• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61N
管理番号 1115800
審判番号 不服2003-1319  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-11-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-01-23 
確定日 2005-04-28 
事件の表示 特願2001-127604号「イオン導入用の電気刺激装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月5日出願公開、特開2002-320680号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本件に係る特許出願は、平成13年4月25日の出願であって、平成14年9月18日付で手続補正がなされ、平成14年12月24日付で拒絶査定がなされた。
これに対し、平成15年1月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月18日付で手続補正がなされた。

【2】平成15年2月18日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年2月18日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正
本件補正は、請求項1を次のとおりに補正するものである。

「イオン化溶液中に含まれる各イオン化成分を生体へ導入する美容用の電気刺激装置であって、生体に接触する一対の電極に対して、プラス極性の群発パルス信号とマイナス極性の群発パルス信号とを交互に供給するパルス生成回路を備え、前記パルス生成回路は、1分未満毎に極性が反転する群発パルス信号を生成することを特徴とするイオン導入用の電気刺激装置。」

(2)本件補正の検討
本件補正は、パルス生成回路において、群発パルス信号の極性反転までの期間に関し、「1分未満毎」とした点を含むものである。

これに対し、本件に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)における、群発パルス信号の極性反転までの期間に関する記載は、以下のとおりである。

a)「この測定では、いずれの場合も無負荷時における出力電圧を±4Vとし、1.5Sec毎に極性を反転するように設定した。」(明細書【0033】)

b)「群発パルス信号の両極性交互通電時の出力パラメータとしては、出力周波数を1200Hz、出力電圧を±5Vとし、かつ、1.5Sec毎に極性が反転するように設定した。」(同【0046】)

c)「動作開始後は、パルス生成回路から導入電極12及び対極電極13に対して、プラス極性の群発パルス信号とマイナス極性の群発パルス信号が例えば1.5sec毎に交互に供給されることによって、導入電極12の吸湿性部材12a中のイオン化化粧液のプラスイオン化成分とマイナスイオン化成分とが交互に効率良く生体内に導入される。」(同【0053】)

d)「また、群発パルス信号における極性反転までの期間や極性反転までに生成されるパルスの本数については、各イオン化成分が生体内に移動するのに十分な期間や本数が確保されていれば、特に限定されない。」(同【0059】)

e)図2には群発パルス信号の両極性交互通電時の出力波形が、図3には直流信号の両極性交互通電時の出力波形が、それぞれ示されている。

上記a)〜d)の記載並びに図示内容をみても、群発パルス信号の極性反転までの期間について「1分未満毎」という数値は当初明細書等に記載されていない。

また、上記a)の「1.5Sec毎」との記載及びd)の「各イオン化成分が生体内に移動するのに十分な期間や本数が確保されていれば、特に限定されない。」との記載があるとしても、本件補正の如く「1分未満毎」という数値に特定することが、当業者にとって自明であるということはできず、さらに当初明細書等の全体を参酌しても自明であるということができない。

したがって、本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず新規事項を追加するものであって、特許法第17条の2第3項の規定に違反し、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【3】本願発明について
(1)本願発明
本件補正が上記【2】のとおり却下されたので、本件の請求項1ないし4に係る発明は、平成14年9月18日付で補正された特許請求の範囲請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「イオン化溶液中に含まれる各イオン化成分を生体へ導入する美容用の電気刺激装置であって、生体に接触する一対の電極に対して、プラス極性の群発パルス信号とマイナス極性の群発パルス信号とを交互に供給するパルス生成回路を備えたことを特徴とするイオン導入用の電気刺激装置。」

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本件の出願日前に頒布された刊行物である、国際公開第00/61220号パンフレット(以下、「刊行物1」という。)には、図1〜8とともに以下の事項が記載されている。

(a-1)「本発明は、経皮または経粘膜に長時間投薬コントロール可能な極性反転型のイオントフォレーシスデバイスに関する.より詳細には、本発明は電気的駆動力を利用して効率的に長時間にわたり安全かつ安定な吸収性を維持でき,かつ安価に製造可能なイオントフォレーシスデバイスに関する。」(明細書第1頁第6〜10行)

