吐出するためヒーター上に小泡が残ることがない。」(3頁4欄42〜50行)
g.「図8は、記録ヘッドの他の例を示すもので、吐出口5がノズル15の横方向に設けられ・・・図4の記録ヘッドと同様・・・図8(a)に示す発泡前の状態から・・・ヒーター2に通電すると・・・泡6が発生する(図8(b))。その後、泡6は膨張を続け(図8(c))、泡6と外気とが連通して小滴7が吐出口5から飛び出す(図8(d))。」(4頁6欄29〜37行)
h.「本発明は、上記の連通噴射記録方法において、記録媒体内に泡を発生させる加熱(以下、発泡加熱)の前に、泡を発生させない程度に予め記録媒体を加熱(以下、予備加熱)しておくものである。」(4頁6欄38〜41行)
i.「発泡加熱は、1つのパルスによって行われる(・・・以下発泡加熱パルスという)。」(5頁7欄7〜8行)
j.「1つの発泡加熱パルスは、パルス幅0.8〜5.0μsec・・・が好ましい。」(5頁7欄26〜28行)
k.「予備加熱パルスの印加によって・・・記録媒体の温度が上昇・・・高いことにより、・・・発泡パルスの印加によって発生する気泡6は・・・成長速度が大きく、また、比較的大きな気泡となることができる。」(7頁11欄12〜20行)
l.「図11(a)に示す例の場合、従来の単一パルスでは、パルス幅が3.0μsecであるのに対し、・・・総パルス印加時間は2.4μsec(0.3×3+1.5)となる」(7頁11欄32〜36行)
m.図4及び図8について、上記記載事項a,d,f,gと共にみれば、ヒーター2の近傍に吐出口5が設けられ、ヒーター2により発生した泡6がノズル15中の記録媒体3を吐出口5側の記録媒体とその反対側の記録媒体とに分断し、分断した吐出口5側の記録媒体の全てを独立な1つの小滴7として吐出し、該反対側の記録媒体が残留する様子が看取できる。

3.引用発明の認定
引用例において「本発明」としているものは予備加熱するものであるが、記載事項b,hからみて、予備加熱しないものとして「先に提案した連通噴射記録方法」があり、かつ、記載事項a,c〜g,mが該「本発明」だけでなく該「先に提案した連通噴射記録方法」に係る共通の事項でもあることは明らかである。
そして、記載事項c,d,g,mや記載事項lに「従来の単一パルス」とあることなどからみて、該「先に提案した連通噴射記録方法」におけるヒーター2は、パルス通電により印加エネルギを与えられて加熱され、加熱の度に泡6を発生して成長させるものであることも明らかである。
また、該「先に提案した連通噴射記録方法」がそのための装置(以下、「連通噴射記録のための装置」という)により行われ得ることも明らかである。
したがって、引用例には、上記記載事項a〜mを含む明細書及び図面の全記載によれば、上記「先に提案した連通噴射記録方法」として次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。
「ヒーター2を加熱することによってノズル15に供給された記録媒体3に泡6を発生させ、この泡6の膨張力によって前記ヒーター2の近傍に設けられた吐出口5から記録媒体3の一部を吐出する連通噴射記録のための装置における連通噴射記録方法であって、パルス通電して前記ヒーター2を加熱し、この加熱の度に記録媒体に泡6を発生させ、かつその際、前記パルス通電により前記ヒーター2に与える印加エネルギを、発生した泡6が成長するように与え、発生した前記泡6によって、前記ノズル15中の記録媒体を吐出すべき記録媒体と残留側記録媒体とに分断させた後、分断した状態で前記吐出すべき記録媒体を1つの小滴7として吐出することを特徴とする連通噴射記録方法。」

