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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1117325
審判番号 不服2002-15543  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-02-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-14 
確定日 2005-05-25 
事件の表示 平成 5年特許願第197271号「表面波装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 2月21日出願公開、特開平 7- 50546〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】本願発明
本願は、平成5年8月9日に特許出願されたものであって、その請求項1、2に係る発明は、平成13年12月4日付け及び平成14年9月13日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって、当該請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】 圧電基板を伝播する表面波のうち変位が表面波伝播方向と垂直な方向の変位を主体とする表面波を利用した端面反射型の表面波装置において、前記圧電基板が、比誘電率ε11Tが600以上の圧電材料を用いて構成され、前記圧電体基板上に電極を形成していることを特徴とする、端面反射型の表面波装置。」

【2】引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-145368号公報(以下「引用例」という。)には、従来技術、実施例と図面及びこれに係わる記載を参酌すると、以下のとおりの技術的事項が記載されている。
(イ)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、BGS波を利用した表面波装置に関し、特に、圧電基板の材料を選択することにより共振特性が改良された表面波装置に関する。
【0002】【従来の技術】図2は、従来のBGS波を利用した表面波共振子を示す斜視図である。表面波共振子1は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスのような圧電セラミックスからなる圧電基板2を用いて構成されている。この圧電基板2は、矢印P方向に分極処理されている。また、圧電基板2の上面には、一対のくし歯電極3、4が形成されている。くし歯電極3、4は、それぞれ、複数本の電極指を有し、該複数本の電極指が互いに間挿し合うように配置されている。表面波共振子1では、くし歯電極3、4間に交流電界を印加することにより矢印X方向にBGS波が励起され、励起されたBGS波が端面2a、2b間で反射されるように構成されている。
【0003】【発明が解決しようとする課題】BGS波を利用した表面波共振子1では、端面2a、2b間でBGS波を反射させることにより共振子として動作させるものであるため、端面2a、2bの精度を可能な限り高める必要がある。そして、この端面2a、2bの精度を可能な限り高めることにより、良好な共振特性が得られるとされている。しかしながら、端面2a、2bの精度を高めるのにも限度があり、従って、実際には端面2a、2bの精度を可能な限り高めたとしても、共振点-反共振点間、特に反共振周波数近傍の周波数領域においてかなりの強さのスプリアス振動が発生するという問題があった。」(段落【0001】〜【0003】、第2頁第1欄第9〜37行、図2参照)
(ロ)「BGS波を利用した表面波装置において、端面精度を高めるのにも限界があることに鑑み、所望でないスプリアス振動を抑圧する方法を鋭意検討した結果、圧電基板の材料を特定のものに選択すれば、共振点ー反共振点間、特に反共振周波数近傍のスプリアス振動を効果的に抑圧し得ることを見出し」(段落【0005】、第2頁第2欄第1〜7行、図3〜4参照)
(ハ)「【0006】【作用】本発明では、圧電基板の厚みすべり振動の電気機械結合係数k15が40%以上の材料で該圧電基板が構成されているため、後述の実施例から明らかなように、共振点ー反共振点間、特に反共振周波数近傍の所望でないスプリアス振動を効果的に抑圧することができる。
【0007】【実施例の説明】チタンとジルコンとの比を変更してなる下記の表1に示す種々の組成のチタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックスPbTi1-xO3-PbZrxO3を用いて圧電基板を作製し、図2に示した端面反射型の表面波共振子1を作製した。なお、使用した圧電基板の寸法は、0.92×0.90×0.80mmであり、該圧電基板の上面に電極指の対数;15対及び交叉幅;7波長のインターデジタルトランスデューサを形成した。
【0008】上記のようにして得られた各表面波共振子について、共振特性、すなわちインピーダンス-周波数特性及び位相ー周波数特性を測定した。そして、所望でないスプリアス振動がほとんど発生していない場合を○印を付し、所望でないスプリアス振動がかなりの程度で発生している場合を×印を付して、表1に示した。例として、図3にスプリアス振動が発生していない表面波共振子(組成Bの圧電材料を使用)のインピーダンスー周波数特性(実線)及び位相-周波数特性(破線)を、図4にスプリアス振動が発生している表面波共振子(組成Fを使用)のインピーダンスー周波数特性(実線)及び位相ー周波数特性(破線)を示す。」(段落【0006】〜【0008】、第2頁第2欄第14〜39行、表1、図2〜4参照)
(ニ)「【0010】表1から明らかなように、組成A〜Dの圧電基板を用いた場合には、スプリアス振動が抑圧されるのに対し、組成E〜Gの圧電基板を用いた場合には、反共振周波数近傍でスプリアス振動がかなりの程度で発生することがわかった。そこで、組成A〜Dと、組成E〜Gの圧電基板の材料定数の違いを検討した結果、組成A〜Dでは、厚みすべり振動の電気機械結合係数k15が、40%以上であるのに対し、E〜Gの圧電基板の厚みすべり振動の電気機械結合係数k15は40%以下であることから、上記スプリアス振動は、電気機械結合係数k15が40%以上の圧電基板を用いることにより抑圧されることを見出した。」(段落【0010】、第3頁第3欄第18〜25行、第4欄第18〜21行、表1参照)