(a-2)「イオントフォレーシス(Iontophoresis)は外的刺激に電気を用いた経皮吸収促進システムで、その原理は主に通電により陽極および陰極間に生じた電界中を正にチャージした分子が陽極から出て陰極へ、負にチャージした分子が陰極から出て陽極へ移動する力に基づいて薬剤分子の皮膚バリヤー透過を促進するものである。」(明細書第1頁第13〜17行)

(a-3)「図1(a)、(b)は、それぞれ本発明に係るイオントフォレーシスデバイスの構成例を示す図である。図1(a)における100aは第1電極構造体、110aは第2電極構造体を示す。第1電極構造体100aは、少なくとも1種類の有効成分103aと所定量の塩素イオンを含有する親水性導電層102a、及び銀及び塩化銀を含む混合物からなる電極部材101aから構成される。第2電極構造体110aは、少なくとも1種類の有効成分113aと所定量の塩素イオンを含有する親水性導電層112a、及び銀及び塩化銀を含む混合物からなる電極部材111aから構成される。また、第1電極構造体100aと第2電極構造体110a間の電流の方向を変化させるための極性反転手段を設けた電源装置120aが、第1電極構造体及び第2電極構造体の各電極部材101a及び111aに電気的に接続される。また、各親水性導電層と皮膚の間には親水性導電層を保持するための半透膜、物質の移動を制御するための選択的透過膜、薬物透過速度を調整するための制御膜、または吸収面積を調整するための親水性多孔性薄膜等を使用したリザーバー型構造体であってもよい。」(明細書第12頁第25行〜第13頁第13行)

(a-4)「各電極構造体の親水性導電層は、有効成分を分散したマトリックス型構造や皮膚接触面に高濃度の有効成分を適用できるように薬剤保持層を備えた積層型構造などとすることができるが、有効成分の分布状態は特に限定されない。なお、積層型構造は、有効成分が化学的に不安定であったり、微量で強力な薬理効果を発揮する薬剤または高価な薬剤である際には特に有用であり、有効成分を含有する保持手段を使用直前に親水性導電層と当接して使用される。また、親水性導電層は、ゲル、溶液型等は特に限定されるものではない。」(明細書第14頁第18〜25行)

(a-5)「本発明の極性反転手段を備えた電源装置より出力される電圧または電流は、通常、定電流または定電圧で制御されるが、薬剤吸収をコントロールするためには定電流制御が好ましい。ここで示す電流とは薬剤の吸収に関連する透過電流を意味する。極性反転手段を備えた電源装置から出力される電流は直流、パルス直流またはパルス脱分極直流が用いられる。電源としては、連続直流電圧またはパルス直流電圧を印加し得るものがよいが、より好ましくはパルス直流電圧を印加し得るものが用いられる。また、これらの組み合わせであってもよく、さらに通電と非通電を任意に設定した間欠通電であってもよい。方形型または矩形型パルス直流電圧を印加し得る電源が特に好ましい。パルス直流電圧の周波数は、好ましくは0.1から200kHz、より好ましくは1から100kHz、特に好ましくは5から80kHzの範囲より適宜選択される。パルス直流電圧のオン/オフ(on/off)の比は、1/100から20/1、好ましくは1/50から15/1、より好ましくは1/30から10/1の範囲より適宜選択される。」(明細書第15頁第25行〜第16頁第12行)

(a-6)「図3(a)、(b)は、それぞれ本発明における電源装置より出力される極性反転型の平均の電圧または電流出力パターンを示す図である。ここで、極性反転時間とは通電開始時点から極性を反転させるまでの時間(t)およびその時点から次に極性を切り換えるまでの時間(t’)さらにその動作が繰り返される各々の時間をいう(t1、t2、・・・tn、及びt’1、t’2、・・・t’nで表される)。極性反転時間には特に制限はないが、通電中に電気特性の異常がおこらない反転時間、すなわち、絶縁や性能上問題とならない電圧上昇範囲内で極性を切り換えることが必要である。」(明細書第17頁第9〜17行)