4.対比
本願発明(前者)と引用発明(後者)とを対比するに、後者の「ヒーター2」、「ノズル15」、「記録媒体3」、「泡6」、「連通噴射記録のための装置」、「連通噴射記録方法」、「小滴7」は、それぞれ、前者の「発熱抵抗体」、「インク液路」、「インク」、「気泡」、「インク噴射記録装置」、「インク噴射方法」、「インク液滴」に対応するから、両者は、「発熱抵抗体を加熱することによってインク液路に供給されたインクに気泡を発生させ、この気泡の膨張力によって前記発熱抵抗体の近傍に設けられた吐出口からインクの一部を吐出するインク噴射記録装置におけるインク噴射方法であって、パルス通電して前記発熱抵抗体を加熱し、この加熱の度にインクに気泡を発生させ、かつその際、前記パルス通電により前記発熱抵抗体に与える印加エネルギを、発生した気泡が成長するように与え、発生した前記気泡によって、前記インク液路中のインクを吐出すべきインクと残留側インクとに分断させた後、分断した状態で前記吐出すべきインクを1つのインク液滴として吐出することを特徴とするインク噴射方法。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>パルスの幅について、前者が「3μ秒以下の印加パルス幅」としているのに対して、後者では定かでない点。
<相違点2>気泡の成長について、前者が「前記加熱の開始後1μ秒において少なくとも5μm以上の高さ」としているのに対して、後者では定かでない点。

5.当審の判断
<相違点1について>
引用例の上記記載事項lに「従来の単一パルスでは、パルス幅が3.0μsecである」とあり、本願発明の「3μ秒以下」は3μ秒を含む表現であることからすれば、相違点1が実質的な相違点であるとはいえない。
さらにいえば、引用例に熱エネルギー量やインク物性や記録ヘッドの各部の大きさなどを所望に応じて選択する旨の記載があり(記載事項e)、また、印加パルスの高さや間隔なども所望に応じて選択されるものであって、これらの各要素の選択に印加パルス幅は密接に関連しているといえるから、引用発明における印加パルス幅も各要素の選択との関連において適宜設定されるものである。
そうすると、本願発明において印加パルス幅だけを規定していることに格別の意味があるとはいえず、また、引用例に気泡を発生させるための1つのパルスのパルス幅として0.8〜5.0μsecの記載があり(記載事項i,j)、そのパルス幅がその前に予備加熱を行うものについてのものであるとしても、引用発明において印加パルス幅を設定する際にその程度の範囲を考慮することは容易に想起し得ることといえるから、本願発明が3μ秒未満を含めて「3μ秒以下」としていることに格別のものは認められない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点とはいえず、あるいは、少なくとも当業者であれば必要に応じて適宜なし得た設計の変更といわざるを得ない。
<相違点2について>
引用例の記載事項eによれば、引用例の図8に示す記録ヘッドの場合にはヒーター2の表面から吐出口5までの距離が5μm以上80μm以下であるから、泡6が外気と連通するためには5μm以上の高さに成長しなければならないことは自明である。
引用例には加熱の開始後どのくらいの時間で5μm以上の高さに泡6が成長するのか記載はないが、泡6の成長速度は大きい方がよく(記載事項k)、また、小滴7を、スプラッシュやミストなく(記載事項a)、独立した1つの液滴にして記録に必要な吐出速度を与えるためには、泡6の成長速度を大きくすることによって記録媒体3のうち吐出するものを残留するものから速やかに分断して十分な圧力を与えるべきことは容易に理解できることであるから、引用発明においてもそのような泡6の成長速度を実験等により求めることは適宜なし得ることであり、その実験等を行えば、本願発明と引用発明とでこの点について特に条件が異なるわけでもないから、泡6が加熱の開始後1μ秒において少なくとも5μm以上の高さになることを含めて適切な成長速度が容易に求められ得るものである(そうでないとすれば、本願発明で「加熱の開始後1μ秒において少なくとも5μm以上の高さ」としたことが適切といえなくなる)。
したがって、相違点2は当業者が容易になし得た設計の変更である。

そして、相違点1,2に係る構成を含む本願発明の作用効果も引用例の記載から容易に予測できるものにすぎない。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-02 
結審通知日 2004-03-09 
審決日 2004-03-22 
出願番号 特願平6-21060
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 藤井 靖子
中村 圭伸
発明の名称 インク噴射方法およびインク噴射記録装置  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 福島 弘薫  
代理人 三和 晴子  

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