【3】対比・判断
(対比)
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と上記引用例に記載された発明とを対比すると、引用例の図2斜視図は「BGS波を利用した端面反射型の表面波共振子を示す」と記載されており、この引用例における「BGS波」は、本願発明における「変位が表面波伝播方向と垂直な方向の変位を主体とする表面波」に相当するから、両者は、以下のとおりの一致点及び相違点を有するものと認められる。
(一致点)
「圧電基板を伝播する表面波のうち変位が表面波伝播方向と垂直な方向の変位を主体とする表面波を利用した端面反射型の表面波装置において、前記圧電基板が、材料定数を特定した圧電材料を用いて構成され、前記圧電体基板上に電極を形成している、端面反射型の表面波装置。」
(相違点)
圧電基板の材料定数の特定を、本願発明にあっては、「比誘電率ε11Tが600以上」としているのに対して、引用例にあっては、「厚みすべり振動の電気機械結合係数k15が40%以上」としている点。
(検討)
前記相違点について検討すると、本願発明は、圧電基板を特定する際、その材料定数として「比誘電率ε11Tが600以上」であるものとして規定しているが、本願発明においてこのような「比誘電率ε11Tが600以上」と規定することの技術的意義は、本願明細書に「圧電基板を構成するための種々の材料と、表面波装置におけるインピーダンスー周波数特性との関係を鋭意検討した結果、圧電基板の比誘電率ε11T が、インピーダンスー周波数特性上に現れるリップルや不要振動に大きく影響することを見出し」(段落【0009】)、「本発明では、圧電基板が、比誘電率ε11T 600以上の圧電材料で構成されているため、インピーダンスー周波数特性上に現れるリップルや不要振動が効果的に抑制される。比誘電率ε11Tを上記のように600以上とすることより、リップルや不要振動が抑制される」(段落【0012】)、「SHタイプの表面波を利用した表面波装置であってインピーダンスー周波数特性上のリップルや不要応答の発生が低減された、共振特性に優れた表面波装置を提供することが可能となる」(段落【0013】)との記載が認められ、これらの記載によれば「リップルや不要振動を抑制する」点にあると認められる。
しかしながら、前記引用例においても「共振点ー反共振点間、特に反共振周波数近傍の所望でないスプリアス振動を効果的に抑圧する」と記載されており、また引用例と本願発明のいずれにも記載された共通する特性図(図3〜4)を夫々を対比すると、両者間で特段の差異も見当たらず実質的な相違はないから、引用例も本願発明と同様の技術的意義をもつものと認められる。また、この材料定数の「比誘電率」や「電気機械結合係数」は表面波装置の設計時に当該圧電基板の選定に当たって当然検討される材料定数であって格別なものとは認められない(例えば、特開平4-243969号公報[段落【0001】【0007】]、参照)。そして、表面波装置の圧電基板に用いる圧電材料(圧電磁器組成物、圧電性磁器組成物)の材料定数を特定して、その動作特性を改良するようにした表面波装置(セラミックフイルタ素子や表面波弾性素子)において、該圧電材料の材料定数のうち比誘電率が600以上であるものを選定して表面波装置を構成することは従来より周知の技術的事項(例えば、特開平4-243969号公報、特開平4-55366号公報参照)である。
以上のとおり、上記引用例に記載された圧電基板においては、「電気機械結合係数」を特定数値として規定し「比誘電率」を明示して規定するものではないが、引用例においても所望の比誘電率を有する圧電基板が選定されるものであり、前記周知の技術的事項を斟酌すると、この比誘電率の数値を600以上として規定することにより本願発明のように構成することは、当業者が容易になし得ることと認められる。
また、本願発明により奏する作用効果も、当業者が予測し得る程度のものであって格別のものとは認められない。

【4】むすび
以上のとおりであって、本願の請求項1に係る発明は、上記引用例に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-16 
結審通知日 2005-03-08 
審決日 2005-03-22 
出願番号 特願平5-197271
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 植松 伸二
矢島 伸一
発明の名称 表面波装置  

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