(a-7)図3(a)には、極性反転型の平均の電圧または電流出力パターンとして、電圧または電流の極性を交互に反転させたことが示されている。

上記(a-1)〜(a-6)の記載及び図示内容からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「主に通電により陽極および陰極間に生じた電界中を正にチャージした分子が陽極から出て陰極へ、負にチャージした分子が陰極から出て陽極へ移動する力に基づいて、薬剤分子の皮膚バリヤー透過を促進し経皮的に投薬するためのイオントフォレーシスデバイスであって、
少なくとも1種類の有効成分103aと所定量の塩素イオンを含有する親水性導電層102a、及び銀及び塩化銀を含む混合物からなる電極部材101aから構成される第1電極構造体101aと、少なくとも1種類の有効成分113aと所定量の塩素イオンを含有する親水性導電層112a、及び銀及び塩化銀を含む混合物からなる電極部材111aから構成される第2電極構造体110aと、周波数が0.1から200kHzであるパルス直流電圧を印加しうる、上記第1電極構造体100aと第2電極構造体110a間の電流の方向を交互に変化させるための極性反転手段を備えた電源装置120aを備えたイオントフォレーシスデバイス。」

(3)対比・判断
本願発明と上記引用発明とを対比すると、後者の「主に通電により陽極および陰極間に生じた電界中を正にチャージした分子が陽極から出て陰極へ、負にチャージした分子が陰極から出て陽極へ移動する力に基づいて薬剤分子の皮膚バリヤー透過を促進するイオントフォレーシスデバイス」及び「イオントフォレーシスデバイス」は、その機能ないし作用からみて前者の「イオン化成分を生体へ導入する電気刺激装置」及び「イオン導入用の電気刺激装置」ということができる。

また、後者の「第1電極構造体100aと第2電極構造体110a」は、生体に接触し、電流を流す機能を持つ電極であることは明らかであるから、前者の「生体に接触する一対の電極」ということができる。さらに、後者の「周波数が0.1から200kHzであるパルス直流電圧」と前者の「プラス極性の群発パルス信号とマイナス極性の群発パルス信号」とは、いずれも”電気信号”ということができるから、後者の「電源装置120a」と前者の「パルス生成回路」とは、”生体に接触する一対の電極に対して、電気信号を供給する装置”という限度で一致する。

してみると、両者は、「イオン化成分を生体へ導入する電気刺激装置であって、生体に接触する一対の電極に対して、電気信号を供給する装置を備えたイオン導入用の電気刺激装置。」という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:薬剤のイオン化成分に関して、本願発明では「イオン化溶液」に含まれるものであるのに対して、引用発明では親水性導電層に含まれるものである点。

相違点2:電気刺激装置の用途に関して、本願発明では「美容用」であるのに対し、引用発明では、明らかでない点。

相違点3:生体に接触する一対の電極に対して、電気信号を供給する装置に関して、本願発明ではプラス極性の群発パルス信号とマイナス極性の群発パルス信号とを交互に供給するパルス生成回路であるのに対し、引用発明では周波数が0.1から200kHzであるパルス直流電圧を印加しうる、上記第1電極構造体100aと第2電極構造体110a間の電流の方向を交互に変化させるための極性反転手段を備えた電源装置120aである点。

上記各相違点について検討する。

<相違点1について>
イオン導入用の電気刺激装置において、イオン化溶液に含まれた薬剤のイオン化成分を採用することは、本件に係る特許出願日以前に慣用の技術である。(例えば、特許第2667379号公報、特許第3119486号公報等を参照。)そうすると、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到できたものというべきである。

<相違点2について>
本願明細書【0002】の「従来より、生体治療器や美容器等の電気刺激装置においては、薬液や美容液等中に含まれる有効成分を皮膚から生体内に導入するために、一対の電極を生体に接触させて各電極への通電を行いながら、イオン化された薬液や美容液等の有効成分(イオン化成分)を生体内に導入する方法(イオン導入法)が用いられてきた。」との記載からみて、医療目的に係る生体治療器においても美容目的に係る美容器においても、同じくイオン導入用の電気刺激装置が用いられていたことが伺える。
また、「美容医学」等の概念が一般的に知られているように、美容目的で医療技術を用いることはごく一般的に行われている。
してみると、通常医療行為の一環として行われる経皮的な投薬に用いられる引用発明において、その用途を美容用とすることが、当業者からみて困難であったとは到底考えられない。

<相違点3について>
ところで、「群発パルス信号」について、本願明細書【0023】「極性切替回路3は、不図示のブリッジ回路を有して構成され、CPU1からの制御信号に基づいて、パルス出力回路2からの単極性のパルス信号を、ブリッジ回路によってプラス極性の複数のパルス信号(以下、群発パルス信号と言う。)とマイナス極性の群発パルス信号とに切り替えて交互に出力する。」との記載、同【0027】「そして、極性切替回路3は、図1(b)の〔B〕及び〔D〕に示すように、CPU1から供給されるB信号がオンの間は、パルス出力回路2の出力したパルス信号の極性を維持して出力し続けることにより、プラス極性の群発パルス信号を出力する。また、極性切替回路3は、図1(b)の〔C〕及び〔D〕に示すように、CPU1から供給されるC信号がオンの間は、パルス出力回路2の出力したパルス信号の極性を反転して出力し続けることにより、マイナス極性の群発パルス信号を出力する。」との記載、同【0058】「100Hz以上の周波数とするのが望ましい。」との記載及び図1(b)の図示内容を参照すると、本願発明でいうところの「群発パルス信号」とは、”単極性で、例えば100Hz以上の周波数を有する複数のパルス信号”のことを指すものと認められる。
これに対して、引用発明のパルス直流電圧は、上記(a-5)〜(a-7)の記載ないし図示事項からみて、一側の単極性のパルス直流電圧が、極性反転により、他側の単極性のパルス直流電圧とされ、以下交互に極性反転が繰り返されることから、当然単極性であるといえ、さらに0.1から200kHzの周波数を有するのであるから、”単極性で、例えば100Hz以上の周波数を有する複数のパルス信号”つまり、本願発明の群発パルス信号ということができる。

そうすると、本願発明のパルス生成回路においてプラス極性の群発パルス信号とマイナス極性の群発パルス信号とを交互に供給する点に関し、引用発明の電源装置120aも”パルス直流電圧の方向”つまりプラスまたはマイナスの極性を交互に変化させるための極性反転手段を備えたものであるから、結局本願発明のプラス極性の群発パルス信号とマイナス極性の群発パルス信号とを交互に供給するという本願発明のパルス生成回路と同じ動作を実現しており、引用発明の電源装置120aは実質的に本願発明のパルス生成回路を構成しているということができる。

そして、相違点1〜3に係る効果をみても、当業者が上記引用発明及び慣用技術から予測できたものといえる。

したがって、本願発明は、上記引用発明及び慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、審判請求書において、1)本願発明は美容用に用いる「短時間型」であって、従来その効果が疑問視されていた極めて短い極性反転期間でも生体へのイオン導入を有効に行えることを初めて実証したのに対し、引用発明は医療用に用いる「長時間型」である、2)本願発明は短時間型の極性反転パルス通電でイオン導入の良好な効果を得るために、電極の構造は単純なものでよいのに対し、引用発明は電極部材に活性電極材料を用いること、各電極部材の少なくとも一方に塩素イオンを含むことが構成上の前提となっており、複雑な構造を備えた電極の使用が不可欠である、から本願発明は引用発明等に基づいて容易に発明をすることができたものではない旨主張する。

しかしながら、1)について、請求人が本願発明が「短時間型」と主張する根拠と思われる極性反転時間は、上記【2】のとおり平成15年2月18日付の手続補正が補正却下されたため、本願発明の発明特定事項ではないから、根拠を欠く主張といわざるをえない。2)について、上記【3】(3)で検討したとおり、引用発明は本願発明の発明特定事項を備えるものであって、かつ、本願発明は刊行物1に記載された電極を除外するものでもないから、当該主張を採用することができない。

(4)むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-22 
結審通知日 2005-03-01 
審決日 2005-03-14 
出願番号 特願2001-127604(P2001-127604)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (A61N)
P 1 8・ 121- Z (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 内藤 真徳
平上 悦司
発明の名称 イオン導入用の電気刺激装置  
代理人 水野 勝文  
代理人 岸田 正行  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